咲-Saki- 阿知賀編入   作:おこそとのほもよろを

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二百八本場:高校最後の世界大会決勝戦16  主人公コンビ出陣

 世界大会決勝大将前半戦が終了した。

 穏乃と神楽は、一旦控室に戻った。

 

 神楽は、割と疲れた様子だ。

 超魔物の一人、光の生霊を口寄せしていたからであろう。

 

 降ろす相手の能力が強大であれば、それだけ神楽の身体には負荷がかかるとのこと。

 昨年は、透華の生霊が降りた後、神楽持ち前の能力である透視能力が全然使えなくなってしまったくらいだ。

 その前に、憩や衣の生霊を降ろしていたのも、実際には神楽への大きな負荷になっていたのではないかと今では考えられている。

 

 控室では、既に咲がソファーの上で眠っていた。神楽に降りる準備は、既に整っていると言える。

 やはり最後は日本の守護神………元清澄高校の大将と阿知賀の大将。

 最強大将コンビ(ダブル主人公コンビ)に勝利を託す。

 

 

「買っといたで。」

 恭子が自販機で買っておいた『飲むプリン』なるものを神楽に、『飲むバニラアイス』を穏乃に渡した。休憩中にエネルギー補給させるアイテムして二人が事前にリクエストしていたのだ。

 少なくとも、この状況で慕から、

『はいこれ!』

 と毎度の如く、つぶつぶドリアンジュースを渡されてもストレスでしかない。

 

 それで事前に二人は、

『あれを一度飲んでみたい!』

 と言って、恭子に買ってきてもらっていたのだ。

 

 飲むプリンを口にすると、

「身体が生き返るぅ~!」

 神楽の全身からエネルギーが満ち溢れてきた。

 やはり美味しいものは美味しいし、美味しいものは元気の元だ。特に疲れた時には、その効果を強く発揮するだろう。

 

 

 一方、ドイツチームの控室では、

「充電させて。」

 エリーザがフレデリカの腿の上に腰を降ろした。

 鹿倉胡桃が小瀬川白望の上に乗っていたのと同じだ。

 

 違うのはフレデリカの身体からドンドンエネルギーが吸われていること。これもブラックホールと呼ばれるようになった一因らしい。

 

 エリーザは能力放出の際に、かなりのエネルギーを消費するタイプのようで、食欲すら失われるほどのようだ。

 これでは、ムリに何かを食べさせても逆効果である。

 それで強大なエネルギーを持つフレデリカから充電させてもらっているのだ。

 

 勿論、別にエネルギーが吸われても命を吸われる訳ではない。エネルギーの元となるものを食べればフレデリカも元に戻る。

 そのためだろう。フレデリカの前にニーマンはホールケーキを置いた。エリーザの充電が終わったら、これを食べろと言うことだ。

 ある意味、ケーキの大人食いが出来るなんて羨ましい。

 このケーキを見て、カナコは、

「(うらやまシーサー。)」

 と心の中で呟いていた。

 

 …

 …

 …

 

 

 対局室に大将四人が姿を現した。世界大会決勝大将後半戦が、いよいよ開始される。

 大将前半戦のチームトータルは、日本チームが205400点、ドイツチームが194600点と日本チームがリードしているが、6400点………七対子ドラ2の直撃で逆転可能な範囲でしかない。

 それこそ、二年前のインターハイ二回戦で、穏乃が劔谷高校の安福莉子から逆転勝ちした点数でひっくり返る。

 

 

 場決めがされ、起家がエリーザ、南家がクララ、西家が神楽、北家が穏乃に決まった。

 既に、神楽の中には咲の生霊が降臨していた。故の西家だろう。

 

 東一局、エリーザの親。ドラは{八}。

 今、エリーザの中にはフレデリカのエネルギーが満ちている。

 彼女は、このパワーで東場は暴れ捲くり、圧倒的な点差を付けて南場に進めようと考えていた。南場は、クララに全てを任せる。

 つまり、片岡優希と南浦数絵でコンビを組ませたようなものだ。東場は優希で稼ぎ、南場は数絵で稼ぐと言う構図だ。

 ちなみに、フレデリカで充電したエリーザのことを、ニーマンは『フリーザ』と呼んでいたらしいが、選手達からは、

『つまらないオヤジギャグ!』

 と一蹴されていたそうだ。

 

 

 エリーザの配牌は、

 {一三八②②②④⑧[5]9南南北北}

 ここから打{[5]}。

 一般的には第一打には選ばれない打牌だろう。

 

 次のツモ番はクララ。エリーザをサポートすべく打{南}。

 当然、これを、

「ポン!」

 エリーザが鳴いた。オタ風牌だか黒一色に向けての大事な牌。ここから打{八}。赤牌に続いていきなりのドラ切りだ。

 

 そして、またもやクララのツモ番。

 ここでクララは打{北}。

 勿論、これを、

「ポン!」

 エリーザが鳴いた。そして、打{三}。

 

 次巡、エリーザはツモ{④}、打{一}。

 さらの次巡でツモ{⑧}、打{9}と手を進めて聴牌した。

 

 そして、そのさらに次巡で、

「ツモ!」

 エリーザは{④}を引いて和了った。

 まだ、咲も穏乃もツモ番が二回しか来てきない状態だ。これでは太刀打ちできない。

「混一対々。4000オール。」

 役牌が共にオタ風牌だったこともあり、親満止まりで済んだ。これは、咲としても穏乃としても不幸中の幸いであろう。

 

 よく何回も似たような和了りができるものだ。ある意味、小蒔や蒔乃に神様が降臨した時に似ているとも取れる。

 それにしても、黒一色が役満として認められていなくて日本チームとしては助かった。認められていたら、大変なことになっていただろう。

 

 東一局一本場。

 ここでは、

「ポン!」

 序盤からエリーザはクララの支援で{東}を鳴いた。ダブ東だ。

 前局に比べると、若干だがエリーザの身体から放出される暗黒のオーラが弱まった感じを穏乃は受けていた。

 これはガス欠ではない。それくらいは、エリーザの顔を見れば分かる。然程疲れた表情は見えていない。

 

 ただ、嫌な表情が浮き出ている。

 恐らくこれは、咲からの能力干渉───支配力を受けて、思うように手ができていないと言ったところだろう。

 

 それでも、六巡目で、

「ツモ。」

 エリーザは咲の支配力を撥ね退け、和了って見せた。

 

 開かれた手牌は、

 {①①②③④④⑤⑥⑦⑧}  ポン{東東横東}  ツモ{⑨}

 筒子の赤い色を持つ牌が含まれていたが、赤牌は無かった。

 そのため、全体的には明るい雰囲気が伝わってこない手牌である。

 

 今回の和了りは、咲の支配力に足を引っ張られたために、完全な暗黒にならなかったと言うことだろうか?

 しかし、ダブ東を持っているのは大きい。ダブ東混一色の30符3翻で3900オールだ。

「一本場は、4000オール。」

 これでエリーザは、実質親満二連発。親倍を一回和了ったに等しい。

 いきなりのスタートダッシュだ。

 

 東一局二本場。ドラは{1}。

 今回は、エリーザの全身からは、前々局で黒一色を和了った時のような強大なオーラが放たれていた。

 エリーザの支配力が、完全に咲の支配力を上回っている。この局に、エリーザは相当な能力を注ぎ込んでいるようだ。

 

 しかも、前局、前々局とは違って門前で手を進めている。

 そして、僅か七巡で、

「ツモ。」

 またもや黒一色の手を和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {②②④④⑧⑧東東南南西北北}  ツモ{西}

 前半戦東三局で和了ったのと同じ、七対子型黒一色だ。

 

「6200オール!」

 日本チームからすれば、対々和の形を門前で和了られていないだけマシである。もしそうなら四暗刻になってしまう。

 

 とは言え、恐るべきパワーだ。

 これで、大将後半戦の点数と順位は、

 1位:エリーザ 142600

 2位:クララ 85800(順位は席順による)

 3位:神楽(光) 85800(順位は席順による)

 4位:穏乃 85800(順位は席順による)

 ドイツチームは、予定通りエリーザの暗黒パワーで圧倒的なリードを作り出した。

 

 東一局三本場。

 ここでもエリーザは、

「ポン!」

 クララの援護で{④}と、

「ポン!」

 さらに{⑧}を鳴いた。

 

 ただ、東一局ほど配牌は黒一色に偏っていなかったのか、今回は珍しく手が遅い。

 とは言っても、中盤には、

 {①②②東東東南南}  ポン{④④横④}  ポン{⑧⑧横⑧}  ツモ{②}

 黒一色を聴牌した。

 今回は、ダブ東混一色対々和の親ハネコース。

 当然、ここからエリーザは{①}を強打した。

 

 この時であった。

 とんでもないレベルの悪寒がエリーザの背中を走り抜けた。

 その直後、

「カン!」

 神楽(咲)が{①}を大明槓した。

 

 今回、エリーザの配牌が優れなかったのは、咲の生霊が今まで以上に能力干渉していたためであろう。

 加えて咲は、この局面でエリーザが{①}を捨てるように仕向けていた。

 

 {①②②}と持っていたら、{③}が来る可能性も考慮して一般には{①}を残すだろう。

 もし、黒一色が役満として認められているのなら話は別かもしれないが、ここで黒一色を作っても単なる混一色としてのみカウントされる。故の{①}残しだ。

 そこに{②}を引いて黒一色………つまりダブ東混一色対々和を聴牌すれば、これはエリーザでなくても高い確率で{①}を切る。

 これを狙った………いや、咲はプロデュースしたのだ。

 

 咲は、嶺上牌をツモると、

「もいっこ、カン!」

 {③}を暗槓した。

 次の嶺上牌は{⑦}。これを引くと咲は、

「もいっこ、カン!」

 当然の如く{⑦}を暗槓した。

 さらに咲は三枚目の嶺上牌………{⑨}を引くと、

「もいっこ、カン!」

 四つ目の槓子を副露した。

 王牌には、最後の嶺上牌が残っている。

 これを引くと、咲は、

「ツモ!」

 嶺上開花での和了りを決めた。

 

 開かれた手牌は、

 {⑤}  暗槓{裏⑨⑨裏}  暗槓{裏⑦⑦裏}  暗槓{裏③③裏}  明槓{①①①横①}  ツモ{[⑤]}

 

 黒一色で使われない筒子を用いての清一色四槓子であった。エリーザに行かないであろう筒子を咲は揃えに行ったのだ。

 しかも{①}を、一枚だけ予めエリーザに掴ませておいた。序盤でいきなり圧倒的リードを作り出したエリーザから直取りするために………。

 これは大会ルール上、エリーザの責任払いになる。

 

「32900です。」

 これでエリーザは、今まで稼いだ42600点の殆どを咲に奪われる形となった。

 しかも、これでチームトータルは、日本チームが204500点と原点を越え、ドイツチームが原点割りの195500点と、日本チームが大逆転した。

 さすが、日本の守護神、宮永咲の生霊である。

 

 

 東二局、クララの親。

 エリーザの身体から放出されるオーラが一気に減弱した。

 東一局一本場までに見せたスタートダッシュと、前局での四槓子の責任払いによる精神的ショックの二つが理由であろう。

 しかし、それでも常人よりは強いオーラを放っている。さすが、次期ドイツチームの第二エースとニーマンに言わせるだけの人間だ。

 

 まだクララのスイッチは入っていない。

 なので、ここもエリーザが和了りを目指す。クララが動き出すまでの場を支配して稼ぎまくるのがエリーザの使命だ。

 

 穏乃の中でも、まだ深山幽谷の化身としての能力は目覚めていない。

 そう言った中で、咲はオーラを弱めていた。やはり、前局で決めた四槓子に費やしたエネルギー量は、相当大きかったのだろう。

 ずっと格下の選手が相手なら、別に今回のような四槓子を和了っても膨大なエネルギーが消費されることはない。

 しかし、今の相手はエリーザだ。それも、フレデリカを充電器代わりにした輩だ。

 この魔物と対峙する以上、咲はエリーザに負けないパワーを放出しなければ四槓子を作れなかった。

 当然、対価は大きい。

 

 とは言え、咲のオーラがゼロになったわけではない。

 今のエリーザの和了りを阻止できるほどの力は出せないが、手役を下げさせるくらいの干渉は可能のようだ。

 

 この局、エリーザの配牌は、

 {一三六九②④⑧23689中}

 暖色を持たない牌は、{②④⑧2368}の七枚。

 ここから、{一三六九9中}を切り、六巡で七対子を聴牌した。

 

 そして、七巡目。

「ツモタンヤオ七対。1600、3200。」

 エリーザは、日本チームから3200点を取り返し、後半戦のチームトータルの点差を2600点まで縮めた。

 

 

 東三局、神楽(咲)の親。ドラは{8}。

 まだ、咲もエリーザもオーラの放出量が下がったまま。

 穏乃もクララもスイッチが入っていない。

 

 この超魔物四人が激突する大将戦の中で、この局が、ある意味一番大人しい………と言うか、最も能力麻雀からかけ離れた一局となるだろう。

 

「ポン!」

 エリーザがクララから{6}を鳴いた。

 今回も黒一色を作るのを放棄していたのだ。

 相手が超魔物と呼ばれるような人間でなければ、まだまだエリーザとしても、黒一色を狙って行ける自信はある。

 しかし、今回の相手はフレデリカに勝るとも劣らない超魔物。

 さすがのエリーザも、咲を相手に黒一色へと向かえるだけのパワーは、もはや搾り出せないようだ。

 

 エリーザが、

「ポン!」

 再びクララから{④}を鳴いた。

 この時、彼女は、

「(多分、これが私の大将後半戦最後の和了り…。)」

 と思っていた。

 ここで和了れば、次は東四局。恐らく、クララのスイッチが入るだろう。そうしたらバトンタッチだ。

 

 そして、その数巡後に、

「ツモ。」

 なんとかエリーザはツモ和了りを決めた。

 

 開かれた手牌は、

 {2334488}  ポン{④④横④}  ポン{66横6}  ツモ{2}

 まだ、対々和に移行できる形だったが、これで後半戦のチームトータルとして日本チームを逆転できる。それに、思っていた以上に疲弊した感じがある。

 それで、和了ることのみを優先したようだ。

 

「タンヤオドラ2。1000、2000。」

 この和了りは、大将前後半戦を通じて、エリーザが和了った中で最も点数が低い30符3翻の手だった。

 しかも、点棒ブラックホールとまで呼ばれる彼女としては、珍しく二連続で満貫に到達しない和了りでもあった。

 

 松実宥と対照的な暖かくない手だが、黒を示す牌は{④}の刻子だけ。

 この和了り手をドイツチーム控室のテレビモニターで見ていたニーマンは、

「{④}だけ………か………。なんだか、既にエリーザは『死あるのみ』とでも言われているみたいな気がするな。」

 と呟いた。

 何となくだが、急に嫌な予感がしてならなかった。

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