咲-Saki- 阿知賀編入   作:おこそとのほもよろを

209 / 221
二百九本場:高校最後の世界大会決勝戦17  世界大会決着

 世界大会決勝大将後半戦は、東四局を迎えた。

 親は穏乃。ドラは{②}。

 ここで、ようやく穏乃の『深山幽谷の化身』への変身スイッチが入った。卓上が靄に包まれてゆく。

 これまで日本の名高い女子高生雀士達が持つ様々な能力を封じてきた力。

 とりわけ大星淡にとっては忌々しい力の代名詞である。

 

 しかし、スイッチが入ったのは穏乃だけではなかった。

 同時にクララのスイッチも入っていた。

 卓上に風が吹き、靄を消し飛ばす。

 すると、途端にエリーザも咲も、穏乃でさえも配牌に噛み合わない不要な風牌をツモらされることになった。

 

 エリーザも咲も穏乃も、配牌に風牌は一枚もなかった。

 しかし、ここから立て続けに{東南西北}と順に一枚ずつツモらされる。これはこれで、非常に性格の悪い能力だ。

 その後、場風である{東}でもなく、また自風でもない風牌を一枚ずつ引かされる。これによって五巡は使えないツモが続くことになる。

 牌が透けて見えている咲の場合は、一応、オタ風の対子を狙って作ることは出来るが、今回はクララの支配が強くて、仮にポン出来ても四枚目が来ない。

 いきなりビハインド状態だ。

 

 もし、ここでエリーザの黒一色に向かう能力が多少でも発動していれば、クララの能力によりエリーザには逆に風牌が行かなくなる。

 しかし、今のエリーザは黒一色に進む力はない。それで、今回は風牌が行くように、しかも使えないように引かされることになっていた。

 

 穏乃のツモが普通に戻るのは七巡目以降、咲とエリーザのツモが普通に戻るのは六巡目以降になる。

 それまでの間、クララは一人、順調に手を進めて他家との差を広げて行く。

 この差は大きい。

 

 そして、七巡目。

 穏乃が、ようやく使えるツモ牌を引けた巡目で、

「ツモ。」

 クララが和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {七七②③④234[5]6789}  ツモ{1}

 門前清自摸平和一気通関ドラ2(表1赤1)のハネ満ツモ。

 

「3000、6000。」

 この一撃は大きい。

 大将後半戦のチームトータルは、これによって日本チームが189300点、ドイツチームは210700点と、20000点以上の差が開くことになった。

 

 しかも、この和了りによって、大将前後半戦のチームトータルも、日本チームが394700点と原点を割り、ドイツチームが405300点と、ドイツチームが逆転した。

 さすが、ワールドレコードホルダーを姉に持つだけのことはある。

 

 

 南入した。

 南一局、エリーザの親。ドラは{⑥}。

 卓上には靄が発生していた。これは、穏乃の能力の発動を示している。

 今回は、前局のように風が吹くことはなかった。どうやら、咲の支配力が、クララの能力を抑え込んでいるようだ。

 

 ただ、穏乃が咲から感じる能力は、勝つための支配力ではない。どちらかと言うと点数調整に向けた強制力である。

 それも、いつものプラスマイナスゼロとは少し違う。

 

 一応、これと似たような感じの空気は記憶にある。

 しかし、穏乃がこれを直接受けるのは、多分、今回が初めてである。

 

 靄が発生している以上、ここでは穏乃の支配力は健在である。

 しかし、20000点以上のビハインドを背負っているので、高い手を作りたいところなのだが、思うように打点が上がらない。

 ドラが………いや、持っている{⑤}か{5}が赤牌と入れ替わってくれれば、それだけでも大きいのだが、何故か赤牌にも恵まれなかった。

 

 穏乃が聴牌した。

 手牌は、

 {二二三三四四③④⑤⑥⑦55}

 

 この聴牌直後にエリーザが{②}を切ってきた。

 普段なら黒一色を構成する牌なのでエリーザからは出てこないだろう。しかし、支配力を失った彼女は黒一色に拘らない。

 凡手を作り上げるしか出来ない状態だ。

 それで、浮き牌………不要牌として{②}を切ったのだ。

 加えて靄で視界が悪く、河もよく見えていなかった。それゆえの暴牌でもあった。

 

 穏乃は、

「ロン。」

 これを見逃さずに和了った。

「タンピン一盃口。3900。」

 赤牌が一枚でも来れば7700の手に変わったのだが、今は贅沢を言っていられない。

 少なくとも今は、ドイツチームの親を一つ流したことを喜ぶべきだ。

 穏乃は、そう自分に言い聞かせて次局に望むことにした。

 

 

 南二局、クララの親。ドラは{中}。

 前局に続き、今回も卓上には靄が発生していた。ここでも咲の支配力が、クララの能力を抑え込んでくれていたようだ。

 

 穏乃の手牌は、和了りに向けて進んでくれてはいたが、前局と同様に打点が上がってくれなかった。

 しかも、前局よりもヒドイ。

 何となくだが、穏乃は、その原因が咲の強制力によることに気が付いた。

 その誰も抗えない強大な力が、クララだけではなく、穏乃の手役にまで悪い意味で影響を及ぼしているようだ。

 

 表ドラは使えない。

 これは、誰も対子で持っていないことを知った咲が、早々に捨てていた。

 穏乃自身も、これに合わせるように捨てていたし、これを見てエリーザも序盤で{中}を切っていた。

 つまり、既に三枚切れで国士無双でも狙わない限り不要な牌となった。

 

 穏乃が聴牌した。

 手牌は、

 {一二三四五六七八③④⑤66}

 

 {九}なら高目で一気通関が付くが、それでも平和一気通関の3900のみの手。

 ここに赤牌が一枚来てくれれば7700の手に成長する。なので、リーチはかけずに手変わりを待つ。

 

 しかし、ここでも聴牌即でエリーザが当たり牌………安目の{三}を切ってきた。

 一応、ドイツチームの振込みだ。

 もっと打点を上げてからにしたかったが、

「ロン。平和のみ、1000点。」

 これで穏乃が和了った。

 

 

 南三局、咲の親。

 ここに来て、咲のオーラが膨れ上がった。この親番で稼ぐつもりなのだろう。

 卓上からは靄が消えていた。

 ただ、風も吹いていない。

 咲の支配力が全てを抑え付けていた。

 

 ただ、穏乃の能力とクララの能力を同時に抑えるのは咲としても厳しい。かなり力を消耗するようだ。

 それゆえだろう。雑魚を相手にしている時ほど打点が和了らない。

 

「カン!」

 咲がエリーザから{中}を大明槓して有効牌を引き入れた。

 この時、クララは咲から聴牌気配を感じ取った。

 

 ただ、{中}が暗刻で一向聴なら、普通は大明槓しない。

 それを敢えてして来たと言うことは、今、咲は通常のツモで聴牌できる自信が無いものとクララは考えた。

「(多分、これは、私を抑えるためにミヤナガも、かなりのエネルギーを消費している証拠ね。)」

 この局は、咲のほうが、手が早い。多分、咲に持って行かれる。

 しかし、この分なら次局は咲の支配力が弱まるだろう。そこがチャンスとクララは判断した。

 

「カン!」

 咲が{西}を暗槓した。

 そして、嶺上牌を引くと、

「ツモ! 中嶺上開花ドラドラ。4000オール!」

 咲は、華麗なる嶺上開花を決めた。

 

 しかも、これで大将後半戦のチームトータルは、日本チームが202200点と原点を越え、日本チームが再逆転した。

 クララに続いて咲も見せてくれる。

 この対局をテレビで見る多くの人達が、まさにそう思った瞬間だった。

 

 南三局一本場、咲の連荘。ドラは{西}。

 クララは、予想通り咲の支配力が弱まって行くのを感じた。

 これなら自分の支配下で高打点の手を和了ることができるとクララは踏んだ。

 

 クララの配牌は、

 {四七八②⑤134578東北}

 平和手に向けての四向聴。

 しかし、このチャンスを平和一気通関だけで終わらすつもりは無い。

 

 ここからクララはツモ{2}、打{⑤}。

 

 ツモ{3}、打{四}。

 

 ツモ{9}、打{七}。

 

 ツモ{2}、打{八}。

 

 ツモ{東}、打{②}。

 

 そして、ツモ{6}で聴牌した。

 ここから打{北}で、

「リーチ!」

 勝負に出た。

 

 手牌は、

 {12233456789東東}

 

 そして、咲の嶺上開花と同様に、クララは当然の如く、一発で高目の{1}を自らの手で掴み取った。

「ツモ! リーチ一発ツモ平和タテホン一通一盃口。」

 ただ、表ドラ無しに、裏ドラも乗らなかった。赤牌も無い。

「4100、8100!」

 非常に悔しい10翻の倍満。

 

 しかし、これで大将後半戦の点数と順位は、

 1位:神楽(咲) 116000

 2位:クララ 105900

 3位:エリーザ 104100

 4位:穏乃 74000

 もしこれが、25000点持ちであれば、ここで穏乃が箱割れして終了であった。

 この大将戦では、前半戦で誰も75000点を割らなかったし、後半戦でも誰かが75000点を割るのは、実は、これが初めてであった。

 

 後半戦のチームトータルは、日本チームが190000点、ドイツチームが210000点と、ドイツチームが再逆転した。

 また、前後半戦トータルでは、日本チームが395400点、ドイツチームが404600点と、こちらもドイツチームが再逆転する結果となった。

 ドイツチームが日本チームに9200点差をつけてオーラスに突入する。

 

 

 オーラス。穏乃の親。ドラは{發}。

 最後の最後で、咲のオーラが今まで以上に大きく膨れ上がった。

 

 穏乃もクララも尻上がりに支配力は強くなるが、この局では咲の支配力………いや、強制力が全てを凌駕していた感じだ。

 

 やはり、この雰囲気は点数調整を前提とした強制力だ。しかし、咲が一体何をやろうとしているのか、穏乃には全く理解できなかった。

 少なくとも、いつものプラスマイナスゼロとは違う。過去に何回か見せた仮想プラスマイナスゼロでもない。

 

 それと、穏乃の手牌が、妙に縦に伸びる。

 これも咲の強制力が絡んでいるようだ。

 

 穏乃の手は、凡手が多い。

 そこにドラが含まれて満貫やハネ満になることはあるが、和了り役そのものは一般的なものだ。咲のような派手さは無い。

 ただ、今回は序盤で{⑨}と{西}が既に暗刻になっていた。

 平和には程遠い手だ。

 同じヤオチュウ牌なら、{⑨}か{西}が、{發}と入れ替わってくれていれば、役有りドラ3で嬉しかったのだが、さすがに、そこまで都合良く行かない。

 ただ、聴牌形には徐々に近づいていた。

 

 

 十巡目。

 穏乃が聴牌した。

 手牌は、

 {②②③③④⑨⑨⑨24西西西}  ツモ{①}

 

 連続して筒子をツモり、手が自然と染まって行ってくれた。

 しかも、やはり手が縦に伸びる。{②}と{③}も対子になった。

 ただ、悪い流れでは無い。

 これなら門前混一色にヤオチュウ牌の暗刻が二つで、出和了り50符3翻の9600、ツモれば親満が期待できる形になってきた。

 ここから打{4}で一旦{2}単騎の聴牌。

 当然、門前混一色への手変わりを視野に入れるのでリーチはかけない。

 

 同巡。

 咲は、

「(神楽ちゃんお願い!)」

 心の中で、そう大声を発しながら{發}を強打した。

 ドラの三元牌切り。一瞬、場が凍りついた。しかし、誰も鳴かず。

 

 この直後、穏乃には、上家の神楽の姿が、まるで真っ黒な影………と言うか黒い無機的な塊のように見えた。

 同時に、自分の身体の中が、もの凄く熱くなってきた。

 

 自分の頭の中に、知らない記憶が舞い込んできた。

 ただ、これは一人のモノでは無い。二人分だ。

 

 なけなしの小遣いを守るためにプラスマイナスゼロを身につける記憶。

 それと、巫女として修行する記憶。

 多分、これは咲と神楽の記憶だ。

 

 これが、神楽の持つ霊力が引き起こす最大の技。自らの中に降臨する咲の生霊と共に、神楽の魂が穏乃の中に入り込んだのだ。

 この最後の時のために残しておいた能力だ。

 ただ、普段の降霊と違って、どうやら互いの記憶を共有してしまうようだ。それで咲と神楽の記憶が穏乃には見えていたのだ。

 

 

 穏乃が自分の変化に気付いていた時、クララとエリーザは、穏乃のほうを見ながら顔が蒼褪めていた。

 この時、穏乃の背後には火焔が現れていた。まあ、これは後半になって穏乃が和了る時によく見る光景だ。これだけでは今更驚かない。

 ただ、今回はいつもと違う。クララとエリーザには、穏乃の姿が三面六臂(顔が三つで腕が六本)の、神仏の像に似た何かに見えたのだ。

 もはや人間の枠を超越している。

 

 この様子をテレビで見ていた神代小蒔は、

「まるで蔵王権現と観音菩薩、不動明王が合わさったように見えます。」

 穏乃の姿から最大級のエネルギーを感じ取っていた。

 勿論、一般の人間には、穏乃の姿は普通の人間に見えた。霊力とか特殊能力を持っている者限定で三面六臂に見えるようだ。

 

 

 穏乃の両脇に神楽と咲の顔が付いているように見える。そして、彼女は、三本ある右手の一本で山から牌をツモると、

「カン!」

 強大なオーラを放ちながら{西}を暗槓した。

 そして、嶺上牌………{2}を引くと、

「ツモ!」

 穏乃は、嶺上開花で和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {①②②③③④⑨⑨⑨2}  暗槓{裏西西裏}  ツモ{2}

 

 偶然にも、これは咲が清澄高校麻雀部に入部する前に披露した70符2翻の手と同一の形であった。

 この和了りの直後、穏乃も神楽も元の姿に戻り、咲の生霊は本体へと帰って行った。

 

「2300オール。」

 穏乃は電光掲示板に映し出された大将前後半戦トータルの点数を確認すると、これが咲の狙っていた点数調整であることを理解した。

 なるほど。たしかに超化物である。

 

 そして、穏乃は、

「これで和了り止めにします。」

 大将戦の終了を宣言した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。