「紅斗君、そこじゃぁ、見にくいでしょ? 前の席で誰か変わってくれる人はいませんか?」
「私が変わりましょう」
「ありがとうございます」
名乗りを上げてくれたのは最初に自己紹介してくれた海上自衛隊の人だ。背が高く、180センチ位はありそうだ。
紅斗君と美琴さんが席に着いたのを確認する。紅斗君が軽く頭を下げてくれたので笑顔を返しておく。
先ずは、心構えね。心構えと言っても何と言えばいいのやら。
「まずはポケモントレーナーになる上で大切な事ですが、ポケモンは普通の動物たちとは違い、意思疎通がある程度できます。例えば、レア出てこい」
「グァ」
「ジャンプ、右に回って、左に回って、しんそくで皆の後ろに」
俺が指示を出せば、レアはその通りに動いてくれる。犬であれば動きをつけて指示を出すことで理解してくれるが、ポケモンたちは言葉だけで理解する。
しんそくで後ろに瞬間移動したので場はざわつく。
「戻っておいで」
次の瞬間には俺の隣にレアが現れる。実際にはちゃんと皆をよけて迂回ルートを通っているんだけど、速すぎて静かすぎて気付かないのだ。
「今のであれば、ハンドサインでジャンプとか、回転するとかは犬でも出来るかもしれません、しかし、この子は人間の言葉だけで指示を聞きました。それに……レア、お前、昨日の夜ボールからでてこっそりおやつ食っただろ」
「グァ!? グァ! ワゥ、クゥーン」
「はぁ、まあいい、後で買ってやるから」
「ワフッ!」
「ね? 人の言葉を、理解しているでしょう?」
人でない生物が、人の言葉を理解しているという事に混乱しているのかざわめきが大きくなる。俺はモフモフを堪能しながら続ける。
「だから、ポケモンとの関係はペットとの関係じゃない。パートナー、相棒として、良き理解者としてそばに寄り添い合っていい関係を持ってほしいんです」
何人も頷いてくれているのが見える。紅斗君もピカチュウとの実体験があるからか、よく分かるといったような表情で頷いていた。
取り敢えずこれだけは守ってほしいな。
「質問はありませんか? よし、それじゃぁ、ポケモンのタイプ相性について話していきます」
タイプ相性について話していく。これは基本中の基本だから覚えて貰わないと困るな。
タイプの相性を解説するのに三十分、質問に答えるのに三十分。ここに来ているのは大人たちが殆どなので、小学校みたいに分からなくても面倒だから質問しないなんて事はない。
さっきは、呆気にとられていたみたいだが、調子を取り戻した今はどんどんと質問されて気付いたら三十分たっていた。
次にタイプごとの代表的な技を話すのに一時間ほど、質問に三十分。それで取り敢えず昼休憩とした。疲れる……。
弁当がみんなに配られ、俺も弁当を食べようと控室に戻ろうとするが、あまり馴染めていない紅斗君が目に入った。まぁ、そりゃそうだよな、大人の中に一人小学生じゃ、気後れするし話題も合わないだろう。
俺は急いで控室に弁当を取りいき、紅斗君のそばへと行った。
「一緒に食べてもいいかな?」
「え? う、うん」
「ありがとう」
紅斗君は椅子に座っていたが俺はないので床に座ると慌てて椅子から降りて床に座った。そういう優しさには感心する。
「いただきます。ポケモン、もう捕まえたんだね」
「うん、けがをしているところを助けたらね、居つかれて、テレビを見ていた時にモンスターボールを指さすからモンスターボールを出してあげたら自分から入っちゃったんだ」
あはは、と乾いた笑い声を漏らしていた。随分と懐かれたようだな。
「先生のポケモンもカッコいいね」
「先生って……海飛って呼んでくれたらいいから」
「う~ん、海飛、さん」
先生とか呼ばれるは嫌だな。なんかこう、むず痒いっていうか、恥ずかしいって言うか。
さん付けなのも納得いかないが。先生よりはマシか。
徐々に友人のような関係になればいいや。
「それでいいや。レア、カッコいいでしょ」
「うん!」
キラキラと輝く好奇心に満ちた子どもの目、眩しいな。
「そうだ、レアと紅斗君のピカチュウも一緒にご飯食べない?」
「いいね! 出ておいで、ピカチュウ!」
「ピッカ!」
「レアも出ておいで」
「グァ」
「ピカピィカ」
「グルゥ」
生ピカチュウだぁ! 感激。
「紅斗君はピカチュウに名前を付けないの?」
「うん、名前を付けようとしたら嫌がられてね」
「どんな名前を付けようとしたの?」
「ピカ助とか、ピカ次郎、後はピカ衛門!」
「ピィカピ……」
「あはは、やめた方が良いかもね……」
ピカチュウが呆れて首を横に振ってるし、俺もそれはないと思うな。
「そうかな……」
「ポケモンフーズ、ピカチュウの分も分けてあげるよ」
「そんな、悪いよ。僕はちゃんと持ってるし」
「いいのいいの」
俺はポケモンフーズと皿を取り出してピカチュウとレアの前に置く。律儀にお座りしているレアによし、と合図を出すと食べ始めた。
「それよりも、甘いもの、好きなの?」
「うん、チョコレートケーキとかショートケーキとか好きだよ」
「そっか、今度おいしいスイーツ食べにでも行かない? 紅斗君とは話が合いそうだし」
「いいの? 僕も海飛さんと、もっと話したい」
スイーツで釣る作戦は大成功だな。
それにしても、寡黙な所は似てないんだな。それもそうか、被るところがあるだけで全くの別人なんだし。