世界大会決勝次鋒後半戦は、東二局三本場を迎えた。
親は和。
前半戦で、ドイツチームは日本チームに130000点以上の差を付けた。
それもあって、フレデリカは、後半戦では中堅戦のことを視野に入れて敢えてパワーダウンしていた。
ところが、後半戦に入って日本チームが大きく追い上げてきた。このままではマズイ。
まだドイツチームが40000点以上リードしているが、言い換えれば、東二局二本場までに点差を90000点も縮められたことになる。
一旦、ここで叩いておかなければならないだろう。
フレデリカの表情が変わった。
放出されるオーラも一気に増大した。衣や照を思い起こさせる。常人であれば吐き気を催すレベルだ。
ドイツチームのみんなが、
『かわいくない系』
と言うのが良く分かる。
絶対安全圏によって、フレデリカの配牌は毎度の如く六向聴だが、彼女の能力が場全体を支配している。
そして、
「リーチ!」
たった六巡でフレデリカは聴牌し、即リーチをかけてきた。
淡はフレデリカの現物切りで対応。
すると、
「チー!」
和が、これを鳴いて一発を消した。
傍目には素晴らしいコンビプレイの様に見えたかもしれない。
しかし、
「ツモ!」
そうは問屋が卸さない。
鳴きが入ったため一発ツモにはならなかったが、フレデリカは、そのままリーチ後一回目のツモで自らの和了り牌を引いた。
「リーチツモ七対ドラ4(表2裏2)。4300、8300!」
しかも倍満である。
フレデリカは、対子場になっている方の牌の流れを完全に掴んでいた。
これで、チームトータルの差を65000点以上に広げた。
東三局、カナコの親。ドラは{東}。
カナコは、
「(フレデリカったら、しばらく静観していると思ったら、いきなりこれだもんね。じゃあ、私もぉ………。ぶっ殺フィンクス!)」
と、心の中で語りながら密かに気合を入れ直した。
日本チームの二人にはステルスが効かない。
しかし、カナコにも殺し屋と呼ばれたプライドがある。やはり直取りしたい。
前半戦では、和から倍満を二回直取りしたし、フレデリカからも倍満を一回和了った。しかし、まだ淡を討ち取れていない。
ならば、ターゲットは淡。
この半荘………いや、ここで淡を討ち取る。
そうカナコは決意していた。
ここで使われる牌は、対子場になり切っていないほうだ。だからと言って、対子も暗刻もできないわけではない。
六向聴スタートではあるが、カナコは池田華菜レベルの仕上がりを見せた。自分が思い描いた手に向けて一切ムダツモなく一直線に突き進んで行く。
この局、カナコの捨て牌は、
{一①⑨南中北2④四}
九枚目の捨て牌………{四}が切られた時、淡は、カナコから僅かに聴牌気配を感じ取った。
カナコ自身の姿は捉えられないが、牌は見える。牌がツモられてから切られるまでの時間の長さで、なんとなくそう感じたのだ。
淡は、一旦様子見のつもりで{四}の筋………{七}を切った。
しかし、これで、
「ロン!」
「えっ?」
カナコに振り込んだ。
淡にとっては、まさかの一撃だった。
しかも、開かれた手は、
{六八⑥⑦⑧5[5]678東東東} ロン{七} ドラ{東}
ダブ東三色ドラ4の親倍。
「24000!」
カナコの殺し屋としての面目を保った和了りだった。
しかも、これで日本チームとドイツチームの点差は115000点近くまで広がった。
やっと40000点近くまで詰め寄ったのが、フレデリカとカナコの、たった二回の和了りでリセットされた感じだ。
さすが殺し屋コンビと言ったところだ。
東三局一本場、カナコの連荘。
絶対安全圏は機能しているものの、淡は意気消沈していた。前局で、ヤバイと思った牌で振込んだならまだしも、様子見で切った牌で討ち取られたのだ。
しかも、筋引っ掛けの親倍。
衝撃は大きい。
一方の和は、まだ崩れない。
気持ちを切り替えて前に進む。
三巡目に、淡が惰性でツモ切りした{北}を、
「ポン!」
鳴いた後、有効牌を引き続け、
「ツモ。北ドラ2。1100、2100。」
和はカナコの親番を流した。
この和の奮闘を見て、淡は、
「(何やってるんだろう、私。頑張らなきゃ。)」
気合いを入れ直した。まだ負けていない。厳しい戦いだけど、これからだ。
東四局、フレデリカの親。ドラは{四}。
この親は、さくっと流したい。
和は、
「ポン!」
「チー!」
「チー!」
淡が捨てた{西}、{①}、{8}を鳴き、何とか聴牌まで持って行った。
この時、和の手牌は、
{三四[五]六} チー{横879} チー{横①②③} ポン{横西西西}
{三六}のノベタン。西ドラ2。
ところが、ここで、
「リーチ!」
手が狭まった和を狙ってフレデリカがリーチをかけてきた。
フレデリカの捨て牌は、
{①西北南東8八⑦}
そして、和が一発で引いてきたのはドラの{四}だった。
ここは勝負!
和は、西ドラ3の形にして{三}を切った。
しかし、これで、
「ロン。一発!」
フレデリカに振り込んだ。
開かれた手牌は、
{四五五五⑤[⑤][⑤]22255[5]} ロン{三} ドラ{四} 裏ドラ{8}
リーチ一発タンヤオ三暗刻三色同刻ドラ4の親の三倍満。
{[五]}以外は、どの牌を切っても当たりだった。
まあ、ドラの{四}を切っていたら四暗刻への振込みだったので、それよりは幾分マシではあるが………。
この局、フレデリカの配牌は、
{四五八①⑤⑦258東南西北}
ここから{五五[⑤][⑤]225[5]}と、欲しい牌を順に引き入れて聴牌し、即リーチに出たのだ。
「36000。」
ここに来て、この振込み。
気丈な和の目から、珍しく一筋の涙が流れ出た。
二年前のインターハイ団体決勝戦以来、どんな状況に追い込まれても平然としていた和が、とうとう崩れた。
この和の姿を見て淡は、
「(ノドカの仇。ここは、絶対に一太刀浴びせてやる!)」
天下の宝刀(淡はアホの娘なので伝家ではありません)を抜く決意をした。
東四局一本場、フレデリカの親。
「(絶対安全圏プラスダブリー!)」
淡が能力を最大放出した。
サイの目は7。最後の角が最も早く来るパターン。
そして、淡は第一ツモをツモ切りすると、
「リーチ!」
ダブルリーチをかけた。
相手は殺し屋コンビ。
誰も鳴かなければ、淡が暗槓するのが九巡目で、和了れるのは十巡目以降になる。
当然、それまでにフレデリカかカナコが聴牌する可能性はあるし、淡が振り込む可能性もある。正直、この二人は、それだけヤバイ相手だ。
今回の牌は対子場になっているほうの牌。
しかし、淡のダブルリーチの能力が山に影響したのか、今までとは違って、順子場へと移行していた。
淡の能力は、単にダブルリーチをかけ槓裏を乗せるだけのものではない。
他家が普通に打つと、『淡が暗槓した後に、淡の和了り牌を捨てることになるように打たされる』能力なのだ。
今回、フレデリカもカナコも、七対子が出来る方向には手が進まなかった。
しかも数牌は嵌張も両面も対子も無い。
特にフレデリカの配牌は、ヤオチュウ牌も四枚しかない。
まさに、
{二五八②⑤⑧258東南西北}
のパターンだ。
以前、明星を相手に使った『配牌を完全操作する能力』も、淡はここで発動したのだ。
これでは、七対子以外の手を作るには、聴牌するのに、どう足掻いても八巡以上かかってしまう。
九巡目。
「カン!」
淡が暗槓した。
嶺上牌はツモ切り。ここでフレデリカに槓振りしないか、一応、淡にも恐怖はあったが、一先ず振り込みは無し。
そして、十巡目。
「ツモ! 3100、6100!」
淡はダブルリーチツモ槓裏4を決めた。
しかし、その直後、淡はフレデリカから、前半戦東二局三本場で経験した、照に似た雰囲気を感じ取った。
後半戦東二局三本場の倍満ツモの時よりも恐ろしいオーラを放っている。
淡の一撃がフレデリカの心に火をつけたのだ。
南入した。
南一局、淡の親。
絶対安全圏は健在だが、能力最大放出状態となったフレデリカの支配力は、淡一人では抑え切れない。
配牌六向聴から一切のムダツモ無しで手を作り上げ、
「リーチ!」
六巡目でリーチをかけてきた。
一方の淡は配牌一向聴だったが、全然鳴けず、ツモも噛み合わずで聴牌できずにいた。
そして、次巡。
「ツモ。メンタンピン一発ツモドラ3(表1赤1裏1)。4000、8000。」
まるで単純作業のように倍満をツモ和了りした。
南二局、和の親。
ここでもフレデリカは能力最大放出状態。
そして、前局同様に、
「リーチ!」
配牌六向聴から一切のムダツモ無く聴牌し、先制リーチをかけてきた。
淡は、今回も配牌一向聴だったが、フレデリカの支配力に押されて手が進まず、一向聴のままフレデリカのリーチを迎えることになった。
一先ず淡は現物切りで対応。
和も同様に現物を落として一発振込みを回避した。
しかし、一発振込み回避など無意味であることを知らされる。
ここでも、
「ツモ!」
フレデリカは一発で和了り牌を掴み取った。
「4000、8000!」
しかも倍満ツモ。圧倒的な力量差である。
南三局、カナコの親。ドラは{6}。
フレデリカの配牌は、
{二五八①③⑧⑨258南白中}
ここから、たった六巡で、面白いように手を作り上げ、
「リーチ!」
{8}切りでリーチをかけた。
「ポン!」
和が一発消しで鳴いた。
しかし、フレデリカは、それを予期しているようだった。いや、むしろ敢えて和が鳴ける{8}を残しておいた感じだ。
そして、注目のフレデリカのツモ番。
ここで、
「カン!」
フレデリカは{南}を暗槓すると、
「ツモ!」
咲の分身ならではの嶺上開花を決めた。
この対局では、フレデリカは七対子が多かった。しかし、それは淡の絶対安全圏を受けた状態で、最も早く聴牌できる方法として選択していただけに過ぎない。
やはり、フレデリカの真骨頂とも言える和了りは咲と同様、嶺上開花である。
ここに来て、とうとう本性を現した感じであった。
開かれた手牌は、
{①②③⑦⑧⑨白白中中} 暗槓{裏南南裏} ツモ{白} ドラ{6} 裏ドラ{一} 槓ドラ{八} 槓裏{北}
「リーツモメンホン嶺上開花ダブ南白チャンタ。6000、12000!」
三倍満だ。
この和了りを見てカナコは、
「(マジマジマジマジ アルマジロ! やっちゃったよ、三倍満。デモデモデモデモ デモゴルゴン。この次鋒戦は、少しでもエネルギー放出を抑えるために七対子主体で、嶺上開花無しで行くんじゃなかったの?)」
チームメイトとは言え驚いていた。
予定とは違う和了りだったからだ。
今のフレデリカは、全力を尽くす方に頭が行っていた。しかし、悪い表現をすれば、後先を考えていなかったとも言える。
それだけ、東四局一本場の淡の本気の能力麻雀が、フレデリカの心に火をつけたと言えるだろう。
ある意味、淡はフレデリカを疲れさせる使命を果せたと言えるかも知れない。
オーラス。フレデリカの親。
当然、絶対安全圏は健在。
この局、フレデリカは聴牌までに八巡を要した。ただ、放出されるオーラの量は、本日最大と言える。
まさにオーラスの咲とか慕の雰囲気にそっくりである。
九巡目。
「カン!」
フレデリカが{西}を暗槓した。
そして、嶺上牌を引くと、
「ツモ!」
当然の如く嶺上開花を決めた。
開かれた手牌は、
{四四四⑧⑧22288} 暗槓{裏西西裏} ツモ{8}
「四暗刻。16000オール。これで和了り止めにします。」
まさかの親役満ツモであった。
これで、次鋒後半戦の点数は、
1位:フレデリカ 226100
2位:和 72300
3位:カナコ 54900
4位:淡 46700
日本チームがトータル119000点、ドイツチームが281000と、前半戦同様にドイツチームの圧勝となった。
次鋒戦の前後半戦トータルは、日本チームが251000点、ドイツチームが549000点。先鋒戦とは完全に真逆の結果となった。
そして、先鋒戦と次鋒戦の総計は、日本チームが803200点、ドイツチームが796800点と、6400点差の結構イイ勝負であった。