咲-Saki- 阿知賀編入   作:おこそとのほもよろを

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四話くらいでインターハイ準決勝が開始できるくらいのスピードにします。そのため、次回から準決勝開始まで『まこの能力(時間軸の超光速跳躍)』を多用することになる予定です。
その後は、キチンと書ければと思います。

まこの多用は、一応『染谷まこの雀荘めし』新連載記念でもあります。


第二部:二年の夏
三十一本場:麻雀の秀才


 阿知賀女子学院麻雀部は、昨年再稼動したばかりだが、インターハイでは準優勝、春季大会では全国優勝の快挙を成し遂げた。

 しかし、部員は団体戦出場人数ギリギリの五名。夏を過ぎれば部長の灼と玄は実質引退する身。

 穏乃は、新入部員確保に向けて自然と力が湧く。

「今年は、どんな子が入ってくるんだろうね?」

「でも、ある程度の力量は欲しいよね。」

 一方の憧は、単に憧れだけで入部されても困るとの考えを持っていた。これは、咲が転校してきた頃から一貫して変わらない。

「そう言えば、憧。」

「何?」

「今年の高等部受験は、受験者が急に増えて偏差値が一気に上がったらしいね。結構、晩成を蹴ってうちに来る子がいたみたい。」

「そうみたいね。なんでも偏差値が一気に73まで上がったとか…(私でも受かるのギリギリじゃん)。逆に晩成は68に下がったって聞いてる。」

 これを聞いて玄は、

「(そんなに頭の良い子が入るなんて…、今までの阿知賀では100%考えられないことなのです! 勉強を教えて欲しいと言われたら困るのです。)」

 と心の中で呟いていた。

 ただ、それだけ出来る子なら他人に聞かずに自分で何とかするだろう。少なくとも玄に聞いてくることだけは無いから安心して良い。

 

 今日は入学式。

 基本的に新人勧誘は明日からになるが、麻雀部への入部を目指して入学して来てくれた子がいるなら、恐らく今日の午後には部室に何人か姿を現すだろう。

 そう思って、咲達五人は部室で待機していた。

 

 予想通り…、なのだろうか?

 早速二名の新入生が、

「「し…失礼します!」」

 オドオドしながら部室に入ってきた。

「小走ゆいと言います。」

「宇野沢美由紀です。」

「「よろしくお願いします!」」

 ゆいは、やや小柄で細身のツインテール。少し猫っぽい雰囲気…と言うかネコ耳が似合いそう。

 対する美由紀は、大きなオモチの持ち主で、同じ名字の麻雀プロに似た顔をしていた。

 ゆいの名字を聞いて、灼はピンと来た。

 まあ、奈良県で麻雀をやっている女子高生なら、たいてい誰でもピンと来そうではあるが…。

 とは言え、同じ名字の知り合いに余り似ていないような…。

 ただ、少なくとも、その知り合いの関係者ではあるような気がした。

「もしかして、晩成にいた小走さんの妹?」

「はい。でも、王者は姉ではなく宮永先輩だと思っています!」

 目力が凄い。凄く真剣だ。リップサービスではなく本心であることが、ヒシヒシと伝わってくる。

 これを聞いて咲は、

「別に私は…王者なんてそんな…。」

 毎度の如くオドオドしていた。チャンピオンの威厳もヘッタクレもなかった。卓から離れると本当に最弱の生物に変わる。

 この対局中とのギャップに、ゆいも美由紀も唖然とした。

 憧は、これを横目に、

「(まあ、いつものことか…。)」

 と思いながら溜め息をついた。

「ええと、宇野沢さんは、もしかして宇野沢プロと関係があるの?」

 この憧の問いに美由紀が答えた。

「はい。妹です。父の転勤でこっちに来ました。姉は大宮で渡辺琉音さんと一緒に住むそうでして…。」

 やっぱり…。その容姿から大体想像はついたが…。顔も体型も姉の宇野沢栞に非常に良く似ている。

 当然、美由紀の胸を見て、

「立派なオモチですのだ!」

 一人喜んだ人間がいる。

 まあ、これも想定の範囲内だが…。

 ただこうなると、今日から玄が美由紀を襲わないか監視する必要があるだろう。それは部長の灼の役目になるのだろうが…。

 早速、灼は頭を抱えた。

 

 

 この日、新入部員は、この二人だけだった。

「おお、上級生はみんないるな!」

 ここに晴絵が入ってきた。その後には、見覚えのある人物がいる。

「早速、新入生が入ったか。実は、今日から晩成女子大の人が阿知賀女子のコーチに来てくださることになった。入って。」

「はい。」

 彼女の姿を見て、咲は硬直した。

 もっとも苦手な相手だ…。

 インターハイで、咲が、もっとも苦汁を舐めさせられた相手。彼女こそ、『麻雀の秀才』の名に相応しい。

「末原恭子です。今年、晩成女子大に入学しました。宮永と全国大会で戦って、自分の凡人さを再認識しました…って、宮永、なに硬直してるん?」

 案の定、咲は恭子の姿を見てカチンコチンに固まっていた。インターハイ二回戦、準決勝戦で刷り込まれたトラウマがあるのだ。

 槓材を潰されたり、ペースを崩されて透けて見えるはずの牌が急に見えなくなったり、散々な目に合わされた。

 あれだけ、色々試してくる相手は、今まで恭子だけだ。

 他の選手には、失禁させた上にトラウマまで植え付ける恐怖の大王が、まるで気弱な小型犬のようだ。

「いえ、あのう…、聞いていなかったもので、驚いてます。」

「まあ、宮永を驚かせたかったんで、赤土先生には黙っていてもらってたんですわ。」

「でも、なんでコーチに?」

「お前と出会ったから…かな?」

「私? ですか?」

 恭子は、高校三年間、愛宕洋榎や園城寺怜、荒川憩と言った大阪を代表する一流選手達を相手に戦ってきた。当然、能力者を相手にした時の不条理さも良く理解している。

 しかし、そのさらに上を行く超化物がいる。

 正直、恭子は、その超化物に麻雀の不条理さや不平等さを感じながらも、実は憧れてもいた。

 言ってしまえば、咲の麻雀に惚れたのだ。

 それで、姫松高校の元監督、善野一美にお願いし、赤土晴絵を紹介してもらったのだ。

「それにしても、まさか前チャンピオンの妹やったとはな。どうりで強いわけやと思った。ただ、その強さが完全無欠じゃないのが私としては悔しい。それは、咲だけじゃなく、高鴨も同じだな。」

 これを聞いて、穏乃が自分を指差した。

「私…ですか?」

「そう…。お前も宮永と同じ気がする。ある意味、もっとヒドイかもしれない。」

「は…はぁ…。」

「まあ、実際に打ってみれば分かるわ。」

 このやり取りを聞いて、晴絵は、

「じゃあ、早速打ってみたら良いよ。」

 恭子と咲、穏乃で卓を囲ませることにした。

 もう一人の面子には、晴絵が入った。ただし、晴絵は入るだけで差し込まないし和了らない。勝負には加わらない立場で打つこととした。

 

 半荘一回勝負。起家は穏乃、南家は恭子、西家は咲、北家は晴絵だった。

 東一局中盤、晴絵は、いつものパターンなら、そろそろ咲が槓を仕掛けると予想した。恐らく暗槓、そして、そのまま嶺上開花で和了るだろう。しかし、その時、

「ポン!」

 穏乃の捨て牌を恭子が鳴いた。それでツモ順がズレて、咲に行くべき四枚目の牌が晴絵に流れた。いや、流したが正しい表現だろう。

 そして、

「ツモ!」

 この局は、恭子が安手を和了った。ただ、鳴いても鳴かなくても同じ点数の手。穏乃にも玄にも、恭子がポンをした意味が分からなかった。

 もともと聴牌していた手だ。別に向聴数を減らすわけでもないし、手を高めるためのものでもなかったからだ。

 ただ、憧には、

「(そう言うことか…。でも…。)」

 恭子の鳴きの意味が分かった。

 しかし、何故、その四枚目が来るタイミングが読めるのか?

 それは憧にも分からなかった。

「宮永…って言うと、他人行儀なんで咲でイイか?」

「は…はい。」

「じゃあ、咲。去年のインターハイの時と同じ癖が出とるよ。それ、直さないとイカンやろう?」

「は…はい。」

 これは、咲と晴絵以外には理解できない言葉だった。頭の良い憧ですら、恭子の言っている意味が理解できないでいたのだ。

 

 東二局。

 ここは、

「カン!」

 咲が暗槓し、

「ツモ! 嶺上開花!」

 そのまま狙ったかのように嶺上開花を決めた。これを見て、

「そう、咲。それでイイんや!」

 恭子が笑顔で咲を褒めていた。

 しかし、東一局と東二局で何が違うのだろう?

 さすがの憧も、頭の上に巨大なハテナマークが三つくらい浮かび上がっていた。

 

 東三局。

 咲の親は連荘させてはならない。恭子は、

「ポン!」

 晴絵が捨てた牌と、

「チー!」

 穏乃が捨てた牌を鳴きまくり、

「ツモ。500、1000!」

 安手で咲の親を流した。

 

 そして迎えた東四局。

 卓上に靄がかかってきた。さすがに、これには恭子も驚いた。

「(何かあるとは思っていたけど、これが竜華の言っていた深い山か…。)」

 たしかに気味が悪い。しかし、幽霊に類いが出てくるわけではない。恭子は目を凝らして穏乃の動きを見た。

 

 一方、穏乃は、

「(次に和了り牌が来る。)」

 和了れるのを直感していた。昨年のインターハイ準決勝戦、後半戦南二局で鶴田姫子が切った和了り牌を見逃した時のように…。

 しかし、

「チー!」

 穏乃が切った牌を恭子は鳴き、次巡、

「ツモ!」

 まさに穏乃が和了るはずの牌を奪い取り、そのまま和了った。

 

「高鴨も癖が出とるな。」

「癖?」

「和了れる牌が分かるんやろうけど、ツモ番でもないのに無意識に山に目がいってる。それで和了らせないために鳴いたんや。」

「は…はぁ…。」

「咲もカンできる牌が分かるけど、そこに無意識に目がいく。それで、東一局はツモ番を狂わせたってことや。」

 咲も、相手の手牌の動きは観察していた。誰が、どの巡目で切った牌がツモ切りなのか手出しなのかも覚えていたし、手牌の何番目の牌を出したかまで記憶していた。それで、靴下を脱がなくても、大抵は相手の手牌が透けて見えていた。

 まあ、靴下を脱げば、調子を狂わされない限り、牌が全て透けて見えてしまうのだが…。

 ところが、恭子は、それ以外のものまで恒常的に観察していた。

 対する穏乃は、何も観察していなかった。

 憧は、割と観察するほうだったが、そこまで細かくは相手の動きを見ていなかった。

 恭子が咲を相手にあれだけの戦いができた理由に、憧も灼も穏乃も、ようやく気がついた。いや、教えられたと言うべきだろう。

 玄だけは理解できていなかったようだが…。

 むしろ、玄は、

「(コーチが来ても、オモチがないので残念なのです!)」

 くらいにしか思っていなかったようだ。

 

 その後、咲は恭子の指摘された部分を補正して、結果的に咲が1位を取ったが、2位は恭子、3位は晴絵、穏乃はラスになった。

 さすがに穏乃も、指摘されてすぐには癖を直せなかったのだ。

 

 咲が対応できたのは、インターハイ団体戦準決勝戦の後に、このことに当時の清澄高校麻雀部部長だった竹井久が気付き、既に癖を直す特訓をしていたからである。

 

 それにしても、阿知賀女子学院が誇る双璧と渡り合えるとは…。ゆいも美由紀も、その日のうちに恭子を教祖と崇め、末原教の信者になった。

 

 

 翌日、一気に三十人以上の新入生が麻雀部に押し寄せた。

 今のままでは卓が足りない。

 かと言って、部内戦を開いて戦績の悪かった新入生を入部させないわけにも行かないだろう。麻雀部の入部を目指し、あの超進学校、晩成高校を蹴って阿知賀女子学院に入学した新入生もいるとの話だ。

 そんな人物を昨年一人見た記憶はあるが…。

 

 こうなると、やはり晴絵としては、来るものは拒まずの姿勢を貫きたかった。

 そこで、晴絵が学校側に交渉し、春季大会の優勝も考慮していただき部費を増額してもらった。

 さらに後援会からの援助もあり、麻雀部は自動卓を新規で数台購入することができた。

 

 

 その後、新入生を交えて部内戦が行われた。

 成績は、

 1位:宮永咲

 2位:松実玄

 3位:鷺森灼

 4位:新子憧

 5位:高鴨穏乃

 6位:小走ゆい

 7位:宇野沢美由紀

 8位:車井百子(車井百花妹)←ややオモチの子設定

 …

 …

 …

 

 

 咲の1位は大方全員の予想通りだ。

 しかし、2位と3位は新入部員の予想に反していた。新入生達は、やはり部内2位には全国4位の穏乃が入ると思っていたらしい。

 しかし、穏乃の麻雀は守りの麻雀。強い者を相手に勝つことはできるが、弱者を相手に大きく稼ぐことができない。

 そのため、総当たり戦とかスイスドロー式とかでの合計点を競う場合、玄のような高火力選手には敵わない。

 

 春季大会の全国個人戦予選でも、阿知賀女子学院メンバーの中で穏乃が最下位だった。

 今回も、玄と灼は下位の者相手との対局で大きく稼いで2位、3位に入った。まさに、全国個人戦予選の成績が、今回の部内戦にも反映した形になった。

 もっとも、晴絵は、この結果を予想していたようだが…。

 

 それと、今回の部内戦では、咲が本気で戦ったため、多数の失禁者が出てしまった。特に咲の下家に座った新入生の漏らし方が酷かった。咲の副露牌に乗って飛んでくるオーラをまともに受けるのだから仕方が無いだろう。

 しかも、殆どの新入生が咲の、

「もいっこ、カン!」

 に対してトラウマを持つようになった。

 そのため、今後は、新入生が怯えないように咲はレギュラー以外を相手にする時はプラマイゼロにするよう、晴絵から指示が出た。

 和との約束もあるが…、これは、やむを得ないだろう。

 

 

 部内戦の戦績から、レギュラー五名は、咲、玄、灼、憧、穏乃に決定した。

 補員は、ゆい、美由紀の二名に、個人戦に出場する八名は、上記七名プラス百子に決まった。

 

 

 県予選大会の前に、阿知賀女子学院では中間テストが行われた。

 麻雀部の中では、

「楽勝!」

 と余裕ぶっている娘もいれば、

「憧! ここと、ここと、ここと、ここと………、ここを教えて欲しいんだけど。」

 って全部かい!

 と言いたくなるような娘もいた。

 さらに、

「テスト期間中は部活がないから、美由紀ちゃんのオモチが拝めなくて残念なのです!」

 と悲しんでいる娘もいたのだが…。

 

 二年生の総合1位は圧倒的点差で憧だった。さすが、中学時代に偏差値70が余裕とぶっこいていただけはある。

 咲は3位で周りを驚かせた。真面目な彼女は、常日頃から勉強をしているので、中学の頃から結構上位の成績を修めていたらしい。

 穏乃は真ん中よりもちょっと下だった。

 三年生は、灼も玄も、まあまあの成績。

 一年生は、麻雀部の生徒が上位を占めた。殆どが晩成高校を蹴って阿知賀女子学院に入学しているのだから、当然と言えば当然なのだろう…。

 

 

 初夏となり、奈良県大会の出場登録が始まった。

 今回、またもやルールが変更された。

 一番大きな変更点は、昨年までの点数引継ぎ型ではなく、白築慕達が中学時代に採用されていた星取り形式に変えられることだった。

 ただし、トビ終了の可能性を下げるため、100000点持ちで行われる。

 

 これは、やはり宮永魔物トリオの存在が大きかった。

 照は、西東京都大会の先鋒戦でトビ終了させているし、光も、魔物vs魔物にでもならない限り、自分のところでどこかをトバして終了させる力がある。

 咲に至っては、昨年秋季大会の444400点事件が有名で、点数引継ぎ型の場合、結局、一人の突出した選手が全てを決めてしまうことがある。

 それを回避するためのルール変更でもあった。やはり、団体戦なので総合力を評価したいとの考えなのだろう。

 

 前後半戦の半荘二回勝負の場合は、前半戦と後半戦を、それぞれ100000点持ちで行われ、その収支の合計(獲得素点の合計)で順位を決める。

 オカやウマは付かない。先鋒から大将までの五人で、1位を最も多く取ったチームがチームとしての1位となる。

 1位になった回数が同じだった場合は、全員の収支の合計で順位を決める。その際には、咲や光のような化物の稼ぎが順位に反映することになるだろう。一応、化物の活躍も視野に入れていないわけではない。

 

 また、大明槓による責任払い、赤ドラ、ダブル役満以上ありのルールになる。ただし、単一役満によるダブル役満は認められない。

 二家和(ダブロン)、三家和(トリロン)は成立せず、全てアタマハネを採用する。

 留学生は先鋒だけではなく大将にも配置してはならない。

 大枠、そう言ったルールに変更された。

 

 

 インターハイ準優勝、春季大会全国優勝の阿知賀女子学院は、もはや奈良県では敵無しだろう。

 そこで晴絵は、恭子と相談して全国大会での戦いを見越した上でオーダーを決めた。

 

 先鋒は憧。

 春季大会個人12位の実力なら大抵の高校でエースになれる器だ。度胸もあるし、先鋒で出場しても臆することは無いだろう。

 それに、玄のような弱点もないし、打ち回しも巧い。恐らく、咲や光のような超魔物が相手でない限り、とんでもない大敗をすることは無い。

 団体戦なら、総合力がモノを言うため、晴絵も恭子も、三箇牧高校が北大阪大会で敗退すると予想した。

 インターハイ団体戦に出場してくると思われる相手校の二年生、三年生選手の名前を見る限り、憧が100%負けると言い切れる選手は少ない。

 該当するのは、恐らく、白糸台高校の宮永光と大星淡、龍門渕高校の天江衣、臨海女子高校のネリー・ヴィルサラーゼ、永水女子高校の神代小蒔くらいだろう。

 他にも原村和、佐々野みかん、多治比麻里香、龍門渕透華、片岡優希、南浦数絵、鶴田姫子と言った強敵もいるが、時の運もあるので勝敗は何とも言えない。

 一年生でとんでもない選手が出てくる可能性もあるが、憧なら心で負けないし食い下がってくれる。そう言った期待もある。

 

 次鋒は玄。

 晴絵と恭子は、次鋒にとんでもない選手を配置してくるチームは少ないと予想した。

 エースが敗退することで選手全員が意気消沈してしまうような精神面の弱いチームであれば、敢えて先鋒戦を捨ててエースを次鋒に配置することは考えられる。早い段階でエースの勝利を選手達に見せ、チーム全体の志気を上げる必要があるからだ。

 しかし、全国大会に出場するようなチームの選手なら、そこまで精神的に弱くは無いだろう。

 それに、次鋒戦に出場する選手の殆どは、玄を相手に積極的に槓をする度胸があるとは思えない。仮にあったとしても、それを次鋒レベルの選手にやらせるだけの度胸のある監督自体が少ないはずだ。

 それで、玄を次鋒に置いて素点を大きく稼ぎ、もし、勝ち星が2対2の同点になった時は、玄の大量得点でカバーしようと晴絵と恭子は考えた。

 

 中堅は咲。

 星取り戦の場合、絶対に負けて欲しくないポジションはどこであろうか?

 もし、先鋒と次鋒が負けたなら…、それも、同じチームに勝ち星を取られていたら、中堅は絶対に勝たなければならない。

 それに、自分のチームが勝ち星を上げていた場合でも、中堅が勝つことでチームとして一歩リードできる。

 二勝していれば、ここで勝負を着けられる。

 また、同様の理由で副将も負けられない。大将は当然負けて欲しくは無いが、大将戦まで勝負をもつれ込ませずに勝利できることが理想だ。

 つまり、点数引継ぎ型と違って、星取り戦の場合は中堅と副将がとりわけ重要になってくる。その一人目として、晴絵は絶対的エースの咲を中堅に配置した。

 恐らく、姫松高校がエースを中堅に置くのは、ずっと昔の団体戦が点数引継ぎ型ではなく星取り戦だったことに由来すると思われる。その名残が今でも残っているのだろう。

 

 副将は灼。

 晴絵は、灼に部長として、二つ目の『絶対に負けて欲しくないポジション』を任せた。昨年インターハイ準決勝戦の活躍を見ても、ここぞと言うところで勝負強いと思う。

 万が一、憧と玄が星を取れなかった時(咲が負けることは想定していない)は、部長の灼に運命を委ねる。

 

 そして、大将は穏乃。

 説明は不要だろう。最も責任あるポジションと言われる大将は、性格的にも能力的にも彼女しかいない。

 咲が点棒の支配者なら、穏乃は山の支配者だ。それこそ、咲、光、衣、淡、憩と肩を並べる実力者である。

 

 阿知賀女子学院は、このメンバーで、まずは奈良県大会に殴り込みをかける。




小走ゆいは中野梓のようなイメージでおります


おまけ
安福莉子「莉子と!」

水村史織「史織の!」

莉子・史織「「オマケコーナー!!」」

莉子「それにしても、阿知賀編でやられ役として登場した私と。」

史織「単なるモブキャラの私が抜擢されるなんて思っても見ませんでした。まあ、原作の主人公がモブ顔ですから、きっと違和感は無いと信じておりますが…。」

咲「…。」
当然、咲の全身から暗黒物質が沸き始める。

莉子「どうやら、和・穏-Washizu-の最終回でハメられ役になった私達の救済で、司会者として起用してくれたようです。四回限定とのことのようですけど…。」

史織「漫才でも大喜利でもなく、飽くまでも司会者ですね。最初にちょっと説明を入れるだけで、誰がやっても良かったみたいですけどね…。」

莉子「今回は、阿知賀女子学院麻雀部の校内ランクを決める部内戦での出来事をお送りします!」

史織「超魔物、宮永咲を相手に新入生がどれだけ頑張れるか?」

莉子「きっと耐えられないでしょうね?」

史織「多分、失禁者続出でしょうね!」

莉子「こ…これって!」

史織「言うまでも無く、いつものパターンですね。」

莉子・史織「「それでは、スタート!」」
…
…
…


晴絵「じゃあ、これから部内戦を始めるよ。この戦績でレギュラー、補員、個人戦出場者を決める。イイね!」

恭子「あと、咲は全力で戦うこと。プラマイゼロは禁止やからな。」

咲「は…はい…。」

晴絵「ルールは夏大団体戦ルールに従う。今回、また変更があって…。」

昨年夏とは違い、大明槓による責任払い、赤ドラ4枚以外に団体戦のみダブル役満以上ありのルールになる。ただし、単一役満によるダブル役満は認められない。
また、春季大会とは違って二家和(ダブロン)、三家和(トリロン)は成立せず、全てアタマハネを採用する。

そのルールの下、対局が行われた。
最初の対局で、咲は、新入生三人と卓を囲むことになった。

咲「よろしくお願いします」←引きつった笑顔。やや対人恐怖症のため。

新入生1・2・3「「「よろしくお願いします!」」」←女子高校生雀士の頂点と打てて嬉しい模様。こちらは飛び切りの笑顔。

咲「(みんなカワイイ顔してる…。やっぱり、喪女の私とは違うなぁ。それにお胸も…。)」

同卓した新入生三人は、いずれも玄が反応しない程度の普通のオモチを搭載していた。まあ、ゼロより下は無いので、それでも咲よりは大きいのだが…。

咲「(コーチも全力でヤレって言ってくれたし、ヤッちゃってもイイよね!?)」

突然、咲の表情が戦闘モードに入り、全身から魔物特有の強大なオーラと、咲特有の暗黒物質が大噴出した。

場決めがされ、東家は新入生1(以後、新1)、南家は新入生2(以後、新2)、西家は咲、北家は新入生3(以後、新3)に決まった。


東一局は、

新1「(場に②が3枚切れてるし、これって使えないよね?)」

初牌だったが、自分の手は平和手で、しかも②も③も無い。持っていても後々困る牌だ。それで、新1は、①をツモ切りした。すると、

咲「カン!」

咲が狙っていたかのように大明槓した。新入生三人は、その迫力と凄まじいエネルギーを初めて体験した。
いきなり、背筋に冷たいものが走り抜け、全身が震え出す。

咲「ツモ。嶺上開花ドラ3。8000。」

これがチャンピオン咲のカン…。
大明槓からの嶺上開花は責任払いになるため、これは新1が一人で8000点を支払うことになるが、点棒を奪われていない新2と新3にも強大なプレッシャーを与えた。


東二局は、
新2「(初牌を切らなければカンをされる心配は無いわけで…。)」
と咲の捨て牌である(⑤)の筋、⑧を切った。⑧は、二巡前に新3が切っているので初牌ではない。しかし、

咲「ロン。チャンタ三色。8000。」

別に咲は嶺上開花しか和了らないわけではない。普通の手も和了る。
ただ、新2にとっては裏をかかれた気分だった。
まさか、(⑤)を切って引っ掛けるとは…。
まあ、チャンタ系ならあってもおかしくない話だが…。


東三局、咲の親番が回ってきた。
ここで咲のパワーが爆発する。

咲「ポン!」

新3が捨てた①を、咲は早々と鳴き、その数巡後に、

咲「カン!」

①を加槓した。嶺上牌は②。当然のように、

咲「もいっこ、カン!」

②を暗槓。嶺上牌は③。当然、

咲「もいっこ、カン!」

③を暗槓。そして、次の嶺上牌で、

咲「ツモ。清一対々三暗刻三槓子赤1嶺上開花。16000オール。」

三連槓から(⑤)を引いての嶺上開花。しかも天江衣を破った時と同じ数え役満。
槓するたびに強大なエネルギーが新入生達を襲う。それも、自分の身体を丸呑みできるような巨大な肉食生物が襲ってくるような恐怖。
新入生三人の顔からは完全に血の気が引いていた。

東三局一本場。ここでは、新3が怯えながら捨てた二で、

咲「ロン。タンヤオドラ2。7700の一本場は8000。」

これで、新1、新2、新3の点数は1000点のみになった。

もう後が無い新入生達。
東三局二本場は、

咲「ポン!」

新2が捨てたオタ風の西を鳴き、

咲「カン!」

西を加槓した後、嶺上牌で、

咲「ツモ。嶺上開花。50符1翻。800オールの二本場は1000オール。」

咲は、⑨の暗刻も持っており、符ハネして50符になっていた。しかも、和了り役は嶺上開花のみ。咲ならではの和了りだ。
計算されたように…、いや、計算していたのだろう。新入生三人の点数は0になった。

新1・2・3「「「(もう怖い…。)」」」

三人とも激しく震えている。しかし、そんなこと、今の咲には関係ない。

咲「(だって、コーチが全力でって言ったし、前にも和ちゃんと手を抜かないって約束したもんね。それに、私より年下で私よりもオモチがあるなんて許せないんだから…。)」

それって高校一年生に限定しても、殆ど全員になるのでは?
ただ、今の咲は、全力で勝つではなく、全力で叩き潰すつもりで麻雀を打っていた。全力の意味をわざとズラしていたのだ。
理由は言うまでも無くオモチだ。
まあ、『叩き潰す』の先にあるものは、一応『勝利』ではあるのだが…。

そして、東三局三本場。

新入生達は、もう頭が回らなくなっていた。そこまで追い込まれていたのだ。
場も見ずに新3が中を捨てた。これを、

咲「ポン!」

新1・2・3「「「ヒィッ!」」」

もはや、咲の発声で怯える始末だ。

そして、数巡後、

咲「カン!」←中を加槓

新1・2・3「「「ヒィィッ!」」」←怖くて怯える三人

咲「もいっこ、カン!」←發を暗槓

新1・2・3「「「ヒィィィッ!」」」←ガタガタと大きく震える三人

咲「もいっこ、カン!」←白を暗槓

新1・2・3「「「ヒィィィィッ!」」」←涙目になってきた三人

咲「もいっこ、カン!」←西を暗槓

新1・2・3「「「ヒィィィィィッ!」」」←死を恐怖した三人

咲「ツモ。大三元字一色四槓子。トリプル役満の三本場は、48300オール」←北を嶺上牌で引いて和了り

新1・2・3は、完全にレイプ目になった。そして、
「「「チョロチョロチョロ…。」」」
括約筋が緩み出し、その数秒後、ダムが決壊して一気に、
「「「プシャ――――――!!!」」」
黄金色の聖水が三つの湖を形成した。やがて、それらは一つに合わさり、巨大湖へと成長して行く。
…
…
…


その後も咲は、

咲「カン、嶺上開花!」

新4・5・6「「「プシャ――――――!!!」」」


咲「カン、嶺上開花!」

新7・8・9「「「プシャ――――――!!!」」」


多くの新入生を玉砕した。
この日は、対局よりも清掃する時間のほうが長かったらしい。


晴絵「今後、咲はレギュラーメンバー以外を相手に本気で麻雀打つのを禁止するよ! とにかく、下級生にはプラマイゼロで当たってくれ。」

咲「プラマイゼロ、やってもイイんですか?」

恭子「仕方ないやろなぁ。」

咲「(やったー!)」

プラマイゼロ命令が出て、内心喜ぶ咲であった。


その後、プラマイゼロを連発する咲の姿を見て、

……「「「「「「「「「「(それはそれで傷つくんですけど…。)」」」」」」」」」」……

新入生達は、咲の格の違いを思い知らされるのであった。
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