連れ込み宿の一室にて   作:小栗チカ

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雨の日の二人 前編

「髪切りてえ」

 

その声に、私は体を拭いていた手を止め、体ごと背後を振り向きました。

 

「おはようございます。少しは眠れましたか?」

「お陰さまで。あー、邪魔くせえな」

 

今日の天気は曇り時々雨。

低気圧の影響か本調子ではない彼は、体をノロノロと起こし、忌々しげに顔にかかる髪をかきあげました。

寝起きであることも手伝って、彼の現在の機嫌は低空飛行です。

隣に座る彼に、お湯で濡らした新しいタオルを二つ手渡します。

 

「どうぞ」

「あり」

 

日が照りつけたような砂色の彼の髪は、常よりも大分伸びていて、頬やら襟足にかかっていました。

彼の容姿は、顔にも体にも無惨な火傷痕があるとはいえ、比較的整っているほうです。

ですから、右半分だけに限って言えば、これはこれで良いというヒトもいそうですが、見るだけならともかく、実生活ではかなり邪魔なように思えました。

 

「切らないんですか」

「最下層に目ぼしい理髪師がいない」

「最下層で切ってるんですか」

「ああ。詰所に近いし、この顔見てドン引くお上品でメンドイ連中もいないし、ちゃんと選別すれば悪くない場所だよ。あと安いし」

 

髪をかきあげて濡れタオルを巻き付け、もう一つのタオルで体を拭き始めます。

仕事の時の、お金と資源が大好きな彼を思い起こさせる発言です。

 

「衛生のこともあるから、中層か下層で切っているのかと思っていました」

「詰所が最下層にある時点で衛生なんて気にしてられんよ。それに、最下層で育った身としては思うところもあるしな」

 

私に目もくれず、彼は表情なく体を拭き続けながら言いました。

モザイク街の下層、最下層での定番職の一つ、理髪師。

道具と技術とセンスがあれば一定の収入を得ることができ、衛生面はもちろん、見た目の部分でも大切な、決して廃れることのないこの仕事は、比較的全うな仕事として認識されています。

上層に住むヒトや、PTに所属するヒトは身体形成で十分でしょうが、そんな大層な技術が普及しきれていない場所では、やはり理髪師の存在は必要不可欠なのです。

ただ、その実態は色々あるわけですが。

 

「いつもの理髪師さんはどうしたんですか」

「腕の良いガキの理髪師がいたんだけど、先月の大規模侵攻の時に妹を庇って死んだって」

 

思わず体を拭く手が止まりそうになりました。

 

「ウーゴを彷彿とさせるようなガキでな、最近評判も上がってきて、さあこれからって時だったんだけどな」

 

PTはモザイク街を守りません。

PTにとって、この街は存在しない街であり、そこに住むヒトは存在しないヒトたちなのです。

彼らが、モザイク街のヒトを非実在市民と呼び習わすのも、そんな意識の表れ。

ですから、天罰や侵攻の際はこの街が激戦の地となることも多く、その有り様は、一見明るく活気溢れるモザイク街の極めてシビアで悲惨な一面と言えましょう。

私は意識して手を動かしながら、口を開きます。

 

「その子の妹さんはどうなったんですか? まだ小さいんですよね」

「ガキの話だとまだ十にもなってないって聞いた。人伝だけど、運良く娼館の住み込みの仕事にありつけたらしい」

「そうですか」

 

路頭に迷い、飢えと渇きと寒さとの、骨の髄すら削るような戦いにならなかっただけマシと言うべきでしょう。

年端のいかない子供が一人で外で暮らすのは、どこでもそうでしょうけど、最下層はあまりに過酷な場所であることは、過去の経験からわかっていました。

ですから、ホッとする反面、お兄さんというかけがえのない存在を亡くした妹さんの未来が、やっぱり厳しいものになることも想像には固くなくて。

そこでちょっと憂鬱になったのは、今の私の心に、ほんの少し余裕があるからです。

ええ、恵まれているということです。

 

「元気に、上手く渡っていけると良いですね」

「そうだな」

 

話は終わり、沈黙が部屋に訪れました。

気まずい沈黙ではありませんでしたが、直前の話題が話題だっただけに、ちょっと暗く冷たいものです。

その沈黙を破るべく、彼の方を向きました。

 

「そういえば、懐かしい名前が出てきましたね」

「俺も久しぶりに口にしたよ」

 

ウーゴとは、私と同じストリートギャングの一員だった少年です。

年は私より上で、目の前の彼より年下だったと思います。

元々は理髪師として生計をたてていましたが、競争が激しいことと、売り上げのほとんどを場所代として、フラタニティをはじめとした組織に持っていかれてしまうため、かなりしんどいことになっていたようです。

いよいよ切羽詰まってきた時、たまたま散髪をしたギャングのメンバーに腕を買われ、ギャング入りしたのだと聞きました。

頭を拭いたタオルをたらいに放り、私は着替えながら会話を続けます。

 

「元々は理髪師のお家でしたっけ」

「下層のな。それが天罰で稼ぎ頭を失って無収入からの一家離散、最下層コースだ。下層住人あるあるだよ。で、奴に残ったのは、道具と腕と技術だけでしたと。実力があったのは救いだが」

「でも、苦労してましたよね」

「確かな技術を持つ本物以上に、紛い物も多い世界だから」

 

彼は小さくため息をつきます。

 

「大人でも一人はキツイのに、子供一人じゃどうしても限界はある。生活基盤が安定するまでは、何かしらの後ろ楯は絶対必要だ。奴も拾われて大分楽になったって言ってたし」

「そうでしたね」

 

言いながら、彼はタオルを背にまわして背中を拭こうとします。

その動きが億劫そうで、着替え終わった私は声をかけました。

 

「背中拭きましょうか」

「頼む」

 

タオルを渡され、背を向けた彼の広くてしっかりとした背中を拭き始めました。

滑らかな濃い砂嵐色の肌を台無しにする左半身の火傷痕。

その火傷痕に、ウーゴのことで開きかかっていた過去の記憶の扉が開きました。

最下層は、仲間や隣近所、その地区のヒトたちの互助関係があって生きることができる場所です。

モノや情報のやり取り、衣食住の確保、日銭を稼ぐための技術の習得など、コミュニティの一員になるメリットはとても大きなものです。

過酷な生存競争を生き抜くための利害の一致した交流を、ギリニンジョーとかいう言葉でくくるヒトもいて、事実、そういう面はあります。

しかし、自分の所属するコミュニティから外れているヒトは別です。

そういうヒトは、排斥するか、獲物として見られることになります。

それは、老若男女関係ありません。

全ての人に余裕がなく、コミュニティの外の弱いモノを食らってその日を生きるのが最下層の習わしなのです。

 

「おい」

 

彼の声に、我に返ります。

 

「同じとこばっか拭いてんなよ」

「すみません」

 

集中集中。

三角筋、上腕三頭筋、僧帽筋、棘下筋。

目の前の体に集中し、過去の記憶の扉を意識の向こうへと追いやります。

広背筋、胸腰筋膜、外腹斜筋。

……それにしても。

私と同じ人類という規格のはずなのに、こんなに作りが違ってくるんですね。

散々見て触れている背中ですが、骨格や筋肉の付き方、姿勢の良さが本当に理想的で、火傷痕を含めて、彼を構成するパーツの中で一番好きな部分です。

このことを、本人に言うつもりは全くありません。

でも、私は優しくてお人好しでチョロいので、彼が土下座をして『教えて下さいお願いします』とお願いしたら教えてあげる予定です。

……ええ、彼はそんなこと絶対しませんけどね。

 

「はい。終わりましたよ」

 

腰を拭き終えて声をかけると、彼はチラリとこちらを見ました。

 

「前は」

「さっきご自分で拭いてましたよね」

「ここは」

 

そう言って股の間に目線を動かす彼に、そこに固く丸めたタオルを全力で投げつけてやろうかと思いましたが、頑張って耐えました。

 

「自分で拭いてください」

「口と手でやってくれると尚良し」

「体が暖まっているうちに、さっさと着替えたらどうですか。風邪引きますよ」

「ケチくさ」

 

ふん、何とでも言うがいいですよ。

サービスタイムは終了です。

体を拭き終えた彼が着替えている間に、私は片付けをし、後は帰るだけとなりました。

 

「髪、どうしようかね」

 

簡素な椅子に腰を掛け、質素なテーブルに肘をつき、空いた手で顔にかかる前髪を触りながら彼は言います。

私はベッドに腰を下ろしてお水を飲みつつ、考えてみました。

でも、信頼できる理髪師を探す以外の方法は、二つしか思い浮かばなくて。

一つは、自分でやること。

そして、もう一つの手っ取り早くて無難な方法を提案してみることにしました。

 

「上層の身体形成を使うとか」

「ねえな」

 

提案は、たった一言で即却下されました。

 

「知ってる限りの技師、軒並みPTの息がかかっているか、頭と体だけはご立派にお育ちあそばされた、性癖の歪みまくりのクソガキばかりだ。そんな連中に落とす金、一銭一厘たりともねえよ」

「……そうですか」

 

淡々と酷いことを言う彼に、私は呆れた気持ちを覚られないよう努めました。

事実そのとおりだとしても、彼らも彼にだけは言われたくないでしょう。

類は友を呼んで同族嫌悪。

 

「見つかるまでは、バリカンでセルフでいくか」

「バリカンって──」

 

思わず声を上げます。

 

「丸刈りにでもするつもりですか」

「別に問題ないだろ。どうせ一日の大半はそれ被ってんだから」

 

あっさり言う彼の視線の先には、フラタニティのヒトたちが被る例の黒いヘルメットが。

いえ、確かにそうですけど。

 

「それに俺、丸刈り似合うし」

 

何を根拠に、と言いかけて不意に思い出しました。

 

「そう言えば、昔は色々とチャレンジングな髪型してましたよね」

「ウーゴの練習台になっていたからな」

 

彼は小さくため息をつきました。

彼がギャングに入ったのは、ウーゴや私より後のこと。

一番下っ端の後輩が、先輩の稼ぎの練習台になるのは避けようのない運命でした。

 

「定番もそうだけど、アイツが特に好きだったB系は、パーマと染色以外は一通りやったような気がする」

「……髪型が変わる度に、周囲のヒトに驚かれてましたよね」

「顔の傷もあるのに、髪型も個性的じゃそりゃ驚くでしょ」

「でも、ほとんど好評だったような」

「キズモノとは言え元はいいから」

 

ソーデスカー。

それはともかく、話しながらほっこりした気持ちになりました。

熾烈な生存競争の狭間にある、いずれ忘れるであろう、懐かしくて小さくて温かい記憶の欠片です。

しみじみとそんな気持ちを味わっていて、ふと、彼の視線がこちらに向いていました。

 

「……何ですか?」

「そういえばお前、奴と一緒に俺の髪を弄んでいたなって」

「はい?」

 

何を言い出しているのでしょう、このヒト。

心当たりが全く……、いえ、ありました。

でも、彼の言うことは言いがかりです。

 

「もしかして、私がウーゴのお手伝いをしていた時のこと言ってます?」

「ふーん、お前はそういう認識だったわけね」

 

どこかトゲのある言い方をする彼に、先ほどのほっこり気分はたちまち消え失せました。

天と地と、あるかどうかもわからないウィルオーに誓って言いましょう。

本当にお手伝いだったんです。

ウーゴのお手伝いをしたのは、私の稼ぎ口を増やし、ウーゴも私に技術を教えることで自身のレベルアップをはかった、最下層では良くあることなのです。

そう主張したのですが、

 

「アシメのツーブロックだの、ブレイズだのポンパドールだの、モヒカンだの、バリアートだの、笑いながら弄んでくれたよな」

 

主張はしっかり無視されました。

 

「一番下っ端のコーハイの俺は、アナタ方センパイに逆らうことができなくて、毎晩毛布に涙をこぼしながら恥辱に堪え忍ぶ日々を」

「自己都合で過去をカイザンするのはやめていただけませんか」

 

何が涙で恥辱で堪え忍ぶですか。

毎晩、私を枕か毛布がわりにしてグースカ寝てたくせに。

彼の勝手すぎる言い分に反論しようとして、はたと気づきました。

私を見ている彼の表情と視線から、感情をうかがい知ることはできません。

でも、昔馴染みとして共に過ごした日々と、今の、この決して褒められたものではない関係を続ける日々が、私に気付きをもたらしたのです。

──このヒト、私の反応を見て聞いて楽しんでやがってます。

そして、遠回しに何かさせようとするつもりなのです。

何て性格の悪いヒトなのでしょう。

落ち着け私。

ここで感情的になるのも、冷静に反論するのも逆効果。

頭の良さも、知っている言葉の数も、彼には決して敵いません。

なす術のない私にできることは、一点突破のみです。

 

「何をおっしゃりたいんです?」

「何だよ。突然どうした」

「しらばっくれなくて結構ですよ。私に何かして欲しいことあるんですよね」

 

会話が途切れ、私たちは互いに見つめます。

そして、彼は小さくため息をつくと、ついていた肘をはずし、手をヒラリと振りました。

 

「つまらねえ奴」

「駆け引きとか言葉遊びとか、そういう回りくどいのは苦手です」

「余裕がないねえ。もう少し肩の力抜いたら?」

「そんな間柄でしたっけ?」

 

意識して冷たく言い放ちます。

我ながら可愛い気のない態度です。

事が済んだ後はガードが下がりやすく、今日は過去のお話をしたこともあり、さらにガードが下がっていました。

我ながら本当に絆されていて、嫌になります。

でも、本来は会話を楽しむような間柄ではないことも確かで、固い態度でとることで、自分の中で仕切り直しを試みたのです。

胸が痛くなったような気がしましたが、気のせいでしょう。

 

「違いない」

 

感情なくあっさり頷いた彼は、脚を組んでこちらを改めて見ました。

 

「お前、ウーゴに理髪習ってただろ。確か三年ほどだったか。その間にある程度の技術は身に付けたはずだから、カットを頼もうと思っただけだ」

「え」

 

何、この無茶振り。

戸惑う私に構うことなく、彼は言葉を続けます。

 

「セルフでやってもいいけど、頭の傷があるから、金を払って他人に任せてきたわけで。さすがに難しいカットは無理だろうから、丸刈りでいい」

「ちょっと待ってください」

 

確かに、週二日ほどのウーゴの授業で、アシスタント程度の技術は身に付けたと思います。

でも、それはあくまで昔の話。

せっかく身に付けた技術ですが、PTに入ってからは一切使っていないのです。

そんな腕前でできることなんて、たかが知れています。

 

「もう十年近くやっていないんですよ。覚えてはいても腕は確実に落ちているし、第一、道具も持っていませんし」

「道具はこちらで用意する」

「逆にお金かかりますよね」

「探す手間と未来への投資と思えば安いもんだ」

 

お金に余裕のあるヒトらしいご意見です。

 

「腕については仕方ない。セルガーデンでサイトや動画を漁れば、丸刈りのやり方くらい出てくるだろ。それで復習しといてくれ」

 

そんな情報、あるのでしょうか。

ていうか、何かやること決定事項になっていますよ。

自信がないからとにかく断ろうとして、脳裏に閃くものがありました。

 

むしろ好都合では?

そうです。

私は腕に自信がない、つまり、キレイな丸刈りにできずに、トラ刈りになるのもやむを得ないのです。

ええ、仕方がありません。

十年のブランクがありますし、復習するにも、見るだけでは全盛期の勘を取り戻せるはずもありません。

ええ、そうですとも。

私は借金の返済と後輩の育成に忙しく、ボランティアがなければ、工場長をして小銭を稼ぐか、武器と自分の体の調整に時間をあてるのが常。

復習をする時間なんてそもそもありません。

それに、トラ刈りにしたところで、彼は一日の大半をヘルメットを被って過ごします。

トラ刈りになって恥ずかしい思いをするのは、プライベートの時だけなのです。

 

「わかりました」

 

私は膝に手を乗せ、彼をちゃんと見て真面目に頷きます。

 

「自信はないですけど、やらせていただきます」

「そうか。それじゃ非番の日を狙ってやることにしよう。次はいつだったかねと」

 

上着から端末を取り出して操作する彼の姿に、思わず口の端がつり上がりそうになるのを、グッとこらえました。

そう、これは復讐です。

普段、彼に散々いじられ、バカにされ、雑に扱われる屈辱の日々。

整っているだけしか取り柄のないキズモノの顔と体と、守銭奴で冷淡で加虐趣味な中身をどれだけ憎らしく思っていることか。

その屈辱を晴らす機会が訪れたのです!

躊躇わずに乗るしかありませんよ、この機会!

ンフフフッ、フハハハハー!

ちょっぴり困ればいいのです!

ええ、ちょっぴりでいいです。

あんまり困ると、その余波は確実に私に来ますからね。

何事も程々が一番なのです。

 

「来週のこの時間だな。今日と同じ時間にここで待ち合わせってことで」

「了解です」

 

彼の提案に私は頷き、にやつきそうになる口元をカップで隠します。

何て哀れなヒトなのでしょう。

私の企みに気づかず呑気なものです。

口元に持ってきたカップのお水を飲み干した時、彼の端末のアラームが鳴りました。

本日のお勤めはここまでです。

 

「じゃ、出るか」

 

彼はヘルメットを持って立ち上がり、私もブーツを履いて立ち上がります。

彼はヘルメットを被ろうとして、不意にこちらを向きました。

 

「ミーティ」

「何ですか」

 

そして何故か、ヘルメットをテーブルに置いて私との距離をつめます。

反射的に半歩下がる私に構わず、彼は私の肩に手を回して引き寄せ、顔をのぞきこみました。

 

「まさかとは思うが、俺の信用を裏切ろうとは思ってないよな」

「え」

 

何を言いたいのかわからず、でも彼の発する雰囲気が怖いもので、思わず身を縮めます。

 

「まさかとは思うが、トラ刈りにして恥をかかせちゃえー、とか思っていないよな」

 

……何なんですか、このヒト。

ごく稀に耳にする「えすぱー」とかいうものですか。

私は企みと動揺を覚られまいと、必死で言葉を繰り出します。

 

「何でそんなこと言うんですか。頑張ってやらせていただきますよ」

「ならいいが」

 

すると、彼は左手の人差し指を、私の額にトンとあてると、するすると真下へと動かしました。

 

「もし失敗してみろ。ステキなイベントが待っているぞ」

「……イベントって」

 

鼻筋、口、顎、喉、胸元、鳩尾、おへそ。

そして、私の恥骨付近でその指は止まりました。

 

「お前のここの毛を毛抜きで毟る」

 

その指を軽くノックし、そしてユルユルと動かしながら、低く囁きます。

 

「ベッドに縛り上げてのステキな脱毛ショーだ。多少毛がある方が好みだが、パイパンもまあ悪くない。気合い入れろよ、ミーティ」

 

この期に及んでも彼の表情は全く変化がありません。

でも、その薄い黄色の目にある獰猛な光と、彼から発するどす黒い何かに、私の中のあらゆるものが萎縮し、大半は消え失せた気がしました。

目を逸らすことができず、それでもどうにか口を開き、舌を動かします。

 

「……サイトの」

「ん?」

「サイトの検索のコツを教えてもらえませんか。あれでいつも時間がかかっていまして。ちゃんと見て勉強したいんです」

「ああ、わかったよ」

 

スルリと私から離れると、彼はヘルメットを手に取り、髪をかきあげて素早く被りました。

そして手袋をして手を一つ打つと、バッと両腕を開きます。

 

「さあさあ、延長料金取られる前にさっさと出るっすよー。検索のコツは、道すがら教えてやるっすからねー」

 

口調も雰囲気もガラリと変えて彼は言い、クルリとキレイにターンをして、さっさと部屋を出ていきました。

しかし私は動けずに、そのまま立ち尽くします。

……おかしいな。

うつむき思います。

何で私の人生って、こう、上手くいかないんでしょうね。

 

<雨の日の二人 後編へ続く>




最後までご覧頂きまして、ありがとうございます。
いつものことではありますが、誤字、脱字、言い回し等に変更があった場合は、都度手を入れさせていただきます。

フリーダムウォーズという世界観を借りつつ、他愛のない男女の話で文章を書く練習をしようというのが目的のこのシリーズ、まさかの前後編となりました。
短編集のつもりなのに、中編集になりつつあるのは何故なのか。
疑問に思っていても文字数は削れず、後編は来週に投稿予定です。

来週、またお会いできることを願いつつ、それではまた。
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