咲-Saki- 阿知賀編入   作:おこそとのほもよろを

99 / 221
九十九本場:世界大会23 隠し玉

 東四局二本場、神楽の連荘。ドラは{②}。

 神楽の配牌には、幸か不幸かドラが二枚あった。

 

 一方、栄子は、この局に入って急に違和感を覚えた。

 とは言え、記憶にある違和感だ。そう、カナコを相手にしているような感覚…。

 ただ、さっきまでとは違って、栄子を15000点削るのが限界な感じがする。つまり、もう自分からは直取りできないはずの相手だ。

 

 この時、神楽の中には東横桃子の生霊が入り込んでいた。しかも、いきなりステルス全開だった。

 もしかしたら、桃子のステルスなら栄子の能力支配下でも誰かが振り込んでくれるかも知れないとの期待があって、この局面で桃子が登用された。

 しかし、その期待通りに、ことを進めることはできない。

 …

 …

 …

 

 栄子は、自らの能力によって、今ある点数を最後まで維持し続けて終わらせようとしていた。

 

 そもそも栄子は、理屈抜きで相手の和了り牌が分かる。よって、桃子のステルスは栄子には通じない。

 もっとも、それ以前に三人とも栄子から削れるのは15000点まで。

 既に栄子は15000点以上削られているので、栄子は振り込まないし、三人のツモ和了りも封じられた状態にある。これが第一前提だ。

 

 加えて栄子は『誰もトバさせない能力』のスイッチも入れていた。これにより、25000点持ちとして考えた場合に誰も箱割れしなくなる。つまり、100000点持ちなら75000点までしか削れない。

 現在、シャルロットと桂英は共に78900点。

 神楽(桃子)が、この二人のどちらかから直取りを狙うとしても最大で3900点までしか奪えない。

 逆にシャルロットと桂英は、点数的には神楽から和了ることは可能だが、ステルス状態のため神楽からの直取りはできない。見えないのだから………。

 

 また、シャルロットと桂英が互いの出和了りを狙うこともあるが、結局は互いに3900点までしか相手から取ることが出来ない。つまり、栄子にとっては、全然怖くない範囲での点棒の動きでしかない。

 

 このような背景の下、栄子は敢えて自らをノーテンにする方針を決めた。流局しても栄子の能力がノーテン罰符を発生させない方向に強制力を発揮するだけだし、誰かが聴牌したなら、その者はシャルロットか桂英から3900点以下の手を和了るに留まる。

 つまり、誰も前半戦の栄子のリードを逆転できる者はいない………何もしなければ、そのままドンドン場が流れて行き、ドイツチームの優勝が決まる。

 

 この局は、結果的に全員ノーテンで流局となった。

 

 

 南入した。

 南一局流れ三本場、シャルロットの親。

 ここでも栄子は和了り放棄の流局を目指した。

 傍から見ていて何ともつまらない麻雀だが、選手達の心中は違う。

 ドイツチームと日本チームは優勝を賭け、中国チームとアメリカチームはメダルを賭けた緊迫した戦いなのだ。

 ただ、ここでも前局と全く同じ展開となり、全員ノーテンの流局となった。

 

 桃子は、

「(私じゃダメみたいッス。でも、世界大会に出させてもらえて嬉しかったッスよ。では、後はよろしく頼むッス、生霊軍団のエース殿!)」

 そう言い残すと、神楽の身体から抜け出した。

 

 

 南二局流れ四本場、桂英の親。

 ここに来て、栄子は再び神楽の様子が変わったことに気が付いた。

 その直後、

「ドカン!」

 栄子は、この上ない衝撃波を受けた。

 いや、衝撃波どころでは無い。まるで爆発だ。

 恐らくこれは、東四局一本場で、栄子が由暉子の生霊に向けて放った衝撃波が、今になって時間差で打ち返されてきたものだ。しかも、とんでもない利息が付いてきている。

 その打ち返されてきた方向………神楽の方に目を向けると、背後には火焔が見えていた。今までには無いパターンだ。

 そして、その火焔を背負う本体の姿も、神楽の後ろで見え隠れしていたのだが………、その姿を目の当たりにして、栄子は驚きの余り言葉を失った。

「(まさか、あれ…。)」

 それは、全てを超越した存在………。

「(蔵王権現!?)」

 とうとう最後の砦、穏乃の生霊が神楽の中に入り込んだのだ。

 この強大な力。

 これが日本チームの隠し玉だった。

 

 栄子は、直感的に相手が自分から奪える点数の上限が分かるのだが、この相手は、その上限が見えない。

 まるで最高状態のフレデリカのようだ。

 このままではマズイ。

 少なくとも、今までと同じ流局作戦が効く相手とは思えない。

 

 ここで栄子は、再び神楽に能力麻雀による幻を見せた。巨大な棘の檻で神楽の身体を取り囲んだのだ。それで相手が少しでも怯めば勝機はあるかもしれない。

 しかし、次の瞬間、棘は蔵王権現の火焔から放たれる業火によって、一瞬にして焼き尽くされてしまった。

 そして、

「ツモ。1400、2400。」

 気が付くと、小さな手だが神楽が和了っていた。

 これで、今までの均衡が完全に崩れ去った。

 

 

 南三局、栄子の親。

 穏乃の本体は、明日の土曜日から二日間に渡って行われる近畿大会に備えて、既に大阪に入り、ホテルのベッドの上で眠っていた。そこから空間を越えて韓国ソウルまで霊体だけが来ていたのだ。

 

 栄子は、急に視界が悪くなったことに気付いた。

 何故か靄のようなものに覆われ、牌が見難い。

 ただ、牌が見えなくても自分には能力で和了り牌を察知する能力がある。なので絶対に振込まないはずとの自負があった。

 しかし、中盤に入り、大丈夫と思って切った{①}で、

「ロン。平和ドラ1。2000。」

 小さな手だが、栄子は神楽に振込んだ。

 

 この様子を控室のテレビで見ていたカナコは、

「マジマジマジマジ アルマジロ?」

 さすがに驚いて、思わず声を上げていた。栄子が振込むなど、絶対に有り得ないはずだからだ。

 しかし、現実に振込んでいる。一体、卓上で何が起こっているのだろうか?

 想像すらつかない。

 あるのは、前半戦終了時には無かったはずの『不安』の二文字だけ。まさか、このまま栄子が負けるのだろうか?

 

 

 その不安を他所に、オーラスが開始された。

 親は穏乃と化した神楽。

 卓上のかかる靄が、より一層深まって行く。

 しかも、前局に栄子が振り込んだことからも分かるように、全ての能力が無効化されている。

 

 一応、まだ神楽より栄子の方が前後半戦トータルの点数は上だ。ならば、栄子としてはゴミ手で良いのでさっさと和了り、勝利を決めたい。

 ただ、そう思えば思うほど、心が焦る。

 そして、気が付くと、

「ツモ。1000オール。」

 またもや、いつの間にか神楽に和了られていた。

 

 この段階での後半戦の得点と順位は、

 1位:神楽(日本) 168500

 2位:栄子(ドイツ) 79500

 3位:シャルロット(アメリカ) 76500

 4位:桂英(中国) 75500

 

 そして、前後半戦トータルでは、

 1位:栄子(ドイツ) 260500

 2位:神楽(日本) 256500

 3位:シャルロット(アメリカ) 141000

 4位:桂英(中国) 142000

 日本チームとドイツチームとの差は、もはや4000点まで迫っていた。

 

「一本場!」

 当然、神楽は連荘を宣言した。

 

 オーラス一本場。ドラは{一}。

 ふと栄子は、とんでもないことに気が付いた。後半戦は、まだ神楽しか和了っていない。つまり、パーフェクトゲームだ。

 チームの勝利もさることながら、パーフェクトゲームを何としてでも阻止もしたい。

 しかし、卓上にかかる靄は、もはや濃霧と呼ぶに等しい。しかも、この靄が深まれば深まるほど他家の能力は、一層無効化される。

 

 靄は栄子が見せる棘と基本的に同じで、能力から発する幻なのだろう。

 ただ、この強烈な靄の発生によって、栄子は神楽の待ち牌を察知する術を完全に失っていた。

 今まで能力に頼って当たり牌を見抜いていただけに、栄子は、能力無しでは相手の和了り牌を見抜く力が無い。

 つまり、能力を失えば、単なる素人同然のディフェンス力となる。

 そんな状態で、何の裏づけも無い直感に従って打つことしか出来ない。

 本当に最悪な展開だ。

 

 そして、{①③⑤}の両嵌を持つところ、{④}をツモり、手を進めようとして切った{①}で、

「ロン。」

 神楽(穏乃)が和了りを宣言した。

 

 開かれた手牌は、

 {一一①②②③③⑨⑨2233}  ロン{①}  ドラ{一}

 

 偶然にも、昨年インターハイ二回戦大将戦オーラスで、穏乃が見せた和了りと全く同じ和了りが飛び出した。

 ただ、今回は親だ。

「七対ドラ2。9600の一本場は9900。」

 点数は、あの時の1.5倍になる。

 

 これで後半戦の得点と順位は、

 1位:神楽(日本) 178400

 2位:シャルロット(アメリカ) 76500

 3位:桂英(中国) 75500

 4位:栄子(ドイツ) 69600

 

 そして、前後半戦トータルでは、

 1位:神楽(日本) 266400

 2位:栄子(ドイツ) 250600

 3位:シャルロット(アメリカ) 141000

 4位:桂英(中国) 142000

 神楽が栄子を逆転した。

 

 電光掲示板に映し出された合計点を確認すると、

「これで和了りやめにします。」

 神楽は連荘を拒否し、半荘終了を宣言した。

 

 この瞬間、勝ち星三で日本チームの優勝が決定した。準優勝は勝ち星二のドイツチーム、3位は中国チーム、4位はアメリカチームとなった。

 

 

「「「「ありがとうございました!」」」」

 対局後の一礼が行われた。

 その際、神楽………と言うか、穏乃の元気な声が対局室に一段と大きく響き渡ったのだが………、その直後、穏乃の生霊は神楽の身体を抜け出て行った。

 

 …

 …

 …

 

 

 十日間に渡る世界大会も、あとは表彰式を残すのみとなった。

 中国チームのメンバーに銅メダル、ドイツチームのメンバーに銀メダル、日本チームのメンバーに金メダルが順にかけられていった。

 

 昨年同様、ドイツチームは優勝確定と思われていたところ、最後の最後で日本チームに逆転された。

 今回も悔いの残る試合となってしまったが、メンバー総入れ替えで昨年の敗北を経験している者がドイツチームの中に一人もいなかったことが救いだったかもしれない。

 

 優秀選手は三名。フレデリカ、光、そして玄が選ばれた。特に玄の大三元連発は、審査員の心に強く印象に残っているようだった。

 最優秀選手には、昨年に続いて咲が選ばれた。決勝後半戦での、まさかの二人トバしは実に圧巻であった。

 

 

 表彰式が終わると、

「宮永さん!」

 栄子が咲に話しかけてきた。

「私、園田栄子。去年の一学期は清澄高校で同じクラスにいたんだけど、覚えてる?」

「やっぱり、そうだったんだ。でも、麻雀をやってたんだったら、入部して欲しかったな。あんなに強いんだし。」

「私、麻雀始めたのはドイツに渡ってからなんだ。」

「そうなの?」

「うん。本当は、宮永さんの麻雀に憧れて、麻雀部に入部しようと思ったんだけど、もう、あの時には父の海外転勤が決まってて…。」

「そうだったんだ。」

「でも、ドイツで麻雀を始めて、フレデリカに出会えて………。それで麻雀が強くなれたんだよ!」

「そうそう、フレデリカ。なんで私にそっくりなの?」

 すると、咲の背後から声が聞こえてきた。

「私もそう思う!」

 咲が振り返ると、そこにはフレデリカの姿があった。

 二人揃うと、本当にそっくりなのが分かる。ただ、フレデリカの方が一歳年下なのに少し背が高いしオモチも大きい。

「(うぅぅ。)」

 思わず、心の中で咲の嫉妬の声が漏れる。

「でも、日本チームの副将の巫女さんが、私のことを両頭愛染の片割れって言っていたし、日本チームでは何か知っているんじゃない?」

「全然知らないよ。でも、麻雀の打ち方も私に似ていたし、なんか親近感あるけどね。」

「そうね。」

「日系人だよね?」

「うん! 厳密にはクォーターで日本人の血が四分の三らしいけど。」

「じゃあ、私と同じなんだ!」

「そうなんだ!」

「凄い偶然! あと日本には行ってみたいし、留学したいって思ってるよ!」

 そんな会話をしていると、

「宮永咲さんにフレデリカ・リヒターさんですね。私、ザ・ゴシップと言う雑誌の記者ですが…。」

 一人の雑誌記者が二人に声をかけてきた。ただ、いかにも怪しい雑誌タイトルだ。

「お二人は、非常にそっくりさんと、我々記者仲間の間でも話題なのですが、親戚か何かですか?」

 これにフレデリカが答えた。

「そうなのかなぁ…なんて話をしていたんですよ。」

「でも、ここまでそっくりだと、DNAが似ていたりしませんかね。」

「そんなこと、あるんでしょうか?」

「それに、遠い親戚かもしれませんし…。どうでしょう、経費はこちらでも持ちますので、お二人のDNA鑑定なんかしてみてはどうかと思いまして。」

「「!!!」」

 たしかに咲もフレデリカも興味がある。

 それで二人は、その記者に言われるまま、毛根部分の付いた数本の髪の毛を渡した。もっとも、毛髪でのDNA鑑定は容易ではないと言われているが………。

 

 その記者は、

「狙い通りの結果が出ると面白いんだけどな。」

 咲とフレデリカが血縁関係にあることを期待していた。そして、毛髪サンプルを持って大会会場から出た丁度その時、

「プシュッ!」

 恐らくサイレンサー付きだろう。銃が撃ち放たれた。

 次の瞬間、その記者は頭から血を流して倒れていた。頭を銃で撃たれたのだ。当然、即死である

 

 その数秒後、

「大丈夫ですか!」

 大声をあげて一人の男性が、記者の死体に駆け寄った。

 そして、その男性は、記者に話しかけるフリをして、周りに気づかれないようにしながら記者が持っていたサンプルを奪い取った。

「(回収完了。)」

 どうやら、その男性は、フレデリカ誕生の秘密を管理する側の者だったようだ。




おまけ


世界大会が終わった日の夜のことだった。
咲と玄は同じ部屋に宿泊していた。
ちなみに光は淡と同室、衣は入院、小蒔はテレポーテーションで霧島神境に戻っていた。ただ、小蒔は、韓国での出国手続きと日本での入国手続きの関係で、明日の朝、テレポーテーションで改めてソウルに戻ってくることになっていた。
慕と恭子が同室。
神楽は結果的に一人部屋になっていた。


玄「日本チームが優勝できて嬉しいのです! 金メダルも貰えました。これも、全部咲ちゃんのお陰なのです!」

咲「別に私だけの力って訳では…。」

玄「謙遜してなくも良いのです。本当に、高校三年の最後に、とても良い思い出ができたのです!」


去年、咲が転校してきた頃と比べて、玄は麻雀プレイヤーとして大きく成長していた。咲に鍛えられた故であろう。
去年の今頃は、まさか、自分が世界大会のメンバーに選ばれるとは思っていなかったし、その大舞台で優勝できるとは………。
玄自身も、それなりに活躍できたとの自負もある。
これ以上無い、最高の思い出だ。


玄「明日は、朝早くソウルを出発して近畿大会会場に向かうのです。」

咲「朝、早いんですよね。」

玄「そうなのです。だから、もう明日の着替えだけ出して、あとは全部、キャリーバッグの中に入れてしまった方が良いのです!」

咲「でも、身支度に必要なものとか…。」

玄「それを入れるスペースだけ確保しておけば良いのです。」

咲「明日の朝になってからでも良いと思うのですけど?」

玄「ダメです。明日の朝になって荷物を入れ直す時間は無いのです! 咲ちゃんは、いつも寝起きが悪くて動き出すのが遅いのです!」

咲「でも、スペースを空けてって、どうやって………。」

玄「では、私がやってあげるのです!」


玄が、妙にお姉さんになっている。
それもそうだろう。
咲は寝起きが悪く、しかもトロい。
これが、あの日本の守護神と同一人物とは思えない。
天は二物を与えずと言うが、咲の場合、突出して得たものに対する対価が大き過ぎる。
せめて麻雀が突出した分、他は突出して優れていなくても良いから、せめて普通に出来て欲しい。

明日は、万が一、飛行機に乗り遅れたら大変なことになる。
それに加えて咲の迷子癖。
当然、おっとりとした玄でもナーバスになる。

玄と恭子が晴絵から命じられた最大の任務は、多分、世界大会優勝では無い。
明日、確実に咲を近畿大会会場に送り届けることだ。
玄は、咲の代わりに荷造りをしてあげた。


翌朝、案の定、咲は中々起きなかった。
何回起こしても起きない。
そろそろ時間ギリギリだ。
珍しく玄が大声を上げた。


玄「咲ちゃん、もうそろそろ起きないと飛行機に間に合わなくなるのです!」

咲「ふぇ?」

玄「もう、朝食をとる時間も無いのです。急いで着替えて!」

咲「は、はい!」


あの玄がイライラしていた。
多分、恭子だったらド突いているかも知れない。

咲は慌てて着替えた。
そして、急いで玄と一緒にロビーに行く。

既にロビーには恭子の姿があった。
神楽の姿もある。神楽は、関西国際空港経由で中国・四国大会が行われる広島に向かう。それで、咲達と同じ便に乗ることになっていた。

小蒔は、既に荷物はテレポーテーションした際に霧島神境に置いてきてある。
必要なのは身体だけだ。
それで、直接、鹿児島から空港にテレポーテーションすることになっている。
ただ、もう小蒔は九州大会に出るわけではない。時間としては余裕がある。

衣は入院中だが、もし、入院していなくても小蒔と同様、もう信越大会に出場するわけではない。
光と淡は、既に都大会を終えている。
慕は、一日観光してから東京に入る予定。
なので、今日、急いで大会出場のために帰国しなければならないのは咲と神楽だけなのだ。
それと咲を送り届ける役の恭子と玄…。

咲と玄がチェックアウトを済ますと、


恭子「ほな、行こうか。」

咲・玄・神楽「「「はい。」」」


四人は、空港へと急いだ。

空港で搭乗手続きをする。
咲の両脇を、玄と神楽でしっかりガードする。
いつ、どこで消えてしまうか分からない超方向音痴の咲を、絶対に単独行動させてはならない。


無事に飛行機に乗り………、関西国際空港に到着した。
そして、手続きを終えて四人は無事到着出口を通過した。


神楽「では、私はここで迎えの方と待ち合わせしておりますので………。」


と言うわけで、神楽とは到着出口付近で別れることになった。
が、この時、大事なことに気が付いた。
咲がいない!





咲「ここ、ドコ?」





恭子は、至急、晴絵に電話を入れた。


恭子「済みません、監督。咲が行方不明になってしもて。」

晴絵「やっぱり…。」

恭子「ちょっと目を放した隙に…。」

晴絵「とにかく急いで探して。一回戦には間に合わないって最初から思っているけど、準決勝には間に合って欲しいから。」

恭子「分かってます。」

晴絵「念のため咲は準決勝の副将にしておくよ。大将にして、もし間に合わなかったら大変だからね。」

恭子「はい…。お願いします。」


大変なことになった。
ただ、当の咲は、


咲「この電車でイイんだよね。」


勝手に空港を離れていた。

少しして、咲のスマホのバイブ音が鳴った。
恭子からLINEが入ったのだ。


恭子:今ドコ?

咲:電車に乗ってます

恭子:今、何駅?

咲:もうすぐ泉佐野に到着します

恭子:じゃあ、一旦泉佐野で降りて
   そこで合流しよ


咲は、恭子の指示に従って泉佐野駅で降りた。
しかし、方向音痴が深みに嵌ってゆく代表例みたいなものだ。駅のホームで待っていれば良いモノを、勝手に駅を出てしまった。
そして、しばらくして、


咲「ここ、ドコ?」


期待を裏切らない。
駅から少し離れたところで咲は涙目になっていた。


奈良県大会では、星取り戦だったが、何故か近畿大会は100000点持ちの点数引継ぎ制に変わっていた。
どうやら、咲が大会初日に間に合わないことを見越して、アンチ阿知賀の大会役員が阿知賀女子学院を敗退させるべく、強引に、このような措置をとったとの噂だ。

ただ、建前上は、昨年の近畿大会も今年の春季大会も点数引継ぎ制だったので、前回と同じルールにしたと言うことだ。

他の地域では、春季大会のルールは星取り戦になる予定と聞かされ、それに合わせて星取り戦にしていた。
勿論、その話があったので、近畿各府県の大会は、今年のインターハイと同じ星取り戦にしていた。近畿大会だけが例外で点数引継ぎ制だったのだ。


参加校は、大阪府から10校、京都府、兵庫県から各5校、滋賀県、奈良県、和歌山県から各4校の計32校。
初日の午前に一回戦が行われる。一回戦では先鋒戦から大将戦まで各一半荘ずつ行われ、4校中1校のみが準決勝戦に進出する。
そして、初日の午後に準決勝戦が行われる。準決勝戦も先鋒戦から大将戦まで各一半荘ずつ行われ、4校のうち2校が決勝戦に進出する。
決勝戦は、大会二日目の朝からスタートし、先鋒戦から大将戦まで各二半荘ずつとなる。

咲が間に合わなければ、阿知賀女子学院は一年生が三人のチームになる。
しかも、阿知賀女子学院はインターハイまで二年生&三年生のみで構成されていたチーム。
当然、その一年生三人は、高校での団体公式試合の経験が浅い。高校生になってからの団体戦は、コクマからである。
しかも、そのうちの一人は、奈良県大会も経験していない。
そこに大黒柱の咲の不在。
精神的ダメージは大きいはず。
このような背景だ。この三人の誰かが崩れる可能性はある。そうなれば阿知賀女子学院の敗退もあり得るだろう。
そう考えての措置だ。


その大会役員の思惑を後押しするように、咲は迷子になっていた。
しかも、咲が警察に保護され、恭子と玄と再会した時には、既に16時を回っていた。
今から急いで会場に向かっても副将戦には間に合わない。
それどころか、既に大将戦が始まっているとのこと。

ところが、


穏乃「咲が来れなくても、絶対に決勝に進出するんだ!」


むしろ、咲が不在なことで、よりいっそう穏乃は気合が入ったようだ。
しかも結果的に全員プラス。
阿知賀女子学院は、余裕の決勝進出を決めていた。


咲達は、そのままホテルに直行した。そして、


憧「サキ! 正座!」


小一時間、咲は正座させられたそうだ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。