咲-Saki- 阿知賀編入   作:いうえおかきく

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咲達のチームは、前年度順位の弱い方から順に対局します。T大学チームは、まあ、大変なことになります。
T大学チームとの戦いでは、咲達の大虐殺をお楽しみください。


二百十二本場:六大学対抗戦-2  次鋒戦スタート

 やえと憧の意識が幻の世界から現実世界へと戻ってきた。

 精神的には、既に美和ワールドで二時間近く攻められた状態にある。当然、平静でいられるはずが無いし、より一層、麻雀に集中できる状態ではない。

 完全に、ただ点棒を奪われるだけのデク人形と化したと言って過言ではないだろう。

 

 東四局一本場。

 ここでは、

「カン! もいっこ、カン!」

 咲が槓でドラを増やし、

「リーチ!」

 美和がリーチをかけた。世界大会でも見せたパターンである。

 そして、

「ツモ!」

 その勢いに乗って、美和がツモ和了りを決めた。

 

 これで、やえと憧は美和ワールドに三度目のご招待を受けた。

 

 …

 …

 …

 

 

 そして、

「メンタンピンツモドラ9。16100オール!」

 美和の点数申告の声が聞こえて、やえと憧の意識は現実世界に戻されたが、もはや、二人ともヘトヘトになっていた。

 完全に心労(?)である。

 

 東四局二本場も、

「カン! もいっこ、カン!」←咲

「リーチ!」←美和

「ツモ!」←美和

「「うぅ…あぁ…。」」←やえ&憧

「16200オール!」←美和

「「…。」」←やえ&憧

 

 東四局三本場も、

「カン! もいっこ、カン!」←咲

「リーチ!」←美和

「ツモ!」←美和

「「くっ…うあぁ…。」」←やえ&憧

「16300オール!」←美和

「「…。」」←やえ&憧

 

 美和は咲のサポートもあって連続してドラ爆の数え役満をツモ和了りした。

 

 この様子をテレビで見ていた某ネット掲示板の住民達は、

『最上級に、ス・バ・ラ・です!』

『久し振りのみかんジュースですわ!』

『これで丼飯5杯はイケるッス!』

『やったじぇい!』

『姫子ほど激しくなか………』

『そんなのより咲さんのみかんジュースが欲しいです!』

『だから、みかんジュースじゃなくて他の言い方しようよ!』←みかん

『六大学対決中は期待できると思』

 世界大会以来の美和の活躍に大賑わいだった。

 

 続く東四局四本場。

 ここに来て、今までに比べて美和の手が重くなった。やはり、好配牌が永遠に続くわけではない。

 ところが、こうなった途端、

「カン! ツモ嶺上開花メンチン。4400、8400!」

 今度は、咲が和了り出した。

 

 

 南入した。

 南一局、やえの親。

 折角の親番だが、やえは、依然として麻雀に集中できる状態ではない。頭の中はドピンク色から平常状態に戻り切れていない。

 憧も同様だ。

 まさか、美和の能力が、ここまでとんでもないとは思っても見なかった。

 もし、獅子原爽がパウチカムイを使ったらどうなるだろうか?

 きっと、女子大生麻雀大会の歴史が大きく変わること間違いないだろう。

 

 ここでは、

「リーチ!」

 咲が六巡目で先制リーチをかけた。

 そして、一発目のツモ牌で、咲は、

「カン!」

 {中}を暗槓すると、

「ツモ! リーチツモ中嶺上開花ドラドラ。3000、6000!」

 当然の如く華麗なる嶺上開花を決めた。

 

 

 南二局、憧の親。

 ここでは美和が咲に援護する形となった。

 美和が捨てた{白}を、

「ポン!」

 咲は早々に鳴き、次巡、

「カン!」

 さらに美和が捨てた{一}を咲は大明槓した。

 嶺上牌………有効牌を引き入れて聴牌し、咲は{北}を手出しした。

 

「ポン。」

 一方の憧は、咲の親を流そうと、自風の{北}を鳴いた。

 しかし、その次のツモ番で、咲は、

「カン!」

 {白}を加槓すると、

「ツモ! 白混一対々嶺上開花。3000、6000!」

 そのまま嶺上開花で和了った。

 

 この巡目で咲が{北}を捨てたのは、憧に鳴かせて{白}を自分のツモに回すためだった。憧が焦って鳴いてくると読んでいたのだ。

 槓材が見えている咲ならではの闘牌であろう。

 

 現在の点数と順位は、

 1位:美和 249300

 2位:咲 109300

 3位:やえ 20700(順位は席順による)

 4位:憧 20700(順位は席順による)

 

 数え役満三連発は大きい。美和の圧倒的トップであった。

 対するT大チームは、二人併せて41400点と、大きく失点した。もはや絶望的と言えるだろう。

 ここから咲は、怒涛の連続和了を見せる。

 

 南三局、咲の親。

 ここでも、

「ツモ嶺上開花ドラ1。60符3翻は3900オール!」

 咲は余裕の嶺上開花を決めた。

 

 続く南三局一本場も、

「3900オールの一本場は4000オール!」

 

 南三局二本場も、

「4000オールの二本場は4200オール!」

 

 南三局三本場も、

「4000オールの三本場は4300オール!」

 

 南三局四本場も、

「3900オールの四本場は4300オール!」

 

 咲は、立て続けに嶺上開花での和了りを決めた。

 

 これにより、四人の点数と順位は、

 1位:美和 228600

 2位:咲 171400

 3位:やえ 0(順位は席順による)

 4位:憧 0(順位は席順による)

 

 この点数を見て、殆どの視聴者は、

『見事な点数調整だな』

 と思った。

 元チームメートの憧にも容赦ない。絶対に手を抜かずに稼げるだけ稼ぐことを、一年前の春季大会で学んだ故だ。

 

 そして迎えた南三局五本場。

 咲の配牌は、

 {二五③⑨16東東南南西北北中}

 ここから打{五}。

 

 このような配牌が来ることも、数年に一回はあるだろう。

 しかし、ここから風牌がツモれるかどうかは別である。大抵は、ツモが噛み合わなかったりする。

 ところが、牌に愛された咲は別格である。

 ここから{南東南西北西}と立て続けにツモり、

「カン!」

 咲は{南}を暗槓した。

 嶺上牌は{東}。これを引くと、

「もいっこ、カン!」

 そのまま咲は{東}を暗槓した。

 次の嶺上牌は{北}。

 これを引くと咲は、

「もいっこ、カン!」

 {北}を暗槓し、続く嶺上牌………{西}を引くと、

「もいっこ、カン!」

 四つ目の槓子を副露した。

 残る嶺上牌は一枚。咲は、これ………{中}を引くと、

「ツモ!」

 嶺上開花を決めた。

「大四喜字一色四槓子四暗刻単騎!」

 本大会のルールでは、慣例的にダブル役満とされている大四喜、四槓子、四暗刻単騎をダブル役満として数える。そのため、これは七倍役満になる。

「112000の五本場は、112500!」

 これで、やえと憧は二箱分箱割れして終了となった。

 

 さすがに、これには自称王者のやえも、咲と元同朋の憧も言葉を失った。

 咲が{南}を暗槓した段階でトビ終了を覚悟したが、まさか、ここまで破壊力のある手だとは思っても見なかったのだ。

 それこそ、東一局で飛び出していたら、その時点で親が箱割れする手だ。六大学戦史上初の最強手であろう。

 

 これでK大学とT大学の先鋒戦の点数と順位は、

 1位:咲 508900

 2位:美和 116100

 3位:やえ -112500(順位は席順による)

 4位:憧 -112500(順位は席順による)

 

 各校トータルは、K大学が622500点、T大学が-225000点と、記録的な点差でK大学が一つ目の勝ち星をあげた。

 

 さすがに、やえと憧にも同情するところは十分あるだろう。

 咲と美和のペアは、昨年の世界大会でも準決勝戦まで世界各国の代表達を立て続けに箱割れさせているレベルなのだ。

 

 ただ、やえも憧も、最後に咲がとんでもない和了りを決めたにも拘らず、全然放出する様子を見せなかった。

 この辺は、二人とも精神的に鍛えられていると言えよう。

 

 当然、某ネット掲示板の住民達は、

『一大事、一大事ですわ!』

『ないないっ! そんなのっ!』

『そんなオカルトありえません!』

『エニグマティックだじぇい!』

『この未来は、見えへんかったなぁ』

『スバラくないですねぇ。』

『竜頭蛇尾ッス!』

『チョー悔しいよー!』

『ダル………』

 期待はずれ(放出無し)の結果に荒れていたらしい。

 

 

 一方、咲達は、

「「「「有難うございました。」」」」

 対局後の一礼を済ますと、対局室を後にした。

 

 

 次鋒戦は、K大学チームからは出雲弥呼と稲輪敬子が参戦。

 弥呼は、この時、既に綺亜羅高校の元エース、古津節子の霊を降ろしていた。節子と敬子の綺亜羅ペアで次鋒戦に挑む。

 しかも弥呼は、粕渕高校の石見神楽と同様に相手の手牌を透視することが出来る。とんでもなく恐ろしい能力だ。

 

 対するT大学チームからは、船久保浩子と樫尾聖子が参戦する。

 浩子は、園城寺怜、清水谷竜華、江口セーラのトリプルエース達の卒業後、千里山女子高校のエースとして活躍した。研究者タイプで頭の良い選手である。

 また、樫尾聖子は非常に精度の高いデジタル打ちを披露する。その完成度は現W大学の原村和に匹敵すると言われている。

 それ故、

『CASIO & SEIKO』

 とも呼ばれている。

 

 

 四人が対局室に姿を現した。

 弥呼も節子も敬子も、浩子と聖子とは初対面である。

 とは言え、敬子は誰が相手でもマイペースで勝利を目指すし、節子もいきなり相手を地獄に落とすつもりで卓に付く。

 二人とも勝つ気マンマンである。

 

 一方、データ麻雀を主体とする浩子は、

「(半荘一回勝負は厳しいなぁ。)」

 と思っていた。

 一応、本音としては、浩子は、この二人との対戦を恐怖しながらも、実は楽しみにしていた部分はあった。

 データが少ない魔物級の相手の本質を、この対局を通じて見抜くことが出来るかもしれないからだ。

 これは、対局者と言うよりは、むしろ研究者としての血が騒ぐためと言って良い。

 

 しかし、チームの勝利を考えた場合は別である。

 せめて前後半戦勝負であれば、前半戦を捨てて弥呼と敬子の打ち筋を研究し、後半戦で勝負を賭けることができるかもしれない。

 それが半荘一回勝負となると、正直、データが足りな過ぎて勝利の方程式を作ることが出来そうにないと判断していた。

 

 

 そもそも、弥呼は高校時代のデータが無い。一体、どのような麻雀を打つのか、まったくもって不明である。

 しかし、100人を越えるK大学麻雀部員を代表する選手である。大学デビューだからと言って油断できない相手であろう。

 

 また、浩子は、敬子についても不明な点があると考えていた。

 映像を通じて分かる部分と牌符を見て分かる部分については問題ない。

 静香からも、人魚パワーの話を聞いている。

 しかし、どうも、それだけでは説明できない何かがあること感じていた。その何かが無ければ、恐らく世界大会でローザが交代することは無かっただろう。

 

 実は静香も敬子のクラーケンパワーのことを知らなかった。

 世界大会後に部内で敬子と打つことはあったが、クラーケンパワー無しでも敬子は部内なら大抵1位になれる。

 故に敬子は、静香の前では最終兵器を封印したままだった。と言うか披露する必要がなかったのだ。

 

 

 場決めがされた。

 起家が弥呼、南家が浩子、西家が敬子、北家が聖子に決まった。

 

 

 対局がスタートした。

 東一局、弥呼(節子)の親。

 配牌中、敬子は今までとは違う曲をハミングしていた。

 K大学の塾歌である。

 

 コンビ打ちで、しかもパートナーが親番なので、ここでは基本的に敬子は親を支援する局である。

 しかし、パートナーが必ずしも和了りに向かえる状態かどうかは分からない。

 それで何時でも和了りに行ける準備をしているのだ。

 

 一方の節子も、初っ端から相手を叩きに行くつもりであった。

 当然、和了りに向けて節子は、いきなり能力を全開にした。

 

 節子は、能力発動時や和了った時に、他家に天変地異の幻を見せる。しかし、自らに降りかかる能力をキャンセルする敬子にだけは効果が無い。

 このことは、言い換えれば、節子は浩子と聖子にだけに世界の終焉とも思えるような恐ろしい光景を見せることを意味する。

 それで節子は、和了りに向かうと同時に、恐怖映像を見せることでT大学の二人から戦意を奪おうと考えたのだ。

 

 配牌が終わり、敬子がハミングを止めた。

 そして、これと入れ替わるように節子が能力を最大放出した。

 

 浩子と聖子の目に映る光景が、急に対局室から荒れ果てた荒野に変わった。遠くの方では、幾つもの火山が噴火している。

 激しく地面が揺れる。

 すると、自分のいる場所が急激に盛り上がってきた。そして、数メートル先の地面に亀裂が入ると、そこから溶岩が噴出してきた。

「「(なにこれ!?)」」

 能力が見せる幻の世界なので、実際に死ぬことは無いが、この幻が現実であれば、死を覚悟するしかないだろう。

 

 浩子と聖子の視界が現実世界のものに戻った。

 二人とも、ここが天変地異の場では無いことを認識して、ホッとしたが、だからと言って、すぐさま頭を切り替えられるものでもない。

 少なくとも麻雀に対しての集中力は欠いている。

 

 浩子と聖子にとって、この最悪のコンディションの中、

「リーチ!」

 まさに追い討ちをかけるかのように、弥呼(節子)が三巡目でリーチをかけてきた。

 一先ず、浩子も聖子も目に付いた現物を切って凌いだ。

 

 一発ツモは無かった。

 しかし、その二巡後、

「ツモ! メンタンピンツモドラ1。4000オール!」

 節子が満貫をツモ和了りした。


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