月軍死すべし   作:生崎

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現代っ子、不良物見遊山

「あの野郎どこ行きやがった! ってかここはどこだ宇佐見!」

「間欠泉センターだったかな? それよりうるさいから静かにしてよ」

 

  ツンツンと世界を劈く漆の声に耳を背けながら、菫子は妖怪の山麓の間欠泉センターの壁に目を向けた。ロの字型の施設は、幻想郷の中でも有数の機械的施設。木と鉄の歯車が所々顔を出している外壁は、温泉の熱と地熱を用いて稼働しておりとことどころ硫黄の香りが混じった煙を吹いている。そんなスチームパンクちっくな世界を眺める菫子の視界の中をズカズカと肩で風を切りながら漆が横切っていく。

 

  スキマを通り過ぎた先はまさかの妖怪の山上空。菫子は空を飛べるため問題なかったのだが、漆は飛べず、菫は余裕そうに背中から火を噴き空を飛んで消えていった。「ほならねー」と笑いながら漆を見捨てて飛び去っていく姿は堂々としたものであり、罵詈雑言を撒き散らす漆の姿は滑稽だった。「くたばれ!」と漆が繰り返すこと数十回、菫子が漆を浮かせてやり着いた場所が間欠泉センター。それからはや数分側経過したが、菫子は唸り、漆は間欠泉センターの床を粗雑に踏み荒らしているだけだ。

 

  幻想郷には着いた。だがそこからどうすればいいのかが分からない。行きの切符を持たされただけであとはご勝手にと言うような不親切な幻想郷ツアーをどう乗り切るべきか。漆はそもそも幻想郷に来たことなく、菫子が頼れそうな相手と言えば霊夢やマミゾウなどだが、間欠泉センターからはいささか遠い。

 

  思い悩む菫子とは対照的に、勝手すら知らない漆はどうすることもできずただ怒りの質を高めていく。硬質な床の継ぎ目を踏み潰しながら、理不尽だけは踏み潰せない。説明もなければ地図もない。キリキリと動く歯車の音が鬱陶しく、ただ怒りを煽ってくる。漆が吐き出す心の淀みを菫子は流すだけで、唯一吸い込んでくれるのは、ロの字の開けた中央に空いている大きな穴。その淵に丸出しのエレベーターを引き下げた井戸のような大きな口はどこに繋がっているのか見当もつかない。飾りっ気のないカラクリ壁を見ていても面白くはないと穴に向けて足を出す漆の背に、ようやくそれを咎める声が掛かった。

 

  優しい声ではなく鋭い声。少女の声ではなく男の声。警戒と怒りと怖れを含んだごちゃ混ぜの声音に漆は舌を打ちながら、背後へ向けて肩越しに小さく青い瞳を向ける。

 

「止まれ、外来人ども! 妖怪の山の麓に何用だ! いや用などどうでもいい! 帰れ!」

「うぇえ〜、な、なんであの妖怪はあんな敵意バリバリなのよ?」

「帰りたくなければここで散れ!」

「ウゼエ……、ウルシ」

 

  巨大な紅葉が床に落ちる。びっしりとヒビを走らせて落ちた大きな手は漆の影から伸びている。死人が棺桶から這いずるように、生者を道ずれにするように、愚かにも伸ばされる骨張った怪物の腕は生者へと容易く届いてしまう。負の引力。式神、怪物『ウルシ』の手は、手のひらに感じた温かさを手放さぬように閉じていき、その熱を優しく握り潰した。

 

「かぁぁぐやぁぁぁぁぁぁぁさぁま」

「うるせえ出てくんな。ここにかぐや姫はいねえ。戻れ戻れ」

 

  影の中からずるりと出てくこようとする大きな頭の上にゲシゲシと漆は足を落とすが、泣き言を続けながらウルシは漆黒の滝を枝垂れさせズルズル這い出てくる。式神と言いながらウルシに対する扱いの悪さに菫子は苦笑を浮かべながら潰れた白狼天狗の冥福を祈った。

 

「それすごいよね。なんて言うかホラー映画? 貞子みたいなさ。蘆屋さんが作ったの?」

「はぁ? こんな夢見悪いの作るわけねえだろうが! 冗談も休み休み言いな! コイツはな、ただの呪いなんだよ」

 

  式神『ウルシ』。その名の通りウルシの正体は漆である。かぐや姫のお守りであり、侍女であった初代、蘆屋 漆が死後己を式神と化したもの。そしてその力の源は、歴代当主蘆屋漆が支えている。

 

  蘆屋家の当主の決め方は他の一族と違いものすごく安全に簡単に決まる。先代当主が死んだ時、血縁の中の者の一人にウルシが憑く。それが当主となる決まり、そして当主となった者にとっては地獄の始まりとなる。毎夜毎夜夜になれば繰り返される夢。かぐや姫との愉快な日々。そしてそれが終わる絶望という落差。寝ている間に永遠と繰り返される悪夢はウルシの叫び。その積み重なった漆とウルシの怨みこそが力になる。

 

  精神をやられて衰弱死した当主。イかれて崖から飛び降りた当主。例え死んでも誰かに流れるだけで消えはしない永劫の呪い。そしてそれを解き放つ方法はこれまでなかった。御伽噺の中に入り込めるわけがないから。「かぐや姫、かぐや姫」としか繰り返さず、何も言わない式神とは会話すら成立することがない。悪夢の結晶は何を望んでいるのか。再会か復讐か、それすら分からずただ夜を恐れる。だがそれも終わりだ。夜明けがすぐそこまで迫っている。

 

「行くぞ宇佐美! かぐや姫のくそったれのところへな!」

「いやまあ別にいいけど」

 

  宇佐美の目の前で漆はウルシに拳骨を打たれて床に埋まった、「ぶっ」と硬質な床を砕き頭から突っ込む漆には目も向けない式神は空だけを見る。同じ一族の歴代当主であろうともかぐや姫の悪口すら許してくれないお目付役に髪を逆立たせて飛び上がった漆の蹴りが炸裂した。まるでブレず、動かないウルシに蹴った足を摩りながら漆は舌を打ち、ウルシが見上げる先を見つめる。

 

  羽ばたいている黒い翼が四つ。吹き抜ける風に溶けたように飛んでくるそれはあっという間に間欠泉センターの上空を回る。

 

  鴉天狗。幻想郷最速の種族の軽やかさに舌を打ちながら、舞い落ちてくる黒い羽を漆は蹴り上げる。

 

「なんでこう邪魔そうなのがわらわらわらわらと! 月軍とやるんじゃなかったのかよ? なんであたしがこんなこと、ックソ!」

「いや、蘆屋さんが出頭に白狼天狗を潰したからじゃ。どうするの?」

「どうするって……ッチ、空にいるやつら引きずり落とせ」

 

  空から風の刃が落ちて来るのを忌々しく睨み付け、隣の式神へと漆へ指を動かして見せた。頭を振り回しウルシの漆黒の髪が伸びる。黒い閃光は風を裂き、生きているように蠢いた。高速で飛び回る天狗の足に絡みつき、()()の影が地に堕ちる。

 

「いやあああ⁉︎ なんなんですかああああ⁉︎」

 

 絶叫をBGMに轟く肉ドラムと、それにノッたヘッドバンキング。前に後ろに、左に右に、機械の壁を凹まして五つの生物を肉塊に変えるために振り回す。「ひぶ! ふぶ!」と唯一白い影が情けない声を吐き出して黒い髪に包まり床に転がる。他の花開いた四つの赤い花と違い姿を保ち、頭のたんこぶをさすりながら身を起こす緑の髪の少女を見て二人は固まる。パチクリと三人顔を見合わせて、流れる気まずい雰囲気に漆は指揮者のように指を振った。

 

「宇佐美、ありゃきっと物の怪とかそんなんだよなって思う。なんたって髪に苔が生えてやがるからな。そうじゃなきゃアレだ。きっと病気持ちであんな髪色なのさ。ばっちぃの。だから潰せウルシ」

「いや急になんなんですか貴女たちは! 勝手に攻撃してきてばっちい⁉︎ 失礼過ぎます! 私だって怒りますよ!」

「いやあ、なんて言うか、ごめんなさいと言うか。はぁ」

 

  立ち上がり漆と距離を詰めようと歩く東風谷早苗であったが、ウルシの黒い髪に足を引っ掛けすっ転ぶ。コントをする気もない漆は相手をしたくはないと明後日の方へ顔を反らし、菫子はどうしようか眼鏡を押し上げた。蜘蛛の巣に絡まったようにウルシの髪と格闘している早苗は二人に全く相手をされないことに業を煮やし、はんぺんに棒をくっつけたようなお祓い棒を一振りして黒い牢獄を断ち切った。

 

「天狗の皆さんが騒がしいから今度は乗り遅れるまいとやってきて見れば! 外来人が二人とは、まさか梓さんと同じ平城十傑?」

「げ、梓の知り合いかよ。てかウルシの髪を切るとかテメエ普通じゃねえな」

「ふっふーん、普通じゃないんです!」

「なんでテメエ嬉しそうなんだよ……」

「まあそれは貴女たちもみたいですけどねー。貴女は言わずもがな。そっちの方は格好が変だし」

「だよな。ファッションセンスを疑うって」

「はあ⁉︎ この格好良さが分からないとか⁉︎ かぁぁ! 凡俗な感性しか持ち合わせていないのね!」

 

  マントをはためかせて小石を宙に浮かべる菫子に漆はもう呆れて言葉も出ない。少なくとも高尚な人物であれば、学生服の上にマントを羽織るという謎ファッションセンスは御免被る。どうせ数年もすれば心の痛みで床をのたうち回ること請け合いだ。「マジシャン?」と勘違いする早苗に「超能力者!」と返すお決まりクサイ流れを聞き流しながら、でくの坊な式神を引っ込めようと漆はウルシの服の裾を引っ張るがビクとも動かない。

 

「で? お二人はどんな一族なんですか? 梓さんはターミネーターみたいな人でしたけど」

「ターミネーター? そんな例えするなんて、幻想郷にはあの映画も幻想入りしてるの?」

「ああいえ、私も数年前に幻想入りしましたので」

「はー、じゃあ幻想郷での先輩なのね」

「そうなんです! だから頼っていいですよ!」

「超どうだっていいな。くだらねえ」

 

  胸を張る早苗には目も向けずに再度漆はウルシを強く両手で引っ張れば、ようやく名残惜しそうに渋々影へと潜っていく。一仕事終えたと額を拭う漆に早苗のキラキラと輝く子供のような瞳が向き、漆はウンザリとした面持ちになった。

 

  平城十傑。かぐや姫を守るため集った十の英傑。その子孫に向けられた夢見がちな目に漆は頭を掻くが、否定してなにがあるわけでもない。なにより他の平城十傑が幻想郷にいる手前嘘をついても仕方ないと、漆は舌打ち混じりに少女の望む答えを雑に投げる。

 

「蘆屋だ。蘆屋 漆。陰陽師だよ」

「私は宇佐美菫子。平城十傑じゃないわ」

「陰陽師! 安倍晴明とかですか!」

「いやうちで言えば他に有名なのは蘆屋道満、ってかどうだっていいな。はぁ、おい宇佐美、もうかぐや姫のとこ行くぞ」

「えぇ……この惨状放っておいてですか? それは……ッ⁉︎」

 

  急に吹いた突風に、菫子は足を踏ん張ろうとするがそれよりもなお強く風が吹き荒れる。自由に空を飛ぶ事も叶わず、突如吹き抜けた嵐に足を掬われて、菫子は早苗と漆を巻き込み大穴へと吸い込まれた。大海に穴が開いたように流れ込み続ける風に押し流されて落ちていく三人を見下すのはペンを握り締めた天狗の少女。

 

「んー、黒幕っぽい、黒幕っぽいわね。これで梓さんの頼み通り地底も丸。あとは岩倉ですが、放っておいていいって言われてるけどどうしようかな。梓さんと一緒にいた方が面白いけど今は鬼も一緒だし。はぁ……、まあでも戻りますか。なにより妖怪の山が面白そうなんだから」

 

  黒い羽を散らして少女の姿は風に溶ける。地底に続く穴からは小さく怪物の泣き声が響いたが、誰に届くこともなくひっそりと消えていった。

 

 

 ***

 

 

  ガラガラと崩れた岩を押し退けて怪物が立ち上がる。遥か上空に見える小さな点は地上の光。怪物に続いて立ち上がった三つの人影は服に付いた砂埃をはたき落としながら、一人は帽子を被りなおし、一人はホッと息を吐き、一人は崩れた岩を蹴り上げようとして足から痛い音を響かせた。

 

  「痛ってえ!」という叫び声は閉ざされた地底に反響して木霊する。呆れたように首を傾げる怪物に中指を立てながら、周りの明かりに顔を向ける。間欠泉センターの地下。オレンジ色に照らされた黒い鉄の塊がいたるところに置いてある。半球状の鉄の塊についている分厚く丸い硝子窓を漆が覗き込めば、中ではオレンジ色の球体が目に痛くなるような光を発しながら縮小と膨張を繰り返していた。呼吸しているような球体から目を外し、再び上へ向いて肩を落とす。

 

「なんだよマジであのありえねえ動きをする突風は! あんなのありか! ここは風まで生きてやがんのか?」

「さあどうでしょうね? 少なくとも今天狗さんたちは外来人撲滅隊というくらいつんけんしてますから。天狗の仕業かも。それよりその大っきい人すごいですね! なんていうかコスプレした貞子みたいな」

「やっぱりそう思うわよね! テレビから出てきそう」

「うるせえ、テメエらはホラー映画マニアかよ、それよかどうするかだ。上に戻るなら確かエレベーターがあったな」

 

  そう考えて壁に目を走らせた漆の目の先で木の箱が上から落ちてきた。ぐしゃりと潰れた木の箱はただのゴミだ。同じようにもう一つ落ちてきて薪にしか使えなくなったエレベーターに、漆の口端がひくつく。

 

「あれま」

「あれまじゃねえ⁉︎ おい宇佐美どうすんだ!」

「飛んでもいいけど蘆屋さん飛べないんだっけ。あの式神で上って来たら?」

「いや、今行くのはやめた方がいいと思いますけど。天狗の皆さんがまだいるでしょうし、地底にいれば少なくとも天狗の皆さんは来ませんよ」

「はあ? なんでだよ」

「鬼がいますから」

 

  それはもっと良くないんじゃないかと思いながら漆は舌を打ち顔を背けた。そうなると残されているのは地底の道。外に出るには、裏道を知らぬ限り博麗神社へと繋がる道を行くしかない。幻想郷に来て早速薄暗い穴蔵に押し込められている現状に漆は不満しか抱けず、逆に汚れた服にしか不満をもっていないような緑髮の少女に目だけを向ける。

 

「そういやテメエはなんだ? あたし達と同じ外から来たってのは聞いたがよお、人間か?」

 

  緑髮の少女は人間にしてはどこか変わっていた。髪の色も勿論そうなのであるが、少女を前にして感じる感覚がどうも普通とは異なる。梓とは別の意味で整いすぎている容姿は、名画家の手掛けた少女の姿。初日の出を眺めているような、夏の空に沸き立つ入道雲を見上げているような、雄大な自然を前にした感覚に近い。少女の体から滲む力の流れは魔力とも霊力とも異なる。その爽やかな力は平野を流れる風のようで、漆はその潔癖とした空気の流れに眉を顰めた。

 

「私は東風谷早苗、守矢神社の風祝にして現人神です! ふふん、拝んでくれていいですよ!」

「ウルシやれ」

 

  背後から伸びた怪物の腕にペシリと早苗は潰される。「ぐえ」と呻き声を上げながらも器用に全身を神力で補強し握り潰されることを回避しながら、尖った目尻に引っ張られるように舌打ち交じりに見下ろしてくる漆へ睨み返した。

 

「なにするんですか⁉︎」

「現人神? 神ってことは月夜見だかの味方か? あたしのことも梓に拷問でもして聞いたのかよ」

「違いますよ! 信徒が幻想郷にいるのに裏切るわけないでしょ! 味方です‼︎ だいたい梓さんに拷問なんて効かないでしょ!」

「はあ? 水責めとか普通に効くだろ。テメエらどんな拷問してんだ」

「え? そ、そうなんですか?」

 

  梓だって人間だ。痛みに強かろうと、呼吸をできなくされては流石の梓もどうすることもできない。そうなる前には流石に梓も逃げるだろうが、それを思えば一生懸命棒で突っつき梓の口を割らせようとした天狗の涙ぐましい努力になにも言えない。敵にしては間の抜けた早苗の反応に、漆は指を弾きウルシに手を退けさせる。

 

「ま、いい。信じてやる。で? テメエは天狗と一緒に来たってことはやつらと仲良いのか? どうすんだ」

「全く短気な人ですね。帰ってもいいんですけど、次にのけ者になるのは嫌ですし、漆さんについていけばあぶれませんかね?」

「はあ? なんだテメエ、自分から進んで戦いたいなんて変なやつだな。顔に似合わず戦闘狂か?」

「お好きに言ってくれていいですよ。漆さんも、菫子さんも、お二人も分かるでしょ? こんな力をもって外の世界に生まれて、力を持て余している」

 

  手から火が出せる。風を操れる。電気も水も、空を飛べても便利ではあるが必ずしも必要ではない。それも人ではあるのに他とは違う。違うというのは生き辛い。法律も、権利も、社会とは大多数のためのものであり、片手で足りるような少数にとっては生き方を狭める。できるのに、やれるのに、それを行使してはいらない首輪をかけられるだけで、得られるものは不自由だ。

 

「できるならこの力を良い方に使いたいじゃないですか。大いなる力には大いなる責任が伴う、ですよ」

「今度はスパイダーマンかよ。英雄願望なんてくだらねえって」

「化け物と呼ばれるよりもヒーローと呼ばれたいですからね! 漆さんは違うんですか?」

「ヒーロー? あたしとこいつがか?」

 

  十尺近い式神を漆は見上げる。悪夢を永劫見せる巨大な怪物。我儘で粗暴で泣き言しか口にしない。外にいても勝手に暴れて被害を出すだけだ。見上げる漆の顔にウルシは血走った目を落とし、大きく首を傾げる。死神が首を擡げているような姿には『英雄』などという称号は似合いそうもない。漆は鼻を鳴らすと手を振りウルシの視線をつらす。

 

「ヒーローなんてガラじゃないね。だいたいあたし自身はそんな強くねえし」

「まあ確かに漆さんはヒーローというよりポケットなモンスターのマスターというか、妖怪をウォッチする人って感じでしょうか」

「おい幻想郷ってのは幻想の拠り所じゃねえのかよ。例えが若いってかガキっぽいぞ」

「んな⁉︎ じゃああれです行くぞ鉄人みたいな! ベイマックスみたいな!」

「なんでアニメばっかなんだよ! オタクか!」

「あのお二人さん。盛り上がってるところ悪いんだけどもアレってなに?」

 

  菫子の言葉に引っ張られて顔を向けた二人の視界は暗闇から浮かんだ極光に包まれる。地下の太陽の輝きが人間を飲み込もうと手を伸ばす中で、影の巨人が手を伸ばした。叫ぶ泣き言は暗闇を塗り潰す音によって掻き消され、影に両腕が迫る極光を切り裂く。巨大な人の形に切り抜かれた光は三人の少女を残して通り過ぎ、地底の壁を溶かしていく。その中で舞う黒い羽に一瞬また天狗かと漆は思ったが、ひらめく白いマントと、胸の谷間に覗く大きな赤い瞳を見て別の何かだと理解した。地底に流れる炎熱の中を漂う黒い翼はゆっくりと三人の少女の前に降りてくると、右手に嵌められた大砲のようなものを掲げ、目を三人へ向けてキツく絞る。

 

「また来たのね三人組‼︎ 次は逃しはしないわよ!」

「はあ? またってなに言ってんだけどテメエ。誰かと勘違いしてんじゃねえのか?」

「そんなことないわ! ほら変な格好の人間が一人に……人間が二人に三人? こいし様は? あれしかも一人多いような」

「おいコイツなんだ?」

「いや、だから私に聞かれても」

「お空さんですからね。仕方ないですよ」

 

  なにが仕方ないのか漆にはさっぱり分からない。盾となったウルシに目を向ければ、焦げ付きながらもいまだ健在であり、体よりもより擦れてしまった服の方を気にして服の端を摘んでいた。漆の青い視線に気付いたウルシは大きな手を丸めると親指を突き立て漆に返す。心配するのも馬鹿らしいと肩を竦めて漆が核エネルギーを遊ばせる地獄の鴉へ目を戻せば、右手の筒を構え、力を点滅させていた。

 

「まあ良いわ! さとり様の命令で変な格好の人間の侵入者は処分! ろくなのいないからってね!」

「おい変なのって、こいつは巫女として、一人しかいねえぞ」

「だから変じゃないってば! マントは格好いいでしょう!」

「ああ? そういやあの鴉もマントだな。分かったマント着けてるやつはやべえ奴だ。おい東風谷、マントはやべえぞ」

「あー、やばいですかね? あっ、あー、なんかそんな気がしてきました」

「やばくない‼︎」

「うるさい!」

 

  わちゃわちゃしている三人組に再び核が火を噴いた。人型の盾がその光を遮るが、熱まではどうしようもない。神力で、霊力で、超能力で熱から三人の少女は身を守るが、吸い込む空気の熱さに多少咳き込む。相手がちょっと、ほんのちょっぴり、多分ちょびっと頭が足りなかろうと、その力は偽物ではない。焼け落ちる土の匂いに鼻を擦り、漆は指を鳴らす。

 

「ウゼエ。話もできねえ奴に用はねえぞ。久し振りに使ってやる。 (おん) 阿謨伽(あぼきゃ) 尾盧左曩(べいろしゃのう) 摩訶母捺囉(まかぼだら) 麼抳(まに) 鉢納麼(はんどま) 入縛攞(じんばら) 鉢囉韈哆耶(はらばりたや) (うん)!ぶっとばせウルシ、急急如律令(きゅうきゅうにょりつりょう)‼︎」

 

  光があれば影がある。光が生んだ影の一本線に、漆とウルシの呼吸が合わさり漆の指の動きに合わせて影に向けてウルシは拳を突き入れた。ズブリッ、と肘の先まで泥の中に沈んだようなウルシの腕は、ノータイムでお空は足元の影から突き出しその身を遥か後方へと飛ばす。地底の壁を削り跳ね飛んで行くお空の姿はどこまで飛んだのか、オレンジ色の明かりも吸い込む地底の闇へと破壊音は反響し、その音が小さく収束する元から光が漏れた。指を横に動かす漆に合わせてウルシが腕を振り、光の槍が弾き飛ぶ。

 

「元気な野郎だ、うざってえ」

「うわあ漆さん! 今の凄い陰陽師ぽかったです! くぅぅ、いいなあ、急急如律令‼︎」

「は、はあ⁉︎ なんだテメエバカにしてんのか⁉︎」

「いやでも本当に蘆屋さん陰陽師だったのね。ただの不良じゃなくて。それよりそのウルシって式神ひょっとしてまだ上があるの?」

「えーもっと色々やって見せてくださいよ!葉っぱで舞う蝶々を斬るとか!」

「うるっせえ、この映画マニア! ってかまた来んぞ! 宇佐見! 東風谷! テメエらも働け!

「ふっふっふ! では見せてあげましょう! 神の力と風祝の技を!」

「皆古いのよね、超能力が最強だって教えてあげるわ!」

 

  過去と今の技術が踊る。太陽の化身が飛んで来るのを目に留めて、ウルシが応え叫び返した。

 

「かぁぁぐぅぅやぁぁさぁぁま‼︎」

「うるせええええ‼︎ だからここにはいないって言ってんだろうが!」

 

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