ポケ×ぎじ 蒼鋼少女   作:緋枝路 オシエ

13 / 73
フエンタウン編突入です! 大事な章になります。


Segment・tetra――旅路

ジック達がミナモ民宿跡地の、地下に広がる謎の電脳空間から、メタグロスの少女を発見し一ヶ月が経過。

 

 帰省やお祭り、虫取りに海水浴、思い出作りのキッカケが目白押しの八月の猛暑に、氷ポケモンや水ポケモンの一部から弱体化まったなしの悲鳴が聞こえているのだが、レトロ列車の窓際に座って涼風を受けているマニューラの少女、ネリも例外ではなく、吹き抜け構造で風通しが良いログハウス内でも、ご当地ゆるキャラみたいに「ぐで~ん」ならぬ「まにゅ~ん」と、干からびるか溶けかかっているかの二択の姿で、テーブルへもたれ掛かっている姿が確認されている。

 

「ネリちゃんは寒冷地出身ニャからね……暑さにはあんまり強くニャいのニャ……それでも温泉は楽しみニャし……あぅぁう~~……バテバテのグダグダニャ~~……」

 

 お仕事中やバトル中、光り物と聞けばやる気を取り戻すが、そうでなければ九月になるまでケッキングまでは行かなくても、ナマケロ状態。

 

 自らの力で生成し、殺傷力をぐぐ~んと落とした氷のナイフ(つぶての応用)で頬をセルフペチペチしたり、着衣水泳も快適に行えそうな常時三角形を形作る中心部へ、挟み込んでも十秒足らずで水の分子に分解され、その場凌ぎにしかならない。というより裂けないのかが気になる……

 

「だ~らしないんだからもうっ、これだけ肌色面積多い衣装なのに、暑がってんだから裸になるしか無いんじゃない? 家に居る時はメコンが作った氷菓ばっかり食べてるのに太らないって、ちょい羨ましいぞ~~!」

 

 ファスナーを胸骨まで下ろし、前開きした胸元へは右羽で、左羽では隣で「ぐでマニュ」と化したギャル友へは、静音性を意識し最小限の動作で大型のうちわ役となり、夏の熱さを和らげている。

 

「ネリちゃんお胸以外の脂肪は、すぐに溶けちゃうのが自慢にゃし……太れるモンなら太ってみたいニャぁ……」

 

(くぁぁ……! 私は絶対太りたくないから、毎日体操を欠かしてないっつーのにぃ! このこのこのっ!)

 

 都合のいい体質を所有しているネリへ、脚を伸ばし爪先で脇腹を擽る爽羽佳の柔軟性はポケモン界のバレリーナだ。得意技を繰り出す際のスピニングにも貢献し、カポエラーよりも回転速度は高いらしい。 

 

 ややお行儀が悪い羽娘と、あンあン悶えて「そこは弱いんニャァァ……」と、自分から性……を教えている泥棒娘の前世から続いているであろう、腐れ縁の様なやり取りを見て水中で暮らすランターン種なのに、陸上げされ一週間放置されたコイキングみたいにならず、発光器官もおっぱいも絶好調にピコピコ、わさわさっ、ひんやりお肌はこの熱帯夜に対する最高のアンチテーゼとなり、抱き枕にすれば朝まで特性〝ふみん〟のポケモンでだって、ウトウト瞼を落としかねない。

 

 まぁ、彼女を抱き枕に出来るのは、ご主人様であるジックしか居ないのだけど。

 

 愛用のメイド服は、断熱や遮光効果を備えており、クーラーバッグに等しい保冷力で夏も快適なのだとか。

 

「Zzz……ミ……ノ……」

 

 つい先程まで、車窓に映し出される風光明媚な大自然に、0.二㎝ばかりの身体をぴょんぴょこ跳ねさせながら興奮していたのに、温泉に入る前にもう疲れてしまったのか、冷感寝具変わりにメコンの破壊力抜群だから「H」な、お胸の中心部に奉られている。

 

 ある意味コイツは、ジックよりも羨ましいであろう、クールおっぱい枕を何時でも使用する事が出来てしまえるのだ! 子供だから許されているし、本人も♀ポケの胸の谷間が最も居心地が良いらしく、眠りながら鼻ちょうちんとフーセンガムを交互に膨らませている、五円玉くらいなら投げられる特技を披露しているのが証拠である。

 

「……………………」

 

 そしてもう一つのクール系おっぱい、この暑さにすら眉毛も睫毛も微動だにさせず、四匹の席とは距離を取った場所で列車旅ならではの、見事なフォトジェニックにも目を向けることも無い。

 

 活動エネルギーを失った戦闘マシーン、ミナモシティから専用の列車に乗って二時間近く、一言も喋っていないし微かな動きすら見受けられなかった。

 

「……メタグロス、皆に混ざって会話してもいいんだよ? この車両には俺達以外乗っていないから、汚したりしなければ――」

 

「…………特に、話したいことがありませんので」

 

 まったく、ジックが気を遣っても視線すら合わせないで、最低限の言葉のみで終了させてしまうのは、この子の悪い面だ。

 

 そういう性格なのか、コミュニケーションが苦手なのかは未だにハッキリしないけど、保護されて一ヶ月も過ぎたのだからもう少し共同生活を楽しもうとする意欲が生まれて欲しい物だ。

 

 バトルでは〝半分おや〟のジックの指示には、素直に従い野生や他トレーナーには秘められていたポテンシャルの開花に成功させ、負け知らずの無双パターンに入り一騎当千の活躍ぶり。

 

 勝つ度にチーズドッグを買ってあげる約束なので、人情味の感じられないこごえるせかいな表情のままだけど、両手で好物を持ち一本目は真ん中から、二本目は片側から……色々試しているのか、パチリス並に愛嬌のある食べ方に思わず小声で「かわいい……」と、手持ちと一緒に話題にしてしまった。

 

 当然彼女は無反応、というより聞こえていなかったのかもしれない、食べる事に夢中で!

 

 民宿跡地の異変調査願いを申請した、木の実ジェントルマンを覚えているだろうか?

 

 彼が報酬として手渡してくれたのは「フエン温泉・二泊三日の旅行券」

 

 これ一枚でトレーナー×一、手持ちポケモン最大六匹まで参加可能、三食+おやつ付きで宿代もタダ! さらに宿に備え付けられている自慢の混浴露天風呂に入り放題! 

 

 さらにさらに、期間中なら天国か地獄なのか? 足湯を始め蒸し風呂や砂風呂、放電風呂に霰風呂、毒々風呂に逆鱗風呂など、五百年の歳月を宿しフエンの鼓動を刻む、最凶のツアーにまで参戦許可されている! 全部無料だぁぁあぁ!!

 

 前半はともかく、後半は殺す気満々にしか思えず、本当にこの世の裏側まで体感しかねない。

 

 が、概ね好評である。

 

 木の実ジェントルマンは数ヶ月前に、ホエルコやゼニガメ達と温泉巡りをしたばかり、期限内にまた訪れるのは彼のスケジュールの都合などの関係もあり、報酬として不備はないだろうと譲る形になったのだ。

 

 最近バトル漬け(主にメタグロスが原因)だったので、冷房機器による冷え症状対策やデトックス効果もある、夏温泉で芯までゆっくり癒やされたい……ぬるま湯で。

 

 裸の付き合いと言うわけでは無いが、これを機に彼女達の親睦会にもな……るかと思っていたけど、ネリが背中に氷を突っ込んでもノーリアクションのまま、窓の外へ氷をポイッと投げるメタグロスを見る限り、やはり彼女と仲良しになる目的は容易には達成できないらしい。

 

 美味しいという意味を理解出来るようになったり、バトルに勝てば何処となく高揚しながら次なる相手を求めたり。

 

 何の感情も抱いてなかった初対面と比べて、感性はそこそこ育ってきている。

 

 が……まだまだ、足りていない物だって多いのが現状であると、一歩も二歩も引いており積極的に関わりを持とうとしていない、離れた場所に座っている姿で一目瞭然。

 

 空気を読んだり誰かを思いやる心を、養って貰いたいけど〝半分手持ち〟が災いして、無理強いは出来ない立場である。

 

 例えば手持ちを罵ったり、意味も無くログハウスの私物を破損させる行為があれば別だけど、その様な事は起こっていないので。

 

 賢すぎる頭脳を持つメタグロスの少女は、怒られず追い出されず、最低限の防衛ラインを把握し超えない範囲ならば、仕方なしに皆へ合わせる事をも覚えた。

 

 席を離れる程度なら五月蠅く言われない……そう思っているのかもしれない。

 

 世界的にも有名な温泉町、湯煙立ち並び郷愁漂う釜炎の地には、信じ難いが伝説のポケモンとして数えられるかこうポケモン、ヒードランの目撃情報が「わりと」あるのだとか……!

 

「一番新しい情報によると、マグマ温泉に浸かってのんびりしていたらしい……裏口からだけど料金も置いてあったし、凄く親近感湧く伝説だなヒードランて……」

 

 周囲の気温が急激に上昇し、まさか……何名かのトレーナーが露天風呂に入り込んだだけで熱中症となり、辛うじて残った最後の一人も

 

「女の子の裸見たなーー!! 伝説だって見られたら恥ずかしいんだぞバカー!!」

 

 金は払ってるが理不尽すぎる主張……この間出現したヒードランは男性であったのに……

 

複数個体居るのは知っていたけど、よりによって巨乳の女の子のアレやコレや、覗いてしまった罪はマグマストームを無抵抗のまま食らうことで償われる。

 

 やはり理不尽だ! ていうか伝説のポケモンが繰り出す専用技なんて、耐えろって方が無理なのだが。

 

 煮えたぎる猛炎の渦に閉じ込められた影響で、ボイラー室が破損してしまい後日、鋼を削り出して作った修理費用百万円を内蔵したケース、そして菓子折を手渡しながら「また温泉入れてください……」とやたらペコペコする、伝説の後ろ姿にクエスチョンマークが付与されかねない親和性を見せて、また彼らを混乱させてしまったのだが……金と菓子折は何処から手に入れたのか、細やかな疑問も永遠に火口の中。

 

「伝説のポケモンさんも様々な価値観をお持ちなんですね……私達が出会ったことのあるギラティナさんとは正反対ですね……」

 

 自ら存在を徹底的に消去し、たった一つの伝承を除いて痕跡が無かった、はんこつポケモンのギラティナは、反物質を司る神。

 

 事情があり謁見する事態になってしまったが、大昔は相当な暴れ者だったと誰も知らないエピソードを「内緒にするならばよし」と恥ずかしがりながら教えてくれた少……いや、幼女。

 

 パッツンなボディースーツのヒードランといい、あばら骨を模した白銀色の突起物で大事な部分だけ隠したギラティナといい、どうも伝説のポケモンが人化したら青少年へ悪影響だ。

 

 ギラティナに至っては後ろを向けばお尻丸見えです、せめて翼で隠すとかそういう配慮はして頂きたい。

 

 スケベな格好をしなければならない我々の概念を超過する独自ルールでもあるのかもしれない。

 

 ギラティナが過去を語っている際に、恐れ多くも手持ちの皆が【過去の行いよりもその格好を恥ずかしがって】と、心の中は完全一致していたのは言うまでも無い。それで堂々とした佇まいで、神としての威厳だけはやたらあるのだから困る。

 

やぶれたせかいで、今もジック達を覗き見……いや、見守ってくれているのかもしれない。

 

 ジックや手持ちのメンバー達は、依頼でフエンを訪れたことはあるが、忙しかったので温泉には入れず仕舞いで切ない思いをした経験がある。

 

 理論上はそらをとぶを使えば、何時だって辿り着けるけど列車を使ってこそ旅路、時には風情を感じるために回り道だって一興だ。

 

 ……メタグロスの少女が知ったら、非効率的だと温泉が凍えるくらいの冷淡なまでに、突き放す言動をぶつけてきそうだが。

 

タタタン、タタタン……銀河鉄道でもしちゃいそうな、レトロモダンで何世代も旧型の列車は、途中下車しないフエンタウン行き専用車両。

 

 

 徐々に速度が落ちていけば、そこは情緒と浴衣と熱気に溢れた温泉町――――――

 




一匹くらい身近な伝説が居たっていいよね
伝説のポケモンを捕獲する、ストーリーにはならないですよ

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。