ポケ×ぎじ 蒼鋼少女   作:緋枝路 オシエ

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素朴な女の子
スタイリッシュな女の子
南国系な女の子

生暖かく見守りましょう!



Segment・hexa――カードだったらTAG TEAM

「初めましてっ! ジッ、ジックざンッ! 出身はジョウトのヨシノシティでゅえす! パン屋の娘やってます《シェルン》どゥすっ! ハーハーハー……ごご、ごめんなさい、ネットでバトル依頼したのって初めてで……ジックさんのページはかなりの頻度で回覧させて貰ってます! こんな田舎者の依頼を引き受けてくださり感謝、感謝ですっ!」

 

「……随分と緊張してますね……俺の事は請負人と思わずに、もっと友達と接するくらいに力抜いた口調で大丈夫ですよ。俺もそうさせて貰えたら幸いです! トレーナーが強ばっていたら、ポケモン達にも伝わっちゃいますし」

 

 温泉町でバトルした少年、ズナミヨは実家が経営する旅館を宣伝する為に手ぬぐいを頭に巻いていたが、こちらの垢抜けきれてない少女はチェック柄の三角巾を頭に付けている。

 

 大きめのポケットを3つあしらった、カフェエプロンと装飾自体は洒落ているのだが……素体がどうも化粧っ気がなさ過ぎて――――というよりまだ興味を惹かれないのか――――寝巻きはイモジャージで、純朴な印象を抱かせる子が依頼主である!

 

「そう……ですかっ……? では……じゃなくて、じゃあジックさん……! 都会っぽい感じで接してみます!」

 

 産まれがド田舎……は言い過ぎだが、数々の有名トレーナーの出身地である はじまりをつげる かぜがふくまち ワカバタウンも、かなりスローライフを満喫しかねない、のどかな土地であるが前述した有名トレーナーや、ポケモン研究所が観光名物となっているのに対し、ヨシノシティは特に…………無理して捧げるのならば、自腹で新人トレーナーへランニングシューズやマップカードをプレゼントしちゃう、案内じいさんくらいだろうか?

 

 ――――彼の情景描写を語ると、子共に恵まれなかったので、それっぽい年齢のトレーナーには優しくしたくなるのだとか――――

 

 人口も規模もワカバと同じくらい、お隣の町だってのに影が薄すぎる、ジョウト地方を紹介する特番でもヨシノだけ忘れ去られており、住民が一丸となって怒りのクレームを出した笑えないエピソードがある。

 

 シェルンは田舎育ちである事を気にし、憧れの都会に移住し両親がパン屋を開業して数年…………

 

 実家でお手伝いしつつ、トレーナー業も中堅くらいにはなれた……気がしている。

 

「私の家で焼いたパンですっ! どうぞっ、皆さんの分もありますので……焼きたてじゃなくてごめんなさいですっ……」

 

 どっから、どうやって取り出したのか、振るえる両手で渡してくれた紙袋には、タイプごとの代表ポケモンをイメージした自家製パンが17個も!

 

 腰が低すぎて、自信がイマイチ持ちきれない彼女だけど、パン作りの腕前は後ろ向きに非ず!

 

 着飾れずナチュラルで穢れ無き色の素肌のまま、生地作りに励む様子を覗いた年配の客は《おじちゃんの色々なところも、こねて回されたい》とスケベな感情を持たれている件も、田舎娘は知り得ない。

 

 バーベキューした時もそうだったけど、美味しそうな香りが鼻孔に入っただけで、昼飯を食べたばかりなのにお腹の虫は眼を覚ます……そしてもう砕けた口調が畏まった口調へ戻っていた。

 

「コンビニエーション……じゃなくて! コンビネーションの練習がしたいのです! 戦略考えて来ました、少しくらいは抗わせてくださいぃ~~!」

 

「だからダブルバトルなんだね。そんな、歳は二歳しか違わないんだからいいって、頭そんなに下げないで……」

 

 見ず知らずの人に騙されないだろうか、両親が倒れたと嘘の電話をされたら簡単に信じてしまいそう……そして怪しい廃工場なんかに連れ込まれて――――彼女の立ち振る舞いを見てるだけで心配になる。

 

 そんな俗妄想は取り消して、互いに指定線に立ち使用するボールを2つ……腰から両手に移し替えた。

 

「私が勝てましたら、ヴィヴィちゃんを抱きしめさせてください! 握手させてください! 昨日のコンテストでメロメロにされちゃいました!」

 

 

 猫耳は別料金なんですか?

 

 

 そんなのだけは詳しかったりする、骨抜きにされた会場内でジックのホームページへメッセージを送っていたらしい。

 

(考えるよりも先にやっちゃったけど、コンビネーションの練習したいのも嘘じゃないし……勝てるかなぁ~勝ってみたいなぁ~……思いっきりやってみよー!)

 

 第一バッターはシェルンとなったが、起床してからホームページを確認してみると、50件以上も似たようなメッセージが送られており、モーニングコールしてくれたメコンと一緒に変な声を出してしまった……ッ!

 

 一部『ヴィヴィにゃんヴィヴィにゃん!! スースーハーハーフーフーくんかくんかおパンツ何色何カップぅ…………?』などと、冗談か本気か判別できないのはゴミ箱に捨てさせて貰ったが……

 

 

「いけっ、メコンとヴィヴィ!」

 

 

 フィールドへの投擲タイミングは同じだが、より洗練されたフォームだったジック側のボールが、先に割れてスカートを抑えながら青いメイドさんと、抑えずとも捲れない重力に逆らう蒼いスクールガールが、それぞれダイブボールとモンスターボールから飛び出す!

 

 

「出ておいで~、スペランザとグリーシャ~!」

 

 

 最短カットするようなフォームではない、真下から上空への魅せる為の投法。

 

 繰り返す――――リピートの名称が示す通り、黄色の矢印が円を描きながらオレンジの光と一緒に弾けるエフェクト……既に捕獲した経験を持つポケモンが、捕まえやすくなるリピートボールから、出現したのは――――

 

「少しは強くなったって、自覚湧いたから依頼したんでしょう? 胸を借りる気持ちでぶつかりましょう、深呼吸して動悸を収めなさいな、シェルン」

 

とにかく走るのが大好き、瞬間速度が240km/hまで到達、速い物体を見かけたら競争したくて溜まらなくなる。

 

 本来の姿は正に一角獣、灼熱の鬣はクリムゾンレッドに盛る……のだが、彼女は緩めにウェーブしているだけの黒髪であった……?

 

 ヴィンテージ感のあるマウジージーンズは、くるぶしで折り込み黒レザーのショートブーツで足下を締める。

 

 キャメル色のベルトで手首をスタイリッシュに演出、長袖だがシースルー加工が成されているブラウスは、まだ夏の残暑がある気温であると実感させてくれる。

 

 シェルンの手持ちで一番レベルが高く、エース的存在、ひのうまポケモンギャロップ。

 

 両親の友達から交換で頂いたポケモンであり、生まれと育ちは大都会コガネシティなので、ヤボったい主人よりも流行を捉えたファッションが光る。

 

(黒髪のギャロップとは珍しいですね)

 

 炎タイプを失った、それとも別のポケモンと勘違いしてしまいそう。

 

 染めているのか? ギャロップにとって炎の鬣は命と同じくらい大切な物なのだが…… 一見すればキッ、とした表情の話しかけづらい子、だが打ち解けるのは簡単でまだ頼りないシェルンを支えるお姉ちゃんに近い存在でもある。

 

「やりましたねーシェルンちゃん! メコンさんならお相手できます~♪ 他の手持ちさんが出て来たらとっても不利なので~読んでいたんですか~?」

 

 もう一匹のポケモンは、掌を返したかの様変わり。

 

 ボールも薄緑色の煙が焚くネストボール、間延びした口調も、バタフライスリーブのワンピースは、南国調の色彩で上がバナナやレモン、下がライムやキウイカラーのグラデーション!

 

 暖かな日差しに誘われて踊り出す、それは太陽へ感謝をしている儀式とも呼ばれている。

 

 爽羽佳とほぼ同等なスレンダーボディだが背の高いスペランザと比べて、ヴィヴィより身長はある物の胸は惨敗してるロリ体型。それが あたりまえ なのです

 

ついでにトレーナーも、慎ましいジョウトの感性で下着も色気とは程遠いとだけお伝えしよう。 

 

 ホウエンで集めた花で作られた冠は、彼女が踊り動けば心地よく、例え踊りを見ていなくともバトル三昧で疲弊した心身はリラックス……

 

 歌ではなく踊りでメロディアスな表現をする、フラワーポケモンキレイハナ。

 

 グリーシャはシェルンが捕まえ、育てたポケモンである。採用理由は『ビジュアル!』

 

「…………もちろんっ! ジックさんがメコンちゃんとヴィヴィにゃ……ちゃんを出すのは読んでいたんだから! 貴女でメコンちゃん、スペランザでヴィヴィちゃんを相手にするの! 有利対面だよっ、チャンス! チャンスッ!」

 

(絶対嘘ね……ダブルだから簡単に縛りは逆転されるのに。キッカケはあの子、メタグロスのヴィヴィさんに萌えたからだけど、自発的に〝ダブルバトルしたい〟って踏み出せたのは偉いわ)

 

ポケモンと人生を、生活を歩む者。価値観など人それぞれ。

 

 勝利至上主義のガチ勢ではなく、スペランザのマスター・シェルンはエンジョイ派。

 

 強いからそのポケモンを育てるのでは無く、可愛いから、綺麗だから、実に16歳の女の子らしい理由で捕まえて、ついでに戦わせていた。

 

 そんなシェルンもバトル経験を重ねて、勝利に対して少しばかり貪欲な姿勢になって来た。

 

 やるからには勝ちたい、それが格上の相手だろうが……トレーナーとしての本能が訴え、考えるより先にメッセージを送信していた。

 

 

『ダブルバトルをした事は殆どありませんが、ご教授お願いします! もしも私が勝利する様な事が起こりましたら、ヴィヴィちゃんを愛でさせてください! コンテストでファンになりました!』

 

 

 送信後、帰り道で「どーしよーどーしよー! アワワワワ…………」と、手持ちの皆に慌て泣きしながら相談するのも彼女らしい……

 

(でもでもぉ、嗜み始めたばかりだけど練習はしてるんだもん! 全身全霊で指示して、頑張ってみなさいってスペランザにも言われたし! んっ…………)

 

 公認レフェリーがバトル開始、五秒前のカウントをして漸く……気持ちが落ち着いてきた。

 

 負けてもいいやー、アハハーで過ごして来たけど、偶には勝ちに拘ってもいいんじゃないか。手甲を構えているツインテメタリックガールを抱擁できる、素敵な商品もあることだし。

 

「バトルスタートッ!!」

 

 さぁ、ここからどうする! ジック側は予め伝えた通り、先手を譲ってくれたので蒼と青は定位置から動いていない。

 

 ジックだってわざと負けるつもりはない、二匹のポケモンを同時に操るこのルールでの、戦闘指南を優先させながら最後には勝たせて頂く、シェルンには申し訳ないが……!

 

(だからって油断して、舐めたプレイングはしない。俺を選んでくれたあの子にも、あの子の為に戦う二匹にも、俺の手持ちにも申し訳が立たなくなるからな)

 

 実力が拮抗していなければ、バトル依頼を蹴る男じゃない。

 

 キッカケはヴィヴィに深い萌えを感じたからであるが、自分の腕と実績を認められてご教授願いますと、頭を下げられたのだから真摯な心で取り組ませて頂く……!

 

「スペランザ、とびはねる!」

 

 ランターンとはシングルでも戦った事は無い、レアポケモンのメタグロスなど生で見るのすら昨日が初めてだ。

 

(アレをするのねっ、いい顔に戻ったじゃないシェルン! 不安は自信で打ち克つ物なのよっ! 貴女を信じて無茶ぶりされても従ったげる!)

 

 交換した当初は、トレーナーのレベルが共わず命令を無視されてばかりだった。

 

 シェルンの手持ちでは頭一つ抜けたレベルなので、どうしたってスペランザ頼りになってしまう場面は多い。

 

 悪いことではないが、他の子達もバトルしたがっているのだと、少しずつ経験を重ねて言葉にせずとも理解できる様になった。

 

 トレーナーの肩書きを持つ者として欠かせない、手持ちの習性・状態・生態を把握、管理する観察眼と――――

 

(能力値の高いヴィヴィちゃんから狙おう!)

 

 特別な家計でもない、センスに優れた訳でも無い。

 

 こんな田舎トレーナーでも愛情と、根気強く歩んでいく忍耐力、そして手持ちと触れ合い信頼を築き上げる事!

 

 言う事を聞いてくれない、その理由はトレーナーとして未熟だから、じゃあ何処が未熟なんだろう、どうすればスペランザと仲良しになれるだろうか……

 

 ジック&ヴィヴィと似た関係、家族や他の手持ち達が居てくれたから、諦めず彼女に認められるトレーナーへ。

 

 ひとまずは精神的にもレベルアップ出来た、出来たじゃないっ……!

 

「頭上からっ……」

 

 メコンも覚えている、あまり使い勝手の宜しくない技を起動スイッチに――――

 

「そこでぇ、ほのおのうずー!」

 

 進化前のポニータは、たった一回のジャンプで300メートル以上ものタワーを、楽々飛び越えてしまうトンデモ脚力を具有する。

 

 進化後のギャロップは跳躍力だけでなく、瞬発性も発達したったの10歩で、最高時速に到達する……

 

 空気を蹴りを空をも駆ける……まるで見えない階段を登る様にキックを繰り返せば、300メートルどころか成層圏をも突破しかねない。

 

 そうやって跳躍距離を競い合う競技も、ギャロップを持つトレーナーからは望まれているのだとか。

 

 とびはねるを解除、落下する彼女の脚先には炎で生成した、サッカーボールサイズの火球が顕れる!

 

「おおッ、彼女の髪がッ!」

 

 そう、ギャロップ種にしては色違いよりも貴重かもしれない、命でもある炎の鬣は黒染めしていたのではなかった!

 

「――――らああぁぁ!」

 

 

 スペランザが炎技を行使する時のみ、肩までのウェーブヘアは腰付近まで伸び、炎タイプとしてこれ以上ない程に揺らめく〝炎髪〟に変化するのだ! 

 

 まるで主人公の様な体質! 発火したウェーブヘアと共に回転を軸に加えて、ボールを蹴り込む威力を高める。

 

 その軌道は螺旋状、繰り出された位置から初手は動かない約束であった、ヴィヴィとメコンの周囲をグルグル巻けば、草本で生い茂る大地と空中を結び書く。

 

 あのボールの正体は、スペランザ流ほのおのうず。

 

 同じ技でも――例えばまもる、ヴィヴィとネリだと全く違う色合い――演出には個性が溢れている。

 

 威力の低さが浮き彫りとなるが、広範囲を覆える拘束技なので応用のし甲斐がある。

 

(とびはねる+ほのおのうずは、いっぱい練習したんだもーん!)

 

 自分達なりの鍛錬の成果が実り、ジック側のポケモンが視認不可となる。

 

 初手が理想通りに運べそうなのを見て、動悸や脈の乱れが緩和して来たシェルンは、自分なりに描いた戦闘ビジョンをありのまま、実現させてみよう、させる事が出来るのではと、プラス思考のまま突っ走る。

 

 単純と言ってしまえばそうだが、新人~中堅トレーナーは勢いが重要だ!

 

 経験や知識では適わないかもしれない、だが勢いならばっ、時として熟練者をも戸惑わせ、予想もしない奇策を――――やぶれかぶれとも言う――――使われてしまい、流れを強引に握られそのまま勢いに任せた格上殺し(ジャイアントキリング)となる下克上など、今日もこの世界の何処かで起こっている。

 

「ヴィヴィはサイコキネシス、メコンはみずでっぽうを一点集中させて」

 

 牧場とも言い換える事が出来そうな、人工的な草地。

 

政府の所有物で公認のフィールドなので、手入れなどは毎日専門員が行っており、草に脚が絡んでしまう……なんて戦況に影響を及ぼしかねない事態にはなりえない。

 

 ミナモシティには他にも、公認されているフィールドは何個かある。その中でシェルンが草原を選んだ理由……ちゃんとあったのだ!

 

 スペランザは炎タイプだから、あのサッカーボールを蹴るどころか、そこに居るだけでフィールドを焼け野原にしてしまうのではと、交換当初は当然の疑問を持っていたが。

 

 

「ッ――ぁ゙……! や、ら……れ゙、し……だ……!」

 

 

 自分のおやを含めて燃やす対象、燃やさない対象を決める事が出来る、性質を生まれながらに持っているらしい。

 

 スペランザが現在〝燃やす〟と定めたのはヴィヴィ&メコンのタッグのみ。

 

 ほのおのうずで普通に地表を巻き込んでいたが、本人に〝燃やさない〟意思があるので決してフィールドが火の海になる事は無い。

 

 ていうか焼け野原と化す戦法は、ポケモンリーグなどの公式大会設備で披露されるバトルでもなければ、禁止されているからだ。コスト的な意味もあって……壊す事を許可されているフィールドや、非公認のバトルでの奪い合いなども在ると言えば在る。

 

 認められていないトレーナーが、ギャロップに触ると熱い!

 

 ……認められたトレーナーは、ギャロップに触っても熱くない。

 

 少なくとも二年前までのシェルンは前者であった。

 

「しびれごなっ!――――!? 頭上にも別の〝こな〟を振らされているぞっ! 逃げ切れるかメコン!」

 

 螺旋に閉じ込められたジックの手持ちは、それぞれの技で内側から消火。

 

 …………したと同時に、ヴィヴィの眼前には機能や感覚の一部へ過剰な障害を引き起こさせる、草タイプの得意技、しびれごなが『ほのおをうずとすり替わるように漂っていた』

 

 これは避けられない、念話を使い渦内部からの状況も殆ど把握出来ていたジックでも、しびれごなを発見から、こうそくいどうを使わせるまでの 間 に命中してしまっていたのだから。

 

 

 それにしてもヴィヴィは、よく麻痺にさせられる子である……強いポケモンと世界で認識されているから、弱体化させておきたいのだろう。

 

 

「ふにゃ、あぁ…………Zzz……あいしゅくりーむ……しらたま、ぜんざい……くにゃ……」

 

 もの凄い速さで爆睡、もの凄い速さで甘味を食べる夢を見ている……

 

「やったッ!? やったやった! 成功成功っ! 私達の戦術綺麗に嵌まったよ~スペランザぁ~グリーシャぁ~……!」

 

 そういえばメコンは寝付くまでのタイムは1.71秒である。ベッドを借りて彼女の過去を伺った初日で判明した特技(体質?)

 

 だからさいみんじゅつや、今食らったばかりのねむりごなの、効能が回るのも早いし通常のランターンよりも、ぐっすり寝入ってしまったりするのだろうか?

 

 身体は鈍っても頭脳は鈍らず、先手を譲ったとは言えシェルンの術中に落ちてしまい、ジック側の戦力は1ターン目にして大幅な衰勢を――――

 

 

「――――シャクシャク……ふぇ?」

 

 

 ――――したハズだった。

 

 

「…………アレ? も、もう目を覚ましちゃったの……っ!? 自分の尾を抱き枕にしちゃうくらいフニャ顔になってたのに~? ねむりごなは確実に命中してたよね?? ど、どーして、なんで??」

 

 スペランザがほのおのうずで動きを制限、渦を消されてしまうのは承知の上、想定の範囲内。

 

 シェルンの真の狙いは、グリーシャが備えている状態異常粉の避場を絶つ事であった。

 

「草原フィールドは草タイプを強化させる地形効果が在る。各種草技の発生速度や範囲も上昇する、ちょっと焦りそうになったよ……渦が消える瞬間を狙った時間差ねむりごな! いい発想だよ! メコン、いやしのすず!」

 

 田舎であるヨシノシティも、草原に近いバトル環境であったのも理由だけど、ジックの推測は的中した。

 

「はわわぁ~……ヴィヴィさんの麻痺も回復しちゃいましたぁ……振り出しに戻る、ですっ……」

 

 グリーシャがまず、しびれごなを炎の渦へ向かって放った。そこからさらにもう一種類の粉を...

 

 ヴィヴィ達に壊された〝後出し〟でねむりごなを真上に打ち出す。最悪でもヴィヴィかメコンか、どっちかでいいから状態異常に引っかかって欲しい……

 

 見事と自分らに賞賛したくなったまでに、作戦は大成功、ヴィヴィは麻痺でメコンは眠りで、アドバンテージは3歩も4歩もリード出来た!…………

 

「ラムぅぅ~~持ってたのぉぉぉ~~! 全然想定してなかったよぉ、しかもいやしのすずって、ランターンてそんな技覚えられたんだぁ……あわわわわわわ…………次の手次の手……おも、思い出せない……」

 

「落ち着きなさいって!! 貴女が混乱状態になってどうするのっ! グリーシャも私も自己判断はしないっ、シェルンの指示を最後まで実行するって決めているの! 貴女が取り乱してしまえば私らは何も出来なくなるのよ?」

 

 急転直下、流れを掴んだのも空想のままに終わった。

 

 もしも失敗した時の策も考えてきたけれど、トレーナー業が軌道に乗り始めたばかりのシェルンは予想外の事態が起きれば、バトル中だとも忘れ殻に閉じこもろうと自分だけ尻尾を巻いてしまう。

 

「これは戦闘指南だから、ジックさん達は動かないで居てくれているけど、本当のバトルだったら負けているのよっ! 戦っているのはシェルンだけじゃない、私もグリーシャも一緒だって思い出しなさい!」

 

 トレーナーはポケモンへ不安を与えさせない。

 

 心構えはそうであれ、実戦で、例えば急所に当てられたりだとか、交代を読まれて効果的な技を当てられたりだとか……

 

 たった一手で戦況は激変、トレーナーは直ぐさま打開策を案出しなければならない。

 

 レベル差があっても、適当な指示をしていたら下克上されてしまう、実際に技を繰り出すのはポケモンだが、勝利も敗北もトレーナー次第。

 

「スペランザ…………グリーシャ…………」

 

ポケモンの身体に良い成分を、じっくり蓄えるので育てるのに時間の掛かるラムのみ。

 

 全ての状態異常を完治させる、極めて汎用性の高いアイテムで「とりあえず困ったら」ラム!

 

 火傷や毒の場合は普通に、口に入れてしまえば良いのだが眠り状態の場合『夢遊病の如く本人の自覚無しで身体が動いて木の実を摂取』する為、客観視点でなくとも怪奇現象と立ち会っているみたいで少し怖い……

 

 一瞬で横たわって、無制限に甘くて冷たいお菓子を食べられる夢を見ていたメコン。

 

 ラムの〝香り〟を本能がキャッチ、メンソール系の刺激で頭がシャキッ! 明晰に意識を取り戻した!

 

 睡魔を撃退したメコンは、ジックの指示を即座に反映させ、今度は仲間の行動機能を撃退させる!

 

 

 リーン、ゴーン、リーン……ゴーン……

 

 

 白きチャペルの鐘を鳴らせば、味方全ての状態異常を回復させてしまう、いやしのすず。

 

 不利な戦況を一気に逆転、勝利をもたらす天使の讃歌。

 

(この技を使う度に……頭に浮かばせてしまいますぅ…………///)

 

 やはりと言っていいのか、ご期待通り結婚式をどうしたって連想させる音色なので、ウェディングドレスを着た新婦と、タキシードを着た新郎のイメージ図が構築されてしまう。

 

 

 誰が新郎新婦なのか、わざわざ表記するまでもないので略!

 

 

「どうも、です……」

 

 鐘が揺れれば、お胸も揺れる、そのバスト、推定95オーバー。

 

 予測演算処理と、ジックの見通した順序でバトルが進むのならば、麻痺か眠りになってもメコンが治してくれるので、避けられなくとも大丈夫であると仲間と戦える心強さを実感していた。

 

 神経障害を走らせていた背筋を、ピンッと伸ばせば胸が一往復バウンドする。

 

 ジックも正確なサイズは把握してない(出来る訳無い)けど、推定は80の後半か。

 

 正面と頭上の二重構造、ヴィヴィは読めていたけどメコンがラムを所持していたので、こちらも心配はいらなかった。

 

(練習を積んだとシェルンさんは仰っていましたが、本当みたいですね。手は止まってしまいましたが無駄な動きが無く、粉を撒くタイミングも絶妙でした)

 

 いやしのすず、ラムのみ、どちらかが欠けていたら心に迷いが生じながらでも、攻め込んでいたかも知れない。

 

 二つの狙いをどっちもスカされたから、スペランザに叱咤されてしまった。

 

 失敗した時の作戦も用意していたのに、慌てすぎて頭の中が真っ白になっていたのだろう。 

 

「…………っ! グリーシャ、ターゲット変更! マジカルリーフをメコンちゃんに!」

 

 そうだ、初手が上手く決まらなかっただけで、落ち込んでたらどんな勝負にも勝てやしない!

 

 ポケモン達は諦めてないのに、真っ先にトレーナーが抛棄してしまうなど、大変失礼で『貴女の指示通りに動く』と決意してくれた、姉分でもあるスペランザの想いを裏切る事となる。

 

 何度失敗しても彼女がフォローしてくれたり、次は頑張りましょうと信頼を失墜させず、新しい〝おや〟として認められ信頼は少しずつ、築き上げて来ている。

 

「葉っぱさん葉っぱさん、お願いしま~~す!」

 

 それは自分で捕まえたグリーシャだって同じ。

 

 のんびり屋さんだけど、彼女だって一度も弱音を吐いたことはない。HPがゼロになるまで立ち上がろうとしてくれていた、他でも無いシェルンの為に……

 

「っ、あぅ、はっ……! これは回避のしようがありませんね……っ!」

 

 ダブルに手を出したばかりだから、負けたっていいは甘えにも限度がある。

 

 勝ってみたいなぁ、次は勝ちたいなぁ、そう思える様になったのも成長した証。

 

 手持ちだけじゃない、キッカケは『ヴィヴィちゃんをギュッギュッしたい!』だけど、同時に胸を借りたい依頼を受け持ってくれた、ジック達もわざわざ時間を割いてくれているのだと、深く息を吸い込んで脳に酸素が回った落ち着いた思考を取り戻し、一礼してから命ずる。

 

 メコンは回避よりも耐えて反撃するスタイル。

 

 だが不思議な力で自動追尾する、マジカルリーフは絶対必中。

 

 威力自体は大した事ないけれど、相手との距離や着弾位置を計算しなくて済むので、初心者にはありがた~い技。

 

(ターゲットは私に向けられましたが……)

 

 マジカルリーフだけじゃ倒れない、弱点が少なく体力だけ他の能力値とは別格、非常に突破しにくいポケモンのランターン。

 

 シェルンはなるべく削っておこうとしているのか、ゴリ押し目的なのか、集中的にメコンを攻撃させているけど――――

 

「――――ヒャッん゙!?」

 

「相手は二匹です、攻撃だけに意識を回していたら急襲されてしまいますよ……」

 

 防御に徹していたメコンは、反撃こそしない物のさり気なく、スペランザを相手取っているヴィヴィの近くへと立ち位置を移動させていた。

 

 グリーシャは「何だか違和感ありますねぇ……」と、薄々察知していたのだが……

 

「後方からヴィヴィちゃんがぁ!? グ、グリーシャまもるぅ!」

 

 マスターは全然気がついていなかった……どうやら何かに集中していると、別の何かが疎かになってしまうらしい、ダブル初心者あるある。

 

(考える事がシングルの二倍だよぉ~~! 覚えさせといて助かったけど、暫く使えなくなっちゃった…………)

 

 ねこだましと並び、ダブル最重要の技がまもる。

 

 サポート色が濃いポケモンは、守るよりも動く方がアドバンテージを得やすいので、必ずしも採用が勝利に繋がる事は無いが、スペランザやヴィヴィの様な攻撃主体のポケモンであるならば、特別な理由がない限り覚えている前提で戦うのは至極当然。

 

 常に「何処で相手はまもるのだろう」を選択肢に入れて、まもるで一回攻撃を無効化したかの有無だけで、圧倒的有利状況がちゃぶ台返し。

 

 まもるを読み、掻い潜り、封じる、それがダブル勝利の条件と言ってもいい!

 

 背面からグリーシャの弱点、れいとうパンチを振るったヴィヴィ。

 

 まもるは速攻性能を持つ技なので、多少指示が遅れてもある種の〝時間干渉〟に近く、数秒の前借りが瞬時にシールドを発生させるギミックになっているのだとか。 

  

 反射的に身を屈めたグリーシャは、彼女専用演出であるまもる――熱帯雨林を彷彿とさせるモスグリーン色――を発動。

 

「……………………」

れいとうパンチは絶対効かないから、身を屈める必要も無いのだけど、苦手な冷気を纏わせ殺傷力に優れすぎた550kg分の重量を加算させたパンチ。

 

 どう考えても彼女の反応は正常である。

 

「(マジカルリーフで少し削れているし、二匹で集中攻撃だ!)グリーシャはまもるが続いてる間に私の近くへ、スペランザはメコンちゃんへワイルドボルト!」

 

 

 ………………………………?

 




誰もが読めてしまうオチ!
上級者同士のバトルよりも、経験と頭脳が追いついてない初心者とのバトルのが、戦術が難しい面もあったり!

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