モンスターボールから出てきたレアはその光を散らす前に、更に光へとつつまれてその姿を変えた。
「メガシンカ。お前ら纏めて相手したるわ。少しは楽しませてくれへんと、アカンで? フレアドライブ」
メガシンカ状態のレアは物理技の優先度が上がる。それはこの現実世界において単純に速度が上がる事を意味する。いくらスピアーがすばしっこいゆうても、レアからしたら児戯に等しいわ。
「しんそく」
前方の敵をフレアドライブで焼き尽くす。その圧倒的な光景に他のスピアーも呆けていたが、流石に動きはじめ、レアではなく俺らを狙ってきたのでしんそくで叩き潰す。
「ほのおのうず」
固まっていた左の敵をほのおのうずで纏めて攻撃し、戦闘不能へと追いやる。
「ほらほらほらァ! どうしたんや? こんなもんで俺らを襲ったんけ? 失望させんなや! しんそく! フレアドライブ!」
足りないな。数じゃなくて個の強さが。
「群れたからといって自分が強くなったとでも勘違いしとったんか?
レアの体力は残り三割といったところか。フレアドライブは体力が削れるのが難点やなぁ。
かえんほうしゃで後方の雑魚を燃やした。これで残るは右と上の奴らのみ。
「手ごたえのある奴はおれへんの? このままじゃ消化不良やわー。しんそく、かえんほうしゃ」
これで右も片した。残りは上のスピアーたちだけ。俺たちの周囲では残火が燻っていた。
あれだけの数が居たのに、殆どが丸焦げになって地面でひっくり返っている。殺虫剤のCMに出れると思うよ、君たち。
「しんそくで跳躍しろ」
「グルァ!」
しんそくで使われる加速エネルギーを後脚部に集中させ、それをジャンプするためのエネルギーに変える。そうすることでレアは空中に跳び上がる。不運なスピアー一匹が飛び上がったレアにぶつかって飛んでいったが、気にすることなく、空中で反転して落下してきたレアに最後の指示を出す。
「オーバーヒート」
「グルゥゥアア!」
直上に花火が咲いた。
「なんや、あっけないやん」
「あ、あの、海飛、さん」
「どうした?」
「その、ありがとうございました」
「どうして敬語? ま、怪我無かったからよかったよ」
何にもよくねぇよ!
どうしよ!? 気がふれておかしくなったところ見られてしまった! マズイ、憧憬の眼差しが、恐怖の眼差しになってる気がする。どうしよう。
「カゲ! カゲカゲ!!」
「ガァ?」
「カゲ!」
なんか向こうでレアとヒトカゲが話し合ってるけどそれどころじゃねぇ。
「カゲ! カゲカ」
「え? 僕の仲間になる? いいの?」
「カゲ! カゲカゲ!」
「ふふ、レア君みて強くなりたいと思ったんだね。でも、どうして僕なの?」
「カーゲ、カゲカ」
「助けて貰ったから? 気にしなくていいのに。あぁ、なるほどね、うん。いいよ。僕もレア君と勝負したい。それで勝ちたいね!」
「カゲ!!」
なんか、もうピカチュウいなくても会話成立してるよね。なんで? なんでなん!?
「はい、モンスターボール」
「カッゲ!」
紅斗君がモンスターボールを出すとヒトカゲは嬉しそうにボールをタッチし、そのまま吸い込まれていった。捕獲完了の合図が出れば、紅斗君はボールを拾い上げもう一度ヒトカゲを出してやる。
俺は一連の流れを呆然と見ていた。
俺のさっきの言動には触れてこない紅斗君。レアの強さに魅せられたヒトカゲ。一緒に強くなると約束した紅斗君とヒトカゲ。
思考停止と言う名の安寧を俺は求めた。
「帰ろうか……」
「うん! 海飛さんありがとう!」
「カゲ!」
「グルゥ!」
家へと帰って来た俺は、ベッドに寝転ぶなり早々に意識を飛ばした。今日は疲れた。
「どうだ? ポケモンがいる生活は」
「えっ? あれ? アル、セウス……」
「そうだ。質問に答えろ」
「えっと、前より充実してるっていうか、楽しいというか」
「そうか」
「ところでここはどこなの?」
俺は疑問を零した。赤い大地に俺とアルセウスは立ち、中心には小さな水たまり。遠くの方では高い山々が連なっていたり、空はまるで空気が無いかのようで宇宙の黒を映し出していた。
「ここか? ここは太陽系第四惑星、地球人の言う火星だ」
「な、なんで俺がそんなところに!?」
「大丈夫だ安心しろ。これは私が見ている光景にお前の虚像を作りだし、その虚像に眠っているお前の思念を植え付けて会話をしている。だからお前の体は地球にある」
「そ、そうなのか」
よく分からないが、夢のような世界とでも思えばいいのか。
「でも、どうして火星なんかに」
「それは火星を生命が住める星にするための実験をしているからだ」
「火星を、生命が住める星に?」
「この星の地下には膨大な水脈と今は停止しているがマグマだまりがある。それらを活性化させれば、自然と生命が住める星の原初の姿になれる」
なんともまぁ、神様は壮大な計画を立てている物だ。
「それって、何億年ってかかる事じゃ?」
「この宇宙の法則に従えば、の話だがな」
「この、宇宙?」
「そうだ、この宇宙だ」
「それってどういう」
「私が作り出した宇宙とは全く別の宇宙ということだ。この宇宙は……忌々しい」