ポケ×ぎじ 蒼鋼少女   作:緋枝路 オシエ

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あけましておめでとうございます!
今年も蒼鋼少女をよろしくお願いします!


Segment・tetra――【ニックネーム】

焦熱地獄……紫と黒の入り交じった邪悪なる火柱の中から、鋼が溶けている炭素の匂い、各部パーツが焦げた煙の匂い……

 

 小さな体躯が炎上している、あまりに悲惨な光景。

 

「っ……ハ、ハぁ……こっ、この技を受けて……タダで済むと……おもわ……っ、な……ぁ……で…………」

 

 焼却処分完了。捕獲して売り飛ばすつもりだったがどうだっていい、一生物の焼印を刻んでやらなきゃ気が済まない。

 

「クヒャァ、ヒャッヒャッヒャッ!! メスポケの悲鳴は何時聞いてもコウフンするなぁオイッ!」

 

 ハイリスク、ハイリターンな大技を放ち終え、倒れ込み掛けるザムヤードは、HPこそ全開のままだが著しく能力は低下。

 

 無気力症候群なので、サドなセリフを発するだけでも頭が痛い、声帯が塞がれる、翼は硬直したまま暫く飛行は許されない。

 

 

 ジャッジするまでもなく、勝者は自分……!

 

 

 弱点タイプが最強技をマトモに食らったのだ、高鳴っていた悲鳴も聞こえなくなり、熔解された姿となって――――――

 

 

「――――な……ん……でっ……生き残ってんだよォ……わっ……かんねぇんだよッ……! 鋼如きがオーバーヒート食らって……生きてる理屈がわかんねェんだよぉぉぉぉっ!!」

 

 

 ザムヤードも同じ心境であったが、カタカタと膨大なリスクが残る両脚で、二足歩行するのが精一杯だ。

 

 原型すら保たぬであろう業火から、黒煙散らし飛び出してきたのは、胸元のリボンは焼け落ちて、髪飾りを失い片側ツインテールとなり、ブレザーの制服やスカートもHPと同じく、慢心喪失状態のメタグロス。

 

 

 だがッ、HPはゼロになっていない……ならば!

 

 

「戦う事が出来る! 俺達の反撃だメタグロス!」

 

「ハイッ! 展開します!」

 

 

 耐えないと勝てない、彼を勝たせてあげたい。

 彼ならばわたしを勝たせてくれる。

 

 

負けたくないっ!

 

 ならば掻け! 

 

 抗え!

 

 覆せっ!

 

 

「その色違いリザードン、ザムヤードは一撃でギリギリまで削る必要があったんだ、とある技の範囲内にね」

 

 炎が燃ゆるメラメラとした音にかき消されていたが、念話ではしっかりあの子と通じ合っていた。

 

 先程ジックが大丈夫と言ったように、メタグロスも「大丈夫です」と反射的でも機械的でもない、己を意思を持った言葉で返してくれたから信じていた。

 

 

「いわなだれ、展開……わたしと    に仇なす敵を……討てっ!」

 

 

 いわなだれは、読んで字の如くの攻撃技である。

 

 タイプが一致していなければ軌道は単純で、名称の割に投げ注がれる岩の量は、それほど多くない。

 

 しかし地形効果が発動すれば、鋼/超タイプのメタグロスでもタイプ一致並の量、威力、範囲となる。

 

 洞窟に転がり、フロアを形成する部品を拝借し、被弾すれば一撃必殺であるのに、オーバーヒートの後遺症を引きずったままなので、足取りが重苦しいザムヤードへ集中砲撃。

 

 トラヴィスはメタグロスが戦闘続行するまさかの自体に、元より高圧的で沸点の低い性格であったが、避けろ避けろと無理な注文を血眼で通そうとしている。

 

 

 さっさと身体を動かせ!……動かなくさせたのはトラヴィスが、そう命令を下したからであるのに。

 

 

 メタグロスの手を取ったあの時、渡していたアイテムはオッカのみ。

 

 下っ端共のポケモンの属性、ほのおのぬけみちをアジトにしている件から推測するに、ボスも炎ポケモンを使ってくるのは間違いない。

 

「炎タイプの技を半減する効果……しかし、所持していてもオーバーヒート、若しくはにほんばれの影響下に置けるねっぷうが直撃すれば、耐えられる確率は25%でした……」

 

 耐えきれる保証はなかった、だけど耐えなくてはならなかった。

 

「オーバーヒート、その言葉を聞いて俺達は賭けた、そして賭けに勝った!」

 

 躱し続けてザムヤードの主力技のPP切れを催す。さらなる大技でメタグロスを倒そうとしてくるだろう、中々有利な鋼属性を倒せずにイラだったトラヴィスは、まさに想定内の指示をしてくれた。

 

 ねっぷうは防ぎきれる、問題はその後の最強技だった。

 

「ザムヤードがエネルギーを溜めている時、攻撃しなくて良かったよ。どんな攻撃を食らっても平気ですって表情、所有してるアイテムの正体――――」

 

 そこから先は、黒竜の絶叫が遮断した。

 

「グガ ア ア ア ァ゙ア゙ッ゙ッ――――」

 

 顔面に命中、翼に命中、尻尾に命中、両脚に命中。

 

 岩石の重機関銃、岩石の瀑布。墓石となるまで積み上げられたいわなだれ。

 

 通常の四倍にも膨れ上がった弱点技を食らってしまえば、如何にザムヤードが強力なポケモンでも戦闘不――

 

「――――~~ぁぁ ゙ぁ ゙ぁ グルあ゛ あ ぁ ッ!! まだよぉッ! 灼き殺し――――」

 

「クヒャ……クヒャハハハハハハッッ!! 残念だったなぁガキィ!? 俺様のザムヤードはきあいのタスキを持っているんだよォ! 優れたトレーナーは最悪の事態も想定し――――」

 

 

「メタグロス! バレットパンチ!」

 

「了解ッ、追撃しますっ!」

 

 墓石をドラゴンクローで裂け崩し、蘇った黒竜は黒に染まるブレスを――だいもんじを発射……する前に勝負は決した。

 

 

 こうそくいどうは、もう使えないハズじゃ……

 

 

 シルエットが伸び、空気をも歪ませる疾さでソコに到達。

 

 

 その少女、勇往邁進にして疾風怒濤、銅牆鉄壁なり。

 

 

 サイコキネシスでは中途半端に、ザムヤードのHPを削ってしまう。彼女の特性、もうかが発動してしまえば、オッカのみを持っていても貫通されてしまうから。

 

「きあいのタスキ……如何なる攻撃を受けてもHPを 1 で踏み留めるアイテム……」

 

 ねっぷうを放つ前、または放った直後にいわなだれを飛ばしても、タスキを持っているので必ず 1 で耐えられてしまう。

 

 前者は隙だらけと見せかけて、もうかを発動する機会を狙っていた。

 

 後者であっても結局は、もうかが発動されて反撃の反撃を食らい、メタグロスは倒れていた。

 

「なので大きなリスクのある技を、引き出せるかが勝利の分かれ目の一つでもありました。もう一度にほんばれなんか使わなくてもいい、それくらい火力とリスクがある……ありがとうございます……オーバーヒートを使ってくれたので、わたし達は勝つことが出来ました……貴女の動きが鈍くなり、攻撃に移る前……頂きます……」

 

 最後に発掘したバレットパンチは、鋼タイプの先制攻撃技。

 

 弾丸の如く勢いでパンチを繰り出せるが、速攻能力を持つ代償として、威力自体はかなり低い。

 

 それでもタイプ一致、攻撃力が突出しているメタグロスが使えばどうなるだろうか?

 

 バレットパンチ一発で、耐久力が低いポケモンはHPの半分を削られ、コメットパンチ→バレットパンチの流れる様な「コメバレ」による連続鉄拳はあまりにも有名。

 

 

 〝バレットパンチが、メタグロスの地位をさらにのし上げた〟

    

 

 とある書籍に綴られていたが、概ねそうであろう。

 

 バレットパンチを覚えていなければ……覚えてなければ勝てたのに……メタグロスと対戦したトレーナーの大半は、そう祈り、散っていく。

 

 剛強無双の弾丸となりかっ飛ぶ少女は、もう瞳が曇る事も淀む事も無い。

 

「この技は鋼タイプ、炎である貴女には非適切な技……ですが……」

 

 

 

――たった 1 しか残らないHPを 0 にするには十分……、適切です――

 

 

 

ズシャッ、ガ!ガ!ガ!ガッ!

 

 

 

「わたしのマスターを! 侮辱するのは許しませんッ!」

 

 海よりも深く、氷よりも透き通り、ブルーダイヤよりも美麗なる閃光。

 

 その煌めく瞳は果てのない蒼へ変化している、だが熱が入っており機械とは対照的。

 

 純粋なる《怒り》に満ち、理性のフィルターを壊した少女が、生まれて初めて抱いた怒りの感情を、そのまま蒼き鉄槌に込めた!

 

「……わたし達の勝ちですっ……」

 

 生存者は一名、何を声として外へ出す事も許されず、頬に弾痕を五発ブチかまされたザムヤードは、ダメージ許容量を超え今度こそ殲滅された。

 

「ザムヤードォッ!? おっ、俺様は負けたのか……??」

 

 刹那の一瞬で五発もの打撃。トドメをさすには過剰なまでの破壊力は、蒼色の余波で地形が抉られてしまう程だった。

 

 半減とは何だったのか、直情的になっていた少女の怒りは少しずつ収まっていき、ジックを侮辱した王様気取りの男へと、卑しめの眼差しを向ける。

 

「賞金はちゃんと支払ってくださいね」

 

「…………クソッ、がっあああ!! チクショオオオオオオッッ!!!」

 

 星が光ることも無いザムヤードを、モンスターボールへ戻し靴が脱げても振り返りもせずに、転びそうになりながら出口へ直行していった……財布ごとメタグロスの足下へ投げつけてから。

 

 

 トラヴィスが、ボスが負けた! 

 

 

 自分らも異常な強さを見せる、たった一匹のミノムシに手持ちを全滅に追いやられて、もうどうしようもない!

 

「にげろぉぉぉ!」

 

所詮はならず者の集まり。核を失えば信頼や結束など築かれていないのが露呈される。

 

 唯一、邪気の薄かったクイタランだけ取り残されたのは、捨てられてしまったのだろう……この子は保護として救出し、ポケモンセンターへ預かって貰おう。

 

「……どうぞ、一応言ってみただけなのですが、財布ごと投げ渡してくれるとは。……中身、結構入ってます、戦利品です」

 

蒼鋼との命の共鳴が終了し、深紅の瞳へと戻った少女は抜け目が無い。

 

 四万と三千二百円、財布を手渡してくれた際に触れた肌は、今までと明らかに異なっており、洞窟の熱気でも装甲が溶けた後遺症でも無い、この子の蒼が流動せし《熱》と、汗をかいても香らなかった《匂い》がする。

 

「ありがとう! 俺を信じてくれて! あのリザードンとタイマンして勝つ方法、あれしか思いつかなかったんだ」

 

「…………まったく、乱数頼みの策を立てるマスターです……75%を引いてしまったら、わたしは負けていたんですよ?」

 

「そうだね、確実に耐える保証は出来なかった。……キミも俺を信じてくれたから、共に勝利を掴む事が出来たんだ! 今もだけど〝マスター〟って俺を……俺が悪口言われて怒ってくれたんだよね、キミは……」

 

「それは…………こっ、言葉のあや、でして……いっ、いえ……そうではなく……」

 

 本当の意味で視線が合わさったのは、これが初めてな気がする。

 

ジックを侮辱した数々の発言を聞いている内に、無であった感情の振れ幅が大きく、不明瞭なまでに傾き生体機能の制御システムに「解除」の号令をかけた。

 

 

 凄く怖かった、でも大丈夫なんだ。

 

 

 矛盾しているのに心地が良い、彼と一緒に戦える悦びを知ってしまった。

 

 いや、もっと前からの積み重ねが一気に実を結んだ、と言い換えるべきか。

 

 

「メタグロス! お願いがある! 俺は……キミを手持ちポケモンにしたい! 無理に捕獲はしたくなかったけど! それでもっ! 俺はキミを捕まえたい! 俺と一緒にこれからも戦って欲しい! 一緒にいてくれ!」

 

 

 意思を尊重するポリシーを、かなぐり捨ててまで、本当に欲しい物はどんな手段を使ってでも、手に入れたくなる。既存の価値観を覆すだけの名状出来ぬこの想い、熱を帯びるよう様になった少女の瞳から目が離せないんだ。

 

 メタグロスの少女が、ジックからの指示を貰いながら戦うのと、自己判断で戦うのとでは、決定的に強さが違う。

 

 あの時――爽羽佳を窮地に追いやったのは、独断で動かず命令を聞き入れたから。

 

 あの時――コータスをも一撃で飲み込むじしんを繰り出せたのは、彼の声を感じ指示に従ったから。

 

 身体が軽くなった、パワーが上がった、そうではない。

 

 

《マスターを手に入れて実力が出せる》

 

 

 後ろから命ずるだけがトレーナーじゃない、命令を聞き入れるのが当たり前じゃない。

 

 ポケモンと気持ちを共有して戦うのがトレーナー。

 

 なぜ、メコン達が強いのか、理解が出来た。

 

 彼女達は、こんなに素晴らしいマスターが居るのだから。

 

「…………了解、です、貴方を……わたしのマスター……と、認識……します……」

 

 視覚に良く残りながらも、少し幼い声が鼓膜に直接響いてくるのは、サイコパワーとは無関係な少女の声質である。

 

「~~~っ!! やったッ! ありがとうメタグロス! 手持ちとして改めてよろしく!」

 

「んっ……、よろしく、です……マスター……」

 

 もう「いつ出て行ってしまうのだろう」とか「明日には居なくなるのかな」など、思わなくたっていいんだ、仲間として少女を迎える事が出来たのだから。

 

 喜びを全身で表すジックは、手甲を取り外した彼女と握手。

 

 ……ジックの二/三程度の大きさしかない、か細すぎる指、工芸品の様な扱いを求められる掌。

 

 なのにあれだけ強くって、この手で一緒に戦って、これからも戦える。

 

 今までは触ってもギョッとする程の冷たさだったのに、夜明け前の太陽を思い起こされる雪解け、少しだが確実に、人間味を持ったポケモンの手は温かい……

 

「ねぇメタグロス? キミが仲間になってくれたらって、ずっと俺は悩んでいた。そして仲間として迎えられたらこのニックネームを、贈りたいって思っていたんだ」

 

 

  《ヴィヴィ》

 

  

「ヴィヴィ……わたしの……種族名とは違う……ニックネーム……??」

 

「そうだよ! キミが覚えていた言葉【Valestein】から捩ったんだ! どうかな?」

 

 少女には新しい意思が芽生え、理由が分からぬまま強さを求める事は、ザムヤードとの戦いの最中に上書き消去した。

 

 自分の為、そしてマスター、ジックの為に強くなる。身に漂い、纏う気迫が違うっ、少女は意思を掲げながら優しく、だがしっかりと手を握り返す。

 

 

「……素敵なニックネームですっ! わたしはヴィヴィ……! ヴィヴィですよマスター!」

 

 

 全てを肯定したら答えが見つかった。

 

 マスターとして認め、プレゼントされたニックネームを何度も呼ばれてたら、初めて顔が綻んでいると自分で気がつくも、取り繕おうとは考えていない。

 

 チーズドッグを食べた時よりも嬉しい。

 

 彼の鼓動が右腕から伝わってくる……その彼よりも自分の方が…… 

 

「ヴィヴィの笑顔初めて見たっ!」

 

「……………………笑顔、してない、です……」

 

 ふとした事がキッカケで、素直になりきれない一面になるのも進歩した証拠だ。

 

 新たな意思と感情が生まれ、喜びと戸惑いが同時に襲う。

 

 鼻先が赤くなっている事を指摘されても、理解したくない。

 

 プイッと視線を逸らしても、右手だけは握ったまま。

 

 人間で言えば左側に配置されている、臓器が苦しさを感じるまで動悸を速めており、脈拍を始め心拍数も上昇、発汗作用まで生じてしまい、彼に知られたくは無い……のにっ、右手だけは離さない。

 

「…………あのさヴィヴィ、結構……エッチな下着なんだね……」

 

「……………………ハイ?」

 

「ほらっ、オーバーヒートを受けて服がさ……」

 

 良いムードを根本からグルリッ、百八十度反転させてしまう突拍子も無い一言。

 

 ヴィヴィも着飾らぬままの、素っ頓狂な声が出てしまった。

 

 ジックはお腹が見えてしまった時と、同じニュアンスでなるべく直視を避けているのだが……

 

「……………………」

 

 メタグロスの少女、ヴィヴィは全身を見渡してみた。

 

 

 グラデーションヘアーは煤け、白いリボンは紅玉を残して焼け落ち、制服とスカートは至る箇所が焦げて、ガラス細工よりも透けいく素肌が――少なくとも黒いブラジャーが形作る北半球は――剥き出し。ブラチラならぬブラモロ。

 

 

「………………ッッ゙~~~ぅ゙!!」

 

 

 スカートの右半分は完全に消滅し、紐で結ばれている下着……炎を受けても炭にならず、本来の色を保っているパンツも、チラならぬモロ。

 

 

「~~~~ゴッ゙ォ! コメットォ! パンチッ!!」

 

 

 殻を破らんとする危うい格好は、ある意味裸になるよりも羞恥心を煽られてしまう、扇情的な格好だ。

 

「おわ゙ッ!?あ゙あ゙ あ゙ あ゙ あ゙ ゙っ!? ちょっと!? ちょっとヴィヴィ! 俺に技を使わないでよ!? そんなの当たったら死んじゃうでしょ!」

 

「ううううるさいですっ! こんなだらしない脂肪を直に見られて恥ずかしくない訳ありませんっ! 手加減してますから大人しく二~三発くらい直撃されてくださいッ!!」

 

 

 今日は忘れられない日だ。

 

 

 ヴィヴィが正式に手持ちになって、ダイレクトアタックをよく振るわれた、忘れられない……一部は少し忘れたいかな……

 

 新しい意思、新しい感情、空っぽだった表情は次々と彩られていく。

 

 発露し芽生えた羞恥心が訴えるまま、隠すには面積が足り無さすぎるけど、片手で胸元を防ぐ為に足掻きながら、マスターと認めた男に対し蒼き鉄槌を下す、謎な光景。

 

「止めてヴィヴィ! 恥ずかしがるって思わなかった! 俺が悪かったからっ! 谷間にほくろがあるのも知らなかったから!」

 

「だだだっ黙ってください! エッチなのはマスターです! 不埒です! 卑猥です! 猥褻です! 破廉恥です 変態です! 下着はこの色とこの種類しか持ってないんですっ! その記憶消去消去消去消去滅殺撲滅壊滅撃滅!!」

 

 マントルまで届く勢いでクレーターとなっていく地面、ディグダ叩きゲームの主役なんてゴメンだ!

 

 どう考えても本気じゃないか……コメットパンチを火事場の馬鹿力で躱すけど、自分のポケモンになった直後、殺されそうになるだなんて、そんなの想像出来っこない!

 

 ヒートシンク機構は、羞恥心という高熱に排熱が追いついて居らず、首筋や断熱加工の手甲にまで、煙が上がる程のヴァーミリオンカラー。

 

「コメットパンチ! コメットパッ…………ぁ、ぅ……」

 

 今までだったら、下着を見られたくらいで声を張り上げる必要性は無かった。

 

 贅肉が極端に薄いのだが、胸から下のラインが常時一定であるイカ腹~エアーズロック(おへそ)まで片腕で覆いながら、もう一撃……は繰り出されず、傾いた身体は修正が効かずに、ジックの胸板へトンッ……倒れ込む。

 

 

「!!?? これは違うんですっ!! わたしのマスターの……そうっ! バイタル測定ですっ! 耳や額でこう」

 

「…………んっ、ポケモンセンターまで行くよ!」

 

 

「ひゃっ!? ヒゃひッ!? まっ、ままますた……こんな格好で、で、ぁ、きゅ、きゅぅぅぅぅ…………キキキ、ががっ……プシュッ……」

 

 

 下着の必要性を、一ヶ月掛けて理解したヴィヴィ。確かに……とても重要な最後の砦である。

 

 僅かなHPでコメットパンチを(マスターに)連発し、限界だった身体を彼が支えて、リュックの中からある物を取り出し彼女の身体、特に下着が見えない形にラッピング。

 

「れいかいのぬの。強い霊力が込められているけど、呪われたりはしないから安心して」

 

反物質を司る神のお住まいの一角で、拾った物がこんな状況でこんな使い方をされる事になるとは。ヨノワールもしっぺがえしされた顔になってしまう。

 

「こんな事せず……ボールに戻せばいいだけなんじゃないんでしょうか……?」

 

「だってヴィヴィは、まだボールに入れないじゃない」

 

「……………………スミマセン」

 

 それでも電脳空間で救出した時と違い、負ぶるではなく横に抱えて両膝内側に手を入れる、お姫様抱っこの理由……多分帰還路でも大切な仲間になったヴィヴィの顔を見ていたい……多分そうだ。

 

「…………むすっ…………」

 

 会話は疲労感もあり叶わず仕舞いだったけど、暴れたりはせず大人しく彼の手に運ばれながら、身を委ねている。ちょっぴり頬を深紅に染めながら。

 

(スカートみじけぇぇ……なんで女の子は、こんなに短いの穿きたがるんだろっ……見えたって仕方ないじゃん……)

 

 残りのスカート生地の感触が、肘付近に擦れる。

 

 校則違反ならぬ常識違反スカート。

 

 どれだけ動き回っても風が吹こうと攻撃を食らおうと、寸前で秘宝を隠していたのに、急にお披露目されてジックも内面ではかなり焦ってるし、何度もオトナの下着を着けたヴィヴィの内側がフラッシュバックしてしまう。

 

 なので言い出しっぺに関わらず、ポケモンセンターまで会話出来なかった。

 

 無言のままメコンやズナミヨ達、捜索隊と再会し事情を説明。事態は収束した。

 

 

 

 

 

「…………ミノッ♪」

 

 仲間を助けた、自分がしたのはそれだけだ。

 

 最後尾を普段通りのヌボッと、ゴクリンフェイスでぴょんぴょん砂蓑を揺らし、跳ねながら主人の両手を揺り籠としているツインテールの少女は、今後ヴィヴィと呼ばれる事となり、好奇や驚愕や羞恥の感情が一気に花開き、多感になっていく年頃の少女を追いかける。

 

「ノホホッ…………」

 

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「ミノミノ~~ン!」

 

 彼女を最初に発見したのも、彼女の行き先が分かったのも、こうして同じ主人の手持ちになるのも。

 

 

 

 似たもの同士だから、なのかもしれない――――

 




新年の始まりと共に、この話を投稿できるとは...!

ミノミノ~ンは、ヴィヴィの何なんだぜ?

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