K大学vsT大学の中堅戦は、南二局七本場。
照の連荘。ドラは{3}。
次の照の和了りは親ハネを超える得点、つまり24000点以上になる。
七本場が付くので、最低でも26100点。
これに振込んだら本気でマズイ。
特に、やえの場合は振込んだら残り1200点まで落ち込む。
そうなったら、八本場では静香のツモ和了りもゴミツモ以外は、やえを箱割れさせることになる。
絶対に、ここで照の和了りを阻止しなければならない。
そう言った中で、静香は最悪の六向聴。豪運の静香でも、照と咲の二人が能力干渉してくるのを跳ね除けられない感じだ。
特に咲の能力は、後半で強力になる。東三局一本場のような配牌は期待できない。
一方のやえは、配牌で、
{二八12333468⑨白中}
またもやドラ含みの染め手を狙える手。
しかも第一ツモが絶好の{[5]}。
「(ならば、ここでも攻める!)」
やえは、清一色狙いで手を進めることにした。
ここでもやえは、二巡目から四巡目まで{773}とツモった。
まるで、前局の再現と言える。
この段階でやえの手牌は、
{1233334[5]6778中}
索子なら、どれが来ても聴牌になる。
当然、清一色ドラ5を目指す。
しかし、その後、やえは索子がツモれなくなった。これも前局に似た現象だ。
やはり罠なのか?
静香の河には索子が一枚も出ていない。よって、やえは静香からチーもポンもできない。
照や咲からは索子が切られているが、{1246}である。これらはポンできる索子ではなかった。
そして、迎えた八巡目。
やえは初牌の{①}をツモ切りした。
置かれた立場は攻撃あるのみ。守りに走る意味が無いからだ。
すると、
「カン!」
この{①}を咲が大明槓した。
そして、嶺上牌を引くと、咲は、
「もいっこ、カン!」
{9}を暗槓した。
さらに咲は、二枚目の嶺上牌を引くと、
「もいっこ、カン!」
{⑧}を暗槓し、続く三枚目の嶺上牌を引くと、
「もいっこ、カン!」
{西}を暗槓した。いつもの連槓パターンだ。
王牌には最後の嶺上牌が残っている。咲は、これ………{[⑤]}を引くと、
「ツモ。」
嶺上開花での和了りを決めた。
しかも五筒開花。
「四槓子(ダブル役満)。七本場は66100です。」
これは、やえの責任払いとなる。これで、やえは箱割れして終了し、K大学チームが三つ目の勝ち星を取った。
さすがのやえも目が点になっていた。
言葉も出ない。
しかし、これが真の王者の打ち筋。
そのことを、やえも認めなければならないだろう。
「「「「有難うございました。」」」」
対局後の一礼の後、咲は、
「じゃあ、また。」
とだけ静香に言うと、照に連れられて対局室を後にした。
方向音痴が酷過ぎて、一人で控室まで戻れる保証が無い以上、照のペースに合わせるしかない。
少し静香と話したかったのだが、咲としては少し残念であった。
卓に付けば最強だが、卓を離れると最弱生物に戻る。
それが宮永咲。
今まで放出していた強大なオーラが嘘のようだ。
この頃、三人目の魔王、宮永光がパートナーの園田栄子と共にK大学チームの控室を出て対局室に向かっていた。
光も方向音痴ではあるが、咲ほど酷くは無い。少なくとも対局室の往復やトイレ、自販機コーナーに行くのは問題ない。
それらに行くことすら危ない咲の方が問題であろう。
途中で光達は咲達に会った。
「勝ち星四つ目、頼んだよ。」
「OK。」
光は、自信に満ちた顔で、そう照と咲に答えた。
対局室に副将選手達が入室した。
T大学チームからは蔭山桜と島岡豊貴子のペア。二人とも頭が非常に良く、デジタル打ち主体の選手である。
全てデジタル打ちの完成度のみで勝敗が決まるのであれば、間違いなく桜と豊貴子が勝利するだろう。
しかし、確率論を超えた『運』と呼ばれる事象が勝負に大きく介入する。
それが麻雀である。
しかも、この世界では、運に加えて『能力』と呼ばれる不公平な要素が勝敗に大きく関与する。
勿論、光も栄子も、自分達の能力を駆使して圧倒的勝利を目指す。
場決めがされ、起家が豊貴子、南家が桜、西家が栄子、北家が光に決まった。
そして、豊貴子がサイを回し、いよいよ副将戦がスタートする。
東一局、豊貴子の親。ドラは{3}。
栄子は絶対的ディフェンスの力で他家の和了り牌が全て分かる。
ここでは、栄子が光に差し込んで第一弾の和了りをさせようと考えていた。光も照と同様に、第一弾の和了りを達成すると、その後の手が早くなる。
「ポン!」
桜が捨てた{北}を光が鳴いた。これは、光の自風だ。
その次巡、
「チー」
光は、栄子から{4}を鳴いて{横43[5]}を副露した。明らかに栄子のサポートである。
副露牌だけで北ドラ2の3900点が確定した。
ここにさらに一翻つけば満貫である。
しかも、どうやら、これで光は聴牌。
待ちは良形。{一四七}の三面聴。
これを能力で察知した栄子は、次のツモ番で{七}を差し込むつもりでいた。
しかし、それより先に豊貴子が{一}を切ってきた。豊貴子としても、親満一向聴に向けて手を進めたかったのだ。
当然、
「ロン。」
これで光が和了った。
開かれた手牌は、
{二三四五六⑤[⑤]} チー{横43[5]} ポン{北横北北} ロン{一}
「北ドラ3。7700。」
しかも満貫級の手。
光は、労せずに第一弾の和了りを決めた。
東二局、桜の親。
光は、
「(その他Aみたいなモブキャラ相手に長引かせるつもりは無いからね!)」
と心の中で言葉を発していた。
この対局を、さっさとトビ終了させようと考えていたのだ。
ただ、100000点持ちの対局なので、さすがにそれを口にしたら頭がおかしいと思われるだろう。それで、声には出さないでいた。
一方の栄子は、
「(私、その他A子なんですけど………。)」←園田栄子
と思いながらも、やはり口に出せずにいた。
桜と豊貴子に対して、ブラックジョークに感じたからだ。
ここでは、光が順調に手を進め、五巡目のツモで、
「ツモ。タンピンツモドラ3。3000、6000。」
簡単作業のようにハネ満をツモ和了りした。
東三局、栄子の親。ドラは{②}。
栄子の能力は、相手の和了り牌が分かるだけではない。
相手の力量によって彼女から削られた点数の上限が決まり、例えば15000点を上限とする者が栄子と対局した場合、100000点の試合持ちであれば、栄子が85000点まで点数を落とした段階で、その者は栄子からの直取りは勿論、ツモ和了りも出来なくなる。
いくら超ディフェンスを誇る栄子だって振込むことはある。全ての手牌が誰かの和了り牌になっていれば、振込むしかないからだ。
ただ、栄子から削れる上限に達した者は、それが解除されない限り栄子から和了れる状況を作らせてもらえない。
そのため、栄子の手牌の全てが誰かの和了り牌になったとしても、上限に達した者の和了り牌は、そこには存在しないことになる。
栄子が、桜と豊貴子の上限を測った。
「(T大の二人は、共に13000点程度ね。世界大会の選手に比べると、やっぱり数段落ちるよね。)」
一応、栄子の目には上限を見抜くスカウターのようなものが装備されている。
恐らく、このレベルの相手なら余裕だ。
ただ、まだ栄子は和了りを目指さない。
栄子が自らの点数を87000点以下にすれば、T大学チームの二人は栄子から点数を奪えなくなる。つまり、ツモ和了りを阻止することが出来る。
また、光は、これくらいの選手が相手なら、100%和了り牌を見抜く。
つまり、栄子が87000点以下になった時点で、桜も豊貴子も互いから点数を取り合うこと以外は出来ない状態になる。
ここでは、栄子は、光を援護する。
栄子は、他家の和了り牌を確実に見抜く能力を持っているが、他家の有効牌を完全に見抜ける能力は備わっていなかった。
しかし、大学に入学し、栄子は今までに無い厳しい環境で研鑽してきた。
削れる点数の上限が無いトリプル宮永。
能力麻雀が効かない敬子。
一昨年からさらに力を伸ばし、もはや削れる上限が見えなくなった衣。
そして、淫猥なる幻の世界に連れ込むことで、栄子の能力麻雀自体を起動できなくしてしまう美和。
これらの超魔物を相手にしてきたのだ。
このスパルタ環境の中で、栄子は、能力に頼らずに他家の有効牌を見抜く洞察力を身に着けてきた。
「(鳴いて!)」
栄子が早々に{南}を捨てた。
これを、
「ポン!」
光が鳴いた。
次巡、栄子がドラの{二}を捨てた。
これを、
「ポン!」
待ってましたとばかりに光が鳴いた。
そのさらに数巡後、
「ツモ!」
絶対的な支配力の下、
「南対々ドラ3。3000、6000。」
光が余裕のツモ和了りを決めた。
東四局、光の親。ドラは{②}。
ここでも。
「ポン!」
光が栄子から{東}を鳴いた。
そして、索子、萬子を順次捨てて行く。
光が筒子に染めているのは、もはや一目瞭然だった。
ただ、今の光のスピードに桜も豊貴子も付いて行けない。そのまま、光は次々と有効牌を引き入れ、
「ツモ!」
たった六巡目で、
「ダブ東混一ドラ4({②}二枚に{[⑤]}二枚)。8000オール!」
親倍ツモを決めた。
この直後、
「「ドドン!」」
桜と豊貴子に向けて栄子の身体から衝撃波が放たれた。栄子の点数が83000点となり、桜と豊貴子の上限を超えたのだ。
つまり、この衝撃波は、桜も豊貴子も、ツモ和了りが封じられたことの警告であった。
ここからは、二人とも手の進みが著しく悪く、滅多なことでは聴牌できない状態に追い込まれることになる。
東四局一本場。光の連荘。ドラは{9}。
ここでも、
「ポン!」
光は栄子のサポートで{白}を鳴き、さらに、
「ポン!」
普通では鳴けないであろう、ドラの{9}を栄子から鳴いた。
これで副露牌だけで白ドラ3の親満が確定した
そして、打{[⑤]}。まさかの赤牌切り。
数巡後、豊貴子は{[⑤]}を引いた。
赤牌なら手元に残したい。
それで、{②③④}の順子を{③④[⑤]}に変えて{②}を切った。{[⑤]}なら光の現物だが、{②}は一応{⑤}の筋である。なので、通ると思っての打牌だ。
しかし、
「ロン。」
この{②}で、光がまさかの和了りを決めた。
開かれた手牌は、
{①③發發發中中} ポン{横999} ポン{横白白白} ロン{②}
「小三元チャンタドラ3。24300。」
まさかの倍直。
これで、豊貴子の点数は54000点まで落ち込んだ。100000点持ちからスタートし、既に半分近く削られたことになる。
東四局二本場。ドラは{一}
配牌直後、栄子と光が、
「行くよ、光!」
「OK!」
互いに何かを示し合わせたように声を掛け合った。
栄子の配牌は、
{四八①⑥23446南北發發}
対子が四つ。
ここから、{①南北}と切り出した。
この局、栄子が狙うのは、ドイツチーム時代に『リラの鉄槌』と呼ばれた大きな一撃。
能力発動により、万が一、桜と豊貴子が聴牌したとしても絶対に振込まない。何を切っても当たらない。
光だけには振り込む可能性がある。しかし、今はチーム戦。光は栄子が和了り牌を切ってきても見逃してくれる。
その前提の下に強引に手を進めたのだ。
一方の光も、字牌の後にチュンチャン牌を切り出し、順調に手を進めていった。
そして、打{[5]}。これはツモ切りだった。
捨てられた牌だけ見れば、まさしく前局見せた筋引っかけ………{[⑤]}を切って豊貴子に{②}を振込ませたのと同様の打牌だ。
前局では鳴いた際の打牌。つまり手出しであるのに対し、今回はツモ切り。厳密には、その差がある。
とは言え、そう何回も赤牌切りの筋引っ掛けがあるとも考え難い。
続く豊貴子のツモは{8}。
これを見て、
「(まさかね。)」
と思いながら、豊貴子が{8}をツモ切りした。
しかし、その次の瞬間、豊貴子の背筋に冷たいモノが走り抜けた。
ヤバイ。
これは、切ってはいけないヤツだ。
その直後、
「「ロン。」」
光と栄子が和了りを宣言した。
本大会はアタマハネではなく、ダブロンを認める。ここで豊貴子は、相手チームの二人に同時に振込んだのだ。
光の手は、
{一一七七八八九九⑦⑧⑨79} ロン{8} ドラ{一}
ジュンチャン三色同順一盃口ドラ2の親倍。24000点。
そして、栄子の手は、
{2233446668發發發}
{78}待ちの高目。まさかの緑一色。
ただ、芝棒だけはアタマハネで栄子に付くことになった。
32600点の和了りだ。
合計58600点。
この豪快なダブロンにより豊貴子のトビで終了。K大学チームが、四つ目の勝ち星を上げた。