月軍死すべし   作:生崎

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レミリア、さとり、椹、たった一度の盗賊編

 

「さて、まずはなにをどうするのがいいんですかね? なに分こういうことは初めてですから勝手が分かりません。段取りは……決めてないんですか? 行き当たりばったり? よくこれまで捕まりませんでしたね。偏に幸運だっただけじゃないですか。そう苛つかれたところで本当のことなのですから自業自得です。少し楽しみにしていましたけど、後悔してきましたよ……、そんなこと思われても知りません。先に言っておきますと、私はあなたの言うことをほぼ聞く気ありませんので。はぁ? 嫌いだからですよ」

「つまんないわね、面白くなってきたら教えてくれる?」

「お前らまじふざけんなよ……」

 

 普段の不敵な笑みは何処へやら。椹のふわふわした綿毛のような白髪は、椹の心情を表すかのように髪先が逆立ち、マミラリア属の仙人掌(サボテン)のようになっていた。それもこれも椹の後ろで偉そうに足を組み座っている二人の少女のせいである。顳顬を押さえ、なんでこうなったと椹でも思わず思い返さずにいられない。

 

 

 ──、

 

 

 ────、

 

 

 ──────。

 

 

「お頭今日はどうするの?」

「どうすっかやぁ、そろそろまた大捕物してえなぁ」

 

 私の可愛いこいしは今日も元気いっぱいです。小さくこてん、と首を傾げる姿が愛らしいですね。おっと、帽子がずり落ちそうになりましたが見事にキャッチ。自称大盗賊(笑)の椹に微笑みかけ(かけなくていいのに)、椹は間抜けな顔で返しながら欠伸を一つ。やる気の欠片も感じられません。そんな椹にニコニコ笑うこいしはまだしも、フランドールさんはちょっぴり不満顔です。

 

「ねぇ椹、またでっかいところに行こうよ。最近は刺激が足りなくてつまんないわ」

「そうだなぁ、どうにもセコいことしか最近はしてねえ気がすんぜ。これじゃあオレたちの沽券にかかわるかもしれねえやな」

 

 白玉楼の煎餅が消えた、博麗神社から饅頭が消えた。焼き鳥屋台から焼き鳥が……。これではただの食い逃げ犯ですね。嘆かわしい、こいしの格が下がっちゃいます。やはりこの大盗賊(笑)には一度お仕置きが必要ですね。横になってぐうたらしている椹のやる気ない言葉にフランドールさんもため息をひとつ。そのまま蹴っ飛ばしてあげればいいのに。腰に手を当て呆れるフランドールさんとこいしを眺めて椹が身を起こそうとしたところで、その動きがカチリ、と固まりました。

 

 そよぐ草木、飛び立つ小鳥、その全てが動きを止め、フランドールさんも腰に手を当てたまま、こいしも帽子のつばを掴んだまま動きません。その中でただひとり、瞳を揺らして停止した世界を眺める椹の前に音も立てずにひとりの少女が舞い降ります。銀色の髪を揺らしてメイド服を纏った少女こそ、紅魔のメイド十六夜咲夜さんです。

 

 両脇に私とレミリアさんを抱えたメイドさんは、勝ち誇ったような笑みを浮かべて鼻を鳴らし、椹を見下すように見つめた後私とレミリアさんを優しく下ろしてくれました。なんだいったい⁉︎ と、処理落ちしたパソコンのようにカクカクと微々たる動きで表情を歪める椹の顔は愉快ですね! ふふっ、お見事です咲夜さん! 笑える

 

 私とレミリアさんを下ろした代わりにメイドさんはこいしとフランドールさんを抱えると、優雅に身を翻して空へと去って行きました。なにが起きているのか分からずとも、奪われたという事実に鬼のような顔になる椹は死んでも変わりないようで……。銀髪メイドのメイド服を全て別の服に変えてやる‼︎ と息巻く椹が立ち上がったところでようやく止まっていた時が動き出しました。

 

「なんだいきなり⁉︎ 銀髪メイドの野郎こいしとフランを盗んできやがった⁉︎」

「頭の中も口も相変わらずうるさいですねあなたは……」

「久し振りね盗賊、死んでも元気そうでなによりよ」

 

 くっくっく、と笑うレミリアさんの横で私はただただ呆れています。私とレミリアさんを見比べて、ものすごい面倒そうな顔をする椹よりも絶対私の方がめんどくさいと思っていますよ。「なんの用かや?」 と不機嫌な顔で言葉を吐く椹の相手をするのは私は嫌なので、会話はレミリアさんに丸投げします。

 

「そう拗ねるのはやめなさい、フランとさとりの妹に居て貰っては不都合なのよ」

「なんじゃそりゃ……」

 

 得意気に腕を組んで微笑を浮かべるレミリアさんはなにが楽しいのやら、訝しむ椹の顔にレミリアさんは指を突き付けると大きく息を吸い込みました。

 

「授業参観とかいうやつよッ!」

「……なんじゃそりゃ」

 

 幻想郷のお姉様同盟の名の下に、こいしとフランドールさんと共にいる椹が相応しいかどうかを試すと、レミリアさんが言うのはそういうわけです。レミリアさんは口調とは打って変わって頭の中はなかなか愉快ですね。椹はレミリアさんの言うことがさっぱり理解できずただただ首を捻るだけです。

 

「つまりどういうことかや? 全然分からん」

「くっくっく、私とさとりが今日は椹に同行してやるという事よ!」

「は、はぁ? なんでそうなった⁉︎ お前らオレの子分になりてえのかや?」

「そんなわけないでしょう、あなたの子分など死んでもゴメンです。死神に追われるような悪霊とこいしが一緒だなんて、はっきり言って心配ですからね。とは言えこいしは言っても聞くような子ではないですし、渋々、本当に渋々、レミリアさんの口車に乗ったわけです。で? 最近はなにをやっているのですか? ……食い逃げ? 万引き並みのしょうもなさですね。大盗賊(笑)」

 

 あースッキリ。苦い顔の椹を見ると気分が良くなりますね! 是非とも椹には苦渋を飲んで貰いたいものです。そしてそのまま溺れてくれればなお丸ですね。

 

「……平安京を恐怖に陥れた日本で最初の大泥棒、袴垂の名が泣いてるんじゃない?」

「うるせえなッ‼︎ 言ったなお前らッ! そこまで言うならやってやんよ! 見てろボケ! かぐや姫が持ってるとか言う蓬莱の玉の枝、遂にオレが奪ってやんよ‼︎ ああやってやんよ!」

 

 そんなこんなで少しして永遠亭にやって来たのですが、椹は藪の中から遠巻きに永遠亭を眺めているばかり。大変退屈ですね。いつまでこうしていることやら、レミリアさんなんか木陰の中でさっきから眠そうにしてますよ? あ、もうそろそろ回想が終わるみたいです。全く、長ったらしい回想ですね。だいたい ──、

 

 

 ──、

 

 

 ────、

 

 

 ──────。

 

 

「なにニヤついてんださとり嬢、気色悪」

「あなたに言われたくないですね、竹藪に隠れた大盗賊(笑)」

 

 お互い笑い合いながら、額に浮かぶ青筋は隠さずさとりと椹は見つめ合う。口にしなくてもお互いの頭の中に浮かぶ罵詈雑言が表情から零れ落ちており、不毛な争いに首を突っ込むこともないとただただレミリアは終わりなき口喧嘩を傍観した。

 

「なんだよ、久々に地底から外出たからってはっちゃけてるわけかや? さっきから人の顔見てニヤニヤしやがってよ! ひょっとしてこいしの真似かや? 言っとくがこいしの方が百倍可愛げあるかんな! さとり嬢じゃあ……、だっはっはっはっは‼︎」

「あなたこそいつまでまごまごしてるんですか? レミリアさんの紅魔館や私の地霊殿にズカズカ踏み込んで来たくせに、今更怖気付いたんですか? あっ……、すいません図星でしたか? つい口に」

「図星じゃねえよ⁉︎ なに言ってんだオメェ‼︎ オレに怖いものなんてねえし! さとり嬢が言うとマジでそんな感じになんだろうがッ! 可愛くねえ! しかも腹黒だ! 真っ黒過ぎて手に取りたくねえな!」

「ならあっち行ってください。あなたの声を聞いてると耳が腐るような気がします」

「さとり嬢お前なんで来たんかや? 居たくないならさっさと帰れ動物保護官様、ペットが恋しがってんぜ!」

「うちの子たちは良い子なのでそんな心配要りません。あなたと喋ってると血圧上がりますね。寝起きには丁度いいかもしれませんが今は昼なんですよ。知ってました? まさか夜までここにいる気ですか? 大した盗賊ですね(笑)」

「うるせえな! だいたいなんでか知らねえけど永遠亭の警備が異常に厳しいんだよ! 元月の兎三匹に、なんか楠に梓の旦那、漆までいやがるしッ! なぜいる⁉︎」

「ああ、それ私が予告状出したからよ」

 

 あっけらかんと木陰に寝転んでいたレミリアが欠伸をしながらそう告げれば、表情の死んだ椹の顔がゆっくりと向いた。「一度やってみたかったのよね」と楽しげに呟くレミリアに、椹は大きく頭を振る。

 

「なんだ予告状って⁉︎ そりゃあ怪盗だろうがよ⁉︎」

「あらなにが違うの? そっちの方が格好イイじゃない」

 

 全然違ぇ‼︎ と椹はがりがり頭を掻いてレミリアに指を突き付けるが、なにが違うのかレミリアにはさっぱりだ。椹は盗っ人でも盗賊で大泥棒。誰に知られることもなく相手の根城に侵入し、オレが盗んだぁ! と名だけを残してさようならが椹の理想だ。一々「今から行きまーす」と書状を送り、自らリスクを上げるような真似はしない。あくまで自然の状態のままを楽しむのだ。それこそがあるがままの素の姿。そこから奪ってこそ意味がある。

 

 そんな風に違いを口にしようとするも、椹は上手く説明ができず頭を掻き、ただひとり椹の頭を覗けるさとりは、相変わらず自分の考えだけはしっかりしているとため息を吐いた。

 

「あなたはあれですね、鬼とは違った意味で裏表ないと言いますか、直球でここまで私をイラつかせる相手は初めてですよ。なんでこいしはこんなのを気に入っているんですかね?」

「悪かったなこんなので、さとり嬢に見る目がないんだろうよ」

「どうでもいいけど行くの行かないの? 暇でしょうがないんだけど」

 

 レミリアに急かされ椹は再び永遠亭へと目を向ける。歯を擦り合わせながら永遠亭の縁に座る楠と、不動で腕を組みその隣に座る梓。小ちゃな白い式神の少女を抱えて座る漆。見れば見る程椹の肩はだだ下がる。平城十傑、よく知った相手だからこそ、椹でさえ手をこまねく。化け物どもぉ……、と頭の中で愚痴を零す椹の背を見て、さとりは今一度大きく深いため息を吐いた。

 

「あなたたち平城十傑って面白いですよね。全員が全員化け物みたいなのに、自分より周りの者たちのことを化け物と言うんですから」

「はぁ? さとり嬢マジでどこに目付けてんだ。あいつらマジで人間じゃねえって。オレなんかよりよっぽどだ。特に楠と梓の旦那と藤の旦那と菖の姉御は別格でやべえ。変態だ変態。オレなんか可愛いもんかや」

「貴方も大概だと思うけど……、形は違えど極東の侍ってやつね、よく知ってるわよ。極東にいる侍って奴はね、だいたい頭がおかしいのよ」

「偏見が酷えやな……」

 

 鼻を鳴らして笑うレミリアの話の相手を椹はせず、椹は永遠亭を見つめて小さく一度うんと伸びる。楠、梓、漆。この三枚を抜くのは椹をして厳しい。単純な武の殺傷能力ならば楠が平城十傑トップ。梓には一度掴まれでもすれば脱出不可能、なにより椹の攻撃は通用しない。漆に至っては平城十傑一の術師だ。なにが出るのか分かったものではない。くるくると三つ編みを指で回しながら、ポンと椹は手を打つと大きく頷いた。

 

「よし、別の場所にしよう。あいつらがいねえとこにな。白玉楼には桐がいるしな……、命蓮寺には梍がいるしな……、妖怪の山は最近菫の旦那が練り歩いてるし……、こうなったら紅魔館か地霊殿しか」

「次来たら今度こそ私のペット総出で本気でお出迎えしましょう。それでもいいならどうぞ」

「おや、なら私もそろそろ紅魔館の本気を見せようかしら。実は最近従者がひとり帰って来てね、美鈴もやる気だから門前払いくらうかもだけど」

「なんじゃそりゃ、ちょっと面白そうじゃねえか」

 

 不敵に笑うさとりとレミリア。その笑みこそを奪ってみたいと椹はほくそ笑む。ただ、今は相手が違うだろうとレミリアは椹の頭を軽く小突き、頭を永遠亭の方へと向けた。

 

「やると決めたからにはやらないと面白くないわ、腹を括りなさいよ椹。じゃないとつまんないわ」

「オレはお前らの暇潰しに命を賭けなきゃいかんのか?」

「暇潰しではなく審査だと言ってるでしょう。それにあなたもう死んでるでしょうに。いいからもうさっさと行って来なさい」

「げッ⁉︎」

 

 さとりに背中を上手い具合に蹴り抜かれ、椹の足がよたよたと意に反して前へと出る。全身の力を総動員し椹はなんとか足を止めて留まるも、視界は晴れ渡り竹藪は背中。「「あっ」」と重なり合った楠と椹の声が静寂を呼び、歯を食い縛る楠、片眉上げる梓、ウルシと共に首を傾げる漆と、三者三様の顔と椹はしばらく見つめ合い、にへらっと笑うと三つ編みを指でくるくる回した。そんな椹にぴたりと楠は擦り合わせていた歯を止めて、力任せにと立ち上がる。

 

「なにマジで来てんだアンタ! めんどくせえ! 予告状送られたとか言って輝夜の野郎に無理矢理引っ張り出されたんだぞこっちは!」

「うるせえやなッ‼︎ オレだってもうなにがなんだか分かんねえんだよ! だいたいこりゃあレミリア嬢とさとり嬢のせいかや! なあオイ!」

「速攻で仲間を売る盗賊ってどうなんですか?」

「盗賊の心得そのさんはどこ行ったのよ……」

「お前ら仲間じゃねえだろうがッ!」

 

 後ろへ振り向き喚く椹の声を止めるため、重い足取りで姿を表すのは吸血鬼と覚妖怪。影から出ぬようにゆったりとレミリアは腕を組み、さとりはため息を吐きながら椹から何歩か離れて横に並ぶ。全く足並みの揃わぬ珍しい三人組に楠たちは目を瞬き、自棄になった椹は楠たちに振り返ると思い切り指を突きつけた。

 

「クッソがッ! 待たせたなぁ‼︎ オレこそ天下の「紅魔館が主、紅い悪魔(スカーレットデビル)、レミリア=スカーレットとは私のことよ」」

「地霊殿が主、心を盗む妖、古明地さとりと申します」

「オレと台詞が被ってんよ⁉︎ 順番! 順番守れ! オレが一番最初だ!」

「……椹、君はまた影が薄くなったか?」

「おい、あたしもう帰っていいか? この後早苗たちと予定あんだよ」

 

 新しい漫才トリオなどお呼びでないと、早々に興味を失くした漆は帰ろうとするが、置いて行くなと楠に強く肩を掴まれ引き止められる。楠だって見るからに面倒そうな者たちの相手をするのは御免だ。周りの騒がしさを気にせずに、ゆらりと立ち上がる梓の姿に椹は小さく肩を跳ねさせてちょっと待った! と手を前に出す。

 

「ちょい待ち梓の旦那! まだオレはレミリア嬢とさとり嬢に話しときゃならないことがある! 今こそ盗賊の心得そのろくをッ!」

「要りません。私別に盗賊になる気ありませんし」

「それより日傘かなにかないかしら? これじゃあ影から出れないわ。椹意外と気が利かないのね」

「お前らマジでなんで来たんだ⁉︎ オレになにして欲しいんだマジで!」

「おっし、あたしは帰る。楠、梓さん、後は任せた」

「嘘だろ……、俺も帰るぞ、昼の売り時に椹の相手なんてしてられるか! 悪いな梓さん」

「ふむ、僕もこの後勇儀と約束があるでな。悪いがお暇させて頂こう。椹、あまり騒ぎを起こして藤と菖を困らせるなよ」

 

 言い争う椹とレミリアとさとりに呆れ返り楠と梓と漆が各々の用事を優先し永遠亭から離れた一方その頃、こいしとフランドールは紅魔館で茶をしばき倒していた。

 

「フランちゃんこれも美味しいよ!」

「たまにはこういうのもいいわね、咲夜、紅茶のおかわりが欲しいわ」

「はい妹様! 少々お待ちくださいね!」

 

 ショートケーキにモンブラン。甘味に囲まれ紅茶を楽しむ。和やかで朗らかな時間を送る少女たちの傍で、咲夜が久々に柔らかな空気を纏うフランドールの相手ができている喜びに顔を綻ばせていた一方その頃、ようやく椹たちは永遠亭の中に一歩を踏む。

 

「作戦成功だ! オレたちの演技で梓の旦那たちは居なくなったぜ!」

「よくアレを演技などと言えますね……、本当にこんな行き当たりばったりでなぜこれまで捕まらなかったのか不思議でなりません」

「そう? 私はこういうの好きだけど」

「好き勝手言いやがって……」

 

 口を開けば文句しか飛んでこないため、もう椹は相手をすることを止めて先を急いだ。永遠亭、その名の通り時が止まったかのように永遠に佇んでいる屋敷には埃の一つもありはせず、時から浮いた潔癖な壁と床に足を落としたところで跡もつかない。後ろから聞こえてくる二つ分の足音を聞きながら、椹は廊下に目を這わせるも、行けども行けども続くのは廊下。迷いの竹林と同じように迷宮のような永遠亭にで、輝夜たちがどんな生活をしているのか想像もできない。

 

「ったく、永遠亭もそうだがよ、紅魔館も命蓮寺もなんで幻想郷なんて言う箱庭にあってこんな広いんだおい」

「うちは咲夜とパチェがいるおかげよ、永遠亭は八意永琳がいるからでしょうね。一種の防衛装置みたいなものよ。どうするの盗賊?」

「空間魔法的なやつか、オレには関係ねえやな。オレに掴めねえものはねえ」

 

 笑い伸ばされた椹の手が壁へと伸び、壁の手前でナニカに吸い付いたかのように椹の手が止まった。閉じられる手のひらに合わせて空間が歪み曲がってゆき、捻られた椹の手の動きに合わせて空間が捻れる。ギュルリと渦を巻いたかのように捻れる壁はペキペキと軋み、椹が腕を引いたのと同時に栓を抜いたかにように穴が開く。半ば感心しながら半ば引き、レミリアとさとりは目を見開く。

 

「やっぱり貴方たち面白いわよね。よくそんなことできるもんだわ」

「どんな人にも取り柄があると言いますが、取り柄どころか手品ですね。タネも仕掛けもないですが」

「運命を操るだの心を読むだのお前らだって大概かや。幻想郷はびっくり箱よ! 退屈しねえぜ! なあ?」

「…………退屈しないのは同意見だけど貴方死にたいの椹?」

 

 椹の下に飛んできた声。レミリアのものでもさとりのものでもない。二つの声とは毛色の違うもう一つの声は、椹が開けた穴から流れてくる。ゆっくりと穴へと顔を動かす椹の先に待つ湯呑みを持った黒髪の乙女。その隣に座る月の頭脳と平城十傑の参謀。元月の兎三匹が銃を構えている姿を見て、椹は乾いた笑みを浮かべた。

 

「……あれぇ?」

 

 そんな椹から目を外し、輝夜は余裕を持って湯呑みを置く。その鈍い音が椹の口端を痙攣らせる。

 

「よくやったわ永琳、櫟、貴女たちの言った通りになったわね」

「梓さんたちを門番に使い容易に通り抜けられれば油断もするというものです。さあさあ鈴仙さんお仕事ですよー」

「はいはい全く、櫟もなんだかんだ人使い荒いわよね」

「おいレミリア嬢、さとり嬢、ここは……」

 

 逃げるぞ。と口に出そうと振り返った椹の背後に人影はなく、綺麗さっぱり吸血鬼と覚妖怪の姿は消え去っていた。ギチギチと音が聞こえるんじゃないかと言うほどにぎこちなく戻ってくる椹の顔に輝夜は最高の微笑みを与え、右手を突き出すと親指を立てた。椹が笑みを浮かべるのを確認し、輝夜はぐるりと百八十度手を回す。下を向いた輝夜の親指に、椹の口角も急降下。慈悲はない。

 

「私の手を噛もうとはいい度胸ね椹。言い残すことはあるかしら?」

「ぜっっっってえッ! 紅魔館と地霊殿には礼をしてやるからな! 覚えてろ!」

「私に言うんじゃないわよ……」

 

 ため息を吐きながら輝夜が指を鳴らすのを合図に、幾発の銃声が永遠亭にの中を跳ね回る。息も絶え絶えに生還した椹が紅魔館と地霊殿にお礼参りに行くのはまた別のお話。レミリアからは「見てて面白かったから」と合格を、さとりからは「椹だから」と理不尽な不合格を、結果は一対一で結局は保留。ただ椹の中での二人の評価が下がって終わった。

 

「もうアイツらとはぜってえ組まねえやなッ!!!!」

 

 

 

 


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