咲-Saki- 阿知賀編入   作:おこそとのほもよろを

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まこの超高速跳躍多用は今回までです。
次回から、まこの活躍は、しばらくなくなります。


三十四本場:神の目

「サキー、お疲れー!」」

 明るい声でそう言いながら、対局室に憧が入ってきた。

 これで準決勝戦進出が確定したのだから、阿知賀女子学院メンバーからすれば歓喜の声が上がっても当然の状況だろう。

 

 しかし、憧の後にいた灼は別の反応を示していた。いくら味方とは言え、この大虐殺に恐怖を覚えていたのだ。

 灼にとって、この副将戦は消化試合でしかない。楽に打てる試合のはずだ。それこそ、極論を言えばトバされても良い。

 しかし、それだけ気楽な立場にありながら、彼女の手は大きく震えていた。

 咲が転校してきて初めて打った対局が脳内にフラッシュバックしていたのだ。

 

 憧は、

「じゃあ、行くよ!」

 咲に手を差し伸べた。迷子対策に手を繋ごうと言うのだが…、周り…と言うか一部の者達からは百合疑惑が勝手に湧き上がる。

 同日に試合を行っている和が、この場面をテレビで見てはいなかったのは幸いだったのだが…、問題は初瀬のほうだった。

 奈良代表校の活躍を当然地元でテレビを見ながら応援している。

 そこに出てきた衝撃(?)映像。

「またか、あのクソアマぁ…。クソ猿だけでなく、こいつも憧を…。」

 初瀬の全身からドス黒いオーラが湧き上がった瞬間だった。

 

「では、灼さん。後をよろしくお願いします!」

 咲は、そう言いながらペッコリンと灼に向かってお辞儀した。

「あ…うん…。」

 急に雰囲気の変わった咲の姿を見て、灼も少しは落ち着いたようだ。手の震えが治まってきた。

 しかし、次の瞬間、灼は別の恐ろしいオーラを感じ取り、扉の方を振り返った。

 咲も同様だった。彼女も能力者の力を察知するレーダーを搭載しているのだ。

 

 この時、丁度対局室に入ってきたのは、粕渕高校の副将、石見神楽だった。

 彼女は巫女の格好をしており、永水女子高校の神代小蒔や六女仙達を思い起こさせるような雰囲気を全身から放っていた。結構高い霊力を持っているのが伺える。

 再び、灼の手が震え出した。

 背中に冷たいものが走る。

「(この人、強い!)」

 そう直感したのだ。

 

 さらに後から千里山女子高校副将の西出と東白楽高校の副将が入室してきた。中堅選手は、審判の指示で速やかに対局室から退場させられた。

 

 

 場決めがされ、起家が灼、南家が西出、西家が神楽、北家が東白楽高校副将に決まった。

 

 東一局、灼の親。ドラは{4}。

 灼の手の震えは治まってきた。対局が始まり、気合いが恐怖を押し退けたようだ。そして、中盤で、

「リーチ!」

 得意の筒子多面聴でリーチをかけた。

 灼の捨て牌に筒子は一枚も出ていない。当然、出和了りは期待していない。飽くまでもツモ和了り狙いだ。

 

 この時の灼の手牌は、

 

 {②③④④④⑤[⑤][⑤]⑥⑥4[5]6}

 

 {①②④⑤⑥}待ちだ。

 当然、西出は筒子を避けて萬子を捨てた。ところが、神楽はいきなり、

「当たる?」

 と聞きながら、笑顔で超危険牌の{③}を捨てた。しかも一発目だ。これには灼も西出も、ただ驚くしかなかった。

 次巡で神楽は{⑦}を、その次巡で{⑧}を捨てた。

 

 神楽の能力…。

 それは、相手の手牌が全て透けて見えること…。

 咲とは違って山にある牌までは透けて見えるわけではなかったが、相手の手が全て分かっている以上、少なくとも自分がリーチをかけた時や、意図的な差し込み以外で振り込むことはない。

 

 灼は、この神楽の捨て牌でケチが付いたためか、全然ツモ和了りできずにいた。ケチが付くと運も低下する。

 そして、終盤。

「ツモです。」

 神楽が和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {①①①②②②④⑤⑥4467}  ツモ{8}

 

「ツモドラ2の40符3翻で、1300、2600です。」

 完全に灼の和了り牌を止められていた。

「(嘘? 和了り牌11枚のうち9枚を取り込まれている!)」

 灼の背筋に、再び冷たいものが走り抜けた。

 ここからいきなり{③}や{⑦}、{⑧}が出てくるだろうか?

 恐らく、和了り牌が読み取れることのパフォーマンスだ。これには、灼だけではなく、西出も東白楽高校副将も恐怖を覚える。

 三人とも、

「「「(牌が全て透けて見えているのでは無いだろうか?)」」」

 と思う。事実そうなのだが…。

 だとすると、まるで咲と対戦しているようだ。勝てる見込みがない。

 そんな風に灼には思えてきた。

 

 そして、灼の心の中から勝とうと言う気持ちがドンドン削がれていった。神楽と咲が重なって見えたためだろう。

 自ら負ける未来を想像している。

 いや、負ける未来しか想像できない。

 そもそも咲を相手に勝つ方法は見当たらない。

 勝負強いはずの灼の心から、勝利に向かう気持ちが完全に消えた瞬間だった。

 

 この様子をテレビで見ながら、まこも、

「この粕渕の一年生は、まるで咲みたいじゃ。完全に手が透けて見えとる。」

 と驚きの声を上げた。

 ただ、同時に超光速跳躍が発動したのは言うまでもない。

 

「試合終了―――――――――!」

 福与恒子アナの声が観戦室にこだました。

 副将戦は、神楽がトップを取り、灼は3位まで順位を落す結果となった。完全に灼の自滅である。

 2位は東白楽高校副将、4位は西出となった。

 

 これで、阿知賀女子学院と粕渕高校が共に勝ち星二となり、この二校の準決勝進出が決まった。そのため、大将戦は行われずに試合終了となった。

 

「「「「ありがとうございました!」」」」

 対局後の一礼をすると、灼は、まるで逃げるように対局室を後にした。

 神楽に全てを見透かされている……いや、心の中まで覗かれているような錯覚にまで陥ったのだ。

 まるで心の奥底に隠されているヤマシイ部分までも見られているような感じだ。それで、怖くなって急いで対局室から出て行ったのだ。

 

 灼は、控室に戻ると、

「ハルちゃん、ゴメンナサイ。」

 まず、負けたことを謝った。

 筒子多面聴からのリーチで、何発も不発が続いた。4位まで落ちずにいられたのは、単に西出と東白楽副将の技量が不足していたからだろう。

 しかし、晴絵は灼の対局の本質を見ていた。技量以前の問題を…。

「負けたことは仕方がないさ。でもね、灼。今日の負けは前半戦の東一局が終わった時点で決まっていたんじゃないかな。勝つ気持ちがどれだけあった?」

「あっ!」

「多分、石見が咲のように見えたんじゃないかな?」

「…。」

 図星なのだが…、そう指摘されて初めて自分の状態に灼は気付いた。

 そうだ。たしかに勝とうと言う気持ちが完全に欠けた対局だった。

 これでは、負けたことを謝罪する以前に、そんな気持ちで試合に臨んでいたことを反省しなくてはならない。

「多分、石見は相手の手が全て透けて見えている。でもね、相手は石見であって咲じゃない。その証拠に、嶺上開花は出ていないし、山の牌までは透けて見えていない。」

「えっ?」

「つまり、石見は咲のような打ち方が出来ると周りに錯覚させた。特に灼にね。それで自滅させた。」

「そんな…。」

 つまりは、神楽の術中にはまっていた。

 灼が全力を出せないように精神面を揺さぶった。それに、まんまとヤラれたのだ。

「後で牌譜を見るとイイ。普段の灼なら、もっとイイ試合が出来るよ。麻雀は運の要素もあるから絶対に勝てるとは言えないけどね。でも、石見は、少なくとも咲や光みたいな超魔物じゃないよ。」

「分かった。ハルちゃん、ゴメン。次は、ちゃんとするから。」

「期待してるよ。」

 

 一方の神楽は、

「これで準決勝に進出だよ!」

 控室で大喜びしていた。

「次は、さすがに阿知賀は自滅しないような気がするけどね。」

 こう言いながら、理沙が神楽にコーヒーカップを差し出した。ただ、中に入っているのはコーヒーではなく、神楽が好きな柚子と蜂蜜で作った飲料だった。

「悔しいけど、私も理沙の直感のとおりだと思う。それに、あのオーダーも全国でベスト8に入るのがやっとのものだから、そこはちょっと申し訳なくて…。」

「でも、別のオーダーにしたら県大会で終わっていたと思うよ。朝酌、強かったし。」

 神楽は、持ち前の高い霊力で、どのようなオーダーにすべきか、どのような戦略で行くべきかの啓示を受けている。

 それを、そのままメンバーに伝え、試合に臨んでいたのだ。

 島根県大会では、たまたま朝酌女子高校の選手を相手に、自分達にとって相性の良い組み合わせにできた。それで勝利を収めてきた部分がある。

 しかし、オーダーが固定である以上、県予選一回戦から全国大会決勝戦までの全試合を通じて、都合の良いオーダーにするのは困難である。

 もっとも、ここから先はオーダー以前に各自の力量の問題のほうが大きいのだが…。

「まあ、みんなも、ここまで来れたのは神楽の神通力あってこそって思ってるよ!」

「そう言ってもらえると助かるぅ。でも、準決勝は勝てなくても一矢報いるつもりで行こうね。」

「当然!」

 粕渕高校の控室の様子は、昨年の有珠山高校のようだ。勝つことを義務化しておらず、ノビノビ生き生きして雰囲気が良い。

 

 清澄高校も阿知賀女子学院も、昨年のインターハイでは勝利を目的としていたが、義務ではなかった。

 しかし、今の阿知賀女子学院は、自分達も周りも勝つこと…いや、優勝を宿命としているし、雰囲気も無意識のうちにピリピリしている。

 灼が自滅したのも、少なからずそう言った空気に原因はあるだろう。

 明日は、A-Bブロックの準決勝戦。

 試合を見せたいが、精神面のガス抜きが出来なくては困る。それで晴絵は、明日は生徒全員に麻雀から離れ、一日自由行動を取らせることを決めた。

 なので、A-Bブロック準決勝戦の対戦内容は、晴絵と恭子の二人でチェックして、まとめておくことにした。

 

 

 大会五日目。

 この日は、朝から龍門渕高校、姫松高校、永水女子高校、臨海女子高校のA-Bブロック準決勝戦が行われた。

 

 龍門渕高校は、先鋒に井上純、次鋒に沢村智紀、中堅に国広一、副将に龍門渕透華、大将に天江衣の不動の布陣。

 

 姫松高校は、先鋒に昨年インターハイに引き続きエース殺しの爆弾娘、上重漫、中堅に愛宕絹恵をエースとして配置した。

 

 永水女子高校は、先鋒にエース神代小蒔、次鋒に滝見春、中堅に石戸明星、副将に東横桃子、大将に十曽湧の布陣で臨んだ。

 

 そして、臨海女子高校は、春季大会に引き続き今回も先鋒に片岡優希、次鋒に郝慧宇、中堅に雀明華、副将にネリー・ヴィルサラーゼ、大将に南浦数絵を置いた。

 

 この試合の様子は、当然、まこも、

「今日は長野代表、龍門渕高校の試合じゃ!」

 実家の雀荘を手伝いながらテレビで観戦していた。当然、時間軸の超光速跳躍が発動する条件だ。

 

 先鋒前半戦は、優希が東家、小蒔が南家、漫が西家、純が北家でスタートした。

 東一局で、いきなり、

「ダブルリーチだじぇい!」

 優希が第一打牌を横に曲げた。昨年インターハイ決勝戦や、春季大会準決勝戦と同じパターンだ。

 監督のアレクサンドラ・ヴェントハイムは、春季大会同様に、優希の東場パワーの頂点が準決勝戦にくるように調整していた。

 やはり、龍門渕高校と永水女子高校を同時に相手にするのは酷だ。下手をすれば準決勝敗退も有り得る。

 それで確実に決勝進出するために優希の最高状態を準決勝戦に定めた。

「一発ツモ。平和タンヤオドラ2。8000オール!」

 いきなりの大量リード。

 そして、東一局一本場は、お約束の…、

「ツモ! 天和。16100オール!」

 まさに東場に嵐が吹き荒れた感じだ。

 

 ところが、東一局二本場で小蒔の雰囲気が変わった。

 優希は、

「ダブルリーチ!」

 ここでもダブルリーチで攻めたが、ツモ和了りできなかった。そして、数巡後、掴まされた危険牌を打たされ、

「ロン。32600。」

 小蒔に萬子染め手の数え役満を振り込んだ。

 その後も、小蒔の高打点の和了りが目立ち、結果的に前後半戦トータル1位は小蒔で、先鋒戦の勝ち星は永水女子高校が取った。

 優希は2位、純が3位、漫が4位の順になった。

 

 

 次鋒戦は郝が安定した強さを見せて臨海女子高校が勝ち星をあげたのだが、中堅戦で大波乱が生じた。

 これまで、おとなしくしていた永水女子高校中堅の石戸明星が、ついに本性を現したのだ。

 

 前半戦東三局、明星の親番。

 この局、明華は南家だった。

 明星、絹恵、明華のオモチ対決である。もし玄が見ていたら喜びまくっていたことであろう。

 それはさておき、これまでに明華は満貫、ハネ満と和了り、この時点で断然トップだった。

 

 この局の明星の切り出しは、{西}、{①}、{9}、{二}、{⑧}、{⑤}とヤオチュウ牌から始まり、チュンチャン牌へと移行していた。

 中盤に差し掛かり、明華は聴牌。自風の{南}と場風の{東}を共に暗刻で持っていた。

 そこに{東}をツモり、

「カン!」

 それを暗槓したその時だった。

「ロン! 国士無双、48000!」

 まさかの槍槓。しかも、その捨て牌で国士無双!

 これで、一気に明華は最下位に転落した。

 

 その後も、明星は高い和了りを連発し、明星が1位、明華は2位で中堅戦を終了した。

 まさか明華が勝ち星を得られないとは…。臨海女子高校としては、完全に想定外のことであった。

 

 

 副将戦は、前半戦東場は特に荒れた様子も無く、安手で場が流れていった。しかし、南場に入った途端、ネリーは違和感を覚えた。

 ただ、それが何なのか分からない。二回戦でも途中から同じような雰囲気を感じてはいたが…。

 

 ネリーは、自分の運を南場に集中するように操作していた。そして、対面の透華が切った牌で、

「ロン! 24000!」

 三倍満を和了ったはずだった。しかし、

「イイんスか? それ。同巡見逃しッスよ!」

「えっ?」

 自分の右側から………何もないはずのところから声が聞こえてきた。

 いや、そこには下家がいるはずだ。しかし、その下家の姿も捨て牌も見落としていた。

 

 ネリーのチョンボ。

 これで、ネリーは完全にツキが落ちた。

 

 一方の透華は、

「(昨年の県大会の時と同じですわ。今回は助かりましたけど…、でも、このままでは衣が勝ってもワタクシ達のチームが負けてしまいますわ!)」

 ホッとしながらも胸中では焦っていた。

 大将戦で衣が勝ち星をあげても、現状では永水女子高校が勝ち星二、臨海女子高校が勝ち星一のため、万が一、ここで臨海女子高校に勝ち星を取られたら全てが終わる。

 永水女子高校か姫松高校が副将戦を征した場合、得失点差での勝負となり、それはそれで不安がある。

 やはり、自分が勝たなくては…。

 

 この追い詰められた状態で、透華は急に雰囲気が変わった。

 冷たい透華へのスイッチが入ったのだ。

 

 透華は、ここから和了りを連発し、副将戦での勝ち星をあげた。咲、光、衣をも超える冷たい透華の支配力には誰も抗う術がなかったのだ。

 これで永水女子高校が勝ち星二、臨海女子高校と龍門渕高校が共に勝ち星一となった。

 

 

 大将戦は、前半戦東場で数絵が大きく失点した。

 大量得点をあげたのは衣と、永水女子高校の湧であった。やはり、ローカル役満での和了りは、役満として認められていなくても打点が大きい。

 

 南場で数絵が巻き返しを図ったが、衣と湧の得点には及ばなかった。結局、姫松高校大将を衣がトバして前半戦が終了した。

 

 後半戦も同様の展開がなされ、最終的に大将戦の勝ち星は衣があげた(衣が揚げたではない)。

 その結果、永水女子高校と龍門渕高校が勝ち星二で決勝進出を果たした。

 

 

 翌日、大会六日目。阿知賀女子学院、白糸台高校、新道寺女子高校、粕渕高校の準決勝戦が執り行われた。

 オーダーは以下の通りであった。

 

 阿知賀女子学院

 先鋒:新子憧

 次鋒:松実玄

 中堅:宮永咲

 副将:鷺森灼

 大将:高鴨穏乃

 

 白糸台高校

 先鋒:原村和

 次鋒:宮永光(旧:みなも)

 中堅:佐々野みかん(佐々野いちご妹)

 副将:多治比麻里香(多治比真祐子妹)

 大将:大星淡

 

 新道寺女子高校

 先鋒:花田煌

 次鋒:友清朱里

 中堅:鶴田姫子

 副将:友清藍里(友清朱里従姉妹)

 大将:中田慧(池田華菜そっくりさん)

 

 粕渕高校

 先鋒:春日井真澄(春日井真深姪)

 次鋒:坂根理沙(坂根千沙娘)

 中堅:緒方薫(亦野誠子従姉妹:男装麗人?)

 副将:石見神楽(相手の手牌が透けて見える巫女)

 大将:石原麻奈(姫原中先鋒石原依奈姪)

 

 

 対局室に先鋒選手達が姿を現した。

 場決めがされ、起家が和、南家が憧、西家が真澄、北家が煌に決まった。

 

 尚、今日は、まこの実家の雀荘は客で溢れかえっており、今のところ、まこはテレビを見る暇は無さそうだ。

 そのため、超光速跳躍は発生しない…と思われる。




おまけ
安福莉子「莉子と!」

水村史織「史織の!」

莉子・史織「「オマケコーナー!!」」

莉子「私達二人が司会をやるのも今回が最後になります。」

史織「次回からは、どうなるのか分かりませんが…。」

莉子「今回は、岡橋初瀬さんの祈りが一先ず天に通じたのかな? って言うお話です。」

史織「あの子も可哀想だよね。新子さんと同じ高校に行くつもりで必死に勉強したのに。普通、あんなとこ受かんないじゃない?」

莉子「そうだよね。新子さんも、晩成には行かないって先に言ってあげれば、岡橋さんもあんなに無理しなくても済んだかもしれないのにね。」

莉子・史織「「それでは、どんな話になるか。オマケストーリー、スタート!」」





憧「じゃあ、行くよ!」

二回戦の中堅後半戦が終了した。
憧が対局室に入り、丁度咲に手を差し伸べたところだった。
これは当然、迷子対策だ。
しかし、一部からは面白半分に百合疑惑が勝手に湧き上がる。

ネット界隈でも、
『あの二人、妙に仲が良いじょ!』
『いつも手を繋いでね? 知らんけど』
『宮永は原村から乗り換えたんですの!』
『多分、そうだと思…』
『ののかが可哀想じゃないか?』
『でも、宮永には去年の秋季大会での京ちゃん発言があるっす!』
『だとすると宮永は両刀使いじゃなかと?』
『でも、あれは彼氏じゃないって否定していたじょ!』←必死
勝手に一部で賑わっていた。

この日、和も試合だった。当然、控室で自分達のチームの対局を見ている。この憧と咲の映像を和が見てはいなかったのは幸いだった。
もし見ていたら、どこかの掲示板に、
『憧は、これ以上、咲さんに手を出さないでください!』
と書き込んでいたかもしれない。


一方、初瀬は、奈良代表校阿知賀女子学院の活躍を、遠い奈良の地からテレビを見ながら応援していた。
そこに出てきた憧と咲の衝撃映像。

初瀬「またか、あのクソアマぁ…。クソ猿だけでなく、こいつも憧を…。」

初瀬の全身からドス黒いオーラが湧き上がった瞬間だった。
しかも、初瀬は県予選の個人戦で咲と対局しており、散々な目に遭っていた。そのウラミもあって咲のことを敵視していた。


その日の夜、初瀬は憧の実家…、神社に来ていた。
本当は藁人形でも使おうかと思ったが、それで咲が体調を崩してしまっては阿知賀女子学院をピンチに追い込む。
さすがの初瀬も、それはできなかった。奈良代表がインターハイを征するかもしれないからだ。それができなくなったら憧が悲しむ。

初瀬は、お賽銭を入れると必死に拝んだ。

初瀬「(あのクソアマに、適当な男をあてがってください。それで、憧から引き離してください。)」

神「(願いを叶えるのは一生で一度だけだぞ。その願いでイイんだな?)」

初瀬「(なんか、脳内に聞こえてきたけど、まあ、それでイイです!)」

神「(了解。)」


丁度その時だった。
咲のスマホの呼び出し音が鳴った。京太郎からだ。


京太郎「準決勝進出おめでとう。」

咲「あ、ありがとう。」

京太郎「凄いな咲。前半戦最後のクアドラプル役満(四倍役満)。あんなの初めて見たよ」

咲「べ…別に大したことじゃ…。」

京太郎「大したことだよ。新聞にも大きく取り上げられているしな。」

咲「でも、なんか悪魔の紋章がどうのって書かれていて…。」

京太郎「三人とも箱下66600点だったからな。でも、あんなの狙って出せるわけないし、偶然だもんな。」

咲「(狙って出したんだけど…。)」

京太郎「準決勝は明後日だよな。」

咲「うん。」

京太郎「和のところが相手だな。」

咲「うん…(あれ? 和ちゃんのこと、京ちゃんと同じくらい好きだったはずだけど、なんだか、どうでも良くなってきたなぁ…)。」←初瀬の祈りが、先ず咲に効いた瞬間

京太郎「じゃあ、またタコスを持って行くよ。今度は、メンバー全員分。」

咲「じゃあ、あと赤土先生と末原コーチと…。」

京太郎「コーチがいるんだ?」

咲「うん。ほら、あの去年のインターハイで姫松高校の大将だった人。」

京太郎「咲が苦手な麻雀を打つ人?」

咲「そう。その人が、今、うちのコーチなんだ。」

京太郎「へー。また、なんで?」

咲「コーチ業とか監督業を勉強したいらしくて、それで姫松の前監督の紹介でうちに来たらしいよ。」←まさか、自分が目的とは言えない

京太郎「そうなんだ。」

咲「それで、さっきのタコスだけどね。監督とコーチと、補員とかも合わせると控室にいるのは全部で十人になるんだけど…。」

京太郎「別に問題ないさ。優希なら一人でその倍喰うからな。」

咲「それはそうだね(あんまり京ちゃんをこき使うなら麻雀楽しませるよ、優希ちゃん)。」←何気に暗黒物質が湧き出ている

京太郎「それとさ。咲のところの松実さんだっけ?」

咲「玄さん?」

京太郎「オモチオモチ言う人がいるって…。」

咲「そうなの。私は相手にされていないけどさ…。」

京太郎「その人に渡してもらいたいものがあるんだ。」←咲のオモチのことはスルー

咲「えっ? まさかラブレターとか?(もしそうだったら、麻雀で叩きのめすからね、玄さん)。」←暗黒物質が激しく噴出

京太郎「違うって。別に咲以外に手を出したり…。(あれ? 俺、今、何言ってんだ?)」←初瀬の祈りが京太郎を巻き込んだ瞬間

咲「(それって、もしかして!)」←暗黒物質消滅

京太郎「いや、あの…。なんか、その松実さんだったら趣味が合いそうだなと思ってさ。あはははは…。」

咲「(まあ、今は恋人宣言したわけじゃないし…。)じゃあ、その渡したいものも持ってきて来てくれれば、玄さんに渡しておくよ。」



そして、試合当日(大会六日目)。
憧が先鋒前半戦に出ている間に、咲のスマホに京太郎から電話がかかってきた。
咲は、恭子に付き添ってもらって京太郎の指定した場所に行った。要は迷子対策なのだが…。

京太郎「じゃあ、これ全員分のタコスね(二人ともオモチが無いな~)。」

咲「京ちゃん、ありがとう。」

京太郎「それと、隣の人が、電話で咲が言ってたコーチの人?」

咲「うん。末原さんだよ。あと玄さんに渡したい物って?」

京太郎「そうそう。これなんだけどさ…。」

それは、何の色気も無いA4サイズの茶封筒だった。
表面には「同志へ!」と書かれている。

京太郎「俺のオモチコレクションなんだ。きっと喜んでくれると思って。」

咲「もう、そんなものばっかり! 京ちゃんのばかぁ!」

京太郎「でも、決勝に行けたら相手は咲の従姉妹だしさ。勇気付けられるものがあればって思ったんだよ。」

咲「ううぅ…。」←多少は、一理ある気がしている

京太郎「じゃあ、よろしく頼む。」

京太郎が立ち去った後、咲はタコスを受け取る前とは全く別人になっていた。天使から大魔神に変わっていたのだ。
そして、恭子は、咲の全身から湧き出てくる恐怖の暗黒物質の存在を感じ取った。非能力者が感じるくらいなのだから、相当強烈だったのだろう。

恭子「ええと、彼は咲の彼氏?」

咲「まだ彼氏じゃありません!」

恭子「まだってことは、咲は、その気があるってこと?」

咲「知りません!」

恭子「でも、結構イケメンじゃない?」

咲「オモチ趣味じゃなければですけどね! その封筒の中身、捨てちゃいましょうか?」

恭子「でもまあ、一応、それは玄に渡さないとならないだろう。でも、渡すのは一応、試合後にしよう。もし前半戦の調子が悪いようだったら休憩時間に気分転換に渡すのもイイかも知れないけど…。」

咲「でも、末原さんはどう思います? オモチ趣味のこと?」

恭子「あんまり嬉しくは無いけどね。自分、鉄板やし…。」

ただ、これで中堅戦は、咲の怒りをぶつける対象と変わった。
対するは、姫子、薫(亦野誠子従姉妹)、みかん(佐々野いちご妹)。
この三人こそが今日の一番の被害者であった。
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