今日は珍しく雪が降ってきた。
「おはよ!」
「おはよう」
ポケモントレーナー講座は順調に進み、必要最低限の事を教えて行っている。月曜から始まった講座は、土曜日で一区切りをつけた。次週はポケモンを一人一匹ゲットする、パートナーを見つける大事な週だ。
まだまだ忙しい日が続くが、今日に限っては息を抜かないとな。
「大阪市内にいいところがあるんだ。こんな中だから営業中の店を探すのに苦労したよ」
「そうだね。やっている店の数も随分と少ないし、外に出る人も少ないから店を開けてもお客さんは来なさそうだよね」
「まぁね。それじゃぁ、行こうか……何で行く?」
カッコ悪すぎる。お勧めの店が営業してなくて、店見つけるのに精一杯になって移動手段考えてなかった。お父さんは会社に用事があるっていうし、紅斗君の家は意外と近かったようで自転車で集合場所まで来たからな。
自転車で行くには遠い、かといって自動車は使えない。となると……
「出てこい、レア」
こうなったらレアに頼むしかないな。
「レア、背中に紅斗君と一緒に乗せてくれないか? お願いします」
「グゥ、グァ」
「ありがとうございます。紅斗君、レアが乗せてくれるって」
レアに感謝を述べて、伏せてくれたレアに跨ると紅斗君に手を伸ばす。俺よりも身長低いから一人じゃ乗れないだろうし。
「い、いいの?」
「いいのいいの。ほら」
「うん。えっと、失礼します。うわっ」
手を掴んだ紅斗君を一気に引き上げるとレアの背に乗せる。俺たちが乗った事を確認するとレアが立ち上がり、紅斗君は驚いていた。
「俺の腰にちゃんと捕まっててね。落ちたら危ないから」
「う、うん。僕、怖いの少し苦手なんだ」
「だって、レア、今日は安全運転でな」
「グルゥ」
紅斗君が俺の腰に抱きついたのをしっかりと確認するとレアの毛を束にして握った。こんど何か乗る用の装備を考えないとな。馬用のじゃかわいそうだしなぁ。
「グァ!」
「う、うわっ」
「大丈夫だから、落ち着いて」
それにしても、イケメンな顔の割に行動がかわいいな。こんな弟がいたらなぁ。
いつもは時速60キロの所を今日は時速50キロほどで走ってる。信号はちゃんと守ってるよ。ちなみにレアは車道で走るようにと言われているから車道しか走らない。歩道だと歩きだな。当たり前だが。
車の中からビックリして見ている人たちに手を振りながら大阪市内を目指した。
俺を乗せるのにも慣れて最初に比べれば大分安定しているんだけど、紅斗君は終始目を瞑っていた。
目的地の洋菓子店についた。レアが止まったにもかかわらずしがみついてくる紅斗君を宥めて、店内に入る。
店内はスイーツを並べるショーケースと、奥には飲食が出来るように席が設けられている。ショーケースも席もがらがらで本当に営業しているのか疑ってしまう。
「すみません、二人、ここで食べたいんですけど」
「はい、生憎と今はこんな状態なので、種類は少ないですけどゆっくりとしていってください」
女性の店員さんが出てきて席に案内され、メニューを渡されるが、頼めないものはシールで隠されていた。
それも結構な数が消えて、スイーツは四種類、飲み物は三種類になっていた。仕方が無いか。
「何食べたい?」
「うーん、ショートケーキ、かな」
「飲み物は?」
「オレンジジュースにするよ」
「すみません、ショートケーキとイチゴのタルト、オレンジジュース二つお願いします」
「分かりました。少々お待ちください」
俺はイチゴのタルトにした。ケーキよりもタルトのほうが俺は好きなんだよね。
「紅斗君は家で普段なにしてるの?」
「ゲームしてたかな。後は読書と、嫌々だけど勉強も。でも最近はピカチュウとよく遊んでる」
「へぇ、何して遊んでるの?」
「フリスビーとか、ボールなげとか、積み木で遊んだり。ピカチュウかわいいんだよ。ほら」
「ふふっ、ほんとだ」
「これも」
「ぷっ、ふはは、なにそれ、凄い事になってる」
紅斗君はピカチュウの写真を次々に見せてくるがその中でも、思ったよりも頑丈な積み木でベッドを作りぶかぶかのサングラスをかけて、カメラに向かってポーズを決めて寝転んでいるピカチュウは傑作だった。紅斗君がパラソルを写真に合成するもんだからビーチで寝ているようにしか見えない。あぁ、腹いてぇ。
「お待たせしました。ショートケーキとイチゴタルト、オレンジジュースです」
「お、来た来た」
「おいしそう」
ショートケーキはシンプルにイチゴとクリームで仕上げられたもの、イチゴのタルトはタルト生地の上にたくさんのイチゴがのって、ゼリーとジャムでコーティングされていて輝いている。
紅斗君はフォークでショートケーキの先を掬い上げると口に運んでおいしそうに頬張る。
俺もタルトの先にフォークを入れて、サクッという生地の音を楽しみながら口に運んだ。イチゴは甘酸っぱくて、タルト生地はサクサク、カスタードクリームの甘さがイチゴのジャムとよく合っていておいしい。
「おいしいね」
「うん、おいしい。ねぇ、ショートケーキはどんな味?」
「クリームが濃厚で、イチゴが甘酸っぱくて、おいしいよ。食べる?」
「いいの?」
「いいよ。はい、あーん」
「く、紅斗君、自分で食べられるから」
「そう? お母さんはこうやって食べさせてくれるけど」
紅斗君は世間知らずなのかもしれない。知っていたなら男相手にあーんなんてまかり間違ってもしない。
「それは、お母さんだからでしょ? 友達とかにはしないんだよ」
「そ、そうなの?」
「うん。おいしいね」
余程衝撃を受けたのか固まっている紅斗君の皿から一掬いし、食べた。確かに濃厚なクリームだ。
お返しにイチゴタルトあげないとな。
「紅斗君、イチゴタルトいる?」
「うん、食べてみたい」
「はい、あーん」
「あーん……って、からかわないでよ!」
「く、ふふっ、いや、つい」
途中まで違和感なく口を近づけるからそのまま食べるんじゃないかと思った。けど、途中で気付いて頬を膨らまして怒るとか笑うしかない。
少し怒った紅斗君はザクッとタルトを掬うと口に運んだ。次の瞬間にはもう機嫌は直っていたみたいだけど。おいしかったようでなにより。
しかし、こんな楽しい時間に水を差す奴もいるもんだ。
「えっ? 電気が消えた?」
「停電か? 今日は晴れてるし……まさかポケモン?」
恐れていた事態が起こったようだ。電気が止まるなんて冗談じゃない。