ピカチュウは合図と同時に駆けだす。素早さはもちろんピカチュウの方が上なので、まずは近づかれないようにしないといけない。ピカチュウはでんき技以外は基本物理だし。
「ステルスロックで進路を塞げ、動きの鈍ったところにがんせきふうじ」
まずはピカチュウの長所を潰して、こちらに有利になるように進める。
ステルスロックはピカチュウの動きを見事に阻害したが、がんせきふうじは躱された。
「エレキボールで攪乱して! アイアンテールで打ち上げるよ!」
「えっ?」
資料を見た時からゲームの登場人物と重なる部分があるなとは思っていた。けれど、実際会って話してみると性格は似ても似つかないし、結構裕福な家庭だから重ならない部分も多々あった。けれど、今この瞬間に確信した。
紅斗君は、レッド……
「あはは、まさか負けるとは思わなかったよ」
「ふふっ、一杯技の練習したもんねー」
「ピィカ!」
ピカチュウの放ったエレキボールは寸分の狂いなくイワークの顔面に直撃。ゲームであればダメージは無効であり、影響は無い筈だった。実際イワークはダメージを負ったようには見えなかった。しかし、エレキボールが直撃したことによる爆発で一時的に視界が奪われ、ひるんだ隙にアイアンテールでイワークを空中に打ち上げた。空中にいるイワークへエレキボールを再び当てる事で体勢を崩して受け身が取れない状態になる。
そして不格好に落下してきたイワークへと合わせるように5メートルほどピカチュウがジャンプし、アイアンテールを地面へと叩き付けるようにヒットさせた。衝撃で舞い上がった粉塵が晴れると、地面に体を半分めり込ませたイワークが気絶していた。
なぜ教え技のアイアンテールを覚えていたのかは気になるが、完敗だ。
俺ならじめんタイプのイワークにでんき技を使うなんて発想はしなかっただろうな。
「やっぱり、紅斗君はすごいな」
「へへ、そうかな? ピカチュウが凄いんだよ」
「いや、あんな戦法俺じゃ思いつかないからな。もっと自信を持っていいよ」
「ありがとう」
照れくさそうに笑う紅斗君と抱えられているピカチュウは嬉しそうだ。
俺はイワークを労わるとアプリのポケモンセンターに預けた。
そして俺は観戦者一同へと振り向く。講師の立場である俺が負けたのでなんとも格好悪いものではあるが、そこは……仕方ない。結構悔しいな。
「えっと、そういう訳で、ポケモンバトルはこんな感じです。相性は悪いように思えたと思いますけど、戦術でいくらでも戦況を変える事ができます。まぁ、負けるとは思いませんでしたけど、紅斗君は才能あるので俺だけでなく紅斗君にも質問していってください」
負けた事に対するちょっとした意趣返しである。我ながら大人気ないとは思う。せいぜい、質問攻めにあってね。
次の場所へと向かうバスの中では紅斗君は人気者になっていた。質問を誰かがすると紅斗君は気を悪くするでもなく答えていく。分からない部分は議論になったりもしていた。全く意趣返しになっていないじゃないか……あまり拗らせるのも良くないな。
俺も途中から交じった。それなりに楽しめたから陰鬱とした気分も吹き飛んだ。気分を変えて次の目的地はゴルフ場だ。
ゴルフ場には草原、森、砂場、水場、これらが揃っている。だから多様なポケモン達を見ることが出来る。
ここでは九人分のポケモンを捕まえた。紅斗君とピカチュウにも協力してもらい、アメタマ、チェリンボ、ラルトス、スボミー、ムックル、キャタピー、キノココ、ラクライ、マリルを捕まえた。
キャタピーを欲しいと言う人もいるもんだなと思ったが、リアルな虫に比べれば、まだ愛嬌があるので大丈夫なんだろうなと思った。バタフリーになれば補助役で活躍するだろうし。
あと、進化すればアタッカーとして申し分ないポケモンもいる事だし、結構いいかんじにパートナー選びは進んでいるかな。残り二名は最後の場所になる芥川でパートナー探しだな。
芥川のわりと上流の方に到着した俺たちは大き目の石が転がる河原へと降りた。そこにはゴルフ場の様な水場にはいないポケモン達もおり、森からは水を飲みに来たポケモン達もいる。
川を優雅に泳ぐトサキントやケイコウオ、水を飲みに来たマッスグマやポチエナにポッポ。とても賑やかな光景が広がっていた。
ここでもパートナー探し。残っていた二人は水タイプが狙いだったようで、ウパーとヘイガニを捕まえた。これで一日目の十六人は終了した。
捕まえた中には俺も欲しいなと思ったポケモンもいたが、俺は取り敢えずレアとイワークが居るのでやめておいた。
そして、次の日も、そのまた次の日も、百人近くのパートナーを探すために同じルートを何回も巡った。二匹目も探している紅斗君と一緒に。
そして最終日、芥川の上流付近に着いて最後のパートナー探しをしていたところ、小雨が降り始めたので早く終わらせて帰ろうとした。最後のポケモン、ヤドンを捕まえてバスに乗り込もうとしたとき、紅斗君がいきなり走り出した。
「海飛さん! ちょっと急用が出来たからバスで待ってて!」
「ちょっと! 紅斗君どこいくの!?」
紅斗君は軽快に石の上を進んでどんどんバスから離れていく。その先に見えたものを確かめに行ったようだ。赤い何かが見える気がするが、本降りになって来た雨で視界が悪い。
「紅斗君こけるから! ゆっくり歩いて!」
何を見つけたんだろう。