ポケットモンスターJ   作:ユンク

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波乱の幕開け
進捗


 さて、私は今黄色いネズミのポケモンが二匹倒れている前に立っている。黄色いネズミと私の間にはその黄色いネズミを模したであろう着ぐるみを纏った、よく分からない奴がいる。

 どちらも同じ大きさなのだが、私と黄色いネズミの間に居る奴からは禍々しいものを感じていた。その着ぐるみの下から覗いた手が明らかに生物のそれとは違うような気がしたからだ。

 しかし、この状況だと私は着ぐるみの奴に感謝するべきだ。助けて貰ったのだから。見かけで判断するものではないな。

 

 なぜこのような状況に陥ったのか。それは至極簡単な事。私の住む公邸の庭をいつの間にか二匹の黄色いネズミが住処としていたようで、そこに一息つきたかった私がやってきて敵だと認識したのだろう。熟れた果実の様に赤い頬に電気を迸らせ威嚇をしてきた。

 即座に逃げようと考えたが、次の瞬間には黄色いネズミと私の間に音もなく着ぐるみの奴が現れて、何かの技を使ったのだろう。一匹ずつ、さして時間をかける事もなく倒してしまった。

 

「ありがとう」

 

 私が着ぐるみのポケモンへ礼を言うと、こちらへ振り向いてじっと見つめてくる。恐らく、あの夜に見た奴ではなかろうか。今回は直ぐに姿を消すこともなく、暫く見つめあっていた。

 少し時間が経てば、また消えてしまう。こちらに興味を持ってくれているのか? だとしたらもう少しアピールしてくれてもいいんじゃないか? 人見知りなのかもしれないな。

 勝手に結論付けて、踵を返す。あの二匹には悪いが、この庭に住ませてやるわけにはいかないんだ。人を呼んで野生に返してもらう事にした。

 

 

 

 

 私が官邸の執務室で書類を捌いていると、補佐官が報告に来た。

 

「例の、風見海飛君の事ですが、四日後に会談する事になりました」

「そうか、やっとか。色々と世話になっているからな。直接礼を言いたい。十分にもてなせるように手配もしておいてくれ」

「はい。それと、陸路、海路、空路の内、空路が一番早く安全だという事になりましたので、伊丹空港発、羽田空港着となります」

「なぜ空路が?」

「陸路は新幹線が使えない今、高速道路も封鎖していますし、車で来ても一日、二日はかかるかと。海路はスクリューの破損被害が出ていますし、危険です。その点、空路は上空四万ftともなればポケモンは居ません。これは事前に調査済みです。前回の様なイレギュラーが起きない限り最も安全です」

 

 補佐官のいう事は尤もだが、一番危険なのは離着陸時の低高度を飛行するときではないか? バードストライクは離着陸の際が一番多いと思うのだが。たしか、鳥を寄せ付けないようにする仕事もあったはずだ。

 

「離着陸時の際、低高度を飛行するがその時の安全対策は?」

「こちらで用意しております。基本的には鳥ポケモンを持つトレーナーで対処します。他には空砲など、実績のある方法も用います」

「トレーナー? ああ、彼が引き受けてくれた件か」

「はい。上手くいっています」

 

 未知の生物であるポケモンを従えてその能力を引き出す人間、トレーナー。その提案を持ちかけて来た海飛君は既にポケモンを従えていたらしく、彼に任せて百名ほどにポケモントレーナーになるための講習をして貰った。それの成果が上々だというのは嬉しい報告だ。

 既にポケモンによる被害者はでており、死者も全国で発生している事を鑑みれば少ないかも知れないが三桁に届こうとしている。

 これ以上の被害を出さないためにも、恐らくこれから先ずっと日本に居るだろうポケモン達と共存していくためにもトレーナーの存在は必要不可欠だ。

 

「恙なく会談を始められるよう頼むよ」

「畏まりました」

 

 補佐官は一礼をすると部屋を出て行った。背後のブラインダー越しに外を見れば鈍色の空から後光のように光が筋となって射し込んでいた。どうやら雨は降らなさそうだ。

 

 

 

 

 俺は快晴の街をのんびりと歩いていた。今日は特に何かをする事もない。トレーナー講座は終わったし、市役所からは休みを貰ってる。学校は未だに休校しているし電車は動かない。父さんは仕事場で今後の会議をするとかでいないし、母さんは撮りためたドラマを食い入るように見ていた。テレビはポケモンのせいでニュースが多く、ドラマの放送もやっと、続きが来週放送されることになったとかで内容を思い出すために見返していた。

 俺はと言えば、好きなアニメも放送中止になって再開は未定だし、ゲームは暇人が急増したせいで好きなオンラインゲームのサーバーがパンクし、ポケモンのせいで復旧が遅れていた。パンクしなけりゃ、アップデートとかは当分見送られていたがサーバーの管理ぐらいはしてくれていたのに。

 

「ほうほう」

 

 という訳で今は自分の部屋へと戻り、ポケットモンスターJの新機能を試していた。外を歩いても結局何も面白い事なかったからね。

 ポケットモンスターJの新機能、それは掲示板である。既にいくつか立ち上がっていた。さて、ここで採る選択肢は……ひとつ、読むだけ。ふたつ、どこかの掲示板に書き込む。みっつ、爆弾情報を落としまくる掲示板を立ち上げる。個人的には三つ目をしてみたいが、それしたらお偉いさんに何言われるか分からないからね。

 このアプリの登録名を既に知られているから、掲示板に書き込めば匿名ではなくプレイヤー名で表示されるから一発でバレるってわけ。もちろん同名の登録も出来るからカイトって名前くらいいるかもしれないけど、爆弾情報を投下なんかしたら真っ先に疑われるよね。

 そんな一時の娯楽の為にポケモンスタジアムの夢を諦めたりしない!

 豪邸も買いたいから絶対にしない!

 けど、掲示板に常識の範囲ないぐらいなら書きこんでもいいよね?

 


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