五月某日、山咲がとある高校に入学してから一ヶ月がたったある日のことだった。
彼は、いつものように授業を終え、帰宅していた。
特にする事もなかったので繁華街をブラブラしていたら、六人のガラの悪い兄ちゃん『スキルアウト』達に捕まり路地裏に引きずり込まれて行った。
「なあお財布君クン。今ボク達バイト中なんで協力してくんね? クソを殴ると成績に応じて金が入るバイトなんだけど」
「ちなみに黙って財布渡してもぶん殴るから。逃げようとしてもぶん殴るし命乞いしてもぶん殴る。 状況分かった?」
頭が死ぬほど軽い言葉を発する少年に対し、素直に体に嫌な震えが走った。
この時、山咲の脳裏に地元にいたときのことが蘇った。
(ああ、またなのか…)
「ちょっとお財布クン。何黙ってんの?人の話はちゃんと聞こうよ。」
この少年達の中で特に強そうな筋肉質な少年がいきなり胸倉を掴み上げた。
その瞬間、山咲は少年の耳を掴み、勢いおく引きずり落とす。
耳を千切られると察した少年が、手を放して思わず身を屈めた瞬間だった。
その鼻柱に、山咲の頭突きが叩き込まれた。
少年は膝をつき潰れた鼻を押さえながら山咲を睨み付けた。
「てっ、てめぇ!!~、がぁっ!?」
そして、膝をついた少年の顎をめがけて山咲の鋭い蹴りが打ち込まれた。
スキルアウトは仰向けに大の字に倒れた。
追い打ちをかけるように山咲の蹴りが顔面を的確に狙って、爪先を使い、顔を覆う指ごと折り潰すように指の間から地面に滴る血を見ても、少しも躊躇う事無く何度も、何度もいつまでも。
他のスキルアウト達はその光景を呆然と眺めていたがようやく我にかえり、仲間がやられたことにより一瞬で頭に血が上った。
「や、野郎―!!」
他の五人の少年達が一斉に襲い掛かった。
喧嘩が強かろうがこっちは五人だ。しかも、ナイフ、改造スタンガンといった武器を持っている。負けるはずがないと少年達は全員同じ事を考えていた。
しかし、勝敗はその予想を覆す結果になる。
「い、痛い。」
「助けてくれ。」
「もう、勘弁してくれ。」
「や、やめてくれ。」
「化け物だ。」
山咲による圧倒的な勝利であった。少年達はそろって地面に伏していた。
少年達の今の姿は悲惨なものだった。
歯が全部砕かれて口から多量の血が出ているもの、目から血が出ているものや手足の骨が砕かれているものがいた。なかには、鼻水と涙で顔面がしわくちゃになっているものもいた。
しかし、勝者である山咲は今にでも泣き出しそうな子供のような顔をしていた。
(化け物か。久しぶりに聞いたなその言葉。俺はやっぱり化け物のままなのかな?せっかく友達が出来たのに・・・)
(せっかく、学園都市に来たのにこれじゃ昔の頃と何も変わらないよ。やっぱり、俺はずっと独りぼっちなのかな?そんなの嫌だな・・・)
山咲が何もかも諦めかけたときだった。
「根性ってモンが足りてねえな、お前。そんなんじゃ誰も満足しねえぞ!!」
唐突に響く大きな声。
山咲が後ろを振り向くと、路地の出入り口辺りに仁王立ちする一つの影。
山咲と同年代くらいの少年だった。服装は白い鉢巻きに白い特攻服のような制服をしていた。
「(なんだろう、この人?今まで喧嘩してきた人は何か違う。)」
山咲は感じたことない威圧感に襲われた。全身に冷や汗が出て、鳥肌がたった。
(この人は強い!!)
山咲はそう確信した。
「君は一体誰?」
山咲は震える声で尋ねた。
「俺は学園都市のレベル5の一人、七人の内の七番目、ナンバーセブンの削板軍覇という事もある訳だが、そんなのは些細な事だ。今ここで論じるべきは、この俺には怒涛の如く煮えたぎる根性が満ち溢れているという事だーっ!!」
両手を大きく広げ、背中を弓のように反らし、天に向かって吠えるように宣言する削板もしくは謎の根性さん。とういう理論か知らないが、彼の背後がドバーン!!と爆発して赤青黄色のカラフルな煙がもくもく出てくる。
「レベル5!?」
山咲は驚きを隠せないでいた。レベル5とは学園都市に七人しかいない超能力者であり、この街の頂点に君臨する者達のことだ。そのうちの一人が自分の目の前にいるのだった。
その言葉に黙っていなかったのは、例のナンバーセブンだ。
「のんのん!!だからレベル5だとか、そんなつまんねえ脇道だっつてんだろ!!今ここで重要なのは俺の根性の話!!今からでも遅くない!だからお前もっと俺の話を・・・・
あ痛っ!?」
削板が熱い根性論を話そうとしたときだった。物凄い勢いで突っ込んできた山咲の拳が削板の顔面に突き刺さった。
(痛っ!?硬い!!)
しかし、削板の体は異常に硬く大したダメージは与えられなかった。
不意打ちをして早急に決着をつけようとしたのだが、初めて自分の拳が通じない相手に戸惑っていた。そして、山咲が一瞬固まったときだった。
「だァァァらっしゃァァああああああああああああああああああああああああああ」
ぶちきれたナンバーセブンが叫んだ瞬間、彼を中心に変な爆発が巻き起こった。バウーン!!という特撮的な効果音と共に吹き飛ぶ山咲。
「くっ!!」
だが、彼は空中で体勢を立て直して、何事もなかったように着地した。
「人が話をしている最中に攻撃を仕掛けてくるとは!!許さん!!本物の根性というものを今から思う存分見せつけてくれ・・・・ッ!?」
勝手にテンションが高くなっている削板に異変が起こった。彼の鼻からポタポタと血が垂れているのだ。
「?」
山咲は鼻血が出ていることに驚愕している削板を不思議そうに見つめていた。
(何をそんなに驚いているんだろう?)」
削板が驚いていたのは当然だ。彼は生まれてから一度も鼻血を出したこともないのだから。
銃で心臓を撃たれようが自転車のチェーンロックで殴られようがアイスピックで刺されても痛みはあるがほとんどダメージがなかったのだ。
「へぇー、面白いなお前。」
彼は、目の前にいる少年に対し面白いものを見つけたように笑った。
彼らは第七学区にあるとある廃ビルにいた。
流石に怪我人がいる場所で喧嘩をする訳にはいかないので救急車を呼び、場所を移す事にしたのだった。
「ここなら、誰にも迷惑をかけることもねえな。」
山咲の目の前で目をつぶり腕を組みながら、削板は呟いた。
「覚悟しろッ!!この俺が貴様の根性を叩き直してやる!!」
目をカッと開いて削板は、大声で叫んだ。
彼の背後がドバーン!!と爆発して赤青黄色のカラフルな煙がもくもく出てくる。
(何だか凄い事になっちゃったな。)
体が恐怖で震えている山咲
(レベル5か。)
初めて自分を殺せるかもしれない相手を前に山咲は、頭の中が恐怖でいっぱいだった。
(怖いな。)
(怖い)
(怖い)
(怖い)
(怖い)
(怖い)
(怖い)
(怖い)
(怖い)
(怖い)
(怖い)
(死ぬのは怖い)
(’ヤ’ラ’レ’ル’マ’エ’ニ’ヤ’ラ’ナ’ク’チ’ャ・・・)
この時、山咲のスイッチは完全に戦闘モードに切り替わった。
「いくぞッ!!」
削板は、何か大技を出すような構えをとった。
「くらえ!!すごいパーン・・・ッ!?」
今にも大技を出そうとした瞬間だった。山咲が削板の懐に飛び込んで思いっきり膝を蹴ったのだった。
体勢が崩れた削板の蟀谷に向かって、山咲の鋭い拳が突き刺さった。
「痛ッ!?」
初めて味わう激痛に一瞬、頭が真っ白になった。
さらに、追い打ちをかける山咲
しかし、削板が動いた。
削板「根性~!!」
大声で叫んだ瞬間、変な爆発が巻き起こった。
吹っ飛ばされた山咲だったが、前と同じように体勢を整えて地面に着地した。
だが、その瞬間だった。
「すごいパーンチ」
今度こそ削板の攻撃が山咲に直撃した。
変な爆発のときよりも吹っ飛ばされた彼は、地面を転がった。
削板が勝利を確信したときだった。
山咲は削板を殴った腕を押さえながら立ち上がった。
彼は削板の攻撃が直撃した瞬間、体を反らしてダメージを減らしたのだった。
「お前、意外と根性があるじゃねえか。俺のすごいパーンチをくらって立ち上がったのはお前を含めて二人目だ。だが、もつ鍋ほどダメージはねえな」
削板は二ヶ月前に喧嘩したスキルアウトの事を思い出した。
「もつ鍋?」
山咲は誰のことだろうと不思議な顔をした。
「だから俺もちょっと根性出す。まぁ、そんな訳だから・・・本気で潰すぞ!!」
直後、ナンバーセブンが取った行動はシンプルだった。
山咲の元へカツッと踏み込み、その顔を掴み、手近なコンクリートの壁へと叩きつける。
それら一連の行動を、音速の二倍の速度で行おうとした。
しかし、顔を掴まれた瞬間、山咲は尋常ではない反応速度で削板の掴んで来ようとした腕に自分の手足を使って関節技を決めた。
負け時と削板も関節技から逃れようとして、決められている腕を振り回したりした。
しかし、山咲は削板の腕から離れようとしない。
ついに削板は自分の腕を山咲ごと地面に叩きつけた。地面にひびが出来るほどの威力だった。
「がッ!!!」
彼の肺から酸素が全部排出された。
山咲の力が緩んだのを削板は見逃さなかった。彼はもう一度腕を振り回した。
山咲は腕からすっぽ抜け、地面に転がるが、すぐに立ち上がった。
「「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」」
お互いに息切れを起こし、嫌な汗をかいていた。
「お前やっぱりすげえな。俺の肩の関節を外すなんて大した奴だよ」
削板の右腕は人形のようにダラリと下がっていた。
「もっと、俺にお前の根性を見せてみろよーッ!!」
削板が大声で叫ぶと、物凄い勢いで突っ込んできた。
それからは、暴力の嵐だった。
「技」と「力」のギリギリの攻防だった。一瞬でも気が抜けば、どちらがやられてもおかしくなかった。
(怖いな。)
(怖いけど、何だろう?何だか不思議な感覚がする。)
(怖いはずなのにこの人からは今まで喧嘩してきた人とは違う何かを感じる。)
山咲が一瞬、考え事をしていたときだった。反応が一瞬遅れてしまった。
「あ・・・」
削板の拳が山咲の顔面に突き刺さり、きりもみ状に後方へ吹き飛んでいった。
今度こそ喧嘩の決着がついた。
(う・・・、俺は一体?確か顔面に拳を入れられて、それから?)
少しの間、気絶していた山咲はゆっくりと目を開けた。
「ようやく起きたか。」
隣には削板が同じように地面に倒れていた。
お互いにボロボロの状態だった。
山咲の顔にはいくつもの青アザや切り傷があり、所々が腫れている。特に酷いのは拳で削板の強靭な体を殴ったせいで真っ赤に染まっており、骨が見える寸前だった。
対して、削板は山咲ほどではないにせよ、顔にいくつもの青アザや擦過傷があり、右肩の関節は外れていた。
「俺は、あれだけ殴られて、地面にぶっ倒されるは初めてだったぜ。 おまけに肩は脱臼しちまった。世の中は広いな。ちくしょう。」
「俺も喧嘩で負けたのは、初めてだよ。でも、何だか悔しいけど清々しい気分だよ。」
「何だそりゃ?」
その瞬間、削板と山咲は同時に笑った。
「なあ、一つ聞いてもいいか?」
「何?」
「お前、何で喧嘩をしたとき、あんなにビビった顔をしてたんだ?喧嘩をする奴の顔じゃねえよな?」
「それは・・・」
削板の突然の質問に戸惑う山咲。
「これも何かの縁だ。聞かせてくれねえかお前のこと。」
真っすぐ山咲の事を見てくる削板。
「わかったよ。」
山咲は自分が地元にいた頃のことと学園都市に来た理由を話した。
削板は真剣に山咲の話を聞いた。
山咲の話を聞き終わり、削板は目を閉じた。
そして、ムクリと立ち上がった。
「根っ性~!!」
突然、大声で叫んだ。そして、山咲の方に顔を向けた。
「大丈夫だ!!お前にはこの俺に匹敵する根性がある!!それさえあれば、何も怖れることはない!!」
片腕で山咲の肩をガッシリと掴んだ。
「お前は普通だ!!もっと、自分に自信を持て!!お前は出来る奴だ!!俺の感がそう言っている!!」
突然のことで山咲は固まってしまった。
「よし!!決めた!!今日から俺とお前はダチだ!!」
「お前の事が気に入った!!それに、何だか放っておけないしな!!」
「お前、名前は?」
「山咲主税」
山咲は驚いた顔のまま呟いた。
「よし、山咲!!携帯の電話番号とメルアドを・・・・しまったぁ~!!携帯が壊れている!!」
「あ、俺のも」
あれだけの戦闘で壊れていないほうがおかしかった。
「何!?なら今から買いに行くぞ!!」
「え、ちょっ!?」
動けない山咲を片手で抱えて猛ダッシュで携帯電話を買いに行った。
その後、病院に行き、手当を受けた後、削板と別れて山咲は学生寮に帰ってきた。
そして、ベッドに倒れ込む。そのまま転がって仰向けになり、天井を見ながら呟いた。
「・・・・負けたなあ」
負けた。
ハッキリとそう口にした瞬間、様々な感情が山咲の胸中に渦巻いた。
「生まれて初めて・・・喧嘩で負けたんだよな・・・・俺・・・」
身体中の骨が軋み、肉の中を痛みが走り抜ける。
自分の中で混ざり合う痛みと感情をどう纏めたら良いのか解らず、放心して天井を見つめ続けた。
そのまま十分ほど経過した所で、山咲は呟く。
「悔しいし、嬉しいし、なんだろう、これ」
削板軍覇は、本当に強かった。
あんな人間が本当に実在していた事に、驚きを禁じ得ない。
『お前は、普通だ!!』と言っていた、削板の言葉が頭に響く。
「そうか・・・俺、普通だったんだな・・・」
誰かに負けるという事に、「悔しい」という感情が沸き上がるとは夢にも思っていなかった。
しかし、そんな感情が沸き上がる自分が、嬉しくて仕方がない。
「俺・・・人間でいいのかな」
体中に響く痛みすら、自分が人間だという証明のようで心地よく感じてくる。
「それとも・・・俺も、削板君も、化け物って事なのかな?」
どちらにせよ、山咲は救われた気分だった。
自分は孤独ではない。
世界は退屈な織などではない。
それが解っただけで、生きる価値があると思えたからだ。
そして、最後に、この一ヶ月で出会った友人達の顔を思い出しながら、満足そうに微笑み、微睡の中で小さく小さく呟いた。
「俺、この街なら・・・上手くやっていけるのかな・・・・・」
しかしながら、山咲はまだ、気付いてない。
自分が、何をしでかしてしまったのかという事を
削板はこんな感じの口調なのかな?