「やはり、T大学は総合力が今ひとつだ。」
それが大将戦終了後の、衣の素直な感想だった。
過去二年間、T大学チームは、奈良県王者のやえ一人で何とか勝ち星を上げていたチームだった。
しかし、今年は憧と静香が加入したことで間違いなくレベルアップしている。昨年よりもずっと良い成績を出せるようになるだろうと誰もが期待していた。
憧は、高校では春季大会、インターハイ、国民麻雀大会(コクマ)を全部併せて団体優勝が五回、準優勝が一回のチームにいた。
しかも常勝阿知賀女子学院の部長を勤めていた選手だ。
一方の静香も、先輩の暴力事件があったため、大会には2年生の秋季大会からの参戦となったが、団体戦は春季大会で3位、インターハイで準優勝、コクマでは3位のチームで活躍し、三銃士の一人と呼ばれていた選手だ。しかも、その強豪チームの副部長を務めていた。
個人戦でも春季大会は全国10位、インターハイでは13位。
世界大会にも神楽に降臨する生霊として参加した。
とは言え、やえと憧は強いが、衣レベルから見れば数段劣る。
正直、魔物は静香一人だけだ。
これでは、魔物八人を擁するK大学チームには勝ちようが無い。
大将戦を例に挙げても、静香からは並みならぬ気配を感じ取っていたが、莉子が魔物の粋に達していない。
莉子自身も、本来は決して弱い選手では無い。高校では全国大会常連の強豪校で1年生の時からレギュラー選手に選ばれている。
しかし、さすがに魔物に勝てる器ではない。
たとえ静香が魔物でも、コンビ麻雀である以上、静香を狙わずに相方である莉子を徹底的に叩けば良い。
それで簡単に落とせることは、結果が証明している。
とは言え、今後、他のチームとの対戦では、魔物不在の対戦もあるだろう。
そこで、どれだけ勝ち星を上げられるかが、この六大学戦におけるT大学チームの課題となる。
六大学戦初日に、同時開催されていたW大学チームと M大学チームの対戦は、以下のとおりとなった。
先鋒戦は、竹井久・福路美穂子vs佐々野いちご・美入人美の対戦。
いくら久と美穂子でも、美貌では、いちご・人美のM大学チームには適わなかった。しかし、肝心の麻雀では久・美穂子のW大学チームが勝利した。
次鋒戦は、西野カナコ・原村和vs反町愛射・転法輪弥生(ゴツい名前:てんぽうりんやよい)の対戦。
昨年のドイツチームでナンバー4とされたカナコが珍しく崩れて、愛射・弥生のM大学チームが勝利した。
中堅戦は百目鬼千里・西野カナコvs染谷まこ・佐々野いちごの対戦。
ここでは、カナコが調子を取り戻し、W大学チームが大勝利した。やはり、世界大会代表コンビはダテではなかった。
副将戦は竜崎鳴海・鬼島美誇人vs成長結実・天地聖美の対戦。
前評判では、綺亜羅三銃士のコンビの圧勝とされた。特に、三銃士ナンバーワンとされる『御無礼』に誰もが期待した。
一応、鳴海・美誇人のW大学チームが勝利を収めたが、僅差であり多くの人達が驚いたと言う。三銃士ペアが圧勝すると思っていたからだ。
これによって、結実・聖美ペアの株が一気に急上昇した。
大将戦は雀明華・百目鬼千里vs水村史織・染谷まこの対戦。
この対局は、大方の予想通り明華・千里のW大学チームが圧勝した。
以上より、W大チームが勝ち星四、M大学チームが勝ち星一を得た。
また、R大学チームと H大学チームの対戦は、以下のとおりとなった。
先鋒戦は、多治比真佑子・椿野美幸vs佐々野みかん・多治比麻里香の美女対決。
美貌では、みかん・麻里香のH大学チームが僅差で勝利したが、肝心の麻雀では真佑子・美幸のR大学チームが僅差で勝利した。
次鋒戦は、引世菫・数南数絵vs大星淡・亦野誠子の対戦。
始終、誠子が菫に狙われ、しかも後半に数絵が覚醒。淡も何とか応戦したが、結果としてR大学チームが勝利した。
中堅戦は加治木ゆみ・多治比真佑子vs辻垣内智葉・大星淡の対戦。
さすがに、この対決はH大学チームが圧勝した。
副将戦は、東横桃子・加治木ゆみvs池田華菜・中田慧の対戦。
華菜と慧の二人がムチャクチャうるさい試合だった。結果は、桃子・ゆみのR大学チームが勝利した。
大将戦は、森垣友香・霜崎絃vs片岡優希・辻垣内智葉の対戦。
東風の神と呼ばれる優希が恐るべきスタートダッシュを見せ、さらに後半は智葉が全体を支配し、H大学チームが余裕で勝利した。
以上より、R大チームが勝ち星三、H大学チームが勝ち星二を得た。
翌日、六大学戦二日目の試合が開催された。
K大学チームはM大学チームと対戦。
前年度2位のW大学チームは前年度4位のH大学チームと、前年度3位のR大学チームは前年度6位のT大学チームと対戦する。
K大学チームの先鋒は、咲&美和の最悪コンビ。
対するM大学チームの先鋒は、佐々野いちごと美入人美の美女コンビであった。
いちごは、3年前のインターハイナンバーワン美女。
人美は、昨年の春季大会では美女ランキングナンバーツー、昨年のインターハイでは美女ランキングナンバースリー。
この超絶美女達が、最悪コンビと戦う。
当然、この日も某ネット掲示板住民達は、K大学チームの試合にテレビのチャンネルを合わせていた。
対局室に先鋒四人が入室し、早速、場決めがされた。
起家はいちご、南家は人美、西家は咲、北家は美和に決まった。
サイが振られ、対局がスタートした。
東一局、いちごの親。ドラは{8}
ここでは、五巡目に、
「リーチ!」
咲が先制リーチを仕掛けた。
この時、いちごも人美も手が早く、共にダマで聴牌していた。
しかも、いちごは、
{三四五六七④[⑤]⑥34[5]88}
{二五八}待ちでタンピンドラ4の親ハネ聴牌。
人美は、
{七八九①①⑦⑧⑨78白白白}
{69}待ち。高目の{9}で白チャンタ三色同順の満貫手。
一方の咲は、
{二二二四五六②③④2356} ツモ{4}
ここから、まさかの打{横3}でリーチをかけたのだ。
普通なら打{二}で、いちごに振込むと思われたところ、それを回避。
しかも、{25}待ちや{36}待ちに取らず、敢えて{2}単騎に受けたのだ。
通常、{2}を待ち牌にするのなら{6}切りで{25}待ちにするだろう。しかし、それでは人美に振込む。
これも{3}切りにすることで回避していたのだ。
そして、次巡、
「カン!」
咲は{二}を暗槓すると、
「ツモ! 2000、4000!」
リーチ門前清自摸タンヤオ嶺上開花の満貫をツモ和了りした。
普通、有り得ないスーパープレイだが、これを日常茶飯事とする咲は、やはり異常であろう。
咲は、この後、東二局も、
「ツモ! 2000、4000!」
東三局も、
「ツモ! 4000オール!」
共に満貫和了りを連発した。
これで、先鋒戦の暫定順位と点数は、
1位:咲 128000
2位:美和 96000
3位:いちご 94000(順位は席順による)
4位:人美 94000(順位は席順による)
咲が大きくリードした。
チームトータルでは、まだ二人併せて二度のハネ満直撃で芝棒が付けば僅かとは言え逆転可能な範囲の点差である。
しかし、いちごや人美からすれば、咲に30000点以上の差を付けられている。
当然、焦る気持ちが隠せなかった。
東三局一本場。咲の連荘。ドラは{白}。
ここで咲は、
「カン!」
早々にいちごが切った{①}を大明槓した。
本大会では、槓ドラは即の乗りのルールだった。
めくられた槓ドラ表示牌は{中}。つまり、{白}がダブルのドラとなった。
さらに咲は、ここから{白}を強打した。
場が凍り付いた。
しかも、
「ポン!」
これを美和が鳴いた。この副露牌だけで白ドラ6のハネ満が確定である。いちごと人美にとっては最悪極まりない。
さらにここから、咲は美和を支援する。
「チー!」
美和は、{横879}を副露し、その数巡後、
「ツモ!」
とうとう和了りを決めた。
美和の背後から、いちごと人美に向けて多数の触手が一斉に伸びてきた。美和ワールドへのご招待だ。
二人は、触手が四肢に絡み付き、身体の自由を奪われた。しかも、触手からは消化液が出ている。
あっという間に衣類だけが溶かされ、しかも触手が粘液を分泌しながら執拗に二人の胸や股間を刺激する。
…
…
…
「ツモ。3000、6000。」
二人が美和の点数申告の声を聞いたのは、体感時間で一時間を過ぎた頃だった。
当然、これを見ていた某ネット掲示板の住人達は、
『いちごが、みかんジュースを出しましたわ!』
『非常にスバラです!』
『これが見たかったッス!』
『この未来は見えとったが、実際に見れると嬉しいなぁ』
『でも、これを機会に、いちごジュースで良くない?』←みかん
『やっぱり、みかんジュースはみかんジュースだと思』
『いちごジュースじゃ血尿みたいだじぇい!』
大喜びだったと言う。
M大学チームの控室で対戦を見ていたまこが、ふと、
「さすが、咲じゃ!」
と言葉を漏らした。
すると、まこの十八番、時間軸の超光速跳躍が発動した。
…
…
…
この後、美和は、咲の支援で大量のドラを乗せ、東四局は親倍、東四局一本場では親の数え役満を、いちごから連続で直取りした。
いちごとしても、脳内がすっかりドピンク色に染まって、気が付いたら自ら望んで振込んでいた。これが美和ワールドの恐ろしさだ。
これで、いちごの点数は14600点まで落ち込んだ。
続く東四局二本場も、咲が連槓で大量に美和の手にドラを乗せ、結果的に美和が数え役満をツモ和了りした。
これで、先鋒戦の暫定順位と点数は、
1位:美和 225200
2位:咲 105700
3位:人美 70700
4位:いちご -1600
K大学チームが圧勝し、勝ち星一を取った。
「「「「有難うございました。」」」」
対局後の一礼の後、対局室は清掃作業に入った。いちごと人美が座っていた椅子の交換と換気だ。
この時、男性スタッフの中には、結構前屈みになっている者がいた。超絶美女コンビが美和ワールド行きになったのだから、やむを得ないだろう。
清掃終了後に、改めて控室に対局再開の連絡が入ることになっていた。
それまで、選手達は一休みとなる。
咲と美和が控室に戻った時、そこでは弥呼に誰を降ろすかの話し合いがなされていた。今回も前回に続いて節子に降りてきてもらうはずだったのだが………、急に衣から横槍が入ったのだ。
弥呼は、神楽と同じで事前にオーダーを天からの啓示で知ることが出来る。
それで、六大学戦開始前に各チームのオーダーを知っていたし、その情報を部内でも共有していた。
また、同時に、M大学チームは、意外と次鋒が曲者であることも啓示されていた。
部内ランキングは3位と4位の選手のペアなのだが、対外的にはダブルエースの中堅二人よりも面倒な相手のようだ。
弥呼は、反町愛射に関して、
『鏡の持ち主』
とだけ知らされていた。
ただ、啓示とか予言は抽象的な表現が多い上に、今回は、
『今まで見て来たモノとは違う』
としか教えられていなかった。
なので、詳細が分からない。
鏡の持ち主で連想するのは、照、マホ、ミラの三人。
照の場合は照魔鏡で相手の本質を捉え、マホは他人をコピーする。また、ドイツチームの補員だったミラも、マホと詳細は違うが他人をコピーするところは同じだ。
いずれも相手にしたくない選手達だ。
もう一人のM大学チーム次鋒選手、転法輪弥生も、何らかのチート能力を持つようだ。
ただ、弥生については完全にノーヒントだった。
それで、団体戦では愛射と弥生の能力を節子に探ってもらい、個人戦に備えようと考えていた。
神楽と同じで、弥呼は死人の霊だけではなく生霊も降ろせる。
当然、咲や照の生霊を降ろすのも方法としては有る。
しかし、咲を降霊した場合、咲が先鋒戦から中堅戦まで三連続での出場となり、体力的に中堅戦がキツくなる。
それ以前に、先鋒戦の後、すぐに咲が幽体離脱のための眠りに入れるかどうか分からないし、もし眠れたとしてもエース対決となる中堅戦が寝起き直後になるのは宜しくない。頭が半分寝ていて十分に力を発揮できない可能性がある。
また、照を降ろす場合も、次鋒戦、中堅戦、大将戦の出場となり、副将戦時に休憩できるとは言え、大将戦がキツくなる。
勿論、照だって寝起き直後の中堅戦では力を十分発揮できない可能性があるだろう。
それもあって、弥呼に降ろす生霊は衣と光に絞っていた。
元々は、生霊まで降ろせるのを暴露するのは、大会五日目のR大学チームとの対戦にしようと考えていた。
つまり、生霊を降ろして戦うのは大会五日目(土曜日:R大戦)と、翌日の六日目(日曜日:W大戦)のみとする。
これなら、宿敵W大学チームも十分な分析は出来ないだろうとの考えだ。
加えて、幽体離脱が癖になってはマズイので、大会期間中に衣も光も降ろすのは一回だけと決めていた。
これらの背景から、このM大学チームとの対局では、星を一つ落としてもイイから弥呼には節子を降ろす予定でいた。
ところが、ここに来ていきなり、
「そのような奇妙奇天烈な奴らが相手なら、是非、衣が打ちたい!」
と衣が言い出したのだ。
非常に衣らしいと言えよう。
弥呼と栄子は衣の申し出に反対したが、最終的に部長の照が、
『愛射と弥生の本性を衣が完全に暴くこと!』
を条件に、次鋒戦の出場(生霊)を許可した。
子供(衣)の勝利である。