ポケットモンスターJ   作:ユンク

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市役所

 朝の九時。

 父さんが運転する自動車に乗って市役所へと移動中。

 俺が住んでいる瀬都市は大阪市の北にあるところで前世だと摂津というところだった場所とほぼ同じだ。

 このあたりの旧国名がこの世界では瀬都(せつ)らしく、そこからきている。

 人口は結構多く、9万人ほどだ。

 市の南側には澱川が流れており、レアが犬の時代にはよく澱川に沿って散歩したものだ。こちらも前世界とは漢字が違って淀川ではなく、澱川になっている。

 こういった風にところどころが微妙に違うのだ。

 

「ほらついたぞ」

「ありがとう、父さん。……役所って初めてなんだけど」

「ついて行ったるから。それで、ポケモンの事を話すなら環境課か?」

 

 前世で行ったことあるから初めてじゃないんだが、やっぱり子どもが一人で役所に行くのっておかしいし。そもそも取り合ってくれるかが分からない。

 それに父さんも行くつもりだったみたいだ。

 

「知らん」

「だよな、まぁ、聞いてみるか」

 

 ということで早速、市役所の中に入って……人がやけに多いな。

 取り敢えず父さんに丸投げしてみた。

 するとどうだろう、あれよあれよという間に一般人が滅多に入る事のないだろう部屋に通された。

 父さんなにしたの。

 ふかふかで高そうなソファに座りながら案内された部屋で緊張して人が来るのを待っていたら、父さんは呑気に出された茶を啜りだしたので俺は出されたお菓子を頬張った。

 これ、美味い奴じゃん。

 暫くすると扉がノックされる。

 

「初めまして、環境課の霧島轟(きりしまごう)と申します」

「同じく島風進一(しまかぜしんいち)と申します」

「同じく大和望(やまとのぞむ)と申します」

 

 環境課に相応しくない様な気がする名前の三人が部屋に入って来た。

 あれかな、三人で艦隊でも組んでるのかな。

 そして、もう一人。

 

戦場武蔵(せんばむさし)と言います。この瀬都市市長です」

 

 瀬都市市長の攻撃は急所に当たった!

 知ってたけどね。市長の名前が武蔵って。

 父さんが立ちあがって名乗ったので、俺も名乗る。

 そんな市役所艦隊組は俺と父さんの対面に来るとソファに腰掛けた。

 

「それで、昨日急にあらわれた生物について詳しい事を知っていると聞いたのですが」

 

 俺は緊張で手に汗を握りつつも頷いた。

 市長が出てくるという事はそれだけ今回の事態は大変なことなのだろう。

 

「あれは、ポケットモンスター、縮めてポケモンです」

「ぽけもん?」

「はい、ポケモンたちは人間の言葉は理解できますし、火をだしたり水をだしたり、強力な力を持っていたりします」

「火を、出せるのか……」

 

 市長は驚いていたが、直ぐに思考モードへと入ってしまった。恐らくその危険性などを考えているに違いない。

 

「百聞は一見にしかずです。見てみますか?」

「どういうことだね? 確かに見てみたいが」

「分かりました。レア、出ておいで!」

「ガゥ!」

「うおっ!?」

 

 なんで父さんが声出してるの!

 艦隊組は声すら出てないけどね。固まってた。

 ボールから質量保存の法則など知らんぷりという風に中型犬くらいの生物が飛び出してきたのだ。驚くなというのが無理な話だろう。

 

「ガウ、ガゥ、ゥーン」

「よしよし、こいつはレアといいます。ガーディという種族のポケモンです」

 

 再起を果たした艦隊組に説明する。レアは色違いで黄色だが本来は赤い色だという説明も一応しておく。色違いとは遺伝子の突然変異だとか適当に言っておいた。ほら、ホワイトタイガーとかいるしね。

 

「レア、ひのこだ」

「ガゥ!」

 

 レアは一吠えすると口から火をはきだし、直ぐに弾けさせた。

 

「お、おぉ、これは……こんなことが出来るぽけもんが、何匹もいるのかね?」

「えぇ、今のは一番弱い技ですから、強力なポケモンが強力な技を使うと、正直、ビル一棟破壊できてしまうと思います」

 

 剣舞積んだガブリアスが地震なんか使ったら……ビル一棟じゃ済まんだろうな。

 まぁ、もっとヤバいのもいるんだが。

 

「そ、それは、本当、なのか?」

「えぇ、この際、ハッキリ申し上げておくと、ポケモンは人の言葉を理解できるので共に歩む、共存の道を探るしかないと思います。動物とはわけが違いますから」

 

 ライオンが襲ってきたなら銃を撃てば簡単に殺せてしまうが、バンギラスに襲われて銃で撃退できるとは到底思えない。なにより伝説の存在もあるのだから。

 

「君はどこからその情報を手に入れたんだ?」

「それはお応えしかねますが、あるアプリの事でしたらお教えしますよ」

 

 そう言って、俺はアプリを開いて市長に見せた。

 流石にアプリの事を話しておかない事にはモンスターボールを入手することも困難だし、話したところで俺が損することもない。むしろ、ポケモンを所持する人が増えればポケモンに対する理解も深まって今までの平穏な日常が戻って来るだろう。

 

「これはどんなアプリなんだ?」

「一言で言うと、神様が作ったアプリです」

「か、神?」

「はい、ポケモンの神様です。情報提供しに来た以上、この事も話しておいた方が良いかと思いまして。伝説と呼ばれるポケモンもいるんですよ」

「その伝説のポケモンの一体が神様だと?」

「えぇ、宇宙すらない空間で生まれ、宇宙を創造した正真正銘の神様です。その名はアルセウスといいます。アルセウスは時間と空間、反物質の世界を司るポケモンを生み出します。この神様と三体のポケモンはビルとかそんなちゃっちい問題じゃないです。世界そのものに関わるものです」

 

 市長の顔がどんどん青くなっていくのが面白い。もう少し脅しをかけてみるか。

 

「しかし、この四体は危険度は低めです。逆鱗に触れるようなことが無ければね。まぁ、ポケモンを現れるようにしたのはこの神様なんですけど人間に協力的ですし。ただ、問題としては、九州地方に居るはずのグラードンとカイオーガですね」

「グラードン? カイオーガ?」

「今は眠りについている筈ですが、起きると九州が沈没してしまうかもしれないです。それか九州は中国や韓国と陸続きになるかも」

 

 グラードンとカイオーガはヤバい奴なのだ。何がヤバいかって二体ともが喧嘩し合っていて人間の聞く耳を持たない可能性が大なのだ。レックウザが現れなければどうにもならない。

 まさか、伝説のポケモンにその辺のポケモンがたいあたりでもしてゲームの様にダメージを与えられるわけがあるまいし。

 市長は容量オーバーなのか思考が停止したようだった。

 

 

 


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