ポケ×ぎじ 蒼鋼少女   作:緋枝路 オシエ

39 / 73
------------------------------------


Segment・hexa――【   i k  i e  】

全ての木の実をシューターに投入、ブレンドバトルのカウントが5、4……のタイミングで乱入者現るッ!?

 

「…………ふへっ……? い、いーけど……? いいですよねぇ名人……」

 

「うっ……うむっ、ワシも構わぬが……」

 

 空気読め、よりも この二人の世界に入り込もうとするのか

 

 

 きのみブレンダーは最大で、四人までアクセスが可能である。

 

 当然、爽羽佳と名人が接続中でも二つの席は余っている。

 

『挑戦者が現れた!』のデカデカしたテロップが、画面を埋め尽くし自動的にカウントはストップされた。

 

「盛り上がってるトコ悪ぃナ! アンタらと一緒ならスゲェポロック作れると思ってナ! 邪魔しねぇ様に遊ばせて貰うヨ。あぁ、もう邪魔しちゃってるかァ? キシシシッ! まっ、よろしくナァ!」

 

 乱入が許可されたので、対面していた爽羽佳から見て右、名人から見て左の席にピョンと、アホ毛を傾けながらジャンプ座りしたのは独特な笑い声、セリフの一部をカタカナ表記した様な発語――

 

 

(……〝あて〟って、 ジョウト地方の一人称だっけ……?)

 

 

 ――自らを「あて」と呼ぶプラズマポケモンのロトムだった。

 

 

 電化製品に入り込みイタズラを行うのが好きなポケモン。もりのようかんでは幽霊の仕業、ポルターガイストとしてハクタイジムリーダーですら、バトルをして交友を深めたジックに解決を丸投げしてしまう震え上がりっぷりであった。

 

 原因が判明したら何てことはない、テレビから出られなくなってロトム自身も助けて欲しかったらしい。

 

「キシシ、ブレンド開始ィ!」

 

 尖った頭頂部は人化している身長――ヴィヴィとそう変わりなく146㎝ほど――の、実に1/3を占めるであろう巨大なアホ毛となっており、流動体となっている茜色のオーラを取り憑かせている。

 

 ショートヘアは柑橘類を彷彿とさせるオレンジ、横髪が地に着くほどの長さで色彩が茜色なのは、電子レンジを取り込んだヒートロトムの際に変化する、ミトン状となっている。

 

 タンタンッ、指の腹でタッピングするのもミトンで、人型の両手はオーバーサイズで膝下近くまでを隠している、薄生地のスカジャンのポケットに突っ込んだまま。

 

「キシシシシ!」

 

(はっ゙――――)

 

(なんっ゙…………と――――)

 

 ヘリウムガスを吸い込んだ様な、高周波数の笑い声はプレイを乱す為の策ではない。ロトムの地声である。

 

 ミトンの色彩とは少し色味の異なった、赤系統のキャスケットを被らせるも、アホ毛が大きすぎて貫通してしまっている。

 

 周りの物は「そういう思いきりもアリだ」と、風変わりなファッションで全身をコーデした、ヒートロトムのブレンドスキルにも沸き立っている。

 

 特徴的すぎて人混みに紛れてもアホ毛のデカさと、耳鳴りしかねないキンキンボイスは迷子とは無縁なのだろう。

 

 両脚をプラプラさせながらも、変わらず横髪から伸び行くミトンでの軽やかなパフォーマンス。超高難度な譜面は脳と身体の反応が追いつかないのに、過度な負担を避けながら織りなしているのは、四倍速のgiocoso――――

 

 

「キシシシ! あての勝ちィ~~! 空気読めなくてワリーなァ、じっちゃんと目隠れの姉ちゃん!」

 

 

「……………………」

 

「……………………ガクッ」

 

 まずヒートロトムである、彼女がシューターに投入した木の実からして別格であったのだ。

 

 何が起こるか分からないズアのみ、全ての生き物の力を宿したヤタピのみ、世界の果てに捨てられた幻のスターのみ、夜空に浮かぶ星々の力を持つナゾのみ――――

 

 爽羽佳と名人が投入した木の実も、入手は難しく枯れさせず栽培し収穫するのは、壮絶な努力が必要となる品々ばかりだ。

 

 

 ――のに、それを上回る激レアな木の実を大量に持っていた。

 

 

 どうやって入手し、どうやって育て上げたのか、ジックも報酬として頂いたサンのみは増やすことに成功してはいるが……

 

「おォ!? すっげすっげェ! 柘榴色に翡翠色に石英色! あても知らねェポロックがいっぱいじゃねェかよォ! イレギュラー変化しちまったかァ? どォ~んな味がすんだろなァ? キシシシ、やっぱアンタらと遊んで良かったゼ!」

 

 彼女のスコアは1000。俗に言うフルコン。

 

 爽羽佳は997、名人は991…………どちらもポケモンと人間を卒業してしまった無我の極地レベルなのに、彼女は木の実だけでなくブレンドスキルも一枚上手であった…… 

 

 バケモノ×2を打ち負かしたバケモノ、サスペンダーと雷と炎のパターンが刻まれたニーソックスをそれぞれ、向かって右側のみ採用しているヒートロトムの全身が映画館にも劣らぬスクリーンへと投影中。

 

 薄生地のスカジャンは右側のみズリ落ちており、インナーであるオフショルダーも、右肩のみ露出しているとはアシンメトリーな拘りでもあるのかもしれない?

 

「…………まぁ、まけたぁ…………自分でもあり得ないスコア出ちゃったのに……むぅぅ……んっ! スコアは過去最高だけど惨敗だなぁ! オメデトー! その、貴女の名前は……? 私は爽羽佳だよ!」

 

 戦利品の宝石ポロックを指の間に挟み、ポケットへ仕舞い込んだヒートロトムへとめっっっっっ! ちゃ! 悔しいけど、素直に敗北の味を飲み込んで勝者へと握手を求める。

 

 

 負けたときこそ相手を褒める。特別能力に優れないオニドリルなので、ジックの手持ちになっても最初は負けてばかりで、彼を散々罵って「私を扱えてないだけ!」と、責任の全てを押しつけてしまった事もあった……彼からの教育。

 

 

「んァ? あての名前、ニックネームかァ? キシシシ…………ニックネームなァ、ニックネームは大事、だよなァ…………?」

 

 

 拍手しながらスクリーンまで飛行、アシンメトリーなロトムっ娘は注目を注がれるのは、満更でもないらしい。

 

 てっきり『はいてない』のではと、疑惑が音速となってゲーセン内へ拡散妄想していた男子へと、スカジャンを捲ってボーイッシュなデニムキュロットパンツを魅せれば、本人はイタズラ好きな本質を思い出させるような〝ザマーミロ〟顔で、サンクチュアリの色は不確実なままであった。

 

「キシシシ! そー簡単に下着見せる趣味はねーよォ! 男は単純だナ! コレェ、そわそわにやるよォ! 遊び終わったからおやびんの元へ帰らねーとナ、じゃ、また会えたらイイなァ!」

 

「えちょっ……、な、名前おせーてって……ヘイ゙ッ!? あの子が作ったポロック……?? これって手品? 手品…………あ」

 

 ホッカイロな暖かさ、ミトンを握々しながら名前を伺ったのだがスルーされてしまう。

 

 常に口角をせり上げ、ニカッと歯並びの良さを自慢している様なスマイルの彼女が、郷愁を振り返った遠く、遠くを見つめているような視線をもう片方のミトンで隠しながら、背を向けて出入り口まで進んだら初めてポケットから出した指を「カキンッ!」と叩き、火花と電流が微量に散る。

 

 肩と手首を繋ぐ肘に値する部分は無く、分離している。電化製品と融合すればゴーストタイプから、取り込んだ製品を模した物へとするが、その名残なのだろう。

 

 

 ――もうニカッとフェイスに戻っていた。

 

 

(トリックか……宝石ポロックいくつか貰っちゃったよ……! ふぅーん……あの子とバトルする事になったら嫌だなぁ、相性最悪だし! そうでなくともあの子――」

 

 

 ――――めちゃくちゃ強いよ……――――

 

 

「……………………決めた、旅に出ょ…………」

 

 ロトムだけに、心霊現象がゲーセン区間を引っかき回した様な数分だった。

 

 爽羽佳が戦利品として回収した、真っ黒焦げなカスポロックは存在自体が未確認であろう、サイコロ状の宝石菓子とトレードされていた。

 

 自分と相手の道具を一瞬で取り替える技、トリックだ。あんな失敗作じゃレートが釣り合ってないけど、彼女は情けを掛けた訳ではなさそうだった。

 

 

(名前分からないから『あてちゃん』として覚えておこーっと!)

 

 

 そろそろコンテストの始まる時間帯、指定席へ低空飛行体制で向かう爽羽佳。

 

 二人の少女にコテンパンにされてブレンド人生を白紙に、壮士凌雲の天へ舞い戻る事を誓う名人、79歳からのリスタートである!

 

 

▼▼▼▼▼▼

 

 

「キシシシ、偶には人だかりンの中で遊んだっていいよナァ? おやびんには許可貰ってるしよォ!」

 

 駅の構える121番道路方面へと向かう近道、路地裏に入った少女はスカジャンのポケットに手を突っ込んだまま、髪と一体化しているミトンはクルックルと、上下へ仰がせたり何度も回転させたりと、忙しなく心中は興奮している。

 

「まァ、イカサマしてたんだけどナ。 あての髪が筐体に触れた瞬間にハッキングじゃねェケド、電化製品の範疇だからナ! キシシシ、あての意思と接合させて貰ってたンだヨ」

 

 

 少女がボタンを押せば必ず〝excellent!〟

 

 

 電気を触媒にしている機械ならば、どんな物でも似たようなイカサマを実現出来てしまう。

 

 係員もプレイヤーも、誰もイカサマに気がつかなかったので、バレなければ〝イカサマした〟事実は残らないのだ。

 

 

「さァて、この真っ黒ポロックはどんな味するのかナ? キシシシ、カスポロックって食った事な―――

 

ぶ ゲ ボッ゙!? けはッ゙! ン゙ もげ ェ゙ェ゙~~?!!? 

 

マ゙ッ! クッソマ゙ッズぅ゙ぅ゙!! ぺっぺー!…… ッ、ゲホッゲボッ…………水ぅ゙……自販機ねーのかよォ!? ウがっ、むグッ……ハァッ、喉の奥イガイガすンぜ……帰ろ帰ろ……この味はねーヨォ……食わなきゃ良かったゼ…………ハァハァ……」

 

 

 高周波数ボイスのまま、カサ付いた暗黒物質を恐れなく咀嚼――の前に、ポロリと欠片が一足早く舌に落ちただけで、腐った根っこが口内に寄生する様な、味覚でも生理的に極めて厭わしい感覚で犯され、激しくムセ込んでペッペ!

 

 どんな相手にも何を考えているのか読ませない、ニヤニヤした顔を路地裏だからって涙目になりながら、ミネラルウォーターの自販機を探し歩く謎のロトム。アホ毛も萎びてしまうクソマズポロックは即座にポイ捨て。 

 

 イカサマした報いである...




---------------------------

【挿絵表示】



次回からコンテスト本戦ですよっ!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。