副将後半戦東二局、小蒔の配牌は、
{一一二三八九九③⑥37東發}
混一色七対子まで四向聴の手だった。
第一ツモは{二}、ここから打{⑥}。
二巡目ツモは{三}、打{3}。
三巡目ツモは{八}、打{③}。
四巡目ツモは{東}、当然、打{7}。
そして、五巡目ツモは、和了り牌の{發}。
「ツモ! 3000、6000!」
全くムダツモ無しで、たったの五巡で小蒔はハネ満ツモ和了りを決めた。
東三局、郝の親。
ここでも小蒔は配牌に恵まれた。
東一局から東一局二本場までの重い手牌が嘘のようだ。
小蒔の配牌は、
{一一四[五]九九②⑨48東東中}
第一ツモは{一}、ここから打{4}。
二巡目ツモは{東}、打{8}。
三巡目ツモは{中}、打{②}。
四巡目ツモは{九}、当然、打{⑨}。
この時点での小蒔の手牌は、
{一一一四[五]九九九東東東中中}
たった四巡で東門前混一色三暗刻赤1を聴牌した。
そして、次巡も全くのムダツモ無しで{三}を引き当て、
「ツモ! 東メンホン三暗刻赤1。4000、8000!」
倍満をツモ和了りした。
東初の時とは異なり、完全に流れはフレデリカから小蒔のほうに流れていた。
その起点となったのは、恐らく東一局二本場でのダヴァンの鳴き。
フレデリカは山を自分に都合の良い形にする力を持っているが、その能力に小蒔の霊力が負の干渉を起こしているのかも知れない。
少なくとも今は、フレデリカ自身、十分な力を発揮できていないようだ。
まだ逆転こそされていないが、フレデリカは、このままでは後半戦も小蒔に持って行かれる危機感を覚え始めた。
「(なんとか流れをこっちに取り戻さないと………。そのためには、先ずはチャンスを掴まないとね。)」
流れを変える起点は、いくらでもある。
それこそ、さっきのダヴァンの鳴きのように、チーやポン一つで流れがまるっきり変わることもあるし、人によっては、何故か理牌しなくしただけで流れが変わることもある。信じられないことだが………。
他にもチョンボが流れを大きく変え、これも何故かチョンボした当人にツキが巡ってくるケースすらある。
東四局、小蒔の親。
突然、小蒔から放たれるオーラが、今までの何倍にも膨れ上がった。さすがに、これにはフレデリカも抗える自信が無い。
この局、小蒔の配牌は、
{一一二四七八九九九④⑥289}
字牌が一枚も無く、しかも萬子に大きく偏っていた。
まさに萬子の九連宝燈を作ってくれと言わんばかりの手牌だ。
これを手にして、ここで一気に勝負に出ようと、小蒔に降りた最強神はオーラを最大放出した。
第一打牌は{④}。
二巡目、ツモ{三}、打{⑥}。
三巡目、ツモ{[五]}、打{2}。
四巡目、ツモ{一}、打{8}。
五巡目、ツモ{六}、打{9}で、とうとう萬子の純正九連宝燈を聴牌した。
そして次巡、
「ツモ!」
小蒔は萬子を引き当て、親での九連宝燈を見事和了った。
「16000オール!」
最強神と言えど、点数申告の声に力が入った。これで、咲と同じDNAを持つ少女を逆転するだけに留まらず、大差をつけてリードできたのだから当然かもしれない。
これで後半戦の順位と点数は、
1位:小蒔(日本) 160700
2位:フレデリカ(ドイツ) 107100
3位:郝(中国) 73500
4位:ダヴァン(アメリカ) 58700
小蒔が後半戦の流れを掴んだ上に50000点以上の大量リード。
加えて、前半戦でもフレデリカの最後の和了りはギリギリで三倍満に届かず、結果として、たった1100点ではあるが小蒔がトップ。
完全に、流れと言うかツキは小蒔のものになっているように思える。
もはや、小蒔の勝ち星、それすなわち、日本チームの優勝を多くの人達が確実視し始めていた。
東四局一本場、小蒔の連荘。ドラは{西}。
ここでも小蒔の配牌は萬子に偏っていた。
これでは、萬子の染め手に向けて一切のムダツモが無い小蒔のスピードにフレデリカも追いついて行けない。
小蒔は、当然のように手を進め四巡目で既に混一色七対子ドラ2の一向聴まで手を進めていた。
ところが、同巡、ダヴァンが捨てた{2}を、
「チー!」
郝が珍しく鳴いた。
この時、郝の手は、
{①123[5]77899} チー{横213}
これは、日本の麻雀ルールでは索子の清一色一向聴である。しかし、中国麻将では一色双竜会と呼ばれる役満級の一向聴になる。
鳴きが少ない郝でも、この手なら鳴いて行く。
ただ、この鳴きが、流れやツキの歯車を微妙に狂わせた。
本来であれば、次のツモで小蒔は、混一色七対子ドラ2を聴牌するはずであった。しかし、これでツモがズレて小蒔のツモはムダツモとなった。
それでも、次のツモ番では強大な支配力によってツモを立て直して聴牌し、そのさらに次のツモ番で小蒔は、
「ツモ! 混一色七対子ドラ2。8100オール!」
親倍をツモ和了りしたのだが、この時、フレデリカは場の空気に微かな乱れを感じ取っていた。
「(これってチャンスかも?)」
フレデリカは、いよいよ賭けに出ることを決意した。
東四局二本場。ドラは{⑤}。
フレデリカの読みどおりだろうか?
この局は、小蒔の配牌には萬子が三枚しかなかった。しかも字牌は二枚のみ。混一色七対子に持って行くにも九巡目になる状態となった。
八巡目、フレデリカの手牌は、
{六六六⑥⑥⑥2222566}
一向聴となった。小蒔から流れが離れた始めた途端に鬼のようなツモである。
同巡、ダヴァンの手牌は、
{三四[五]⑤[⑤][⑤]⑦33445西} ツモ{5}
ここから打{西}で先行聴牌した。
しかも、タンヤオ一盃口ドラ6の倍満手。
どうやら、流れがダヴァンにも来ていたようだ。
次ツモで小蒔の手牌は、
{一一二二九九⑥東東西西白中} ツモ{中}
{⑥}を切れば混一色七対子聴牌であるが、小蒔は、ダヴァンの顔を見てニヤリと笑みを浮かべると、{白}を切って{⑥}待ちの七対子で聴牌した。
相手の待ち牌が全て見通せている最強神ならではであろう。
同巡、フレデリカのツモは{北}。ツモ切り。
そして、同巡、ダヴァンは{③}をツモった。当然、ここは{⑦}切りで三色同順を意識する。もし、{④}でツモ和了り出来れば三倍満だ。
次巡、小蒔は{三}をツモると、聴牌形を混一色七対子に切り替えて{⑥}を切った。{⑥}がダヴァンの待ち牌でなくなったのだから当然の動きであろう。
しかし、次の瞬間、
「カン!」
これをフレデリカが大明槓した。
嶺上牌は{6}。
すると、フレデリカは、
「もいっこ、カン!」
もともと手の中で四枚揃っていた{2}を暗槓した。
そして、次の嶺上牌………{6}を引くと、
「もいっこ、カン!」
さらに{6}を暗槓し、次の嶺上牌………{[5]}で、
「ツモ!」
嶺上開花で和了った。
開かれた手牌は、
{六六六5} 暗槓{裏66裏} 暗槓{裏22裏} 明槓{横⑥⑥⑥⑥} ツモ{[5]}
「タンヤオ対々三暗刻三槓子三色同刻嶺上開花赤1。24600!」
フレデリカは、小蒔から三倍満を責任払いさせた。
とは言え、後半戦の順位と点数は、
1位:小蒔(日本) 160400
2位:フレデリカ(ドイツ) 123600
3位:郝(中国) 65400
4位:ダヴァン(アメリカ) 50600
未だ、小蒔の断然トップ状態のままであった。
残る南場で、小蒔が首位を守り抜けば、副将戦の勝ち星は日本チームのものとなる。一般的に考えて、まだ小蒔が有利と言ったところだろう。
南入した。
南一局、フレデリカの親。
出場所最高の三倍満を和了った直後に回って来た親番である。フレデリカにとっては、当然、最高に志気が上がるシチュエーションであろう。
この立場にあれば、誰でもこの親で連荘して逆転したいと思うだろう。フレデリカとしても例外ではない。ここで一気に稼ぐつもりでいた。
牌牌は、
{三四五24688⑨東東南南白}
ここから打{⑨}で二向聴。かなりの好配牌だ。
しかし、二巡目、
「リーチ!」
ダヴァンが先制リーチをかけてきた。
通常であれば、ダヴァンは誰かが聴牌するのを待ってデュエルを仕掛ける。しかし、今は、このサクサク手が進んだ流れに任せて一気に和了れると踏んだのだろう、勝負に出た。
次巡、フレデリカは聴牌したが、その直後、
「一発ツモデース!」
ダヴァンに和了られた。
「メンタンピン一発ツモドラ2。3000、6000!」
しかもハネ満。
流れはダヴァンにも行っていたのだ。
フレデリカにとっては最悪である。大事な親番を流されてしまった。しかもハネ満の親かぶり。
しかし、まだ希望の光はフレデリカの目からは失われていなかった。
場が進むに連れて、むしろ、集中力が増している感じがある。まるで南場の鬼神、南浦数絵を思い起こさせる。
南二局、ダヴァンの親。
当然、ダヴァンは連荘を狙う。
既に副将戦での勝利は難しいと思うし、チームの優勝、準優勝は、正直なところ非現実的であろう。
しかし、3位になるか4位になるかは大きい。
3位ならメダルはあるが、4位ではメダルが無いからだ。
当然、3位争いは、し烈な戦いとなる。得失点差勝負を視野に入れて、ここから100点でも多く稼ぎたい。
この局、ダヴァンは幸運にも好配牌でスタートすることが出来た。やはり、ツキは自分にある。
しかし、これを邪魔するものがいる。
小蒔が捨てた{④}を、
「ポン!」
フレデリカが鳴いて流れを変えてきた。
しかも、その直後、
「ポン!」
フレデリカは、郝が捨てた{白}を一鳴きしてきた。
これで、元のダヴァンのツモは、フレデリカに回ることになる。
実は、フレデリカは、これを狙っていた。
より流れが来ている者のツモを喰い取ることが、流れを完全に自分のものにする最短方法とも言えるからだ。
数巡後、フレデリカは{④}をツモると、
「カン!」
それを加槓した。
嶺上牌は{白}。当然、これを、
「もいっこ、カン!」
フレデリカは加槓した。
続く嶺上牌は{⑧}。
この時、フレデリカの手牌は、
{⑥⑦⑦⑦⑧⑧⑧} 明槓{白白横白白} 明槓{横④④④④} ツモ{⑧}
白混一色嶺上開花で和了っていた。
しかし、ここでフレデリカは嶺上開花を放棄し、
「もいっこ、カン!」
{⑧}を暗槓した。
そして、ツモってきた嶺上牌、{⑥}で、
「ツモ!」
和了りを宣言した。
「白混一対々三槓子嶺上開花。4000、8000!」
まるで、昨年夏の長野県大会団体決勝大将後半戦で咲が見せたタンヤオ対々三暗刻三槓子嶺上開花………最初の嶺上開花を放棄して暗槓し、続く嶺上開花での和了りを決めた奇蹟の闘牌を髣髴させる。
最強神からすれば、フレデリカが咲と同じDNAを持つ者であることを改めて認識させられるだろう。
この和了りで、後半戦の順位と点数は、
1位:小蒔(日本) 153400
2位:フレデリカ(ドイツ) 133600
3位:郝(中国) 58400
4位:ダヴァン(アメリカ) 54600
小蒔とフレデリカの点差が20000点弱まで縮んできた。
次にフレデリカのハネ満ツモが出れば、小蒔とフレデリカの点差は5000点程度となる。つまり、フレデリカは逆転に向けての射程圏内に入る。
しかも、ここに来て、この和了り。
今、流れはフレデリカにあると誰もが信じ切っていた。
既に、副将戦の勝ち星は、小蒔とフレデリカのどちらが取ると言ってもおかしくない。小蒔が逃げ切るか、フレデリカが逆転するか………。
観衆側も、いよいよ激しく興奮してきた。
南三局、郝の親。
和了りたいのは、小蒔とフレデリカだけではない。激化した3位争いに勝ってメダルを手にするため、ダヴァンと郝も和了りに向けて必死である。
親の郝は配牌三向聴。
同じくダヴァンも配牌三向聴であった。
ただ、ツモと配牌が噛み合うかは別である。
フレデリカは配牌四向聴。
小蒔も、混一色七対子を狙うと仮定した場合、やはり配牌四向聴であった。
後は、誰が先に和了るか、ただ、それだけであろう。
とは言え、ダヴァンと郝には悪いが、やはり観衆の興味はフレデリカと小蒔のどちらが勝利するかである。
この二人にフォーカスした場合、向聴数が同じであれば、鳴かれない限り一切のムダツモが無い小蒔が有利であろう。実際に、能力麻雀を知る者の殆どは、そう確信していた。
そして、まるで、その考えに応えるかのように、
「ツモ! 3000、6000!」
小蒔は五巡目で混一色七対子をツモ和了りした。
これで、後半戦の順位と点数は、
1位:小蒔(日本) 165400
2位:フレデリカ(ドイツ) 130600
3位:郝(中国) 52400
4位:ダヴァン(アメリカ) 51600
前半戦での1100点差も加えると、小蒔とフレデリカの点差は35000点を超える。前局開始時とは打って変わって、日本チーム有利と誰もが思う状態となっていた。
オーラス、小蒔の親。ドラは{①}。
小蒔の第一打牌は{⑤}。最速で逃げ切るつもりで、ここでも最強神は、混一色七対子での和了りを目指す。
一方、フレデリカだが、
「(ここに来て、第一ツモで聴牌………。)」
咲と同じDNAを持つからであろうか、咲と同等の強運と言うか豪運を持っているようだ。この追い詰められた状態での配牌聴牌。
しかも、それなりの役がある。
いや、最後の最後で能力が最高状態に達したと言うべきか。
彼女は、他家の手牌や山を見ると、
「(これに賭けるしかなさそうね。)」
第一打牌の{西}を川に置くと、それをそのまま横に曲げ、
「リーチ!」
ダブルリーチをかけた。
おまけ
九十四おまけの続きです。
エイスリン&司馬懿仲達と言うとんでもない組み合わせです。
御堅いストーリーです。苦手な方はブラウザバックをお願いします。
3.巨大カラクリ
あれから数時間が過ぎ、時は何時しか明け方となっていた。
エイスリンは、馬車に揺られながら、すっかり転寝してしまった。気が付くと、そこは既にタイムマシーンの目と鼻の先であった。
「エイスリン殿。着きましたぞ。」
「は…はい…。」
エイスリンは、馬車から降りるとタイムマシーンの扉を開け、まるで疲れ切った身体を引き摺って我が家に帰ってきた亭主が、ホッとして見せるような安堵の顔で乗り込んで行った。完全にオヤジ化している。
とは言うものの、彼女にとってタイムマシーンは、もはや自分が生まれた時代を思い起こさせる唯一のものなのだ。
それを考えるとオヤジ化も仕方が無いかもしれない。
「では、司馬懿殿も一緒にタイムマシーンに乗って下さい。」
「私がか?」
「はい。時は一刻を争います。」
「しかし、私は…。」
「タイムマシーンでしたら、ほんの数分で洛陽に着きます。それに、司馬懿殿が一緒にいてくれませんと、洛陽に着いてから、私が呉蜀の人間でないことを誰が説明して下さるのです?」
「わ…分かった。」
司馬懿にとってタイムマシーンは、どのような仕掛けなのか正体が掴めず、この上なく恐怖心を煽る物体であった。
しかし、曹操の命がかかっている今、藁にもすがる心境で、半信半疑な表情を見せながら馬から下りるとタイムマシーンに乗り込んだ。
中に入ると、司馬懿の顔に驚愕の文字が浮かび上がった。
そこは、彼にとって、今までに見たことが無い目映い光に包まれた空間だったのだ。
まず、二十世紀以降の人間達が常識的に使っている蛍光灯の存在に驚かされた。
現代科学の後ろ盾があって生きる人間達には当たり前のことでも、司馬懿が生きる時代では、闇夜を人工的に照らすのは蝋燭とか松明の火くらいなものである。
ところが、それらを遥かに超越した光が天井から射してくるのだから、彼にとっては革命的であった。
しかも、操縦室のあちこちでは、モニター画面やスイッチ類からも煌々と光が放たれていた。
司馬懿には、それらが何を意味する物か見当もつかなかったが、少なくとも惜しげも無く光が放たれてくること自体が想像を遥かに越えたものなのだ。
「こ…これは、いったい…。」
「これが、タイムマシーンです。時代設定装置が故障して、元の時代に戻ることができなくなってしまいましたけど、まだ自動車や飛行機のように移動することくらいはできますから。」
「自動車? 飛行機?」
これらは、司馬懿にとって意味不明の言葉だった。
そもそも、この時代には我々の言う自動車や飛行機の概念すら無いのだ。
「はい。つまり、陸路や空を自由に移動できるということです。」
「空って…、まさか飛べるのか?」
「はい。確か、洛陽は北東の方角でしたよね。」
「あ…ああ…。」
「では、行きます!」
エイスリンが手もとのスイッチをいくつか押すと、物凄い勢いでタイムマシーンが垂直に急上昇し始めた。
そして、高度数千メートルに達すると、音速を遥かに越える超スピードで洛陽を目指して突き進んで行った。
モニターの一つに、タイムマシーンの機体下部から地上を撮影している映像が映し出されていた。
司馬懿は、いつも馬で走っている大地の地形が全て頭の中に入っていたが、それをこんなに高い位置から見下ろすのは生まれて初めてのことであった。
操縦窓の外には、同じ高さのところを雲が通り過ぎて行く。
司馬懿は、今、この時代の人間では絶対に不可能なことを経験しているのだ。
再びモニターを覗き込むと、もう洛陽のすぐ近くまで来ていた。
まだ出発して一分も経っていないのに、これだけの距離を進んでいたのだから、司馬懿は、ただ驚くばかりであった。
「これは…。恐ろしいカラクリだな…。」
「まあ、この時代の科学力から考えればそうなるでしょうね。それで、司馬懿殿。」
「何だ?」
「何処に着陸すれば良いでしょうか?」
「着陸?」
「はい。タイムマシーンを降ろすところを何処に?」
「そうだな…。魏王を余り動かしたくは無いが、下手なところにこのカラクリを降ろしても、人々の不安を煽ることになる。一先ず、私の屋敷の中庭に降ろしてくれ。」
「分かりました。それで、司馬懿殿の屋敷はどちらに?」
「まず、このままの高さで洛陽に入ってくれ。そうすれば、下の者達からは発見し難いだろうからな。それで洛陽に入ったら、一度、この高さのまま止まってくれぬか?」
「はい。」
「そうしたら、この陸を映しているこれ…。」
「モニターですか?」
「モニターと申すのか、これは?」
「はい。」
「洛陽の中心に行けば、このモニターに私の屋敷が映るはずであろう。そうしたら、どこに私の屋敷があるかを説明する。」
「分かりました。」
エイスリンは、そのまま洛陽に入ると、司馬懿に誘導されて彼の屋敷の真上に来た。そしてそこから一気に垂直に急降下し始めた。
これには、司馬懿も一気に顔が蒼ざめて行った。戦慄に震える戦場での空気とは全く異なるタイプの恐ろしさである。
この初めて経験する恐怖に、彼は、ただ身体を硬直させることしかできなかった。
地上100メートル程の高さまで来た時、タイムマシーンが逆噴射を始め、辺り一面に爆音が鳴り響いた。
この爆音を聞きつけて屋敷の中から司馬懿の二人の息子、司馬師と司馬昭が中庭に飛び出してきた。
この時、司馬師は十代前半、司馬昭はまだ十歳にも満たない子供だった。
タイムマシーンは、そのままゆっくりと屋敷の中庭に降りて行った。
一方、司馬師と司馬昭は、訳の分からぬカラクリに、いつでも飛び掛かれるようにと、木の棒を持って構えていた。
タイムマシーンの扉がゆっくりと開いた。
司馬師と司馬昭は、正体不明の巨大カラクリを目の前にしてブルブルと震えていた。
しかし、中から司馬懿が降りてきたのを見て、二人は、ホッと胸を撫で下ろした。
司馬懿は、急降下の際に見せてしまった恐怖にこわばった顔を、決して息子達に悟られまいと、取り繕ったように威厳に満ちた表情を作っていた。
「二人共、どうしたのだ?」
これに司馬師が答えた。
「父上こそ、何故そのようなカラクリに?」
「実はな、魏王の病を治せるかもしれないと言うことでな…。」
タイムマシーンからエイスリンが降りてきた。
初めて見る青い目と金髪に、武器(木の棒)を持つ司馬師と司馬昭の手に自然と力が入った。
これを見て司馬懿は、両手を広げてエイスリンを庇うように二人の前に立ちはだかった。
「二人共。この女性は、時空を超えてやってきたのだ。確かに見るからに我々とは別種だが、れっきとした人間だ。この方が、未来の科学とやらの力を使って魏王の病を治そうと言われたのだ。無礼だぞ!」
「は…はい…。」
この時代、上下関係は今よりもずっと厳しい。
司馬懿がエイスリンを重客として扱う態度を示している以上、司馬師と司馬昭も、それに準じなければならないだろう。
「司馬師、司馬昭。私は、これから魏王をお迎えに上がる。このカラクリの中に魏王をお連れするのだ。」
「「はいっ!?」」
「では、行ってくる。エイスリン殿に無礼の無いよう頼むぞ!」
司馬懿は、司馬師と司馬昭の上に立つものとして威厳に満ちたオーラに身をまといながら急いで馬屋に行き、颯爽と馬にまたがった。
タイムマシーンの中で、さっきまで固まっていたのが嘘のようだ。
一方の司馬師と司馬昭は、状況把握が今一つできないでいた。
そもそも彼等の常識の枠を遥かに越えているのだから無理も無かった。
「はいや!」
司馬懿が、屋敷を飛び出して行った。まだ時刻は午前七時になろうとしているところであった。
続く