竹の間から漏れる朝日の輝きは美しく、とても澄んで眼に映る。行けども行けどもその景色が途絶えることはなく、いつまで眺めていても飽きることはない。色の変わった笹の葉が地面を埋め尽くす様は風情がある。そんな枯葉を踏みしめながら、楠は周りへ目を向けて、ギリギリと歯を擦り合わせた。
昨夜博麗神社を飛び出してから、月が落ちて日が昇った。そんな時間を過ごしていつまでも続く竹林を見続けている。人里か神社に戻ろうかと思っても、360度周りを竹林に取り囲まれ、幻想的な竹林の景色に現を抜かすことしかできていない。つまるところ、
「迷ったぁああああ!!!!」
木霊する楠の叫びは竹林の開けた隙間に吸い込まれていき、あっという間に消えてしまう。ひゅうひゅうと吹き荒ぶ秋風が、楠を馬鹿にしたように吹き抜けていき、楠の体から力を奪う。その寒さに背中をガシガシ掻いて天を仰ぐ。
迷いの竹林。その名に偽りなし。と、言ってもどうにかなるものではなく、箱庭的な幻想郷の竹林なんてたかが知れてんだろと甘く見た楠におおいにツケが降り積もっていた。霊夢の馬鹿を見る目が楠の頭の中で流れていき、より強く楠は持ち前の歯をギザギザさせる。
なぜすぐに飛び出したのか。『月軍襲来!』という記事に踊らされて走り出した己を恥じる。まさかかぐや姫の身を案じてなどと、そんなつもりは楠には微塵もない。だが、それでも楠は走った。人里へ走り、迷いの竹林の場所を聞き、夜は一段と妖怪が出るから危ないぞという親切な人里の住民の制止の言葉も振り切って突貫したのにこの様だ。こんなことなら桐を誘っておくんだったと思ってももう遅く、竹林の先にある竹林と、終わりなき景色に目を向ける。
そんな楠の視界に、黒い影がちらつき楠は舌を打った。親切な人里の住民の言った通り、歩いていれば妖怪が出てくる。昨夜からもう何体も楠は妖怪を切り捨てている。魔力などの力がそういう方面の修行をしていないためほとんど感じられない楠は弱い妖怪にとって手頃な獲物に見えるらしい。ニヤついた妖怪の笑みがそう教えてくれた。
ヒュルリと細い紐を伸ばして姿を表すのは
竹の背から飛び出ると同時に二つに分かれた妖怪を見て、つまらなそうに楠は刀を鞘へと戻した。足で刀を振るった竹を蹴れば、刀で斬られたはずなのに、依然と竹はくっついたままその場で揺れ、幾枚かの葉を落とす。
刃の中頃は透かし、先端のブレによって相手を斬る。人知れず一族の技を無駄遣いしながら、死角から刃を飛ばす楠を見る者はいない。妖怪の死体を埋めることも蔑むこともなく、取り敢えず外に出たいと楠はその場を離れた。
「行けども行けども藪の中か……、くだらねえ」
かぐや姫が居ると言われる永遠亭。そしてその永遠亭がある迷いの竹林。竹から生まれたという伝承を文字ってか、わざわざ竹であふれる場に居を設ける意味が楠には分からない。かぐや姫だからと言って別に竹林に住む必要はない。東京の高層ビルの一室に住んでいると言われた方が、現代に即しているとも思うが、竹林にいると言われた方が、確かにかぐや姫のイメージには合う。どちらにしても今ここに居るなら関係ないかと、動かす足を楠は早めた。
それは、すぐ近くにいるというかぐや姫を思い描いて。これまで殴ろう、殴ろうと思っていながら、幻想郷に降り立ってからどこぞの紅白守銭奴巫女のせいで近寄れもしなかった。だが今は違う。そんな巫女からようやく離れられたのに、すぐその手前で二の足を踏んでいる現状がとても歯痒い。
手を丸め、握り拳に力を込めて足を動かす。地面に散らばっている落ち葉を蹴り上げながら、だがそんな足も歩くごとに遅くなっていき、次第にトボトボと弱くなり握り拳も緩くなる。もう何度もやった同じ動作。だって迷子だもん。というしょぼくれた内面を抱え、結局どこに出ることもなく、変わらぬ景色の中に未だにいる。
「どこだここは。今何時だ。あぁあぁくそったれ」
ループものの世界に囚われているような陰湿な竹林のせいで、増える独り言を隠そうともせずに楠は二本の刀を手に取って横へと振るう。竹林全部叩っ斬れば抜け出せるんじゃないかという浅はかな考えだが、しばらく振るうと手を止めて刀を鞘へ戻した。
この行動ももう何度かやっている。そうして無駄だということも。カラカラと音を立てて崩れる竹を目で追い地面へと向ければ、
「ふざけんなよマジで。竹林見て喜ぶのなんて
ここには居ない平城十傑の一人を巻き込んで悪態をつきながら、ため息を吐きつつ立ち上がる。自然の牢獄。そう言っても差し支えなかった。ふらふらと歩き出し、そうして身を投げ楠はその場に転がる。
「腹減った。喉が渇いた。あともう竹を見たくねえ」
せめて霊夢の晩飯を食ってから出てくるんだったと新たな後悔を並び立て、楠は頭の後ろで手を組んだ。空を見上げれば、青空が見えるはずの場所に漂う薄い
あぁあぁと愚痴を並び立てようと歯を擦る楠の口がぴたりと止まる。肌を撫ぜる気持ちの悪い空気は妖気が交じったせい。また新しい妖怪が寄って来たらしいと上体を起こし、竹の間を飛び交う黒い影を見て舌を鳴らした。
「また薬缶吊るかよ! 巣でもあんのか!」
背に手を伸ばした楠だったが、急に割り込んで来た閃光に手を止めた。光の正体は空を走る炎。その既知の範疇を超える炎の動きに目を奪われている間に薬缶吊るは火に包まれて地に落ちた。ごぅごぅと燃え嫌な臭いを振りまく焼死体を睨んでいると、「大丈夫か?」という声が楠の背後から飛んで来る。
なんとも久し振りに感じる人の声。その声の高さから若い女性であると楠は判断し、「ああ」と返事を返しながら声の方へと振り返った。
竹林の中で声の主は異様に浮いて見えた。それは声の主であった少女の服のせいもあるだろうが、なによりも少女の持つ長く月明かりで染めたような銀の髪。それが朝陽に煌めく姿は、華厳の滝を写し取ったようである。そんな髪の先端をいくつものリボンで纏め、秋風に柔らかく揺らしていた。髪は女の命という言葉に初めて楠は納得する。そんな神秘性が少女にはあった。少女の持つ銀髪と赤い瞳に合わせてか、上には白いカッターシャツを着込み、モンペのような赤いズボンをサスペンダーで吊っている。そんな少々現代チックな服装がおかしいと楠は眉を寄せる。幻想郷でこれまで楠が見てきた者たちは、西洋文化に染まったような霧雨魔理沙以外良くも悪くも古い時代にあった格好の者たちであり、その中間のような格好をする少女は少し変だった。
「助かった。無駄な運動をしなくて済んだよ」
「なんだいそれは、ああ、刀? 妖怪退治屋だったのか?」
竹の陰から出て来た少女に礼を言いながら、少女の方へと完全に振り返った楠を見て少女は動きを止める。服装によって驚かれているのかと楠は予想したが、少女の紅い瞳は楠の人相の悪い顔に固定されており、他のものには向いていないように楠には見えた。
短くも長くもない静寂が流れ、薬缶吊るを焼いていた炎が鎮火する頃、ようやく少女は口を開く。それはまさに火の消え入るような声であった。
「……お前は」
その先は紡がれず、急に顔を難しくして少女は口を一文字に閉じる。鋭くなった少女の瞳と、ピリピリと急激に緊張感の増した少女の気配に楠は眉を顰めて背の刀へとゆっくり手を伸ばす。世間話をするような気配ではない。怒気を孕んだ少女の声が静かに響いた。
「なにしに来たんだ今更」
「今更? よく分からないな。初めて俺はここに来たんだが。アンタとどこかで会ったか?」
「とぼけないでよ楠」
「確かに俺は楠だがな。嬢ちゃんと会った記憶がねえ。嬢ちゃんほど目立つ容姿なら忘れるはずもないと思うんだが」
「なに? お前、いったい何しに来たんだ?」
「かぐや姫を殴るために」
少女の目が見開かれ、楠は言い切る。楠が刀の柄を握り少女は身構えたが、楠が刀を抜き放つよりも早く低く唸るような音が少女の耳を貫いた。その音の情けなさに楠は固まり、少女も固まる。楠は刀の柄を握ったまま、誤魔化すようにギザギザした歯を擦り合わせ、ゆっくりと口を開く。
「…………まあ、取り敢えず、飯屋の場所を教えてくれないか?」
なんとも締まらない楠の言葉に毒気が抜かれたと少女は肩を落とし、仕方がないと楠を手招きする。どうしようか楠は少し迷ったが、刀の柄から手を離すと、渋々少女の後を追った。
***
「いやぁ助かったよマジで。嬢ちゃんいい奴だな! あの博麗の巫女はダメだ。なにかにつけて借金を積み上げていきやがる。しかも初対面で俺を顎で使いやがるしな。いやしかしやっぱ筍は食うに限るな! 竹はもう勘弁だ」
「……あっそ」
顔を背ける少女に礼を言いながら、目前に広げられる遅めの朝食に楠は舌鼓を打った。博麗神社で出された初日の夕餉とはえらい違いだ。少女の家はなかなかのボロ屋であったが、出されたのは白米に味噌汁、漬物だけでなく筍のおひたしに干し肉と、バラエティ豊かなお菜に手を伸ばす。
少女はムスッと不機嫌な空気を背負っているが、なんだかんだ飯を用意してくれ、なんだかんだ楠が気になるようでチラチラと視線を楠の方へと投げている。そんな少女をおかしいと思いながらも、楠は兎に角食欲を満たしてしまおうと白米を口に掻き込んだ。
空になった茶碗を置いて一息吐く。出していた膳を片付けようと動いた少女を手で制し、それぐらいはやると膳を手に取り楠は立った。水の入った桶の前へ移動して手慣れたように茶碗を洗う慣れた様子の楠に少女は目を丸くして小さく息を吐く。
「お前どこから来たのよ」
「外から。ああ、外来人だったか? まあそんなとこだ」
「……ふーん、それでかぐや姫を殴るって? なんで?」
「殴りたいから」
言葉だけ聞けば物騒なことこの上ないこの楠の発言に、一度は少女も驚いたが、二度目はそうでもないのか小さく笑う。そんな少女は変わっていると楠は肩を竦めながら、洗い終わった食器を並べて、少女の隣へと腰を下ろした。それを見越して茶の入った湯呑みを少女は出してくれ、その気の使いようにどうしても霊夢と比べてしまい楠は少女の肩を優しく叩く。
「な、なんだよ」
「いや、俺の中の女の基準が
「ああそ、はぁ、……なんか調子狂うな」
ぶつくさ呟く少女に満足気に頷いて楠は茶を啜る。なんだかんだ霊夢を下に置きながら、帰ったら文句を言ってやろうと帰る気は残して。そんな一人満足気な様子の楠を見て、より大きなため息を零し少女も茶を啜った。
茶を啜る音が止んだ頃、ひとまず落ち着いたと二人して湯呑みを置き、楠は少女の顔に目を向けた。そんな楠の顔を受けて、少女は顔を背けながらも楠から目は離さず、男のギザギザした歯が開かないのを見て「なんだよ」と口にする。そうすれば、ようやっと時が動いたというように楠も口を開いた。
「いや、やっぱり会った記憶がないな。俺は北条 楠だ。アンタはなんで俺の名前を知ってたんだ?」
「知るか。私の気のせいだっただけだよ。たまたま、そう、たまたま昔の知り合いに似てたからさ」
「ほう、俺と似てるとはご愁傷様な奴だなそいつは。自慢じゃないが街を歩けば職質されるぞ俺は。その可哀想な奴の名前はなんて言うんだ? 精々健康くらいは祈ってやろう」
「なんだっていいだろ!」
ふんっ、と鼻を鳴らして少女は茶を一気に喉に流し込む。不機嫌という空気を隠そうともしない少女に、これはあまり長居しない方がいいかもしれないと楠も茶を飲み干すと横に置いてあった二本の刀を背に背負う。そんな楠を見た少女の眉は、不機嫌な空気の中どんどん下がっていき、最終的に目尻までも小さく下げた。そんな少女の顔に楠はなにも言えずに固まっていると、少女は「……北条 楠」とゆっくり口を動かす。
「なんだよ? なにか頼み事か? 薪割りくらいなら喜んでするぞ」
「違うよ。さっきのやつの名前。……お前に似てる」
「いやだってそれ同姓同名じゃ……」
訝しむ楠の視線を受け止めて、少女の紅い瞳が弱く輝いた。それを見た楠の顔は無表情から一転してとても難しいものへと塗り替わる。
『楠』という名前は元々楠の名前ではない。当主と選ばれたその時に名前も引き継ぐ。これは他の当主の幾人かも同様だ。理由は、再びかぐや姫に出会った際に呼びやすいようにという要らない配慮のせい。だから男でも女でも関係なく、当主となれば北条なら楠と呼ばれ、五辻なら桐と呼ばれる。名を変えているのは袴垂に岩倉に六角と三家しかない。
つまり同姓同名で楠と全く同じ名前を持ち、しかも顔も似ているとなれば、行き着く先は一つだった。遥か昔の北条の誰かを少女は知っている。哀愁を感じさせる少女の表情が、楠にその事実を叩きつけた。
かぐや姫かと一瞬思案し楠は拳を強く握ったが、どうにも煌びやかに欠ける少女の住まいと、その揺れる瞳に拳を振り上げることはなく、弱々しく伸ばされた楠の握り拳は少女の肩に押し付けられただけだった。
「アンタ、……アンタ名前はなんて言うんだ。教えてくれよ」
「……なんで?」
「……ああ、ああそうだな、言わなくてもいい。分かったよ、かぐや姫じゃないんだろ? なんでだろうな、そう感じるよ。なら俺のことを知ってるのは一人だけのはずだ。先代から聞いた。他の先代たちの手記にも何度か出た名前がある」
特に北条家二代目の当主の日記に何度も出た名前だ。竹取物語以外に読み耽られるのは各当主の手記ぐらいだったからこそ楠もよく覚えている。
内に広がった感情に楠は名前を付けられない。伝説は伝説ではなかったと喜べばいいのか、怒ればいいのか、嘆けばいいのか。それがどれも違うような気がして、またどれも正しい気がした。これがかぐや姫なれば、楠も強く拳を振り抜いていただろう。だがこの少女には違う。これは別だ。二代目の当主の日記に綴られた後悔を思い出しながら、また一度弱く楠は少女の肩を殴る。
「……おい」
「…………なによ」
「なんか頼み事はないのか」
「は? ちょっとなんでそうなるの?」
怪訝な表情になった少女に向けて、それでもなお楠は続ける。
「庭の雑草抜くか? それとも外壁でも直すか? ああ、食料の調達でもしてくりゃいいか? それとも」
「い、いやちょっと、わけが分からないんだけど! なんで急に」
要らぬ親切を人でも殺しそうな顔でギザギザした歯を擦り合わせながら聞いてくる楠に、堪らず少女はそう聞いた。
なぜ?
そんなのは一つしかない。理由はただの一つだけ。少女の欲する答えを当然楠は持っている。楠は難しい表情のまま、しかし、少女の問いに即答した。その答えに少女の顔もまた難しいものへと変わっていった。
「アンタが藤原妹紅だからだ。理由なんてそれだけだ。それ以外に何もない」
たっぷりと少女にとって無限にある時間を使い沈黙が流れる。楠は言っていることに間違いはないという表情で妹紅を見据え、そんな楠に百面相を返しながらしばらくして妹紅は静かに立ち上がった。体から揺らめく炎を燻らせて。妹紅の内に積み重なった気に入らないが溢れるように。
「意味分からないわ、腹が膨れたならさっさと出てって! 別にお前が北条だから助けたんじゃない、行き倒れそうな奴を助けるのは普通だから。……どうせまだ輝夜のやつを追ってるんでしょ」
横に滑った妹紅に目を追って楠が顔を動かせば、部屋の隅に雑に放られている一枚の紙が目に映った。その内容は近づいて手に取らなくても分かる。月軍の襲来を報せる記事を見て妹紅がなにを思ったのかは楠の知るところではないが、それと妹紅は関係ない。楠は顔を戻し妹紅の紅い瞳を見返しながら頭の中のかぐや姫に唾を吐く。
「ああ追ってるよ、なよ竹の腐れ姫様を殴るためにな。だがそれとこれとは別だ。ここで行ったらな」
「お前のことなんて知るか! もうどっか行ってよ……」
「行かない。アンタのためじゃない。俺の、俺たちのためだ」
「それがウザいって言ってるの!」
妹紅の身から炎が溢れた。生死を繰り返す不死鳥のように炎の翼を広げて、指向性を得た炎が楠の身に飛来する。感情で染めたような赤色に舌を打ちながら、背後を一度見て楠は大きく後ろに跳ぶ。壁にぶつかることもなく、ずるりと壁を通過して、弾け炎上するボロ屋を見つめた。
焼け落ちたボロ屋の中から妹紅は壁を蹴り破り外に出ると、気に入らない男に向けてきつく絞られた目を向ける。チリチリと火花でも出そうなほどに。そんな妹紅の顔に楠は歯を擦り合わせながら背負った刀を手に取ってずるりと鞘を地に落とした。
「なに? やるの? 言っとくけどお前死ぬぞ」
「いややらない。俺の相手はアンタじゃない。早く消火しないと家がダメになるぞ」
「別にまた建てればいいだけでしょ」
「……なら手伝うか?」
「だから必要ないって……もう! 面倒くさい! 本当になんなのよ! 今更……、今更なんで来るの、遅いでしょうが楠」
「知らん。それは俺じゃない」
全く気の利かない楠に妹紅の毒気が抜かれるように体から上る火は小さくなる。別に悪かったなんて謝罪の言葉を妹紅だって欲しいわけではない。姿が似ていても、名前が同じでも、妹紅の知る北条とは全くの別人である楠になにを言ったところで無意味だ。なにをしてもそれは妹紅の自己満足であり、楠がなにをしてもそれは楠の自己満足である。不機嫌な顔で突っ立っている楠を一度睨みつけてから妹紅は腕を振り、その動きに合わせて炎が消えた。
焦げ臭くなった家へと妹紅は目を向けると、がっくりと肩を落とす。そうして楠の方へ振り返りながら、イラついた感情を隠そうともせずに家の方へ指を向ける。
「頼み事が欲しいって言った? 家を直すから手伝え楠」
「幻想郷に来てから大工になった気分だよ本当」
「うるさい馬鹿、精々、そう精々こき使ってやるから喜びなさいよ」
「分かった。アンタも巫女さんも変わらないってことがな。どうも俺は幻想郷の女と性が合わん」
妹紅に頭をはたかれながら、渋々、本当に渋々楠は燃え落ちた外壁に手を掛ける。一千年経った妹紅と北条の再びの邂逅は、決して感動的で麗しいものではなかった。
第一部は第三夜をもって終わりとなります。