南三局、咲の親。ドラは{⑤}。
カナコとしては、この親………咲には絶対に稼がせてはならない。どんな手でも構わない。さくっと流したい場だ。
誰を狙い撃ちするでもない。
手なりに打って最短での和了りを目指す。
幸運にもカナコの配牌は平和二向聴。ドラが二枚ある。しかも赤牌だ。これだけでドラ4の満貫になる。
ムダツモはあったが、ここから四巡で聴牌。
そして、
「リーチ!」
聴牌即でリーチをかけた。
どうせリーチをかけようとかけまいと咲からは和了り牌が出ない。
他の二人は自分が見えていないので、ダマでもリーチをかけても結果は同じ。
ならば、リーチをかけて少しでも点数を上げるべきとの判断だ。
しかも、{258}の三面聴。
ツモれるかもしれない。
一発での和了りは無かったが、六巡目にエミリーが捨てた{2}で、
「ロン。メンタンピンドラ4の裏1で16000!」
カナコは、ここに来て願っても無い倍満を和了った。
これで点数と順位は、
1位:カナコ(ドイツ) 157700
2位:咲(日本) 140300
3位:鈴麗(中国) 52000
4位:エミリー(アメリカ) 50000
この土壇場での倍満和了りは大きかった。これならカナコが咲にオーラスで逆転される確率は小さいはずだ。
俄然、カナコはモチベーションが上がった。
そして迎えたオーラス。カナコの親。
ここは、カナコにとっては、それこそクイタンのみでの和了りで良い。
普段はステルス発動のため、鳴き麻雀は控えている。鳴くことで自分の存在をアピールしてしまうからだ。
ただ、この局だけは別だ。ステルスが消えても和了りを目指すべきだ。
カナコは、またもや配牌二向聴。
今日は、まあまあ配牌とツモが噛み合うほうなので、これならトップで折り返せるだろう。カナコは、そう踏んでいた。
ところが、ここに来て急にカナコのツモが手牌と噛み合わなくなった。しかも、鳴ける牌も出てこない。全然手が進まない。
そのような中、
「リーチ!」
咲がリーチをかけてきた。
カナコと咲の点差は17400点。満貫までなら振り込んでも問題ない。しかし、ハネ満を振り込んだら逆転される。
赤牌ありの裏ドラありのルールでは、リーチ者は確率的に三枚のドラを持っていると考えても良いだろう。
単純計算で12割る4だ。
ここにリーチプラス何らかの一翻役が付いていれば一発振込みはハネ満になる。
当然、一発回避だ。
鈴麗もエミリーも一発回避の安牌切り。
しかし、次巡、咲は一発でツモった牌を、
「カン!」
暗槓した。
副露牌は咲とカナコの間に晒される。
しかも、この副露牌に乗って、咲の強大なオーラがカナコに向かって襲ってきた。
カナコには、まるでティラノサウルスが巨大な口を広げて自分を喰らいに来ているような錯覚が見えた。
とんでもない恐怖を感じさせる。
「(マジマジマジマジ アルマジロ!?)」
思わずカナコは卓上から顔を背けた。
しかも、恐怖から自然と涙が出てくる。
「ガタガタガタガタ オオクワガタ………。」
まさか殺し屋と呼ばれる自分が、殺される恐怖で涙を流すなんて…。
一方の咲は、嶺上牌を引くと、
「ツモ!」
その牌で和了りを宣言した。
「リーチツモ嶺上開花ドラ3。3000、6000です!」
しかもハネ満ツモ。
これで点数と順位は、
1位:咲(日本) 152300
2位:カナコ(ドイツ) 151700
3位:鈴麗(中国) 49000
4位:エミリー(アメリカ) 47000
咲の逆転1位となった。
この和了りを見てカナコは、
「(ウソウソウソウソ コツメカワウソ! まさか逆転されるなんて!)」
ショックを受けたのは言うまでも無い。
そのまま放心状態となった。
休憩時間に入った。
毎度の如く、対局室に咲の迎えが来た。
ただ、今回は恭子ではなく光だ。しかもタコスを持ってきている。
咲は光に連れられて対局室を出た。トイレに行くためだ。
別に咲は漏らす側では無い。
単に小学校の頃から休み時間にトイレに行くように指導されてきた副産物として、条件反射的に休憩時間にはトイレに行かないと落ち着かないだけだ。
それで、出すものが殆ど無くても一旦トイレに行く。
対局室を出てすぐのところで、咲と光はフレデリカと擦れ違った。
フレデリカを見て咲は、
「(やっぱり私に似てる。でも、私より少し背が大きくて、お胸もあって、なんだか見ていて悔しい!)」
と思っていた。
自分がこうなりたいと思っているスタイルをフレデリカは手にしている。まるで、自分が想像する自分の完成形を見ているようだ。
「ねえ、光。彼女のこと、知らないって言ってたけど?」
「うん。私は去年、ドイツチームを離れたからね。今年からあの子と合流するって話は以前聞いていたけど、会ったことは無いよ。」
「ふーん。でも、私に似てるよね。顔が…。」
「そうなんだよね。他人の空似とはよく言ったものだけど、やっぱり気になるよね。」
「うん………。まあ、それは置いといて。とにかくトイレ。それから水分補給を…。」
「あとタコスだね!」
「起家になれってこと?」
「そう。それと少々作戦会議。多分、咲にしかできないことだけどね。」
「分かった…。」
咲は、光と手を繋ぎ、休憩時間のスケジュールに従って、まずはトイレ方面に向けて動き出した。
一方のカナコは、呆然としたまま未だに動けないでいた。
「カナコ!」
「えっ!?」
フレデリカの声だ。
これでカナコは正気を取り戻した。
「フレデリカ、ゴメン。しくじリス。」
「大丈夫?」
「正直、大丈夫じゃない…。怖い…。」
「やっぱり日本の守護神って言われるだけあるね。」
「私もそう思ったよ。でも正直、あの日本の中堅を抑えるのって、私にはムリムリムリムリ カタツムリじゃないかな?」
「たしかに誰を当ててもきつそうだね。東場は、完全に様子見に回っていたって感じ。南場になってから本性を現したよね。」
「一応、今は僅差で2位だけど…。」
「うん。後半戦は分からないね。」
「あと、マジマジマジマジ アルマジロ! って思ったんだけどね。どうもステルスが効いてないっぽいのよ。」
「それは見ていて私も思った。私にもできないことをやってるよね、彼女。」
「フレデリカ以上の雀士なんて信じられない!」
「まあ、世界は広い。上には上がいるってことね。でも、気になったのは最後の局。なんか、急激に支配力が上がった気がしたのよ。」
「やっぱり?」
たしかにオーラスは、何故かそれまでとツモの流れが違っていた。
配牌とツモが丸っきり噛み合わないことはある。
しかし、今日は東一局から南三局までのツキ具合からして、あそこまでツモが酷くなるとはカナコも思っていなかった。
それこそ、ツモが悪ければ、鳴けば良いと思っていたが、鳴ける牌も出てこない。
正直、最後の最後で『鳴ける』ではなくて『泣ける』局になってしまった。
「でも、中国とアメリカには、まだカナコのステルスが効いてるからね。中国とアメリカから直取りして稼ぐしかないね。」
「分かってる。」
「あと、リーチをかけずに、日本にヤバそうな牌を引いたら降りることかな。」
「うん。そうしてみる。ぶっ殺すフィンクスは、ムリムリムリムリ カタツムリだけど、トータルで勝てば良いってことだよね?」
「そう言うこと。じゃあ、後半戦、ベストを尽くしてね。」
「うん。」
一先ず、カナコの目に光が戻った。
麻雀は四人で打つもの。一対一ではない。
なので、ムリに咲を相手にするのではなく、咲以外を相手にすれば良いだけだ。それで稼がせてもらう。
しばらくして、咲が対局室に戻ってきた………と言うか、光によって送り届けられた。
この時、咲はタコスの包みを持っていた。どうやら、食したようである。
場決めがされ、起家は咲、南家はカナコ、西家は鈴麗、北家はエミリーに決まった。
さすがに、タコスパワーで意図的に咲が起家になったとは、さすがのカナコも想像できなかった。
東一局、咲の親。
咲は、自らの支配力を最大限まで上げた。
そしてサイを回し、出た目に従って山から牌が取られてゆく。
この時の様子を咲は集中して見ていた。
牌が透けて見える咲ならである。カナコが取ってゆく牌は、カナコが触れると見えなくなるが、それまでは見えている。
つまり、カナコが何を取っていったのかは、咲には判ると言うことだ。
それから、全員のツモ牌も見えるわけだから、カナコの配牌とツモから、カナコの手の中がどうなっているのかは、ある程度想像がつく。
これで、麻雀ゲームで鍛えられた方法に縛られずにステルスに立ち向かうことが可能となった。つまり、能力麻雀で対抗できる。
これに気付いたのは、百戦錬磨の光だった。これを、休憩中に作戦会議と称して咲に告げたのだった。
咲の支配力マックス状態での対局が始まった。
三巡目、鈴麗が切った{⑨}で、
「ロン! 48000です!」
咲は、いきなり国士無双を和了った。
東一局一本場。
ここでは、
「カン!」
序盤から咲は、エミリーが切った{③}を大明槓した。
しかも、これは配牌時にカナコが取っていたであろう{①}二枚と{②}二枚の使い道を限定する鳴きでもあった。
カナコは当然、
「(私の持っている牌が透けて見えてるんじゃ?)」
と疑った。良い読みである。
ところが、その直後………、彼女に向けて咲のオーラを乗せた副露牌が近づいてきた。
それと同時に、再びティラノサウルスに食い殺される幻覚を見させられたのは言うまでも無い。
「(ムリムリムリムリ カタツムリ! これを毎回やられてたら私が失禁する!)」
カナコにも、何故、咲の下家が巨大湖を形成するかが嫌と言うほど理解できた。もう生きた心地がしない。
咲は、嶺上牌を掴むと、
「もいっこ、カン!」
続いて{3}を暗槓した。さらに次の嶺上牌を引くと、
「もいっこ、カン!」
今度は{三}を暗槓し、さらに次の嶺上牌を引いて、
「もいっこ、カン!」
とうとう四つ目の槓子を副露した。{西}の暗槓だ。
当然、カナコは、
「(オロオロオロオロ ヤマタノオロチ…。)」
ヤバイ状態に入りかけていたのは言うまでも無い。
四連続で咲のオーラを浴びせられ、この短時間のうちに4回も死んだ幻を見させられているのだ。
今のところ、カナコは耐えているが、普通の人間なら、もう大放水しているだろう。
そして、咲は最後の嶺上牌で、
「ツモ! 48300です!」
とうとう四槓子を和了った。
東一局二本場。
さすがに大明槓からの責任払いで役満を和了られたら、エミリーも初牌切りを躊躇する。
この局、エミリーは、自分の見える範囲(カナコの捨て牌が見えていない)で、初牌を切るのを極力控えた。
しかし、咲は、まるでこれを逆手に取るように、
「ロン。タンピン三色ドラ4。24600です。」
前々巡で鈴麗が切った牌でエミリーから親倍を直取りした。
東一局三本場。
既に場には{②}が四枚捨てられていた。咲が二枚、エミリーが二枚だ。
「(これ、使えないよね…。)」
鈴麗が引いてきたのは{①}。しかし、自分の手牌は平和系。
初牌だったが、{①}を抱えていては当然手が進みにくい。それに、何とかして咲の親を流したい。
それで、鈴麗は{①}を切ったが、
「カン!」
それを咲が大明槓してきた。
再び、副露牌に乗って咲のオーラがカナコの方に飛んできた。
この時、カナコに見えた幻影は、床の底が抜けて落下し、その下で巨大な水生肉食生物が口を広げてカナコが口の中に飛び込んでくるのを待っているような感覚。
「(チョロ…。)」
カナコの括約筋が緩んだ。
「(ヤバヤバヤバヤバ ヤンバルクイナ!)」
ここで大放水したらマズイ。
「(ダメダメダメダメ ダルメシアン!)」
カナコは、両手を股に当てて必死に堪えた。
一方の咲は、嶺上牌をツモると、
「ツモ! ダブ東中混一チャンタ嶺上開花ドラ1。24900!」
そのまま嶺上開花で親倍を和了った。当然、これは鈴麗の責任払いになる。
東一局四本場。
既にカナコからは戦意が消えていた。戦意が恐怖に負けたのだ。
前局、カナコは、なんとか耐え切った………いや、厳密には少しだけ漏れ、
『やっチーター!』
とは思っていたし、まともに失禁する直前までイッてしまった。
咲は、『日本の守護神』とか『嶺の上の女王』とか言われているが、巷では別の呼び名もある。
悪魔の紋章………そして死神である。
カナコは、それを思い出していた。
殺し屋と呼ばれる自分を精神的にここまで追い詰めるとは………やはり咲は死神………いや、それ以上だ。
もはや、破壊神と言うべきだろう。
フレデリカに似た顔の少女、宮永咲。
まさに、今のカナコにとっては、咲はブラック・フレデリカと言うべきか。
今の状況が辛い。
思わず、
「つらたん。」
カナコの口から言葉が漏れた。
場の雰囲気が急に変わった。
カナコの戦意喪失と同時に、彼女のステルスが消えたのだ。
ここからは、普通の四人麻雀だ。もう、咲はカナコのマイナスの気配を気にする必要は無い。
咲は、
「カン!」
二巡目で鈴麗が捨てた{一}を大明槓した。
嶺上牌は有効牌。そして打{③}。
続いて咲は、
「ポン!」
エミリーが捨てた{中}を鳴いた。
数巡後、
「もいっこ、カン!」
咲は{中}を加槓し、嶺上牌を引くと、
「もいっこ、カン!」
{白}を暗槓した。
そして、次の嶺上牌で、
「ツモ!」
当然の如く、咲は嶺上開花を決めた。
開かれた手牌は、
{九九北北} 暗槓{裏白白裏} 明槓{裏中中裏} 明槓{一一横一一} ツモ{九}
「白中混一混老対々三槓子嶺上開花。12400オール!」
これで、鈴麗とエミリーの点数は14700点まで落ち込んだ。
一方のカナコも、必死に放水を堪えた。何とか巨大湖形成には至っていない。
そして、東一局五本場。
「カン!」
七巡目で咲が{西}を暗槓した。
この時、カナコには、遥か数十キロメートル先に巨大小惑星が落下し、とんでもない爆風が自分に襲い掛かってくるような幻………悪夢を見ていた。
その熱い爆風に煽られながら見える光景………それは、地が割け、そこからマグマが噴出してくる地獄と化した地球。
まさに破壊神によってリセットされつつある世界の様子だ。
「(チョロ…。)」
またもや、カナコの括約筋が緩んだ。
「(ダメダメダメダメ ダルメシアン!)」
両手で股を押さえて、カナコは必死に耐えた。
それを横目にしながら、咲は嶺上牌をツモり、
「ツモ! 四暗刻!」
役満を和了った。
おまけ
怜「園城寺怜と。」
爽「獅子原爽の。」
怜・爽「「オマケコーナー!」」
怜「例の伏字のヤツでな、上品なのを二つ考えたんや。」
爽「どんなの?」
怜「まずば、ア〇テラス!」
爽「ええと、これは…、アマテラスとアステラスかな?」
怜「正解や! それからな、もう一つ。し〇ふ〇じん!」
爽「これは、片方は七福神だろうけど、もう一つは?」
怜「獅子奮迅や!」
爽「おお! でも、こんなこと言ってくるってことは、もしかしてハヤリ20-7が化けてるんじゃない?」
怜「それはない。それにしてもハヤリ20-7はスバラやったな!」
爽「もうクソスバラだね!」
怜「竜華でも勝てんわ。」
爽「あんなの体験しちゃうと、もう後戻りできないよね!」
怜「せやな…。ある意味、怖い体験やな。もう、普通の生活に戻れなくなるわ。」
爽「たしかにね。」
怜「そしたら今日は、あったら怖い体験談でも考えてみよか?」←精力を全部吸い尽くされて下品ネタが考えられない
爽「たまには、そう言うのもイイね。」←同上
怜「なんか無いかな?」
爽「じゃあ、あったら怖い体験談。火災で逃げ遅れた人の失敗談。」
怜「それって絶対ありえへんやろ? 失敗談語る以前に死んどるやないか?」
爽「そう! だから、あったら怖い体験談。」
怜「たしかに怖いわ、それ。そう言えば、昔、新宿火災なんてのもあったな。たしかあれは、2001年か?」
爽「ところで私達は、2020年で18歳なのか、連載開始当時で18歳なのか、どっちだろ?」
怜「それは難しいところやな。でも、三次元世界とは別の時間軸と考えなあかんやろな。」
爽「まあ、それは置いといて。」
怜「置いとくんかい!」
爽「置いとかないと話が進まないからさ。」
怜「せやな。」
爽「でね、ふと思い出したんだけど、私の知り合いがさ、新宿火災があったあの日に、火災があったビルの向かいの地下で飲んでたらしいんだよ。」
怜「それは、ちょっと間違ってたら火災のあったビルにいたかも知れへんてことか?」
爽「そうかもね。でね、そこで友人達の飲んでたら、『火事だ!』って言って入ってきた男の人がいたんだって。」
怜「ほお。そこの客に火事を教えに来たんやな。」
爽「ところが、誰も外を見に行こうとしなかったんだって。てんで無視。」
怜「何人か見に行ったんとちゃう?」
爽「それが、パッと店の中を見た感じ誰も動かなかったらしい。少ししたら、その男の人もいなくなちゃってね。」
怜「呆れて出てったんやろな?」
爽「かもね。知り合いの人は、まあ、本当に火事があったら火災報知器とか鳴るだろうし、店の人が誘導するだろうしって思って、店の中にいたらしいんだけどね。」
怜「まあ、うちも多分、そうするやろな。」
爽「それに、別にその店が火事になったわけでもなかったからね。ガセネタだったのかなぁ…なんて思ったらしい。」
怜「ホンマに火事やったのにな。反対側は。」
爽「で、もういい加減遅いし、みんなでタクシーでも拾って帰ろうかってなって店を出たら、警察官とかいっぱい来ていて、火災の跡に近づけないように、道路には「keep out」のテープみたいなのが張られていたらしい。」
怜「へっ?」
爽「もう、道路のね、火災があったのと反対側ギリギリしか歩けないような感じでテープが張られてたって。」
怜「マジなん、それ?」
爽「マジなんだけどね。それで、その知り合いの人が友人達にさ、
『火事だ!』
って言いながら店に入ってきた奴がいたなって言ったんだけどね。
そしたら、その友人の一人が、
『そんな人いた?』
って聞き返してきたって?」
怜「は?」
爽「つまり、火災があったこと、誰も聞いてなかったってことだよ。もしかしたら、他の客も聞いてなかったってことかな?」
怜「つまり、もし、その知り合いの人がいたビルで火災が起きていたとしても、みんな本気にしなかったり聞いて無かったりで逃げ忘れ、そのまま死んでしまうってことやな?」
爽「多分ね。もしかしたら火災があったビルでも、殆どの人がそうだったんじゃないかななんて思った。」
怜「それはそれで怖いな。」
爽「怖いよね。」
怜「でもな、もしかしたら、その話、別の意味で怖い話かも知れへんで。」
爽「どゆこと?」
怜「もしかして、その『火事だ!』って言って入ってきた男の人、向かいのビルにいて火事で焼け死んだ人の幽霊やないか?」
爽「えっ?」
怜「せやから、その知り合いの人には聞こえていたんやけど、他の人には聞こえてへんかったってことや。」
爽「そう言った考えまでは、思いつかなかったな。でも、それって有り得るよね。」
怜「もしかしたら、そっちの方が怖いかも知れへんな。怪談的には。」
爽「そうだね。でも、現実的には『火事だ!』って言って入ってきた人の声を誰も聞こうとしなかったことの方が問題と言うか怖いけどね。」
竜華「怜。お疲れ。」←大きなスーツケースを持って入ってきた
怜「おお、竜華か。」
誓子「爽も、お疲れ。」←同上
爽「誓子か。でも、なんでここに?」
誓子「二人のコーナーがどんなものかを見てみたくて。」
爽「別に大したこと無いけどね。それにしても、誓子、少しウエストが太くなってない? 胸も少し縮んだみたいだし、あれ? 脚も五センチくらい短くなったような…。」
怜「そう言えば竜華も、太ももが少し硬くなったような感じが…。」
竜華「うちらは、全然変わってへんよ。変わったのは、二人の感性の方とちゃう?」
竜華は、そう言うと持ってきたスーツケースを開けた。
すると中には一体のハヤリ20-7が収められていた。
しかも電池切れなのか、全く動こうとはしない。
誓子も、同様にスーツケースを開けた。
やはり中には一体のハヤリ20-7が収められていた。
こっちも電池切れっぽい。
取扱説明書:ハヤリ20-7は、男女問わず理想の相手に変身することができます。しかもパーツごとに設定可能です。
取扱説明書:電池切れを起こした場合、元の姿に戻ります。
竜華「怜が言ってる太ももの柔らかいうちってのは、この泥棒ネコがうちに化けた姿とちゃうん?」
誓子「もっと脚が長くてウエストが細くて胸がある私って、このダッチ〇イフが私に化けた姿のことよね!?」
怜・爽「「え…えっとう…。」」
竜華・誓子「「これって、どう言うこと!?」」
怜・爽「「(ヤバい、浮気がバレた。)」」
竜華・誓子「「何か言ったらどう!?」」
怜・爽「「(もしかして、これが一番怖い体験談じゃないだろうか?)」」
竜華・誓子「「二人とも!」」
怜・爽「「ごめんなさい。」」←やけにあっさり認めた
その後、怜と爽は竜華と誓子から謹慎処分が言い渡された。