咲-Saki- 阿知賀編入   作:おこそとのほもよろを

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宇野沢栞と手品先輩って似ていると思いません?
以前、何処かでそんなネタがありましたけど。


三十九本場:神のお告げ

「「「「ありがとうございました。」」」」

 対局後の一礼の後、次鋒メンバーは各校控室に戻って行った。

 飛び切り笑顔なのは玄。対局の中で龍支配の進化を遂げたのだ。さすがに喜びは隠せないだろう。

 対する光は、勝ち星を得たにも拘らず神妙な顔をしていた。余計なモノ………恐るべき龍の支配力を覚醒させてしまったからだ。

 まるで1位と2位の表情が逆だ。

 

 丁度この時だった。

 粕渕高校控室では、突然、神楽に神のお告げが降りて来た。

 すぐさま神楽は、中堅の薫に、

「余計な一言が大きな災い…喰い殺される恐怖と、天変地異を超えた恐怖から水害を起こすとのお告げが出ています。気をつけてください。」

 と伝えたのだが…、さて、これはいったい何なのだろうか?(何となく予想はつくと思いますが…。)

 薫は、

「了解!」

 と言ったまでは良かったが、正直、余り気には留めていなかった。そもそも、余計な一言とは何なのかが良く分からなかったし、神楽のお告げの意味も分からなかった。

 喰い殺される恐怖から水害?

 天変地異を超えた恐怖から水害?

 水害と、それぞれの恐怖が繋がらない気がしていた(失禁未経験者のため)。

 

 

 この頃、みかんは対局室に向かっていた。

 途中で光に会い、

「ナイス勝ち星!」

 と言いながら光にハイタッチしようとした。しかし、光の表情は優れず、ハイタッチには乗ってこなかった。

「ゴメン、みかん。どこもトバせなかった。」

「正直、それって目標が高過ぎるよ。」

「でも得失点差になった場合を考えるとね。」

 恐らく、中堅戦は咲が取って阿知賀女子学院が勝ち抜けを決めるだろう。なので、白糸台高校が得失点差勝負になるケースは、副将戦を新道寺女子高校か粕渕高校のどちらかが取り、大将戦で淡が穏乃に負けて勝ち星を阿知賀女子学院に取られた時と考えるのが普通だろう。

 その場合、白糸台高校と副将戦で勝ち星を得た高校との勝負になるのだが、既に白糸台高校は新道寺女子高校にも粕渕高校にもトータルで250000点近くリードしている。

 普通なら、得失点差勝負になっても怖くはない。それもあって、みかんは結構楽観視していた。

「たしかにそうだけどさ…。勝ち星取ったんだから、よしとしようよ。」

 ただ、光は何か嫌な予感がしていた。百戦錬磨の直感だ。

「うん…。」

「中堅戦は、私じゃ勝てないけど、でもせめて一太刀浴びせるくらいのことはしたいと思ってるから。」

「うん。頑張って!」

「頑張るよ、私!」

 そう言いながら、みかんは明るく振る舞った。

 

 春季大会個人戦で、みかんは咲と和解したつもりだ。

 あの後、みかんは淡と光に色々確認した。

 たしかに、咲との対局の時に思ったとおり、淡も光も自分や麻里香を相手には少なからず手加減していた。最上級のオーラを出すのを控えていたのだ。

 真実を知り、自分達の足りなさも理解したつもりだ。今、みかんは、咲に純粋に胸を借りるつもりで対局に臨もうとしていた。

 まあ、玄からすれば、

「借りられるほどのオモチはありません!」

 と言いたくなるところだろうが………。

 

 

 また、これと同じ頃、咲は憧に連れられて対局室に向かっていた。

 途中で二人は玄に会った。

「咲ちゃん、憧ちゃん、1位は無理だったけど、特訓の成果が現れたのです!」

 玄は、満面の笑みでそう言った。すると咲が笑顔で、

「本当に良かったです。決勝戦では、もっと派手に暴れましょう。」

 と玄に笑顔で言った。

 ただ、表面上は、たしかに可愛い笑顔なのだが、玄には、何故かその奥底にドス黒い何かが感じられた。まるで暗黒物質のような何かだ。

「では、行ってきますので…。」

「うん。頑張ってね、咲ちゃん…。」

 そう言うと、玄は咲の後姿を見送った。ただ、この時、今までに無いレベルの悪寒を玄は感じていた。

「悪いことが起きなければイイけど…。」

 人の良い玄は、咲の様子を見て急に心配になった。

 

 一方、憧は、咲を対局室に送り届けると、

「じゃあ、咲。休憩時間に迎えに来るからね。ガンバ!」

 そう言って、ルンルン気分で対局室を後にした。

 この時、憧も玄と同様に背筋に冷たいモノを感じていたが、憧の場合は玄と違い、咲が何をしでかすか楽しみにしていた。

 ここが、狡猾な憧と、そうでない玄の違いであろう。

 

 咲の視界にみかんの姿が入り込んだ。この時、既に、みかんは対局室に入室を済ませていたのだ。

 みかんは、

「もう私も麻里香も仇みたいには思っていないから。今日はよろしく!」

 と笑顔で咲に声をかけた。

 しかし、その美しい笑顔を見た瞬間、咲の全身から大量の負のオーラ………暗黒物質が一気に噴出した。

 この雰囲気は、春季大会の時よりも恐ろしい。単に気合が入っているとか言うレベルではない。

 完全に自分のことを敵視していると、みかんは直感した。

「ちょ…ちょっと、私、宮永さんに何かした?」

「京ちゃんは渡さないんだから。」

「えっ?」

 意味不明だ。ただ、何か誤解していることだけは確かなようだ。

「ちょっと、京ちゃんて誰?」

「私、中学の頃から京ちゃんのことが…。あなたなんかに絶対に渡さないんだから!」

「あのねえ、私は、その京ちゃんって人のこと知らないんだけど。もしかして宮永さんの彼氏?」

「まだ彼じゃないけど…。」

「ええとね。そもそも宮永さんのテリトリーを侵そうなんて絶対に考えてないから。それ以前に、その京ちゃんって人に会ったこともないし。」

「でも…。」

「私は、むしろ応援するからさ。」

「本当に?」

「嘘はつかないって。それで、その京ちゃんってどんな人?」

「長野にいた頃、中学、高校と一緒だったんだ。ええと…。」

 咲は、スマホを取り出すと京太郎を写した画像をみかんに見せた。

 昨年のインターハイでは、対局室へのスマホ持込は禁止だったが、今年は電波遮断が強化され、対局中にスマホをサイドテーブルの上に置いて触らなければ、持込は許可されることに変わっていた。

 みかんは、京太郎の画像を見て、

「イイ男じゃん。宮永さん、お似合いだよ!」

「えへへ、そう思う?」

「うん。絶対応援するから!」

「でも、京ちゃんが佐々野さんの水着画像を持ってて…。」

「ちょっとナニソレ? まさか盗撮?」

「それは知らないけど…。でも、佐々野さん凄く綺麗だから…。もし佐々野さんがライバルだったら絶対に勝てないなって思って…。」

「大丈夫。宮永さんのテリトリーに手は出しませんって。あと、綺麗って言ってもらえて嬉しいけど、私は自分が美人だなんて思ってないし…。」

 過去に身体が細くない時代があったため、本当にみかんは自分のことを美しいとは思っていない。ただ、周りの人間からは、そう思えない。

「自覚してない振りしてない?」

「あのねえ…。前に言ったでしょ。好きだった男に姉と比較されて酷いこと言われたって…。」

「あれ、たしかに許せないよね!」

「だから頑張って痩せたけど。でも、いくら食べても太らない麻里香とか宮永さんのほうが私は羨ましいな。」

「別に私は、綺麗じゃないし、喪女だし…。」

 そう言いながらも、咲の身体から放出される暗黒物質が消えた。随分と落ち着いてきたようだ。

 

 丁度ここに、姫子が入ってきた。

「何見とると?」

「宮永さんのボーイフレンドの写真。結構イイ男ですよ。」

「へー。」

 姫子が、咲のスマホを覗き込んだ。しかし、姫子は哩一筋だ。哩以外の人間に魅力は一切感じない。

 京太郎の画像を見て、姫子がボソッと、

「思ったほどじゃなか。」

 と言ってしまった。

 これが姫子の素直な気持ちだったのだが…、彼女の場合は仕方がないだろう。

 ただ、これは咲にとって失言だったようだ。

「あ゙っ?」

 暗黒物質が再び湧き出してきた。

 

「何見てるの?」

 続いて薫が入室した。そして、咲のスマホを覗き込むと、

「結構イイ男じゃん。私、モーションかけちゃおうかな!」

 とオチャラケタ感じでそう言った。冗談のつもりだったのだが………、ただ、これは咲には完全に禁句だった。

 しかも薫は女性受けする男装麗人。咲の目から見ても美しく魅力的に見える。

 そんな女性が京太郎を狙っているだと?

 

「あ゙っ?」

 この咲の怒りのこもった声と同時に、まるで火山の大噴火………、いや、超新星爆発のようなとんでもない勢いで、大量の負のオーラが咲の全身から一気に放出された。

「(ヤバイ!)」

 みかんは、再び身の危険を感じた。

 

 

「そろそろ対局を始めてください。」

 審判の声だ。

 ここはインターハイ準決勝戦の場だ。いつまでも駄弁っていてはならない。審判の指示に従い。場決めがされた。

 

 起家になったのは、みかんだった。咲は、まだ本日配布分の京タコスを口にしていなかったため、起家ではなく西家になった。

 南家は姫子、北家は薫に決まった。

 

 姫子は、セルフリザベーションが武器だ。前半戦で和了った局と同じ局で、後半戦では二倍の翻数で和了れる能力だ。

 一方、薫は従姉妹の亦野誠子と同じ鳴きの能力を持つ。

 しかし、この対局では、そんなものは関係なかった。そもそも、能力を使える機会など無かったのだから…。

 

 

 東一局、みかんの親。

 ただ、既にみかんは、親の連荘どころか普通の麻雀を打つことすら諦めていた。

「(余計なことをしてくれて…。)」

 せっかく咲の誤解を解いて落ち着かせたのに…、頑張ってなだめたのに…、再び姫子と薫でスイッチを入れてしまった。

 

 咲の支配力が凄まじい。全然、みかんは有効牌を引けなかった。

 どうやら、姫子と薫も手が進んでいないようだ。二人とも、苛立ちが表に出ている。そもそも、咲と拮抗するだけの支配力を持つ者が面子の中にいなければ、咲の支配を崩すことなど出来ないだろう。

 そして、

「チッ!」

 つい舌打ちしながら姫子が{①}をツモ切りした、その時だった。

「カン!」

 咲が大明槓した。そして、嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 連槓で{1}の暗槓を副露した。

 

 この時、みかんは、

「(もうダメね。『もいっこ、カン』が出ちゃった。光に言わせると、あれが出たら光も宮永先輩も手の出しようがないって話だったから…。)」

 心の中でそう呟き、手牌を伏せた。この局の勝負は、もう決まったのだ。

 

 一方、咲は、再び嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 今後は{一}の暗槓を副露した。そして、次の嶺上牌で、

「ツモ。東混老対々三暗刻三槓子三色同刻嶺上開花ドラドラ。32000です。」

 いきなり数え役満を和了った。これは姫子の責任払いになる。

 完全に、姫子は咲にロックオンされていた。

 

 ただ、この時、役満を直取りされた姫子よりも薫の方が蒼い顔をして怯えていた。

 咲が牌を副露するのは咲と薫の間になる。つまり、咲が槓をすると、勢い良く槓子が副露されるのと同時に薫の方に強大なオーラが飛び火してくるのだ。

 それは、まるでワニかライオンが大きな口を開けて薫の方に一直線に突き進んで来るような錯覚さえ感じさせる。その恐怖に怯えていたのだ。

 二回戦で対戦した時………、-66600点にされた時よりも、さらに恐ろしい雰囲気を感じる。あの時は、咲の対面だったのが幸いと言えよう。

 

 

 東二局、姫子の親。

 今度は薫が切った{⑨}で、

「カン!」

 咲が大明槓した。そして、嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 連槓で{9}の暗槓を副露し、さらに

「もいっこ、カン!」

 三連続槓で{九}の暗槓を副露した。

 薫は、この時、ホオジロザメが巨大な口を開けて自分のほうに突っ込んでくるような錯覚を感じていた。

「(死にたくない…。)」

 薫の目から一筋の涙が流れ出た。競技麻雀で死ぬことは無いが、今の咲の槓には、そう思わせるだけの勢いがある。

 そして、咲は容赦なく次の嶺上牌で、

「ツモ。清老頭。32000です。」

 役満を和了った。これは、薫の責任払いになる。当然のことながら、薫も咲にロックオンされていた。

 

 

 東三局、咲の親。

 二巡目で姫子が捨てた{⑨}で、

「ロン。国士無双。48000。」

 咲が和了った。

 この局は、咲以外は、まだ何もやっていないに等しい。不条理さしか感じられない。

 

 東三局一本場。

 今度は薫が切った{⑧}で、

「カン!」

 咲が大明槓した。そして、嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 連槓で{中}の暗槓を副露し、さらに

「もいっこ、カン!」

 三連続槓で{發}の暗槓を副露した。

 

 何故か薫の目には巨大肉食恐竜………ティラノサウルスが巨大な口を開けて薫を喰い殺そうとしている幻が見えた。

 

 咲は、次の嶺上牌を掴むと、

「ツモ! 大三元。48300!」

 またもや役満を和了った。最初の数え役満を含めると、これで四連続役満だ。確率的にゼロではないが、限りなくゼロに近い現象であることは言うまでもない。

 まさに奇跡だ!

 しかも、四回中三回が嶺上開花。もっと言ってしまえば、嶺上開花で和了った局は、全て三連続槓だ。

 ただ、その奇跡に付き合わされるほうは、たまったものではない。薫の全身を、最上級の悪寒が襲った。いや、ここまでくると寒波と言うべきか。

 

 東三局二本場。

 ここでも、

「カン!」

 咲は薫の捨て牌を大明槓した。

 またもや、薫は恐怖の幻を見た。この世のモノとは思えない巨大な蛇が薫を襲ってくる光景だ。さっき見えたティラノサウルスよりも一回り口が大きい。

 頭から一飲みにされる恐怖の幻が見える。

「ツモ! 嶺上開花ダブ東ドラ3。18600。」

 今回、咲は親ハネを和了った。これは薫の責任払いだ。

 

 東三局三本場では、

「カン!」

 今度は姫子の捨て牌を大明槓した。そして、槓子が薫と咲の間に副露される。

 この時、薫の目には、ホオジロザメよりももっと巨大な肉食水生生物………、映画で見たモササウルスが薫を襲ってくる幻が映っていた。

 さっきの大蛇よりも、さらに巨大な口をしている。

「ツモ! 嶺上開花チャンタ白ドラ3。18900!」

 ここでも親ハネを和了った。これは姫子の責任払いになる。

 ただ、それ以上に薫のほうが参っていた。もはや、生きた心地がしない。幻想の中で何回喰い殺されているだろうか?

 

 これで、各選手の点数は、

 1位:咲 297800

 2位:みかん 100000

 3位:姫子 1100

 4位:薫 1100

 みかんのみ無傷であった。

 

 そして、東三局四本場。

「チー!」

 咲は、姫子が捨てた{4}を鳴き、珍しく{横456}の順子を晒した。しかし、その次巡、

「カン!」

 咲が{三}を暗槓した。

 単なるチュンチャン牌の暗槓に過ぎないはずなのだが………、薫には、今回の副露には、今までに無い強大なエネルギーが感じられた。

 薫の頭上に巨大小惑星………いや、満月が地上に向かって落下してくるのが見えた。逃げ場がない。

 そもそも、月が地球とぶつかったら、地球は破壊されてしまうだろう。もう死ぬ以外に道は無い。

「ツモ! 800オールの四本場は1200オール!」

 咲は、{①}の暗刻も持っていた。これで50符1翻。嶺上牌が分かる咲ならではの『嶺上開花』のみの和了りだ。

 しかも、七回の和了りのうち六回が嶺上開花。

 

 この結果、

 各選手の点数は、

 1位:咲 301400

 2位:みかん 98800

 3位:姫子 -100

 4位:薫 -100

 姫子と薫のトビで前半戦が終了した。

 

 恐らく、みかんは咲に京太郎とのことを応援すると言ったことで、味方認定されたのだろう。幸いにも、ほぼ無傷で済んだ。

 

 そして、毎度の如く、前半戦終了と同時に、映像が対局室から放送席のほうに切り替えられた。

 案の定、

「チョロチョロチョロ…。」

 薫が、

「プシャ――――――!!!」

 豪快にヤッてしまった。足元には、とても恥ずかしい巨大湖が形成されている。涙も出てくる。もう死にたい。

 

 これを見て審判は、

「対局者は、一旦控室に戻って待機してください。追って再開の連絡を入れます!」

 清掃のため、試合を一時中断することを決めた。

 

 対局室の扉が開くと、憧が、

「サキ、お疲れ!」

 妙にご機嫌な顔で入ってきた。

 後半戦で咲以外の面子が、どんなに高得点を重ねたところで、300000点超えの咲を逆転することは不可能だろう。

 これで、決勝進出は確実と踏んだのだ。

 憧は、迷子対策に咲と手を繋ぐと、対局室を出て控室に戻って行った。

 

 これと入れ違いで粕渕高校のメンバーと、白糸台高校麻雀部部長の亦野誠子が対局室に入ってきた。誠子は、今一番不幸な少女、緒方薫と従姉妹でもあった。

 神楽は、薫の散々な姿を見て溜め息をついた。

「緒方先輩。対局前に『余計な一言を言わないように』と告げたはずです。先輩は触れては成らないものに触れ、喰い殺される恐怖と天変地異を越えた恐怖を味わうハメとなったのではないでしょうか?」

「う…うぅ…。」

「そして、水害とは、この巨大湖のことでしょう。」

「…。」

 誠子は、これを聞いて、神楽の言いたいことが『咲の槓の恐怖と失禁』であることを容易に理解できた。

 これに似た光景を、春季大会個人戦で何回見たことか…。

 ただ、何故、薫がここまで派手にヤラれたのかが分からない。失点は二回戦のほうが大きかったが、今回のほうが精神的ショックは大きそうだ。

 余程、咲に睨まれたとしか考えられない。

「みかん。ことのあらましを教えてくれないか?」

「はい、実は…。」

 みかんは、対局前のことを順に誠子に話した。

 もともと咲に要らぬ誤解を受けていたのは自分だったが、それが誤解であることを咲に理解してもらったこと。

 咲の恋愛を、みかんは応援すると言って咲の敵ではないことを分かってもらったこと。

 姫子が京太郎の写真を見て『大したことない』と言った瞬間、空気が変わったこと。

 そして、薫が、冗談のつもりだったのだろうが、京太郎の写真を見て『私、モーションかけちゃおうかな!』と言ったこと。

 これによって、咲の暗黒オーラが全開になったこと。

 

 これを聞かされて誠子は、

「はっきり言うわ。薫が悪い!」

 と断言した。

 

 春季大会個人戦の恐怖は記憶に新しい。

 あの惨劇を見て、誰もが咲の逆鱗に触れてはならないことを学ばなければならない。あの時、何人の女子高生雀士が散々な目に遭ったことか…。

 それに、神楽から聞かされたお告げも、学習能力があれば理解できたであろう。それをスルーして咲を刺激したのが全ての元凶だ。

 そもそも、二回戦でも散々な目に遭ってきただろう。その化物を刺激したらどうなるかくらい簡単に分かるはずだ。

 

 まあ、結果的に一番得したのは白糸台高校だった。これで、得失点差勝負になった時に一番有利になったのは言うまでもない。




おまけ
夏の奈良県予選個人戦での対局です。


初瀬「団体戦では阿知賀に完敗だったし、せめて個人戦は晩成から一人くらいは全国出場枠に入らないと…。」


初瀬は、団体戦では次鋒で出場し、玄のドラ爆被害に遭っていた。それでも中堅で咲と当たった車井百花よりはマシだったが…。

晩成高校は、昨年も団体戦は阿知賀女子学院に完敗した。
その後の秋季大会でも県大会で晩成高校は阿知賀女子学院に敗退。
秋季近畿大会では、晩成高校は4位までに入賞できなかったため春季全国大会には進めなかった。
春季大会では阿知賀女子学院が全国制覇。晩成高校は阿知賀女子学院に大きく差をつけられた状況にある。


昨年の夏は、小走やえが個人戦で奈良県王者となることで面目を果たした。
王者王者と騒ぐウザい先輩だったが、実力的には尊敬するに値する。
今年も、その先輩に続かなくてはならない。それが、名門晩成高校麻雀部員の宿命と初瀬は自分に言い聞かせていた。


個人戦一回戦。
初瀬の相手の中に、絶対に当たって欲しくない相手ナンバーワンの咲の姿があった。


初瀬「(こいつもクソ猿と同じで憧の近くにいる目障りな奴…。せめて一太刀浴びせるくらいのことはしてやる!)」


場決めがされ、初瀬は起家、咲は西家になった。


東一局
咲「ロン! 8000!」←上家からの直取り。


東二局
咲「カン! 嶺上開花ドラ3。8000!」←下家の責任払い


東三局
咲「カン! 嶺上開花! 四暗刻! 16000オール!」

東三局一本場
咲「ロン! 7700の一本場は8000!」←初瀬の振込み


これで、咲以外の三人の点数が1000点で並んだ。
毎度の点数調整だ。正直、手馴れている感はある。


初瀬「(なんなのこれ? 全然相手にならない。それに、なんか怖い。)」


東三局二本場
咲「ポン!」←①ポン

咲「カン!」←①を加槓

咲「ツモ! 嶺上開花! 50符1翻の二本場で1000オール。」

初瀬「(嶺上開花のみの和了り? これって、嶺上牌が分かってないと出来ないよね? やっぱり、こいつ化物…。)」


これで、咲以外の三人は全員0点になった。
まあ、お約束の展開だ。

東三局三本場
咲「(個人戦は、ダブル役満以上は無いんだよね。じゃあ、普通の役満でイイか。それに、この対面の晩成の人。なんだか、ずっと私の子と睨んでて気に入らないんだよね。)」

初瀬が咲にロックオンされた瞬間だった。

八巡目
初瀬は①をツモってきた。
場には既に②が四枚出ていた。これでは、①は使い難い。
ただ、①は初牌だった。
咲の捨て牌はチュンチャン牌が目立つ。国士無双狙いだろうか?
しかし、既に場には北が四枚出ていた。なら、国士無双は無い。

この状態で打ち回してもどうにもならない。和了り優先。
初瀬は、そう思って①を切った。

咲「カン!」←①を大明槓

咲「(本当は、次の私のツモ牌は1だから、そこで1を暗槓しても良かったんだけどね…。でも、どうせダブル役満無いし、この人、気に入らないし…。)」

そして、咲は嶺上牌を引くと、

咲「ツモ。清老頭! 48900!」

開かれた手牌は、
一一一九九11199  明槓①①①①  ツモ9


ここで大明槓をしなければ、咲は次のツモで1を暗槓し、清老頭四暗刻を嶺上牌で和了っていた。
しかし、個人戦ではダブル役満が認められない。ならば、一番気に入らない初瀬から親の役満を直取りしたほうが面白いと考えたのだ。

まあ、次のツモ牌の1は、万が一、初瀬が①を切らなかった時の保険だったようだが…。


「ジョ――――――!」
初瀬の下家が派手に漏らした。咲との対局を終えて恐怖から解放されたためだろう。

そして、それ以上に、
「プシャ――――――!」
初瀬の上家は、もっと派手に放水していた。咲の副露牌が迫ってくるのは彼女の位置になる。それで、まるで巨大肉食獣に喰い殺されるような恐怖に晒され続けていたのである。
むしろ、ここまで良く耐えたと褒めるべきであろう。

一方、初瀬自身は、
初瀬「(私は何とか耐え…。)」

この時だった。
初瀬股間「チョロ…。」

初瀬「(えっ? 嘘?)」

慌てて初瀬は股間に手を当てた。

初瀬「(ちょっと、止まって!)」

初瀬股間「チョロチョロチョロ…。」

初瀬「(やだもう、止まってよ!)」

初瀬股間「プシャ――――――!」

初瀬の想いは届かず、彼女もまた、豪快に放出してしまった。
その結果、一回戦から派手に巨大な湖が形成されることになった。


咲「ありがとうございました」←ペッコリンと頭を下げると、急々と対局室から逃げた

初瀬「(あのアマァ…。私をこんな目に合わせて、絶対に許さない!)」


仕方なく初瀬は、二回戦からジャージで対戦するのであった。
当然、周りからは、

外野「あの子、絶対に漏らしたよね!」

陰口を言われている。
今、初瀬が願うことは、

初瀬「(神様…。あの悪魔の被害者を増やしてください。そうすれば、私は目立たなくなります。)」

ただ、この願いに関係なく、咲の被害者は続出した。その結果、初瀬のジャージ姿は目立たなくなった。
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