外角低め 115km/hのストレート【完結】 作:GT(EW版)
時系列は最終話から約一年後になります。
【後日談ネタ】一年後のドラフト会議
――プロ野球ドラフト会議。
十月下旬、最近では日本シリーズの前に行われるそれは、プロ野球チームにとっては未来への投資であり、スカウトにとっては数年間に及ぶ発掘調査の集大成。そしてプロ志望届を提出したアマチュア選手にとっては、夢の舞台への最後の登竜門となる。
近年、野球人口の爆発的な増加により、志望届提出者の人数は年々最多を更新していき、その倍率は年々高くなっていた。
しかし来年度から、かねてより水面下で計画が進められていた「猪狩カイザース」、「頑張パワフルズ」、「まったりキャットハンズ」、「極悪久やんきーズ」、「津々家バルカンズ」、「シャイニングバスターズ」の六チームからなる新たなプロ野球リーグ「レボリューション・リーグ」が創設されたことによって、このドラフト会議にも以上の六球団が新たに参加することになった。
それはいい意味ではプロ野球の敷居が低くなったということでもあり、一部では国内リーグのレベル低下を招くのではないかと懸念されているが……近年から溢れ返っていた優秀な人材を鑑みれば、さほどの影響はない筈だろうと分析されている。
これはそんな新リーグが発足後、初めて行われた「18球団」によるドラフト会議――猪狩守らを筆頭に後に球史に名を残す数々の名選手を輩出することになる、歴史的なドラフト会議の一幕である。
《第二回選択希望選手、広島東洋――グラビトン新井。投手、神帝学園高校》
各球団が提出した指名選手の名前を、アナウンスの男性が妙にダンディーな声で読み上げていく。
多くの国民達が注目しているドラフト会議の様子は、「竹ノ子高校」の職員室に配備されているテレビにも映し出されていた。
指名リストの中にはこの「竹ノ子高校」に所属する選手も居る為、今日ばかり野球部の練習は早めに切り上げ、部員達は特例として引退した三年生を含むほぼ全員が職員室のテレビを取り囲んでいた。
「新井さん帰ってキター!」
「グラビトンは広島かー、でっかいピッチャー好きだからなあそこは」
「グラビトンツライ……いや、何でもない」
そんな今の彼らの様子は現役の野球部員、と言うよりは一介の野球ファンと言った方が相応しいのかもしれない。
やれあの高校のアイツはここで来るか、アイツはまだ指名されないのか等、何人か実際に対戦したことのある名前が呼ばれてくる会議の内容を、彼らは和気藹々と好き勝手に感想を溢しながら眺めていた。
「上位指名は高卒組が多いなぁ」
「過去最高の豊作世代って言われてるッスからね。進学するんじゃないかって言われていた猪狩君や山口君まで志望届を出したんだから、そりゃ凄い顔ぶれッスよ」
プロ志望届を提出された選手についてはこの場に居る誰よりも詳しい、自他共に認める野球オタクであり、
そんな彼女のとなりには、一年生時から付き合っている彼女の恋人であり、既に指名を受けている
野球部を引退した後も髪を伸ばすことのないその頭には、アルファベットの「H」と「T」を組み合わせたマークの黒い帽子が被さっている。
交渉はまだ始まっていないのだが、彼は既にプロ野球チームの一員になった気分だった。
「風郎君、タイガース一位指名おめでとうッス! グラビトン君が二位指名される顔ぶれで一位ッスよ一位! やっぱり、風郎君の努力は間違いじゃなかったッス!」
「ああ、ありがとうほむらちゃん。でも、俺だけの力じゃないよ。ほむらちゃんや監督、ここにいるみんなのおかげで掴み取れたんだ。……ありがとな、マジで」
「……言ってくれるじゃないか、波輪」
「ぶわっ……泣いてねぇぞ俺ァ!」
彼らがこうして気楽に会議の行方を眺めていられるのも、波輪が一位指名で早々にリストから消えたのが最大の要因であろう。二年夏は発覚したルーズショルダーによって評価が落ち、以後三年夏までほぼ野手として活躍してきた彼だが……ドラフトのこの日、「投手として」単独一位という指名はチームメイト達にとっても、本人にとっても驚きの結果であった。
「でも、まさか本当にピッチャーとして指名してくれるなんてなぁ。タイガースさんのスカウトは一年の頃からずっと見ててくれたし、期待に応えないとな」
「さっきのアニキ監督のインタビューだと、野手転向も考えていると言ってたが」
「いや、夢はでっかく二刀流だ! スタメンで四番を打ってから、クローザーでマウンドに上がったりしたら最高にカッコ良くね?」
「波輪君……! それはカッコいいッス!!」
「……引退してから順調にバカップルになってるな。そう言えば、阿畑やすしとはチームメイトになるのか」
「はは、あの人とも何かと縁があるよな俺」
一年生の頃から高校野球界で活躍し、甲子園でもその打棒で幾度となく華々しい活躍を収めてきた波輪だ。
怪我の具合もまた、短いイニングを全力投球する程度ならほとんど問題ない状態まで回復している。
元々、野手としてならば上位指名は固い。それがドラフト開始前からの波輪の評価だった。
そんな彼が投手として一位指名を受けたという予想以上の結果は、ドラフト評論家を気取る一部の者達にとっては賛否両論あるものかもしれないが、指名された当人からすれば願ってもない高待遇だった。
最高の順位で指名を得て、これでめでたしめでたし――と野球部OBであり同級生の外川聖二がパンッと手を叩くと、一同に向かって言い放った。
「よし、波輪も指名されたし帰るか!」
「酷いでやんす! まだオイラの指名が残っているでやんすよ!」
外川の言葉に対して悪ノリ良く職員室から撤収しようとした一同に抗議したのは、野球部
元来こういったイベントでは誰よりも盛り上がり、一位指名を受けた波輪の親友でもある筈の彼は、このドラフト会議の間妙に大人しくしていた。
――その理由は彼がアナウンスの口から「矢部明雄、外野手、竹ノ子高校」の声が出てくることを今か今かと待ち構えているからであった。
もちろん、一同はそのことを知っている。
彼がプロ志望届を提出することに対して、快く背中を押してあげたのもまた彼らなのだ。
その上で、彼らはいつもと同じように接しているだけなのだ。少々性質が悪い体育会的な冗談であったが、矢部も本当に怒っているわけではなかった。
「冗談だよ冗談! 外ではインタビューも待ってるし、指名されたら矢部君も一緒に受けようぜ」
「指名されなかったら?」
「大学でも頑張れ!」
「ふ、不安でやんす……」
――皆、これでも全員矢部のプロ入りを信じているのだ。
いつもと同じイジリ方をするのもまた、そんな彼らが快く矢部を送り出したいと思っていればこそである。
尤も、彼が波輪と同じように上位指名を貰えるかどうかで言えば、不安な思いは大きかったが。
「……実際、プロから見た矢部君の評価ってどうなんだろうな」
「足の速さや守備力、見た目と裏腹に丈夫な身体なんかは結構評価されているみたいッスね。ただ、外野専門の高校生ってなると、よっぽどの実績がないと補強ポイント的に後回しにされがちッスから……下位指名ならワンチャンある筈ッス」
「し、信じているでやんす……プロの目は、オイラという逸材を逃さないでやんす」
「ああ、逃さねえよ」
客観的なスカウト評価を冷静に行う川星ほむらの姿はその言葉だけ抜き取れば非情に見えるかもしれないが、そんな彼女もまた矢部の指名を疑っていない。
そして、指名順位が三巡目に回ってきた時である。
《第三回選択希望選手、まったり――早川あおい。投手、恋々高校》
チームメイトではないが、署名運動以来何かと縁の多い、恋々高校のエースが指名された。
高校野球公式戦初の女性選手である彼女は、遂に前代未聞の「女性選手初のNPB入り」を成し遂げたのである。
この快挙に、テレビを囲む一同は多いに盛り上がった。
「お! 早川ゥー!」
「おおー! あおいちゃんやっと来たか!」
「キャットハンズの三位指名……ここで来たか」
「寧ろ、なんでここまで残ってたし。雅ちゃんが言うには、今のあおいちゃんはあの猪狩よりも打ちにくいんだろ? 一位で消えると思ってたわ。スカウトは節穴だな」
三位――それは十分に高評価を受けていると言える指名順位であったが、彼女の今の実力を知っている者達からしてみれば、指名を喜びこそすれど些か首を捻るところだった。
誰かが上げたその声に同意したのが、この竹ノ子高校に所属する二年生であり――彼女と同じ女性選手である泉星菜だった。
「まったくです。とんだ茶番ですね」
深く呆れたように溜息をつき、彼女はグチグチと彼女の指名に対し難癖をつける。
……とは言うものの難癖は彼女に対してつけたものではなく、彼女を指名したまったり――新規参入球団である「キャットハンズ」の親会社である「まったりタクシー」という企業に対するものだった。
「……あそこは今、新規球団の中で一番経営がグダグダになっているところじゃないか。来年には創設早々身売りしているかもしれないって言うのに……もうないじゃん」
二位以下の指名は全てウェーバー制になっているNPBのドラフト制度では、指名した時点でそのチームが入団交渉権を獲得したことになる。
つまり早川あおいが高卒でプロ入りをする為には、どうあってもまったりキャットハンズに入団するしかなくなったということであり……他チームからの指名を得られないことに失望した星菜は、マスコミに抜かれたら炎上待った無しの失言を溢した。
そんな彼女の背中をやめろと冷静に小突いたのは、彼女の隣でドラフト中継を見ていた竹ノ子高校野球部
久しぶりに三年生のOB達と会って、どこか気が緩んでいたのであろう。星菜はハッと目を見開いて周囲にマスコミの影がないことを確認すると、自身の失言を誤魔化すようにてへっと笑った。
美少女とは得なものだ。新入生の後輩達なら一発で騙されたであろうその
「君は早川さんのモンペか何かか。素直にあの人のプロ入りを喜んでやれよ」
「もちろん喜んでいるよ? でもあおいさんが指名されるのは当たり前の話だし、何巡でどこに入るかだけが心配だったんだよ」
「昨夜は心配で眠れずに、迷惑メールばっか俺に寄越してたもんな……じゃあ、本当はどこに入ってほしかったんだよ?」
「それこそ、まったり以外ならどこでも。泉家的にはバスターズが良かったけど」
「ああ……なるほど。シャイニングはお義父さんが働いている会社だもんな」
「お義父さん呼びはやめてくれ。その、時期尚早だから」
「いや、おじさんの方から是非お義父さんと呼んでくれって言われたんだけど。昨日久しぶりに会ったけど、相変わらず愉快な人だったな」
「あの親父め……普通逆だろ」
最近順調に外堀を埋められたり埋めたりしている星菜は、この野球部に入って以来目まぐるしく変わっていった自身の環境を思い、そして早川あおいという尊敬する先輩であり、ライバルがかつて自分が憧れていた世界に旅立ったという事実に対して儚げな笑みを浮かべる。
まだ卒業したわけではないというのに、一抹の寂しさを禁じ得ない。これが、恩人の旅立ちへの気持ちなのだろう。
そんな感情をぶつけるように、星菜は自身のスマホを取り出すなり殴りつけるような早打ちでメールを送信した。
「えっと……指名おめでとうございます、と」
「キャットハンズ自体は嫌いじゃないんだな」
「そりゃそうでしょ。どんなチームだって立派なプロ野球だもん。プロ野球選手になることは、あの人の夢だったんだから」
それはそれ、これはこれだ。
星菜自身としては色々とゴタゴタしているキャットハンズの親会社に対して思うことはあったが、「キャットハンズ」というプロ野球チームに対しては何も言うことは無い。新規参入球団と言えどNPBに所属するれっきとしたプロ野球チームであることに変わりはなく、あおいが入団するのなら全力で応援するつもりだった。
そんな気持ちで送信した彼女への祝福メールからほどなくして、星菜のスマホがピロリンと着信音を鳴らした。
「あっ、返信来た」
「早いな。指名の時点で、あの人の周りにはマスコミが寄ってるもんだと思っていたけど」
早川あおいと言えば、今や各メディアから動向が注目されている人気者だ。
卓越した能力を持つ女性選手であり、ルックスも抜群に整っているとなればスター揃いの世代の中でも際立って注目を集めるのも当然であろう。
その多忙さはテレビ中継ではまだ下位指名が行われている最中だと言うのに、ワイプで彼女のインタビューの様子を映そうとしていることからもはや語るまでもない。
だが星菜にとって嬉しかったのは、そのように忙しい中でもこうしてすぐにメールを返してくれたことから窺える、彼女にとっての自身への優先度の高さに対する喜びだった。
そんな彼女から送られてきた返信のメールを見て、星菜は思わずという気持ちでくすりと笑みを浮かべた。
「……まったく、あの先輩は。勝手に人の進路を決めるなっての」
「なんて書いてあったんだ?」
スマホの画面に映し出されたのは、マスコミへの対応に追われる彼女が急いで書いたことが窺える、たった四文字の言葉だった。
そのひらがなから伝わってくる彼女の思いに、まだ卒業後の進路も決まっていない星菜は戸惑いながらも笑ってしまった。
星菜はそんな表情を浮かべたまま、横から内容を訊ねてきた鈴姫に対してスマホの画面を向けた。
《まってる》
プロの世界で共に野球をする日を、待っているということだろう。
多くを語らずとも、星菜には何となく彼女の気持ちがわかった。
「なるほど」
「そういうこと」
彼女もわかっているのだろう。発展していく野球界の中で、これから先自分の後に続く女性選手達が増えていくことを。
それに対して、星菜がパッと思いつく人物は二人だ。
一人は中学野球の時点で従兄以上の才能を発揮し周囲の度肝を抜いている野球少女、六道聖――彼女とは先日久しぶりに会ったものだが、彼女の野球センスは中学時代の星菜よりも健やかに成長を続けており、いつか本気同士の勝負が出来る日も、そう遠くないのではないかと思われる。
そしてもう一人は、この竹ノ子高校野球部OBの小山雅――夏の甲子園大会では十以上の打数で通算打率1.000を叩き出し伝説を打ち立てた彼女は今、プロ志望届を出すことなく一人趣味のツーリングに出掛けている。
そんな彼女らの姿を脳裏に浮かべながら、星菜はワイプに映し出されたあおいのインタビュー映像を眺めていく。
竹ノ子野球部にとって不意を突くように重大な発表がされたのは、その時だった。
《第五回選択希望選手、頑張――矢部明雄。外野手、竹ノ子高校》
「! 来ましたね、矢部先輩っ!」
星菜が丸渕メガネの先輩に振り返り、ぐっとサムズアップのポーズを取る。
五巡目の指名――これも新規参入球団である「頑張パワフルズ」によって、ついに矢部明雄が指名を受けたのだ。
あおいのインタビュー中に指名されるとは、何とも彼らしい締まらない中継だったが――そのあおいもこの指名を見た際には自身のインタビューを止めてもらい、満面の笑みを浮かべていた。
《あ、すみません。あの、矢部選手と波輪選手のいる竹ノ子高校には、件の活動をしていた頃から良くしてもらっていたので……はい、二人の指名も、ライバルになりますがとても嬉しいです!》
天使かな?――そんな声が、テレビを見ている部員達から上がっていく。あおいの笑顔を見て、嫉妬しない者であれば大体の国民がそんなことを思っているところであろう。
この一年で随分とインタビュー慣れしたようで、星菜も安心していた。因みに星菜は普段自分がこの手のインタビューを受ける際には心を虚無にして受け流すことが多い為、彼女のように本心からの笑みをメディアに晒すことはあまりなかった。
閑話休題。
五位指名を受けた当人たる矢部は、数秒経ってようやく現実を理解したのか、猛々しい奇声を上げながらバタバタと跳び上がった。
「やんす……やんす? やんす! やんすー!!」
「やったな、矢部君!」
「おめでとう!」
「おめでとう!」
「おめでとうございます、先輩!」
「お! めどとゥー!」
「フハハ! 先輩が五位指名なら、来年の僕は一位指名確実ですね! いつか十六球団競合を達成して、青山の名を世界に轟かせたい」
「泉と鈴姫の入る二チーム分だけ枠を空けたあたり、成長したな青山」
念願のプロ入りを果たしたのだ。
元々指名が確実視されていた波輪とは違い、当落線上だと思っていただけに喜びもひとしおか。これまでの緊張や不安を解き放つかのように矢部は歓喜の舞を踊り、一同に感謝の思いを打ち明けた。
「みんな、今までありがとうでやんす! 特に監督っ! 下手くそでダメダメだったオイラをここまで鍛えてくれて……本当に、ありがとうございました!!」
監督の茂木と向かい合いながら、矢部は万感の思いを込めて深々と頭を下げる。
彼の見せたその姿に一同は鎮まり、最も驚いていたのは頭を下げられた茂木の方だった。
「矢部、お前……」
メガネの奥で光る雫を見て、彼がどれほど強い感謝を抱いているのか察したのであろう。
普段がちゃらんぽらんな人物だと思われていたからこそ、そして一年生の頃から指導し続けてきたからこそ――茂木もまた、成長した彼の姿に感慨を抱いている様子だった。
また一人、野球が人を育てたか……そう呟き、茂木は照れくさそうに笑みを浮かべる。
「へっ……何言ってんだか。顔を上げろ、矢部。お前も波輪も、プロ入りがゴールじゃないだろ? お前ら二人とも、まだ入り口に立っただけだ。俺に感謝してるんなら、プロでも活躍してファンを喜ばせてこい。俺も、お前らのファンになってやるからよ」
「言われるまでもないでやんす! もっともっとビッグになって、波輪君にも負けない選手になるでやんすよ!」
「ああ、それでこそ矢部君だ!」
矢部明雄という選手は元々プロ入りが期待出来るような選手ではなく、茂木監督の叩き上げでここまで成り上がった選手である。
そう考えれば彼こそが、高校三年間で最も成長した選手なのかもしれない。彼を指名した頑張パワフルズもまた、そういった矢部のハングリーな将来性に期待し、五位指名に踏み切ったのだろうと星菜は思った。
星菜自身も、彼の力には何度も助けてもらった。
そんな感謝の思いもあり、星菜はこれからはチームメイトとしてではなく、ファン目線で彼のことを応援していきたい。そう思い――
「そして、美人な女子アナをゲットするでやんす!」
「……それでこそ矢部君だ」
――思ったところで、躓き、もうっと呆れた。
彼の正直な性格には好感を持っているが、やはりこの空気の読めなさだけは死んでも治りそうにないなと思った。
「さっきまでカッコ良かったのに、相変わらずで安心したッス」
「そういや、アイツが野球始めた理由ってそれだったな」
「先輩のそういう正直なところ、私は好きですけどね。矢部先輩のいいところを知っている人になら、なんだかんだでモテそうだと思うんですけど」
「それが確かならこんなになるまで悪化しなかったろうさ」
「泉ちゃんは知らんだろうが、過去にコイツに興味を持った女の子も居たには居たんだが……みんなコイツの空気を読めない態度に呆れて去っていったんだよ」
「……はい。なんかわかります」
「まあプロ野球選手になって活躍すれば、矢部好みの女なんて幾らでも寄ってくるだろうさ。寧ろ俺はあからさまなハニートラップに引っかからないか心配だ」
「フハハ! 間違いなく引っ掛かりますね! 矢部先輩はすぐに調子に乗りますから」
「青山君にだけは言われたくないでやんす!」
何はともあれ、波輪も矢部もこの日にプロ野球への第一歩を歩み出し、竹ノ子高校としてはこれ以上ないハッピーエンドである。
尤ももう一人、竹ノ子高校には志望届を出していれば指名間違いなしと言われていた人物が居たのだが……こればかりは本人の希望によるもののある為、星菜にはその選択を否定することは出来なかった。
……寧ろ志望届を提出したあおいよりも、彼女の気持ちの方がわかる気がするのだ。
(来年の私は、どうしているかな?)
来年のドラフトは自分達が対象者になる番だ。
既に試合を行えば自分や鈴姫を目当てに何球団かのスカウトが視察に訪れており、中には波輪の指名を手掛けたフリーの名スカウト、影山秀路の姿もあった。
星菜があおいのようにプロの世界を目指すか――と言うと、それは今のところ何とも言えないのが正直な気持ちである。
というのも「野球で完全燃焼する」というのが星菜の当面の目標であり、その目標は必ずしもプロ入りと結びつくものではないからだ。
要は自身が高校野球で満足出来るか、出来ないかの問題だ。泉家が裕福な家庭であるが故に、星菜には「プロ野球選手になって大金持ちになる」というようなわかりやすい目標を抱けなかったのだ。
――だから、将来のことはまだわからない。
何とも贅沢な悩みで、聞く人が聞けば怒られそうな話である。
それでもこの心にはお気楽なまでに不安がないのは、一体誰のせいだろうか?
星菜は苦笑を浮かべながら恋人の横顔を見上げ――意味も無く、脇腹を小突いた。
作中に出てきた他のネームド選手の進路は
青葉→スワローズ四位指名
朱雀→やんきーズ外れ一位
山道→パワフルズ四位指名
奥居→ライオンズ五位指名
小波→進学
山口→三球団競合→ドラゴンズが獲得
大西→八球団競合→キャットハンズが獲得
猪狩守→カイザース、バスターズ、ジャアンツ、スワローズ、ファイターズの五球団競合→カイザースが引き当て守君完全勝利
という感じです。守君に関しては例によってファイターズの神の手に引き当てられた後、親父大激怒→無念進学ルートとか思いついてしまいましたがそのネタはあまりにもあんまりだったのでボツに。競合数が原作より少なくなっているのは本人の能力が低いのではなく、二年から甲子園に出れてないからと言う激戦区故の悲しみを背負ってしまった為。
大西氏は甲子園をやるとしたら最強の敵として扱う予定だったので、ドラフト候補の中で最高の評価がされていました。
因みにあおいちゃんは三年の夏でマリンボールをさらに超えるMMボールとか大変な魔球を生み出したりしています。
またネタを思いついたら投稿するかもしれません。
※以下パワプロ2018の感想。
星菜「……鈴姫、再登場は嬉しいが、お前なぜ右打ちになってるし」
最近は原作で続々と超人染みた女性選手が登場している中、何故か初代女性選手であるあおいちゃんだけ一向に強化されないどころか、昔より弱体化されている気さえするのが納得できないでいます。
なので私は次に番外編を書くとしたら本編で描けなかったスーパーあおいちゃんを書くために、「竹ノ子+恋々の混合チーム同士の対決」とかそういう話を書くと思います(∩´∀`)∩