何もかもが理不尽だった。
自分から喧嘩を売ったわけでもないのに、周囲から喧嘩を売られ、挙げ句に喧嘩を売ってきた者たちに怪物だ化け物だと怖れられる日々。
中学三年になる頃には、少年は全てを諦めていた。化け物と呼ばれ続けるまま、ろくでもない人生が続くだろう。世界とは、人生とは、所詮はこんなものだ。僅か15歳の少年にそう信じさせてしまうほど世界は彼に冷淡だった。
少年の家族は、障害沙汰を起こす彼の事を見捨てなかったし、何度もかばってくれた。
しかし、相も変わらず理不尽な憎しみと怖れの目だけは自分の体に注がれ続ける。家族の優しさは、逆に少年の心を孤独にした。化け物と呼ばれる自分のせいで、まっとうな人間である家族に迷惑を掛けてしまっていると。自分のような化け物が、彼らに迷惑をかけていることが申し訳無いと。
少年は世界に希望を持つことを止め、さりとて絶望することもなく、中身の感じられない人生を送り続けた。 恐らく、今後も一生この状態が続くのだろうと考えながら。
そんな折、少年に一つの転機が訪れる。
九月の下旬のある日、少年は珍しく誰にもからまれることもなく学校から帰宅した。 自分の部屋のテレビを点けた瞬間、少年は取り憑かれたように画面を観続けた。放送されていたのは、学園都市で行われている大覇星祭の中継だった。
学園都市は、簡単に言えば最先端の科学技術の都市で超能力の開発が行われている都市だ。そして、大覇星祭は年に一度学園都市中で行われる合同運動会のようなものだ。
生徒の関係者やただの一般客も開催中は学園都市に入る事ができ、応援・観戦等で開放区域を自由に移動する事ができる。テレビ中継もされる。
ドクリ、と心臓が高鳴るのを感じた。「所詮自分は化け物だ」と孤独を受け入れたと
きに、新たな世界が広がったのである。
喧嘩に明け暮れていた少年は、テレビの窓を通じて世界をみた。
それは、確かに「恐怖」でもあった。少年を怪物たらしめた「臆病さ」は成長する事
である程度落ち着いたものの、完全に消え去ったわけではない。
電撃を操る短髪の中学一年生くらいの女の子が恐ろしい。
鉢巻きをした謎のカラフルな爆発を起こす白い学ランの自分と同じくらいの歳の少年
が恐ろしい。
能力者の集団が恐ろしくて仕方がない。得体の知れない科学技術が恐い。
しかし、その衝撃は、彼の心を強く刺激した。好奇心が、恐怖心を上回ったのである。
彼は自分の本音に気が付いたのである。
このまま、自分がただ一人の化け物として生きて死んでいく事が世界がこんなものだと諦めたまま死ぬ孤独こそが、本当に恐ろしいと。
進路を決定しなければならない時期に、彼は育ての親に対し、一つの我儘を言う。
基本的に売られた喧嘩を買ったとはいえ、自分の喧嘩が家族に迷惑をかけていたのは事実だ。
その事に対する罪悪感からか、自分を見捨てくれなかった恩義からか、少年は、今ま
で両親や祖母に我儘らしい我儘は一度も言ったことがなかった。少年は喧嘩漬けの人生とは裏腹に、生活態度そのものは至って真面目だった。
そんな少年が、小学校で喧嘩して以来 初めて、我儘を言った。
学園都市の高校に進学したい。
あまりにも唐突な申し出に、両親は戸惑った。祖母が言う。
「こっちに来て、座りなさい。」
「臆病だったが成長したねえ・・・。」
「自分のやりたいことをして良いんだよ。」
そう言って少年に笑う。
結局、その後、祖母の鶴の人声で少年の我儘は聞き入れられた。
そして、化け物と呼ばれた少年が学園都市にやってくる。
諦めかけていた世界と、もう一度向き合うために。
自分の知らない、本当の「化け物」と出会うために。
少年の名は山咲主税(やまさきちから)
彼がこの先、何を見るのかは解らない。臆病な化け物が、学園都市で果たして誰と出会うのか。
あるいは、何を成すのか、成さないのか。それは誰にも解らないが、ただ一つだけ確実なのは学園都市そのものは、どんな人間だろうと来るのを拒まないということだった。
「化け物」と呼ばれた少年と学園都市が交差する時、一つの物語が始まる。