インフィニットオルフェンズ ラブ&コメディ創作短編集   作:モンターク

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T ogaさんの持ち込みなので初投稿です

というわけでこちらはセカン党のT ogaさん(https://syosetu.org/?mode=user&uid=134450)執筆による鈴視点でのバレンタインです
よろしければどうぞ


バレンタインの乙女達(side:鈴)

『バレンタインデー。それは2月14日に祝われ、世界各地でカップルの愛の誓いの日とされている。元々はローマ皇帝の迫害下で殉教(じゅんきょう)した聖ウァレンティヌス(テルニのバレンタイン)に由来する記念日である。日本では、女性がアプローチしたい意中の男性に愛情の告白として、チョコレートを贈る習慣がある』

 

「…………」

 

鈴はスマホの画面に写し出されたバレンタインデーの説明文を何食わぬ顔でジーッと眺めていた。

 

一分ほどスマホを眺めた後、彼女はルームメイトであるティナ・ハミルトンへ向けてこう口を開く。

 

鈴「ねぇ、ティナ?」

 

ティナ「な~に~?」

 

ティナはベッドで寝転がり、ポテチを口いっぱいに頬張り、テレビへと目を向けたまま、そう空返事を返した。

 

そんなティナに鈴はこう聞く。

 

「バレンタインのチョコって作った事ある?」

 

「なーい。買った方がおいしいじゃん」

 

「あ、そう……」

 

「なんで? 作るの? ……あぁ、一夏くんか~」

 

「ま、まぁ……そうだけど///」

 

「失敗作は私がもらうね~」

 

「あ、ありがと……」

 

そう。今日は1月31日。明日からは2月に入り、恋する乙女の最重要イベント『バレンタインデー』まであと2週間に迫っていた。

 

その恋する乙女の一人である彼女(ファン)鈴音(リンイン) もその最重要イベントへ向けての準備を進めようとしていた。

 

しかし、彼女には悩みがあった……。

 

(中学の頃も一夏にチョコ渡せた事一度も無いのよね……っていうか、満足のいくものを作れた事がない……酢豚なら完璧に作れるのに……)

 

 

鈴「はぁ……」

 

次の日の朝。ため息を漏らしながら廊下を歩いて教室へ向かっていると、後ろから声をかけられた。

 

シャル「あ、鈴!おはよー!」

 

オルガ「おはよう↑ございます」

 

三日月「おはよ」

 

ラウラ「うむ、いい朝だな」

 

シャルロットとオルガ、三日月とラウラのダブルカップルだ。

 

鈴「あ、みんな……おはよう」

 

シャル「どうしたの?元気ないみたいだけど…」

 

三日月「大丈夫?」

 

この時期に仲睦まじいカップルを見ると少し妬みを覚えてしまう鈴。だからか、シャルロットや三日月達には元気がなさそうに見えたようだ。

 

鈴「だ、大丈夫!大丈夫!! じゃあ、今日も一日頑張りましょ!」

 

そう言って鈴は2組の教室へと逃げるように入っていった。

 

オルガ「あん?どうしたんだ?リンのやつ」

 

シャル「うん……やっぱりなんか元気なかったよね」

 

三日月「……(リンもイチカもだけど、なんでみんな無理に隠そうとするんだろ……前の模擬戦のときも……まぁ、いっか)」

 

ラウラ「さて、私達も教室へ行くぞ!遅刻したら教官に怒られる」

 

オルガ「あぁ、あのおばさn……じゃなかったオリムラ先生のげんこつ食らったら俺は死んじまうからな」

 

千冬「聞こえているぞ?」ピキピキ 

 

「何っ!?」

 

キボウノハナー

 

 

その一部始終を見ていた2組の生徒達がこう噂する。

 

「また、オルガくんが希望の花咲か(ワンオフアビリティ発動さ)せてるww」

 

「ホント、面白いよね1組の人達って」

 

「だよねぇ~」

 

そんな中、鈴は一人悩み続けていた。

 

(そもそも中国のバレンタイン……ってか

情人节(チンレンジェ)は男が女にプレゼントを贈る日だったのよ……チョコなんかよりよっぽど高価なものを贈るのが普通だし、そもそも2月14日だけじゃなくて、年に何回かあるし……)

 

そんな言い訳をつらつら考えてる内にその日の授業は全て終わってしまった。

 

 

その日の放課後、2組にシャルロットが顔を出した。

 

シャル「鈴?いる?」

 

鈴「どうしたの?シャルロット」

 

「朝、元気なかったから。大丈夫かな~って思って」

 

「べ、別に普通よ!大丈夫、大丈夫」

 

「……バレンタインの事で悩んでるんじゃない?」

 

「……っ!?」

 

(さすが、シャルロット。鋭いわね。……これは、誤魔化しても無駄みたいね)

 

「ま……まぁ、そうなんだけど」

 

「ふふっ、やっぱり」

 

シャルロットはそう言って笑みを(こぼ)した後、こう続ける。

 

「あのさ、そのバレンタインの事で提案なんだけど……」

 

少し間を開けた後、シャルロットはこう提案してきた。

 

「次の休みの日に僕とラウラとセシリアの三人でね。一緒にチョコを作ろうって今日クラスで話してたの!オルガたちには内緒でね!鈴も一緒に作らない?」

 

その提案に鈴は一つ疑問を覚え、シャルロットにこう尋ねた。

 

「シャルロットとラウラとセシリアの三人? 箒は一緒じゃないの?」

 

「あぁ、箒は一人で作るって言ってたよ。箒って結構料理上手いからね~お菓子作りも上手いんじゃない?」

 

(箒は一人で作ってそれを一夏にあげるのに、アタシは皆と一緒に作ったものでいいの? そんなんだから、いつもティナに負け組とか言われるんじゃないの?)

 

そう考えた鈴はシャルロットの誘いを断る事に決めた。

 

「ごめん!やっぱりアタシも一人で頑張ってみる!」

 

「……そっか。うん。頑張ってね!」

 

「ありがとう!シャルロット!」

 

鈴はシャルロットにそう礼の言葉を述べて、教室から駆け出していった。

 

(思い立ったらすぐ行動。それが鈴の良いところだよ。頑張って!)

 

シャルロットは心の中でそうエールを送った。

 

 

そして、週末──

 

鈴はどんなチョコを作るかのアイデア出しのため、デパートへやって来ていた。

のだが……

 

(う~ん。迷うわ~。カップシューもいいけど、ガトーショコラとかチョコブラウニーもいいし、基本のトリュフとか生チョコもアリよね……)

 

店頭に並べられた数多のバレンタインチョコを見て鈴の悩みは加速していく。

 

(でも、その前に作り方が良くわからないし……)

 

悩み事をしながら歩いていたからか、バレンタインの時期で人が多かったからか、鈴は人混みの中で誰かとぶつかってしまう。

 

鈴「あ、ごめんなさい。ちょっと考え事をしてて」

 

謎の男「いや、こちらも不注意だった。謝罪しよう」

 

その男は長い銀髪の仮面の男だった。

 

(この人、どこかで……?)

 

そう感じた鈴は彼にこう問う。

 

「あの……どこかでお会いした事ありますか?」

 

「いいや。私と君は初対面のはずだが?」

 

「あ、そうですか……」

 

(やっぱりどこかで聞いた事ある声だと思うんだけど……)

 

「怖い思いをさせてしまったかな?すまなかったね。こんなものしかないがお詫びのしるしに受け取ってもらえないだろうか?」

 

彼はそう言って包み袋を渡してきた。

 

「これは……?」

 

「ああ、これは商店街の五反田食堂というところで配っていたチョコレートだよ。食堂で料理を頂いた人全員にサービスしているらしい。ちょうどバレンタインのシーズンだから君にお詫びのしるしとしてプレゼントしようと思ってね」

 

彼の言葉に鈴は驚きの声をあげる。

 

「五反田食堂!?今、五反田食堂って言いましたか!?」

 

「あぁ、そう言ったが」

 

「ありがとうございます!」

 

そう礼を述べて鈴は駆け出すが、その途中、彼の方を振り返ってこう質問をした。

 

「あ、あの!あなたの名前は!?」

 

「モンタークで結構、それが真実の名ですので」

 

「ありがとうございます!モンタークさん!!」

 

そう言って鈴は再び駆け出していった。

 

その後ろ姿を眺めていたモンタークは心の中でこう評価する。

 

(300アルミリアポイントだ)

 

 

鈴は商店街を駆け抜け、五反田食堂へとやってきた。

 

(前、一夏と遊びに来たとき以来ね……)

 

ガラガラガラ

 

店の戸を開けると、突然の来訪に驚きながらも弾と蘭の母である蓮さんが出迎えてくれた。

 

蓮「あらぁ~。鈴ちゃんじゃない!久しぶり~。弾と蘭なら今出掛けてるわよ~」

 

鈴「今日は遊びに来たんじゃなくて、お昼ご飯を頂きにきました」

 

「あらそう。じゃあお好きな席に座って下さ~い。フフッ、それで何にする?」

 

そう変わらぬ笑顔と愛嬌で注文を取る蓮さん。

 

(相変わらず美人だな~)

 

そう純粋な感想を抱きながら、鈴はメニューも見ずにこう注文する。

 

鈴「業火野菜炒め!お願いします」

 

蓮「は~い、業火野菜炒め、入りました~」

 

厳「あいよー」

 

厨房から厳さん──弾と蘭のお爺さんの声が響く。

 

(厳さんも変わらないな~)

 

その数分後、料理が運ばれてきて、久しぶりに五反田食堂の定番メニュー『業火野菜炒め』を食べた。

 

鈴がそれを食べ終わる頃にはお客様の足も途絶え始めてきた。

 

鈴「ごちそうさまでした」

 

蓮「はい、お粗末様でした」

 

「やっぱり厳さんの『業火野菜炒め』最高ですね!」

 

厳「よせやい、嬢ちゃん!そんな褒めても俺からは何も出ねぇぞ」

 

「お父さんから出なくても私からは出るけどね。はい、これどうぞ~」

 

蓮さんはそう言って、先ほどモンタークと名乗った男からももらったチョコレートの小包をもらった。

 

鈴はそれを受け取って、本題へと移る。

 

「ありがとうございます。それで、このチョコレートなんですけどっ!」

 

「うん?」

 

「蓮さんが作ったんですか?」

 

「え、えぇ……そうだけど……」

 

「作り方教えてもらってもいいですか!!」

 

「ええっ!?」

 

 

その日から鈴は放課後、ほぼ毎日、五反田食堂へと赴いた。蓮さんからチョコレートの作り方を教わるためだ。

ついでに色々とアドバイスも受けた。

 

 

そして、ついに訪れたバレンタインデー当日──

 

(蓮さんの厳しい修行に耐え抜いたこのアタシに怖いものなんてないわ!チョコも今までで一番いいものが出来たし、これなら箒や他の子達に負ける事もないはずよ!)

 

そう意気込んで、1組の教室にやってきた朝──

 

鈴「い、一k……(って何っ!? あの大袋!!?)」

 

一夏に声を掛けようとした鈴であったが、彼とオルガ、三日月の机の上に置いてあった大袋を見て、後ずさる。

 

オルガ「………なんでこんなにあるんだよ……」

 

一夏「一人一袋かよ……」

 

三日月「……」モグモグ

 

「ミカ、流石にここまで食べすぎると太らないか?」

 

「別に」モグモグ

 

「ミカの場合はその分ISの操縦に糖分使ってるからよ……」

 

(あ、後にしましょうかね……)

 

 

その次の一時間後の休み時間は一夏、オルガ、三日月の周りに女子生徒の行列が出来ていた。

 

(まだ……休み時間とかあるし……)

 

 

二時間後の休み時間

 

鈴「い、一k……」

 

一夏「おお、鈴悪いな。今からISの実習なんだ!俺達男は早く更衣室行かなきゃ千冬姉に怒られる!」

 

三日月「イチカ、何やってんの?」

 

オルガ「おい、イチカ!止まるんじゃねぇぞ!」

 

「あぁ、んじゃ!話は後にしてくれ」

 

「わ、分かったわ……」

 

 

三時間後の休み時間は2組のIS実習の準備のため1組には行けず……

 

 

昼休み

 

(ん? あれってシャルロット達?)

シャル「はい、オルガ!」

 

シャルロットがオルガに箱を手渡す。

 

オルガ「お、おう……サンキューな!」

 

ラウラ「ミカ、これを!」

 

セシリア「三日月さん、どうぞですわ!」

 

三日月「ん?わかった」

 

早速開けてみるオルガとミカ

 

そこには……

 

「これは……!」

 

オルガに渡されたのは鉄華団のマークで固められたチョコレートが入っていた

 

「鉄華団の証じゃねえか……まさか型まで作ったのか!?」

 

「うん!」

 

(さすがはシャルロットね。型まで作るなんて!ホント、アンタ凄いわ……)

 

三日月「これは?」

 

「種無しデーツにチョコレートを流し込んで作ったものだ」

 

「ミカならこういうのが好きだと思ってな……」

 

(ラウラも三日月の好みを正確に把握してるわね~)

 

「……」パクッ

 

モグモグモグ

 

「うん、美味しいよ」

 

「よかった……まだまだ一杯あるからな!」

 

「ワタクシのチョコレートもご覧になってくださいまし!」

 

「……大丈夫?」

 

「今回は大丈夫ですわ!シャルロットさんから色々と教わりましたので!」

 

「大丈夫!大丈夫!今回は私たちで味見もしたし、ねっ!ラウラ!」

 

「うむ、旨かったぞ!」

 

「へぇ~」

 

(ホントかしら?)

 

そのままセシリアのほうの箱もあける三日月。

 

「……」

 

至って普通の生チョコだ。しかし、三日月は警戒してこう言った。

 

「……オルガ、味見して」

 

「なんだよ……シャルたちが大丈夫だって言ってんだから信じろよ……まぁ、いいか」パクッ

 

「う"う"っ!」

 

キボウノハナー

 

(あ、オルガが死んだ)

 

「オルガ!? セ、セシリア! 何で!? 前に作ったやつ持って来たんじゃないの!?」

 

「……え、えっと……ま、前に作ったやつを参考にして、ワタクシ一人でもう一回作ってみたんですの……そしたら前に作ったやつよりも見栄えが良かったので、その……前のやつと一緒に持って来たの……ですが…………」

 

(その一人で作ったやつに当たったのね……)

 

「……セシリア? その一人で作ったやつ味見はした?」

 

「あっ……!」

 

(あ、三日月の顔が怒りモードだ)

 

「味見はしろって言ったよね」ゴゴゴゴゴゴッ

 

「ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 

「まぁ、たまに外れのある火星ヤシみたいなもんと思っとけばいいか。ありがとねセシリア」

 

「み、三日月さん!ありがとうございます!ワタクシ一生あなたについていきますわ!!」

 

「」

 

キーンコーンカーンコーン

 

(……ってアタシ何してんの!!? 一夏にチョコ渡しに来たはずだったのに、何でシャルロットたちの様子をずっと眺めてるのよ!! もう、アタシのバカ!)

 

 

そして、五時間後の休み時間──

 

鈴「い、一k……」

 

箒「い、一夏!!」

 

一夏「ん?」

 

「こ、これを!」

 

「これって……バレンタインの?」

 

(はぁ……)

 

箒がチョコを渡すのを目撃した鈴は完全にタイミングを逃してしまった……。

 

 

(なんでアタシっていつもこうなんだろ……なんでもない時は無駄に自信があるのに、一夏のことになると……というより恋愛のことになると、すぐに自信を無くしちゃうのよね……アタシの意気地無し…………バカ……)

 

 

放課後は一夏はISの練習のはずだ。邪魔しちゃ悪いし、諦めよう。

 

そう思って帰ろうとトボトボ歩いていたその時、後ろから不意に声をかけられた。

 

「おい!待てよ、鈴!!」

 

──その声は一夏の声だった。

 

鈴「い……ち、か?」

 

一夏「何驚いてんだよ?」

 

「一夏なの?」

 

「他の誰に見えるんだよ?」

 

「でも、一夏……放課後はISの練習のはずじゃ……」

 

「今日の練習は中止だってさ、ミカが鈴に会ってこいって」

 

(三日月のやつ……)

 

「それに今日、何回か俺のとこ来てただろ。何か話あったんじゃないのか?」

 

「気付いて……たの?」

 

「なんとなくな」

 

なんとなくでも自分を見てくれていた事実に鈴は自然と笑みが(こぼ)れる。

 

「一夏……!」

 

「それで話ってなんなんだ?」

 

「フフッ、一夏それ本気で言ってるの?」

 

「いや、わかってる。多分バレンタインのチョコだろ」

 

一夏のその言葉を待って、鈴は五反田食堂で蓮さんに教わって作ったチョコビスケットを差し出す。

 

「はいっ!」

 

「おおぉ、ビスケットか!甘いチョコばっかでちょうどこういうの食べたかったんだよ!ありがとな、鈴!」

 

「べ、別に礼なんていいわよ!アタシが渡したくて渡しただけなんだし」

 

「でも、タイミングなんて気にしなくて良かったのに~。すぐ渡してくれよな」

 

「…………(それが出来たら苦労しないわよ)」

 

「どうした?」

 

「いや、なんでもない!すぐ渡せなくて悪かったわね!」

 

そう言った後、鈴はあることを思いついて一夏にこう提案する。

 

「そうだ、一夏!今日、ISの練習無くなったんなら五反田食堂で夕食でもどう?」

 

「いいな!んじゃ今から行こうぜー」

 

 

そして、夕暮れの空の下、二人は並んで歩き出す。

 

 

長い長いバレンタインの一日はこうして終わりを告げた。

 

 

 

 

 

その日の夜。

 

一夏は鈴から預かっていたチョコビスケットをオルガと三日月にも渡す。

 

一夏「これ、鈴から。渡すの遅れてごめんってさ」

 

三日月「あ、ビスケット!」パクッ

 

モグモグ

 

三日月「いいね、これ」

 

オルガ「何っ!?……ビスケットォォォォ!!!!

 




つよい(確信)



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