K大学vsT大学の副将戦が終了した。
「「「「有難うございました。」」」」
対局後の一礼がなされた。
その後、四人とも卓から離れたが、出入り口に向かう途中で豊貴子が急に座り込んだ。全身から力が脱けてしてしまったのだ。
それだけ、最後のダブロンはショックだった。
「大丈夫?」
「ゴメン、キツイ…。」
豊貴子は、チームメイトの桜に肩を借り、何とか対局室から退室した。
それからしばらくして、大将の四人が対局室に姿を現した。
K大学チームからは宮永照と天江衣。これはこれで、相手チームにとって最悪なコンビである。
対するT大学チームからは鷲尾静香と安福莉子。
衣は、ようやく自分の対局が回ってきてヤル気マンマン、ハイテンションと、相手にとって最悪な状態だった。
正直、莉子のメンタルが持つか心配な対局である。
場決めがされ、起家が静香、南家が衣、西家が照、北家が莉子に決まった。
照が北家でないだけマシかもしれないが………。
衣は、
「チームメイトの対局を見て、衣もウズウズしていた。いきなり御戸開き………全力で行くぞ!」
と言うとオーラを大放出した。
照もオーラ全開。
常人であれば吐き気を催すレベルの空気だ。
この二人に圧倒されて、莉子は、
「(先にトイレに行っておいて良かった。)」
と心底思っていた。
もし、トイレに行っていなければ、この段階で既に大放出していたかもしれない。それくらいの重圧なのだ。
東一局、静香の親。ドラは{南}。
ここでは、
「ポン!」
静香が第一打牌で捨てた{①}と、
「ポン!」
同じく静香が第二打牌で捨てた{⑤}を衣は鳴いた。
衣の右側に、{横①①①}と{横⑤[⑤][⑤]}が副露された。
衣の捨て牌は、{24}。
しかも筒子の面子が二つ副露されている。
莉子は、衣が筒子に染めている可能性を強く考えていた。
そこに莉子がツモってきたのは{1}。
「(大丈夫だよね。)」
そう心の中で声を漏らしながら、莉子は{1}をツモ切りした。
少なくとも漏らしたのは心の中の声であって、放水ではない。それ以前に、放出するほど溜まっていない。
すると、
「昏鐘鳴の音が聞こえるか?」
と言うと、衣は、
「ロン!」
この{1}で和了った。
開かれた手牌は、
{1南南南白白白} ポン{横①①①} ポン{横⑤[⑤][⑤]} ロン{1} ドラ{南}
いきなり、南白対々和ドラ5の倍満。
しかも、これは衣の自風の{南}、{⑤}、{白}、{①}を刻子とした手。
ローカル役満の風花雪月でもある。
風花雪月は、本大会では役満として認められていないため倍満となったが、ローカル役満を振込んだショックは大きいだろう。
「こ…これって…。」
莉子の口から思わず声が漏れた。
勿論、漏れたのは声であって、まだ聖水ではない。
東二局、衣の親。ドラは{②}。
ここでも衣は、
「ポン!」
静香が第一打牌で捨てた{發}と、
「ポン!」
照が第二打牌で捨てた{④}を鳴いた。
衣の捨て牌は、{1九西}。
正直、まだ何をしようとしているのか分からない。
その後、衣は{7③四}と捨てた。
続いて莉子がツモった牌は{北}。
これは、照の第一打牌と静香の第二打牌で河に見えている。
それで莉子は、ノーケアーで{北}を捨てた。
すると、
「ロン。」
これで衣に和了られた。
開かれた手牌は、
{②②②⑧⑧⑧北} ポン{④④横④} ポン{横發發發} ロン{北}
これは、ローカル役満の青の洞門だ。
もっとも、ここでは青の洞門を役満として認めていないため、發混一色対々和ドラ3の親倍としてカウントされる。
とは言え、たった二回の直撃で、莉子は一気に40000点を失った。
25000点持ちなら、既にトビ終了している。
恐るべき衣のスタートダッシュである。
東二局一本場。衣の連荘。
この局、衣は、{④七}と捨て、
「ポン!」
三巡目で照が捨てた{東}を鳴いた。そして、打{③}。
同巡、莉子は{九}をツモ切り。不要なヤオチュウ牌を、そのまま捨てただけだ。
すると、
「ロン!」
「えっ?」
これで衣に振込んだ。
まさかの和了りに、莉子も思わず声が出た。
開かれた衣の手牌は、
{九①①①⑤⑤[⑤]111} ポン{東東横東} ロン{九}
これはローカル役満の花鳥風月。
ここでは、ダブ東対々和三暗刻赤1のハネ満として扱われる。
「18300!」
もはや、莉子は衣への振込みマシーン………いや、サンドバッグと化していた。
東二局二本場。ドラは{九}。
この局では、全員が門前で手を進めた。
ただ、実質手が進んでいるのは衣だけで、他の三人は配牌とツモ牌が全然噛み合わず、しかも鳴くことも出来ない最悪の状態となった。
そのまま場が進み、ツモ牌が残り十枚となった。
ツモ番は衣。{④}をツモ切り。
次の照もツモ切り。
そして、莉子が一枚切れの{南}を引き、これをそのまま捨てると、
「ポン!」
これを照が鳴いた。照の自風だ。
ここで照の第一弾の和了りを許すと、次局から親での連続和了が始まってしまうだろう。さすがに、それは避けたい。
次のツモ番は再び莉子。
照への振込みをケアして、彼女は敢えて照の現物を切った。
続く静香も照に注意を払い、照の現物を手出しした。
ツモ牌は残り五枚。
ここで衣が、
「リーチ!」
ツモ切りでリーチをかけてきた。
この時、静香は、
「(あの{南}の鳴きは、天江さんへのアシストか!)」
照の鳴きの意味を理解した。
一切の鳴きが入らなければ、親の下家が海底牌を引く。つまり、ここでは照が海底牌をツモることになる。
それで照は、莉子から鳴くことによって海底牌を衣に回したのだ。
照は、ここで{西}を切った。ここまで字牌を持っていたのだ。理由は、静香や莉子に鳴かせないため。
莉子は、衣の現物切りで凌ぎ、静香も同様に衣の安牌で一発振込みを回避することしか出来なかった。
そして、海底牌。
衣は、これを引くと、
「ツモ!」
当然のことのように海底牌での和了りを決めた。
開かれた手牌は、
{一二三九九②③112233} ツモ{①} ドラ{九} 裏ドラ{7}
「リーチ一発ツモ海底撈月平和ジュンチャン三色一盃口ドラ2。16200オール!」
まさかの数え役満。
しかも、一筒撈月。
まるで咲の五筒開花に対抗するかのように色々見せてくれる。
これで、大将戦の順位と点数は、
1位:衣 206900
2位:静香 83800(順位は席順による)
3位:照 83800(順位は席順による)
4位:莉子 25500
衣が全員に圧倒的大差を付けた。
しかも、まだ東二局だ。
莉子でなくても、
『こ…これって…』
と言いたくなるだろう。
静香としても、これでは莉子へのフォローも出来ない。衣の支配力が強力過ぎて、どうにもならないのが実情だ。
そんな状態で、東二局三本場へと進んだ。
急激に衣の支配力が下がって行った。どうやら、衣は短期集中で支配力を一気に開放していたようだ。
理由は一つ。豪運の静香の手を抑えるため。
そして、ここでは、
「ポン!」
衣が捨てた{白}を照が鳴き、
「ツモ。白のみ。300、500の三本場は600、800。」
照が第一弾の和了りを決めた。
これより、照の連続和了が始まる。
東三局、照の親。
一度和了り出すと、照を止めるのは至難の技である。
しかも、照の下家が綺亜羅三銃士と呼ばれた豪運の静香ではなく莉子だったのは、巡り合わせとして最悪だったかも知れない。
特に莉子は、これまで衣のサンドバッグと化していて、完全に振込み癖がついている状態にある。
四巡目で照が聴牌した直後、莉子が切った{⑧}で、
「ロン。(門前)タンヤオのみ。2000。」
照に和了られてしまった。
東三局一本場。
ここでも照は、たった三巡で聴牌し、
「ロン。(門前)白ドラ1。3900の一本場は4200。」
聴牌即で莉子から和了った。
東三局二本場。
早々に照は、
「ポン!」
衣が捨てた{中}を鳴いた。
そして、またもや莉子から、
「ロン。中ドラ2。5800の二本場は6400。」
直取りした。
これで莉子は、照に三連続振込みである。
衣への振込みも含めると、実に六回目の振込みになる。もう、どうにも止まらない状態なのだろう。
しかも、現在の大将戦の順位と点数は、
1位:衣 206100
2位:照 98400
3位:静香 83200
4位:莉子 12300
万が一、次の親満を振込んだら芝棒が付いて莉子は箱割れしてしまう。照と衣のダブル超魔物が相手である以上、もはや後が無いと考えて良いだろう。
実に厳しい状態だ。
それと静香達には、もう一つ大きな問題があった。
この半荘が始まって、まだ静香と莉子は一度も和了っていない。ヤキトリ状態なのだ。
二人とも、照と衣を相手に、せめて一回でイイから和了りたい。
そしてスタートした東三局三本場。ドラは{2}。
この局、莉子はオタ風牌から切り出した。ムリに風牌を集めて役満一撃を………なんて考えは持っていなかった。
続いて数牌のうち端牌を処理して行くことになる。飽くまでも普通に打って行く。
ところが、四巡目に捨てた{⑨}で、
「ロン。」
莉子は照に振込んだ。
まだヤオチュウ牌処理の最中だ。こんなのって無い。
それこそ、初美じゃないが、
『ないないっ! そんなのっ!』
と大声を上げて叫びたいところだ。
照が開いた手牌は、
{一二三④[⑤]⑥⑦⑧2345[5]}
平和ドラ3。親で11600点の手だ。
実際の点数は、ここに芝棒が付いて12500点になる。
この手を見て莉子は、両手で顔を覆った。
「こ…これって…。」
12300点しか持っていなかったところに12500点の振込み。
莉子の箱割れ。
トビ終了だ。
しかも、大将戦の順位と点数は、
1位:衣 206100
2位:照 110900
3位:静香 83200
4位:莉子 -200
チームトータルでは、K大学チームが317000点、T大学チームが83000点と、四倍近い差がついた。
オマケに静香も莉子もヤキトリ。静香達にとっては、完全なる大敗であった。
これで、K大学チームは、五つ目の勝ち星を手に入れた。
「「「「有難うございました。」」」」
対局後の一礼を終え、K大学とT大学の対戦が終了した。
…
…
…
静香と莉子が控室に戻ってきた。
そこは、シンと静まり返った空間。まるで通夜のようだった。
この結果は、ある程度覚悟していたが、やはり現実のものとなるとショックの色は隠せなかった。
しかし、この大会はトーナメント戦ではなく総当たり戦。
明日も試合がある。
故に、今日は負けても、そのネガティブな気持ちを明日に持ち越してはならない。負けた分を、今後の試合で取り返して行かなければならないのだ。
『明日こそは勝つ!』
そう気持ちを切り替えて、やえ達は控室を後にするのだった。