ポケットモンスターJ   作:ユンク

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試練

 日本沈没の危機!?

 という吹き出しが出ていそうなくらい思考丸見えの市長が再起を果たすと、声は落ち着いていた。

 

「情報の提供を感謝します。まだまだ知っている事はあると思うのでよければ教えて頂けないでしょうか」

「もちろん賃金も出させていただきます」

 

 環境課の霧島さんが後ろからそう言ってきた。

 金出すから知ってること全部吐けや! という事か。だってノーマルモードなんだろうけど顔が怖いもん。

 構わないけどね。むしろ賃金貰えるなら喜んでしますとも。

 

「是非やらせてください」

 

 もちろん快諾した。

 それを聞いて父さんはどうしようかと呟いていた。

 

「父さん仕事は?」

「それがな、謎の生物が出現したので安全が確認されるまでは出勤するなと」

 

 なんというホワイト企業でしょう! 台風の日でも配達させるピザ屋とは大違い!

 父さんは俺が今から情報を喋っている間は暇になるという事か。

 あれ? 元旦なのに仕事あったんだ。去年は家に居たのに。

 

「そうだ、ポケモン捕まえてきたら? レアを貸してあげるから。いいよな?」

「ガゥ」

「おお、レア、おいで。捕まえるって言ってもどうするんや?」

「このボールを貸してあげる。あと、アプリもとっておいて」

 

 俺と父さんのやり取りを聞いていた優しいお兄さん風の大和さんがなにやらメモをとりはじめた。

 

「今から記録をしてもいいでしょうか? ポケモンを捕まえるという事に関して是非我々も同行したいのですが」

「構いませんよ。海飛はすることしてき、父さんも頑張って来るわ」

「うん、ガンバレ。捕まえ方とか教えるね」

 

 アプリを取り、捕まえ方をレクチャーし、レアにも父さんを助けるように言った。伝える事を伝え終えると父さんと大和さんに島風さんが部屋から出ていった。

 俺は残った霧島さんに連れられ、霧島さんの仕事机であろうところまで来た。

 机の上は綺麗に整頓されていて几帳面な事が窺える。隣の机の人の悲惨な事、悲惨な事。

 

「あはは、隣りの人は少々がさつでね」

「でしょうね」

「まぁ、仕事は出来るやつだから。それじゃ、早速知ってることを教えて欲しいです」

 

 こんな机で仕事が出来るのだろうか。あぁ、外で仕事でもしてるのかな。でもな、整理整頓できない奴は大体仕事できない奴だぞ、俺の経験上は。

 霧島さんはノートパソコンを開いて文書ソフトを立ち上げていた。

 

「えっと、まずは……」

 

 色々話しました。ポケモンの事についてね。三値の事とかは話さなかったけど、威力がある技や有名な技とか、こんなポケモンがいるよとか、市役所の方でも既に情報を集めていたみたいで写真を見せられてこいつはどんなポケモンなのかとか。

 あとは伝説ポケモンとかいう日本の危機に関わってきそうなポケモンの話もした。

 

 話すことは山ほどあるため五時間じゃ時間は足りず気付けば夕方になっていた。昼飯はおいしいの頂きましたとも、霧島さんのおごりで。

 一時間ほど前に父さんと島風さん、大和さんも帰って来ており、父さんはジグザグマを捕まえたらしい。レアと仲よく遊んでおり、早速チクと名付けたらしい。なんでチク? 毛がチクチクしているから、らしい。

 レアもそうだが安直すぎる気がする。

 本人は気に入っている様子だからいいけども。

 

「お疲れ様でした。今日はこれぐらいで、明日もお願いします」

「はい、お疲れ様です」

 

 島風さんと大和さんは父さんのポケモン捕獲の様子をまとめる作業に入っていて、霧島さんも俺が話したことはまとめたりして報告しないといけないだろうから定時には帰れなさそうだ。

 公務員は大変だよな、こういう時。興味本位で聞いてみたら夜の一時に呼び出されて一睡もしてないらしい。そしてこれからの残業である。死なないよな? 台風の日も配達させるピザ屋も真っ青だわ。

 さいみんじゅつ掛けて欲しくなったら言ってね。さっきムンナいたから。目を閉じたら秒で寝そうだけども。

 

 

 

 

 自宅へ帰宅した俺はテレビを見ていた。

 本日二度目の記者会見だ。一度目は朝の7時くらいに行われたが、その時はまだ対応が出来ないのでなるべく危険を避けて自宅で待機するような事しか言っていなかった。

 そして、今会見が始まったのだが。

 

「昨日、突然出現した生物について現存するどの生物とも異なる事が分かりました。そこで、大きな枠組みとして新生物をポケットモンスターと呼称することにしました。略称としてこれからはポケモンと呼ばせて頂きます」

 

 報道陣がフラッシュを一斉に焚く。

 俺が話した内容が早速伝わっていたらしくどんどんと話されていく。

 結局、記者会見の九割は俺が話したことだった。しかし、強力な技があり危険な一面があるということは伝えられたが伝説のポケモンの様な明らかに国民の不安を煽るような事は公表されなかった。

 記者会見の中では記者からの質問に、「海外ではポケモンなる生物は発生しておらず、諸外国から研究等の申し出があるという事を聞きましたが」というのがあった。

 それに対しては、「自国内で調査を進めるのでお断りをしています」とのことだった。本件は俺が話した内容が重要視されたらしくポケモンをまさしく生物兵器に利用されるのを恐れた政府が日本としては強気の姿勢で断ったのだ。

 

 それでもポケモンを手に入れようとする輩はいるようで、隣の国へと密輸しようとした船が沖合で謎の現象によって大破、航行不能により日本の最寄港に助けを求めるしかなくなり事件が発覚した。その周辺では謎の赤いオーロラが観測されたそうだ。

 仕事の速さには感心するがアルセウスの事だからその手の対策はしているという事なのだろう。神様の目を盗むことはそうそう出来る事じゃない。

 

 会見が終了し、スマホのストアを開いてみると早速おすすめのアプリにポケットモンスターJの文字が。ダウンロード数は既に500万を超えていた。

 

「すげぇ」

 

 世界初のポケモントレーナーは俺だけどな。

 


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