ポケ×ぎじ 蒼鋼少女   作:緋枝路 オシエ

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第六章開幕! ヴィヴィメコダブルブルー!


Segment・hexa――再戦

まだまだ夏は終わらない! 

 

 

 冷却効果を目的としたグッズの稼働時間は、ピーク時と同一である九月の一日。 

 

 酷暑であった八月よりかは、多少緩和されているけど使わずにはいられない。

 

 トレーナー諸君は自身の体調管理は勿論の事、手持ち一匹一匹に対して最良な生活環境を整え、提案し、気を遣うのが おや としての責任意識。

 

 正式に免許を受理され政府の、管理データーベースに登録されたトレーナーの下には、告知無しの抜き打ち監査が不定期に実施されている。

 

 その辺を歩いていたおっさんが、実は統括政府機関に属する者だった!

 

 その辺を飛んでいたペラップが、実は政府が所有している手持ちであった!

 

 トレーナーとして、手持ちに対する配慮が不足しているなど、能力に疑問を持たれてしまった者へは警告文として改善を要求する電子メールが送られてしまう。

 

 まぁ、トレーナーとして普通に暮らし、普通に接していれば抜き打ち監査され様と、恐れる必要性は無いのであるが……恐れている者は即ち、自分でも問題点があると意識しているからだろう。

 

 

(…………マスター、次の指示をお願いします……)

 

 

(ジックさん、どうぞご指示を!)

 

 

 ラムネ色の空が広がる14時過ぎ、このログハウスに住まうポケモン達のおやは、監査員も敬服に値し『キミの様なトレーナーばかりだとしたら、ポケモンを道具扱いする者や密売する者など生まれないのに』と、優れたトレーナーの在るべき姿として、政府のホームページに名あり+写真付きで記載された経験を持つジック。

 

 競技トラックを模した裏庭、スクエア型で縦&横50メートルのスペースの中心地点で、顔を向き合わせているのは青と蒼。

 

(メコンは……………………ヴィヴィ、キミは……………………)

 

 優良トレーナーの手持ちになれた彼女達二匹、ランターンのメコンとメタグロスのヴィヴィは、とっても幸せなポケモンだ。

 

 メコンの場合は命の恩人でもあるジックへと、年頃の少女らしい照れと恥じらいを忘れず、発光器官をぽわぽわ点火させながら身を捩らせ、慕う気持ちを心の底から嘘偽り無く、言葉でも身体でも伝える事が出来る。

 

 

 …………変な意味合いは含まれず、マスターと手持ちのスキンシップ、抱きしめたり手を握ったりとか、その範囲内に収められる行動なので、R18な成人向け表記はされません。その様な描写も彼らはしておりません、本当です。

 

 

 ヴィヴィの場合は民宿跡地の地下、謎の電脳空間の揺り籠で眠り続けていたけど、この世界に生まれたばかりで『レベル1』のメタグロスだった。

 

 彼に救出され、心も表情も感情も知らずニックネームも無かった彼女は、フエンタウンでの一件から心を、表情を、感情を、《自己を確立した個体:ヴィヴィ》として呼称、トレーナーと共に生きることを自分の意思で決めたのだ。

 

 非常に気難しい猫、論理で全てを片付けようとしていたけれど、ヴィヴィの名を授かった今は他メンバー達との交流を深めたり、一見すれば意味の無い非論理的な行為だとしても、様々な物事に触れてみようかなと言う、感受性……他者を受け入れ興味を示す気持ちが、もの凄く不器用ながらも少しずつ磨かれてきているのだ。

 

「了解ですっ……」

 

 だからジックが事あるごとに――殆どヴィヴィの言いがかりだったり誤解――で「エッチです」だの「その技を指示するのは胸を揺らす目的でしょうか?」だの「またわたしの下着を……」だの、ジックがロズレイドの毒棘鞭で毎晩身体をビシバシされるのが好きな、マゾマスターであるならばご褒美な台詞集とジト目集。

 

 私のマスターとして相応しい振る舞いを……ジェット推進能力のキーになったこうそくいどう後、パンチラされてしまったヴィヴィは苦言を吐くも、彼だけに責任がある状況でも無かった。

 

 見られたくないのならば、もっと長いスカートを穿くなり、ジーンズに変更するなり別案はいくらだってある。

 

 それをしないとは覚悟があるとして解釈されてしまう物、バトル後にじり寄って「見えないところに移動するべき、やはりマスターはエッチ」と、連続攻撃でジックのHPを削られるのはテンプレとなったやり取り。

 

 

 ちなみに……SMプレイは合意なら監査外となる……

 

 

 それは理知的で鋭い頭脳を持つけど、不器用なヴィヴィ流の触れ合いチャンスであった。

 

 こうすればもっと彼と会話できる、大きくても小さくてもいいから彼の情報を得られる。

 

 そこからまた話題が広がって……大好物でお店側に枕を向けられない、チーズドッグが意思疎通を伝達されるアイテムになっている。

 

 そう、ヴィヴィは決して一人ではチーズドッグを購入しようとしない。

 

 マスターであるジックが〝一緒にいなければ〟違和感のある味になってしまうとは本人談。

 

 どういった理屈か、解析は後回しにしてさっさとジックを引っ張りながら、もう一個ずつ買って貰い、舌で堪能したソレは何時も以上の美味であった。

 

「マスターは……チーズドッグに味を与えている精霊なのですか?」

 

「ふつーの人間だよッ!?」

 

表情筋の可動域は最小限にも、冗談が発せる様になったヴィヴィ。ユーモアな一面も生まれてジックは嬉しい、ヴィヴィも彼と長く話せる機会が設けられる。

 

 ……チーズドッグ大明神様が、二人の結びつきを強めてくれている。

 

 ジック側からしてもピスタチオチョコとフルーツカスタード、どっちを選ぶかで20分間、悩み続ける彼女の珍しい表情を見れたのは収穫だ。

 

 独断では遂に決められず、マスターに選択権を任せたヴィヴィ。すると彼は予め決めていたのでスマートに両方のフレーバーを購入し、すっかり常連として覚えられた店主さんには半分にカットして貰った。

 

 気になる味を半分ずつ、気になる彼が手渡してくれて、もっと早く助言してくれて良かったのに……照れ隠しの為に問いをした。

 

「無駄な時間にならないよ、悩むヴィヴィとか焼かれていくチーズドッグを見てたり、他の人のに目移りしてたり、色々なヴィヴィを短時間で知れたからね!」

 

「…………わたしが悩んでいる姿を見て、マスターは精神高揚していたと…………なんてサディスティックな嗜好を……エッチですね…………」

 

 まぁ、こうなってしまうのは読めていた……彼女との意思疎通を試みて諦めず、距離を縮めたい男の奮闘記。

 

 ツインテールをカーブさせ口元を隠しながらも、異なるフレーバーが同時に食べられた嬉しさからなのか、彼と二人きりの時間を過ごす計画が成功し愉快なのか、首まで眼の輝きと同じ深紅になっていた。

 

「じ――」

 

「とびはねるだメコン!」

 

 彼女たちの日常と語る内に、少々脱線気味となったがメコンとヴィヴィはバトル中。

 

 メコンの右耳には、手持ちとの練習バトルを円滑にするアイテム、充電が切れても〝光〟に関連するポケモンの技に反応し、エネルギーチャージさせ再稼働する構造の、デボンイヤホンが装着されているが、ヴィヴィは何も補助アイテムは付けていない。

 

 ジックがポケナビを拡張させ、音の壁を超える速度で指示を伝達可能となる、小型のキーボードをブラインドタッチ。

 

 同時にエスパーだけの固有能力《念話》で、心をアクセスさせているヴィヴィへも指示。

 

 二か月前と同じポケモン同士が、二か月後となった今、再び相見える!

 

「そぉぉ、れぇーー!」

 

 ヒビが入っても砕かれはしない、蒼き鉄鋼で完全なる平地となって走りやすく、障害物も皆無な裏庭フィールドに激しく突き当てる。

 

 極々僅かな表層プレートを内振動、意図的に歪ませることで活動させるじしんは、裏庭全域が攻撃範囲だ。

 

 数少ない弱点が地面技のメコン、ヴィヴィの攻撃力で放たれれば並大抵の地面弱点ポケモンは、ワンターンキル。

 

 相手が地面技を所持しているならば、確実にメコンに対して撃ってくる。

 

 対策としてジックが提案し、彼女との修行で会得した技が、とびはねる。

 

 覚えさせただけじゃ使いこなせない、技を繰り出される前に先読みして、指示を与えなければ上空へ逃げられず地表に吸い込まれる。

 

 

 特に滞空時間を1秒でも延長させる修行は本当に……大変だった……おっぱいが弾みまくる的な意味で。

 

 

 鉄鋼が地面とキスする数秒間の隙間、天の川ロングスカートの内側で膝を屈伸、ダンクシュートも余裕な跳躍力は、運動音痴だけどポケモンバトルでは遺憾なく発揮される。

 

 ポケモンとしての本能が彼女にエネルギーを与え、戦うメイドさんと化したメコンは、じしんが意味を成さない上空へと逃げ――――

 

 

「じゅうりょく……!」

 

 

「ふぇぇ゙ッ!? …………ひゃぁぁ~~ぁぅ゛ッ! キャン゛ッ! あっ、っ……新しい……技、覚えさせて貰ったんですねっ……!」

 

 感情が生まれた今、二ヶ月前を思い起こせば恥ずかしい……真に黒歴史だけど、あんな自分が居たから、こうして《ヴィヴィ》という独立個体になった訳で。優先的に思い出したくはない場面だが、風化はさせずに心の美術館にでも飾って置こう。

 

 強豪と名高いメタグロスでも、生まれたばかりなのでレベルが1。

 

 ブレインコンピューターは演算処理ミス、能力が高くても活かす術を知らず、勝てる為の成分や成り立ちも持ちえなかったヴィヴィは、愚劣な結果と成形を晒してしまったけど…… 

 

(今ならっ……ビッグマウスとは言わせません、高種族故の自意識過剰でもありません、わたしはメコンさんに勝てる……!)

 

 

 リベンジマッチ!

 

 

 生まれたばかりだったヴィヴィが、著しい成長を成し遂げているのは存じた通り。

 

「わたしはマスターのポケモンとなりました……とびはねる対策の為、だけではありませんが……そうです、ねんりき以外にもいくつか新しい技……覚えました」

 

 メコンだってボッ~~としていただけじゃない、インフィスの次にレベルが高い最古参は、足りないものが多すぎたメタグロスの少女とのリベンジマッチを予測し、ご主人様と内緒の特訓(意味深ではない)を熱願し、本日が決戦日なのだ。

 

 じしん回避の為のとびはねる、苦手な地面技を繰り出すポケモン対策として、他トレーナーが所持するランターンも近頃はジックを真似て、とびはねるを覚えさせた報告が多く、ホームページ上のメッセージボックスに送られていた。

 

 覚えさせたからと確実に無効化できる訳ではないし、反応速度と相手の技が終了するまで空中で留まらなければならないので、効果時間が早く終了してしまえば、結果的に技撃ち損となってしまう。本来は使い勝手悪く、ランターンには適していない技な事実を念頭に入れておきながら、何年か修行を重ねないとメコンの様にはなれない。

 

 だが、リスペクト元のメコンが、とびはねるを失敗……いや、強制キャンセルされてしまい、間延びした悲鳴の様な色っぽい声色のまま落下。

 

 

 ヴィヴィが新規習得したじゅうりょく。

 

 

 対価との交換で役立つ技をあっという間に教えてくれる、わざおしえナイスガイ達は、今日も(特にバトルジャンキーな方々)からお世話になっている。素朴な民家の玄関口から並ぶトレーナーの列は、まるでライモンシティの遊園地。

 

 明朝から並び始め(注:アトラクションでも店でもなく普通の民家です)整理券を貰い、ピーク時は五時間もの大混雑の大行列となってしまい、見かねた警察が出動しホウエンテレビまで騒ぎを嗅ぎつけて来たから、もう大変! 

 

 報道されたら余計に人気になってしまう訳で……重ねて言いますがバトル山の頂上でもなければ、ポケモンリーグ決勝戦でもない普通の民家の周りです。

 

 暫くの間、敵も味方も巻き込んで、多大な影響力となるフィールド操作技、じゅうりょく。

 

 ヴィヴィに下した命令は『メコンの〝アレ〟を防いでみて』

 

 具体的な詳細は伏せて、与えられた2~3秒の狭間で答えを探し出して貰う。

 

 並列頭脳はエラーしなければミスもしない、2から3秒で十分、じしんを放つが出力と効果範囲を限界まで削ぎ落とす代わりに、次の攻撃へと移るタイムラグを低減させた。

 

 100なら100のパワーをぶつける戦い方しか知らなかった二ヶ月前、100の内50や25など、状況に応じフレキシブルに調節出来る様になったヴィヴィは、直ぐさま地面へ打ち付けていた拳を、右手から左手へチェンジ。

 

 ヴィヴィが操れる領域内の重力を強めれば、パワーウエイトを手首に巻かれたかの如く、へばり付く様な感覚を強いられたメコンは、効果が終了するまでとびはねるを使えなくなってしまった。

 

 チーム戦では……例えば爽羽佳の飛行能力まで抑圧し、低命中の技が命中しやすくなる領域になるので、ネリご自慢の回避性能をガタ落ちさせてしまったりと、運用が難しく軸にする為には、専用パーティの構築が推薦されている技。

 

「これでノーガードですよ……」

 

「良い技を教わったんですね……!」

 

「お陰様で……四時間も並んだ甲斐がありました……」

 

 彼女の場合、幻のチーズドッグや伝説のチーズドッグを食べられるなら、一週間でも一ヶ月でも並んでそうだけど……ジックと一緒に...

 

 宙に浮いていられなくなるので、効果の無いポケモンにもじしんを命中させる事が出来るし、じゅうりょくとセットで新規修得した――――も、通常時なら利用価値が悪い〝ロマン技〟だけど、セットで使う物だと割り切れば…………!

 

「行きますっ……いわなだれ!」

 

 メコンだけでなく、ヴィヴィも素の移動速度は重力場に立ち入っている影響で、低下している。

 

 類を見ない小柄なメタグロス、殆どの能力値が高水準だが、素早さのみは平均を下回る、それが政府認定の『ポケモン解析新書』に掲載されているメタグロスのデータ。専門用語で《種族値》

 

 大きいのはおっぱいとツインテールのみ、ブレザー制服がデフォで私立学校に入学したての風貌、なのに胸部は成人式を終えている食い違い変容……!

 

「わっ! インフィスさんよろしく〝避けられないならば破壊〟ですっ! みずでっぽう!」

 

 まだ勝負は序盤、お互いにダメージは一割ほどしか削られていなかったけど、初手でメコンはアクアリングを使って来た。  

 

 水ポケモンは清らかな水に浸かれば癒やされる。

 

 純度の高い水の二重輪で身体を纏い、一定時間ごとに体力が少しずつ回復する持久戦向きの技だ。

 

 決め手に欠けるもそのHカップが示唆している様に、耐久向けの技を多く取得し、非常に高いHPが物理防御力、特殊防御力を底上げする。

 

 さらに追記すればランターンの弱点は、じめんとくさ、のみ。

 

 地面技で弱点を突くのは正攻法、だが地面タイプからすれば水が弱点になるポケモンが大半なので、反撃が怖い。

 

 タイプの関係で草タイプに対しては、攻めも守りも特に苦手だが、ランターンはれいとうビームを覚えるので、トレーナー戦だと相手が勝手に警戒してくれる、メコンはれいとうビームを覚えていなくてもだ……対人相手だからこそ「あいつは持っているだろ」と、思い込ませるのも読み合い、駆け引きとなる。   

 

 強化された引力と遠心力、重力に抗いとびはねる中だったメコンは、目的地へ移動する呪文を天井が塞がっているダンジョンで使用して、頭をぶつけてしまった勇者な気持ちをちょっぴり抱きながら、スカートだけは捲れない様に落下……優先順位がおかしいけど、彼女達はポケモン、上空20メートル地点から落下したくらいじゃ死なない。

 

 重力に比例するので、落下の衝撃はそれなりに……ならなかった! フッカフカのおっぱいが、衝撃を吸収するクッションになったからだ!

 

 胸を銃弾で撃たれたけど、形見のペンダントが命を守ってくれた……

 

 いや、そんなカッコイイシーンじゃないけど、おっぱい大きくて良かったと実感している、数少ない利点。

 

 

 ちなみに一番は『ジックが喜んでくれるから』 ナニがとか聞いちゃダメ

 

 

 うつ伏せから素早く姿勢を立ち直させれば、ゴーグル越しの瞳はキリッ、陸上でも水中でもバランサーとなる尾が重たい……強重力場でのバトルを想定した修行は経験済みだが、ヴィヴィが発動させているじゅうりょくは「第二重力」と形容したくなる、見えざる手で頭ごなしに押しつぶされている、そんな体感したことのない環境だ。

 

 素早さ低下、並びに技の命中率上昇。

 

 元々が避けて躱してのポケモンじゃないけど、二ヶ月前は例えジックが一切指示を出さず、メコンが独断で戦っても1ダメージも負わずにヴィヴィには勝てた……失礼ながら。 それも慎重にではなく無難に、適当に。

 

「!――――え~いっ! そちらの岩もッ、えいッ! 全て! 撃ち壊しますよッ、ハイッ! やッ!」

 

 今の彼女は無難に、適当に、そんな心理で挑める相手ではない。勿論マスターの存在は不可欠。

 

 タイプが一致しないいわなだれは、複数の岩石を大雑把な範囲内へ投与する技であるが、強い重力が関与して地形効果いらず(じゅうりょく自体が自発的に発動出来る地形効果の様な物)で、追尾性能が付加されているので全ての岩石は自動的に、メコンへと意思を持つかの様に襲う!

 

 使用者がスパコンCPUのヴィヴィなので、一つ一つの岩石をサイコパワーで操作しているとも、捉える事の出来る構図だ。

 

 超大技のりゅうせいぐんと比べれば、規模はこじんまりだけど、着弾地点が寸分違わず〝自分〟となっているから、襲われる側の精神負荷は過大だ。怯んでしまう効果も納得の威圧感。

 

 されどメコンは八年間もジックの手持ちとして、列挙し切れない程のバトルを繰り返してきたメイドさん。

 

 消費効率よりも破壊力を重視、水の弓矢へと化けたのは、生まれた時からずっと覚えたままのみずでっぽうを、胸の前に掲げた両掌から射出。

 

 好戦的な野生ポケモンが出現しても、両親が守ってくれるので手持ちになるまでは、真っ直ぐに飛ばすことすらも難しかった。

 

 それから無窮とも表せるだけ、この技を使って来たから通常では考えられない程に、威力が高まった〝みずでっぽう〟へと独自に発展させ、指定箇所「メコン」となっている天降石へ、水の弓矢を浴び貫かせて沈黙、撃破スコアが次々と増える。

 

「いわなだれのクールタイム……完了、本命です……!」

 

(予想よりも早いですっ!? とびはねるが封印されているので避けられませんっ……!)

 

 

 全ての技には、次に使用出来るまでの《待ち時間》が設けられている。

 

 

 強力な技であるほど、再使用までには時間が掛かってしまうので、技の仕組みを完全に把握しているトレーナーは、蔑ろにされがちな初期技や使い道に乏しそうな技にも目を向け、採用するケースが多々ある。

 

 メコンのみずでっぽうが尤もたる例。威力は褒められないがペナルティが皆無で、鍛えれば連射も可能。

 

 近接系統の技はこの限りではないが、自身に負担が掛かるのでおいそれと大技は連発出来ないのは、こちらも変わらない。

 

 勿論、特定の条件が揃えばあらゆる条件を無視できるし、修行の内容、本人の努力次第でクールタイムを短縮させる事も出来る――書籍に掲載されるポケモンの強さ情報など、おおまかな一般論が記入されているに過ぎない。可能性はいくらだって創造出来る。

 

「じしん!」

 

 先のじしんに全ての力を込めていれば、まだ再使用には至らなかった。

 

 経験値を重ねて一つ一つの技の力加減を調節可能となったヴィヴィ、ここまで上達しているなんて……メコンは驚くが防ぐ手段も無ければ回避する手段も無い!

 

 最後の天降石を破壊しようとした瞬間に発動、いわなだれは全弾撃ち落としに成功したけど、咄嗟にヴィヴィへ攻撃し技をキャンセルさせ……間に合わない!

 

「キャ ア゙ ア ァア! ア゙ンッ……はぁ、あっ、あやしいひかりッ……!」

 

「…………くっ!」

 

 偉大なる大地、母なる大地の力を借り敵味方問わず、使用者以外を地震に巻き込む、物理主体ポケの永遠の定番技。

 

 Hカップまでシェイクしてるとか、そんな描写すら申し訳なくなる、バトルムード全開な二人。

 

 かなりダメージを食らうけど、じしん一発、弱点を突かれたから落ちてしまうメコンではない! 大きいおっぱいと耐久力は比例する!

 

 

 

「…………ニャ? 何でネリちゃんを見るのかニャ?」

 

 

 

 …………反比例する事例もある。

 

 

 

 ヴィヴィもじしんだけで倒せるとは思っていないが、厳しい重力檻の中で揺れる地面、体勢を崩され為す術無く転がされてしまうのに、被害は承知の上でダッシュ!

 

 マトモな歩行すら困難であるのに、距離を詰めて来たのだから畏れ入る! 流石はジックと付き合いが最も長いお方だと!

 

(辛い状況で良くやってくれたメコン! ヴィヴィ、キミは混乱したけど…………)

 

 蒼へ反撃する青。

 

 あまり遠距離からでは、あやしいひかりが対象に命中しないので、それなりに接近する必要があった。

 

 先天的能力に与えられた種族値、彼女が好むバトルスタイルを弁えて、ダメージを稼ぐ技以外にも、状態異常や特殊効果を持つ技を豊富に所有するメコン相手に、持久戦に持ち込まれるのは不味い。

 

 じしんを放ち終わらない最中、三つ編みを結う役割を持った結った二つのライトから、不整軌道を交差させる虹色光彩を浴びせられ、認知神経回路が不協和する。

 

 混乱状態になったので、一時的に念話は途絶えた。

 

 

「…………?、ЯДФФ……Ж……」

 

 

 しかし、二ヶ月前にあやしいひかりを食らった時もだったが、コンピューターがウイルス感染したかの様な反応は、メタグロスだからだろうか?

 

 その言動はスッーと冷涼の介入したロリボイスのまま、石碑に刻まれている古代文字を読み上げている考古学者か。

 

 状態異常回復のきのみという名の、ウイルス対策ソフトは持たせていないので、彼女の活力、精神力、そして早く効果が切れる様にと運に任せるしかない……大損害となる前に解けて欲しいが――――  

 

 

「ハイドロポンプ! 最大火力をぶつけてやれっ!」

 

 

 ヴィヴィだけを贔屓しないっ『どちらも勝たせる』約束の下で、二人のおやとして指示を与えているのだから。

 

 もたもたしていたら、彼女が纏う清浄なる円環が、少しずつ負傷した身体を治癒させてしまう。

 

 

 わけもわからず じぶんをこうげきした!

 

 

 マイナス症状が付加されてからの一発目は自傷……この間にもアクアリングの永続効果で、メコンの傷は浄化されている。

 

 この状態を繰り返せば相手の狙い通り、ターンを稼がれ持久戦となれば回復技の無いヴィヴィは、メコンを倒しきれず圧倒的に不利。 先に力尽きるのはヴィヴィとなってしまう。

 

「手加減は致しません! ごめんなさいねヴィヴィさん!」

 

 あの時と同じセリフ、強い仲間意識と絆が芽生える様になった少女へ、主人の命令に従って情けも妥協も無い技! 受けてみよっ!

 

 

『マスター? どんな事があっても本気でお願いしますね?』

 

 

 大切な子だから手を抜いてしまえば、身体よりも彼女の自尊心を傷つける。  

 

 彼女が志願した全力に、全力で敬意を払うため、持ち込んでいたみずのジュエルを砕き、昇華させたハイドロポンプに耐えられるのか? ヴィヴィ本人からしても『自分を越える』意味がある。

 

 ランターンの火力、解析新書に記載された政府認定評価では〝D〟判定であり警戒の必要性は薄い。 

 

 だからこそ意表が突けるし、不意のダメージレースで有利を取られた相手は、あやしいひかりを使われなくても挙動不審に陥る。

 

 ランターンの火力なら、あと一発は耐える……どうせ大したことない……を、悉く反逆してきた宝石はメコンが最も使い慣れたアイテム。彼女の為にジックは各地の洞窟に籠もり、ドリュウズやモグリューを相手にしながら水! だと思ったら氷のジュエルだったなど……苦労話には事欠かないけど、モザイクアートが作れるくらいには集めてしまった! 

 

 一度限りの必殺! 超圧縮されたのは人間もポケモンも、生活する上では欠かせない生命の象徴である水……の束が、何百本も集う清冽なる水柱となり、対象へ瀑撃させる!

 

メコンの技で唯一隙の多い技も、ヴィヴィが自傷したまんま無防備なので難点を、余裕でクリアしヴィヴィへと、吸い込まれる形に直撃した。

 

 じゅうりょくの影響を受けているので、命中率に少し問題のあるハイドロポンプも、確実に命中する。やはりどんな技も一長一短、利用出来るのは繰り出した本人だけではな――――

 

 

「――――……ぅぅぐ……゙っ――っ!! 今ので混乱……解けましたよ……!」

 

 

 彼女は違うんだ、二ヶ月前とは。

 

 何の為に強くありたいのか、目的も無く一意専心してしまっていたけど――

 

「…………えっ!? 防御は出来なかったのに耐えら――」

 

 水爆流に押し出されたまま戦闘不能になっていた彼女は、ジュエル+ハイドロポンプ、メコン最大の火力を急所に当てられながらも、戦意を失うことは無く背中をぶつけた柵を後ろ蹴し、それを起爆剤としてこうそくいどう! 次なる急接近者はヴィヴィとなった!

 

 重力場からは解放されず、素の速度は低下しているが技を使えばその限りでは無い。

 

 正常時に繰り出した効果と同じ、素早さがぐーんと上がるこうそくいどうは、回避手段の要にもなり、一撃の重みを強化する補助推進装置にもなる。

 

 磁力反発移動を完全に物にしたヴィヴィ、己が繰り出した重力すら反作用噴流で突っ切らせ、ハイドロポンプ終了後、次なる技を使わせる前にキメる……!

 

「ば~く~れ~つ~…………」

 

「でんじ――――」

 

 混乱状態であったヴィヴィは、腐食物に犯される事の無い手甲での防御行動が実行できず、脇も喉も急所をガラ空きにさせていた。

 

 ……ジュエルハイポンが急所に入る、ジックは万が一を考えて『ジュエルハイポンが耐えられてしまった時の、次の手』をイヤホン越しからメコンに伝えていたが、彼の見立てではそのまま戦闘不能、耐えられても前は水流、後ろははかいこうせんでも突き崩せない丈夫な柵、二つの衝突で脳震盪を引き起こし立ち上がるまでの間に、追撃のハイドロポンプを撃つ事が出来た。

 

(裏切ってくれた……覆してくれた! 足取りもままならないんじゃない! 耐えながら反撃に転じてくれたっ!)

 

 確かにヴィヴィは大ダメージを受けた、が、HPゲージを寸でのところで黄色に保ち、二つの衝撃を逆に利用し混乱解除、場数では上のメコンでも対応にラグを生じさせた速度からの――

 

「パ~ンチッ!」

 

 左腕をグルグルグルグルッ、エレキッドの腕を振り回す事でエネルギーを充填させる原理と同じだが、やけに間延びしたセリフを全て言い終わってしまうだけ、長い長い攻撃起動スイッチになる儀式――効果を鉄拳に付与させるまでの時間――を必要とする、ばくれつパンチ。

 

 じゅうりょく状態専用として、新しく身に付けた戦技だ。

 

 ありったけのフルパワー、格闘界の覇王の力を入魂した拳で殴ると、確実に相手を混乱させながら大ダメージ!

 

 前述した通り、常識では考えられない程の隙のデカさが欠点で、マトモに繰り出そうとしてもまず妨害される。それも半分くらい技名を叫んだ後でも余裕で。

 

 腕をグルグルさせるのに集中するから、その場から一歩も動けなくなってしまうのだ! 近接技なのにあんまりにも致命的、予め距離を縮めておいても簡単に逃げられるわ『逆に殴ってください』に等しい、絶好のチャンスを与えるわ……

 

 強力な技だけどハイリスク・ローリターン、 策も無しに繰り出すのは無謀とされ、必ず何らかの支援技とセットに覚えさせる。

 

 引き続いてる重力場の中でなら、目標と定めた相手へと自動的に、吸い込まれる様な歪曲軌道を描けるので、劣悪な使い勝手がかなりカバーされる事となる。

 

 簡単明瞭に説明すれば、定めた相手がS極で自分がN極、じりょくと同じ極性を持ち互いに吸引力が働く。自分だけでなく相手の命中率も上がるのはこういう仕組みなので、やはり自分だけが有利になる変化技ではないのだ。

 

腕を振り回す都合上、防御も回避も制限されてしまうのだが、メコンが次の手を繰り出す前に懐に潜れた――もう間に合わない!

 

 重力状態でなければ、こうそくいどうをキャンセルした瞬間に直立してしまい、腕をグルグル……が、オート移動に任せながらグルグル出来るので、命中率が向上する仕組みなのである。

 

 

「ひャ、キャ! ハぁ゙ぁ゙ン!……う…………?」

 

 やられたら倍返し、目には目を、混乱には混乱を!

 

「?はわ……はれッ……ほへぇ……??」

 

 

 そして急所には急所、それでも耐えきるタフなランターンだけど、頭上にはつぶらな瞳のヒヨコちゃんが、餌の代わりに〝おっぱいを強請っているのか〟ピヨピヨ回転しながら興奮。

 

 ゴーグル内側のおめめも、うずしおを型取りしたかの様な、今時の漫画ではそうそう見られないであろう @ 記号に差し替えられている。

 

「っ!」

 

 メコンは こんらんしている!

 

 

「はっ……はっ……ラにゃ!? プッ!? くたぁ…………」

 

 

 わけもわからず じぶんをこうげきした!

 

 

次の指示を何時でも遂行出来る臨戦態勢で、身構えていたヴィヴィは相棒と表せる、手甲を蒼い光で包み仕舞い込む。

 

 混乱による自傷、三つ編みがおでこをスパーーンッ! 

 

 突っ込みハリセンよりも爽快な破裂音で、自分の髪に鞭打たれたメコンは倒れる仕草も女の子らしく。

 

 両肘を胸内側で45°、手をグーにしたまんまゆっくりとスカートが地に着いていった。

 

 




まだまだ夏は終わらない(現実は真冬)

バトル以外の事もして頂きます

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