外角低め 115km/hのストレート【完結】   作:GT(EW版)

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ベースボール・イブ

 

 

 

 

 肌寒い冬の季節。自室のベッドで目を覚ました鈴姫は真っ先に時計に視線を移すと、予定よりも随分長く眠ってしまったことに気づいた。

 時刻は昼の一時。野球部の活動もないオフ日とは言え、普段の生活リズムが整っている彼にしては珍しい寝坊だった。

 昨夜は遅くまでトレーニングを行っていたからか、それとも柄にもなく今日という日を楽しみにしていたが故に上手く寝付けなかったからか。いずれにせよ身体の調子は快調であり、体調不良というわけではない。

 そんな鈴姫はベッドから下りると寝巻からジャージ姿に着替えると、階段を下って下の一階へと向かった。

 

《バッター冬野、第三球――打ち上げた! 打ち上げた! 打球は上がるっ!》

 

 一階に下りた鈴姫の鼓膜に響いたのは、テレビから聴こえてくる大きめの音声だった。

 母がまた録画したビデオでも見ているのだろうかと、鈴姫は何度聴いたかわからない声に苦笑しながら、開けっ放しにされていた今の中へと入室する。

 案の定、そこにはコタツに温まりながらテレビを眺めている母親の姿があった。

 

《泉が指差した! 六道追い掛ける! 追い掛ける! 追い掛けて……捕った! 掴んだぁっ! その手に掴んだボールは、衝撃の! 衝撃のウイニングボォォーール!!》

 

 ローカル放送特有のハイテンションで送られているその実況音声は、放送以降も幾度となくスポーツニュースやワイドショーで流されたものだ。

 しかし、それも当然の反応だろう。

 この世に決して現れることがないと思われていた超高校級の女子選手が、彗星の如く高校野球界に現れたのだから。

 

《何と言うことだぁー! 公式戦初出場初登板初完封勝利を上げた恋々高校早川に続いてぇ! 竹ノ子高校泉星菜! 古豪白鳥高校を相手に成し遂げたのは! 27個のアウトを連続でもぎ取った完全試合ッー!!》

 

 「野球の常識が今、完全に打ち砕かれましたー!」と続く実況を聞き流しながら、鈴姫はようやく息子の存在に気づいた母と向き合い、また苦笑を浮かべる。

 この母親も母親で、息子の幼馴染のことを随分と気に掛けているらしい。

 

「あら健太郎、もしかして今起きたの?」

「うん、まあ……」

「とっくに出発したと思っていたわ」

「集合時間は四時だし……まだ早いよ」

 

 寝起きだが寝覚めは良かった鈴姫は、微妙な具合に小腹が空いていたので何か食べる物はないかと訊ねる。

 数時間後のことを考えれば満腹になるほど食べる気は無かったが、その意図を理解してくれた母は冷蔵庫にある物で軽食を作ってくれた。

 コタツに落ち着きながらそれを口に運ぶ鈴姫は、今度はビデオに録画したスポーツニュースを再生し始めた母の姿を見て溜め息をついた。

 

「母さん、同じの観すぎだろ」

「いいじゃない。未来の娘になるかもしれない子の晴れ舞台なのよ? ついでにあんたもいい活躍だったし、何度見ても飽きないわ」

「そうやってプレッシャー掛けてくるの、やめてほしいんだけど……」

「何言ってんのよ今更」

 

 幼馴染のことが大々的にメディアに取り上げられるほど、母から掛けられるプレッシャーは日々増大してくる。母が、ついでに父も彼女に好意的なのは喜ぶべきなのだろうが、昔のように答えを急いでいない今の鈴姫からしてみれば彼らの気持ちは要らぬお節介に過ぎなかった。

 テレビ画面で交わされている自分と彼女のハイタッチを熱っぽい目で眺めている母に呆れながら、居たたまれなくなった鈴姫はこの場から離脱することを選んだ。

 

「……走ってくる」

 

 オフ日というのは、どうにも落ち着かないものだ。常に身体を動かしていないと敗北した気分になるのは、体育会系の証拠だろうか。

 「時間に遅れないようにね」と掛けられた言葉を後ろにしながら、鈴姫は外に出て日課の一つであるジョギングを開始した。

 

 

 

 12月24日。

 

 

 

 シンシンと白雪が降り出した空の下、白い息を規則的に吐き出しながら鈴姫は走る。

 いつものジョギングコースである河川敷を回りながら、彼は肌を刺す冷たい空気に上昇した体温で抵抗していた。

 運動はいいものだ。自分が生きていることを実感出来る――と感傷的なことを考えるようになったのは、十月にあったあの出来事からか。あの日から少しだけ、自分の中で物の考え方が変化しているように鈴姫は感じていた。

 

「ん」

「あ」

 

 舗装された快適な道路を軽々に走る中、鈴姫は思わぬ人物と遭遇した。

 茶髪の髪を頭の後ろで束ねた少年は、直近の大会で死闘を繰り広げた相手――あかつき大附属高校の猪狩進だった。

 

「やあ」

「おう」

 

 お互い知らない関係ではないが、親しい仲でもない。そんな間柄である鈴姫と進だが、こうしてバッタリ出くわした以上無視するわけにもいかない。

 そんな理由で簡単に挨拶を交わした鈴姫は、進の出で立ちを見て彼もまた自主トレーニングの最中なのだろうと察した。

 

「今日は兄貴と一緒じゃないんだな」

「兄さんなら、波輪さんに一球勝負を申し込んでいるよ」

「君は付き添わないのか?」

「うん。いつまでも兄さんと一緒だと、一生自分の壁を破れない気がするから」

「そうか」

 

 猪狩進と言えばリトルリーグ時代から兄の守と常に共に居る印象であったが、進もまた天才的な野球センスを持っている超高校級選手の一人だ。あかつきとの試合ではそんな彼の強肩と好リード、打撃を前にことごとく苦しめられたものである。

 

「じゃあね」

「ああ」

 

 そう言って言葉少なく別れた二人だが、鈴姫は自身を前にした彼の瞳に闘志の炎を感じ取っていた。そんな彼を見て、俺も負けていられないなと改めて上昇意識を高める。ここで彼と遭遇したのは偶然であったが、ライバル校の天才が次の大会に向けてひたむきに鍛錬している姿を見ると、否が応にも刺激を受ける。

 そんな鈴姫の背中に向かって、こちらへ振り返った進が思い出したように言い放った。

 

「あっ、そうだ。地区大会、優勝おめでとう」

 

 彼の口から礼儀正しく放たれた祝福の言葉には、心なしか悔しさが滲んでいるように鈴姫は感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 頃合いを見計らってジョギングを切り上げた鈴姫は、一旦自宅に帰ってシャワーを浴びた後、外行きの私服に着替えて防寒用のジャンバーを羽織る。

 重くかさばらない程度の荷物を持った鈴姫は母に頼んで車に乗せてもらうと、竹ノ子高校野球部副主将により集合場所として指定された駅前のバスターミナルへと移動した。

 

 

 

 

 

 

 

 目的地付近まで母の車に送ってもらった鈴姫は、運転席から送られる生暖かい視線と茶化される声援を追い払いながら集合場所へと歩を進めた。

 左腕に巻き付けた腕時計の指針が差している時刻は三時四十分。指定された集合時刻より二十分も早い到着になったが、駅前のバスターミナルには既に先客が居た。

 赤いコートにピンク色のマフラー、深々と被ったニット帽と目元に掛けたサングラスで素顔を隠した少女は一見不審者のようであったが、鈴姫にはその人物が誰なのか一目でわかった。

 

「星菜……」

「あ、ケンちゃん」

 

 彼女の名前を呟くと、少女はこちらに気づき、軽く手を振って目線を合わせる。

 あの日以来、彼女が自分のことを再び昔のあだ名で呼んでくれるようになったことを嬉しい半面、気恥ずかしく思う。

 和解して以降、これまで彼女への想いを恥ずかしげもなく直球の言葉で表現してきた鈴姫だが、彼女から直球な好意を受けることは逆にこそばゆく感じるのだ。

 そんな面倒くさい感情を誤魔化すように、鈴姫は呆れ笑いながら彼女の装いを指摘した。

 

「なんだよその格好」

「変装だよ。こうしないと迂闊に外も歩けなくて」

「すっかり人気アイドルだな」

「悪意が無いだけに、対応に困るんだよ……」

 

 彼女がこうしてこてこての衣装を纏って変装を行なっているのには、そうせざるを得ない相応の理由があるからだ。

 元々ルックスの良い彼女は街を歩けばナンパの声やモデル勧誘の声が絶えなかったが、今や「泉星菜」という少女はこの地区で知らぬ者は居ない存在となっていた。

 

 

 女子選手の出場が初めて解禁された秋季都道府県大会――その一回戦で竹ノ子高校のエースナンバーを背負った星菜は、あろうことか強豪チームを相手に完全試合などというとてつもない偉業を成し遂げて見せた。

 それはこの地区のみならず、全国区でも大々的に話題に上った出来事だった。

 

 遂に公の舞台に姿を現した彼女は、まさに「大魔王」の如き無双を繰り広げたのである。

 

 完全試合でデビューを果たした後も彼女の快進撃は続き、当初は対戦校の八百長を疑っていた一部の愚か者共さえ実力で黙らせた。

 130キロ前後のノビのあるストレートに、多彩かつキレ味鋭い変化球、正確無比なコントロールとコンパクトかつダイナミックなトルネード招き猫投法。そして亡き名投手が現世に蘇ったような魔球(チェンジアップ)ブルーウェーブは、素人が見ても本物だとわかる力を見せつけたのだ。

 

 古豪白鳥学園に続き、夏の雪辱を果たしたそよ風高校、山道新主将率いる強豪パワフル高校、そして名門あかつき大附属高校さえも薙ぎ倒した泉星菜の投球は、波輪風郎のワンマンチームと侮られた竹ノ子高校野球部を地区大会へと伸し上げたのである。

 それからも変わらずに見せ続けた左腕の活躍に加えて彼女自身の美貌も相まり、本来メディア上では目立つことの少ない秋季大会において泉星菜という選手は空前絶後の一大フィーバーをもたらしていった。

 

 特に因縁深い白鳥学園をその手で叩きのめした時は、鈴姫としては胸が空く思いだった。しかしそんな彼女を賞賛する世間に対して抱いたのは、嬉しさと腹立たしさが合わさった気持ちである。

 今の彼女が世に出ればそれほどの影響を撒き散らすであろうことは、最初からある程度想定していた。しかし世間が彼女の力を認めてくれたことを嬉しく思う一方で、都合よくヒロイン扱いしている連中に苛立ってもいるのだ。

 これがさらに注目度の高い夏の大会だったらどうなってしまうのか……寧ろ怖くなるほどに世間は秋季大会で見せた彼女の姿に魅了されていた。

 

「……年が明ければ、少しは落ち着くだろう。まあ、春になったらわからないけど」

「フィーバーっていうのも、当事者になるときついな……」

「……自慢に聞こえるぞ」

「あ、そう?」

 

 だが本当に喜ぶべきなのは、泉星菜がもう、周りの目に怯えていない事実であろう。

 今の彼女は確固たる自分を持っている。だからその心は、周りからどう見られようと真っ直ぐな芯が通っている。

 以前の彼女なら決してしなかったであろう軽口をあしらいながら、鈴姫の頬は綻びを浮かべた。

 

 

 

 

 数分の間、星菜と鈴姫が世間話をしながら駅前で待機していると、ターミナルに立つ二人の前に貸し切り表示のバスが一台目の前に停まった。

 扉が開いたバスの中には運転手の他に茂木林太郎やその奥方の姿があり、いつもの如く気だるげな表情で「乗った乗った」と促される。二人は彼に挨拶をした後、その言葉に従って暖房の効いた車内に入り込むと、示し合わせたわけでもなくお互い隣の席に腰を下ろした。

 すると程なくして、今度は筋骨隆々の少年と小柄な少女の凸凹カップルが車内に乗り込んできた。

 竹ノ子高校野球部主将とマネージャー、波輪風郎と川星ほむらである。

 

「オッス、ご両人!」

「ほむら先輩、波輪先輩もこんにちは。ですが波輪先輩……なんでユニフォームを着ているんですか?」

「俺のファッションだからな!」

「ほむらとのデートでも着てくるんスよこの男」

「うわぁ……」

「やめてよ星菜ちゃん! そんな目で見ないで!?」

 

 そんな二人の到着を川切りに、後から続いて見知った顔の少年達が次々とバスに乗り込んでくる。

 矢部明雄に外川青山、小島石田山田丸林……竹ノ子高校野球部員の面々である。そこに数人、竹ノ子高校が練習試合で戦ったことのある他チームの面々が混ざっていた。

 

 清楚な美少女マネージャーと共にバスに乗り込んできた小波大也も、その一人である。

 

「小波先輩も来たんですか。他所でデートしているのかと思っていました」

「そんな相手は居ないし、僕もみんなでワイワイやるのは好きだからね。企画してくれた矢部君には頭が上がらないよ」

 

 恋々高校の主将を務める彼は、昔から非常に異性にモテる。そんな彼が世のカップル達の聖典であるクリスマス・イブのこの日、今回の集まりに参加することは星菜には意外に映ったが、彼から返って来た言葉を聞いて納得する。

 かく言う波輪風郎、川星ほむらも同じ理由でこの集まりに参加しているのだ。希少なオフ日だからこそ、こうして大勢で馬鹿をやりたいのかもしれない。

 

 出発目前となったバスの中、おもむろに席から立ち上がった星菜は周囲を見回し、集合した少年少女達の姿を見て唇を緩める。

 一部を除いてここに集まった竹ノ子高校と恋々高校の野球部員達。そんな彼は今日この日だけはそんな関係も忘れて、各々に談笑に講じていた。

 

「……こうして集まると、賑やかだね」

「六道先輩とか池ノ川先輩とか、欠席の人も居るけどな」

「イブだからね。二人とも、彼女さんと出掛けているんでしょ」

 

 クリスマス・イブをこれほどの大人数で過ごすのは、星菜にとっても鈴姫にとっても初めてのことだ。

 甲斐性のある彼女持ち部員の何人かは自身の恋人の為に別の場所で疲れを癒しているのだろうと想像すると、後ろの席に座っていた伊達眼鏡の先輩が唐突に叫んだ。

 

「あの二人は裏切り者でやんす! 特に池ノ川君はイケメンでもないのにズルいでやんすぅぅ!」

 

 ……何か怨嗟のような感情がこもっていたが、星菜と鈴姫はお互いに目を見合わせた後、何も聞かなかったふりをして前に向き直った。

 集合時間の四時を回ったところで、前方では二人の主将が名簿を手に出席を取っていた。

 

「うちの出席は、これで全員か。小波、そっちはどうだ?」

「後一人、まだあおいちゃんが来ていない」

「主役じゃねぇか……しょうがない、待つか」

 

 恋々高校の野球部員と言えば、真っ先に思い浮かぶ緑色の髪の少女が居ない。

 おそらくだが、変装をしないであろう彼女は道中でミーハーなファンにでも集られているのだろうと星菜は予想した。

 

 ――公式戦史上、初めて出場し、初めて完投完封勝利を記録した女子選手が早川あおいという少女だ。

 

 そんな彼女は星菜と同じく今や全国区のニューヒロインであり、迂闊に出歩けないほどの有名人となっていた。

 女子選手――その響きから、星菜はもう一人の竹ノ子高校野球部員がまだ到着していないことに気づき、波輪に問い質した。

 

「雅ちゃ……小山先輩は来ないんですか?」

「ああ、大会では一緒に戦ったけど、俺らと慣れ合う気はないんだってさ」

「……あの子は一体、どこに向かっているんだ」

「フハハ! ツンデレですね!」

「王道のライバルムーブでやんす!」

 

 

 小山雅――自分の望みを取り戻したことで竹ノ子高校野球部に加わった彼女は、今回の集まりには参加しないらしい。

 彼女も大概、面倒くさい性格になってしまったものである。そうしてしまった最大の原因である星菜としては頭が痛いが、もう悪い方向には行かないだろうとも思っていた。

 

 彼女もまたこのチームの仲間なのだ。星菜は秋季大会の土壇場で満を持してチームを救いに来てくれた彼女の姿を思い出し、薄く笑んだ。

 

 

 そんな時、ブザー音と共に扉が開き、外気を纏いながら一人の少女がバスに乗り込んでくる。

 少々息を切らせながら到着した緑色の髪の少女は、恋々高校野球部を導いたサブマリンプリンセス――早川あおいであった。

 

「ごめんね! 待たせちゃった?」

「一分遅刻だね。もしかして、いつもの?」

「そうっ! 色んな人に呼び止められちゃって……」

 

 星菜の予想通り正直者の彼女は変装などしておらず、遅れてしまったのは人気者であるが故の悩みによるものだった。

 そんな彼女は手荷物を荷台に載せると脱いだコートを折りたたんで膝の上に乗せ、空き席に腰を下ろす。すると斜め横に座っている星菜の存在に気づき、目を合わせた。

 

「あおいさん」

「あ、星菜ちゃん。なにその格好、浮気現場の芸能人みたい」

「……生々しい例えはやめてください」

 

 不審者ルックで変装した星菜の姿に引きつったような笑みを浮かべる彼女に、星菜は心外だと口を尖らせながらサングラスを外す。

 このサングラスは今回出掛ける前、変装の一環として父親に貸してもらった物だ。これを掛けている間スムーズに移動出来たことを考えると、彼女に苦言を呈されても効果があることは間違いなかった。

 鈴姫の隣で栗色の瞳を露わにした星菜は、バスの中ならもう変装は要らないだろうとニット帽を外し、その中にしまっていたショートカット(・・・・・・・)の髪を下ろした。

 

「前にも言った気がするけど、やっぱり印象違うね」

「そう、ですか?」

「うん、セミロングだった頃より活発そうで、元気に見えるよ」

 

 元々はセミロングヘアーに伸ばしていたのが、野球人らしからぬ星菜の黒髪だ。

 それを星菜は今、襟足が肩先まで届かない長さのショートカットに変えていた。

 彼女にとってはゲン担ぎとも言うべきか、原点回帰とも言うべきか。

 

 ――星園渚が還ってから星菜は、心機一転の気持ちを込めてその髪を切ったのだ。

 

 おかげで随分と、見た目的にも気持ち的にもさっぱりしたと思う。

 奥居亜美らクラスの友人からは声を上げて驚かれたものだが、元々星菜はショートカットにしていた頃の方が長いのだ。

 鈴姫や小波などは、この髪型を見てリトルリーグ時代を思い出したのか「懐かしい」と言ってくれたものだ。

 

「クラスメイトからは、お姫様みたいな前の方が好きだって言われましたけどね」

「あはは……ボクも、どっちかと言えば前の方が好きかも。なんかこう、良い感じに頼りなく見えたから」

「……それ、馬鹿にしてるでしょう」

「可愛かったって言ってるのよ。今は、カッコ良く見えるよ」

「……ケンちゃんどうしよう。私、あおいさんに口説かれてる」

「……知るか……」

 

 年相応な少女のようにあどけない顔をした星菜は、恩人であり大切な友である彼女と談笑し合う。

 そんな彼女とその仲間達を乗せたバスは、ターミナルを発って目的地へと発車していく。

 

 向かう先はパーティー会場――青春に彩りを添える、馬鹿馬鹿しくて楽しい聖夜祭の開催だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  外角低め 115km/hのストレート

 

  最終話【 Grand Touring(壮大なる旅) 】





 長い間ありがとうございました。
 次回で本編は完結します。

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