咲-Saki- 阿知賀編入   作:おこそとのほもよろを

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二百二十本場:六大学対抗戦-10  転生者

 K大学チームとM大学チームの試合は、次鋒戦南三局に突入した。

 親は敬子。

 ここでも敬子はマイペースで手を進めて行くが、

「ポン!」

 毎度の捨て牌で四巡目に出てきた{北}を、狙ったかのように愛射が鳴いた。

 

 そして、

「ツモ。1000、2000。」

 その次巡に愛射は、早和了りで敬子の親を流した。

 別に、この和了りでチームトータルが逆転できるわけではなかったが、愛射の狙いは別にあった。

 それは、

『K大学チームに圧倒的な差を付けられずにオーラスに回すこと』

 である。

 それさえできれば、後は弥生が何とかしてくれるはずだからだ。

 

 

 オーラス。弥生の親。ドラは{②}。

 ここに来て、今まで和了り無しの弥生の全身から強烈なオーラが噴出した。

 それは、支配力と言うよりも、咲が見せる強制力に近い雰囲気を感じさせていた。

 

 この強大なパワーを目の当たりにして、衣は、あることに気が付いた。

「(反町愛射が見せたのは能力反射。キーワードは反射だ。すると、この相方の転法輪弥生のキーワードは転生か!?)」

 まるで、連想ゲームのようだが………。

 …

 …

 …

 

 

 今から百五十億年もの昔、揺らいだ『無』からエネルギーの壁を通り抜けて10のマイナス34乗センチメートル程の極小さな点が誕生した。

 それは、元々は、

『激しく揺らぐ無の世界に生まれては消える沢山の点』

 の一つに過ぎなかった。

 しかし、その点は、たまたまエネルギーの壁を通り抜けてしまい、『無』から『有』へと変化してしまったのだ。

 

 次の瞬間、その点は、10のマイナス34乗秒と言う極短い間に、一気に10の50乗倍もの大きさに膨張して火の玉になった。

 これがビッグバン宇宙の誕生である。

 そして、この火の玉は、そのまま膨張を続けて行き、宇宙へと進化していった。

 

 こう言うと、一つの点から一つの宇宙ができたかのように思えるだろう。

 しかし、その極小の点から生み出された宇宙は一つではないとされる。『無』から『有』へと変化してしまった点が火の玉へと膨張する一瞬の間に、その宇宙の元から沢山の宇宙の元が生え出てきたのである。

 これは、ビッグバン宇宙が誕生する時、膨張が均質ではなかったため、場所によって膨張に歪みが生じて、そこで宇宙が分岐する現象が起こったためである。

 

 最初に生まれた宇宙をマザーユニバースと言い、マザーユニバースから飛び出すように生まれた宇宙をチャイルドユニバースと言う。

 そして、チャイルドユニバースから、また更にチャイルドユニバースが誕生し、更にそこからまたチャイルドユニバースの誕生と、ほんの僅かの間に、この様な劇的な変化が切り無く繰り広げられていった。

 これを『宇宙の多重発生機構』と言う。

 

 こうやって、偶然現れた一つの点から、次の瞬間に10の70乗個もの宇宙が誕生したと言う。

 これら平行して存在する沢山の宇宙はパラレルワールドと呼ばれ、その殆どは、生まれて間もなく消滅したが、それなりの数が生き残り、未だ進化を続けている。

 地球を包含する宇宙もその一つである。

 …

 …

 …

 

 

 弥生には前世の記憶があった。

 前世で彼女は、別の宇宙──────つまり異世界で誕生した地球型の惑星で生まれた。

 その世界は、地球で言う中世ヨーロッパのような雰囲気で、しかも地球とは違って魔法や魔術などが存在していた。

 その宇宙を統べる神が、魔法の存在を認めたためだ。

 そこで弥生は、一人の一般女性として生涯を終えていた。

 

 前世の趣味は、小説等の創作物を読むこと。

 中でも、

『最後にギリギリ逆転勝ちする主人公』

 に強い憧れを抱いていた。

 

 

 弥生は、この世界に転生する際に、憧れの『逆転勝ち主人公』の能力を要求した。

 神様側も、転生者に対するサービスの一環として、弥生の欲する能力を与えた。勿論、文字通り大勝利ではなく、最後にギリギリ逆転勝ちする能力である。

 

 ただ、弥生に与えられた能力には制限が設けられていた。

 飽くまでも、その場で提示されたルールで、ギリギリ勝利すると言うものであり、例えば全十回戦の戦いの場合に、全体成績で1位になる能力ではなかった。

 つまり、各対戦毎にギリギリ1位を取るものであった。

 それから、勝利に向かう際には、成り行きに任せてムリに仕掛けをしないことも能力発動条件とされていた。

 つまり、麻雀で彼女が能力を発動するためには、和了りに向かう局では、リーチをかけないことと、鳴かないことが縛りとして課せられたようだ。

 そのため彼女は、必ずオーラスで、ダマ聴での逆転を狙うことになる。

 

 

 能力に目覚めたのは高校2年の夏。

 長野県大会決勝戦の咲vs衣の記事を読んだ時に、前世の記憶と、転生者として与えられた能力に関する記憶が甦ったのだ。

 衣にギリギリでチームトータルを逆転し、チーム優勝に導いた咲の闘牌は、弥生にとっては、強く興味を惹かれる対象となる。

 それが引き金となって前世の記憶を呼び覚ましたのだ。

 その後、すぐに咲や衣に憧れて麻雀を始めた。

 

 福井県出身で、地元の高校に通っていたが、団体戦ではチームメイトに恵まれず………と言うか、そもそも麻雀が強い高校ではなかった。

 県大会では秋季、夏季共に団体戦は一回戦負け。

 個人戦でも、インターハイ県予選はスイスドロー式のため、大きく勝てない弥生は全国大会出場枠の総合3位以内に入れず。

 春季大会の個人戦は、秋季大会を勝ち抜いた春季団体戦出場校の選手のみ。

 そのため、春夏共に弥生の全国行きは叶わなかった。

 故に彼女は、高校時代は全国では無名の選手に過ぎなかった。

 

 

 たしかに、この能力を持っていれば、各対局で負けることはない。

 しかし、ウマもオカも無い素点の合計だけで順位を決めるM大学の部内戦では、ベストスリーに入れないでいた。

 恐らく、エースポジションを取っている、まこやいちごよりも対外的には弥生の方が、ずっとやり難い相手であろう。

 

 

 本大会ルールで考えれば、愛射との合計が、弥呼・敬子の合計よりも上回ることが勝利条件となる。

 現在、チームトータルは、K大学チームが207300点、M大学チームが192700点。

 つまり、弥呼(衣)か敬子から7700点を直取りできれば良い。それでギリギリ逆転勝ちできる。

 

 弥生の配牌は、

 {四五六六七②③④[⑤]456東西}

 ここから打{西}。

 そして、二巡目には{⑤}をツモって、打{東}で聴牌した。

 {五八}待ちのタンピンドラ2。狙ったように7700点の手を、たった二巡目に聴牌したのだ。これが転生者の力だ。

 但し、能力発動の縛りからリーチはかけていない。

 もっとも、リーチをかける必要は無い形に仕上がっているので、リーチをかけること自体に意味は無いだろう。

 

 

 ところが、衣は自身の『和了り牌を見抜く能力』と弥呼の持つ『透視能力』から、弥生の手が完全に分かっている。

 また、敬子は、自身に降りかかる分の能力はキャンセルできる。つまり、能力麻雀で敬子から7700を直取りしてギリギリチームとして逆転する部分については、キャンセルされてしまう。

 よって、この二人が相手では、折角7700点の逆転手を聴牌しても、直取りはできないことになる。

 

 しかし、敬子に直接降りかからない部分、つまり弥生のツモ和了りに対してはキャンセルされないようだ。

 次巡、弥生は、

「ツモ。」

 自らの手で{八}を引き当てて和了りを決めた。

「タンピンツモドラ2。4000オール。これで和了り止めにします。」

 

 

 これで、次鋒戦の順位と点数は、

 1位:敬子 131700

 2位:愛射 104500

 3位:弥生 96200

 4位:弥呼(衣) 67600

 

 個人では敬子が1位、弥生は3位となったが、ここで競うのは飽くまでもチームトータルである。

 K大学チームは合計199300点、M大学チームは合計200700点となり、M大学チームが、ギリギリ逆転勝ちで次鋒戦での勝ち星を取ることとなった。

 まさに弥生の能力に従ったストーリーだ。

 

 

 衣にとっては、まさかの敗退。

 しかも、衣がヤキトリのまま終了するとは………。

 K大学チームにとって、愛射と弥生は、まさにダークホースと言えよう。

 

 衣は、

「(こんな怪訝な奴らがいるとは、まだまだ衣も井の中の蛙だ!)」

 と心の中で声を発していたが、表情は極めて朗らかだった。

 咲や照、光以外にも、自分と遣り合える人間がいたことが純粋に嬉しかったのだ。

 

 それに、衣に課せられた最低限の宿題、

『愛射と弥生の本性を衣が完全に暴くこと!』

 も何とかなった。

 愛射は能力反射。

 弥生は転生者。

 それが暴けただけでも大きい。個人戦に備えて重要なデータとなるだろう。

 

 

「「「「有難うございました。」」」」

 対局後の一礼を終えると、次鋒選手達は対局室を後にした。

 

 

 引き続き、中堅戦が開始される。

 対局室に咲、照、まこ、いちごが姿を現した。

 K大学チーム中堅は超魔物姉妹、対するM大学チーム中堅はエセ広島弁&広島弁コンビである。

「お手柔らかに頼むけぇ。」

 元清澄高校チームの先輩、染谷まこが、早速、咲に声をかけてきた。

 ただ、これにより、まこの能力が発動し、時間軸の進み具合が何時もより早くなるのは言うまでもない。

 

 

 場決めがされ、起家がまこ、南家がいちご、西家が咲、北家が照に決まった。

 サイが振られ、注目のエース対決がスタートする。

 

 

 東一局、まこの親。

 この局で、照は相手の本質を探る。そのため、照は和了りを放棄する。

 しかし、チームとしては和了りに向かう。

 咲は、四巡目で手牌すると、

「リーチ!」

 先制リーチをかけた。

 そして、次巡、

「カン! ツモ! リーチツモタンヤオ嶺上開花! 2000、4000!」

 咲は、得意の(特異の?)嶺上開花での和了りを決めた。

 

 

 東二局、いちごの親。

 ここでは、

「チー!」

 咲が照に早々に鳴かせた。

 しかも、照が聴牌すると、

「ロン! 1000点。」

 即刻、咲が差し込んだ。これで、照の第一弾の和了り達成である。

 

 

 東三局は、照が、まこから、

「ロン。2000。」

 30符2翻の手を直取りした。

 

 東四局は、

「ロン。3900。」

 

 東四局一本場は、

「ロン。5800の一本場は6100。」

 

 東四局二本場は、

「ロン。7700の二本場は8300。」

 

 照は、三連続でいちごから直取りした。

 第一弾の和了りを決めると、次から点数上昇を伴いながら手が早くなる。この照の連続和了を阻止するのは極めて難しい。

 

 振り込みを回避しても、

「ツモ! 3200オールの三本場は3500オール!」

「ツモ! 4000オールの四本場は4400オール!」

 結局はツモ和了りを決められてしまう。

 

 続く東四局後本場も、

「ロン! 19500。」

 照は親ハネの五本付けを、いちごから直取りした。

 

 これで、中堅戦の暫定順位と点数は、

 1位:照 162500

 2位:咲 99100

 3位:まこ 86100

 4位:いちご 52300

 K大学チームがチームトータルで大きくリードした。

 

 そして、東四局六本場。

 これだけ圧倒的な実力差を見せ付けられると、さすがに意気消沈する。

 それに、この状態では、まこもいちごも守りに回っては無意味である。攻めて行かなければ勝利放棄にしかならない。

 

「カン! もいっこカン!」

 中盤に入ってすぐ、咲が{②}と{③}を連続で暗槓した。

 その直後のツモで、いちごが引いてきたのは{①}。

 {②}と{③}が無い状態で{①}を持っていても手が遅延する。それで、普通は{①}を切って行くだろう。

 しかし、{①}は河に出ていない。初牌だ。

 

 過去の咲の牌譜を見ると、この状態から{①}の大明槓を仕掛け、責任払いさせるパターンが存在する。

 それで、いちごは、

「(さすがに{①}は捨てられん。なら、同じ初牌でも、こっちならどうじゃ!)」

 {一一二二三134678東東}  ツモ{①}

 ここから{1}を強打した。

 

 すると、

「カン!」

 咲が、{1}を大明槓した。

 そして、嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 咲は{西}を暗槓し、計四つの槓子を揃えた。

 王牌には、最後の嶺上牌が残っていた。咲は、これを引くと、

「ツモ! 64000の六本場は65800!」

 当然の如く嶺上開花での和了りを決めた。

 

 開かれた手牌は、

 {①}  暗槓{裏西西裏}  明槓{横1111}  暗槓{裏③③裏}  暗槓{裏②②裏}  ツモ{①}

 

 これは、いちごの責任払いとなる。

 しかも四槓子は、本大会ルールではダブル役満として扱う。

 もし、{①}を捨てていたとしても、四暗刻単騎に振り込んでいただけであろう。しかも、本大会ルールでは、四暗刻単騎もダブル役満扱いである。

 結局、いちごは咲にダブル役満を振り込む運命だったのかもしれない。

 

 

 これで、中堅戦の順位と点数は、

 1位:咲 164900

 2位:照 162500

 3位:まこ 86100

 4位:いちご -13500

 いちごのトビで終了となった。

 チームトータルでも圧倒的点差でK大学チームが勝利し、K大学チームが二つ目の勝ち星を手にした。

 

 

「チョロチョロチョロ………。」

 三年前の個人戦の時と同様、いちごの括約筋が緩んで聖水を放出してしまった。

 先鋒戦では美和ワールド行き、中堅戦では聖水放出と、いちごにとっては最悪な一日になった。

 しかし、これを期待していた某ネット掲示板住民達にとっては、大満足の結果であろう。対象が女子大生雀士の頂点(美貌)とされる、いちごがやらかしたのだ。

 今日も掲示板は、大賑わいだったとのことである。

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