咲-Saki- 阿知賀編入   作:おこそとのほもよろを

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二百四本場:高校最後の世界大会決勝戦12  みんなの夢は叶う

 これより、世界大会決勝副将後半戦が開始される。

 対局室に、ニーナ、ミラ、美和、敬子が姿を現した。

 大会スタッフには、既にニーマンから、ローザが体調不良で補員に交代する旨の連絡が入っていた。

 

 ただ、美和がミラから感じる雰囲気はローザそのもの。

 只者ならぬ気配を感じ取っていた。

 

 美和と敬子は、休憩中に、

「きっと後半戦は、前半戦よりも、みんなの期待に応えられるイイ戦いが出来るよ!」

 と咲に言われていたが、この雰囲気からは、到底そうは思えない。美和には、前半戦の二の舞になる予感しかなかった。

 

 

 場決めがされ、起家がミラ、南家がニーナ、西家が美和、北家が敬子に決まった。

 この時、敬子は綺亜羅高校応援歌を口ずさんでいなかった。まだ、クラーケンのスイッチが入ったままのようだ。

 

 東一局、ミラの親。

 ローザの能力をコピーした今、彼女は、まるで最高状態に近い優希の東場を髣髴させるレベルの、とんでもない麻雀を披露する。

 たった三巡で聴牌すると、

「リーチ!」

 即リーチをかけてきた。手なりに打って高打点と言う簡単麻雀の力が、今の彼女には備わっているのだ。

 

 そして、まるで簡単作業のように、

「ツモ! 12000オール!」

 ミラは親の三倍満をツモ和了りした。

 

 それにしても、この恐るべきパワーヒッターの能力は、余りにも特殊過ぎる能力の方に入らないのだろうか?

 ミラがコピーできるのは『一般的能力』とされているが、その定義を疑いたくなる。ローザの能力がコピー可能で、何故フレデリカやクララの能力がコピー不可なのかが良く分からない気がする。

 カナコのステルスだけは、異質と言うのは分かる気もするが………。

 

 もっとも、フレデリカとクララをコピーできないのは、この二人の能力がローザの能力よりも、さらに強いことを示しているのだろう。

 

 それを考えると、その二人に勝つ試合をプロデュースした咲は、もはや人間の枠を超えているとさえ思える。

 

 ちなみに、ミラが神様や邪神、霊を降臨させる能力をコピーできるかは分からない。そもそも、そう言った類いの選手が近くにいかったため試したことが無いからだ。

 恐らくコピーできないような気がするが………。カナコ以上に、余りにも異質過ぎると言う意味で………。

 

 

 東一局一本場。ドラは{④}。

 ミラは、この局の開始直後、敬子の背後の強大な何かの影を感じ取った。これがローザを精神的に追い込んだ元凶だ。

「(ローザはああなったけど、自分は耐えて見せる!)」

 一応、ミラには滅多なことでは平常心を失わない自信があるようだ。

 

 敬子の捨て牌は、

 {東南西北}

 訳が分からない。

 風牌が通るのだけは分かるが、これで和了り牌を当てろと言う方がムリな話である。それにしても、毎度の如く切り出す順番がおかしい気はするが………。

 

「ポン!」

 敬子が美和から{八}を鳴いた。

 そして、打{白}。

 

 次巡も、敬子は、

「ポン!」

 美和から{⑧}を鳴いた。打{發}。

 

 {八}と{⑧}が同じプレイヤーにポンされれば、一応、{8}はケアする。珍しい役だが、三色同刻なんて役があるからだ。

 もっとも、三色同刻は現実世界では滅多にお目にかかれない役なので、実は思うほどケアする必要性は無いかもしれないが、念のためである。

 

 それにしても敬子の捨て牌は読みようが無い。

 ミラは、配牌が前局より悪かったこともあり、ここで聴牌。ローザをコピーした割りには、今回は手が遅いようにミラ自身も感じていた。

 しかし、当然、連荘を狙う。

 

 今のミラの手牌は、

 {二二三④④[⑤][⑤]⑥⑥5678}  ツモ{三}

 

 タンヤオ一盃口ドラ4が確定している。

 ならば、ここでも勝負!

「リーチ!」

 積極的に攻める。

 ミラは{8}を手元に残し、{5}切りでリーチをかけた。

 

 しかし、その直後、ミラの視界に飛び込んできたのは大海原の風景だった。何故か、対局室から海のド真中に飛ばされていたのだ。

 ローザの時と同じで、ミラも船の上に乗っていた。完全に意味不明の幻の世界だ。

 

 目の前には敬子の姿があったが、海面から上半身を出す美しき人魚の姿に見えた。

 そして、敬子の背後から巨大な触手が伸びてきて、ミラの身体に巻き付いた。

「(なにこれ?)」

 状況は、よく分からないが、少なくとも命の危険が迫っているのだけは間違いないとミラは感じていた。

 もっとも、幻の世界での出来事なので、現実に死ぬことは無いのだが………。

 

 触手は、敬子の身体と一体化すると、ミラを海深くに引き摺り込んで行った。

 その巨大な何かの姿がミラの目に映った。

「(クラーケン!)」

 このままでは窒息死する。

 いや、その前に食い殺されるのか?

 この恐怖映像に、現実世界のミラは、

「プシャ──────!」

 堪えきれずに聖水を大放水していた。

 足共には黄金の泉が広がって行く。

 

 大会ナンバーツー美少女と同レベルの美女が、まさかの大失禁ライブ中継。

 これを見た某ネット掲示板の住民達は、

『一大事! 一大事ですわ!』

『何故このタイミングか分からないッスけど、ヤッたっス!』

『泉が湧くでぇ~!』

『チョー嬉しいよー!』

『理由は分かりませんが、スバラです!』

 予期せぬ事態に驚いていたが、結構喜んでいたようだ。

 

「ロン!」

 敬子の声が対局室にこだました。リーチ宣言牌でミラは振り込んだのだ。

 この声でミラは正気に戻ったが、目からは涙が流れ出ていたし、椅子が濡れていたし、マジで最悪だ。

 

 しかも、敬子が開いた手は、

 {④④5[5]888}  ポン{横⑧⑧⑧}  ポン{横八八八}  ロン{5}

 

 タンヤオ対々和三色同刻ドラ3の倍満。

 しかも、前半戦でローザから直取りした時と同様に、8の数牌が鍵になっている手だ。

 

「16300!」

 まさかの振込みだ。

 ただ、ここでスタッフが、

「清掃作業に入りますので、一旦各選手は控室に戻ってください。」

 対局を中断した。

 

 

 ミラは、顔を赤らめながら控室に戻った。まさか、麻雀で失禁するなんて、常識では考えられないからだ。

 まあ、その非常識なことを普通の女子高生雀士に毎回やらせている超魔物が日本には存在するのだが、まあ、それは置いておこう。

 

 

 これには、ミラも参っていた。

 しかし、補員は一名までのルール。

 しかも今回は、ローザからミラに交代している以上、ローザに戻すことは出来ないルールになっていた。

 なので、副将後半戦はニーナとミラで戦い続けるしか道は無い。

 ちなみにローザは、副将後半戦が開始されてすぐに、体調不良で医務室に運ばれていた。

 

「大丈夫か、ミラ?」

 濡れた服を着替えているミラに、ニーマンが声をかけた。

「正直、きついです。ローザがおかしくなったのも分かります。日本の選手の直撃を受けた時、クラーケンに海に引き摺り込まれた幻を見ました。」

「えっ?」

「溺れ死ぬか食い殺されるか、二つに一つ。そんな恐怖を受けました。清掃作業が入って気持ちを入れ替える時間が取れたのは、本気で不幸中の幸いかも知れません。」

「そう言う事か。かわいくない系のオーラにはローザも慣れている方だが、実はローザはカナヅチでな。」

「それで溺れ死ぬ恐怖から…。」

「多分、そうだろう。一先ず気を取り直して戦ってくれ。」

「はい。」

 …

 …

 …

 

 

 それから数十分後、再び対局室に副将選手達が姿を現した。

 東二局より再開される。

 親はニーナ。

 

 配牌の最中、敬子は再び綺亜羅高校応援歌をハミングしていた。クラーケンの力を使うにも限界があるようで、ここから先は人魚パワーのみで行くことになる。

 とは言え、敬子の渾身の和了りで日本チームにツキが回ってきたようだ。この局では美和が配牌二向聴であった。

 そして、サクサク手が進み、四巡目で、

「ツモ!」

 美和が和了りを決めた。

 これと同時に、ニーナとミラの意識が幻の世界に飛ばされた。

 

 ここは淫猥なる美和ワールド。

 ニーナは前半戦でも経験したが、ミラにとっては初体験である。

 

 今、この世界でニーナは服を着ている。前半戦からの続きでは無いらしい。

 互いの姿は見えない。別の空間にいるようだ。

 

 巨大な植物性の触手が二人の四肢に巻き付いて自由を奪った。

 さらに触手から粘性のある消化液が分泌され、二人の衣類を溶かして行く。それでいて肉体は溶かさないと言う、正直現実的には矛盾はあるが便利な代物だ。

 そして、沢山の触手が身体のあちこち、特に胸と股間を念入りに刺激する。

 これには、ミラも驚いた。

「(なにこれ?)」

 こんなこと引継ぎ事項に入っていない!

 それに、ミラはローザやニーナと違って不感症ではない。

 

 現実世界でミラは、

「Uhhh………Ahhhhhhhhh──────!」

 大声を上げていた。

 

 大会トップレベルの美女の恥ずかしい映像に、某ネット掲示板の住民達は、

『北ッス! これで丼飯十杯はイケるッス!』

『最高だよモー!』

『先輩がマジ喜んでるんデー!』

『スバレストです!』

『姫子より凄か!』

『みかんジュースが出るで~!』

『もう出てるのよー』

『この未来は見えてへんかったなぁ』

『やっぱり美和様は、これだじぇい!』

 たいそう喜んでいた。

 

 …

 …

 …

 

 

 ニーナは、相変わらず変化無しだったが、ミラは気が狂いそうだった。

 脳内は真っ白。

 全身から何かが噴出しそうな感覚だった。

 そして、体感時間で一時間が過ぎた頃、

「2000、4000!」

 美和の点数申告の声が聞こえてきた。

 これで、二人の意識は現実世界に戻されたのだが………、ミラにとっては本当に最悪極まりない。

 クラーケンに襲われる恐怖に晒され、落ち着いたと思ったら美和ワールド行き。

 今日は天中殺ではないかと思いたくなる。

 

 

 東三局、美和の親。

 またもや敬子のハミング………人魚の歌声が聞こえる。本大会では、配牌が終わるまでは一応、歌うことが許可されている。

 これを聞いていると、何故か戦意が削られてゆく。

 

 ミラは、全然麻雀に集中できていなかった。

 そう言えば、どこから記憶が無いのだろう?

 なんだか惰性で麻雀牌を切っていた感じがする。

 そして、ふと正気に戻った直後、

「ツモ!」

 不幸にも美和に和了られた。

 

 再びニーナとミラの意識が美和ワールドへと堕ちて行く。

 あの強烈な刺激には、ミラも耐えられない………。

 …

 …

 …

 

 

 そして、体感時間で約一時間後、

「6000オール!」

 美和の点数申告の声が聞こえてきた。

 ただ、この能力は、さすがに反則ではなかろうか?

 

 しかし、試合は中断されない。さっき、清掃作業が入ったばかりだし、そう何回も中断できないと言うことなのだろう。

 

 

 ニーナの顔つきが変わった。

 どうも流れが日本チームのほうに行っている。

 前後半戦トータルでは、まだ50000点以上もドイツチームがリードしているが、ミラが既に使えない状態。

 このまま放っておいたら逆転される。

 50000点差も、24000点の直撃を一発でも受ければ追いつかれてしまう。それだけの和了りを見せた人魚が日本チームにはいる。

 もっとも、敬子はクラーケンの力をもう出せないのだが、敬子の能力の状態などニーナには分からない。当然、最悪のケース………クラーケン再発動を視野に入れる。

 

 ならば取るべき道は一つ。その攻撃に向けて、自らの集中力で、先ずは人魚の歌声をシャットアウトする。

 そして、東三局一本場、

「リーチ!」

 ニーナは、いきなりダブルリーチで攻めに出た。

 

 サイの目は7。

 最後の角が最も早く来るパターンである。淡であれば、鳴きが一切入らなければ九巡目に暗槓する。

 

 ただ、ニーナは最後の角など関係ない。

 手牌もダブルリーチ槓裏4に縛られていない。とにかく、同じダブルリーチでも、淡より効率よく和了ることが第一前提になっている。

 

 正直、ダブルリーチが相手では、序盤では和了り牌など読みようがない。

 三巡目、連荘を目指す美和が切った牌で、

「ロン! 12300!」

 ニーナはハネ満を直取りした。槓裏に関係なく手も高い。これも、ニーナと淡の違うところだ。

 

 

 東四局、敬子の親。

 敬子の人魚の歌声が卓上に流れる。全てを魅了する歌声に、大会スタッフまでが心地良い表情を浮かべている。

 今、敬子の頭の中では潜水をイメージしている。

 この時、ニーナとミラには、敬子の姿が人魚そのものに見えていた。

 

 敬子の切り出しは、毎度の如く{東南西北}。一般論は完全に無視。自分が分かりやすいように打つ。

 そして、

「リーチ!」

 第四打の{横北}を横に曲げて先制リーチをかけてきた。

 

 風牌が安全牌であること以外は分からない。本当にKYな捨て牌。

 だが………、ふと気が付くと、ニーナとミラは、人魚の姿となった敬子に手を繋がれて海の中を泳いでいた。能力が見せる幻の世界だ。

 空気が無いはずなのに、不思議と苦しくない。

 

 前方にお城が見える。

 あれが、噂の竜宮城だろうか?

 それとも別の何かか?

 よく分からないが、完全におとぎの世界に来ている感じだ。

 

 完全に麻雀から意識が切り離されて行く。

 そして、完全に夢うつつの状態になった時、

「ツモ。6000オール!」

 敬子の和了り宣言が聞こえてきて、ニーナは正気に戻った。

 ただ、ミラは、ボーっとしていた。

 

 ニーナは、これまでずっと人魚の歌声を自らの集中力で排除していた。それもあって正気に戻れたのだろう。

 対するミラは、人魚の歌声に魅了された状態が、まだ続いているようだ。

 

 

 前局で美和からハネ満直取りの後に敬子の親ハネツモ。

 収支を考えれば、東三局と殆ど点差は変わらない。奪った分、次の回で点棒を取り戻されている感じだ。

「(少しキツイけど、次も攻める!)」

 ニーナは、再びダブルリーチ発動に向けて精神を集中し始めた。

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