レアに乗って颯爽と街なかを駆け抜け瀬都市立総合体育館へとやって来た。
総合体育館というだけあって結構な広さだ。一般的な小学校の体育館2つか3つ分くらい。
ここで百人ほどを相手に講演するのだ。緊張しかしない。
舞台の設置に掛かっている人が何人かいた。俺は体育館を見ると、関係者に案内され控室へとやって来た。
そこには芸能人の様に、テーブルの上にお茶やお菓子が置かれていた。しかもどれも高そうなもの。
「美味いな。これ高級和菓子の店の奴じゃん。こっちは高級洋菓子店の……まいっか」
気後れして口に入れないのは損だ。そうだ、あるのだから食べても何も問題ない。寧ろ食べないともったいない。
「レア、これ食べてみるか?」
「グァ……グァ! ワン!」
「お前、美味すぎて犬に戻っただろ」
どうやら、レアの好きな味だったらしい。ポケモンには性格に合わせて好みがあるからな。ポケモン用のお菓子とか作って貰う事は可能だろうか。
レアは尻尾をブンブン振って、わさびで作られた和菓子を食べていた。攻撃補正性格は辛い物好きだったからな。
「意外とおいしいな。わさびの」
「お気に召していただけましたか」
「はい。おいしいです。資料の方、今から確認してもいいですか?」
「もちろんです。今日は少し触れるだけだと思いましたので、参加者名簿や参加者の資料の方を優先して頂こうかと」
「はい、まずは、そこからですね」
俺は参加者名簿に目を通すが……なんと、10歳の子どもが混じっていた。
「この子は?」
「この子は……大阪府警警視監のお子様ですね。噂を聞きつけたらしくて、流石の警視監も子どもには敵わないのでしょうかね。やはり問題はありますか?」
「いえ、子どもの方が興味を持ってくれているのなら吸収も早いでしょうし、これからの世代を考えていくと十代のポケモントレーナーも必要でしょう。ただ……」
「ただ?」
「性格に難がある場合は、参加は諦めてもらいます。子どもでも、精神面でしっかりしている子なら問題ないと思います」
「それについては問題ないと思いますよ。既に傷ついたポケモンを保護して、そのままゲットなされたようで、それがきっかけで今回の講座に興味を持たれたのでしょう」
「そうでしたか……」
「仲良く出来そうな気がするな……それじゃぁ、始まるまでに全部目を通しておきますね」
「はい。私は準備の方に行ってきます」
「分かりました」
始まるまでは後一時間だ、急いで目を通さないとな。
「レア、もうお菓子無いから邪魔をしないでくれよ」
「クゥーン」
「そんな声出しても無理だ」
なんとか一通り資料に目を通してみたが、五分の一も覚えられてないな。
とりあえず、ポケモンを持っている人が五人いた事と、その人たちの事は頭に入れといた。
そして、今は広い体育館の四分の一ほどを使って講演を始めようとしていた。
床にはシートが引かれ、その上に椅子が百席ほどきれいに並べられており、その前には台が設置されて周りから一メートルほど高くなっている。
その台の上に、ざわつく席を見下ろすように上った。
「初めまして、今日から約二週間程ですが、皆さんにポケモントレーナに関する知識や心構えなどを教える、風見海飛といいます。よろしくお願いします」
俺が一礼をすると拍手が起こった。少し気分がいいかも。
取り敢えず自己紹介をしてもらうか。資料には掛かれていないことを一つ知りたかったしな。
「それじゃぁ、二週間も同じ空間で学ぶのですし、隣の人の名前くらいは知っておいた方が話しやすいでしょうし、困った事があれば聞けると思いますので、左端のあなたから縦に順番に自己紹介をお願いします。名前、年齢、職業、好きな食べ物を一つとポケモンを捕まえていたらそのポケモンの種族名をお願いします」
俺が聞きたかったのは好きな食べ物だ。さっき気付いたのだが、好きな食べ物がポケモンと一緒ならそれだけで仲が良くなりそうな気がしたのだ。もちろん、それだけで決まる訳じゃないが一つの参考にだ。好きな食べ物を、からい、すっぱい、しぶい、にがい、あまいに分けて名簿にメモすることにした。
「
最初の人は海上自衛隊の人だった。カレーか、からいものかな。
二十人目で彼の番が来た。一番後ろで大丈夫か?
「
小学生がいる事とポケモンを持っている事にか、少しざわつき混じりの拍手が送られた。あまいものとメモをしておく。今度、お勧めのスイーツ店にでも誘ってみるかな。
流石に百人の自己紹介は長く、四十分も掛かってしまった。
次はポケモントレーナーになるうえでの心構え、かな。