個人戦一回戦で、咲はスイッチが入ってしまった。
それ以降、最強状態が続き、予選全十回戦で合計プラス1382点をマークした。小鍛治プロがインターハイ個人戦の予選全十回戦で叩き出した記録を大きく更新する大記録だ。
ギネスブックに申請するだのしないだのと言う議論が、外野の中で勝手に湧き上がってくる始末だった。
対戦相手の中には、高一最強を自負(?)する泉もいたが、その勝気な泉でさえ、
「もう麻雀牌を見たくない!」
と言い出すほど、咲の闘牌は凄まじいものだった。
予選順位は、
1位:宮永咲(阿知賀女子学院)
2位:天江衣(龍門渕高校)
3位:宮永光(白糸台高校)
4位:松実玄(阿知賀女子学院)←オモチ教団『玄(クロ)の組織』代表(黒の組織ではない)
5位:荒川憩(三箇牧高校)
6位:大星淡(白糸台高校)
7位:原村和(白糸台高校)
8位:佐々野みかん(白糸台高校)
9位:鷺森灼(阿知賀女子学院)
10位:南浦数絵(臨海女子高校)
11位:多治比真祐子(松庵女学院)
12位:新子憧(阿知賀女子学院)
13位:鶴田姫子(新道寺女子高校)
14位:多治比麻里香(白糸台高校)
15位:高鴨穏乃(阿知賀女子学院)
16位:片岡優希(臨海女子高校)
阿知賀女子学院と白糸台高校で、16人中10人を占める結果になった。
特に玄は、そのドラ爆体質で下位の者達を蹂躙・虐殺し、結果的にトータルで荒川憩よりも上位につける快挙を成した。
咲が編入したことで、阿知賀女子学院全体のレベルが上がっているが、特に顕著な成長を見せているのが玄であろう。
団体戦2位の立役者である龍門渕透華は、団体戦で治水のエネルギーを使い果たしたのか、個人戦で冷えることはなかった。
咲、光、ネリーの三人同時相手は、さすがに身体にも堪えたと言ったところだろう。なんか、表現がヤラしいが…。
愛宕絹恵(姫松高校)は、一回戦での大敗が尾を引き、30位以内に入るのがやっとだった。また、上重漫(姫松高校)は、爆発しない試合もあり、トータルでは20位以内に入るのがやっとの戦績だった。
1位から4位が、くじを引いてA卓、B卓、C卓、D卓に振り分けられる。
同様に5位から8位がくじでAからD卓に振り分けられ、9位から12位、13位から16位を、それぞれ同じ方法でAからD卓に振り分ける。
各卓から上位二名が二回戦に進む。
A卓とB卓の上位二名ずつが二回戦を戦い、同様にC卓とD卓の上位二名ずつが二回戦を戦う。そして、それぞれの卓から上位二名ずつが決勝戦に進出する。
一回戦と二回戦は半荘一回、決勝戦は半荘二回の戦いとなる。
また、二回戦で敗退した四名が5位決定戦を行う(半荘一回)。
一回戦で敗れた者達も、9位から16位を決める試合を行うことになる。
A卓とB卓の下位二名ずつの計四名で半荘一回を戦い、その上位二名が9位決定戦(半荘一回)に、下位二名が13位決定戦(半荘一回)に進む。
C卓とD卓でも同様のことが行われる。
抽選の結果、決勝トーナメントの割り振りは、以下の通り決まった。
A卓:宮永咲、佐々野みかん、多治比真祐子、多治比麻里香
B卓:天江衣、荒川憩、新子憧、南浦数絵
C卓:松実玄、大星淡、鶴田姫子、片岡優希
D卓:宮永光、原村和、高鴨穏乃、鷺森灼
一回戦は、全卓同時に行われる。
二回戦も同時開催となり、その時に、A-B卓の下位二名ずつの卓と、C-D卓の下位二名ずつの卓の試合も同時開催となる。
その後、5位決定戦、9位決定戦、13位決定戦が同時開催され、その後に決勝戦が開催される運びとなる。
会場に向かう途中、咲は、優希に会った。
優希が、
「咲ちゃん。兵糧を一個あげるじょ!」
タコスをくれた。相変わらず気前がイイ。
「ありがとう。」
咲は、後でゆっくり味わって食べるつもりでいた。その時は…。
それから数分後、隣のB卓で試合をする憧に連れられて(迷子対策)、A卓会場に咲が姿を現した。そこには、既に、みかん、真祐子、麻里香の姿があった。
三人の視線が一斉に咲のほうに向けられた。三人とも敵意剥き出しであった。まあ、インターハイ個人戦以来の確執があるのだから仕方がない。
一方の咲は、
「(三人とも、凄く綺麗で羨ましい。なのに、何で地味な私がこんなに睨まれなくちゃないの? 三人とも絶対に小さい頃から異性に不自由していないタイプだよね、きっと…。私なんか喪女だよ喪女! これは、三人には麻雀を楽しませるべきだよね! うん!)」
予選に続いて、ここでもドス黒いスイッチが入ってしまった。
「(予定変更。優希ちゃん、タコスを有難くいただくね。)」
咲は、もらったタコスの半分を口にした。残りは、一先ず取っておいて後で食べよう。
場決めがされ、タコスパワーを借りた咲が起家、みかんが南家、西家が麻里香、北家が真祐子になった。
咲は卓に付くと、早速靴下を脱いだ。今までの試合でも靴下を脱いでいたのだが、特にこの試合は念入りにしたいとの気持ちが咲の中では強かった。
東一局、咲の親。
咲は、みかんが捨てた{東}を、
「ポン!」
早速鳴いた。そして、数巡後、
「カン!」
{東}を加槓した。この発生と同時にプレッシャーがかかるのは、咲が牌を副露するほうにいる選手…みかんだ。
しかし、部内で咲と同じ遺伝子を持つ光と、みかんは何回も対局している。超魔物との戦いには免疫があるほうとの自負がある。
みかんは、まだ十分耐えられると実感していた。
咲は、嶺上牌を引くと、
「もいっこ、カン!」
{一}を暗槓した。そして、さらに嶺上牌を引くと、
「もいっこ、カン!」
{⑨}を暗槓した。次の嶺上牌は{中}。これで、
「ツモ。ダブ東混老対々三暗刻三槓子嶺上開花。12000オール!」
いきなり連槓からの親の三倍満ツモ和了りだ。既に咲はパワー全開であった。
この連槓で、真祐子の頭の中に、インターハイ個人戦での恐怖が甦ってきた。あの恐ろしい迫力にヤラれたのだ。
東一局一本場。
ここでも咲は、序盤から、
「ポン!」
真祐子が捨てた{⑨}を鳴いた後、
「ポン!」
みかんが捨てた{白}を鳴いた。そして、次巡、
「カン!」
咲は{⑧}を暗槓した。引いてきた嶺上牌で、
「もいっこ、カン!」
{⑨}を加槓しすると、その次の嶺上牌…{白}を当然、
「もいっこ、カン!」
咲は、加槓した。そして、さらに咲が嶺上牌…{中}を引いたその時だった。麻里香は、咲と目があった。
その瞬間、麻里香は、全てを喰らい尽くす巨大肉食獣にロックオンされたような恐ろしさを感じた。
一方、咲は、当然の如く、
「ツモ!」
二連続で嶺上開花を決めた。
「小三元混一対々三槓子嶺上開花。12100オール!」
これで、みかん、真祐子、麻里香の持ち点は、三人とも900点になった。もう、リーチすらできない。
東一局二本場。
ここでは、麻里香が捨てた{7}を、
「カン!」
咲が大明槓した。そして、そのまま、
「ツモ! 嶺上開花のみ。40符1翻の700オールの二本場は、900オール!」
まさか嶺上開花のみで和了ってくるとは…。これは、嶺上牌が見えていないとできないことではないだろうか?
しかも、これで、みかん、真祐子、麻里香の三人は、揃って点数が0点になった。完全なる点数調整だ。さすがに、これには三人共、背筋に冷たいものが走った。
そして、東一局三本場。
咲の気迫が、より一層強くなった。最大パワーを発揮しているのだろう。
最初に聴牌したのは、みかんだった。しかし、役無し。リーチをかけようにも100点棒すらないこの状況。
和了り牌をツモれるのを期待するしかない。
続いて、真祐子、麻里香が聴牌した。しかし、みかんと同様に役無しだ。ツモのみで和了るしかない。
こんな中、咲は、堂々と三人の和了り牌を捨てた。そして、中盤に差し掛かったその時だった。
「カン!」
咲が{東}を暗槓した。そして、嶺上牌を引くと、
「もいっこ、カン!」
続いて{南}を暗槓した。さらに、嶺上牌を引くと、
「もいっこ、カン!」
今度は{發}を暗槓し、続く嶺上牌で、
「もいっこ、カン!」
連槓で、{西}を暗槓した。もう、この光景に真祐子は血の気が引いて放心状態になった。
王牌には、最後の嶺上牌が残っていた。咲は、これを掴むと、
「ツモ! 小四喜字一色四暗刻四槓子。16300オール。」
四倍役満を和了った。{北}単騎だ。
これで、みかん、麻里香、真祐子のトビで終了した。これにより、A卓は、咲と…席順でみかんが二回戦進出となった。
ダブル役満以上が認められないルールだったが、それでも、この四倍役満は、他家三人に強烈な精神的ダメージを食らわした。
みかんは、咲が槓する度に、強烈な重圧を感じていた。何とか耐えたが、本当は相当ヤバそうな状態だ。今も、股を手で押さえて何とか凌いでいる。
しかし、隣では麻里香が、対面では麻里香の姉の真祐子が、顔を赤らめて俯いていた。
もしかして、これは!
「「チョロチョロチョロ…。」」
二人の括約筋は、既に緩んでいた。これは、もう全てを出し切るまで自分の力では止めることができない。
そして、そのままダムが一気に決壊する。
「「ジョー………。」」
ただ、これを予測してか、既に咲が四倍役満を決めたところから、映像は放送席に切り替えられていた。報道側の対応も早かったのだ。
「(姉妹でやっちゃったか…。)」
みかんは、一先ず、
「あ…ありがとうございました。」
対局後の一礼をすると、
「じゃあ、麻里香。ジャージ持ってくるから、ちょっと待っててね。あと、麻里香のお姉さんも…。」
急いで対局室を出て行った。一旦トイレに寄ってから控室に向かうことだろう。
咲も、
「ありがとうございました。」
と言いながら、ペッコリンと頭を下げると、静かに対局室を出て行った。
ただ、迷子になるとマズイので、対局室を出たところで、隣の部屋で行われているB卓の試合…憧の対局が終わるのを待つつもりでいたのだが…。
一方、そのB卓では、起家が数絵、南家が憩、西家が衣、北家が憧で対局がスタートしたのだが、いきなり東一局で、
「ロン!16000!」
衣が東場で弱い数絵を直撃し、続く東二局で、
「ツモ! 6000オールですぅ!」
憩がツモ和了りした。そして、東二局一本場で、
「ロン!12300!」
衣が数絵からハネ満を和了り、数絵が得意な南場まで回ることなく、数絵のトビで、あっと言う間に終了した。結果的に、憧は、ただ、その場にいるだけの人となった。
実は、A卓よりもB卓のほうが早く終わっていた。
以上の結果、B卓からの二回戦進出者は衣と憩に決まった。咲は、長時間、憧を待つつもりであったが、逆に憧を待たす結果となった。
C卓は、玄にドラが集まる以上、淡はダブルリーチを封印し、絶対安全圏プラス早和了りだけで勝負することにした。
槓裏が玄の支配下にあるのか淡の支配下にあるのか興味が持たれたが、玄が聴牌する前にさっさと和了る。淡は、勝つために、その戦法に出たのだ。
優希も、東場での勝負をかける。スタートダッシュで一気に点数を重ねる方針だ。
起家は、当然のことながら毎度の如く優希、南家は淡、西家は玄、北家は姫子で対局がスタートした。
「(絶対安全圏!)」
最初から、淡は能力を発動した。しかし、
「ダブルリーチだじぇい!」
この局、優希には、絶対安全圏が効かなかった。タコスパワー最大放出により淡の能力を吹き飛ばしたようだ。
結局、
「一発ツモ! 8000オールだじぇい!」
ダブルリーチ一発ツモタンピン三色。ドラ無しでこの破壊力。なんと言う簡単麻雀だろうか?
しかし、東一局一本場では、淡の絶対安全圏が優希の配牌にも影響を及ぼした。
この局は、
「チー!」
淡が鳴いて手を進め、
「ロン! 東南混一。8300!」
玄から和了った。
東二局、淡の親番。
ここでも、
「ポン!」
淡が早々に鳴いて手を進め、
「ツモ。2000オール!」
絶対安全圏内で淡がツモ和了りした。
東二局一本場では、
「リーチだじぇい!」
絶対安全圏を越えると同時に優希がリーチをかけ、
「ロン! 一発だじぇい!」
玄から直取りした。
「メンタンピン一発一盃口。8300!」
これで玄は、-8000-8300-2000-8300でトビ終了となった。その結果、この卓からの二回戦進出者は淡と優希に決まった。
D卓は、白糸台高校vs阿知賀女子学院の対決。
しかも、和は旧阿知賀女子学院メンバーでもあるし、光は、阿知賀女子学院のエース咲の従姉妹である。
これはこれで、観戦室の人達の興味を惹いた。
起家は穏乃、南家は灼、西家は和、光が北家で対局がスタートした。
東一局は、
「リーチ!」
五巡目に和が先制リーチをかけた。そして、一発回避で灼が捨てた和の現物で、
「ロン。タンピンドラ4。12000!」
光が和了った。
東二局も、
「ツモ! メンホンツモドラ2。3000、6000!」
光がツモ和了りした。
東三局、和の親番では、
「リーチ!」
光が先制リーチをかけ、
「ツモ。リーツモジュンチャン一盃口ドラ2。4000、8000!」
三巡後に倍満をツモ和了りした。
東四局、光の親番。
この辺りから穏乃の山支配のスイッチが入る。
たしかに、光の手の進みも今までに比べて遅い。
そして、
「ロン。平和タンヤオドラ1。3900。」
穏乃が和了った。
「灼さん、済みません!」
これで、灼は、-12000-6000-4000-3900でトビ終了となった。
その結果、D卓からは、光と穏乃が二回戦進出となった。
このように、A~D全卓で、決勝リーグにしては珍しく、早々に決着がついてしまった。
おまけ
個人戦予選続き
今回も失禁者が出ますので、趣味に合わない方はスルーしてください。
光は、一回戦で当然のごとく暴れた。
その半荘、彼女は北家でのスタートだった。
東一局、
「ツモ! 中北ドラ4。3000、6000。」
光が和了った。
東二局も、
「ツモ! タンピンツモ一杯盃ドラ2。3000、6000。」
光が和了った。
東三局も、
「ツモ! 東南混一ドラ2。3000、6000。」
光が和了った。これで和了り役の翻数上昇を見せながら三連続和了だ。
そして、東四局、光の親番。
当然の如く、
「メンタンピンツモ三色ドラ2。8000オール。」
光が倍満を和了り、続く東四局二本場も、
「メンホンツモダブ東チャンタドラ2。8100オール!」
またもや光が倍満を和了り、全員トビで終了した。光の相手は、箱下3100点。三人ともオカがついて、得点はマイナス33だった。
よって、光はプラス99。
光の迫力に、対局者達は
「「「チョロチョロチョロ…ジョー…。」」」
失禁した。三つの黄金色の泉が重なり、巨大な湖を形成した。
相手は、魔物のオーラをまともに浴びた事のない者ばかりである。この展開は、当然かもしれない。
この個人戦では、女性スタッフの進言で、ヤバそうなプレイヤーのために紙オムツが用意された。病院とかで使うものと同じだ。
光や咲、衣との対局で漏らしても大丈夫なようにとの配慮だった。
しかし、
「自分は大丈夫!」
と言って紙オムツを着用しようとする者は一人もいなかった。
紙オムツを着けると言うことは、打つ前から負けを認めるようなものだ。しかも、女子高生だ。率先して着けたがる選手はいなかった。これも、当然のことだろう。
光は、意気揚々と対局室を出た。
「これなら、まず一回戦全体でも1位は確実かな。」
三人トバしである。オカありでもウマなしで、しかもトバし点もないルールだが、普通なら参加者252人中ダントツトップだろう。そう、これが普通の大会なら…。
モニターに映し出された順位表には、
『3位:宮永光 99点』
の文字が記されていた。
「えっ? 3位って?」
光が、その上の名前を見ると、
「2位:天江衣 112点」
さらに、
「1位:宮永咲 138点」
思わず、光は、
「ナニこれ? こいつら、ナニやったの?」
と叫んだ。当然の反応だろう。
衣は、南家スタートで、上家にハネ満、下家に親満、対面に親満一本場を順に直撃し、その後、親倍二本場ツモ、親三倍満三本場ツモで、プラス112を叩き出していた。
一方の咲は、全員を100点にした後に、親の役満をツモ和了りした。それで、全員をマイナス46にし、自身はプラス138を獲得していた。
そして、個人戦二回戦。
ここでも咲は、先ほどの一回戦と同様の展開で、プラス138を叩き出した。その結果、衣、光との差をさらに広げた。
そして、個人戦三回戦での咲の相手は、越谷女子高校の水村史織1年生、白糸台高校の亦野誠子2年生、千里山女子高校の船久保浩子2年生だった。
浩子は、
「(泉に続いて私もか…。今まで稼いだ分を全部溶かしてしまわないようにしないと。)」
と思っていた。冷静に自分の立ち位置を理解していたと言える。
誠子も、
「(せめて箱割れだけは回避しないと…。)」
と思っていた。これも判断としては正しいだろう。
一方、史織は、
「チャンピオンが相手だなんて、いやーん!」
と声に出してしまった。しかも、妙にかわい娘ぶっている。多分、彼女の一挙一動は、非常に男受けするのだろう。
これを聞いて、咲は、
「(何、この娘。化粧が濃くて…。なんか、男子と遊んでそう…と言うより、男子で遊んでそうな顔してる。こっちなんか喪女だよ喪女。こいつ、絶対潰す!)」
頭の中で魔物スイッチが入った。そして、最強のパワーを出すために靴下を脱いだ。
場決めがされ、起家は浩子、南家は誠子、西家は咲、北家は史織と決まった。
東一局、浩子の親。
浩子は、中盤で聴牌した。平和タンヤオドラ1で5800と、東初としては上々の手。連荘狙いで、ここはダマで待つ。
ここに引いてきた中。一枚切れだ。
「(これならカンされないし、大丈夫か?)」
そう思いながら浩子が中をツモ切りした。すると、
「ロン。中一盃口ドラ2。8000です。」
この牌で咲に和了られた。
待ちは、一枚切れの西とのシャボ。西家なので、どちらで和了っても満貫だ。
東二局、誠子の親。
ここで誠子は、
「ポン!」
得意の鳴き麻雀で連荘を目指す。三つ鳴けば和了れる能力を持つ。河から牌を釣り上げると言われ、フィッシャーとの異名を持つ。
誠子は、その二巡後にも、
「チー!」
浩子の捨て牌を鳴き、さらに、その次巡、
「ポン!」
咲の捨て牌を鳴いた。ただ、これが咲の仕掛けた罠とも知らずに…。そして、ここで誠子が聴牌を取って捨てた牌で、
「ロン。タンピン三色ドラ1。8000。」
咲が和了った。
東三局、咲の親。
「リーチ!」
咲が、いきなりダブルリーチをかけた。そして、一発目のツモで、
「カン!」
暗槓し、そのまま嶺上牌で、
「ツモ!」
和了った。浩子も誠子も史織も、この局は一枚しかツモっていない。実際、何もしていないのに等しい。
咲に簡単に和了られてしまった感じだ。
「ダブリーツモ嶺上開花。4000オール!」
しかも、ドラも無ければ役もダブルリーチのみ。そこにツモと嶺上開花が付いて親満になった和了りだ。
他家からすれば、なんともヒドイ和了られ方だ。意気消沈する。
東三局一本場、咲の連荘。
ここでも、
「ロン。白チャンタ。7700の一本場は8000。」
咲が和了った。今度は、面前手を史織から直取りした。
これで、浩子、誠子、史織の三人は、全員持ち点が13000点となった。
そして始まった東三局二本場。
ここは、
「ポン!」
咲は、史織が捨てた②を早々に鳴き、その数巡後に、
「ツモ。タンヤオのみ。500オールの二本場は700オール。」
安手をツモ和了りした。
嶺上開花どころか、槓すらしていない。
観客の殆どは、咲の対局で期待するのは華麗なる嶺上開花。ところが、この対局では、それが一回しか披露されていない。
多くの人が、これは、咲の連荘狙いの安和了りと思った。しかし、浩子だけは、違う考えを持っていた。
「(チャンピオンは、どうして使えそうな赤牌を早々に切ってる? これって、わざと点数を下げてないやろか? これって、もしかして…。)」
浩子は、咲が頭の中で描いているであろう地獄絵図に気が付いた。これは、何としてでも阻止しなければならない。それをヤラれては困る。
しかし、東三局三本場。
咲は、
「ポン!」
史織が捨てた東を鳴き、続いて誠子が捨てた1を
「ポン!」
鳴いて二副露した。その次巡、
「カン!」
咲は、1を加槓した。かなり気合いが入っている。その強大なエネルギーが、副露された牌を通じて咲の下家…史織のほうに飛んでくる。
まるで、ワニが巨大な口を開けて史織の方に向かってくるような恐ろしさだ。
嶺上牌は東。当然、咲は、これも、
「もいっこ、カン!」
加槓した。さらに強大なエネルギーが史織を襲う。まるで、史織の腹に喰らい付いたワニがデスロールしているかのような恐怖を与える。そして、次の嶺上牌で、
「もいっこ、カン!」
今度は①を暗槓し、
「ツモ。ダブ東混老対々三色同刻三槓子嶺上開花。12300オール!」
さらに次の嶺上牌で、当然のように嶺上牌で和了った。しかも、親の三倍満。
これで、浩子、誠子、史織の点数は、ものの見事に全員0点になった。そう、浩子は、この点数調整を予感していたのだ。
咲の連槓によって受けたエネルギーに怯え、史織は震え出した。
しかし、咲は、『男子で遊んでいそうな雰囲気』と認定した史織への攻撃を緩めることは無い。容赦はしないのだ。
東三局四本場。
もう、史織は逃げ出したい一身だった。そして、彼女が何も考えずに捨てた北で、
「ロン!」
咲が和了った。
この時、咲から放たれてくるオーラは、まるでホオジロザメが巨大な口を開けて史織に向かって一直線に突っ込んで来るような恐怖を感じさせた。
開かれた手牌は、
東東南南西西北白白發發中中 ロン北
字一色型七対子…大七星。
「四本場で49200!」
これで、史織のトビで終了となった。
モニター画面が、すぐさま対局室から放送席に切り替えられた。いつものお約束だ。そして、史織はと言うと、
「いやーん!」
放水と同時にブリッコ声を上げた。
足元にドンドン広がる池。一度始まると、加速することはあっても自力では止められない事故。さすがに他人には見せられない光景だ。
浩子と誠子は、
「「(マイナス30で済んだ。ラッキー!)」」
と、ホッと胸を撫で下ろした。
史織には悪いが、自分がターゲットにならずに良かったとしか思えなかった。
咲は立ち上がると、
「ありがとうございました!」
と言いながら、明るい表情でペッコリンと頭を下げた。対局後の一礼だ。
そして、急いで靴下を履くと、逃げるように卓から離れた。聖水からなる池を踏みたくないからだろう。
浩子と誠子も同様だった。
「「あ…ありがとうございました!」」
一礼すると、急いで卓を離れた。
咲は、対局室を出ると、隣の対局室で試合をしている玄を待った。
玄のほうも、下位選手が相手でドラ爆が面白いように炸裂し、二人をトバして対局を終了させた。既に、ドラ切りによる後遺症は完治していたのだ。
結果的に、咲が対局室を出てから数分後には、玄も対局室から出てきた。
「玄さんも勝ったみたいですね!」
「咲ちゃん達のお陰なのです。では、赤土先生のところに戻りましょう。」
「はい!」
咲は、玄に手を繋いでもらい、その場を離れた。
四回戦以降も、咲はスイッチが入りまくった。
一応、AIによって対戦表が作られていた。これまでの戦績をAIに解析させて、強者同士が潰し合わないことが狙いだ。
ただ、AIに学習させる際、誰かの趣味がインプットされてしまったのだろうか?
咲の暗黒オーラが立ち込めるような選手が、対戦相手の中に必ず一人はいた。
それで、咲は毎回スイッチが入り、予選の全十対局で最低一人はダムが決壊して聖水を放出し、巨大な泉が形成される結果となった。
ただ、それは咲の対局だけではなかった。衣との対局でも、光との対局でも、咲ほどではないが失禁する者が出た。
その清掃時間も必要となり、本大会は必要以上に時間が押すこととなった。