ポケ×ぎじ 蒼鋼少女   作:緋枝路 オシエ

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フエンタウン編、完結!


Segment・tetra――ぬくもり

動乱の日であった。

 

 

 催し物には参加出来なかったけど、それ以上に大事な思い出を心に刻める事が出来た。

 

「ヴィヴィ以外の子には申し訳ないけどな。明日の夜もお祭りはあるから許して貰ったし、事情も事情だったし……ハァ~~、俺ん家よりは……いや認めよう! 俺ん家のお風呂よりずっとすご~いぞ~~!!」

 

 臓腑に染み渡る~~露天風呂からの壮観なる景色~~隠れ里の秘湯をイメージした~~備え付きの温泉一人……と一匹の♂で占領の図~~!

 

 正確には女性軍が入浴を終えた午後二十三時近く、手桶を浮き輪代わりにプ~カプカしながら、フーセンガム膨らませているかたくりこと、写真撮影禁止なので心の中でシャッターしながら、美肌と豊乳(これは男に効果無し)、そして縁結びの効能が染みこんでいく湯に浸かって、やぁっとリラックスタイムを確保したジック。

 

「混浴に縁結びは分かるけど、普通は家族とか恋人とか、俺みたいに手持ちとか。既に縁を結んでいる関係と宿に備え付けられた、この湯に入るんじゃ無いのか? 縁結んでなきゃ同じ宿に泊まれないし……どういう意味だろ」

 

 捨てられてしまった、クイタランの少女はフエンのポケモンセンターに預けた。

 

 去り際に目を覚まして、お礼を言葉にする辺り、元おやの影響は薄かったのだろう、どうしようもない外道ではない。扱う者次第で道を踏み外してしまったが、彼女はもう修正出来ている。

 

 新しいマスターを見つけると言っていたが……今度は素敵な おや のポケモンになれる事を願う。

 

 

 

 トラヴィスは逮捕、トレーナー免許を数年間剥奪。

 

 

 

 下っ端達は書類送検が殆どであったが、軽くない法の裁きが下された者も居る。

 

 トラヴィスはフエンタウンの、ジムリーダーの一番弟子でジムの門下生でもあった。

 

 幼い頃から才能、特に炎ポケモンの扱いに長けており、自信家で口の悪い性格は昔から変わっていないけど、相手のポケモンやトレーナーをも気遣える根っから「悪」な人物では無かったらしい。

 

 四天王に挑戦し、今までの積み重ねが灰燼となり、地方頂点の強大さを思い知り、何て無力で弱いのだと自己否定、手持ちの声も聞こえなくなり堕天……プライドを失いながら、かつてのプライドに縋る。下っ端共はトラヴィスに憧れていた門下生や、それなりに可愛がられ鍛え中だった者達。

 

 トラヴィスが勝てないなんておかしい! 現実を直視できず慕う彼の言いなりになるが、一人が「これって不味いよな?」と思っても歯止めが効かず、トラヴィスには誰も逆らえず、怯えながら収まりが付かない場所まで誤りながら進んでしまっていた。

 

 彼らだって悪人では無いが、フエンの住民達や町その物に迷惑を掛けてしまった事実は覆せない。

 

 フエンのジムリーダーさんには、感謝しますと頭を下げられたが負い目に感じているらしい。自分が解決すべきだったのにと。

 

 

 後はジムリーダーさんや警察に任せておけばいい……安心して観光――――

 

 

「失礼します、お邪魔します、ご一緒願います」

 

 

 ?゙ !゙ ?゙ ? ? ?

 

 

 人間一人と、ミノムシ一匹の白煙が彷徨う貸し切り温泉に、挑戦者……もとい、可愛すぎる侵入者が現れた。

 

「ヴィヴィ!? あのっ、男が入る時間帯なんだけど……」

 

「混浴なので問題ありません、その様な張り紙もありませんでした、わたしはマスターのポケモンです、一緒の湯に浸かる事にご不満おありでしょうか?」

 

 マルマインの素早さを凌駕する速度で、男にしか存在しない器官を中心にタオルで隠す。タオルを入れるのはマナー違反だが、そんな事言ってられない。

 

「イエ、モンダイナイデス……」

 

「…………裸の付き合い、と言う物です。非論理的ですね……」

 

 堂々と闊歩してきたヴィヴィは惜しいことに……いや、女性なので当然タオルで全身を覆っている。

 

 もしも羞恥心が生まれていなければ、タオルで隠そうともしなかった、かもしれない。ジックのナニを見たって、ナニも思わなかったに違いない。

 

 ツインテールは特に纏めたりせず、そのまんまな辺りが彼女らしい。これなら万一剥がれても《都合良く隠してくれそう》だ。

 

「………………………………」

 

「………………………………」

 

「……………………………………」

 

「あのっ、なんか喋ってよ……」

 

 前からも横からも、胸が際立つクリアボディならぬ、いやらしボディ。

 

 タオルを巻いてもトレージャーポイントの様に、丸印の付いた谷間、乳ほくろはこの位置からだと見えてしまっている!

 

 母性の象徴たる輪郭はくっきり浮かび、ツンのめったアンバランスな曲線を描く。

 

「…………マスター…………」

 

「…………あぁ」

 

 

 自分から? それともヴィヴィから?

 

 

 ぴとっ……手と手が自然な形で重なっていた。

 

 湯の中からでも分かる、彼女の肌は永遠の思春期だ。

 

 どんな女の子も「ここで時間を凍結させて可愛さ、美しさを維持したい」と思う時期がある。

 

 ヴィヴィはそんな子だ。子供と大人の狭間に居ながらずっと保ち続けられる、良い意味での未完成品。

 

 ……胸だけは大人をも凌駕するGに近いFなのは周知の通りだが。

 

 彼女の声色が少しだけ優しい、鋼が溶けたのではなく、暖かい物が混ざりより硬く、強く、感情を知ったこの子がマスターと認めた男性のみに、垣間させる。

 

「お礼がまだでした……ありがとう、ございます……」

 

 その〝ありがとう〟は、借り物でも真似でもない。

 

 目を見て話してくれる様になった、感謝の気持ちをそのままに。

 

「どうやって表現すればいいのか……良く分かりませんでしたが……簡単で、だけどやっぱり……難しい……です」

 

 念話でアクセスした時と同じかそれ以上に、彼女との距離が近い、物理的に。

 

 離れるどころか近づいてくる、魅力の結晶体にややテンパるジックだが、心の溝が埋まって親交を深める事が出来た。

 

「あったかい……ですねマスターは……」

 

「温泉に……入ってるから血行が……」

 

「違います、そうじゃないです……」

 

「あぁ……そうだよな、ヴィヴィだって……あったかいよ……?」

 

「それはっ……磁力の巡りが……良好になった……からです……っ」

 

 ススススス――体育座りしながらの横移動は、磁力反発でも使用したからだろうか。

 

 距離を一気に十メートル近く開かれてしまったけど、今度は後ろを向きながらジックの肩へと再び接近、背中を預けてきてくれた。

 

 

 なんだこの……可愛いポケモン!

 

 

 例えどれだけ離れても声が聞こえる、この空間へ横槍するのはアルセウスであっても許されない。

 

 いつの間にか、かたくりこも消えているし……気を遣ってくれたのだろう。

 

「マスター、わたしを助けてくれたのは、メタグロスだからですか? 強い種族だから……助けたんでイタッ゙!?」

 

「そんなの考えるまでも無く、身体が動いてたよ! ヴィヴィがどんなポケモンであっても、俺は助けてた!」

 

「…………そ、ですか……ぁ……んっ、マ、ますたー…………あんっ……」

 

 ちょっとだけ力を入れて、少女の頭に手を添える。

 

 

 俺が希少さと能力値だけしか興味ないトレーナーに見える? ヴィヴィったら酷いな~~! 

 

 

 そうニュアンスを込めたデコピンに近い要領で、ポフッと。

 

「は…………っ……ん、ふ……ぁ……ぁ」

 

 ヴィヴィがどれだけ強くても、一匹では絶対にザムヤードには勝てなかった。

 

 最悪のタイプ相性をはね除けて、自分が勝利出来た理由……検索、結果……――

 

(この人が居たから……この人と一緒に戦ったから……)

 

 自分は一匹で戦っても強くない。

 

 マスターと一緒に戦ってこそ、真の力を発揮し、秘められし能力を解放出来るんだ。

 

(原理――不明――理解――不能――でも――)

 

 これから理解出来る様になればいい、そう考えられる様になった、してくれた。

 

「…………ぺちっ、ちょ……ちょうしに、のらないでくださいっ……せくはら、ですっ……」

 

「あっ゙!? ゴッ! ゴメンねッ!」

 

 ここだけ時間の流れがゆっくりだ、とっても気持ちが良い。

 

 頭に手を乗せてから、疑問を持たずに彼女を撫でてしまっていた。

 

 ネリも、爽羽佳も、メコンも、かたくりこも、スキンシップは嬉しいけど恥ずかしい、温もりのトレード、分配、確かめ合い。

 

 もう家族同然の付き合いとなる女子三名は、言葉せずとも仕草や雰囲気で察することが出来る。今はしてあげるべき、して欲しいと思っていると。

 

「わるぎ、ないのなら……ゆるしてあげます……」

 

 本当の意味で仲間になったばかりのヴィヴィに、断りをスキップして長い間撫でてしまっていた、らしい……?

 

 言い訳にしか聞こえないが、全然気がつかなかった。

 

 自分から女性に触れたり、その手の話題を振るなどは細心の注意を払い、絶対しないジックが無意識にセクハラしてしまった。

 

(ブクブクブクブクッ…………)

 

 手を払い除けられて、頭と髪を撫でてしまった一蓮の行為を謝罪する。

 

 そうしたら彼女は、折角歩み寄れた関係を拗らせてしまったと、悔む……よりも先に、アッサリ許しを貰えた。

 

 何故だか、のぼせた風な口調であったが……

 

 ジト目で唇まで湯に潜らせ、ふてくされたヴィヴィであるが、重なったままの手はセクハラ被害の訴えもせず、湯船から出るまではずっとそのままであった。

 

 鋼なんかじゃない、とても柔らかい生まれたてな質感を。

 

(炎に焼けたのとは似て非なる……マスターの体温、香り、脈動……いっぱい、感じる……)

 

 情緒も大分、躍動し始めたらしい。

 

 追言されなかったので、ジックもそのまま手を繋ぎ、何てことの無い話題から、とりとめの無い会話をし始めた。

 

 もっと彼女と仲良しになりたい、また拒否されたりするかもしれないが、こちらから歩み寄らなければ。

 

 ぎこちなくだが、会話を広げてくれるヴィヴィから、今までは香らなかった匂いがする……初摘みミントにも似た、心まで届きクール、それでいてビターチョコレートの様に、甘さの隠し味。

 

 ロリ体型だけど巨乳で、機械的だけど直情的にもなり、嬉しいのだけど素直に言葉にしない。

 

 二面性を貫くヴィヴィの、なつき度が少し上がった。足並み揃えるこれからを予感させて――――

 

 

▼▼▼▼▼▼

 

 

「ヴィヴィさん♪」

 

「ヴィヴィ~~!」

 

「ヴィヴィちゃん!」

 

「ミノミィノ!」

 

「………………なんですか、寄ってたかって新人虐めでしょうか? チーズドッグなら持ってませんよ?」

 

 翌日の十九時。本当の仲間としてジックメンバー入りしたヴィヴィは、羨ましがられる様な、からかわれる様な、そんな声色交じりに祝福として胴上げされた。

 

 五百kgオーバーなメタグロスも、人化した少女ならば攻撃時以外は見た目相応の体重、つまりトンでもなく軽い! 胸部以外は!

 

 

 おやを持ったポケモンの証、気になるボールの種類は最も一般的で、汎用性の高いスタンダードなモンスターボールとなった。

 

 

 と、言うのもジックが

 

「ねぇねぇヴィヴィ、キミが入るボールなんだけどさヘビーボールとかどうかな? 登場時に青と灰色の六角形が弾けるんだ! メタグロスのイメージとぴったりな重厚」

 

「ヘビー、とは? わたしが〝重い〟から、と、言う意味なのでしょうか? 女性に対してその発言は、マスターと言えども如何なものかと? 鋼だからヘビーは安直すぎます、却下です」

 

「………………スミマセン」

 

 二日前のヴィヴィならば、どうでもいいの一言で終わらせていた。

 

 いや、ボールに入ろうとする意思は無かったので、それすらも叶わずじまい、幻の会話となっていただろう。

 

 そういう意味じゃなかったんだけど……謝るジックを見つめるその深紅は、「冗談です」と目は口ほどに物を言っていた。

 

 本人には絶対言えないが、胸だけはヘビーなのがまた……

 

(ボールの中に収納されているよりも、外に出ていた方が――――なので、どんなボールでも良かったのですけど……)

 

 

 そして、なんと!

 

 

 訂正、情緒も感受性にも目覚めた今のヴィヴィならば、そうであるべきか。

 

「お祭り、ヴィヴィも参加するんだ……!」

 

「しますよ? 何か問題でも?」

 

「問題ないよ! 俺も皆も町の人達も嬉しいよ!」

 

「…………そ、ですか……」

 

 ぶっきらぼうな口調はそのままだけど。

 

 効率主義者が、地元でも何でもない町の、煩いだけの行事に参加する。

 

 これまでの彼女は聞けば、何の意味があるのか理解できず、引っ張られても動こうとしなかったのに。お神輿だって「ポケモン数匹居れば担げるのに、あれだけの人数は非効率的」と言い捨てていたのに……!

 

「参加してみれば……意外と楽しいかもしれないので……」

 

「そうだな! 浴衣も似合ってるよヴィヴィ」

 

「……………………どうも、です…………」

 

 女性軍は全員、着付け屋さんの老婆に「夏に咲く花柄」の浴衣を借りて、彼女達自身が夜なのに眩しすぎて、グラデシアよりも綺麗に咲き誇るアレンジメントは、会場の男性も女性も見惚れてしまい、神輿が落ちないかが心配になる。

 

 爽羽佳はケイトウ、ネリはホウセンカ、メコンはセンニチコウ。

 

 

 ヴィヴィは……〝秘めた愛・秘密の恋〟を意味するエリンギウム。

 

 

 本人が選んだ物ではなく、老婆に選んで貰った物だけど、果たしてこれは偶然なのだろうか?

 

(わっしょい、わっしょい、わっしょい……非論理的な掛け声です、こんな事したって腕力が変化する根拠にはなりえません……けどっ)

 

 

 ちょっと、ホンのちょっとだけ、楽しい……です……

 

 

 目の前で手持ちや参加者の皆さんと、掛け声を合わせ担ぎ棒を背負う、マスターの背中をジッと見つめながら、ヴィヴィは想う。

 

 相応しい言葉が見当たらないこの……胸が温かくなる現象、最も安心して最も困惑する、不可解な気持ち。

 

 それも追々知っていけばいい。

 

 ヴィヴィはそう自分へ言い聞かせながら、今年最後のフエン祭りの参加者として、何故毎年盛り上がるのか、開催されるのか、その理由が理解できた気がしたのだ。

 

やってみなければ分からない、やってみて初めて分かった。

 

 

 そして来年も皆で行けたらいいな、とも

 

 

   

   

  

 

 




書いてるコッチが恥ずかしくなってくすぐったいぜ

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