誰でもお金を手に入れられるけど、視線が合っただけでバトルになるとか、シビア過ぎる世界観だ...ニックネームは、よく考えたポケモンもいれば、フィーリングでパッと決めたのもいます。トレーナーもね!
昼食を食べ終わって一息付いた十四時過ぎ。
低価格で非売品で回復道具と互角の、飛び抜けた効力を持つが「苦すぎて懐き度が下がる」は、オマケと片付けるには見過ごせない強烈な副作用。
基本的にポケモンを苦痛にたらしめ、快感を得ようとする性癖のトレーナーは、政府から問題視され改善、及び再三の注意も聞き入れなければトレーナー権利の剥奪となってしまう、共存法がポケモン人化現象が起こった数年後に、制定されるに至った。
苦い味が好きなポケモンですら、トラウマになってしまう漢方薬。
東方より伝わった医学が受け継がれ、独自に発展させて来た技術を振るうのは、極々一部の政府認定トレーナーや、研究者のみになってしまった……
カンポー職人は元より、肩身が狭く「ポケモン虐待だ」という意見が注がれ、人化が発見されて以降はさらに売り上げが落ち、貴重な弟子も全員足を洗ってしまいホウエンではたった一人の職人となってしまった。
それでも温泉よりも熱い人情を持つ、フエンに住まう人々から「あなたは絶対に必要な方」と勇気づけられ、例え弟子が居なくとも命尽きるまでカンポーと携わり未来に活かせる様になればいいと、門外不出であった調合・製造・管理法を提供し、その名を後生に遺す偉大なる漢方医として、ポケモン界で称えられる事となる。
……そんなカンポー屋さん――外観は町のどの民家よりもこじんまりしている――の近くを「タンポポ茶(タンポポ抜き)」……ようするにポポッコをイメージし、山吹色と若草色のビタミンカラー彩色がなされただけの、タンポポ茶と名付ける必要性が分からないお茶で入らずとも保温効果が高まる身体を冷やしながら、ゆるやかに散策していたジック達一同は、フエンタウン初のトレーナー戦を申し込まれた。
温泉町だとか、ここのところバトル三昧であったとか、トレーナーにそんなの関係ない。
視線が合ったらバトル、したくなきゃ足下だけを見る、トレーナースクールの最初の授業で習う基礎の基礎だ。
トレーナーの気配がする……のに、〝それ〟をせずに歩いていたと言うことは、言葉にせずともジックや手持ち達は受け入れる準備が整っていたに他ならない。
「俺達はバトル、いつでもOKです」と、雰囲気で語る。
じゃあ遠慮無く……! それが太ましい体格で、額にはこの町で最も繁盛している温泉宿の柄が入った手ぬぐいを巻き、勝負前動作が土俵入りの四股踏みであった【ズナミヨ】
あの手ぬぐいを巻く理由は、番頭の息子であり自分の家でもある大規模な温泉宿の宣伝になるからである。
「お前ジックって奴だろ? フエンに来てくれるとは嬉しいぜー! 噂は聞いていたよ、バトルしてぇなってさぁ! 依頼としてメッセージ送る前で良かったぜ!」
「それはどうも! 手持ち二匹の交代制でいいでしょうか?」
「いいぜいいぜー! 煉獄風呂よりも煮え滾らせてくれよなッ!? いけぇ! ぎゅうた!」
人柄が良くとても友好的に接してくれるズナミヨ。下手に嫌われる行いをすれば、自分ちの評判に影響が出てしまうだけに、礼儀や言葉遣いには細心の注意を払うようにしている。
だがっ、バトルとなれば礼儀も上下関係も話は別っ、己と手持ちの全てをぶつけっ、そして勝つっ!
「てっきりハリテヤマを使うのかと思ったが……いけっ、爽羽佳! とんぼがえりだ!」
かつてポケモンリーグで大活躍し、「闘神」の異名を与えられた、あばれうしポケモンケンタロス。
数多くの新規ポケモンやわざが発見された現行では、影が薄まってしまい全盛期ほどの強さは持たないが、各地に熱狂的な信者が根付いており栄光を再び物にしようと、ケンタロスと共に頑張るトレーナーは多い。
ぎゅうた と言うニックネームは初期のリーグで、特に活躍したケンタロスのニックネームと同一。
ズナミヨも歴代リーグを記録した盤面を拝見し、その大人気っぷりに心を打たれたトレーナーなのだろう。
なにせ出場トレーナーの百%が、ケンタロスを使用していたくらいなのだから……
「逃げやがったなァッ! ンモォー!」
三本の尻尾をムチ代わりに、自らの身体を叩く事で闘争心を震わせているので、ケンタロス種は気性が荒い個体だ。
ぎゅうたの角は平均よりも明らかに太い周囲を持ち、力強く湾曲した形は彼方から垂直落下してきた三日月その物。
些か大きくなりすぎてしまい、突進力は強化されたが軌道修正が難しく、習性としてはマッスグマに近い。
どうやって当てるかがキモなのだが、飛行タイプの爽羽佳は戦術や育て方の関係で相性が悪い。
対空技のストーンエッジや、今となってはダメージに期待できず奇襲の枠から外れないであろう、かみなりも覚えさせているが、ここは交代で現れたポケモンへ一撃を食らわせてから、自分もぎゅうたを交代するべきか……
「いかく持ちじゃ~~ん! 私も得意じゃないから交代交代! 出ただけで攻撃下げるとかズルい~~私もほしー!」
慣用句から拝借した技名、とんぼがえり。
命じた瞬間、もの凄いスピードで相手にぶつかり、その身を翻しUターン。相手が鋼だろうが岩だろうが、トランポリンで弾かれる感触になるとは興味深い。
ぎゅうたは数あるとくせいの中でも、「場に出ただけで効果がある」強い安定感と戦場影響力をもたらす、いかく。
シンプルが故に強い、シンプルだからこそ強い。
開始直後で有無を言わさず、物理型のポケモンに対しての有利回答となるのだから、例え弱点の物理格闘技を食らっても一撃で、ケンタロスが落とされるケースはまず無い。
ポケモンバトルでは、相手の攻撃を一回耐えるか、耐えないかの違いはそのまま勝敗を決する。
まけんき、と言うメタ的なとくせいを持つポケモンも居るが、その点を加味しても味方のサポートにも繋げられる強力さであるのは間違いなし。現に爽羽佳は、物理タイプのわざしか所持していないので、急所に当てなければダメージはこそばゆい物だろう。
……だからこそ、基本ステータスが高火力物理アタッカーなのに、クリアボディで相手からの攻撃低下を無効化してしまうメタグロスは、どれだけ「つえー!」ポケモンか三歳児にだって理解出来てしまう。流石は子供達のヒーローだ。
ケンタロスのシルエットが見えた段階で、交代を決めていたジックはモンスターボールをキャッチ、変わりにメタリックな光沢を意識して製造されたタイマーボールを、前方へ投げる。このスピーディーな洞察力は八年間の賜である。
「マニュハハハッ! 当たらなければどうと言う事は……ニャい!」
逃げも隠れも……その言葉はこの子に通用しない。勝つためなら逃げるし隠れるし、虚を突き泣き喚いてでも油断を誘う。
「ほい~ニャ」
「あっ゙! テメェ!!」
わざわざ角を掴んで、体操競技を意識しながら両脚をモロに広げ側転。
荒れ地フィールドなのに、耕す勢いで突進して来たぎゅうたの、すてみタックルを余裕綽々に回避。
相手よりも精神的優位に立ち、場の流れを取り戻そうとする煽りも忘れない。
「防御は紙っぺらニャけど、変わりに素早さと回避性能が高いキャラなのがネリちゃんニャ。バランスを崩す程じゃあニャいんニャ~……よッ!」
一体誰に向かって呟いたのか、何処へ対してウインクしたのか。
ニューラから進化して、わら半紙からダンボールくらいにはなったかもしれない。
それは兎も角として、短気なぎゅうたは早くもお怒り心頭。
攻撃力は上昇(した気がする)が、肉体ではなく精神に訴えてくる相手とは分が悪いと、判断してズナミヨ側も交代を決意。
「次はコイツだ! 偶然だがお前のマニューラとは爪仲間だぜっ!」
交代際に一撃を浴びせてやるっ、瞬間的な加速性能、物体の位置変化量ではジックメンバーでも、ぶっちぎりなネリは主力技である、つじぎりを繰り出した。
……のだが、相手の後続ポケモンはダメージを受けることは無く、ツメをツメで受け止めていた。
「こうして出会ったのも眼で捉えられない、縁と縁が結びついたからだ。俺のツメとお前のツメ、交わったこの日を……」
敏捷な身のこなし、研ぎ立ての鉤爪は鉄板も軽々と引き裂き、自らの全身にも永遠に癒えぬ戦いの記憶を細胞として残す。
「忘れられない様にしてくれっ! きりさくっ!」
不規則な傷跡は返り血を浴びたかの様に真っ赤、これが永遠の宿敵として義務づけられた、ハブネークの血で上書きされれば歓喜雀躍……ネコイタチポケモンのザングース。
常にふてくされた表情、あまり等身が高くなくポチャ付いたお腹周り、残虐的な性格だが弱い者虐めはしない、本来の姿でも獣人的な容姿でその手の嗜好を持ったトレーナーを胸キュン。
人化現象が起こっても、ザングースを使うトレーナーは本来の姿七・人化三の割合の統計がある。
勿論ザングース本人が望むなら別だが、人化を好まれる方が珍しいポケモンなのだ。
ジックも人化したザングースを見るのは、ご無沙汰になってしまう。持ち主であるズナミヨと似たり寄ったりの体格は動けるナントカ……
「エスパーダ、もう一度きりさくだ!」
「ネリもきりさくで応えろ!」
エスパーダとニックネームを授けられた♂のザングース。
無論、ぎゅうたは♂しか存在しないので♂。人化したって♂ったら♂。
ツメにはツメ、きりさくにはきりさく。
「どっちのが練度が高いか、明るみになっちまうけどいいのかニャ?」
「その余裕なセリフ、何発目まで続けられるかなっ?」
二匹は爪劇俳優だったのか、仕組まれた手順通りに攻撃側と防護側がシャッフルされ、どちらもダメージらしいダメージは無い。
マニューラとザングースは、耐久力が低いポケモンだが、まさかの持久戦に突入するのか?
……ここで拮抗が破れる突然の事態がネリを襲った!
「ニャわッ゙!? なんなんニャァ゙~~!?」
「チャ~ンス! 十八番のブレイククローを食らわせてやれぇ!」
「ハイよぉー!」
爪を交わし互角の戦いを繰り広げていたネリだが、エスパーダからまるで後光を連想させた神秘的な光が放たれた……と、捉えるも別の技を使用した形跡やモーションなどは皆無だった。
「マニャア゙ア゙ッ゙~~! おおお、親父にも切り裂かれた事ねェのにニャァァ!!……親どっちもいニャいけど☆」
暗闇の部屋で突如フラッシュを焚かれてしまったに等しい、写真写りを誰よりも気にして絶対に眼は瞑らないネリが、一瞬だけだが過剰なまでの閃光で視界を塞がれ反射的に目を瞑ってしまった。
一秒から二秒の間。上級トレーナーならば手持ちへ次の指示を下すのは難しくない。
裂くよりも壊す、命中させた対象の防御力を擦り減らしてしまう発見当初は、ザングースの準専用技とされていたが……そんな事は無かったので、資料が再発行された筆舌に尽くしがたい エピソードを持つブレイククロー。
それほど威力がある技ではないが、タイプが一致し攻撃力自慢のザングースが扱えば、軽視できないパンチ力かつ、耐久型のポケモンは食らいたくない防御力低下のデバフがプレッシャーを与える!
受け止めるには女の扱いがなっていない、ゴツゴツメットと同じだけ無視出来ない追加ダメージを背中から受ける。えんとつやまが近い影響もあり一部は舗装されず、二足歩行のポケモンはモロに急峻や乾燥された地形の影響を受ける。
「背中もいてーニャ!……ゲージが一気に赤って感じニャア……!」
パーカーを被り直してビキニも……よし、ズレてない解けてない破けてない。
「まほうのビキニ並の性能を誇るから、そう簡単に壊れちゃ堪らニャーよっ!」
「そんなつもりは全く無いが、俺の爪でも破壊出来んとはどんな材質なんだ……」
「乙女の秘密~ニャ! 勝てたら教えてやらニャーこともねぇニャ! きりさくぅ!」
腰と目線を落とし、攻撃対象との距離を縮める瞬発性は、メタグロスの少女ほどではないが小柄体型に似つかわしくない、Dの巨峰が置いて行かれないか心配になる出力単位。
獲物を追い詰める場合のみならず、普段は四本脚ので活動するザングース種。
宿敵のハブネークと対面、または怒った時は常時二足歩行となるが、人化しても四つん這いでダッシュする方が彼は慣れているのだろう。
再び爪と爪の連撃、勝ったら直に触らせてやるだの、体力では劣勢でもう一撃浴びたら確定ダウンするのに、デカい口たたけるネリは何があっても勝つつもりなので、少しでも油断を誘える手段があれば即時実行。
単純馬鹿かと思えば(失敬)その場凌ぎから、緻密な策略まで……何処までが本当の「作戦」であったのかジックでも、逆に彼女の行動に引っ張られてしまう、妖しい感覚に陥ってしまいかねない。
(ひかりのこな持たせておいて良かった~! 海外のお客さんからの贈呈品だけどな……持たせた事も忘れてたし……)
ズナミヨの戦略……ではなかったらしいが、口に出していないのでバレてない。
昔は伝説のポケモンの身体や体毛の一部から、摘出されている激レアアイテムとして有名だった、敵の命中率を少し下げる効果を持つ惑乱の光粒。
近年ではケムッソが稀に所持していたり、バトル施設の景品になっていたりと、価値は暴落し「なぜケムッソが所持をしているのか?」を論議として、タマムシ学会や各地の研究機関施設は躍起になって調べるも、未だに謎のまま。
発生確率は低く、作戦に食い込ませるには信頼性に欠けているが、どんなポケモンに持たせても効果があるのでジックも想定外であった。基本的に相手のポケモンがどんなアイテムを持っているのかは、発動しなければ分からない。戦いの際になんとなく察っせるケースもあるが、今回は判明した時には遅かった類だ。
(あのザングース、エスパーダは気がついてない! 今度はネリの番だって事を)
果たしてこのまま狡猾シーフ娘が、何も仕掛けずに終わるだろうか?
ネリの「したい事」を心で感知し、刻が訪れるまでは
爪を武器とする者同士の対決で、何処か充実感を得ているエスパーダには悪いけど……
「むがっ゙!? なんだッ!? グァ゙ッ゙!? ぶはっ……!」
四回目のきりさくを終え、予測よりも若干早くその刻は来たり!
「なえぇぇ! どうしたんだエスパーダァ!?」
再現映像か、今度は逆にエスパーダが神聖な光を放ったネリの姿に眼が眩んでしまい、リターンさせようとした爪の動きを止めてしまった。
その隙を逃すネリではない!
ノーマルに効果抜群な下段回し蹴り、ローキックで足下(ていうか膝)にお見舞いしてやり、素早さを低下させられてしまったエスパーダは、あのチビっ子から突然宿敵に似た波動を感じ取り、直撃を抑えながら毛を逆立たせ憤怒する。
アイツ、腹の底にハブネーク飼ってやがるッ!
「マニュハハハ……気がつかなくても仕方ニャーよ? ネリちゃんの盗みの腕前は盗賊王よりも華麗に、音も無くパクっちまうからニャ~~!」
まるで自分が最初から所持していたアイテムを魅せ付ける様に、片手でセルフキャッチしながら税に入ったドヤ顔を向けるのだって、勝利への一押しとなる。
あのチビ助……急いで自分の持ち物を確認したエスパーダだが……ないっ! ないっ!
「お前っ、俺のひかりのこなを盗んだのかっ……! い、いつの間に……ハッ!?」
エスパーダがギミックに気がつくと同時に、ズナミヨも警戒心が足りていなかったと心の中で手持ちへ謝る。
マニューラのとくせいは二つ、プレッシャー、そしてわるいてぐせ、だ。
自分に触れた者から、電光石火の早業でアイテムをかすめ取る。
寧ろ「相手の方が無意識に渡してくれる」表現の方が的を得ているのだとか。
ブレイククローを食らった段階なのか、それとも爪激を交わしていた最中なのか、真相はジックとネリにしか分からないが、戦況アドバンテージも盗まれてしまった。
長引かせる事を意識し、わざと付き合ってやった爪と爪の攻防もオシマイだ。
「卑怯だぞお前! その爪で勝負しろよっ! 蹴り入れてくるんじゃねぇ!」
「マニュハハハ! チミが勝手に勘違いしてただけニャ! ネリちゃんは最初からマトモに戦ってやるつもりはポケルスに感染する確率も無いニャ! 勝ちゃいいんニャ勝ちゃ!」
注意:主人公側のポケモンです
正々堂々としたバトルを裏切られた……と思っているのは、残念ながらエスパーダだけであった。
主人のズナミヨもきりさくの応酬で、身綺麗な雰囲気に飲まれそうだったけど、マニューラってポケモンの性質は大体こんな感じである。
「約束をしていた訳じゃないからなっ……! 悔しいが俺達はしてやられたらしい、相手の体力は残り僅かだから――」
遅いっ、もう遅いっ、攻撃範囲外から逃れられている。
遠距離攻撃を覚えていないエスパーダは、れいとうビームの出力を最低まで落とした見返りとして、極めて発動が早く連発も可能となったこなゆき程度の技で、空中に足場を作りながら闊歩するネリを止める術がない。
足場などすぐ溶けてしまうが、溶ける前に渡って作って、ジック達ですらネリの、黒い小娘の姿が目視不可となった瞬間に――
「こおりのつぶて!」
「ネリちゃんが盗賊時代に編み出したかった逃走術! ご主人との修行で上空に逃げている間に力を溜め込む事が出来る様になったんニャ! もう長引かせる必要は無いニャ! 釣りはいらニャいから全部持ってけニャァァー!!」
極小範囲のれいとうビームを放つ時は、他の技を使うことは出来ない。
だが力を溜め込む事ならば出来る!
本来こおりのつぶては、威力が低い代わりに発動までの準備時間も発動後のラグも無い、隙の少ない攻撃だが、氷のエネルギーを凝縮させて、巨大な剣を生成する事も本人の努力次第で達成可能だ。
それで戦うポケモンも居るが、ネリは身の丈以上もある武器を振り回す趣味は無い、手裏剣を象っているのは本人的に忍者のつもりらしい。
普段は使わない力を込めたこおりのつぶてを放つ前、最後の足場と共に自身も上空から両手と身体を水平に保って落下。
パラシュート無し、紐も無いバンジー、飛行タイプにでもなっちまったのか、降りてこなければ攻撃が出来ないので、回避の指示をエスパーダに与えたズナミヨだが――
「動け……っ゙!? こんな使い方――ァ゙!」
巨大化させる為に凝縮させたのではない。
大量のつぶてを放って、ターゲットの体温を奪う氷獄の檻で捕縛する為だ。
エスパーダを中心に円を描き、ダメージは受けていないが温泉町との激しい温度の移り変わりは、真夏から真冬に何の準備もせず突入してしまったに等しく、皮膚が裂かれる痛みすら生じた。
節々が鈍いっ、仮に動けても檻を砕いている時間も無い。
「つじぎりィ! ver666!」
「くはぁぁ゙ぁ゙ぁ゙ッ゙ーー!!」
ネリにれいとうビームを覚えさせている理由は、攻撃に使用する為では無い。マニューラの特殊攻撃力は平均以下なので、弱点を突いても大事にはならない。
盗賊時代に「わざマシンが使えたら、こんな風に逃げられるのに」と、幼い頃から夢描いていたビジョンはトレーナーを得て、叶ったのだ。
もう盗みを働く為には使わないので、バトルでの初見殺し要素として活用させて貰っているのだ。そして今回ネリが刻印したつじぎりパターン、666は終末の獣を意味する悪魔のナンバー。
ぽっちゃりお腹にゲマトリアな痣が浮かび上がったのは、身動き取れぬ間に三回食らわせたからである。
ザングースの防御力ではマニューラの攻撃を三回も耐えることは出来ない……逆転の勝利である。
「…………う~ん! ネリちゃんカッコ」
「ぎゅうた! すてみタックルだ!」
「ぶボォ゙!? ら゙っ゙まに゙ゅ゙ッゔ!」
おお ネリよ! しんでしまうとは なにごとだ!