「ごめんニャさいィィ~~!!」
「ごめんねヴィヴィちゃんッ!!」
「ごめんよヴィヴィ~~!!」
「……………………………………………………………………」
控え室に戻って早々、黒猫娘と羽娘とそのおやが、ジャンピング土下座。
無言の長さが怒りを主張、ドカンッ……椅子に八つ当たりする勢いで脚を組んで座り込む。
そんな姿勢だと黒い紐パンが……などと、期待していい雰囲気じゃない!
「……………………わたしはオモチャじゃないんですよ…………?」
あぁ、腕まで組んだらおっぱいが乗っかって……だから、そういう事を考えている場合では無い。
「本当にごめん! 台本考えたのはこの二匹だけど、確認したのに止めなかった俺が悪いんだッ! 俺にはどんな死刑決行でもしていいからさ、この二匹だけは許してあげて~~!」
またリミッターを掛けたのか、小さな少女がレジギガス並の巨体に見えるプレッシャーを放ちながら、無慈悲無愛嬌でもキュートになっちゃうお顔でも、いかりのボルテージが六段階まで上昇している!
ブロック崩しの破壊力で、ようやっとビビり始めたネリと、優勝すればチャラになるかもと淡い想いもコナゴナとなり、次は自分が蒸し鶏の香味だれにでもされると、前髪全部下ろしたいくらい泣きべそってる爽羽佳。
仲の良い二人は抱き合ってガクブルしており、守る様にしてジックがヴィヴィへと何度も何度も、どっちがトレーナーなのか不明瞭になるくらいに頭を下げる。
「優勝は逃したかも知れないけどさ、ヴィヴィは……慣れないのに一生懸命頑張ってくれたよ……」
「…………えっ……………………?」
「俺は感情が伴ってないとは思ってない、俺は抑揚の差違を感じ取れたよ? リミッター付けてたけど俺には分かった! 恥ずかしい想いさせちゃってゴメンね……」
――――ヴィヴィの色々な姿、見られて良かったなって想った――――
「…………っ゙!!? チ、チーズドッグ77本で……許してあげますっ…………」
アクセスしてしまった、彼しか入り込めない心の部屋への侵入を許可させて。
念話なので他の皆には分からなかったけど、自分も彼と念話したいと想っていたから、相互アクセスが可能になっていた。
彼の本心が伝わってきたら、リミッターが勝手に解かれてしまって、サイコパワーで椅子を急いで半回転。
これで綻んでしまった表情、見られずに済んだはず……
「分かった! 77本買わせて頂きます! 本当にごめんなさい!」
「マニュハハハァ! やっりィ~~! コメパン食らわずに済んだニャし♪ ご主人ったら太っ腹ニャ~ね!」
「お 前 は も っ と 反 省 し ろよォォッ!!!」
欺くことが大好きなネリ、全く懺悔してないのが彼女らしいっちゃらしい。
ネリを片腕でブンブン振り回しながら、誠意を持って謝罪するジック。
(…………そこまで言われたら、許してあげなければ虐めてるみたいになってしまうし……狭量だと思われたくないので……)
「赦免です、今回だけですよ……全く、しょうが無いマスターです…………」
ヴィヴィの なつきどが さがった……
……と、おもいきや?
(ちょっとだけ……心理回路を損傷していたのですが……修復してくれましたので……)
ジックに はげまされ ヴィヴィの なつきどは ぐーんと あがっていた!
審査員の適切なコメントと判定に、少なからずショックを抱えていたヴィヴィ。
あんな一言で落ち込みそうになった、二ヶ月前の彼女ならば絶対に、何の反応も示さなかったのに……これも成長している証であると、困惑しながら受け止められたのも、マスターである彼に励まされたからだ。
追言すれば『狭量だと思われたくない』も、二ヶ月前の彼女なら……であるが、様々な触れ合いと経験で情緒を育んだ現在のヴィヴィであるならば……で、ある!
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「もしもし? 貴女はヴィヴィさんですよね?」
もう間も無く15時だし、疲労が蓄積し糖分を欲しているしで、常連となったチーズドッグ屋さんへ進路を取っていたヴィヴィ達。
裏口から出たのだが、そこには一匹のポケモンが待ち構えていた。
「ワタシ、ミナモ美術館の館長の手持ちポケモンです。ニックネームは《パーリェ》と申します」
ポケモン界の画伯、手持ちであるのに館長が〝先生〟と呼称している美術感性に富んだ、えかきポケモンドーブル。
ほぼ全ての技を視た瞬間に〝スケッチ〟すれば、その技を覚えてしまえる固有能力は、描いた物を一生忘れずに、記憶力に移し替えてしまうのだとか。
何をしてくるのか冗談抜きで読めない、ステータスはかなり低いけど、相手にしたくないポケモンの筆頭である。
「細やかな物ですが……こちらをどうぞ」
「!? チーズドッグのつぶつぶバナナ味ッ!…………と、名刺」
対戦では使用者皆無と言って良いほど、使い道を見いだすには上級トレーナーですら一年間悩み続ける、ギフトパス。
焼きたてのチーズドッグが、独りでに自分の手に収まっていた。ついでにパーリェ氏の名刺も……
人化している彼女は、筆尻尾から分泌する魔法の絵の具で取り出した白紙のカード6枚へと、命を吹き込んでいく――――
「ヴィヴィさん、貴女の絵画を描かせて頂きたいのです。あっ、これは皆さんへの名刺となります、連絡先へは何時でもどうぞ」
「おぉゔッ!? カードに文字がぁ! 絵がぁ! リアルタイムで名刺作ってるよこの子~~! スゲー!」
「簡易な物ですみません。手掛けさせて頂く作品は、時間と労力を惜しみませんので」
(この名刺の自画像も、もの凄く上手いのに簡易なのか…………)
美術館に飾られるのは、シャクナゲの絵画であるけど、館長と共にコンテストを観戦していた彼女は、培った造形技術を二匹の為に使いたいまでの感銘を与えられた。
あまりにも惜しい、ヴィヴィの絵画を手掛けられないのは。
なのでお仕事としてじゃなく、個人の趣味であり直感したインスピレーションをどうしても形にしたいと、ヴィヴィへ逆依頼する。完成した絵は寄贈する形となる。
「ふむふっ、ではお願いします……モフッ、モフぅ……あったかいうちが……一番、です……」
それはパーリェの情熱に対してなのか、チーズドッグに対してなのか……
ここまで頼まれているし、チーズドッグを貰って食べたしで、断る人非人な少女じゃない(ポケモンです)
…………ふと気がついた。チーズドッグが好きだと、パーリェは何故知っているのだろうか?
…………そこら辺はシカトしておこう。劇薬が混入されている訳でも無いし、パーリェからはアーティストスピリッツが、可視化されオーラになっているしで。
「やりました! 許可を下さり感謝です! 完成の際は自宅へお届けさせて頂きます! では暫しお待ちを~!」
許可を与えられ、一気に声色が弾んだ。
彼女の両腕が翡翠色をした、鳥獣-ハルピュイアを彷彿とさせる翼に変化したっ!?
……あれは、どんな技でも覚えてしまう彼女流のそらをとぶ、翼の形状がピジョットと同じなので、ピジョットのそらをとぶ姿を視た――描いた――のだろう。
美術館横のアトリエへと、尻尾でバイバイしながら飛んで行った。
「凄いじゃないかヴィヴィ~! 簡易でもメチャクチャ上手いのに、手間暇掛けて描かれた世界で一枚だけのイラストだよ! すっごい楽しみだなー!」
「……………………そ、ですね…………作品が贈られてきたらレビューさせて頂きましょう……」
あんまり乗り気では無い?
違う――――
(…………マスターに、あげよう…………そっちの方が絵画も喜ぶ……そんな気がしました…………)
自分で自分の絵を見たって、ナルシストみたいだし。
そういい訳しながら、ふつふつと頬が紅潮してるのも、焼きたてチーズドッグを食べているから……って、こじつけておこう……
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ありそうで無かった、今後は一つのジャンルとしてブラッシュアップされ、本格採用となるであろう〝萌え〟コンテストの翌日、ミナモ自治体が所有しているバトル可能区域、正式認定に基づいて設計されたフィールド内へと立ち入った。
ジックは事の経緯を浮かべながら、依頼人となった少女トレーナーを見つけて、まずは「メッセージ並びに、バトルのご依頼ありがとうございます」と挨拶――――
ヴィヴィがコンテストに出場し二位を獲得した、簡略詳細と速報だけだがホームページを更新したネリ以外の子は就床している、昨晩の23時を回想する。
手持ちのマイルームは吹き抜け構造の二階に建築され、ジックも同一の設計となったマイルームが一番西側にあるのだが、それとは別の――――フリーランスの彼が作業をする仕事場でもある――――北欧テイストを注入しながらも、必要な物をすぐに取り出せるレイアウトに拘った書斎。
二階がリラックス、一階がワーカー。
広くはないけれどデスクを中央、側面や背面には書籍や道具に囲まれている。
アームレストと背もたれが装着されたワークチェアを少し動かせば、色分けされた仕切り板が、迷うことなくファイリングされた資料まで導いてくれる利便性は、多様なレイアウトを試した末の完成形だ。
「コンテストの途中でメッセージ送られたのかっ、早くないか?」
新着メールの投稿時間は、ヴィヴィが瓦と会場の一部を星砕きしてからすぐだ。
つまり、送信者はあの場に居て、あの場からジックのホームページを通してメッセージボックスへ投稿したらしい。
ベランダの手すりで休んでいたホーホー三兄妹。
ホームページ更新後、檜香る丸太のユニットバスに浸かりながら、猫耳や猫尻尾を付けて、確かに棒読みで無表情のままだったけど、普段通りの生活では考えられない格好・セリフのヴィヴィを思い出して、予定時間を20分もオーバー。
のぼせた頭を冷やすために、ベランダへ向かったらホーホー達はビクッ!?
勝手に止まってごめんなさいと、一定リズムで傾げる首を下にし続け謝る。
「荒らしたりしなければ、休んでていいよ! 俺こそ寝てたのに邪魔しちゃったかな?」
激昂する理由、一家の主人は何一つ無い。夜間帯に活性化するホーホー達は、ミナモ周辺に生息しているのだろう。
新規散策コースをナイトフライトしていたら、丁度良さそうな手すりがあったので……
安堵してくれたのか、今度は規則正しく頭を傾げたり、回転させお言葉に甘える事にしたらしい。
人語ではないけど、異種族と交流しているトレーナーなら理解できる。
「依頼人の子は、対戦フィールドを指定してきた。草原か……どの子で迎え撃とうか……形式はダブルバトル――――まだタッグを組ませた事はないけど、ここは――――」
難しい顔はしない、スターウォッチングしながらの熟考。大まかな戦法を何個か練り上げておく。
北の夜空にはキリンリキ座、南にはテッポウオ座、西はハブネーク座、東は……ここからじゃあまり見えないのだがモココ座があるだろう。
キンセツやミナモの都会でも、気が遠くなる程離れた天然プラネタリウムは遮らず、天文学と占星術の研究家がゴチルゼルを連れて訪れる、ホウエン地方。
最も幻想的なのは120番道路、こだいづかの近くからのパノラマだけど、ここからでも十分頭上の満天の星々を堪能出来る……!
ホーホーさん達も、彼の真似をして見慣れているハズ――――だけど何一つ同じではない――――星巡りの自然優美には、首を傾げるのも忘れてしまっていた。
んで、依頼人というのが――――
一章で一回、もしくは二回バトルは描いていきたいです。苦手ですが逃げてたんじゃ上達しないので頑張る!