K大学vsT大学の次鋒戦。
四人の点数と順位は、
1位:敬子 172000
2位:弥呼(節子) 139600
3位:浩子 86800
4位:聖子 1600
100000点持ちスタートのはずだが、東三局終了時点で、既に聖子は箱割れ直前まで追い込まれていた。
二つの幻………節子が見せた生物絶滅を引き起こすレベルの天変地異と、敬子が見せた海の化物。
これらを目の当たりにして、聖子は完全に精神が崩壊する寸前まで来ていた。
東三局一本場、敬子の親。ドラは{②}。
ここでは配牌時に、再び敬子が塾歌のハミングをしていた。どうやら、ここではクラーケンパワーは封印されるようだ。
浩子の方は、これを何となくだが理解していた。
しかし、聖子は完全に頭が回っていない。それに、そもそも敬子のハミング自体が耳に届いていなかった。
それくらい、精神的に疲弊していた。
敬子の捨て牌は、
{東南西北白發中}
元のKYパターンに戻った。
一方の弥呼の捨て牌は、
{1⑨西北一②}
聖子は、五巡目に二枚切れの{西}をツモ切り。
少なくとも、これはK大学チームの二人の現物だ。味方の浩子以外には振り込むはずの無い牌だ。
ところが、この直後、浩子と聖子の視界に、久し振りに天変地異の幻が飛び込んできた。
激しく地面が揺れる。
遠方では幾つもの火山が噴火している。
そして、自分達の足元………地面が裂けて、その奥底から真っ赤な溶岩が自分目掛けて吹き上げてくる。
「き…キャ──────!」
これには、さすがに聖子も絶叫した。
その直後、
「ツモ。」
聖子の下家から和了り宣言の声が聞こえてきた。
「2100、4100。」
しかも満貫ツモ。
これで次鋒戦の点数と順位は、
1位:敬子 167900
2位:弥呼(節子) 147900
3位:浩子 84700
4位:聖子 -500
聖子が箱割れして終了となった。
チームトータルは、K大学チームが315800点、T大学チームが84200点と圧倒的大差を以ってK大学チームが二つ目の勝ち星を手に入れた。
「「「「有難うございました。」」」」
対局後の一礼を済ますと、何も言わずに弥呼と敬子は対局室を後にした。
派手に大敗した者がいる以上、相手チームの選手に、下手に声をかけられないのが実情だろう。
一方、大敗した者………聖子は、再び椅子に腰を降ろすと、そのまま力尽き、死んだように動かなくなってしまった。
浩子が、
「大丈夫ですか?」
聖子に声をかけたが反応無し。
少なくとも呼吸をしているので死んではいない。気を失っただけのようだ。
それにしても、まさか麻雀で倒れてしまうとは………。
三年前のインターハイ団体準決勝戦で園城寺怜が宮永照と対戦した後のことを思い起こさせる。
聖子は、ストレッチャーに乗せられて、浩子の付き添いの元、一先ず医務室へと急送された。
この時、T大学チームの控室には、大会スタッフから聖子が対局直後に気を失ったとの連絡が入っていた。
これを受けて部長のやえは、
「私と静香は、これから対局室に行くので、医務室の方に行って聖子の様子を見てきて頂戴!」
と憧に指示を出した。
「了解!」
「浩子が付き添っているから大丈夫だと思うけど。」
「でも心配なんで見に行きます。」
「頼んだよ!」
「はい。では、やえも静香も、ダブル宮永が相手だけど一発お願い!」
「勿論、タダでやられるつもりはナイからね!」
そして、そう言うと、やえは静香と共に対局室へと向かって行った。
ただ、この時、やえは先鋒戦で美和ワールドに連れて行かれた忌わしい出来事から完全に頭が切り替えられていたわけではなかった。
公衆の面前で触手プレイをした感覚なのだ。
あの幻が、公共電波に乗って流れ出たわけでは無いが、やはり恥ずかしい。それが普通の感覚であろう。
昨年の世界選手権を見ていた時は、
『みかんジュースwww!』
『パインジュースwww!』
『ミックスジュースwww!』
などと書き込みをして喜んでいたが、それは対岸の火事だったからである。
実際に対戦する立場になると笑っていられないし、喜んでもいられない。
多分、今日は自分が掲示板のみんなに笑われていることだろう。それを考えると結構気が沈む。
昨年、一昨年と照と対決してきただけあって、咲のオーラには耐えられたが、美和のような能力は反則としか思えない。
あれに慣れている旧綺亜羅三銃士の方が異常であろう。
中堅戦は、照と咲との対局なので、忌わしいエロワールド行きは無いだろう。
しかし、魔王二人との対決。
恐らく今の女子大生雀士トップツーのペアだろう。
さすがに勝てる試合とは思えない。
しかし、最初から負ける気で卓に付くつもりはない。
これは静香としても同じだ。
当然、やえも静香も、ダブル魔王に一太刀浴びせるくらいの気持ちはある。可能な限り食い下がるつもりだ。
中堅選手四人が対局室に姿を現した。
場決めがされ、起家がやえ、南家が照、西家が咲、北家が静香に決まった。
当然、やえは、
『王者の打ち筋』
を見せてやるつもりだし、静香も自らの豪運を見せ付ける気マンマンであった。
早速、対局がスタートした。
東一局、やえの親。
照も咲も様子見している感じで仕掛けてこない。ならば、ここは、やえとしてもチャンスと見る。
基本的に、やえはデジタル打ちだ。照や咲のような能力主体の麻雀ではない。
この局は親番なので、最も効率のよい打ち方で手を進める。
そして、六巡で聴牌すると、
「(見せてやろう、王者の打ち筋を!)」
やえは先制リーチをかけた。
照も咲も振込んでこない。
勿論、やえとしてもダブル宮永コンビが、そう簡単に放銃するとも思っていないし、そもそも出和了りを期待していない。
どうせダマで進めても聴牌を見破られる。
ならば裏ドラへの期待も込めて攻めの麻雀を展開する。故のリーチだ。
一発での和了りは出来なかったが、数巡後、
「ツモ。」
やえは何とか和了り牌を自らの手で掴み取ることが出来た。
「6000オール。」
しかも親ハネツモだ。
二人の超魔物を前にして、普通に考えれば、これは一先ず幸先の良いスタートと言えるだろう。
しかし、この直後、やえと静香の背筋に冷たいものが走り抜けた。
これは全てを見抜く照魔鏡の発動と、もう一人の超魔物の支配力が起動したことを意味している。
東一局一本場。やえの連荘。
ここでは、
「ポン!」
咲が照に{白}を鳴かせ、その直後、
「ロン。1000点の一本場は1300。」
咲が照に差し込んだ。
世界大会で光とペアを組んだ時と全く同じパターンである。
この辺が、咲の器用なところである。
照は、これで第一弾の和了りを難なくクリアした。
東二局、照の親。
第一弾の和了りを達成することで、ここから照の手は進みが早くなる。
「ポン!」
照は、二巡目に咲から{③}を鳴くと、その次巡に、
「ツモ。500オール。」
早和了りを決めた。
東二局一本場。
ここでも照は、
「ロン。2000の一本場は2300。」
たった三巡で門前聴牌し、安手ではあるが静香から直取りした。
東二局二本場。
「ロン。3900の二本場は4500。」
照は、やえから直取り。
東二局三本場。
「ロン。7700の三本場は8600。」
またもや照は、やえから直取りした。
東二局四本場。
照の右腕を核に竜巻が発生する。
そして、僅か五巡目で、
「ツモ。4400オール。」
照はタンピンツモドラ2の親満をツモ和了りした。
東二局五本場。ドラは{②}。
依然、照の右腕を竜巻が覆う。
ここにドラ爆娘の玄が同卓していたならば、そろそろ打点上昇のためにリーチが必須になる。
しかし、ここに玄はいない。なので、ドラ含みでの打点上昇は可能だ。
当然、ムリにリーチをかける必要は無い。
やえも静香も、そろそろ照の和了りを止めなければ大変なことになることは十分理解している。
リスクはあるが、無理をしてでも和了りを目指す。
しかし、照の方が、手の進みが早い。
四巡目に、やえが手を一向聴へと進めるために切った{2}で、
「ロン。ジュンチャン三色ドラ1。19500。」
まさかの放銃。やえは照に親ハネを振込むことになった。
東二局六本場。ドラは{四}。
ここでの照の縛りは親倍。
通常であれば、そろそろリーチをかけないと打点上昇の縛りが厳しくなる。
しかし、ここには頼もしいパートナーが居る。
そのパートナー………咲は、
「カン!」
照が捨てた{①}を大明槓すると、
「もいっこ、カン!」
嶺上牌を手に入れると同時に{西}を暗槓した。
これで、ドラ表示牌は三枚。明らかに照の打点上昇へのサポートだ。
その次巡、
「ツモ! タンヤオツモ一盃口ドラ6。8600オール。」
開かれた手牌は、
{四四[五]五六六⑥⑥⑥4456} ツモ{7} ドラ{四} 槓ドラ{4}と{6}
本来なら照は、ここから{4}を切り、続いて{3}をツモって{⑥}切りリーチをかけることになるだろう。つまり、メンタンピンツモ一盃口ドラ3での親倍和了りを狙わなければならなかった。
しかし、咲の連槓によってドラが3枚増えた。それで手変わりせずとも親倍の手になっていたのだ。
これで中堅戦の点数と順位は、
1位:照 170700
2位:咲 79200
3位:静香 78200
4位:やえ 71900
やえが既に25000点以上を失っていた。25000点持ちであれば、この照の和了りでトビ終了になっていたところだ。
たしかにT大学は、前年度の六大学戦で最下位だった。
しかし、やえ自身は決して弱くはない。
むしろ強い部類だ。
そこに三銃士の一人、静香と、常勝阿知賀女子学院の部長、憧が入部したことで、明らかにT大学の麻雀レベルは底上げされた。
それこそエース対決である中堅戦において、やえも静香も、R大学中堅(加治木ゆみ・多治比真佑子)やM大学の中堅(染谷まこ・佐々野いちご)が相手なら、決して負けない自信がある。
今年こそ間違いなく脱最下位を狙える年なのだ。
飽くまでも、この圧倒的点差は相手が悪いだけである。
そろそろ咲のサポートがあっても照の打点上昇は厳しくなるだろう。
次局が勝負と、やえは両手で両頬を叩いて気合を入れ直した。
しかし、敵は照だけではない。もう一人面倒な人間がいる。
東二局七本場。
やえの配牌は四向聴だったが、ツモに恵まれ、三枚のヤオチュウ牌を連続で処理した段階で二向聴まで手を進められた。
ところが、四巡目、
「ポン!」
とうとう、咲が動き出した。照が捨てた{南}を一鳴きしたのだ。
同巡、やえは{北}をツモ切り。
その次巡、
「ポン!」
ここでも咲は、照が捨てた{中}を鳴いた。
一応、照の手牌は、自力で三倍満を作るべく筒子の清一色に成長していた。
それで、{六⑧北南中}と順に捨てていたのだ。
既に照の手牌は十一枚の筒子と{東}、{發}各一枚のみとなっていた。
一方のやえも、あと二枚有効牌が来れば聴牌できるところまで手を進めており、照に先行できる可能性を見せていた。
しかし、そのさらに次巡、
「カン!」
咲が{南}を加槓した。
そして、引いてきた嶺上牌で、
「ツモ!」
やえの希望を打ち砕くが如く華麗なる和了りを決めた。
開かれた手牌は、
{二二二五[五]八八} ポン{横白白白} 明槓{横南南南南} ツモ{八}
「南白混一対々嶺上開花赤1。4700、8700。」
しかも倍満ツモ。
一先ず、これで照の親は流れたが、やえと静香は、照と咲に更なる点差をつけられることとなった。