外角低め 115km/hのストレート【完結】   作:GT(EW版)

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スタートライン

 

 

 

 その日、長年に渡って続いてきた高校野球界の歴史に、前代未聞の変革が訪れた。

 

 この世界における野球人気の絶大さを思えば、その一報に関心を寄せる者は少なくない。

 連盟の元から正式に発表された「女子選手の公式戦出場容認」という一報は、やはり各メディアでも大々的に取り上げられ、人々の感情を驚きと歓喜へと賑わせた。

 

 そんな興奮の冷めやらぬ夜。自室のベッドに寝ころびながら、星菜はこの日が来るまで誰よりも努力をしていた先輩から送られてきたメールを見て笑みを浮かべた。

 

《早川あおい先輩:負けないよ》

 

 携帯のメールに載せられた簡潔な一文は、それだけで彼女の思いの丈を悟るには十分なものだった。

 高校球児としてのスタートラインに立った自分達は、これで共に公式戦の舞台で戦う資格を得たというわけだ。即ち友人からライバルという立場に変わったわけでもあり、お互いに勝ち続ければ、いつか共にぶつかり合う日が実現することもあるだろう。

 もしもその時が来たとすれば――星菜のやることは一つだった。

 

「全力で叩きのめしますので、覚悟しててください――と……」

 

 お手柔らかに、などという生易しい言葉はもはや自分達の間に必要無い。

 他チームの対等なライバル関係になったこれからの彼女とは、もう以前までの仲間意識を抱くことはないだろう。

 それが寂しい、とは思わない。何故ならば、泉星菜もまた彼女と同じ野球人だからだ。

 ここまで幾度となく助けてもらった恩は、試合の舞台で返す。星菜はそう返信すると、再び枕に顔を埋めた。

 自分で思っている以上に疲れていたのか、程なくしてその意識は睡魔の闇に落ちていった。

 

 

 

 歯車は噛み合い、野球少女達の野球人生は軌道に乗り始めた。

 早川あおいの他にも、高校野球界に起こったこの変革を喜んでいる者は多いことだろう。

 そしてそれは、星菜にとって周りの人々も同じだった。

 

「おめでとう、星菜ちゃん!」

「おめでとう! 今度の大会から出るんでしょ? 応援するからね!」

「あ……ありがとう、ございます……」

 

 学校へ行けば校内では既に高校野球の規定改正の話題で持ち切りとなっており、奥居亜美を始めとする友人達が揃って星菜を祝福してくれた。

 昔ほど人付き合いは得意ではないと思っている星菜であったが、今の自分でも見ている人は見ていたということであろう。そんなクラスメイト達の言葉は素直に嬉しく、自然と笑みが浮かんでいくものだった。

 星菜自身、心の内から込み上がってくるものはあった。野球を諦めなくて良かったと、改めてそう思ったものである。

 ただ、意外にもその感慨はすぐに切り替えることが出来た。

 あくまでこれはスタートラインに立てたと言うことであり、公式戦に出ることがゴールではないからだ。

 脳裏に浮かぶのは、これまで自分の為に良くしてくれた仲間達の姿だ。彼らに受けた多大な恩を返す為にも――今の星菜の目標は既に、スタートラインの先にあった。

 

 

 ――ただ、気になることもある。

 

 この変革の中で、まだ選択を迷っているであろう彼女は今、何を選ぶのだろうかと。

 

 

「どうもしないさ」

 

 放課後、授業が終わり次第女子用の部室に向かう道中で出くわした小山雅と、星菜は一つ言葉を交わした。

 

 女子選手の公式戦出場が認められた今、もはや彼女の心を縛るものは無くなった筈だ。

 

 ならばこれで彼女も、心置きなく竹の子高校野球部に入れるのではないか。彼女の心情がそんな簡単なものではないことは百も承知だが、星菜には彼女の今後が気になったのだ。

 

「どうもしないって……本当に?」

「前にも言ったけど、私は前の学校の子達を裏切ることは出来ないよ。だから、どうもしない……野球は続けるけど、君達の野球部に入る気は無いんだ」

「ときめきとうちとは地区が違う。そうそう、対決することはないと思うけど?」

「でも君達は甲子園を目指しているんでしょ? ときめきも同じだよ」

 

 ふっと微笑を浮かべ、雅はそう答える。その表情が無理をして作ったものなのかどうかを窺い知ることは出来なかったが、言葉に関しては全て彼女が抱いている正直な気持ちだと思えた。

 

 彼女は共に野球をしてきたときめき青春高校の元チームメイト達に対して、今も強い絆を感じているのだ。

 

 竹の子高校もときめき青春高校も、共に本気で甲子園を目指すのならばライバル校であり敵同士だ。

 ときめき青春高校の人達を、もう二度と敵に回したくないという言葉は紛れも無く彼女の本心だった。

 ただ、それとは別の部分で彼女には今回の一報に思うことがあったようだ。

 

「間が悪いよね、今になって女子選手が認められるなんて……いや、焦って馬鹿をやった私にバチが当たったのかな? ……でも、おめでとう星ちゃん。今度の大会には、私も応援に行くよ」

「雅ちゃんは……本当に、それでいいの?」

 

 恩人達を裏切りたくないという理屈は理解出来るし、筋も通っているとは思う。

 だが、感情の部分ではまた別の話だというのは星菜自身もよくわかっていることだった。

 だからこそ、この時に浮かべた雅の笑顔は、憑き物が落ちたように晴れやかではあったがどこか儚く映った。

 

「……良いも悪いもないさ」

 

 言葉を濁すように、彼女は問いに答える。

 

「……わかった。でも、後悔しそうになったらいつでも相談してね。雅ちゃんは私より何しでかすかわからないし」

「生意気な後輩だね。……まあ、その時はよろしく頼むよ」

 

 今の彼女が非常に複雑な事情を抱えているということはよくわかっている。

 だからこそ星菜は自分から不用意に干渉し過ぎることは避けながらも、求められればいつでも助けになる態勢だった。

 この学校に転入してきたことは心底驚いたし動揺もしたが、小山雅は今でも変わらずに、星菜にとって大切な友達なのだから。

 

「頑張って、星ちゃん。君なら、全国でもやっていけるよ」 

 

 そんな彼女は、同じく友としての言葉で星菜を激励した。

 

 

 

 

 

「あっ、来た来た!」

 

 その日の練習が始まる前、練習着に着替えてグラウンドに出てきた星菜を見つけるなり、主将の波輪風郎が駆け足で出迎えてきた。

 

「星菜ちゃん、これやるよ」

「え?」

 

 彼がその手に持っていたのは、一枚の布切れである。

 星菜の元へ駆け寄った彼が、それをまるで旅行先の土産を渡すような態度で手渡してきたのである。

 

「俺の魂だ。受け取ってくれ」

「魂って、これは……!」

 

 手渡された布切れを両手で広げ、その正体を確認した瞬間、星菜は思わず驚きに目を見開いた。

 そんな星菜が見せた反応に、波輪がいたずらが成功した小僧のようなしたり顔を浮かべた。

 

「先輩の背番号じゃないですか!」

「おう、当たり」

 

 その布切れ――ユニフォームの背中に縫い付ける正方形の布地の上には、数字の「1」が大きく刻まれている。それは見紛うことなき、この竹の子高校野球部の選手達が身につける背番号であった。

 

「俺がつけていたエースナンバーだ。今度の大会じゃ、まだ俺は投げれそうにないからな。だったら、俺よりも君がつけた方が相応しいって思ったんだ」

「でも、それは……」

「エースナンバーってのは、チームで一番良いピッチャーがつけるもんだろ? ちゃんと周りと相談したし、監督も賛成してる」

 

 何の気なしに手渡されたたった一枚の布切れが、その価値を知った瞬間から急激に重く感じる。

 背番号1番――それは高校野球においてはチームのエース投手がつける数字であり、数多の高校に所属する多くの投手が自チームのその番号を狙い、日々厳しい練習に励んでいるのだ。

 

 だからこそ、その番号は重く尊い。

 

 そしてこの波輪風郎という男は、本来ならば実力でそれを掴み取った正真正銘のエース投手なのだ。

 その彼が、たじろぐ星菜の顔を見据えて堂々と言い放った。

 まるでこの竹の子高校というチームの総意を、代表して語るように。

 

「今のうちのエースは怪我人の俺じゃない。君がエースなんだ」

「……!」

 

 その言葉に込められたのは、主戦力としてこちらに自覚を促す意図か。

 はっきりとそう言い切った彼の方とて、本来エースであった筈の者としてプライドはあった筈だろう。自身の魂とまで言ったエースナンバーを手放したい筈もなかっただろうに、彼は律儀にも直接このような形で自らの手で「エース」の座を譲り渡したのである。

 星菜には並々ならぬ思いで彼に託されたそれを無下に贈り返すことなど出来る筈も無く、大切なものを扱う気持ちで「1番」を胸元に抱きかかえた。

 尚も神妙な表情を浮かべる星菜に対して波輪は苦笑を浮かべた後、おどけたように言う。

 

「まあ、来年には取り返させてもらうけどな! それまで、そいつは君に預けておくよ」

 

 エースという立場に誰よりも妥協しないからこそ、彼は右肩を故障している今の自分が1番を着けることが許せなかったのだろう。

 何ともストイックで……どこか子供らしい先輩の在り方に、星菜の口からも思わず笑みが零れた。

 

「ふふ……負けませんよ」

 

 託された以上、この番号に恥じない投球をしよう――と、星菜にはまた一つ背負うものが出来たのである。

 それは自分が本格的にこのチームの一員として戦えるということへの、格別な喜びだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ――週末。

 

 失ったものが少しずつ取り戻され、そして新たなものを獲得していく。

 公の場において長らく否定され続けてきた彼女の野球人生はついに肯定され、表立って仲間と共に戦うことが出来るようになった。

 彼女と公式戦の舞台で一緒に野球をするという当初の夢が現実に近づきつつある現状に対しては、鈴姫健太郎もまた大いに喜んでいた。

 

 先日には大会の抽選も終わっており、既に一回戦の相手が決まった今、後は来る一回戦に向けてやるだけだ。その調整は、かつてないほどまでに順調に仕上がっていた。

 

「うわ……」

「すっげぇなアイツ……」

 

 フリー打撃。

 投手丸林隆の非凡な投球に対してそのバットから快音を連発させていく鈴姫の姿は、この夏における彼の成長をはっきりと知らしめていた。

 打球音の強烈さも打球の伸びも、打球の鋭さも入学当時のものとは比べ物にならない。努力は嘘を吐かないと言うのは鈴姫の持論だが、これまでに積み重ねてきた努力は間違いなく彼の血肉として身についていた。

 

「どうした? 本気で投げていいんだぞ?」

「も、もうやってるよ!」

「そうか……努力が嘘を吐かないのと同じで、君のブランクも嘘を吐かなかったみたいだな」

「む……」

 

 絶好調、という言葉が今の鈴姫の状態を一言で言い表しているだろう。

 体付きも入部当時よりも一回りがっちりとしており、それに比例するように打球の飛距離が伸びている。

 そのパワーはまだ波輪ほどではないにしろ、チームの四番として一発を狙うべき時には十分狙うことが出来るものへと成長していた。

 そんな成長著しい後輩の恐るべき実力を目の当たりにしながら、次の打席の順番を待つ主将の波輪が苦笑した。

 

「ブランクっつっても、丸林のボールも結構来てるように見えるけどな」

「130キロ中盤ぐらいは出てるッスよ。丸林君も半端じゃない一年生ッスけど、鈴姫君の成長はそれ以上ッス!」

「ああ、何と言うか、モノが違うって感じだ」

「波輪君も、うかうかしてらんないッスよ」

「……ああ、本当にな。すげぇ後輩達だよ」

 

 丸林のあらゆる球種を捌いて広角に痛烈な打球を弾き返していく彼の姿には、頼もしさと末恐ろしさを感じる。

 丸林隆という優秀な人材が加わった上に新エースである泉星菜が公式戦でも投げれるようになったこともあり、この竹の子高校が攻守において格段にレベルアップしているのは明らかだ。

 これで小山雅も参戦してくれたならば言うこと無しだったのだが、今の時点でも十分に戦っていくことは出来るだろうと考えていた。

 

 元からそのつもりはないが、ここまで来たら「言い訳出来ない戦力」である。このチームを引っ張っていくことに対して、波輪は来る将来の試合が楽しみになっていた。

 

「よし、次。波輪」

「ういっす!」

 

 監督の茂木に告げられ、波輪が鈴姫と交代して打席に入る。

 

 そうして久し振りに生きた球を打った練習の結果は波輪としては可もなく不可もなくと言ったところであったが、丸林にとっては高校野球のレベルを大いに痛感する形になったことだろう。

 いい意味で向上心に火がついてくれたのなら幸いだが、早々に自信を失ってしまうのもまた問題である。元来気の弱い彼には後でメンタル的なフォローが必要かもしれないと思った波輪だが、そこのところは何の気なしに副主将の矢部明雄が上手いこと立ち回ってくれた。彼自身は特に意図していたわけではなさそうだが、こういった役割においては非常に頼りになるのが矢部という男である。

 何だかんだでこのチームはバランスが取れているなと、波輪はつくづくそう思った。

 

 

 練習後、一同は監督の茂木に集合を掛けられ、彼の口から明日――土曜日の予定を聞くことになった。

 

「明日は俺も色々と忙しくてな……練習は休みだ。大会も近いし、ほどほどにリフレッシュしておけよ」

 

 来週には、いよいよ都道府県大会が始まる。

 泉星菜が初めてメンバーに登録された公式戦である。

 各学校も今は丁度調整の時期であり、選手達にとっては一日も無駄に出来ない重要な時期だ。

 本番に向けて鍛えていくことももちろん重要だが、本番前に潰れてしまっては本末転倒である。そんな中で明日は重要な会議があると語った茂木は、ここで一日の休暇を入れることを決めたらしい。

 急に降ってきたような休日に、一同の反応は喜んだり戸惑ったりとそれぞれである。

 

 解散後には各部員達も、各々に明日の予定を話し合ったりしていた。

 

 そしてそれは、泉星菜も同じだった。

 

「健太郎」

「ん?」

 

 部室までの道中で彼女に呼び止められた鈴姫が、即座に反応して振り向く。

 心なしかこちらを気遣うような表情で、彼女が彼に問い掛けた。

 

「明日、健太郎は何か予定ある?」

「……いや、特に無いけど」

「良かった……なら、ちょっと頼みがあるんだ」

 

 鈴姫は野球の気分転換に野球をするほどの野球小僧であるが、裏を返せば野球以外の趣味に乏しい男とも言える。そんな彼には折角の休みだと言う明日の予定も、これと言って特別なものは無かった。

 星菜がそんな彼の返答に安心したような表情を浮かべると、彼に一つ頼みごとをした。

 

「明日、一緒に出掛けてほしいんだけど」

「わかった」

 

 答えは即答だった。

 この時点では出掛ける先の場所がどこなのかもわからないのだが、鈴姫からしてみれば愛する友と過ごす時間が何よりの気分転換である。

 その意味では共に練習している部活の時間ですら彼はリフレッシュしているとも言えるが、休日も彼女と共に過ごせるのなら答えは一つだった。

 

「それで、場所はどこに行けばいいんだ?」

「じゃあ、朝九時頃にお前か私の家の前に集合で」

 

 あまりの即答ぶりに口元が軽くひくついている星菜だが、望んだ通りの答えが返ってきたことには安堵の表情を浮かべていた。

 その間二人の後ろからは「へーデートかよ」と茶化す波輪の声や、嫉妬に燃える矢部達の声が突き刺さって来たが、鈴姫には寧ろ誇らしい気分だった。

 彼女がどういう意図なのかはわからないが、こうして彼女の方から誘ってきたことは記憶上珍しいことである。そんな彼女の頼みならば、尚更受けない理由が無かった。

 

「俺が迎えに行くよ」

「そう……ありがと」

 

 ――しかしその時、彼女が一瞬だけ微かに浮かべた神妙な表情に、鈴姫は気付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 そして、その翌日である。

 

 出掛け先では公共機関を使うからと徒歩で集合場所である星菜の自宅前へと向かった鈴姫だが、そこには予定時刻よりも早く彼女の姿があった。

 肩先まで下ろされた癖のない艶やかな黒髪。筋の通った鼻先に、パッチリと開いた瞳は澄んだ栗色を帯びている。端正整った輪郭は触れればかすれてしまいそうな線の細い少女。

 

 いつもと変わらない、泉星菜の姿。

 変わらない筈の、友の姿。

 

「星菜……?」

 

 しかし今、自宅の前に立ってこちらの到着を待っている彼女の姿からは何か、感覚的な部分で何かが「違う」と感じる違和感を覚えた。

 そしてその違和感は、彼女がこちらに振り向いて、満面の笑顔を浮かべたことで明らかになる。

 

「こんにちは、鈴姫君」

「……!?」

 

 別段不自然ではなかった筈の彼女の笑顔――しかしそれは、鈴姫にとって泉星菜のものには見えなかった。

 彼女であって彼女ではないような……それは鈴姫がかつて、中学時代のある日に一度だけ見たことのある表情だった。

 

「あんた……星園か?」

 

 急冷された眼差しを向けながら、鈴姫が問い掛ける。

 一目見た瞬間にそう言い出した彼に対して――彼女の中に居た筈の「彼」がどこか嬉しそうに答えた。

 

「はは、もうバレちゃったか。そうだよ、僕は星園渚。近い人には、何となくわかっちゃうのかな?」

「…………」

「いや、ずっとあの子のことを見てきた君だから、すぐに気づいたって何もおかしくないか。若いっていいよね」

 

 くつくつと楽しそうに笑いながら、「彼」がゆっくりと鈴姫の元へと歩み寄る。

 服装のコーディネートは星菜がしたのだろう。彼女が相手ならば誉め言葉の一つでも送っていたであろう私服姿が非常に似合っていたのもあって、今この時に「彼」がこうして表に出ていることが特に気に触った。

 

 ――なんであんたが、今更出てきたのかと。

 

「君とこうして会うのは二度目だね。今日は一日、よろしくね」

「俺が約束したのは星菜とだ。あんたじゃない」

「でもあの子は、誰と(・・)一緒に出掛けてほしいとは言わなかっただろう? 連れないこと言わずに、あの子との予行演習のつもりでいいから僕と出掛けてくれよ」

「……ちっ」

「うわー、すごいセメント対応……そんなことされると、僕も泣きたくなっちゃうな。あの子の顔で」

「やめろ、殺すぞ」

「ごめん、僕もう死んでるんだ」

 

 表に出てきた彼――星園渚。彼と二度目(・・・)の対面をした鈴姫の反応は、星菜が相手ならば絶対にしないであろうほどまでに冷たかった。その心中は、当然ながら穏やかではない。

 

 

 しかしこの一日はそんな鈴姫にとって――泉星菜にとってもまた、生涯忘れることの無い一日となる。

 

 それは彼女が師の元から旅立つ、始まりの日だった。

 

 

 

 


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