とある臆病者の化物譚   作:tunagi

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少し長いです。


誕生

放課後の教室内、山咲、上条、土御門、青髪を含むた男子達がグループになって世間話をしていた。

「なあ、知っているか?昨日の夜第七学区の廃ビルで能力者同士の戦闘があったらしいぜ。」

「ああ、知ってるわ。そのビル戦闘の影響で崩壊寸前だったらしいで。ザキ君は?」

「え?い、いや知らないけど。」

山咲は一瞬体がビクッとなったが適当に返した。

「噂じゃあ、レベル5とレベル0が喧嘩していたみたいだにゃあ。」

「マジかよ。で、そのレベルは0どうなったんだ?」

「それがな、そいつ負けはしたけど、レベル5相手に互角の戦闘を繰り広げたらしいぜ。」

マジかよ!!大した奴だなあそいつ。」

汗がだんだんと大量ににじみ出てきた山咲

「でも、そのレベル5どんな奴なんやろうな?チャイナドレスを着た美少女やったらいいなぁ〜」

「馬鹿!!そこは巨乳のくノ一とかだろ!!」

「ああ〜、それもいいなぁ〜 巫女服を着たポニーテール美女なんかもどうや?」

「女の子とは限らないですたい。例えば化け物じみた肉体を持った凶暴な野郎かもしれないにゃ〜。まったく恐ろしいことぜよ。」

『化け物』と言葉を聞いた山咲の顔が青くなってきた。

「おいおい、憶測だけで判断するなよ。結局そういうのって自分の目で判断するしかねえんだからよ。そいつにも何か事情があったかもしれないだろ。」

「そうだなにゃ~ カミやんの言う通りぜよ。ちょっと、言い過ぎたにゃー」

「まったくやで」

「気をつけろよ。ん?どうしたんだ、山咲?」

「ごめん。気分が悪いからもう帰るね。」

「あ、おい!」

逃げるように教室を出ていく山咲を呆然とクラスの男子達が見ていた。

 

 

とある学生寮の山咲の部屋

 

学生寮の部屋に帰って来た山咲はベッドに転がりながら、先ほどの上条の言葉を思い出していた。

「自分の目で判断するしかない・・・・か」

自分は、上条や青髪、土御門の目にはどう映っているのだろうか。

そんな事をふと考える。中学までは、噂で自分の事を知った人間達が多く襲い掛かって来た。

返り討ちにした後は、そんな自分を見て『化け物』と怖れ、怯えた目を向けてきた。

噂を聞いて『倒してやる』と判断した人間が、倒された後に自分を見て怯えていたわけだが、自分の噂と現実には、どのくらい差があったのだろう。

削板軍覇は、予想していたよりも遥かに強く、そして、やはり想像していたよりも人間らしい存在だったと思える。

削板が怒ったのは、自分が必要以上に相手を傷つけていたからだ。

他人のために、怒るというのは、山咲にとってはとても崇高な事に感じられる。

何しろ、山咲は他人のために怒った事がなく、漫画や映画の中でしか見たことのない存在だったから。

(俺は、どうなんだろう?)

(もしも上条君や削板君が誰かに傷つけられたら・・・。あそこまで怒る事ができるんだろうか。)

(会ってまだ日が浅いから、無理かもしれない。)

(でも、時間なんて関係あるのかな?)

(あるんだとしたら・・・・俺はこの先、もっと多くの人と友達になれるのかな。)

(情報って怖いなあ。)

山咲はこれからの不安を抱きながら静かに目を閉じた。

 

 

翌日の夕方

 

山咲は一人で学校の帰り道を歩いていた。

「おーい、山咲。」

後ろから上条が走りながら近づいてきた。

「・・・上条君。」

「どうしたの?」

「それはこっちのセリフだっつうの。どうしたんだよ、お前昨日から変だぞ!」

「別に何でもないよ。」

「何でもなくねえよ!!お前今日一日中顔色が悪かったじゃねえか。心配したぞ。」

今の上条は本気で山咲を心配する顔していた。

山咲の顔を真っすぐ見ながら上条は、

「何か話してくれよ。俺たち友達だろ!!」

(友達・・・・・・)

「わかったよ。」

山咲は自分の過去や削板と喧嘩した事、そして自分の抱えている不安を打ち明けた。

上条はそれを削板と同じように聞いていた。

 

「なるほど。それでお前は悩んでたってわけか」

山咲の告白を聞いた上条は、落ち着いた様子で口を開いた。

「実は俺もさ・・・似たような事を昔言われた事があるんだ。」

「えっ?」

「疫病神さ」

上条は自分の過去の事を山咲に話し出した。

「俺は生まれ持ち『不幸』な人間だった。だからそんな呼び方をされたんだろうな。分かるか、山咲。それは何も子供達の悪意のないイタズラだけではなかったんだ。」

「大の大人までもが、そんな名で俺を呼んだんだ。理由なんてない。原因もない。俺は、ただ『不幸』だからというだけで、そんな名前で呼ばれていたんだ。」

山咲は、息を呑んだ。

上条から、少し表情が消える。

「俺が側にやってくると周りまで『不幸』になる。そんな話を信じて、子供達は俺の顔を見るだけで石を投げた。大人達もそれを止めなかった。体にできた傷を見ても、哀しむどころか逆に嘲笑った。何でもっとひどい傷を負わせないのかと、急き立てるように。」

山咲には、無表情に言葉を紡ぐ上条の表情が読めない。

押し殺す事も出来ないほどの渦を巻く激情が隠れているのだろうか。

「俺が側から離れると、『不幸』もあっちに行く。そんな話を信じて子供達は俺を遠ざけた。その話は大人までもが信じた。そして、俺は一度、借金を抱えた男に追いかけ回されて包丁で刺されたんだ。話を聞きつけたテレビ局の人間が、霊能番組かこつけて、誰の許可もとらずに俺の顔をカメラに映して化け物のように取り扱ったこともある。」

オレンジ色に染まる空は、地獄に燃える炎のようだった。

「それが理由で両親は俺が幼稚園を卒業するとすぐに学園都市へ送った。恐かったんだよ。『幸運』だの『不幸』だのじゃない。そんなものを信じる人間が、さも当然のように俺に暴力を振るう現実が」

「恐かったんだろうな。あの迷信が、いつか俺を殺してしまいそうで。だからこそ、そんな迷信のない世界に俺を送りたかったんだ。」

「それでも、以前のような陰湿な暴力はなくたったけど。この科学の最先端さえ、俺は『不幸な人間』らしい。」

 

  上条の顔は笑っていた。

 

「ああ、確かに俺は不幸だった。」

「この数年間、何度も死にかけたよ。クラスメイトを一列に並べりゃ、こんな不幸な人生を送ってんのは俺だけだろうさ」

「でもさ、俺はたった一度でも後悔しているなんて思ったことなんてない。」

「俺は色んな事に巻き込まれたさ。きっかけはほんの偶然が重なった『不幸』によるものだった。でも誰かを助けたり、救いだしたときに見たんだ。一人分の世界を救った瞬間に。」

「ただの自己満足かもしれない。確かに俺が『不幸』じゃなければ、もっと平穏な世界に生きていられたと思う。」

「けど、そんなもんが『幸運』なのか?自分がのうのうと暮らしている陰で別の誰かが苦しんで、血まみれになって、助けを求めて、そんな事にも気づかずに!ただふらふら生きている事のどこが『幸運』だって言うんだ!?」

山咲は、声を上げる上条を驚いて見た。

「惨めったらしい『幸運』なんていらない!こんなに素晴らしい『不幸』があるのだから!この道は、ずっと歩く。これまでも、これからも、決して後悔しないために!」

「幸運」なんて欲しくない。すぐ側でみんなが苦しんでいる事にも気づけずに、ただ一人のうのうと生き続けるぐらいなら、「不幸」に苦しむ人々にいくらでも巻き込まれてやる。

だからこそ、上条当麻は言う。

「『不幸』だなんて見下すな!俺は今、世界で一番『幸せ』なんだ!!!」

おそらくは、笑みを浮かべて。

獰猛で、野蛮で、荒々しく、上品の欠片もない、けれど、確かに最高に最強な笑みを浮かべて、上条当麻は、宣言した。

「・・・・、」

山咲は、言葉が出ない。

「っと。すまねえ、ちょっと熱くなっちまったな。」

「いや、大丈夫だよ。」

空を見上げて、山咲は小さな溜息を吐きだした。

 

「世の中って、俺の知らない事ばっかりだな・・・」

 

情報に踊らされる以前に、自分は世の中の事を何も解っていなかったような気がする。

山咲は軽く握りしめた拳を見つめながら去年までの自分を思い返した。

『世の中なんてこんなものだ』

そう考え、希望を持たず、絶望もせず、ただ何となく生きてきた。

どう足掻いても化け物呼ばわりされることから逃れなかった自分を疎ましく思っていた。

だが、今日聞いた上条の歩んだ人生は、自分よりも遥かに凄惨だったのではないか?

(俺はただ、人を傷つけただけだ。)

(それなのに俺は、周りのせいにして、ただ拗ねてただけなんじゃないか?)

(上条君は、傷つけられて、ずっと我慢して、それでも諦めなかった。)

ただの運のないお調子者というイメージしかなかった上条について、山咲は素直に尊敬の念を抱く。

(君は凄い奴なんだな。)

(無い物ねだりしてただけなのかな、俺。)

自己嫌悪に陥りかけた山咲は、包帯が巻いてある拳を見ながら思う。

(削板君と殴り合った時、生まれて初めてこの世界は楽しいと思った。)

(削板君は俺の事を『普通』だって言ってたけれど。本当に俺は)

「ねえ、上条君」

「なんだ?」

「俺みたいな、ただ行動で化け物化け物って言われてる中途半端な奴は迷惑なだけなのかな?」

山咲は今にも泣き出しそうな顔をしていた。

「なればいいじゃないか。」

上条は数秒間目を瞑った後に答えた。

「・・・・え?」

それは、予想外の言葉だった。

「化け物になる事を怖れるな。」

「例え俺と同じような『疫病神』になったとしても・・・・それでも、お前はお前だ。」

「世界は広い。人生を信じろ・・・・なんて偉そうな事は言えねえが・・・・例え化け物だろうと、お前を信じてくれる奴や、お前を愛してくれる奴は、きっとどこかに居る。俺や土御門達のようにな。」

上条の頭に浮かぶのは不幸である自分を愛したり信じてくれた両親や先生、友達。

「俺を・・・・信じてくれる人?」

「ああ。俺たちを信じる事を諦めない限り、お前は人であり、化け物でもあり・・・」

「お前はずっと、山咲主税だ!!!!」

「あ・・・・」

上条は笑っていた。

ただそれだけの事で、十分だった。

上条の言葉は、山咲が前に進む為の『きっかけ』、恐らく最高のものだった。

「ねえ、上条君。」

「何だ?」

「俺さ。暴力しか、取り柄がないと思うんだ。」

「・・・・」

「俺は、上条君みたいに強くない。それこそ、いつも現実から逃げてばっかりだった。」

それは山咲の本音だった。

上条の過去を知った今、自分では彼のようにその過去を乗り越えてはこられなかったかも知れないと考える。

上条は心が強い。しかし、自分は心が弱く、ただ、たまたま暴力の才能があっただけだ。

「だけど・・・・なんていうのかな、こんな俺が世界とまた繋がれるきっかけがあるとすれば、やっぱり、暴力しかないんだろうなって思ってる。」

「お前・・・・」

「うん、俺はきっとさ、頭がイカレてるんだよ。」

どこか吹っ切れたように笑うその笑顔は、上条が初めて見る、山咲の最も生き生きとした表情だった。

   「だから、せめてさ・・・後悔がないように生きたいんだ。」  

「俺は、何が正しいのか解らない。これから少しずつ覚えていくよ。」

そして、包帯だらけの自分の手を強く握りしめ、上条に断言した。

「だから、俺はみんなの代わりの手になるよ。上条君や土御門君達、そして困っている人たちがいたら、それを守る為に拳を振るう事にする。」

「・・・・よく、照れもせずにそう言う事言えるな。」

「上条君に言われても。」

「違いねえ。」

二人とも少し照れくさそうに笑った。

「てか、俺たち友達なんだからよ。君付けはやめねえか?」

「それもそうだね。それじゃあ帰ろうか、上条。」

「ああ。」

 

一週間後、昼休みの教室

 

「顔を隠す道具はないかって?」

山咲は人助けの時に顔がバレて自分の周井の人間に迷惑を掛けないように顔を隠す道具を探していた。彼の臆病なところは相変わらずである。

「うん。何かいい変装グッズみたいなものはないかなって」

先週のことがあり、より一層話しやすくなった山咲に対して上条は紙パックのフルーツ牛乳を飲みながら答えた。

「そう言えば、青髪が駅前のディスカウントストアで面白い物を見つけたって言ってたな」

「わかった。ありがとう。早速、青髪に聞いて放課後に行ってみるよ」

「おう」

 

その日の放課後、山咲は第七学区の駅前のディスカウントストアに来ていた。

(あった!!これだ。)

山咲は仮装グッズコーナーで青髪が言っていたお目当ての物を見つけた。

それは、影のように真っ黒な手袋とマフラーだった。

それらが入っているパッケージにはこう表示されていた。

 

 

『怪人スネイクハンズなりきりセット』

 

 

『怪人スネイクハンズ』は数年前に放送された特撮のヒーロー番組だ。

運び屋の主人公が様々なトラブルに巻き込まれ、全身を黒い影に包まれた『怪人スネイクハンズ』に変身して活躍すといったものだ。リアルに再現され、売り出されるも人気は微妙と言わざるをえない仮装セットだ。

 

 

山咲は何か運命的な物を感じ、迷わずレジに向かった。

 

完全下校時刻を過ぎて夜になり、山咲は第七学区の街が見渡せる高台に来ていた。周囲に

は人がおらずこの仮装グッズを試すのには絶好の場所だった。

(普通に首に巻いたり、はめたりすればいいんだよね?)

山咲は恐る恐るそれらを身体に身に着けた。

すると、どんなカラクリなのか山咲の全身を影のようなものが包み込んでいった。

「!?」

今の山咲は黒い影そのものだった。ソレは、ドライアイスの煙のように蠢く影が、そのまま人の形として立ち上がったかのように思える。

次の瞬間

 

 

「———————————————————————————————————————」

 

 

そして、ソレは夜の街を駆け抜けていった。

 

 

柵川中学の一年生でセミロングの髪に桜の髪飾りが特徴の佐天涙子は数人の男たちに絡まれていた。

友達と遊んでいたために日が暮れてしまい、近道をしようと裏路地に入ったらスキルアウトがたむろしていたのだった。

(もう〜・・・どうしてこんな目に)

「なあ、お兄さん達と一緒に遊びに行かない?」

「恐くないからさ。気持ちよくなるだけだから。」

佐天の腕を掴むスキルアウト。

「ッ!?やめてください!!」

強気で訴えるが、スキルアウト達は下品な笑いをしながらいやらしい目で佐天を見る。

「いいから来いって言ってんだろうが!!」

ついに声を上げるスキルアウト。

(誰か・・・誰か助けて!!)

涙を浮かべながら願う佐天、そして、

「なんだ・・・・、ありゃ!?」

全員がそのスキルアウトの向いた方向を見た。

そこには、影を纏った異様なものが立っていた。

その場にいた全員は圧倒的な恐怖を抱いた。

恐怖に耐えかねたスキルアウトの一人が、ソレに向かって鉄パイプを投げつけた。

「なんだぁテメェはぁ!?」

だが、ソレは飛来した鉄パイプをあっさり掴み取るとそのまま、異様なスピードでスキルアウト達に近づいていった。

「死ねこらぁ!」

男の一人が殴り掛かる。だが、ソレは拳を紙一重で躱し、手首を握ってそのまま相手の身体を捻り倒す。

「ぐぁっ!?」

「んだっ!っらぁ!」

言葉にならない怒声を上げ、次々と襲い掛かるスキルアウト達。

しかし、あっさりと叩き付せられていった。

「あなたは一体?」

「俺はただの化け物です。」

ソレは漆黒の闇夜に消えていった。

 

 

山咲は先ほどいた高台に戻っていた。

(不思議だ。)

(この影を纏ってると・・・・いろんなものが、怖くなくなった気がする。)

自分が化け物でも構わないと受け入れ、影を纏った瞬間、山咲の中から『怖れ』は綺麗に消え去っていた。

それは、彼にとって重要なこと事である。

恐怖するからこそ、彼はどのような相手にもやり過ぎてしまう傾向があった。

しかい、薄らいだ恐怖は心に余裕を生み、自然と力を加減することができる。

影を纏っている影響なのか、それとも、上条の言葉が身に染みついたのか、あるいはその両方か。

理由は解らないが、山咲は完全に化け物として振る舞っているこの瞬間・・・確かに、恐怖から解放されていたのである。

削板軍覇と全力で喧嘩をした時とは、また一味違う達成感にあふれていた。

こんなものは錯覚に過ぎないだろう。

誰かの為だろうとなんだろうと、暴力は暴力だ。自分はただ、あの娘を言い訳にして人を殴ったに過ぎない。

それは解っていたが、それでも、山咲は嬉しかった。

悪人でも化け物でも、偽善者でも構わない。

ただ、自分の意志を伴って『化け物』になれたことで、今まで閉じ込められていた世界から一歩外に出られたような気がする。

初めて己の人生を肯定できたような気がして・・・・

山咲は再び、空に響く雄叫びを上げた。

 

こうして、この夜

『化け物』が、派手な産声を学園都市の街に響かせたのである。

その産声は、ネットを駆け巡り——

僅か一日足らずで、一つの「都市伝説」として語られる結果となった。

まるで街そのものが、その怪物の存在を喧伝しているかのように。

 

 

正義の英雄(ヒーロー)!!スネイクハンズ

学校の帰り道、スキルアウトに襲われると何処からか正義の英雄(ヒーロー)スネイクハンズが助けに来てくれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




少し改変しました。
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