咲-Saki- 阿知賀編入   作:おこそとのほもよろを

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二十五本場:登頂…トーナメントの頂へ

 南一局、数絵の親。

 サイの目は8。淡がダブルリーチをかけるには一番不利な山の切れ方だ。

 しかも、今は数絵の支配力が急上昇している。それで、淡はダブルリーチをかけるのをやめた。

 靄が掻き消されたことで絶対安全圏が復活したが、たとえ配牌が最悪でも、そこから各自、全く手が進まないわけではない。当然、南場がホームグランドの数絵は順調に手を伸ばした。

 しかも、この局は、衣が枯渇した支配力を回復することに従事している。よって、今は衣の一向聴地獄は発動していない。

「リーチ!」

 数絵が先制リーチをかけた。そして、

「一発ツモ裏2。4000オール!」

 リーチだけの手が、一発ツモと裏ドラだけで親満に変化した。

 

 南一局一本場、数絵の連荘。

 ここでも数絵は順調に手を伸ばし、

「リーチ!」

 攻めにでた。{①}とオタ風の{北}が暗刻の手。そして、

「一発ツモ、裏1。4100オール!」

 前局同様にリーチだけの手が、一発ツモと裏ドラだけで親満に変わった。

 

 しかし、南一局二本場。

 数絵は、ここでも順調に手を伸ばして、

「リーチ!」

 先制リーチをかけたが、急遽、靄が立ち込めてきた。穏乃の山支配が復活したのだ。これにより、数絵は、

「(一発ツモならずか…。)」

 前局、前々局のように即ツモ和了りはできなかった。

 和了れなければ、当然、一発目のツモ牌をそのまま河に捨てるしかない。

 この時、数絵の目には、穏乃の背後に火焔が見えていた。まるで蔵王権現のようだ。

「(嘘?)」

 驚きの余り、数絵は、ツモ牌を手から落とした。もともと捨てるつもりだっではあったのだが…。

 その牌は、そのまま河に落ちた。すると、

「ロン。タンピン一盃口ドラ3。12600!」

 それで穏乃が待っていた。

 数絵は、穏乃にハネ満を放銃することになった。

 

 南二局、衣の親。

 靄が次第に濃くなってきた。

 衣にも、穏乃の支配力が強大になっているのが分かった。

 自分の親番である以上、衣だって何とかしたいところ。しかし、支配力がまだ復活してくれない。

 いつも能力に頼っていたため、いざ能力が封印されてしまうと、衣は相手の手の高さも、待ち牌も完璧に読むことができなかった。

 その結果、

「ロン。7700。」

 衣は、穏乃に{258}の三面待ちのタンピンドラ2に振り込んでしまった。

 

 これで、各校点数は、

 1位:龍門渕高校 144800

 2位:阿知賀女子学院 137900

 3位:白糸台高校 67800

 4位:臨海女子高校 49500

 龍門渕高校と阿知賀女子学院の点差は6900点。射程圏内。とうとう、穏乃が衣の背中を捕らえた。

 

 南三局、淡の親。

「(絶対安全圏プラスダブリー!)」

 親番での稼ぎに期待し、淡は、能力を全開にした。しかし、絶対安全圏も配牌聴牌も、両方とも発動しない。穏乃の支配によってキャンセルされたのだ。

「(こいつ、やっぱり憎たらしい!)」

 淡は、普通に手作りして和了るしかない。

 ここで連荘できなければ、淡は、オーラスでトリプル役満を狙いに行くしかなくなる。さすがにそれは、非現実的だ。

 しかし、淡が聴牌する前に、

「ツモ。1000、2000。」

 穏乃に親を流された。

 

 これで、各校点数は、

 1位:龍門渕高校 143800

 2位:阿知賀女子学院 141900

 3位:白糸台高校 65800

 4位:臨海女子高校 48500

 阿知賀女子学院が、龍門渕高校との点差を1900点まで詰めてきた。

 穏乃の逆転条件を満たさない和了りは、数絵か淡から30符1翻のみの出和了りをすることだけ。それ以外なら、何を和了っても衣を逆転できる。

 500オールでも良い。

 衣に、今までないプレッシャーが襲い掛かった。

 

 オーラス。穏乃の親。

 穏乃の頭の中に、秋季大会から今までの軌跡が走馬灯のように甦ってきた。

「(県大会は、一回戦は玄さんが次鋒で他家をトバして終了。

 二回戦は、みんなが削ってくれていたから、私が副将で他家をトバして終了できた。

 決勝戦は、宮永さんが一人で片付けた。

 近畿大会…一回戦は、私は次鋒で出たけど、みんなの足を引っ張っただけだった。

 あの時は、先鋒の憧と中堅の灼さんと副将の玄さんが稼いで、他家をトバして勝ってくれたんだ。

 準決勝は、宮永さんが点数調整してくれて、私のためにお膳立てしてくれた。それで私は、調子を取り戻せた気がする。

 決勝戦は、先鋒前半戦だけで、宮永さんが優勝を決めてくれた。

 この春季大会は、一回戦は宮永さんがダブル役満を和了って試合を決めてくれた。

 二回戦は、憧と灼さん、玄さんで勝ちを決めてくれた。

 準決勝は、宮永さんのお陰で私は楽に大将戦を迎えることができた。

 今までは、私の力じゃない。私以外のみんなの力で勝って来れたんだ。

 この決勝戦は、龍門渕さんの支配に宮永さんでさえ苦しめられた。でも、そこから全てを御破算にしてくれた。

 だから、この大将戦だけは、私の力で勝ってみせる!)」

 穏乃の目に、今までにない活力が湧き上がってきた。

 

 この局も絶対安全圏がキャンセルされ、衣は配牌三向聴。

 手牌は、

 {二四[五]六④⑦⑧357北北白}

 支配力は、南入してから回復のみに従事してきたことが功を奏し、ある程度復活してきていた。場の支配は穏乃に潰されるかもしれないが、相手の手の高さや待ち牌を読み取る能力は健在と言って良い。

 

 一方、穏乃の配牌は二向聴。

 手牌は、

 {一三三六七八②②⑤⑥56南西}

 ここから打{南}。

 

 一巡目。衣はツモ{三}、打{白}。

 手牌は、

 {二三四[五]六④⑦⑧357北北}

 

 二巡目、穏乃はツモ{④}、打{南}。

 手牌は、

 {一三三六七八②②④⑤⑥56}

 これで一向聴。

 

 衣はツモ{⑨}、打{④}。

 手牌は、

 {二三四[五]六⑦⑧⑨357北北}

 これで衣も一向聴。

 

 続いて淡が打{三}。これを穏乃が、

「ポン!」

 珍しく鳴いた。衣の手が早いことを察知しているのだ。

 穏乃は、打{一}。これで手牌は、

 {六七八②②④⑤⑥56}  ポン{横三三三}

 タンヤオのみだが聴牌。

 

 続く数絵のツモは{發}。

 穏乃は、鳴かなければ聴牌できなかったことになる。

 

 衣の次のツモは{4}。

 手牌は、

 {二三四[五]六⑦⑧⑨357北北}  ツモ{4}

 ここで{7}を切れば聴牌。

 しかし、これは捨てられない。穏乃の和了り牌だ。

 仕方なく衣は打{北}。

 

 淡のツモ牌は{6}。打{東}。

 もし、穏乃が鳴いていなければ、この牌で衣は{一四七}待ちで聴牌していたところだ。

 

 穏乃のツモは{一}。これをツモ切り。

 さすがに衣の顔にも残念がる表情が浮かび上がる。

 

 数絵は{中}をツモ切り。

 そして、衣は{七}をツモってきた。ここから打{北}。

 手牌は、

 {二三四[五]六七⑦⑧⑨3457}

 {7}単騎だが、一応聴牌。これで和了れれば優勝。

 

 次に淡は{①}をツモ切り。

 

 そして、穏乃は、

「ツモ。タンヤオのみ。500オール。」

 衣との共通和了り牌である{7}を引いての和了りだった。

 

 開かれた手牌は、

 {六七八②②④⑤⑥56}  ポン{横三三三}  ツモ{7}

 

 これを見て、衣は悔しがると同時に、強大なライバル…穏乃の底力を心の底から称えていた。やはり穏乃の底力は凄いと…。

 

 これで各校点数は、

 1位:阿知賀女子学院 143400

 2位:龍門渕高校 143300

 3位:白糸台高校 65300

 4位:臨海女子高校 48000

 100点棒一本の差で、阿知賀女子学院が逆転優勝を果たした。

 

「「「「ありがとうございました。」」」」

 対局後の挨拶を終えると、大将の四人は、そのまま対局室で待機させられた。

 暫くすると、先鋒から副将までのメンバーと補員、監督、コーチ達が対局室に入室してきた。これから表彰式が行われるのだ。

 

 白糸台高校メンバーの首に銅メダル、龍門渕高校メンバーの首に銀メダル、阿知賀女子学院メンバーの首に金メダルが順にかけられていった。

 優秀選手には、光、衣、玄の三人が選ばれた。

 光は、二回戦での大虐殺振りと、準決勝、決勝での咲との戦いが評価された。

 衣は、言うまでもなく終始一貫した活躍(大虐殺)が、玄は、二回戦の高火力がそれぞれ評価された。

 最優秀選手には阿知賀女子学院の宮永咲が選ばれた。これは、小鍛治健夜プロの鶴の一声で決まったと言って良い。

 健夜が咲の『奇跡の闘牌』を高く評価してくれた結果であったのだが…、まあ、別に健夜が押さなくても、その超人的な活躍から、咲が選ばれておかしくは無いと、誰もが思うところではあった。

 …

 …

 …

 

 

 翌日より、個人戦がスタートした。

 出場権は春季大会出場の32校の選手のみに与えられ、各校8名まで参加できる。ただし留学生は出場不可であった。

 また、参加人数が8名に満たない高校がある場合、卓割れの可能性が生じるが、その場合は1名欠けなら優勝校から、2名欠けなら優勝校と準優勝校から、3名欠けなら優勝校、準優勝校、3位の高校の枠を1名増やして対応する。

 今大会では、8名まで参加者が満たない高校が、よりによって優勝校の阿知賀女子学院(5名)と、準優勝校の龍門渕高校(5名)のみであった。そこで、足りない2名は3位の白糸台高校と、特例で4位の臨海女子高校の日本人選手を1名ずつ増やしての対応となった。

 

 初日は、スイスドロー式の予選、全十回戦が行われ、そこから決勝トーナメントに進出する上位16名を選出する。ただし、強者同士が潰し合わないよう、これまでの戦績をAIが解析して対戦表を作っていた。

 また、人数は四回戦が終わった段階で上位128名に、六回戦が終わった段階で上位64名に絞ることになっていた。

 ルールは、ダブル役満以上の和了りが認められないところを除いて、あとは団体戦の時と同じだった。

 

 咲は、一回戦で池田華菜、中田慧、愛宕絹恵と対戦した。

 一応、対局室までの移動は、迷子対策のため、近くの対局室に向かう同校の選手に付き添ってもらうことにしていた。

 咲が入室すると、華菜と慧が対局前から、

「今後こそ絶対に華菜ちゃんが勝つし!」

「今後こそ絶対に慧ちゃんが勝つし!」

「華菜ちゃんが勝つし!」

「慧ちゃんが勝つし!」

「華菜ちゃんだし!」

「慧ちゃんだし!」

 と、とにかく煩くて敵わなかった。

 それに、もう一人は美人でスタイル抜群な絹恵。間違いなく咲の劣等感を増幅する相手の一人である。

 それで、

「(やっちゃっても、イイよね!)」

 咲のスイッチが入ってしまった。

 

 場決めがされ、起家は華菜、南家が慧、西家が咲、北家は絹恵に決まった。そして、咲以外の三人の選手達にとって、希望も何もない恐怖支配が始まった。

 

 東一局、華菜の親番。

 咲は、慧が捨てた{②}を、

「カン!」

 大明槓し、

「ツモ。タンヤオ嶺上開花ドラ1! 1000、2000!」

 両面待ちで和了った。刻子はなく、符は30符だった。

 ただ、咲の『カン!』の発生で牌が勢い良く副露されてくるのは咲と絹恵の間である。それで、絹恵には、華菜と慧には感じられないプレッシャーがかかってきた。

 

 東二局では、絹恵が、

「リーチ!」

 リーチ宣言牌として捨てた{8}を、

「カン!」

 大明槓し、

「ツモ。タンヤオ嶺上開花ドラ1! 1000、2000!」

 やはり、両面待ちで和了った。ここでも、刻子はなく、符は30符だった。

 また、この場合、絹恵の出したリーチ棒は、リーチが成立しているため咲に持って行かれることになる。

 それと、今回も絹恵には『カン!』による強烈なプレッシャーがかかってきた。正しくは、咲が敢えてプレッシャーをかけているのだろうが…。

 

 東三局、咲の親番。

 ここで咲は、爆発した。

「カン! ツモ! 嶺上開花タンヤオ対々三暗刻三色同刻! 8000オール!」

 ここでも、絹恵に強大なエネルギーが襲い掛かる。それは、まるでワニが大きな口を開けて突っ込んで来るような雰囲気だ。恐ろしくて堪らない。

 

 東三局一本場。

「カン! ツモ! 嶺上開花混老対々三暗刻小三元。12100オール!」

 そして、絹恵にかかる恐怖は、さらに大きさを増して行く。ホオジロザメに襲われる気分だ。

 

 東三局二本場。

「カン!」

 この咲の発生と同時に、

「ひっ!」

 絹恵は恐怖のあまり声を漏らした。例えるなら、ティラノサウルスが、これから自分を味見しようとしているみたいな、そんな感じだ。生きた心地がしない。

 そして、咲は、そのまま嶺上牌を引くと、

「ツモ! 嶺上開花赤1。50符2翻で1600オールの二本場は、1800オール!」

 この和了りで、華菜、慧、絹恵の三人は、残り100点のみになってしまった。

「(華菜ちゃん、全然和了れないし! 聴牌すらできてないし!)」

 と華菜は心の中で叫び、

「(慧ちゃん、全然和了れないし! 聴牌すらできてないし!)」

 と慧は心の中で叫び、

「(どうしよう。身体が震えて、急にトイレに行きたくなってきちゃった…。それに、チャンピオン怖いし…。)」

 と絹恵は心の中で言葉を発していた。もう、涙が出かかっている。

 

 そして、東三局三本場。

 咲は八巡目に慧が捨てた{①}を、

「カン!」

 大明槓した。

「ひぃっ!」

 咲の発するエネルギーで恐怖する絹恵。

 そんなのお構い無しに、咲は嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 {②}を暗槓した。

「ひぃぃっ!!」

 さらに震える絹恵。

 そして、咲は次の嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 {③}を暗槓した。

「ひぃぃぃっ!!!」

 その恐怖に、もう耐えられない様子の絹恵。

 そして、咲は、そのさらに次の嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 {④}を暗槓した。

「ひぃぃぃぃっ!!!!」

 ヤバい。これは、絶えられない。もう、怖くて、さっさとここから逃げ出したい。そんな言葉が絹恵の頭の中を駆け巡った。

 咲は、そんな絹恵を横目に嶺上牌を掴み、

「ツモ。四槓子。16300オールです。」

 {[⑤]}での嶺上開花…俗に言う五筒開花を決めた。

 

 華菜と慧は放心状態になった。いきなり箱下16200点。

 25000点持ちの30000点返し。ウマは無いが、オカがついてマイナス46からのスタートとなった。

 対する咲は、プラス138点。とんでもない点数だ。

 この様子を見た放送ディレクターは、

「これはヤバイやつだ。放送席に切り替えろ!」

 慌てて咲のいる対局室の映像を、これ以上放送継続しないよう指示を出した。インターハイ個人戦でもあった…奈良県大会決勝戦でもあった、あのお約束だ。

 案の定、絹恵は、

「チョロチョロチョロ…。」

 この直後に、括約筋が緩み出してしまった。これは、もう自分の力では止められない。そして、ここから一気に放出される。

「ジョー………。」

 そのサッカーで鍛え抜かれた下半身から、凄まじい勢いで聖水が放出され、絹恵の足元には、黄金色の泉が形成された。

 個人戦は、一回戦からとんでもない幕開けとなった。




個人戦予選おまけ
ここからも失禁者が出ますので、趣味に合わない方はスルーしてください。


 個人戦初日は、スイスドロー式の予選、全十回戦が行わた。
 ルールは、ダブル役満以上の和了りが認められないところ以外は、団体戦の時と同じであった。
 決勝トーナメントに進出できるのは上位16名のみ。

 一回戦で、咲は、風越女子高校の池田華菜、新道寺女子高校の中田慧、姫松高校の愛宕絹恵を対戦し、咲は全員芝棒一本(100点)のみにした後、親の役満をツモ和了りし、全員をトバした。
 これにより、華菜、慧、絹恵の三人はマイナス46点、咲はプラス138点を記録した。

 二回戦での咲の相手は、千里山女子高校二条泉1年生、射水総合高校寺崎弥生1年生(寺崎遊月妹)、昨日ようやく熱が下がった渋谷尭深2年生の三名だった。
 弥生は、
「団体戦では、総合力がモノを言うから私達は勝てなかったけど、個人戦は個人の力量のみが決め手。誰が最強か思い知るとイイ!」
 と咲に向かって負けフラグ的な台詞を言い放った。
 一方、泉は、
「高一最強はうちや!」
 と、お約束の台詞を口に出した。これも負けフラグであることは言うまでもない。
 この二人の言葉を聞いて尭深は、
「(高校生最強の魔物に向かって余計なことを…。私もマイナス46点を覚悟しなきゃいけないかな。)」
 と思っていた。冷静な思考だ。
 尭深は、湯飲みをサイドテーブルの上に置いた。この対局では利尿作用に繋がる物は一切口にすべきでは無いとの判断からだ。

 弥生は、インターハイの少し前から、ある能力に目覚めた。しかし、団体戦メンバーも補員も県予選前に登録するため、その時点での成績で弥生は篩にかけられていた。残念ながら能力開花は、メンバー登録の後だったのだ。
 それで、インターハイでは団体戦メンバーどころか、補員にすら入っていなかった。
 でも、今は違う。2年生の時にインターハイ個人戦で15位になった姉、遊月よりも確実に強いと自負している。
 事実、能力開花してからは姉に一度も負けたことは無い。それで、今では、魔物と称される宮永咲や天江衣を超える力が備わっていると勘違いしていた。
 当然、咲が世界大会で活躍したのが気に入らなかったし、本大会で咲が最優秀選手に選ばれたことも、弥生としては面白くなかった。
「(チームさえ強ければ、あの場に立っていたのは自分だったかもしれないのに…。)」
 との思いが強かったのだ。自己評価だけは妙に高い。
 そういった背景から、弥生は咲に確実に勝てる気でいた。

 場決めがされた。
 起家は弥生、南家は尭深、西家は咲、北家は泉に決まった。

 東一局、弥生の親。
 泉は、好配牌に恵まれ、しかもツモが配牌と巧く噛み合い、序盤から、
『絶好調!』
 と強く感じていた。そして、聴牌して即、
「リーチ!」
 積極的に攻めた。すると、これを見て、弥生が不敵な笑みを見せた。
 弥生は、聴牌すると壁牌にある自分の和了り牌の場所が分かる。これが、インターハイの少し前に開花した能力だった。
 ただ、全ての和了り牌の位置が分かるわけではない。常に壁牌の中のツモ牌に近い二枚しか見えなかった。
 それでも、一枚目を見送れば、二枚目と三枚目が見られるようになるわけだし、一枚目の和了り牌を見逃しても、次にツモれることが分かっていれれば、戦略的に見逃すことも出来る。
 和了り牌が見えなければ壁牌にはなく、誰かが持っていることになるし、それならば下手にリーチをかけすにダマで待ったほうが良い。聴牌形を変えるのもありだ。
 衣からすれば、
「衣のほうが、支配力が遥かに上だ! 大したことは無い!」
 と言うだろうし、一巡先が見える園城寺怜からも、
「そんな能力、うちなら十分回避できるわ!」
 と言われるに違いない。
 竜華も洋榎も、
「ゾーンに入れば全部見抜けるで!」
「そんなん、和了り牌が全部見抜けて打ち回しが得意なうちにとってはカモや!」
と言い放つだろう。
 照なら、
「その前に和了る。」
 と言いそうだ。
 しかし、世の中一般の非能力者からすれば、明らかに弥生の能力にはアドバンテージがあるだろう。

 射水総合高校には能力者がいなかった。つまり、自分以上の怪物はいなかったのだ。それで、弥生は自分を過信した。
 不幸なことに、咲や衣のような魔物と称される者達の本当の力を知らずにいたのだ。
「(次の千里山のツモ牌が私の和了り牌だね。)」
 聴牌していたのは泉だけではなかった。既に弥生も聴牌していたのだ。
 しかも、タンピン一盃口ドラ3の親ハネの手。ここにリーチ一発が付けば親倍。もし、これを泉が振り込めば、泉は、一気に点棒全てを失うことになる。
「リーチ!」
 弥生が追っかけリーチをかけた。これで、弥生は自分の勝利を確信していた。
 尭深が、一発回避で弥生の現物を捨てた。すると、
「ロン。平和のみ。1000点です。」
 咲が尭深から和了った。

 東二局、尭深の親。
 ここでも泉が、
「リーチ!」
 懲りずに先制リーチをかけた。配牌の良さ、ツモの良さからツキは自分にあると思っていたからだ。当然だろう。
 すると、
「リーチ!」
 弥生が、すぐに追いかけた。彼女には、次こそ12000を泉から直撃できる自信があったのだ。しかし、
「ロン。1000点。」
 またもや、尭深が一発回避で捨てた弥生の現物で咲が和了った。

 東三局、咲の親番。
「(この射水総合の人、なんだか気に食わないんだよね。自分が強いと思い込んでいて。千里山の人もそうだけど、どっちかと言うと射水総合の人のほうが酷いかな。お姉ちゃんの高校の人には悪いけど、今回も、ヤっちゃっても、イイよね。)」
 咲の背後にドス黒いオーラが立ち込めた。
 この局、泉も弥生も前局のようには手が進まなかった。急にツキが落ちた感じだ。
 実際には、咲の支配力によって、そうなっていたのだが…。

 七巡目、
「カン!」
 咲が西を暗槓した。
 この時、能力者の弥生は、咲から恐ろしいほど強烈なオーラを感じ取った。まるでワニかライオンに頭からガブリと噛み付かれたような、そんな恐怖だ。そして、
「ツモ。嶺上開花。四暗刻。16000オール。」
 当たり前のように、咲は嶺上開花で和了った。しかも役満。
 これで、咲以外の三人の点数は7000点まで落ち込んだ。

 東三局一本場、咲の連荘。
 ここでは咲が、
「ポン!」
 尭深の第一打牌、中を鳴き、数巡後、
「カン!」
 中を加槓、さらに、
「もいっこ、カン!」
 東を暗槓した。そして、
「ツモ。嶺上開花! ダブ東中混一。6100オール。」
 これで、咲以外の三人の点数は900点になった。もう、リーチもかけられない。

 東三局二本場。
 誰もが、この局で決着がつくと思っていた。
 しかし、スイッチの入った咲は、そんな甘い考えは持っていない。ここで一気に勝負を決めようとはせず、
「ツモ、平和。700オールの二本場は900。」
 点棒全てを奪うと言う、三人にとって一番悲惨な状況を作り出した。地獄を長く味わえとでも言いたげだ。
 尭深は、
「(もう、この二人が余計なことを対局前に言うから、こっちが余計な被害を受けたじゃない!)」
 と思っていた。これは、あながち間違いではない。
 弥生と泉が対局前に、
「「自分が最強!」」
 とか言って咲のスイッチを入れてしまったのが悪いのだ。

 そして、東三局三本場。
 ここでも泉と弥生は中々手が進まない。
 しかも0点。
「(何とか和了らなくては…。)」
 と焦る弥生が切った①を、
「カン!」
 咲が大明槓した。
 この時、弥生は、咲から四暗刻を和了った時よりも、さらに強大で攻撃的な強いオーラを感じ取っていた。
 恐竜を絶滅させたのと同じスケールの巨大隕石が頭上に落ちてくるような感覚、逃げ道のない恐怖だ。
 ここまで来ると、死を恐怖するのではなく、死を覚悟するしかない。
 咲は、嶺上牌を引くと、
「もいっこ、カン!」
 連槓で②を暗槓し、
「もいっこ、カン!」
 さらに、嶺上牌を引くと、連槓で③を暗槓した。
 咲のオーラが最高状態になった。言うなれば、小惑星激突の瞬間だ。巨大なエネルギーが四方を吹き飛ばす。
 そして、次の嶺上牌…(⑤)を引いて、
「ツモ。清一対々三暗刻三槓子赤1嶺上開花。16300オールです。」
 昨年夏の長野県大会で衣に責任払いさせた手と同じ和了りだ。
 次の瞬間、咲の対局映像は放送席のほうに切り替えられた。報道側の配慮だ。
 案の定、
「チョロチョロチョロ…。」
 弥生の足下には、
「ジョー………。」
 巨大な池が形成されていた。
 自分と咲の格の差を思い知らされたところはあったが、それ以前に、弥生は、ここまで迫力あるオーラに晒されたことがなかった。
 その恐怖からなのか、それとも、その恐怖から対局終了と共に解き放たれた安堵からかは分からないが、括約筋が緩んでしまったのだ。
 もう、何も考えられない。放心状態である。

 一方、泉と尭深は、ヤラかさずにいられた。
 ただ、二人は耐えたと言うよりも、咲が、最も気に食わない弥生一人に照準を合わせていたため、余波は点棒だけで済んだ…つまり、咲のオーラを受けずに済んだと言うのが実情であった。

 これで、弥生、泉、尭深はマイナス46を喰らい、咲は、一回戦に続き、またもやプラス138を獲得した。
 これで、咲は二回戦合計でプラス276点と、例年であれば既に予選を勝ち抜き、決勝リーグに進むだけの点数を獲得していた。
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