世界大会決勝先鋒後半戦は、東三局に突入した。
咲の親番。
配牌後、千里には、
「(マジ? 宮永さんの配牌とツモ、とんでもない!)」
咲の手がどう変わって行くのかが見えていた。さすが日本最強の超魔物と言える恐るべき手だ。
これを絶対に和了らせてはならない。
とにかく、邪魔することが最優先である。
しかし、千里の手は、クソ配牌にクソツモが続き、なかなか動ける状態では無かったが、
「チー!」
何とか栄子の捨て牌を鳴いて咲のツモをずらした。
しかし………、
「ポン!」
その努力も空しく、咲は光がツモ切りした{2}を鳴いて、ツモを元に戻してしまった。咲も全てが分かっているのだ。
数巡後、再び、
「チー!」
千里は鳴いてツモをずらしたが、
「ポン!」
やはり咲は、光がツモ切りした{發}を鳴いてツモを戻した。咲と光との間には、かなり高いレベルでの意思疎通が働いているようだ。
やはり、従姉妹故なのだろう。
そして、次巡。
「カン!」
咲は、光が捨てた{3}を大明槓した。まさかの展開である。
嶺上牌をツモると、
「もいっこ、カン!」
引いてきた{2}を、咲は加槓した。
さらに咲は、
「もいっこ、カン!」
二枚目の嶺上牌………{8}を暗槓し、
「もいっこ、カン!」
さらに三枚目の嶺上牌………{發}を加槓した。
これで、四つの槓子が出来上がった。
王牌には四枚目の嶺上牌が残っていた。咲は、この牌………{6}を引くと、
「ツモ!」
当然の如く嶺上開花を決めた。
「緑一色四槓子96000です。」
これは、光の責任払いになる。
観衆達は、この和了りに全員唖然としていた。まさかの親のダブル役満。しかも、これは、明らかに同士討ちである。
光のトビで終了だ。
ところが、咲も光も平然とした顔をしている。狙ってやっていたのだ。
たしかに後半戦だけ見れば、点数と順位は、
1位:咲 194500
2位:千里 128100
3位:栄子 85700
4位:光 -8300
日本チームのトータルは186200点、ドイツチームのトータルは213800点でドイツチームが上回っている。
自ら日本チームは敗退を選択したように見えるだろう。
しかし、本大会では前後半戦のチームトータルで競う。
前半戦では、日本チームが366000点、ドイツチームが34000点と十倍以上の差をつけていた。
これが加算され、前後半戦のトータルでは、日本チームが552200点、ドイツチームが247800点となり、日本チームが余裕で勝ち星を得る結果となった。
まさかの戦略的トビ終了だったのだ。
「「「「有難うございました。」」」」
対局後の一礼がなされた。
千里は、
「(こんな手を作るほうも作るほうだけど、差し込む方も差し込む方ね。それにしても、こんなことをやってくるなんて………。)」
最後の超特大手に対して、自分達の支払いが全然発生せずに終了したためであろう。なんだか心から敗北感が湧いてこなかった。
負けは負けなのだが………。
ただ、千里も栄子も、この超化物二人によるスーパープレイを一生忘れないだろう。それだけ劇的な空気だけは強く感じ取れた。
この頃、ドイツチームの控室では、
「まさか、こんな手を使ってくるとはね。」
「マジマジマジマジ アロマジロ? って感じだよね!」
「私達も負けていられないわね。じゃあ、行きましょうか。」
「うん。絶対にぶっ殺スフィンクス!」
フレデリカとカナコが気合を入れていた。
二人が、対局室に向けて動き出した。
控室に残されたのは監督のニーマン、パワーヒッターのローザ、そしてニーナ、クララ、エリーザの他に、もう一人の選手がいた。今までいなかった選手だ。
万が一のことを考えて、この決勝戦のためにニーマンが、わざわざドイツから補員を呼び寄せていたようだ。
やはり日本チームだけは一筋縄では行かない。そう判断してのことだ。
また同じ頃、日本チームの控室でも、
「高校102年生の淡ちゃんが、殺し屋コンビを返り討ちにしちゃうからね!」
「私の足だけは引っ張らないでくださいね!」
こんなことを言いながらも、淡と和の表情は気合に満ちていた。
フレデリカはドイツチームのエース。
カナコも、昨年のメンバーの中では二番目に強かった存在と言える。
今年は、クララが第二エースとして加わったが、恐らくドイツチームで一番強い選手と上位実力者のペアであることは間違いないだろう。
日本チームで言えば、咲と穏乃がペアを組んだようなものだ。なので、淡も和も自分達が勝つ確率よりも負ける確率の方が高いことを十分理解していた。
しかし、最初から負けるつもりで卓に付く気はない。
二人とも、二つ目の勝ち星を目指して控室を出て、対局室へと向かって行った。
それから数分後、対局室に次鋒選手四人が姿を現した。
一方、某ネット掲示板では、
『殺し屋コンビvs泡和だと、泡和が大放出するんじゃなかと?』
『そんなオカルトありえません』←誰だこいつ?
『泡和じゃ、アワワ~なんて言いながら一瞬で負けるんじゃない? by 高三最強』
『高三再教育は黙ってろなのよー』
『でも、殺し屋コンビ相手じゃキッついなぁ~』←セーラ
『串カツとから揚げを喰いながら見守っとるで!』
『一巡先は………闇やな』
『クソキツイ戦いになりそうだね』
『でも勝てれば超スバラです!』
『でも、美和様だったら殺し屋コンビが相手でも行けると思』
『↑それはどうかと思うじぇい! 多分、フレデリカには美和様の力は通じない飢餓するじょ』
『でも、カナコだけでも美和様の虜に出来れば少しは違うと思うのよモー!』
『美和様が待ち通しいんデー!』
淡と和に勝ち星をあげて欲しいところだが、やはりフレデリカとカナコでは相手が悪いと誰もが認めているようだ。
場決めがされ、起家がカナコ、南家が淡、西家がフレデリカ、北家が和に決まった。
高校最後の公式戦。
淡は、形振り構わず全力で能力を開放する。
東一局、カナコの親。ドラは{九}。
早速、淡以外の三人は強制的に配牌六向聴にされた。本当に淡の能力は相手にとって不快極まりない。
できれば、同じ日本チームの和だけは絶対安全圏から外したいところだが、淡の能力は取捨選択が出来ないらしい。そう言う意味では不便である。
また、淡のみ配牌聴牌だが、飽くまでもダブルリーチ槓裏4を想定したものだ。
よって実質、役無し聴牌であった。
サイの目は9。
最後の角の後にはツモ牌が四枚しかない。
いや、最後の角を越える直前で暗槓したら、残るツモ牌は三枚しかない状態だ。さすがに淡もダブルリーチを見送った。
ここから淡は、役有り聴牌に向けて手を作り変えて行く。
淡の配牌は、
{六七八①①①②③④79南南}
槓材が{①}でアタマが{南}。
待ちは嵌{8}。
{南}は自風なので、これが鳴ければ役有り聴牌に変わる。
また、配牌での嵌{8}待ちは、ダブルリーチ槓裏4の成立を考えるのであれば、最後の角を越えないと通常は出てこないはず。
淡自らが鳴きを入れることでツモが狂えば、最後の角を待たずとも{8}が出てくる可能性はあるだろう。しかし、その確率は決して高くないと淡は思っていた。
故に南を鳴いた時に{7}を捨てて{9}待ちに変える。
さらに、そこから別の待ちに変えて行っても良い。
そう淡は判断していた。
待望の{南}は、早速一巡目で和が捨ててくれた。
淡へのサポートだ。
オカルト否定派だった和も、淡の麻雀と二年も付き合っている。
少なくとも、
『偶然、役無し聴牌からのダブルリーチがかけられることの多い人』
くらいの認識はある。
それに、淡の手を役有り聴牌に変える一番簡単な方法は、もし淡が役牌をアタマで持っていたならば、それを鳴かせることである。
それで和は、最初に淡の自風を切ったのだ。
淡は、
「ポン!」
いきなり{南}を鳴くと、予定通り打{7}。
これで一応、役あり聴牌に変わった。
しかし、まだ1300点の手。
手の中には{六七八}と{②③④}の順子が含まれている。
当然、淡は、{②③④}に対しては赤牌で入れ替わるのを、{六七八}に対しては赤牌かドラの{九}で入れ替わるのを待つ。
幸運にも、二巡後のツモは{九}。
ここから打{9}で、淡は{六九}待ちに変えた。
そして、そのさらに二巡後、絶対安全圏内で、
「ツモ!」
淡は、再び{九}を引いて和了った。
「南ドラ2。1300、2600。」
{南}の明刻に{①}の暗刻、さらに単騎待ちツモで40符3翻である。
超魔物フレデリカを相手に、淡にとっては幸先の良いスタートとなった。
東二局、淡の親。ドラは{南}。
今回の淡の配牌は、
{四五六八八八九九②②678白}
サイの目は5。
最後の角の後は割と長いが、フレデリカとカナコが相手だ。
淡は、一瞬迷ったが、まだ様子見することにした。まだダブルリーチをかける時ではないとの判断だ。
ここから淡は、{白}を切って役無し聴牌に受けた。
二巡目。
淡は{[⑤]}をツモった。
ここで淡は、一旦、{九}を切って一向聴に落とした。役有りに切り替えるためには、{九}が邪魔なのだ。
そして、同巡にカナコが{②}を切ってきた。
これを淡は、
「ポン!」
鳴いて打{九}。{⑤}単騎で受けた。
勿論、淡はステルスへの対処法………オンライン麻雀ゲームのつもりで打つことでカナコの捨て牌が見えるようになっていた。
一方、この鳴きにカナコは、
「(マジマジマジマジ アルマジロ? 私の捨て牌が見えてるなんて?)」
相当驚いていた。
カナコの特徴はステルスと狙い撃ち。東横桃子と弘世菫を足したような麻雀を打つ。
しかも、手の仕上がりが早くて高打点と、池田華菜の特徴まで備えている感じだ。絶対に相手にしたくない魔物の一人と言える。
加えて彼女は、東一局からステルスが発動できる。当然、自分から鳴かれるなんてことは有り得ない話だ。
たしかに、昨年の世界大会では咲にステルスを破られた。
しかし、そんなことは誰にでも安々と出来るモノでは無いと思っていたし、ドイツチーム最強のフレデリカにもできないことだ。
なので、淡と和が相手ならステルスも十分通じるだろうと高を括っていた。
そこに発生した淡の鳴き。
カナコからすれば、
『日本チームにはステルスは通用しない!』
と言われているに等しい状態だった。
次巡。
淡は二枚目の{[⑤]}を引き当てた。今、まさにツキは自分にあることを、淡は実感していた。
「ツモ! タンヤオドラ2。2000オール!」
しかも、今回も絶対安全圏内での和了り。これでは、フレデリカもカナコも和了りまで進めることは不可能である。
昨年の世界大会の決勝戦で、何故、これだけの力を持つ淡がベンチに回ったのか?
この時、フレデリカもカナコも、それを不思議に感じていた。
東二局一本場。ドラは{北}。
ここでも絶対安全圏は健在である。
さすがの咲でも、この能力は破ることが出来ない。当然、咲のクローンであるフレデリカにも絶対安全圏は回避不能であった。
この局、淡の配牌は、
{二三四①③⑦⑧⑨77999發}
ここから打{發}で、役無し聴牌に受けた。
勿論、ダブルリーチはかけない。何とか役有りの形へと移行する。
二巡目。
淡は{8}をツモった。
ここから打{9}で、一旦、一向聴に落とした。今回も前局と同様に聴牌形を保ったまま役ありへと移行するのはムリなようだ。
三巡目。
淡は{一}をツモって打{四}。
そして、四巡目には再び{8}をツモって聴牌した。
ここまで淡は、ムダなツモが一切無い。やはり、まだ流れは自分にあると感じていた。
当然、ここから打{③}で聴牌。
手牌は、
{一二三①⑦⑧⑨778899}
もとの嵌{②}待ちから{①}単騎待ちに変えてのジュンチャン一盃口。
満貫手だ。
五巡目と、絶対安全圏最後の六巡目は、共に不要牌が来ただけなのでツモ切り。まあ、二巡目から四巡目までが出来過ぎと言える。
そして、絶対安全圏を越えた最初の巡目である七巡目。
フレデリカやカナコであれば、最悪聴牌している可能性がある。ここからは、安易な捨て牌は避けなければならない。
しかし、淡は、
「ツモ!」
幸運にも、ここで{①}を引き当てた。
「4100オール!」
しかも親満ツモ。
リーチをかけていれば一発に裏ドラが付いたかもしれないが、それは結果論である。
加えて自分の直感が、フレデリカを相手に迂闊なリーチは避けるべきと告げている。
それで、淡は、
「(これでイイ。このままダマで行けるところまで押し通す!)」
今のスタイルを維持するべきと、自分に言い聞かせていた。
東二局二本場。ドラは{二}。
サイの目は7で、最後の角が最も早く来るパターン。
絶対安全圏もダブルリーチの能力も発動。
当然、今まで同様に淡のみ配牌聴牌で、他の三人は最悪の六向聴と、普通なら淡以外はヤル気がドンドン削がれるだろう。
淡の配牌は、
{三四五六七八①⑥⑧999中中}
槓材は{9}。
昨年の世界大会で、淡がルーマニアチームのエカテリーナに国士無双を槍槓振込みしたのと同じパターン。
あの時は、まさに{9}の暗槓で振り込んだのだ。
苦い記憶が甦る。
当然、ダブルリーチはかけない。
いや、かけたくない!
今回も淡は捨て牌を横に曲げず、打{①}で役無し聴牌に取った。
和の第一打牌は{東}。もし淡が{東}を対子で持っていればとの考えで捨てたようだ。
そして、和の第二打牌は{中}。
これを、
「ポン!」
淡は鳴いて打{⑧}。どうせ、{⑦}が出てくるのは十巡目以降だろうとの判断で{⑥}単騎に待ちを変えた。
次巡。
淡は{[五]}をツモって打{⑥}。待ちは{二五八}と広がった。
そして、その二巡後、淡はツモでドラの{二}を掴み、
「ツモ!」
和了りを決めた。
「中ドラ2。2800オール!」
{中}の明刻に{9}の暗刻を持つため符ハネして40符3翻になった。
これで現在の次鋒前半戦の点数と順位は、
1位:淡 131900
2位:フレデリカ 89800(席順による)
3位:和 89800(席順による)
4位:カナコ 88500
淡が2位に40000点以上の差をつけてのダントツ状態だった。