咲-Saki- 阿知賀編入   作:おこそとのほもよろを

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二百十九本場:六大学対抗戦-9  反射

 K大学チーム控室にスタッフから試合再開の連絡が入り、弥呼と敬子が控室を出た。

 この時、既に衣はソファーの上で眠りこけていた。

 

 二人が対局室に入り、卓に付いた直後、弥呼の様子が急に変わった。衣の生霊が降りたのだ。

 

 しばらくして、M大学チームの次鋒、反町愛射と転法輪弥生が対局室に入室してきた。

 相手が優勝候補と呼ばれるK大学チームだが、二人とも非常に落ち着いていた。いや、むしろ、笑みさえ零れていた。勝てる自信があるようだ。

 

 場決めがされ、起家が弥呼(衣)、南家が愛射、西家が敬子、北家が弥生に決まった。

 そして、サイが振られ、次鋒戦がスタートした。

 

 東一局、弥呼(衣)の親。ドラは{②}。

 ここで衣は、T大学チームと戦った時と同様に、早い和了りを目指した。

 ただ、衣の早和了りは安くない。ハネ満クラスになることがザラにある。

 今回も、二巡目に、

「ポン!」

 愛射から{中}を鳴き、さらに次巡、

「ポン!」

 弥生が捨てた{5}を鳴いて{横555}を副露した。

 

 しかも、既に衣の手牌は、

 {1777999  ポン{横555}  ポン{中中横中}

 中混一色対々和赤1の親ハネを聴牌していた。

 しかも、この形はローカル役満の紅孔雀だ。

 

 ただ、弥呼からは相手の手牌が全て透視できると聞いていたが、何故か衣は、愛射の手だけは透視できなかった。

 新種のバリヤーだろうか?

 それでも、衣だって相手の手牌くらいは読む。三年前のような、能力だけに頼った打ち方はしていない。

 

 同巡、衣は、愛射から{1}が零れ落ちてくるものと踏んでいた。

 ところが、愛射が切ったのはドラの{②}。しかも、次巡も愛射は{②}を切った。まさかのドラの対子落とし。

 普通は有り得ない打ち方だろう。

 ただ、少なくとも愛射からは聴牌気配を感じない。他の二人も聴牌していないのは透視して分かっている。

 

 その直後、衣が引いてきたのは{[5]}。

 ならば、

「カン!」

 衣は、自らの手にドラを乗せるつもりで加槓した。

 ところが、

「ロン。」

「えっ?」

 まさかの槍槓。

 衣の振込みである。

 他家の聴牌気配どころか、和了り牌から手の高さまで完全に察知する衣だ。この振り込みは彼女自身も信じられなかった。

 

 手を開いていたのは愛射。

 {四[五]六④[⑤]⑥1146888}  ロン{[5]}

 

「槍槓三色ドラ3。12000。」

 しかもハネ満。

 衣の和了り牌である{1}を取り込んでの聴牌。そのためにドラを落としたのだろう。

「そんな高い手。でも、どうして衣が察知できなかった?」

「やっぱり、中身は天江さんだったのね」

「しまった!」

「反射………。」

「えっ?」

「それは、私の能力反射によるものよ。本来なら天江さんから私に来るべき能力支配が反射されて、私から天江さんが能力支配を受けるようになるのよね。」

「何っ?」

「つまり、天江さんが能力を強めれば強めるほど、その支配力はカウンターとなって天江さんに降りかかるってこと。」

 

 愛射が、この能力に目覚めたのは昨年の秋。同じM大学チームの副将、成長結実(なりながみのり)の、

『仲間の能力を開花させる能力』

 によって開花したらしい。

 

 今、M大学で愛射は実力3位だが、これは、1位のまこと2位のいちごが能力麻雀ではなく純粋に強いタイプだからであろう。

 残念ながら、愛射の能力は、非能力者のまこといちごには効果が無い。

 

 しかも、M大学の校内順位はウマもオカも付けずに、素点の合計だけで決めていた。

 まこもいちごも格下相手には大きく勝つ。

 一方の愛射は、能力者には勝てても非能力者相手に必ずしも大勝ちできるわけではない。

 これらの要因から、愛射は校内順位が3位になっていただけである。恐らく、対外的には、まこやいちごよりも愛射の方が面倒な相手であろう。

 

 絶句。

 さすがに衣も言葉が出なかった。

 まさか、こんな形で衣の能力が塞がれ、しかも利用されるとは………。

 実質、衣の能力がコピー………いや、盗まれているのと同じだ。

 

 対する愛射は、

「なので、私には天江さんの手牌が全部分かるの。反射した能力によって得られるものは、私の方に飛んでくるからね。」

 と言いながら余裕の表情を見せていた。

 衣の支配力と弥呼の透視能力を衣に跳ね返している………実質、その能力を愛射が衣に浴びせているのだから当然だろう。

 

 この時、衣は、W大学チームがM大学チームと戦った際、カナコが崩れた理由をイヤと言うほど………身をもって理解していた。

 カナコも、この愛射の能力反射を受けて崩れたのだ。

 

 

 東二局、愛射の親。

 ここでも、愛射が衣の支配を反射………実質、自身の能力として利用し、

「ツモ。6000オール!」

 親ハネをツモ和了りした。

 

 しかし、東二局一本場。

 毎度の如く、敬子がマイペースの捨て牌から、

「リーチ!」

 四巡目で先制リーチをかけた。

 

 今、愛射は弥呼の能力反射で透視能力が使えるはず。

 ところが、愛射には敬子の手牌を透視できなかった。

「(どう言うこと?)」

 まさか、敬子が自分に降りかかる能力をキャンセルするとは………、愛射にとっても想定外である。

 今まで敬子がキャンセルできなかったのは咲の凶悪なオーラくらいだろう。

 

 そして、その数巡後、

「ツモ。メンタンピンツモドラ2。3100、6100!」

 敬子はハネ満をツモ和了りした。良くも悪くもマイペースだ。

 

 

 東三局、敬子の親。

 ドラは{南}。弥生の自風だ。

 そう言えば、この対局では、敬子は人魚の歌声を披露していない。

 何故か?

 理由は簡単である。

 人魚の歌声を聞かせたら、それが良い子守唄となって衣が瞬時に寝てしまう可能性があるからだ。

 それで、敬子は人魚の歌声を封印させられていた。これは、照と咲からの指示である。

 

 ここでも敬子はマイペースで打つ。

 しかし、人魚の歌声で他家を魅了することが出来ない以上、愛射も弥生も頭の回転が鈍ることは無い。普通に打ってくる。

 

 それと、今回、妙に弥生の配牌が良いことを衣は分かっていた。

 衣が愛射に放った分の能力は反射されても、弥生に放った分は正常に機能してくれている。それで弥生の手牌を衣は弥呼の能力で透視できていたためだ。

 このままでは、弥生が序盤でさくっと和了ってしまいそうだ。

 

 チームメイトの敬子の親番。

 敬子が和了る分には、衣としてはOKだが、ここで敵チームの弥生には絶対に和了らせたくない。

 当然、

「(一向聴地獄!)」

 能力発動で、衣は弥生の手を封じに出た。

 自身に降りかかる能力をキャンセルする敬子には、この衣の能力は効かない。

 衣自身は、愛射の能力反射で一向聴地獄に落ちることになるが、自分が和了れなくても敬子が和了れば問題ない。

 

 たしかに、衣が課した一向聴地獄で弥生は聴牌できなくなった。

 しかし、もう一人の敵、愛射には一向聴地獄が課されない。しかも、弥呼の能力も反射してしまうため肝心の透視能力も届かない。

 

「ポン!」

 敬子が捨てた{白}を愛射が鳴いた。

 そして、その二巡後に、

「ツモ。」

 衣が警戒していた弥生ではなく、愛射にさくっと和了られた。

 

 開かれた手牌は、

 {一二三④⑥789南南}  ポン{白白横白}  ツモ{[⑤]}  ドラ南

 

「白ドラ3。2000、3900。」

 これが中国麻将なら花竜(三色一通)と五門斉が付く。

 単なる満貫級の和了りでないところが、まるで衣のようだ。やはり、衣の能力を反射しているのはダテでは無いと言うことだ。

 

 この和了りを見て、敬子は、

「先輩。次。」

 と声を出した。

 これは、弥呼の中に居る衣に向けて言った言葉だ。次に何かをやらかしたい。そう言う意味だ。

 ただ、衣は、

『先輩』

 と呼ばれて、やたら嬉しそうだった。

 

 

 東四局、弥生の親。ドラは{7}。

 今回、敬子の捨て牌は、

 {三七⑤東南2}

 今までと違うパターンだ。

 これが来た時、敬子は麗しき人魚からクラーケンと化す。

 ただ、今までの傾向から、クラーケンバージョンの敬子の和了りには{八}、{⑧}、{8}が絡むことが多い。特に{8}での和了りが多い印象がある。

 それに、萬子、筒子の後に字牌切りで、その更に後に索子が切られている。一般的に索子染めと考えられる切り出しとも取れる。

 

 それもあって愛射は、

「(だったら、{8}を捨てなければ良いだけよね!)」

 と考え、たった今引いてきた{8}を手牌に入れた。

 もっとも、今回、{8}はドラそばなので、出来れば自分の手の中でドラ含みの面子として使いたい。

 そして、愛射がノーケアーで{③}を切ったその時、突然、彼女の視界に映るものが対局室から大海原の風景に変わった。

 愛射は船の上に乗っている。

 ふと、海面から麗しき人魚………敬子の姿が見える。愛射は、敬子の能力が見せる幻の世界へと連れ去られたのだ。

 

 敬子の背中から十本の触手が急激に伸びてきて愛射の身体を捕らえた。

 そして、敬子は、うっすら笑うと、愛射を海中へと引き摺り込んだ。

 

 愛射が海中で見たモノ。

 それは、既に人魚の姿ではなかった。敬子の姿は、強靭な触手を持つ巨大な海の怪物、クラーケンと化していた。

 このまま溺れ死ぬのが先か、それとも、この巨大な化物に食い殺されるのが先か、そんな恐怖が愛射の脳裏を駆け巡る。

 そして、愛射が死を覚悟したその時、

「ロン。24000!」

 敬子が和了りを宣言した。

 同時に、愛射の意識は現実世界へと戻ってきた。

 

 あれが現実では無いと認識し、愛射は、ホッと胸を撫で下ろした。

 その直後、敬子が開いていた手牌を見て、

「えっ?」

 愛射は、驚いた表情を見せていた。

 

 敬子の手牌は、

 {①①②②③[⑤][⑤]⑦⑦⑧⑧⑨⑨}  ロン{③}  ドラ{7}

 門前清一色二盃口赤2の三倍満。

 中国麻将の一色双竜会。

 しかも、{③}待ち。今までに無いパターンだ。

 

 思わず愛射は、

「({八}も{⑧}も{8}も関係ないじゃん!)」

 と心の中で叫んだ。

 

 たしかに、過去に敬子が辺{③}待ちでクラーケンパワーを見せたことは無い。しかし、敬子だって進化しているのだ。

 いや、常に周りの考えの斜め上を行くと言うべきか。

 悪い意味で、相手の期待を裏切ると言うか。

 いずれにせよ出場所最高。強烈な一撃であった。

 

 これで、次鋒戦の暫定順位と点数は、

 1位:敬子 126400

 2位:愛射 107800

 3位:弥生 88900

 4位:弥呼(衣) 76900

 敬子が一気に首位に立ち、チームトータルでK大学チームがM大学チームを逆転した。

 

 これで、愛射は戦意を喪失するだろう。

 誰もがそう思っていた。

 今まで、何人もの選手達が敬子のクラーケンパワーを見た直後は恐怖に怯え、対局継続の意思が削がれていた故だ。

 それこそ、ドイツチームのローザやミラと言った世界有数の選手達でさえ、平静を保つことは出来なかった。

 

 しかし、愛射は、

『それはそれ、これはこれ!』

 と言わんばかりに落ち着きを取り戻していた。

 海の怪物の姿を見ても、心が折れずにいられるとは………。

 相当、心が強い選手であろう。

 

 

 南入した。

 南一局、弥呼(衣)の親。

 既に東場が終わったと言うのに、衣にしては珍しく未だに和了りがない。それだけ、愛射の能力反射による影響は大きいと言える。

 その愛射の能力自体は、東一局から一向に衰える気配が無い。

 他校の選手に、ここまで衣が苦しめられたのは久し振りである。それこそ、高校時代の咲との対局以来だろう。

 

 今、愛射が目指すところは弥呼(衣)に連荘させないこと。それから、敬子に和了らせないこと。この二点だ。

 その最良の解決策は、言うまでもなく自分が和了ることに他ならない。

 

 愛射は配牌で順子手の三向聴だった。ここから順当に平和手を作り上げ、

「ツモ。700、1300。」

 平和ツモドラ1をさくっと和了った。

 まだ、K大学チームに2600点差でリードされているが、和了り一つで十分巻き返しが出来る範囲にある。

 

 それに、相手チームにとんでもない点差を付けられない限り、愛射は自分達の負けは無いと言い切るだけの自信があった。

 パートナーの弥生の存在が、その自信を生んでいたようだ。

 弥生も、衣と同じで未だヤキトリであるが、隠し持った力がある。その力が披露された時、確実に自分達が勝てる。

 故に、ここは安手で良い。相手に和了らせないことがベスト。

 そう愛射は判断していた。

 

 

 南二局、愛射の親。

 ここに来て、敬子が配牌の際に大学の応援歌を口ずさんだ。人魚の歌声である。

 咲と照の指示に反するが、衣が和了れない以上、自分がムリにでも和了りに向かうしかないだろう。

 それで、人魚の歌声を使うことにしたのだ。

 

 急に弥呼から放たれていた強大なオーラが消えた。中に入っている衣が、敬子のハミングを聞いて半分眠ってしまったためだ。

 この局では、弥呼(衣)は使えないと言って良いだろう。

 そもそも、この対局では愛射の能力反射の餌食にあって、衣自身が全然活躍できていない状態にある。なので、正直、衣が寝ていても余り状況は変わらないかも知れない。

 

 敬子は、毎度の如く、{東南西北}と切り出し、

「リーチ!」

 五巡目に{横白}切りでリーチをかけた。

 そして、次巡、

「メンピン一発ツモドラ2。3000、6000!」

 敬子が一発でツモ和了りを決めた。

 

 これでチームトータルは、K大学チームが210300点、M大学チームが189700点となり、K大学チームが20600点差でリードした。

 しかし、ハネ満直撃で逆転可能な圏内にある。

 K大学チームとしても、まだまだ予断は許さない状況だろう。

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