月軍死すべし   作:生崎

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第一幕 終章

「ちょっとなにサボってるのよ」

「サボってねえんだよなあこれが!」

 

  ジト目の霊夢に叫びかえしながら楠はそっぽを向く。あれから数日、なんともおかしな生活に楠は身を浸していた。時間固定結界装置も、加重銃も、散らばっていた月の兵器の回収を終えて月軍の痕跡は綺麗さっぱり消え去った。残っているのは頭から離れぬ記憶のみ。月軍に付けられた爪痕も、永遠亭のどこにいたのかひょっこり顔を出してきた永琳という薬師に処方された薬で嘘のように治ってしまった。副作用が怖かったがそんなこともなく、こうして楠は霊夢にいびられる毎日だ。

 

「木を切り倒しただけでまるで仕事が進んでないでしょうが、いつになったら直るのよ」

「じゃあせめて木を乾燥させろ巫女さんよ、生木で組んで柱が捻れたから作り直せって言うのが目に見えてんだよ! だいたいあの鬼の嬢ちゃんはどこ行ったんだ! しかも今度壊れたのは菖さんのせいだしよ!」

「ぐちぐち言わない。だいたいこんなことしてていいわけ?」

 

  そっぽを向く楠に呆れたように霊夢は両手を上げる。先日梓から特大の爆弾を落とされたというのに、楠は全く慌てることもなく普段通りだ。それは霊夢もそうであり、他の者にも言えることだが、現実味がなさすぎた。だが、情報を持って来た同じ平城十傑である楠の様子の変わらなさには呆れしかしない。

 

「騒いだって仕方ないし、今できることをやるのが一番。それにどこに居たって関係もないみたいだしな」

「あっそう、まあいいけど、夕飯までには帰って来なさいよ。じゃないと針妙丸とかが五月蝿いんだから」

 

  そう言いながら楠の手元にあった焼き鳥を一本手に取り霊夢は空へと飛んでいく。巫女らしからぬ手グセの悪さに楠はギリギリ歯を擦り合わせた。

 

「おぉい泥棒だ! 食い逃げだ! 妹紅焼け!」

「焼くかバカ、今の分給金から引いとくから」

「ウソだぁ……」

 

  振り返った楠の視線を払うように妹紅は手を動かして小さくなっていく霊夢の背を見上げる。毎日毎日逃げないようにと監視に来ながら焼き鳥と焼き筍を奪っていく巫女を追うよりも、手近なアホを相手にしている方がマシだと結論付けて。

 

  迷いの竹林に近い人里で開かれている妹紅の屋台は、無駄に料理のできる男のおかげで連日開くことが可能となりそこそこ繁盛していた。新たな店員の人相が悪いのが傷ではあるが味はいいと、慧音や魔理沙もよく顔を出してくる。霊夢や魔理沙が勝手に食い逃げしていくせいで楠にしわ寄せが来るので、全く楠は常連客をよく思っていない。店番を完全に楠一人に任せて後ろの長椅子に横になっている妹紅へと目を向けながら、楠は器用に焼き鳥が焦げてしまわぬようにひっくり返す。

 

「店長がサボってるのはいいのかよ」

「金を稼がなきゃならないからって雇ってあげてるんだからそういうこと言わない。霊夢と違って優しいでしょ私は」

「あー優しい優しい! はいはい、黙って働きゃいいんだろ全く」

「それで? 今日は霊夢の方に泊まるわけ?」

「ああ、あっちの修繕のためにな」

 

  神社の修繕と妹紅の家の立て直し。全く学生のすることではないと楠の頭痛の種である。博麗神社と妹紅の家を行ったり来たりしている楠に、「二股だ」と魔理沙にひどいレッテルを貼られ、店に来る桐に拳を振られる毎日。それが楠のここ最近。焼けた串付きの筍をひっくり返す楠の背を見ながら、妹紅は火力調節のために軽く手を振った。

 

「で? そう言えば外に帰るのに金が必要なんだっけ? いくら必要なのよ」

「十両だってよ。仕事終わらせて外に戻れば待ってるのは天国(パラダイス)! 修学旅行に文化祭も控えてるぜ! なにしよっかなー」

 

  夢を思い描いて口笛まで吹く楠に、口端を引き攣らせた妹紅がゆっくり立ち上がり、楠に寄るとその肩に優しく手を置く。同情の色を瞳にありありと浮かべて。

 

「楠……、お前いったい何年幻想郷(ここ)にいる気なの?」

「……え?」

 

  長い付き合いになりそうだと、叫ぶ一歩手前の楠を見て妹紅は小さく笑みを浮かべた。

 

 

  ***

 

 

  剣撃の音が今日も鳴る。最近の白玉楼での一日はそこから始まる。楼観剣の煌めきを受け止めるのは長い大太刀、滑るように刃を流し、スルリと妖夢の懐に一歩桐は足を出す。

 

「今日はそうはいきません!」

 

  腰に差した短刀を掴み横薙ぎに振るった。霊力の刃が横に走り、桐の体を捉えた瞬間に、大太刀の柄でその技を軸にぐるりと回った桐の手から大太刀が伸びた。もう何度も妖夢も見た動き。恐れて足を下げてもその間合いから外れるのは容易ではない。故に近づく。高速で迫る刃に奥歯を噛み締めながらも妖夢は一歩を踏み出して、楼観剣の柄を桐の頭目掛けて叩きつけた。

 

  スルリ。

 

  と固い音は鳴らず、回転によって滑らされ妖夢の体がそのまま桐の背後へと通り過ぎる。続いて迫る刃を飛んで避けた妖夢の薄い笑みを目に留めて、ふにゃりと桐は笑顔を崩す。

 

「にっまーい」

「は?」

 

  いけない! と上着を抑えた妖夢のスカートが下にストンと落ちた。表情の固まった妖夢に向けて一歩桐が足を出し、発狂した妖夢の弾幕が桐をタコ殴りにして白玉楼の庭に転がす。ついでとばかりに宙を泳ぐ半霊の尻尾が桐の頭に落とされた。

 

「馬鹿じゃないんですか⁉︎ 死んでください!」

「こ、これも修行のうちでしょうに」

「こんな修行ありません!」

 

  落ちたスカートを急いで履き直し、焦げた桐から目を背ける。月軍を屠ったと聞いた時はついに桐はやる気になったのだと妖夢も期待したが、結局帰って来た桐はなんにも変わらない。ふやけた笑みを携えて相変わらずスルスルスルリと妖夢の剣から逃げている。あんまりダメージも見せずに立ち上がる桐にため息を吐きながら、目を細めた妖夢の視線が突き刺さる。

 

「全く。五辻の技を永遠亭で振るったと聞きましたけど、ここじゃあ振らないんですか?」

「あれは月軍用です。見せてもいいですけれど、どうします?」

「結構です! いつかこちらから引き出させますから」

「いやあ嬉しいですね。妖夢さんにそこまで気にされるなんて」

 

  桐のもの言いに噛み付こうと妖夢は口を開きかけたが、途中で取りやめ楼観剣を鞘に戻した。一々相手をしても桐が喜ぶだけで意味がないのと、永遠亭でなにがあったのか妖夢は知らないが、この数日で桐に多少の変化が見られた。付き合いの浅い妖夢でも目に見えて分かる桐の変化。無闇矢鱈と女性に触れることがなくなった。

 

  普通そうだろと言えることだが、人里に買い出しに行っても声を掛けることはあっても、初めて妖夢が会った時にように手を握るようなことはない。おかげで初めよりも少しだけ桐との買い物が楽になり妖夢としてはありがたいのであるが、その変化が不気味であると顔を歪める。

 

「あら、今日はもう終わりなの? なにか見逃したかしら?」

 

  大太刀を納める桐へと目を向ける妖夢の前にひらひらと桜色の蝶が舞う。その軌跡を辿って目を動かせば、欠伸を噛み殺しながら縁側にふわりと幽々子が姿を現した。そんな幽々子を見て笑顔を崩す桐に目を向けて肩を落とす妖夢を挟んで聞こえてくるのは、いつもの調子の二人の会話。

 

「妖夢さんの下着姿を見逃しましたね姫様」

「ちょっと」

「あらそれは残念だわ、妖夢もう一度やってくれないかしら」

「やりませんから!」

「それでは今一度」

「やらないって言ってるでしょうが!」

 

  後頭部に楼観剣の鞘を受け、庭の上を桐が転がっていく。こういう攻撃だけは律儀に受ける桐に妖夢の溜飲は僅かに下がり、その桐のヘイトコントロールの無駄な巧みさに幽々子は微笑みながら桐を見下ろした。

 

「大丈夫かしら?」

「ええ大丈夫ですとも。それより姫様、明日はどうしましょうか?」

「……ふふ、もう明日の心配をするの? そうねえ、明後日のことでも考えましょうか。ねえ桐」

「ええ、そうしましょう姫様」

 

  まだ見ぬ明日の話をする二人に呆れながら妖夢は二人の元に足を運ぶ。少なくとも妖夢が刀を打ち合える相手はまだ白玉楼に居座るらしい。

 

 

 ***

 

 

  押した扉は暗闇に消えていき、ガタリと音を立てて崩れ落ちた。紅魔館の地下迷宮の一室で瞬く紅い瞳は、入ってきた来訪者のメイド服を見るとすぐに背けられる。数日に渡り全く減っていない朝食を今日もまた下げるメイドにご馳走さまと言うこともなく、フランドールは抱えた膝に頬をつける。

 

「妹様、お食べにならないのですか?」

「……いらない」

 

  椹と離れてから数日フランドールはずっとこの調子だ。フランドールとレミリアによって半壊した紅魔館は今も復旧工事中であり、上にいてやることもないフランドールは部屋に引きこもりっぱなし。レミリアからは出てもいいと言われてはいるが、ふらふらと外に出て何か壊したくなってしまっても、それを止めてくれる者は今はいない。

 

「ですが少しくらい食べませんと」

「いい、だから咲夜下げちゃって」

「しかし」

 

  心配そうなメイドの声に手を振って、揺れる三つ編みを視界の端に追いやった。動かず騒がず遊びもせずに座り続けるフランドールを心配して頻繁に咲夜が見に来てくれることは嬉しくもあるが、あまり喜ぶと壊してしまいたくなるので、なんとか自分の理性で自分を縛る。それでも聞こえない足音に少しイラつきながら、それもいけないと咲夜に背を向けた。

 

「妹様、お嬢様も心配していますよ」

「そんなに言うなら咲夜が食べちゃっていいよ」

 

  人間の血を飲めるなら。そう言葉を続けようとしたフランドールだったが、その言葉は血の入ったワイングラスを傾ける音と飲み干す音に遮られて飲み込まざるおえなくなる。どこまで忠臣なメイドなんだと呆れるフランドールの耳に背後から聞こえてくるのは咳き込む音。なにやってるんだと振り向いたフランドールの目はメイドに向けられそのまま見開かれると固まった。

 

「どうかしましたか妹様?」

「あの、咲夜? なんていうか口がふやけてズレてるんだけど」

「はい? ……ってうわマジだ。だから変装って苦手なんだよなあ、上手くいかねえもんだ」

 

  咲夜の声が喋るごとに野太くなっていき、伸ばされた手が咲夜の整った顔を掴むとべりっと剥がれる。シールを剥がすように下から出てくるのは白い綿毛のようなくせ毛と、揺れる細い三つ編み。不敵な笑みを貼り付けた盗賊の顔が外に出る。

 

「よおフランドール嬢、全く子分が会いに来てくれねえからこっちから来ちまったぜ」

「椹……」

「おう!」

「……メイド服似合ってない」

「気にするのそこかや⁉︎」

 

  感動の再会などという言葉はなく、咲夜のメイド服から伸びる見知った顔にフランドールは大いに引く。そんなフランドールの目の先で椹の肩に手を掛けて飛び出てくるのは妖精メイドの服を着たこいし。その可愛らしい姿で口直しし、ようやくフランドールは笑みを浮かべた。

 

「遅いよ椹、待ってたんだから」

「いやあなんかここの警備が前以上に厳しくてな! 前に警備がザルって言ったからかや?」

「楽しかったね! あの銀髪のメイドさんにたくさん追いかけられて」

「咲夜に? ってことは」

 

  フランドールの呟きに合わせて部屋の入り口が大量のナイフを吐き出した。空間を捻りナイフを弾く椹の姿に目が点になったフランドールの横に盗賊と子分そのいちが身を翻す。そんな三人を睨むのは、頭髪を逆立たせたメイド長。その怒気は色付いてさえ見え、暗いはずの部屋を怒りで照らした。

 

「ようやく追い詰めたわよこの泥棒! なんで私の服を着てるのよ⁉︎ 伸びるでしょうが! と言うか返しなさい!」

「おっかねえ! おいフランドール嬢! 壁ぶっ壊せ! 逃げるが勝ちよ!」

「行こうフランちゃん! レッツゴー!」

「……ああもう! 私が居ないとダメなんだから!」

 

  嬉しそうに手を握り締めるフランドールの動きに合わせて、紅魔館の一部が崩れ落ちる。紅魔館の一室からそれを眺めたレミリアは、楽しそうに手に持ったティーカップを傾けた。

 

 

 ***

 

 

  今日も文は忙しなくタイプライターを叩く。平城十傑、月の使者、書く話題には事欠かない。チンッ、と音を立てたタイプライターから書ききった原稿を抜き出して、隣に座る男へとそれを笑顔で差し出した。

 

「どうですか梓さんよく書けてるでしょう」

「ああ悪くないな、流石文女史。ただ僕としてはもう少し幻想郷の情報を知りたいところではあるが」

「それならそっちにあるのをどうぞ、第一号からありますから」

 

  本棚にずらりと並んだ黄色く変色した新聞から真新しいものまでを目に入れて、機嫌良さそうに梓は席を立ち本棚に寄る。永遠亭の一件から、梓は文の部屋に入り浸りだ。理由は幻想郷の細かな情報を知ることができるからというのと、必要な情報を逐一ばら撒くため。月軍が再びやって来るまでの影の最前線基地と文の部屋は化していた。

 

「いやあ楽しいですね。メディアが世を動かすと言いますか、黒幕になった気分ですよ」

「あまり浸透してはいないがな。それとなく警告できればそれでいい。必要な者には届いているだろう」

「あの永遠亭の場に博麗の巫女が居てくれたのは大きいですね。あれも梓さんの策ですか?」

「前にも言ったが僕はそこまで頭の回る方ではない。菖の策か別の誰かか、どちらにしろ良い方に転がって良かった。……この妖精大戦争という記事は面白いな。他にはないのか?」

 

  意外と子供っぽい記事に食いつきのいい梓に笑みを返しながら、それじゃあと他の似たような記事の載った新聞を取り出していく。ここまで自分の新聞を気に入ってくれる相手は珍しく、ついつい文も表情が緩んでしまう。椅子に戻りじっくりと文々。新聞に目を落とす梓にコーヒーでも入れてやろうとキッチンに文が立った瞬間、部屋の扉が勢いよく開かれた。入って来るのはツインテールを揺らして荒い息を吐く同僚。はたての登場に新聞から顔を上げた梓に少しがっかりしながら文もはたてに顔を向けた。

 

「どうしたのよはたて、新聞は配り終わったの?」

「まあね! ってそんな場合じゃ、っああ! 梓また文の新聞なんて読んで! 花果子念報を読みなさい!」

「ああ、そっちも是非頼む」

「はいはい、そういうのは私を通してからにしてよね」

「あんたいつからそんな秘書みたいな立ち位置になったのよ……」

 

  貴重な読者を囲う文に目を細めながら、梓に花果子念報を渡そうとしては文に阻まれる。そんなことに天狗のスピードを無駄遣いする姿につい可笑しくなって梓は小さく笑いながら、二人の間に割り込んだ。

 

「それではたて女史、何か用があったのではないのかな?」

「ああ! そうだった‼︎」

 

  振り落とされた新聞が文の脳天にヒットしたのも気にせずに、再び慌てだしたはたてに向けて、文は涙目になりながら落ち着かせようとはたての両肩に手を置く。動きの止まったはたてだったが、それでもあわあわと口を動かし、梓と文の顔へと忙しく交互に目を動かした。そんな様子に二人が肩を竦めていると、ようやく再起動を終えたはたてが、勢いよく文の胸ぐらを掴む。

 

「お、お、おにおに」

「オニオン?」

「玉ねぎじゃない! 星熊勇儀様がやって来てるの! 妖怪の山目指して!」

 

  はたての叫びに文はビシリと凍りついた。静寂の後、ブリキのおもちゃのように梓の方に向いた二つの顔。それに腕を組んで梓は少しの間考えて、二人の天狗の襟を掴んで外へと歩きだした。

 

「ちょ、ちょっと梓⁉︎ なんで私たちまで⁉︎」

「ご、後生です梓さん⁉︎ なんでも言うこと聞きますからそれだけは⁉︎」

「いや、僕だけでは話にならないかもしれん。鬼に礼を失するわけにもいくまい。話は頼んだ」

「「いやあああああ!!!!」」

 

 

 ***

 

 

  一面に広がる彼岸花を見て、菖はホッと息を吐く。花で溢れている場所でありながら、まるで生命の吐息を感じない。薄い霧に覆われた地は朝か夜なのかも分からず、薄い光と薄い闇とが混じり合った灰色の風景をただ静かに菖は見つめていた。

 

  彼岸花畑の先には緩やかな太い線が引かれている。流れているのかそうかも定かではない澄んだ川は、底があるようには見えず、覗き込んだ菖の顔も水面には映らなかった。

 

  一時間か二時間か、ただ座り静かな川と彼岸花を眺める菖の身を叩くのは、ギィギィと軋む木の音と、それに混じった陽気な鼻歌。次第に大きくなるそれに耳を澄ませる菖の前で、木の唸り声が止むのと同時に鼻歌も止む。

 

「お前さんまだここに居たのかい? 死んでもないのに三途の河に近付くなんて、閻魔様に怒られちまうよ」

 

  笑うようにそう言うのは彼岸花で染めたような赤い髪の和装の少女。あどけない笑顔を浮かべながらも、背には身の丈に負けぬ大きな鎌を背負っている。漕いでいた木の小舟から足を下ろし彼岸花の中に一歩を踏み出した少女からは熱は感じず、ただ骨も凍えるような冷気を感じる。死に誰より近い菖だからこそよりよく分かる。先日、小野塚小町と名乗った少女はものが違う。自分よりも死の色を強く振りまく少女に畏怖と共感を抱きつつ、菖は小さく顔を上げた。

 

「……小町か。いいのかこんなところでサボっていて。また怒られるんじゃないのか?」

「生きるのをサボってるお前さんに言われたくはないさね。まだ行く気にはならないのかい?」

「そうだな、いささか血を流し過ぎた。無論私のではないが。いずれは行くさ、友人も待っているしな」

 

  嘘は言っていないと分かる小町は、難儀な少女にため息を吐きながらその隣に腰を下ろした。死神が隣に座るという笑えない冗談に、普通の人間なら固まるか、仙人なら酷ければ気絶でもしようものだが、菖は身じろぎひとつせずにただ受け入れる。死というものに慣れているのか、少々生気に欠ける人間に、小町はつまらなそうに口を尖らせた。

 

「あたいの正体薄々察してるだろ? もう少し驚いてくれてもいいのにさ」

「私はいつも死と向かい合ってきた。今更だ。隣り合っても驚かんよ」

「ふーん、難儀な人生歩んでるね。いつか死に手を引かれても知らないよ。まだ若いのにさ」

「くくっ、見た目で言えば貴殿とそう大差はないがな。大丈夫そうはならんさ。少なくとも二人手を引っ張り返してくれる者がいる。お節介な奴らだ」

「そりゃいい友人だね」

 

  「全くだ」と返して菖は笑った。そんな友人たちに無理を言い菖は今回の策に乗った。本来なら菖は敵になる予定ではなかった。だが、それでも自分の可能性を知りたいと藤と櫟を説得し、なんとか梓の了承を得た。暗殺者ではあっても、真正面から本気で殺しに行って、それを止めてくれると少し信じながら刀を抜く。付き合わせた偽月軍の月兎たちには少々申し訳ないと思いながらも、結局己が欲には抗えない。そして得た結果は自分の予想通り。予想外だったのは、霊夢と魔理沙の二人の少女だ。それなりにぼろぼろにしたという自負が菖にはあったが、それを簡単に覆し、想像以上に早く立ち上がって来た。それがなにより嬉しい。一種の異常だ。千年の呪いに包まれた平城十傑以外にも似たような者がいるという喜び。人の可能性が喜ばしい。そんな感情に浸りながら、菖は死神に目を向けた。人を信じるそれとは逆に、人では届きそうにない領域に立つ少女を羨むように目尻を下げて。

 

「私も、死以外を振りまけるだろうか? どう思う?」

「あたいに聞くのかい? それが最も得意なあたいに」

「だからさ」

「あたいは少なくともこうしてサボれる。死神なんて暇な方がいいのさ。最も得意だからこそやらない。いつでもできるからね。だろう?」

「……最も得意だからこそやらないか。アッハハ! そうだな! うん、それじゃあ私も、一番苦手なことをやってみようか」

「一番苦手? なんだいそりゃ」

「守ることさ」

 

  そう言いながら立ち上がり、軽く挨拶をして去っていく菖の背を小町は微笑を持って見送った。軽く垣間見得える菖のこれまでに、「苦手でもないだろうさ」と小さく呟く。その両脇に立つ一組の男女の影を守っていた手が死を遠ざけることを確信しながら、大仕事が待っていそうだとうんと伸びをして。そのために今出来るだけサボろうと小町は彼岸花の中に沈むように横になった。

 

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 

  夜の病院の一室の窓際に一人の男の姿があった。その男はいかにも具合が悪そうな青白い顔をしながら、口には舌がデザインされたカバーシールを貼り付けた悪趣味な電子タバコ*1を咥えて、大量の白煙を吐き出している。不良病人。そう見えなくもないが、男は真っ黒い喪服のような学ランに身を包み、病人のようでありながら病人の空気は纏っていない。看護師に見つかれば怒られるようなことをしていながら、それを咎める者はその病院には居なかった。なぜならその病院こそその男の持ち物だから。それも一つではない。今男のいる病院も、世界中にある男の一族が持つ病院の一つでしかないのだ。だが、看護師が咎めなくても、病室には一人男を咎める者がいた。

 

「もう藤さん。そんなにプカプカ煙を吹いて、煙感知器が鳴っても知りませんよ? もしそうなったら私だって怒っちゃいますからね」

「そう言わんでくれよ櫟、俺から唯一の武器を奪うつもりかい?」

 

  (ふじ)さんと呼ばれた男が(いちい)と呼んだ少女へと振り返る。病院服に身を包んだ少女は、ばっちりと瞼を閉じたまま藤の方へと顔を向け、呆れたように眉を歪めた。目玉模様が刻まれた簪で長い黒髪をあたまのうしろで一纏めにした少女は目を開けることもなく、だが分かっているように風に流れて来た煙を手で払う。そんな櫟の姿により口から煙を吐き出しながら藤は緩やかに微笑んだ。

 

「傷は癒えたようだね櫟、これでようやく俺たちも動ける」

「菖ちゃんが致命傷にならないように綺麗に穴を開けてくれましたからね。藤さんがお見舞いに来てる最中少しでもそれを控えてくれればもっと早く治りましたよ」

「おいおい俺は毒を吐いているわけじゃあないんだぞ? 少なくともお見舞いに来ている時はな」

「当たり前です。もしそうなら私は既にこの世にいません。そうなったら菖ちゃんに仇を討ってもらいましょう」

「洒落になってないんだが」

 

  藤の面白くない冗談に同じように櫟は面白くない冗談で返す。笑う者はおらず、平城十傑の誰が居ても今の冗談はどっちも笑えないだろう。藤はまた一度口から細く煙を吐き出して夜空に浮かぶ月を眺めた。地球のどこにいても誰もが眺める数少ない同じもの。その美しさはそのまま恐ろしさでもある。それを煙に巻くように、藤は再び煙を吐く。

 

「菖は上手くやったかね、失敗はないと信じたいが」

「藤さんよりはきっと上手くやりますよ。心配なのはやり過ぎてないかです。菖ちゃん普段大人しいからかテンション上がると抑えが効かなくなっちゃいますからね。ニトログリセリンみたいなものですよ」

「その例えは人にしていいもんなのか? ま、いない人間のことを気にしても仕方がないかね」

「あ、今の菖ちゃんに言っちゃおう」

 

  冗談キツイと窓辺に寄りかかる藤にクスクスと櫟の笑い声が降り注ぐ。この調子なら櫟は本当に全快したらしいと安心しながら、慣れた口つきで藤は煙を燻らせる。そんな男の背中に顔を向けていた櫟であったが、肌をつつく僅かな空間の乱れに眉間にしわを寄せると、部屋の中央へと顔を向けた。「……来ますよ」という少女の小さな呟きと、部屋の虚空に一本の線が引かれたのはほぼ同時。

 

  際限なしに口を開けようと開いていく空間の両端に緩く巻かれたリボンがそれを堰き止めて、部屋に別世界へと続くトンネルが開通する。藤も櫟もそれに目を向けることなく、その奥から聞こえてくる足音に耳を澄ませた。亜空間を踏みしめていた中身のなかった足音が次第に大きくなり、病室の硬質な床に足を落とす。コツリ、という音と共にスキマから這い出るようにずるりと姿を表すのは、部屋の中にも関わらず日傘を肩に掛けた金髪の少女。

 

  目を向けなくとも、身を削られるような少女の雰囲気に二人は誰かは察しがついた。数ヶ月前から何度も顔を合わせている大妖怪。幻想郷を作った賢者の一人。口元を扇子で覆う少女の金色の瞳が櫟の方へと流される。その圧力にため息を吐く櫟を見て微笑みながら、少女は開いていたスキマをファスナーを閉じるように掻き消して身から滲んでいる力を緩めた。

 

「よく分かるわね櫟。目がなくても貴女は誰より見えている」

「紫さんに褒められるとは誇っていいのでしょうね。今日はなに用でしょうか」

「終わったから伝えに来たのよ。結果は上々、とまあ言えるのではなくて? 主要な戦力は死ななかったのだし」

「それだけ聞ければ満足ですね、菖も死ななかったなら良かった」

 

  遠い目では見えぬ世界にいる友人たちを想いながらぶわりと藤は煙を吹いた。そんな男の背中を八雲紫は可笑しそうに眺め、手に持っていた扇子を閉じる。パチリと打ちなった小さな音に振り返った藤の目と紫の目が交差した。お互いに微笑を浮かべているが、心中穏やかではない。まだ何も始まっておらず、始まりはすぐそこに控えている。

 

「この数ヶ月、貴方たちも準備をしていたようだけど、そろそろアイツらが動き出しますわ。首尾はどうかしら?」

「蘆屋の百二十三代目と岩倉の十二代目は未だ説得中、六角の八十五代目は今いる場所が分からないんですよね、これは困った」

「そこは菫子が上手くやるでしょうから安心していいわ藤、それに六角の居場所は狸の御大将が見つけたわ。富士の樹海だそうよ」

「それは結構ですね。そちらは? 幻想郷はどうでしょうか紫さん」

 

  盗み見ていた永遠亭の一件を思い出しながら、紫は平城十傑に関しては何もいうことはないと切り捨てた。大丈夫だと藤と櫟は信じており、その通りになったことは先程伝えたため言うことがない。人の思惑の通りに事が進んだこともほんの少し癪だった。だから口にするのは幻想郷の象徴のような少女について。ぼろぼろになっていた博麗の巫女が静かにやる気になっている姿に笑みを浮かべながら藤を見返す。

 

「菖には感謝ね。霊夢もやる気になってくれたわ。一度死を感じた後と前では対応に差が出る。本番ではこれで上手くやってくれるでしょう。どういう者が来るのか、主要な者たちの何人かには伝わったのだし、天狗が梓に協力して新聞を逐一ばら撒いているから意識改革には十分でしょうね」

「なるほど、幻想郷も準備に入りますか。もうこちらも後は幻想郷に行くだけだ」

 

  藤はそう言いながら咥えていた電子タバコを掴み口元から少し遠ざけ目を落とす。櫟も菖も命を賭けた。櫟は状況が切迫していると伝えるための証拠として、菖は自ら脅威の一端になるために。次は自分が命を賭ける番だと決めて目を険しくさせる藤に紫は目を細めながら、この男には興奮して欲しくはないと話題を変えるために話を反らす。

 

「それにしてもよく今まで貴方たちの一族はひとつも欠けずに残っていたものね。それだけでも珍しいわ」

「私の一族は情報役。潰えそうになっても各一族の情報のバックアップを取ったりしていますから。それにそうは言われても今日までなかなか厳しかったんですよ?」

「そうそ、技術を向上させるため事あるごとに各当主たちは古い時代の戦争の、その最前線に身を投じた。源平合戦、関ヶ原、西南戦争、その他諸々。当主のくせに前線に出るからそりゃ狙われる。おかげで戦時中にバタバタ死んで当主の交代がそれはもう激しい」

「断絶の危機に瀕したこともありましたし、各一族の技術がだいたい完成したのは二三百年は前ですからね。例外を除いてですけど。それまでは仕方ないですよ。それに馬鹿みたいな理由で亡くなった方もいますしね。ねえ藤さん」

 

  海の上走り切れるんじゃね? と昔船で行くには時間が掛かると日本海を走って渡ろうとした道中に足を攣り溺死した五辻の当主。壁を抜けようとして埋まった北条の当主。俺はミサイルも耐えられるかもしれないと、アメリカの核実験場に忍び込み死んだ足利の当主など、アホみたいな理由で死んだ者たちもいる。そんなおもしろ死因(シーン)を流石に口に出すことは憚られ、藤も櫟も苦笑した。

 

「俺に言うなよ櫟。悪かったなうちの一族の死因がだいたい自滅で」

「別に馬鹿にしたりしていませんよ。藤さんはそうはならないでくださいね」

「そうね。貴方に居なくなって貰うと戦い方を変えねばならない。今からそれは大変だもの」

「分かってますよ紫殿。まだ元気ですから大丈夫です」

 

  両手を挙げて戯けて見せる藤に紫も櫟も呆れながら肩を竦めた。藤はいつもこの調子で、本当に分かっているのかどうか怪しい。それを確かめるように窓の外に浮かぶ月へと顔を向け、月明かりが照らす少年と少女を紫は漠然と視界に収めた。白煙を吹き流す男と盲目の女。ぱっと見強者には見えない人間が二人。

 

「ここまで来て言うのもあれだけれど、貴方たちは敵が何者であるのか、この戦いの本質がなんであるのか分かっているのかしら?」

「紫殿、俺たち二人は平城十傑内での頭脳労働担当ですよ? 分かってなきゃあ」

 

  そう藤は言うが、紫の目は細められたまま、納得したと動かされることはない。いつものように煙に巻くのは許さないから言葉で聞かせろと床の金色の瞳が訴えている。それを見た藤は電子タバコを咥え直し小さく煙を吐き、櫟も呆れたように息を吐く。

 

「……はぁ、世情を見れば誰が敵で目的は何か意外と分かりやすい」

「今外の世界は信仰が薄れてしまいましたね、それもここ百年も経たずに急速に。まるで腐った林檎のようにいつ落ちてしまうやら」

「そんな世界に見切りをつけて二柱の神が土地を離れた。問題はそこにある。ああ、そいつらが敵だと言ってるんじゃないよ」

 

  信仰とは力である。少なくともそれによって神は生きていると言ってもいい。忘れられた神など吹けば飛ぶ。ならば、なぜ八坂加奈子と洩矢諏訪子の二柱は信徒がいないだろう幻想郷へ旅立ったのか。風祝を従えていたとして、よく信仰のない幻想郷に踏み入り無事だったものだ。それはなぜ? 外の世界で消えた信仰の行き先は?

 

「著名な二柱の神でさえ存在が消えかけ土地を離れた。他の神も同様の危機に晒されている。それは天照大神然り」

「消えてしまわなくても力は落ちます。大変ですねえ、日が陰るといろいろ弱まってしまって」

 

  太陽の光があるからこそ照らされたものはより鮮やかに色を出す。生物然り、水然り、大地然り、だが何よりもその陽の光の恩恵を受けているのは櫟が顔を向ける先。夜空に浮かんだまあるい月。

 

「月が輝いていられるのも太陽があるおかげです。光が弱まれば月も弱り、太陽が消えれば月も消えてしまう。裏表のある一枚のコインのようにどちらかしかないなどあり得ない」

「天照大神はいい神様だ。こんな世の中でも変わらず照らしてくれてるが、どうにも力を持った夜空の住人はそうではないらしいね。困ったものさ、神の時代に恐竜の時代、妖魔の時代があり今は人の時代だと言うのに、永遠を持っているくせに懐古主義とかアホらしすぎて鼻血も出ない」

「まあそういうことですね」

 

  勝手に話を終わらせる櫟に紫は呆れたように大きく首を回す。そこまで言ったら最後まで言えと嗜めるように咳払いを一つしながら藤の方へ鋭い視線を突き刺した。大妖怪のギラリとした目を受けてやめてくれと藤は両手を挙げて煙を吹くと、ペロリと出ているように見える長い舌型の電子タバコを軽く摘み、手の内でくるくる回して目の前に掲げた。

 

「相手は月夜見だ。信仰の溜まり場になっている幻想郷を前線基地に神の世界を取り戻す気なのさ。太陽の権威を取り戻すためにな」

「天照大神ほどのビッグネームなら消えてしまうこともないでしょうにね。輝きが失せるだけでも我慢できないみたいです。付き合わされる玉兎さんたちはご愁傷様ですね」

「そこまで分かっているならいいですわ。世界より何より先にこのままでは幻想郷が滅んでしまう。それだけは許すわけにはいきませんもの。そのために貴方たちの力利用させてもらいますわ」

「お互い様だよ紫殿、敵の手が世界に届く前に叩き落とす。その場に幻想郷を使わせて貰うんだからね。まあ逆に言えばそこで負けるわけにはいかないわけだ」

 

  神が襲い掛かってくるなどという話にいったいどれほどの外の人間が耳を貸すか。烏合の集はただの邪魔な壁になり出せる手が出せなくなり、出せる足が出せなくなる。

 

「幾らかの助っ人に声はかけられたがどうなることやら、豊姫に依姫に天探女に嫦娥。半端ないな笑えてくる。だがやらないわけにもいかない。俺たちの終わりにはこれで丁度いいだろう」

 

  千三百年も続けて来た物事を終わりにするには中途半端な結果では意味がない。かぐや姫は攫われていなかった。それで見つけましたお終いでは、納得できないほどに長く惰性とも言える年月を積み重ね過ぎた。必要なのはその呪いを打ち砕く劇的な終わり。それにこれは丁度良いと言える。月の神を追い払えれば、もうかぐや姫も大丈夫だと胸を張って言えるだろう。そう思い笑みを浮かべる藤に「こちらまで一緒に砕かれなければいいですね」と、笑顔の櫟から毒が吐かれげんなりと藤は窓辺にしな垂れ掛かった。

 

「冗談でもやめてくれ。ただでさえ短い寿命がさらに短くなっちまう」

「そのまま倒れないでよ藤。これから幻想郷に行くのでしょう?」

「藤さん今すぐ行かれるんですか?」

「夜に行ってもしゃあないし早朝にはな。こういうのは早い方がいい。先に行ってるよ」

 

  外の世界で打てる手はもうほとんど打ってしまった。無論手を打ち過ぎるということはないが、打ち終わるということもない。次に打つ手は全て幻想郷の中にある。まだ月軍と戦う気のない者たちを戦線に引っ張り出さなくてはいけない。スカウトマンのような仕事は似合っていないとため息を吐きながら藤はまた電子タバコを咥える。

 

「そんなわけで朝には頼むよ紫殿」

「貴方の場合体質のせいでどれだけ細かく術式を組んでもスキマを出た先の位置がズレるから適当に送るわよ。だからと言って身の危険を感じても殺し過ぎてはダメよ藤」

「わざわざ味方の戦力を削ぎはしないさ。それに俺は運動が苦手なんだ。戦闘は嫌い。平和主義でいこう」

「どの口が言うんですか? 存在がCWC*2に引っかかるような人が。バレたら極刑ですねお可哀想に」

「なあそれが国境なき医師団にめっちゃ寄付してる医療薬品会社の会長に言うことか? ここの入院費だって全部俺持ちなのに」

「ああ、恩着せがましい。お金を盾にあんなことやこんなことをするつもりです」

「しねえわ⁉︎」

 

  咳き込みながら櫟の言葉を否定して、無闇矢鱈と散った白煙を藤は手を振ってより散らす。「はぁ」と一息ついて呼吸を整え、逃げるように藤は病室の入り口に向かう。煙を引いて歩いていく男の背に、「ではまたすぐに」と櫟が声をかければ、藤は軽く手を挙げ返して出て行った。部屋に残っていた白煙は風に流されあっという間に散ってしまい、藤の痕跡はすぐになくなる。静かになった病室で、もう取り繕う必要もないと起こしていた半身を倒し櫟は柔らかなベッドに沈み込んだ。

 

「はあ、もう行きましたでしょうか。藤さんにあまり心配かけたくありませんから」

「苦労人ね櫟。治りかけでもまだ痛むみたいね」

「私敏感肌ですから。紫さんが近くに居るだけでも妖力でチクチク、肌が荒れそうで」

「はいはいそろそろお暇するわよ。……櫟、幻想郷の有力者には先に話は通しておくからその時は頼んだわよ。平城十傑の参謀さん」

「勿論です。ただ私よりも陰謀家の方を放っておかない方がいいと思いますけどね。藤さんは目を離すとすぐにどこかへ行ってしまいますから。風に乗って流れていく煙のように」

「留意しておきましょう」

 

  そう言葉を残して音もなく紫は姿を消した。誰の目にも見えずとも、肌で感じる空間のスキマ風に腕をさすりながら櫟は悩ましげに吐息を零す。出来るだけ早く友のいる地へ向かうため、意識を自分の内に向けて櫟は夢の世界へ旅立った。

*1
形状はbluとかいうやつを参照。上部がカートリッジ式で簡単に味とか換えられる。

*2
化学兵器禁止条約

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