A-B卓の上位者による二回戦は、宮永咲、佐々野みかん、天江衣、荒川憩の四人で行われることになった。
みかんは、試合前に、きちんとトイレに寄ってきた。姉のいちごと同じ恥ずかしいマネは絶対にしたくないからだ。
対局室に入ると、既に、咲、衣、憩の姿があった。
咲の姿が視界に入ると、どうしても、みかんの目つきが悪くなる。姉の失禁事件を起こした張本人。女子高生雀士最強の怪物、宮永咲。
姉とは仲が悪いので、みかんとしては、別に姉が恥をかいたこと自体を咲にとやかく言うつもりはない。
しかし、そのことが原因で自分が周りから弄られるようになったことは許せない。自分が犯した失態でもないのに、どうしてと思う…。
大人の対応が取れるほど精神的に成熟した年でもない。それで、どうしても咲に対して攻撃的な態度が露わになってしまうのだ。
みかんの表情がよろしくないことに憩が気付いた。
「なあ、どうしたん? 咲ちゃんを睨んでるみたいに見えるけど、何かあったん?」
憩が、そう、みかんに声をかけた。気さくで明るい憩ならではだろう。
「いえ、別に…。」
「たしか、佐々野いちごさんの妹やったかな? 開会式の時も咲ちゃんのほうを睨んでいるように見えたけど、もしかして、インハイ個人戦で、いちごさんがヤッちゃったのを根に持ってるん?」
憩は、言いたいことをガンガン言える性格のようだ。
みかんとしては、別に咲を敵視する理由を他人に率先して答えたいとは思っていなかった。なので、憩にこう聞かれてくるのは余り嬉しいことではない。うまくはぐらかしたいところだ。
「いえ、姉が何をやらかそうと、私には関係ありません。でも…。」
「でも?」
どうやら、一言余計だったようだ。ついうっかり出た言葉だが、この『でも』に憩は食いついてきた。
みかんは、
「いえ、何でもありません。」
何とか誤魔化そうとした。しかし、みかんには何らかの理由が間違いなくあることを憩は確信していた。
「もし、言いたいことがあったら、はっきり言っておいたほうがエエって。まあ、たしかに咲ちゃんは卓に付くと、とんでもなく恐ろしいけどな。普段は、地味で優しい文学少女やし、怖い娘やあらへんで。」
さらに、これに続いて衣が、
「咲は衣の恩人だ。だから、もし咲に問題があるのなら、衣に免じて許してやって欲しいし、何があったのか、良ければ話してもらいたい。」
とみかんに言ってきた。
しかも、それはリップサービスではない。本心から出た言葉のようだ。目がもの凄く真面目だ。
みかんにとっては意外な言葉だ。
「(どういうこと? 天江衣も荒川憩も、宮永に酷い負けを喰らっているのに、宮永のことを仇と思っていない。それどころか、恩人って何?)」
正直、理解できない。
たしかに、和も咲のことを悪く言わない。言うとすれば、相手が和了れていないのを気にして手加減することくらいだ。それで、手加減しないように、友人として和が咲を叱ったとも聞いた。
光も…従姉妹ゆえかもしれないが、咲のことはディスっても本気で悪くは言わない。点数調整のことグチグチ言うことはあるが…、まあ、それくらいだ。
自分が勝手に描いていた咲の像…、弱者をいたぶる破壊神…、失禁させて喜ぶ悪魔…、それとはどうも違う。
いや、頭の中で、それは分かっていたのかもしれない。ただ、自分が姉のことで弄られることへの怒りの矛先を作りたかっただけなのだろう。そうしなければ、自分が精神的に保てないからだ。
みかんが、重い口を開いた。
「私と麻里香は、姉達の事件の後、そのことで周りから色々弄られたんです。」
「麻里香って?」
と咲が聞いた。
「一回戦で戦ったうちの一年。あんたの対面にいた娘のこと。松庵女学院の多治比真祐子の妹…。」
「ああ、あの綺麗な人…。」
「…特に、部内で、私や麻里香に勝てない先輩達から、私も麻里香も、あの失禁事件のことで何かと酷いことを言われで…。」
「私のせいでってこと?」
「そうね…。」
「でも、じゃあ、和ちゃんや光のことも敵視してるの?」
一瞬、みかんが黙り込んだ。今はともかく、たしかに以前は二人を敵視していた。これも今となっては余り言いたくないことだ。
「和は、最初は清澄から来たってことで気に入らなかったけど、でも、先輩達に注意してくれたのは和だった。それで、先輩達からの攻撃が減ってきたのも事実。」
「(和ちゃんらしい…。)」
「光も、あんたの従姉妹ってことで最初は気に入らなかったけど、でも私達、淡に怒られてね。」
「淡ちゃんが?」
「そう…。光は大事なチームメートだってね。うちが勝つためには重要な存在。それに、宮永先輩の従姉妹でもあるし…。それで、まあ、淡に言われたこともあったし、二人のことは、徐々に受け入れていったよ。」
「じゃあ、和ちゃんと光のことは大丈夫なんだね?」
「大丈夫って?…、まあ、別に今は普通に友達だと思ってる。」
「良かった、私だけで…。」
「えっ?」
「だって、私のせいで和ちゃんと光の居場所がなくなったら困るって思ってたから。二人に迷惑かけたくないし。」
「(あれっ?)」
やっぱり、話をしていてイメージと違う。
みかんが頭の中で描いていた咲は、優しさの欠片もない麻雀マシーンに他ならない。
しかし、ここにいる咲からは、そんな野蛮な空気は一切感じない。むしろ、被捕食者的な小動物の雰囲気だ。
「なんか、今の宮永さんって、一回戦の時と全然感じが違うね。」
「違うって?」
「もっと、攻撃的な雰囲気が全身から出ていた感じがあったし…。」
「だって、和ちゃんと手加減しないって約束したし、それに…。」
「それに?」
「失禁事件のことで敵認定されてるってのは分かってたけど、三人とも、すっごく綺麗で人目を惹くような人なのに…。それなのに、なんで地味な私に敵意むき出しで睨んでくる必要があるのかなって。」
「…。」
「正直、三人が綺麗で羨ましくって。それで、嫉妬しちゃったところもあって、変に力が入っちゃって…。」
「嫉妬って…。」
「だって、絶対に、今までの人生で異性に不自由したことなんかないでしょ?」
「ええと…、麻里香はともかく、私は無い無い。」
「えっ? 嘘? 私、佐々野さん以上に綺麗な人って見たことないよ(正直、和ちゃんより綺麗だし…)。」
「それは、言い過ぎだって。私は中学の頃、太ってたし、それで、いつも姉と比べられて…、私が好きだった男子から、
『姉はあんなに綺麗なのに、お前は、どうしてそんななの?』
とか言われたし…。」
「ひどい…。」
「でしょ? それでダイエットしたんだけどね。それと、今は、麻雀が一番で、他は目に入らないし…。それ以前に、男に縁がないけど…。」
咲は、
「(も…もしかして、この人…、美人だけど、実は私と同じ側の人間だったの?)」
急にみかんに親近感が湧いた。
みかんもまた、咲が勝手に想像していた像…、恋愛ヒエラルキーの頂上…、言い寄ってくる男が優しくしてくれるのをイイことに好き勝手やってる女…、男をとっかえひっかえしている女…、とは違いそうだ。
「むしろ、私は麻里香に嫉妬してるけどね。今日、缶のおしるこを三本飲んでるのよ、あの娘。毎日、お菓子ばっかり食べているけど、全然太る気配ないし。」
「えっ? それって、普通じゃないの?」
これはこれで言ってはいけない一言のように思えるが…。
咲の爆弾発言だ。
実は咲も全然太らない体質だったのだ。なので太りやすい体質の人の苦労や苦しみを理解出来ていなかった。
良く良く考えると、菓子好きの照も太っていない。ジュースばかり飲んでいる光も太らない。
恐るべし宮永遺伝子…。
むしろ、みかんのほうが外見的ファクターで咲に嫉妬した瞬間だった。
「麻雀が強くて太らない体質ってこと? あんたのほうが羨ましいわ!」
「へっ?」
咲は、まさか超絶美少女から、そう言われるとは思わなかった。正直、驚いた。
審判の咳払いが聞こえた。そろそろ始めろと言いたいらしい。
「ほな、始めますか。でもまあ、うちだって咲ちゃんと天江さんに勝ちたいから本気で行くで。うちの本気を見て失神せえへんようにな!」
「衣も本気を出すぞ! 咲に負けていられないからな!」
憩と衣の言葉だ。
これは、何気に、二人ともみかんに言っていた。
失禁するくらい強烈なオーラを浴びせる魔物のは咲だけではない。自分達も同じだと言いたいようだ。
場決めがされ、起家が憩、南家が衣、西家が咲、みかんは北家になった。
咲が靴下を脱いだ。最大パワーを発揮するためだ。
憩も気合いが入った表情をしている。目力が怖い。
そして、みかんが、衣の山から手牌を取ろうとしたその瞬間だった。とんでもない圧迫感がみかんを襲った。これで、みかんは吐き気を催した。
「(なにこれ?)」
すると、咲が、
「お姉ちゃんとか光も、これくらいの雰囲気出すでしょ?」
とみかんに言った。
いや、そんなのは知らない。こんな殺気とも言える重圧をみかんに感じさせたのは、今まで咲一人しか記憶にない。
みかんは、
「(もしかして、今まで宮永咲が私達に向けてきた重圧とか殺気って、上位陣では普通のことなの?)」
と思った。
もし、そうだとすると…。照も光も、今まで本気でみかんと打ってくれたことがないと言うことになる。それこそ、巧く手加減されていたと…。
みかんは、ふと、今まで淡が口にした数々の言葉を思い出した。
『テルーもサキも、まあ、光もだけど、似たようなオーラ出すよね。』
『気合いって意味では、穏乃が一番怖いかな。』
『ネリーも執念は凄いけどね。その点ではサキより怖いかも。』
『今回、天江さんもテルーと同じような雰囲気を出してたかな。』
…
…
…
『でも、サキとかテルーとか光とか、天江さんも穏乃もネリーも、打ってて楽しいよ。やっぱり、麻雀は、こうじゃないと!』
…
…
…
認識が甘かった。
正直、みかんには、今の状況は、
「(これ、処刑台だよ!)」
としか思えない。
魔物三人が相手だからと言うのはあるが………、とにかく、この卓の空気そのものが恐怖でしかない。
本当にトップの者達は、こんな重圧を互いに浴びせながら、しのぎを削っているのか?
そう言う意味では、もしかしたら照や光だけではなく、淡も部内戦では自分達に手加減していたのではないだろうか?
恐らく、それが正解だろう。
この雰囲気に負けないくらいでないと、本当の意味で上には行けない。それが認識できていなかった時点で、自分も姉も甘かったと言うことになる。
東一局、みかんは序盤で一向聴まで持って行けたが、その後、中々聴牌に進めない。気が付けば、もう終盤に差し掛かる。
この時、咲の手牌は、
{二二⑥⑥⑥⑥⑧⑧⑧⑧13西} ドラ{1}
一応、一向聴だが聴牌できても、今のところ役無しだ。
ところが、ここから{西}を引き、
「カン!」
{⑥}を暗槓した。
西家の咲の副露は、咲と北家であるみかんの間に晒される。みかんは、自分に向けて強烈なエネルギー波が飛んできたような錯覚を感じた。
今度の嶺上牌も{西}。当然、咲は、
「もいっこ、カン!」
連槓して{⑧}の暗槓を晒した。
まさか、東一局から咲の『もいっこ、カン』が出るとは…。
この言葉は、むこうぶち…傀の『御無礼』と同義語だ。
全てを見切り、相手を狩りに来ている証拠だ。
嶺上牌は、またもや{西}。
「もいっこ、カン!」
自風の{西}を暗槓した。これで三連槓だ。
そして、咲は、次の嶺上牌を掴むと、
「ツモ! 嶺上開花。西三暗刻三槓子ドラ1。4000、8000!」
当然のように嶺上開花を決めた。しかも、倍満ツモ和了りだ。
「いきなり倍満って、咲ちゃんらしいな。それに、うちへの振り込み対策もしっかりやってるし。」
「いや、これは衣対策だぞ!」
憩と衣が何かを言っている。みかんには意味不明だ。
「うちは、一番最初に聴牌した相手から和了れる能力を持ってますぅ。」
「衣は、他家を一向聴から手を進ませない能力があるし、相手の手の進み具合と手の高さも分かる。咲は、役無しの一向聴から、自身の嶺上牌で手が進む能力を利用して連槓で一気に聴牌、和了りへと持っていった。これでは、衣も手の出しようがない。」
「うちもです。」
みかんは、
「(なんか、信じられないこと言ってるけど…。能力麻雀のことは、あの女(いちごのこと)から聞いてはいたけど、この二人の能力…特に天江衣の能力ってナニ?)」
みかんの身近な人間で言えば…、
『淡の絶対安全圏とダブルリーチ槓裏4』
『光の翻数上昇』
『照の打点上昇』
『菫の狙い撃ち』
『誠子の鳴き』
『尭深のハーベストタイム』
いずれも、自分が和了る技みたいなものだ。しかし、憩はともかく、衣が言う能力は自分の知っている能力とはベクトルが違う。和了らせない能力だ。
それが本当なら、絶対にみかんは勝ちようがない。どう足掻いても和了りまで持って行けないのだから…。
しかし、それを打ち破るのが咲。
もしかしたら、これが、あの女の言っていた能力麻雀の最高峰の対局か?
驚いた顔で、みかんはすっかり固まっていた。すると咲が、
「二人同時の対策です。この和了り方でないと憩さんに振り込まされるし、衣ちゃ…、衣さん相手じゃ中々聴牌させてもらえないから…。」
と言った。
つまり、こんな偶然みたいな和了り方を、咲は意図的にやっていると言うことだ。照や光には無い攻め方だ。
ただ、明らかに言えることは、
『次元が違いすぎる』
との言葉だ。
みかんは、さっきまで打倒咲に燃えていたことの無意味さを悟った。淡くらいの力があってはじめて口にできる言葉なのだ。
東二局、衣の親。
この局でも、みかんは序盤で一向聴まで進めたが、そこから先には手を進めることができなかった。衣の言うとおりだ。
中盤、みかんは不要牌の{東}を捨てた。これを、
「ポン!」
衣が鳴いた。次巡、
「チー!」
今度は憩の捨て牌を衣が鳴いた。これで、海底牌をツモるのは衣になる。そして、最後のツモで、
「ツモ。海底撈月ダブ東ドラ3。6000オール!」
憩の『先負に似た能力』を、衣の『海底撈月』の能力が上回っていたのだろう。憩は聴牌した衣から和了ることはできなかった。
東二局一本場、衣の連荘。
ここで衣は、みかんから18300を直取りして準決勝戦を終わらせようとした。しかし、自分が聴牌した直後、上家から強大な聴牌気配を感じた。
「(12000程度か…。しかし、衣が振るわけにも行かない…。)」
ここで衣は、憩の危険牌を掴まされた。衣は、仕方なく聴牌を崩した。すると、
「ツモ! 3100、6100ですぅ。」
憩に和了られた。
やっぱり、笑っているけど目力が怖い。それが、みかんの憩に対する印象だった。
これで現時点での点数は、
1位:天江衣 32900
2位:宮永咲 31900
3位:荒川憩 23300
4位:佐々野みかん 11900
東三局、咲の親番。
ここは、
「ポン!」
咲は{2}を鳴いた。
この時の咲の手牌は、
{3333⑤⑥⑥⑦⑦⑦白} ポン{222}
ここから打{白}。
すると、
「ポン!」
憩が鳴いた。憩からすれば、ここで和了って2位に順位を上げたいところだ。
しかし、次巡、
「カン!」
咲が{2}をツモり、加槓した。{3}を咲が四枚持っている以上、これを槍槓できる人はいないはず。
嶺上牌は{⑥}。すると、咲は、
「もいっこ、カン!」
{3}を暗槓した。次の嶺上牌も{⑥}。これで咲は和了りのはずなのだが、
「もいっこ、カン!」
嶺上開花拒否で{⑥}を暗槓し、続く嶺上牌で、{⑤}を引き、
「ツモ。タンヤオ対々三暗刻三槓子嶺上開花。8000オール!」
当然のように和了った。
これで現時点での点数は、
1位:宮永咲 55900
2位:天江衣 24900
3位:荒川憩 15300
4位:佐々野みかん 3900
衣は、これで2位に後退したが、ある意味、決勝進出するチャンスでもあった。
続く東三局一本場、咲の連荘。ドラは{一}。
ここで衣は、この局一番の支配力を見せた。一向聴地獄。誰にも聴牌させない。
中盤に、
「ポン!」
衣は{①}を鳴いて海底コースにコースイン。そして、
「みかんとやら。東二局でも見せたが、衣には、もう一つ、海底牌で和了る能力がある。」
そのまま誰も鳴けないまま最終ツモまで流れ込み、
「ツモ! 海底撈月ジュンチャン三色同刻ドラ3。」
予告通り、衣が海底牌で和了った。
開かれた手牌は、
{一一一九九11179} ポン{①横①①} ツモ{8}
「4100、8100!」
この時の衣のオーラを浴び、みかんは正直、少し漏らした。出す量が殆ど無かったので、ほんのちょっとで済んだが…。前もってトイレに行っておいたのが功を奏した。
これで点数は、
1位:宮永咲 47800
2位:天江衣 41200
3位:荒川憩 11200
4位:佐々野みかん -200
みかんのトビで終了した。
「どうだ。怖いのは咲だけではないだろう!」
そう、みかんに言いながら、衣は不敵な笑みを見せていた。
「結局、咲ちゃんと天江さんに持って行かれたかぁ。でも、まあ、佐々野さんも、まだ、わだかまりがあるかも知れへんけど、うちらが本気で戦ったらどうなるかは分かってもらえたんちゃう?」
「そうですね。処刑台に立っているような感じでした。」
「でも、言い換えれば、咲ちゃんだって、今まで本気であんた達を相手にしてくれていた証拠やし、舐めて遊んでいたわけやない。これから、うちらみたいに分かり合ってゆけるようになれることを期待するわ。ほな、対局後の挨拶をしよか?」
そう憩に言われて、咲達は立ち上がると、
「「「「ありがとうございました!」」」」
一礼した。
その後、咲は、卓を離れると、何にもないところでつまづいた。
「咲ちゃんらしいなぁ。大丈夫?」
「いつものこととは言え、気をつけろよ、咲。」
憩も衣も、これが普通みたいに言っている。みかんの知らなかった咲の一面…ドジっ娘属性だ。
対局室を出ると、咲は、そこで立ち止まった。
みかんが、
「宮永さん、どうしたの?」
と聞いた。すると、咲は恥ずかしそうに、
「ここで、憧ちゃんを待とうと思って。」
と答えた。
たしかに、隣の部屋ではA-B下位卓…多治比真祐子、多治比麻里香、新子憧、南浦数絵の対局が行われている。しかし、自分達の卓とは違ってトビ終了にはならないだろう。まだ終了までしばらく時間がかかるはずだ。
「まだ30分以上かかるんじゃない?」
「でも、私、すぐ迷子になっちゃうから。」
「迷子?」
「この年になって恥ずかしいけど…。ホント、私って方向音痴だし、泳げないし、何をやってもダメで…。」
「はぁっ?」
みかんは、
『嘘だろ、こいつ!』
と言わんばかりの懐疑的な視線を咲に向けた。
おまけ
個人戦の続きです。
予選では、宮永咲、宮永光、天江衣等の超魔物が大暴れし、失禁者が続出した。特に咲の対戦相手が顕著だった。
時は、予選七回戦が終わったところ。
スタッフA(男)「今回は、例年に比べて、なんか進行が遅いですね。」
スタッフB(男)「まあ、主に阿知賀の宮永選手のアレが原因だけどな。」
スタッフA「ああ、アレですね。」
この会話が、偶々近くを通った和の耳に入ってきた。
和「(宮永選手って咲さんのことですね? でも、アレって何でしょう? 嫌な予感がします…。)」
スタッフB「ああ。宮永選手相手にアレしちゃうのが続出だからな。」
和「(アレするのが続出って? えっ?)」
スタッフB「試合自体は早く終わるんだが、その後だな。アレで時間を食うのは。」
和「(試合後にアレって? えぇっ?)」
スタッフB「特に四回戦では、対戦者三人同時だったしな。」
和「(そ…それって、もしかして4P?…)」
スタッフA「一回戦では、姫松の愛宕絹恵選手でしたよね。ヤっちゃったの。」
スタッフB「あれは、特に激しかったな。たしか、サッカーか何かやってた娘だよな。」
スタッフA「そうです。あの引き締まったワガママボディ。特に下半身が…。」
和「(激しいって…、それに下半身って…、やっぱり、それって…?)」
スタッフB「分かる分かる。」
スタッフA「あんな激しいのも珍しいですよね。」
スタッフB「まあな。」
スタッフA「でも、風越の池田と新道寺の中田は、ヤりませんでしたよね。」
スタッフB「別に興味ないな。あいつら魅力無いし。」
スタッフA「同感です。」
和「(あの二人に関して魅力が無いってことについては、私も同感ですけど…。)」
スタッフB「まあ、何て言うかな。別に宮永選手を責めるわけじゃないんだが、ここまで派手にやられるとな。試合後にあんなことされちゃぁ、あんなの放送もできないし。結構、報道側も苦労してるみたいだ。」
和「(放送できないようなこと? それで、下半身がどうこうって言ったら、やっぱり…アレしか考えられません。)」
スタッフA「後が大変ですしね。(掃除が)」
スタッフB「でも、アレを見て、お前なんか若いし、結構興奮してるんじゃないのか?」
スタッフA「それは否定できませんが…。こっちの身体も反応しちゃいますし…。」
スタッフB「なんだかんだ言いながら、好きじゃねえか、アレ見るの。」
スタッフA「お互い様でしょ。」
和「…。」
和は、咲が対局後に対戦相手とHしていると完全に誤解した。
しかし、そんな状況でも、対局中は頭を切り替えて本戦出場できる戦績を収めたのは見事と言えよう。
そして、決勝トーナメント一回戦の咲の相手は、白糸台高校の佐々野みかん(佐々野いちご妹)、松庵女学院の多治比真祐子、白糸台高校の多治比麻里香(多治比真祐子妹)と決まった。
三人とも、咲に一泡吹かせるつもりだったが、咲の闘牌…その迫力に圧されて、対局終了直後、真祐子と麻里香は失禁してしまった。
みかんは、何とか耐えたが、ヤバそうだったのは言うまでもない。
みかんは、観戦室の白糸台高校が陣取っている場所に来ると、麻里香のカバン(タオルとジャージが入っている)を持って再び対局室に急いだ。麻里香を着替えさせるためだ。
丁度、みかんと入れ違いで和が戻ってきた。
誠子「まさか、麻里香が咲ちゃん相手にヤっちゃうとはな。」
尭深「それも、松庵の多治比さん…、麻里香のお姉さんも一緒になって…。」
和「(えっ? 麻里香と麻里香のお姉さん?)」
尭深「咲ちゃん相手に姉妹でヤっちゃうんだから。」
和「(えぇぇ? もしかして咲さん、今度は姉妹丼ですか?)」
尭深「みかんは、ヤっちゃマズいと思って耐えたらしいけどね。」
和「(みかんさんは、魅力的な咲さんを前にしても我慢してくれたってことですか? でも、それが普通だと思いますが…。)」
誠子「私だって予選で咲ちゃんと当たったけど…、私は、シなかったよ。」
尭深「私も二回戦で咲ちゃんと当たって…。私もシなかったけど…他の人がシちゃったんだけどね…。」
和「(誠子先輩も尭深先輩も、それが普通です…。なのに…麻里香さんは、何故…。許せません!)」
この時、和からは激しい嫉妬のオーラが、勢力(精力)の強い超大型台風のように吹き荒れていた。
それと丁度同じ頃、麻里香は激しい悪寒に襲われていた。まるで、死期が迫っているような、そんな感覚があった。
麻里香「死兆星が見える…。」