咲-Saki- 阿知賀編入   作:おこそとのほもよろを

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百九十七本場:高校最後の世界大会決勝戦5  情事じゃなくて常時

 世界大会決勝次鋒前半戦は、南三局を迎えた。

 親はフレデリカ。

 淡も和も、この親には和了らせたくない。

 

 特にフレデリカの正体を知る淡にとっては、この親は脅威でしかない。

 二年前のインターハイから自分のライバルの一人………いや、自分よりも遥かに上を行く超魔物から生まれた分身。

 そのことを日本で知る者は淡と照、慕、恭子、神楽、小蒔、そして恐らく蒔乃。多分、これだけだ。当の本人達ですら知らない。

 

 誰もが認める女子高生麻雀界の日本の守護神。その圧倒的なパワーで天江衣、宮永照、荒川憩と言った麻雀超人達を打ち破ってきた怪物。

 それがフレデリカの本体。

 

 後天的能力である点棒支配は咲だけの能力だが、先天的な資質は当然、咲から受け継いでいる。故にフレデリカが、ここぞと言うところで見せる爆発力は災害(最大)級だ。

 

 

 点差を考えれば、もはや淡と和の逆転は厳しいだろう。

 しかし、チームのために100点でも多く残したいし、それ以上にフレデリカを疲れさせたい。

 この後に控える本体vs分身の戦いで本体が勝利を得るために。

 

 

 淡は、今のツモの流れから察するに、今一つツキから見放された感じはある。

 最初は調子が良かったのに、フレデリカに大三元を振り込んでからは、ずっとこんな状態が続いている

 あの一撃は、さすが咲の分身と言える。

 しかし、そんな淡でもフレデリカに負荷をかけることは可能だ。それが淡にしか無い能力、絶対安全圏だ。

 

 前局に三倍満を決めて再び力をセーブし始めたのだろうか?

 それとも、この次鋒前半戦の勝利を確信したからであろうか?

 この局では、またもやフレデリカのオーラが弱められた感じを淡は受けていた。

 恐らくフレデリカも中堅戦を意識して、ここでの疲労を最小限に留めようとしているのは間違いないだろう。

 

 ちなみにオカルト否定派の和には、フレデリカのオーラを全然感じ取ることが出来ないようだ。

 ただ、それが必ずしも悪いわけでは無い。相手のオーラを感じて萎縮してしまうこともあるだろう。

 そう言う意味では、和は相手のオーラを受けたことが原因で手が縮こまる………なんてことは無い。

 

 和が崩れたのは、二年前のインターハイ団体決勝戦で灼に筒子の九連宝燈を振り込んだ時くらい。

 基本的に、滅多なことでは微動だにしない。それこそ、他家に役満をツモ和了りされて親かぶりさせられても平然としている。

 ゆえに強い。

 

 ここでも、最下位であることに焦ることなく、配牌六向聴から最高の牌効率を見せて最短で聴牌し、

「リーチ!」

 攻めに出た。

 

 カナコは現物切りで対応。

 淡は、別に振り込んでも構わないので、深く考えずに当たらなさそうと直感的に思ったところを切った。

 全ての牌が見えるフレデリカは、当然、振込むことは無い。

 

 一発は無かったが、そこから数巡して、

「ツモ。」

 和は自力で和了り牌を引き当てた。

「メンタンピンツモドラ1。2000、4000。」

 今の点差を考えたら満貫では小さな和了りかもしれない。

 しかし、和としては、とにかくフレデリカに和了らせないことが最優先と考えての和了りであった。

 

 

 オーラス、和の親。ドラは{3}。

 半荘全体と通じて絶対安全圏は健在。

 当然、ここでも淡以外は全員強制六向聴だった。

 

 淡としては、せめて和を対象から外せればと思うのだが、それができない。

 絶対安全圏は、咲にも照にもフレデリカにも破られない強烈な能力だが、取捨選択が出来ない点では非常に不器用と言える。

 なので、結果的に和の足を引っ張っている気もしている。

 かと言って、絶対安全圏を解除すれば、フレデリカが暴れまくるのは必至だろう。故に絶対安全圏は継続せざるを得ない。

 

 救いなのは、和が強制配牌六向聴を特に気にしていないところだ。

 確率的には普通に有り得る話だし、仮に配牌が一向聴と非常に良かったとしてもツモが一切噛み合わなければ聴牌できない。

 結局は、配牌から和了りまでのトータルで考えなければ無意味と和は思ってくれているようだった。

 

 また、和は前半戦最後の足掻きをここで見せたいとも思っていた。

 勝気な性格もあるが、それだけではない。

 諦めたら全てが終わりだからだ。

 そのことを和は、二年前の長野県大会で咲が見せた大逆転………衣に責任払いさせた数え役満を目の当たりにして以来、痛感していた。

 自分には、あんな奇蹟は起こせないが、しぶとく喰らい付いて行く姿勢を保つことくらいは出来る。

 

 

 和は、自分の武器………牌効率を活かして、前局同様に最短での聴牌を目指した。

 配牌は、

 {二五八①④⑦369東南北白中}

 淡と打つと、毎回こんな調子だ。

 

 しかし、和は、ここから{北9①南白中⑨東二發八}と切り出して十一巡目で聴牌した。{⑨}と{發}はツモ切りだが、非常にムダツモが少なく手が進んだと言える。

 

 この時、和の手牌は、

 {五六七③④[⑤]⑦⑦34567}

 

 タンピンドラ2で、出和了りなら11600点。

 当然、ここはダマで待つ。

 しかし、この最後に打った{八}で、

「ロン!」

 下家のカナコが和了を宣言した。

 

 開かれた手牌は、

 {五五[五]六七⑧⑧33355[5]}  ロン{八}

 タンヤオ三暗刻ドラ5。

「16000!」

 倍満だ。

 

 これで次鋒前半戦の順位と点数は、

 1位:フレデリカ 157000

 2位:カナコ 111000

 3位:淡 74900

 4位:和 57100

 日本チームがトータル132000点、ドイツチームが268000点と、ダブルスコアの差を付けられた。

 

 

 ここで一旦、休憩に入った。

 先鋒前半戦の十倍スコアほどの差は付いていないが、淡と和にとっては五十歩百歩。大敗である。

 しかも、フレデリカほどの力量があれば、先鋒戦で咲と光が取った戦法………同士討ちでのトビ終了による勝利をドイツチームは余裕で狙えるかも知れない。

 和は、その可能性を考えていた。

 もっとも、これは和の杞憂でしかなく、フレデリカにもカナコのステルスが効いているため、ドイツチームはカナコが差し込んだところでフレデリカは和了れない。

 勿論、フレデリカ自身もカナコには差し込めない。

 なので、咲達のような戦術は成立しない。

 

 

 淡も和も、決してお漏らしするような輩ではないが、一旦、気分転換のために対局室を出てトイレ+自販機コースを辿った。

 どうせ、控室に戻ったところで、フレデリカとカナコが相手では新たな戦略を授けられるわけでもないだろう。

 殺し屋コンビとは良く言ったものだ。

 

 

 休憩時間の間、淡も和も口数が少なかった。

 意気消沈している部分があるのは否定しない。しかし、二人は自分達の使命………フレデリカを如何に疲れさせるかを考えていた。

 …

 …

 …

 

 

 そろそろ休憩時間が終了する。

 淡と和が、対局室に戻ってきた。

 フレデリカもカナコも卓に付いている。二人とも準備万端と言った感じだ。対する淡は準備満タンである。

 

 

 場決めがされ、起家は淡、南家は和、西家はカナコ、北家はフレデリカに決まった。

 点数調整の能力を持っていないためか、フレデリカは咲ほど西家に固執している感じでは無かった。

 

 東一局、淡の親。

 せめて淡と和が逆なら、和としても淡のサポートがしやすかっただろう。前局と同様にコンビ麻雀として有利な席順になっていない。

 

 今回も絶対安全圏は常時発動である。

 言うまでもないが、決して淡は情事発動していない。

 ただ、咲に熱中症(?)の和は、フレデリカを前に、

「(やはり咲さんに似ています!)」

 気を抜くと情事発動してしまいそうになるようだ。

 

 この局では、淡はダブルリーチの能力を使っていない。

 しかし、それでも淡のみ配牌二向聴で、他の三人は配牌六向聴と、淡に有利な初期状態は続いている。

 

 そこに、

「ポン!」

 和がサポートしてくれる。

 淡は、和が捨てた{東}を早々に鳴いた。ダブ東である。

 そして、絶対安全圏内に、

「ツモ! ダブ東ドラ3。4000オール!」

 親満ツモを決めた。

 

 東一局一本場、淡の連荘。

 ここでも淡は、

「ポン!」

 和のサポートで役牌を鳴き、絶対安全圏内に、

「ツモ。2100オール!」

 30符3翻の、いわゆる、

『憧っぽい手』

 をツモ和了りした。

 

 東一局二本場、淡の連荘。

 ここでは、和が切った役牌を淡は鳴けなかった。

 そもそも役牌の対子を持っていなかったし、ここに来て、手は軽いがリーチ無しでの役有り聴牌に持って行くのが難しい配牌になった。

 

 絶対安全圏を越えた。

 八巡目。

「リーチ!」

 淡の状況を察したのか、和が聴牌即でリーチをかけてきた。

 東場の優希や南場の数絵なら一発ツモは常時発動みたいなものだが、そんな能力を和は持ち合わせていない。

 しかし、一発はムリでも、まだまだツモ牌はある。

 リーチ宣言から五巡以上かかったが、

「ツモ! リーツモ七対ドラ2。3200、6200です。」

 何とかハネ満をツモ和了りできた。

 しかも、七対子。

 淡と対局する時、対子場と感じたら一番早く聴牌に近づける手が七対子であろう。和もそのことを重々承知しているようだ。

 

 

 東二局、和の親。ドラは{二}。

 今回は、中途半端に対子ができる。対子場と言うよりも、普通の場であろう。

 

 和の配牌は、

 {二四七九③⑥1458西北中白}

 ここから打{1}。

 

 二巡目。和はツモ{二}、打{北}。

 

 三巡目。ツモ{三}、打{西}。

 

 四巡目。ツモ{3}、打{白}。

 

 五巡目。ツモ{三}、打{中}。

 

 六巡目。ツモ{8}、打{③}。

 

 七巡目。{北}をツモ切り。

 

 八巡目。ツモ{[⑤]}、打{七}。

 

 九巡目。ツモ一、打九で聴牌。

 手牌は、

 {一二二三三四[⑤]⑥34588}

 

 連荘狙いで役有り。出和了りで11600点の平和ドラ3の手。当然、デジタル打ちの和なら、リーチをかけずにダマで待つ。

 

 次巡、和はツモ切りだったが、そのさらに次巡、

「ツモ。4000オール。」

 和は、親満をツモ和了りした。

 

 東二局一本場。

 この局も、和は配牌こそ最低だがツモに恵まれた。

 しかも、対子場っぽい。

 そう言えば、ここで使われる牌は前々局のものと同じになるが、どうやら、こっちの牌が対子場になっているようだ。

 前半戦オーラスでカナコが三暗刻を和了ったのは、もう片方の牌だと思うので、むしろそっちの方が同じ牌が重なりやすいような気もするが、どうもそうではないようだ。

 もっとも、こっちの牌が対子場になる理由なんて、全然分からないが………。

 

 和は、不要なチュンチャン牌のうち、先に{一九⑨1}を切り出した。

 そして、対子場と感じると、その後に捨てる予定だった{西}を敢えて残した。

 昔からよく言われる、

『単騎待ちなら{西}で待て!』

 の言葉に従ったのだ。勿論、{西}ではなく{北}でも良いが、たまたま{西}を持っていたのでそうしただけだ。

 

 そして、和は、八巡目で聴牌すると、

「リーチ!」

 そのまま即リーチをかけた。

「チー!」

 珍しく、カナコが鳴いた。一発消しだ。

 

 今のところ、和の手はリーチ七対子のみだった。

 しかし、

「ツモ!」

 数巡後に和が和了り、裏ドラを確認すると、対子一組がドラに化けた。

「リーツモ七対ドラ2。6100オール。」

 これがリーチ七対子の恐ろしいところである。ドラが乗ると大きいのだ。

 

 東二局二本場。ドラは{④}。

 どうやら、ツキは和に回ってきたようだ。

 六向聴なのは淡と同卓しているのだから仕方が無い。

 しかし、同じ六向聴でも、前半戦オーラスのように嵌張や両面、辺張が一つもないクソ配牌パターンと、後半戦東二局のように嵌張が二つあるパターンでは全然意味合いが違う。

 前者では七対子以外での六向聴は有り得ないが、後者の場合は平和を視野に入れての六向聴になる。

 ここでは後者のパターンとなった。

 しかも、ツモが配牌に噛み合い、不要な四枚の字牌四枚と{①⑨}各一枚ずつの計6枚の処理を終えた時には、

 {二四五八八④[⑤]⑥34578}

 と、一向聴になっていた。単に手なりに打っての一向聴だ。

 

 そして、ここからさらに次巡、和は{6}をツモって打{二}。

 聴牌した。

 タンピンドラ2で、芝棒を付ければ出和了りで12200の手。当然、和はダマ聴にした。

 

 全ての牌を把握できているフレデリカからの出和了りは無い。

 カナコも、前半戦での満貫振込みがあったせいか、警戒している。

 しかし和は、聴牌即では無いにせよ、

「ツモ!」

 和了り牌を自らの手で引き寄せた。

「4200オール。」

 

 これで次鋒後半戦の順位と点数は、

 1位:和 149400

 2位:淡 97800

 3位:カナコ 76400(席順による)

 4位:フレデリカ 76400(席順による)

 前半戦の順位とは真逆になった。

 

 しかし、前後半戦のトータルでは、日本チームが379200点、ドイツチームが420800点と、まだまだドイツチームが大きくリードしていた。

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